このページのまとめ
- 事業承継とは事業者が営んでいる事業を、現在の経営者から後継者に引き継ぐこと
- 事業承継における弁護士の役割には、株式承継や関係構築のサポートなどがある
- 弁護士費用は企業規模や事業承継で得られる経済的利益によって大きく異なる
- 弁護士に依頼することで時間と手間を削減できトラブル防止にもつながる
経営者にとって事業承継は「最後の大仕事」になります。企業や医療法人などの事業を存続させるには、しかるべき後継者に事業を引き継がなければなりません。
事業承継は、さまざまな関係者の利害に関わるため、必ずしもスムーズに進むとは限りません。弁護士へサポートを依頼することで、さまざまな登場人物との関係構築において心強い味方になるでしょう。
当コラムでは、事業承継における弁護士の役割や費用相場、メリットについて解説します。
目次
事業承継とは
事業承継とは、企業における事業を、現在の経営者から後継者に引き継ぐことです。現経営者が体力のあるうちに事業承継しておかなければ、従業員の雇用や会社の存続ができなくなってしまいます。
急速に変化する現代市場において、事業承継を繰り返すことで企業が存続できるようになるのです。
事業承継における弁護士の役割
企業の経営者は、事業承継に関して弁護士のサポートを受けることができます。弁護士は次のようなことをサポートしてくれます。
■事業承継における弁護士の役割
- 株式承継のサポート
- 関係構築のサポート
- 後継者のサポート
- 事業承継計画の作成
- M&Aの手続きのサポート
- 民事信託に関するアドバイス
1つずつ解説します。
1.株式承継のサポート
株式会社では大株主が大きな決定権を持ちます。経営者が大株主である場合、株式の承継がうまくいかないと、事業承継を失敗してしまう可能性があります。
ここでは、弁護士が株式承継で果たす役割を解説します。
自社株を後継者に集中させる
自社株の集中とは、社長が持つ自社株のすべて、または大半を後継者(子供など)に譲ることです。経営者自身が大株主の場合、自分の子供へ事業を承継するには、自社株を子供に集中させる方がスムーズに事業継承を行えます。
自社株を後継者に集中させない場合、大株主が存在しなくなり、株を少しずつ有する人がたくさん存在することになります。この状態を「株式の分散」といいます。
株式の分散が起こると、小さな決定権を持つ人がたくさん存在することになるため、経営方針を決める際に利害が衝突し、事業承継がスムーズに進まなくなる可能性があります。
株式承継を検討している大株主経営者は、弁護士のサポートを受けつつ自社株を確実に後継者に集中させた方が、スムーズに事業継承を進められます。
遺留分の対策を行う
「遺留分」とは相続に関する用語で、遺産のうち法定相続人に確保されている持分割合のことです。法定相続人とは、民法で定められた被相続人(このコラムでは大株主経営者)の遺産を相続できる人で、配偶者、子供、親、祖父母などが該当します。
自社株は大株主経営者の死後、遺産になります。大株主経営者の法定相続人が複数人いる場合、法定相続人の子供1人に自社株を集中させると、ほかの法定相続人に別の遺産を相続させなければならなくなります。
このとき、大株主経営者の後継者にならなかった法定相続人が、遺留分として自社株を請求すると株式承継が滞ってしまいます。事前に後継者以外の法定相続人から、自社株の遺留分請求をしない合意を取り付けることで、このような問題を発生させないことが可能です。
この合意の取り付ける際に、弁護士のサポートを受けることでスムーズに合意が進められるのです。
後継者以外に議決権のない株式を分配する
大株主経営者が後継者に自社株の大半を承継しなければならないのは、株式が議決権を有するからです。議決権とは、株主総会で決議に参加する権利です。
後継者以外の法定相続人が、自社株の遺留分請求をした場合でも議決権のない株式を渡せば、その株主(ここでは後継者以外の法定相続人)は議決権を持たないことになります。よって、経営に口出しができなくなるのです。
この方法を採用するには、事前に株式を議決権のある株式と議決権のない株式に分配する必要があり、手続きは弁護士にサポートしてもらうことができます。
