事業信託のメリットとは?スキームや活用例についてわかりやすく解説

2024年2月16日

事業信託のメリットとは?スキームや活用例についてわかりやすく解説

このページのまとめ

  • 事業信託とは、特定事業の管理・運営を第三者へ委託する行為を指す
  • 事業信託は、対象事業にかかる財産を包括的に移転できる点が事業譲渡との違い
  • 事業信託は、事業再生や資金調達、債務返済において有効な選択肢である
  • 自己信託は、事業の委託者と受託者を同一の個人・法人が兼任するスキームを指す
  • 自己信託により、企業は資金調達やリスクヘッジを期待できる

自社の経営戦略の一環として、事業信託を検討している経営者の方もいるのではないでしょうか。
事業信託は、スムーズに事業再生や収益拡大を見込める手法ですが、契約内容によってはトラブルに発展する可能性があるため、慎重に進めることが大切です。

本記事では、事業信託を実施する方法やメリット・デメリット、活用シーンについて詳しく解説します。また、自己信託を用いた事業信託の強みや活用例についても解説するので、ぜひ参考にしてください。

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事業信託とは

事業信託とは、特定事業の管理・運営を第三者に信託することを意味します。

もともとは事業承継や相続の際に用いられていたスキームのため、金融機関などで「承継信託」という商品が用意されていることが多いです。近年は事業再生や資金調達を目的として活用されるケースも増えています。

活用できる場面が増えたきっかけとなったのが、2004年に施行された改正信託業法です。

それまでの信託業法は、富裕層の個人や家族の財産管理が主たる目的とされるような内容でした。しかし、改正により信託の対象となる財産の制限が撤廃され、特許権や著作権をはじめとする知的財産権も信託の対象となりました。

加えて、金融機関に限定されていた信託業務の事業者の幅が拡大されたこと、そして信託契約代理店制度や信託受益権販売業者制度が創設されたことで、さらに信託サービスの間口が広がりました。

詳細については後述しますが、委託者と受託者が同一となる「自己信託」や、同一の目的であれば受益者が不特定多数となってもよい「目的信託」などの新制度も加わっています。

このような背景から、事業の管理・運営や事業資金の運用・調達といった経営戦略の一環として取り入れる企業が増加しています。

ここからは、企業が活用する事業信託のスキームや、混同されがちな事業譲渡のスキームとの違いについて解説します。

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事業信託のスキーム

事業信託のスキームを一言で表すと「自社の特定の事業にかかる財産や債務を第三者に対して包括的に信託し、得られた利益を受益者に給付すること」です。

信託とは、信託法第2条1項にて「信託行為により特定の者が一定の目的に従い財産の管理または処分およびその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべきものとする」と定義されています。

これをもとに事業信託の具体例を挙げると、ある事業を展開しているA社が、当該事業にかかる土地・建物・機械設備などの資産を包括的にB社に移転し、B社に事業の管理・運営・処分を委ねるといったケースです。

ここで重要なポイントとなるのが、A社からB社への事業移転の「目的」です。この場合、当該事業の管理・運営状況を改善することでより多くの利益をCに分配することが目的となります。

このCにあたるのは、個人または法人のいずれの場合でも可能であり、事業信託のスキームにおいて、信託された事業から生じる利益等を得る立場にあるCを「受益者」と呼びます。

そして、事業の管理・運営を第三者に委ねる方が「委託者」、委ねられた事業の管理・運営を担う方が「受託者」と呼ばれ、委託者本人が自己の利益獲得を目的として事業を信託することは先述の信託法第2条1項にて禁じられています。

事業信託においては、事業の管理・運営を誰かに任せることで事業再生や効率的な事業運営を図り、それによって生まれた収益を株主や債権者などの受益者に分配するというスキームとなることが一般的です。

参考本:e-Gov法令検索「信託法第2条1項」「信託法第10条

事業譲渡との違い

事業信託と事業譲渡の違いを一覧にまとめると、以下のとおりです。

事業信託事業譲渡
取引形態売買信託
重視される点譲渡金額委託によって生まれる利益
継続性単発一定期間内
資産の移転形式個別承継包括的に移転

事業譲渡と事業信託の最大の違いは、当事会社間での取引形態にあります。

まず事業譲渡のスキームは、事業を譲受する会社が事業を買収するための資金を用意し、事業を譲り受ける対価として譲渡会社へキャッシュを支払うという、売買契約の形態で行われる取引です。

それに対して事業信託のスキームは、事業の「売買」ではなく「信託」で、事業の「アウトソーシング」というイメージに近い形態です。

そのため、信託事業の運営や財産管理を第三者に委託することでどのくらいの利益が生まれるかという点が重視される点も、事業譲渡とは異なる点といえるでしょう。

事業譲渡は事業を売却し対価を支払って完了となる単発的なスキームである一方で、事業信託は、定められた契約期間内において委託者と受託者の間を財産をやりとりして収益を生み出す継続的なスキームです。

加えて、事業信託では事業にかかる財産を包括的に移転するのに対し、事業譲渡においては個別で財産の移転手続きを行う点も両者の異なる点となっています。

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事業信託の3つのメリット

事業信託は、第三者が事業に介入することでさまざまなメリットが委託者にもたらされます。

ここからは、事業信託における代表的な3つのメリットについて解説します。

  1. スムーズな事業再生と収益拡大
  2. 多額の債務返済
  3. 契約内容を柔軟に設定できる

1.スムーズな事業再生と収益拡大

事業信託では、第三者へと事業を委託することで、事業再生を効率的に進められます。スピーディに収益性向上を実現できることから、受益者へ分配される利益拡大にも大きな効果をもたらします。

不採算事業や債務超過状態にある事業を自社の力のみで再生することは、コストも手間もかかるうえに自社のリソースだけでは限界があり、失敗してしまう可能性が高くなります。

そのため、当該事業に関して知見のある会社に事業運営を委託することで、豊富な専門知識や実務経験・ノウハウを持ち合わせた人材に任せることができます。そのため、効率的に収益性を高めることができるでしょう。

また事業信託では、当該事業の経営権や権利は委託者が保持した状態で受託者へと事業運営を委託できるという強みがあります。

運営に関わる権利は手元に残した状態で、事業を第三者の手によって収益性の高い事業へと再生させられる点は、事業譲渡にはない、事業信託の大きなメリットです。

また、受託者にとっても、参入したい領域の事業の受託者となることで、委託者の持つリソースを活用しながら新領域での事業運営に着手できるメリットがあります。

2.多額の債務返済

事業信託のスキームを利用することで、破産手続きや事業譲渡に比べて多額の債務返済が可能となります。

まず、破産手続きにおいては、資産の売却・競売価格は裁判所を介して設定されるため、平時における任意売却に比べて安い金額で売られてしまうケースがほとんどです。

さらに売却で得た代金は、破産法によって定められた優先順位に従って分配されていくため、思いのほか債権回収が進まないことも珍しくありません。

次に、債務超過状態に陥った事業を他社へ事業譲渡する場合、譲受する会社側との交渉によっては譲渡会社の希望する価格よりも安く見積もられた譲渡価格を提示される可能性が高くなります。

対して事業信託のスキームを活用すれば、利益を挙げながら継続的に事業が運営されます。そして、受益権の売却や受益者に債権者を設定するなどの方法を行えば、より多くの額を債務の返済に充てることが可能となります。

3.契約内容を柔軟に設定できる

事業信託では、信託する期間や受益者を柔軟に設定することができます。また、契約期間が満了した際に、事業を委託会社に戻すか、受託会社や第三者に売却するかといったことも定めることが可能です。

このように、事業信託をとおして当該事業をどのように扱っていくか決めることができるため、委託者の理想の形で事業を信託することができます。

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事業信託の2つのデメリット

事業譲渡などのM&A手法と比較しても、活用のメリットが多いように見える事業信託ですが、当然デメリットの側面も持ち合わせています。
事業信託のデメリットとして挙げられるのは、主に「債務の状況によっては、信託が拒否される」「契約内容によってトラブルに発展するおそれがある」の2点です。
ここからは、事業信託において考えられる2つのデメリットについて詳しく解説します。

1.債務の状況によっては、信託が拒否される

事業信託で受託者が引き受ける財産には、プラス財産とマイナス財産の2種類があります。

不動産や動産、債権などの受託側にとってプラスとなる財産は「積極財産」と呼ばれ、対して受託者にとってマイナスとなる財産は「消極財産」と呼ばれます。借金や地代、未払金などの債務がこれに含まれます。

事業信託は事業にかかる財産を「包括的に」委託するスキームであるため、受託者に消極財産も一緒に引き受けてもらうことになります。

基本的な信託のルールとしては、「信託財産は積極財産のみ」となります。しかし事業信託においては、取引先に対する売掛金や従業員への給与支払いの債務も事業の一部であるという考えから、信託財産の中に債務が含まれています。