自社株の買取手続きを行う
次のような場合、自社株の買取りが必要になります。
株式の70%を保有している大株主経営者が、自分の子供に事業承継と株式承継をしたとします。残りの30%の株式は、大株主経営者の弟(子供にとっては叔父)が保有していたとします。
子供は70%の株式を保有する大株主経営者になりますが、叔父が30%の株式を保有しているため、経営の自由度が制限されます。このとき子供が叔父から株式を買い取れば、経営の自由度が増すのです。
このとき弁護士がいれば、自社株の買取手続きをサポートしてもらえます。
2.関係構築のサポート
ここでいう「関係」とは事業に関わる関係のことで、事業承継が生じると金融機関や取引先などとの関係にも影響を与えることになります。
事業承継によって、関係者との関係を維持・発展させるためにも弁護士に頼ることができます。
金融機関と交渉する
事業承継における金融機関との関係では、現在の大株主経営者の個人保証が問題になりえます。例えば、金融機関がその会社に融資をしていて、現在の大株主経営者が個人保証をしていたとします。その場合、金融機関としては引き続き後継者にも個人保証してもらいたいと考えるのが一般的です。
しかし個人保証はリスクが大きいため、後継者が嫌がることも想定されます。後継者と目していた人が「個人保証が条件なら事業承継を受けない」と主張した場合、事業承継が振り出しに戻ってしまいます。
そこで、弁護士に後継者に個人保証をつけないよう金融機関と交渉してもらうことができるのです。
取引先との契約書を整備する
企業によっては、取引先との契約関係があいまいになっていることがあります。大株主経営者が健在のうちは問題がなくても、事業承継をきっかけとして取引先がこれまでの関係を改めようとするかもしれません。そうなると、取引先との関係の継続ができなくなることや、不利な取引条件を呑まされる可能性が出てきます。
事業承継は、取引先との契約関係を確実なものに改めるよい機会になりえます。経営者や後継者は、取引先と契約書を取り交わすといった手続きによって弁護士の力を借りられるのです。
3.後継者のサポート
事業承継と株式承継が無事完了し、関係構築が順調に進んだとしても、後継者がうまく経営できるとは限りません。
弁護士は新人経営者である後継者を、多角的にサポートすることができます。ここではそのサポートのうち、社内研修と労務管理体制の整備について紹介します。
社内研修を実施する
事業のプロが必ず経営のプロになれるとは限りません。事業の推進に長けている人が後継者になっても、経営スキルを身につけないと経営が立ち行かなくなることがあります。
弁護士は後継者に対し、次のような社内研修を実施できます。
- マネジメント研修
- ガバナンス研修
- コンプライアンス研修
- マーケティング研修
- 経営戦略研修
- 自社の課題を探す研修
- 組織強化のための研修
この研修には後継者だけなく、後継者を支えるそのほかの役員や上級管理職を参加させることもできます。
労務管理体制を整備する
労務管理体制があいまいな企業では、事業承継のタイミングで整備した方がよいでしょう。
■労務管理体制の整備
- 就業規則を作成する
- 雇用契約書の整備
- 期間の定めがある従業員に関する更新や無期への転換などのルールづくり
- 労働時間の管理
- 休職制度の設置
- 労働安全衛生に関すること
新たな労務管理体制は、労働関係法に合致した内容にする必要があるので弁護士のサポートが有効になります。
4.事業承継計画の作成
事業承継は、段取りを踏んで滞りなく進めていく必要があります。そのためには事業承継計画の策定が重要で、こちらも弁護士のサポートを活用できます。
大株主経営者と後継候補者だけで事業承継計画を作成した場合、さまざまな関係者が反発するかもしれません。少なくとも、会社経営に関わっている親族や金融機関の担当者、会社の役員や上級管理職に事業承継計画の策定に関わってもらった方がよいでしょう。有力取引先へ事前に説明することも必要になるかもしれません。
このような関係者への調整に、弁護士の力を借りることができます。
事業承継計画が完成後、次は行動計画をつくり実際に行動していきます。弁護士はこの過程においても後継者の伴走者になるのです。
5.M&Aの手続きのサポート
M&Aで事業承継する場合、さまざまな手続きや法務が発生します。M&Aに詳しい弁護士のサポートを受けることで、手続きや法務がスムーズに進み、複雑に入り組んだ利害関係を整理することも可能です。
■M&Aでの事業承継で弁護士ができること
- 契約へのアドバイス
- 契約書の作成
- 法務へのアドバイス
- デューデリジェンス(M&Aに関わる調査)
- 資金調達へのアドバイス
- 株式譲渡や事業譲渡の手続き
弁護士は、多角的に経営者をサポートしてくれます。
6.民事信託に関するアドバイス
民事信託とは、自分の財産を第三者に預けて管理、運営、処分してもらうことです。事業承継で民事信託が必要になるのは、大株主経営者が突然死亡した場合や、認知症などの病気を発症して経営できなくなるケースです。
大株主経営者は、自身が健康なうちから弁護士に民事信託のアドバイスを受けておけば、自分に万が一のことが起きても会社を存続させられるかもしれません。
例えば、民事信託の1つである遺言代用信託を使えば、経営者に万が一のことが起きたときの株式承継の方法を定めておけるのです。
事業承継を弁護士に相談する場合の費用相場
事業承継を弁護士に相談する費用の相場は、「弁護士事務所によって異なる」「事業承継によって得られる経済的利益の額によって異なる」ことになります。
例えば、中小企業の経営者が安価な料金の弁護士へサポートを依頼すれば、数十万円で済むことでしょう。しかし、難航することが確実な大企業の事業承継についての弁護士サポートは数百万円かかることもあるのです。
事業承継における弁護士費用の内訳は以下のとおりです。
■事業承継における弁護士費用の内訳
- 初回相談:無料または数万円
- 着手金:10万円程度~100万円超
- 報酬金:10万円程度~数百万円、または上限なし
成功報酬にしておけば、実際に経済的利益が発生した場合にのみ、その額の「何%」を支払うようにできます。
事業承継を弁護士に相談するメリット
事業承継のサポートを弁護士に依頼すると、次の2つのメリットが得られます。
- 事業承継にかかる時間や手間を削減できる
- トラブルを防止できる
いずれもコストを上回るメリットになりえます。
事業承継にかかる時間や手間を削減できる
事業承継は、弁護士へサポートを依頼することで時間と手間を大幅に削減できます。
事業承継のサポートを多数手がけてきた弁護士は多くの経験を積んでいるため、段取りよく進めてくれるでしょう。
弁護士を頼らない場合、経営者と後継候補者はさまざまな手続きを自分たちで処理していかなければなりません。経営者も後継候補者も事業承継の過程においては、事業の継続や経営の安定化に関わる仕事へ集中したいでしょう。
手間のかかる仕事を弁護士に任せることで、経営者も後継候補者も事業承継の本質的な部分に集中できるようになります。
トラブルを防止できる
事業承継では複数の関係者の利害が複雑に入り混じるため、トラブルが発生するケースもあるでしょう。株式承継、相続、融資や取引の継続、ガバナンス、労務管理など、すべてがトラブルになりかねません。
弁護士は、それらのトラブルを想定できるので、事前に対策を講じられトラブル防止につながります。
事業承継を弁護士に依頼する際の3つの注意点
事業承継のサポートを弁護士に依頼するとき、次の3点に注意してください。
■事業承継のサポートを弁護士に依頼するときの注意点
- 依頼費用を確認する
- あらかじめ事業承継の手法を決めておく
- すべての弁護士が事業承継に対応しているとは限らない
1つずつ見ていきましょう。
1.依頼費用を確認する
弁護士に依頼する費用は状況によって異なるため、弁護士がサポートに着手する前に費用の詳細を詰めておきましょう。
初回の相談料は無料、または少額のため気軽に相談できます。相談料の目安は、概ね1時間あたり5,000円が相場です。
一方、着手金や報酬金はケースによって金額が大きく変動するので、のちにトラブルにもなりかねません。「どのように決着すればいくらになる」「経済的利益がいくら発生したら報酬金はいくらになる」といったように、具体的なゴールと金額を明示することをおすすめします。
仮に突発的な問題が発生し、その処理を弁護士に依頼する場合は、事前に定めた費用内で収まるのか、それとも別途費用が発生するのかを都度確認した方がよいでしょう。
2.あらかじめ事業承継の手法を決めておく
経営者と後継候補者、弁護士の三者によってあらかじめ事業承継の手法を決めておくとトラブルを防止できます。
弁護士から、一般的な手法や穏便に事を進められる手法をすすめられるかもしれません。しかし、経営者や後継候補者にもさまざまな思いがあるため、一般的な手法では実現できないケースもあるでしょう。このズレを解消しておかないと、三者が一致団結して事業承継を進めていくことはできないのです。
経営者と後継候補者は、弁護士に自分たちがやりたいことを伝え、できないことを教わっておきましょう。
3.すべての弁護士が事業承継に対応しているとは限らない
弁護士はそれぞれ得意領域を持っているため、事業承継の実績がある弁護士を探して依頼しましょう。事業承継が得意な弁護士のなかでも、特定の業界に強かったり、大企業の事業承継を多く手がけていたり、中小企業を専門にしていたりとさまざまです。
経営者は、自身と自社の事業承継のケースを熟知している弁護士に依頼したいものです。そのためには弁護士の得意領域を把握する必要があります。弁護士事務所の公式サイトはそのヒントになるでしょう。弁護士が公式サイトにコラムを投稿していたら、その内容からどの仕事が得意なのか推測できます。
また、経営者仲間に尋ねることも有効です。特に最近事業承継を終えた後継者なら、弁護士情報を持っているかもしれません。
事業承継を成功させる3つのポイント
経営者が事業承継を成功させるポイントは以下のとおりです。
- 余裕を持って計画を立てる
- 不要な資産を処分する
- 関係者に説明する
どれも重要なことなので確実に対応しましょう。
1.余裕を持って計画を立てる
中小企業基盤整備機構によると、後継候補者の育成などの準備も含めると事業承継には5~10年かかります。5~10年といえば、企業の中長期事業計画に匹敵する長さであり、長期的な視点が必要になります。75歳で引退を考えている経営者なら、65歳から事業承継の準備に取りかかっても早すぎることはないのです。
そのため経営者は、事業承継を意識し始めた段階から計画を立てていった方がよいでしょう。計画は、さまざまな人からアドバイスを受けることで、変更されていくことが一般的です。一度作成した計画に固執することなく、バージョンアップを繰り返しながら納得のいく計画を策定しましょう。
参照元:中小企業基盤整備機構「事業承継のための準備」
2.不要な資産を処分する
企業における不要な資産は事業承継の障害になります。経営者が事業承継の検討に着手後、それと同時に不要な資産を処分していきましょう。
例えば、事業に使用しない土地を保有している場合、事業承継のときに登記し直す必要が生じるかもしれません。処理には時間と手間がかかり、事業承継の進行を停滞させます。
そもそも不要な資産は、事業承継と関係なく処分しておくべきでしょう。
3.関係者に説明する
事業承継は、人間関係の悪化や事業継続に支障を来すことがあるので、秘密裏に進めていくべきといえます。ただ、長いあいだ誰にも知らせずにいると、重要な関係者が噂話として知ることも考えられるため、トラブルの種になってしまいます。
取引先のなかには「社長の口から最初に聞きたかった」と気に触ってしまう人がいるかもしれません。
「この段階まで進んだら、この人には説明しておく」といった説明対象者リストを事前につくっておくことで、このようなトラブルを回避できます。
まとめ
企業などの事業を存続させるには事業承継は避けて通れない道です。現経営者の思いや後継者の考え方、取引先の企業など、複数の人や思いが関係するため、当初の計画どおりに進むとは限りません。
事業承継の道を安全かつ確実に進めていくには、弁護士のサポートが頼りになります。弁護士は事業承継までの明確な地図を持っているので、最短距離でゴールに導いてくれるでしょう。
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