そのため、消極財産の状況によっては、受託者に事業受託を受けてもらえない可能性もあります。

2.契約内容によってトラブルに発展するおそれがある

契約内容を柔軟に設定できる点は、事業信託の大きなメリットである反面、自由度の高い契約内容がトラブルの引き金となってしまうケースは少なくありません。

事業信託における契約期間は10年以上と長期にわたることも多いため、その間に経営環境の変化などによって、信託契約の解除を希望する状況になることがあります。

信託契約を締結した際の条項に、双方合意のもとで契約解除が可能となる旨が含まれていない場合には注意が必要です。委託者側が不適切と感じるような状況にあっても、契約期間満了まで事業運営を委託し続けなければならなくなる可能性が生じるためです。

長期間にわたる契約だからこそ、双方がおかれた状況に変化が生じることを見込んだうえで、解約や契約内容の変更に関する条項をしっかりと定めておくことが、後々のトラブル回避につながります。

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事業信託の2つの活用方法

ここでは、事業信託を効果的に利用するための2つの活用法について解説します。

不採算事業の立て直し

事業信託は、対象事業に関する専門知識や運営ノウハウを持った受託者へ事業運営を委託することで、不採算事業の立て直しに対する有効性が期待できます。

たとえば、委託会社におけるリソース不足が原因で業績が伸び悩んでいた事業であれば、豊富なリソースを持つ受託会社に信託することで、スピーディーな成長が望めるでしょう。

債務超過の解消

先述のとおり、事業信託は効率的な債権回収に効果的であるため、債務超過状態に陥った会社の立て直しにも有効にはたらきます。

債務超過を解消するために事業信託を活用する際、ポイントとなるのが受益権の扱いで、信託法では他の権利に比べて自由度の高い扱いが認められています。

たとえば、受益者は受益権を自由に譲渡することができるため、委託会社は受益権を第三者へ売却することでその売却益を債務の返済に充てることができます。

また、債権者を受益者に設定することで、債権者は委託事業から生じた収益や事業の売却益から配当を受け取ることが可能となります。

ただし、受益権を勝手に譲渡することは禁じられており、事業の受託者へ受益権譲渡の旨を通知したうえで、これに受託者が承諾した場合のみ認められます。

また、この受託者に対する通知と承諾のプロセスは、確定日付が記載された証書にて行われることが定められているため注意が必要です。

出典:e-Gov法令検索「信託法第93条・94条

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自己信託による事業信託

2004年の信託法改正に際し注目を集めた新制度の1つに「自己信託」による事業信託が挙げられます。

自己信託は、近年の企業における事業信託の活用方法として取り入れられているケースが多く、今後も引き続き注目されるスキームです。

ここからは、自己信託の概要や方法、活用するメリット、そして具体的な活用例について解説します。

自己信託とは

自己信託は、委託者と受託者を同一の個人・法人が兼任し、受益者を第三者に設定する信託を意味します。

委託する側と受託する側が同じであるため、従来の信託契約締結のプロセスを省いて、単独でその効力を発生させることが可能となります。

契約書の締結は不要となる一方で、以下の2つの方法のいずれかにより自己信託をする旨を宣言する必要があります。

  • 公証役場で公正証書を作成する
  • 受益者に対し、信託内容を確定日付入りの書面または電子的記録で通知する

公正証書は「自己信託公正証書」という証書で、信託目的や信託財産の内容や管理方法、自己信託者と受益者の情報を盛り込むことが義務付けられた公文書であるため、証明力・執行力がともに高くなります。

自己信託のメリット

自己信託の活用によって期待できるメリットとしては、以下の2つが挙げられます。

  • 委託者自身で事業を運営することで、利益を生むことができる
  • 第三者を受託者とした場合の失敗リスクを回避できる

当該事業に関する知識や実務経験をすでに保有している委託者自身の手により運営されることで、慣れない第三者へ委託するよりもずっと効率的かつ確実に利益を生み出すことが可能となります。

また、第三者に委託する場合、受託者によっては信託する事業に関する運営ノウハウや再生実績がないこともあります。そのような場合においては、本来の目的を達成することが難しくなります。

委託によって生じるこれらのリスクを排除できる点が、自己信託の大きなメリットです。

自己信託の活用例

ここからは自己信託の具体的な活用例を紹介します。

  • 事業資金の調達
  • 他社との事業連携の強化
  • 新規・赤字事業によるリスク軽減
  • 事業承継

以下で詳しく解説します。

事業資金の調達

自己信託により自社事業の信託を行い、その受益権を投資家などに売却することにより当該会社は事業資金の調達を行うことができます。

受益権の売却には信託銀行などの金融機関が仲介することが一般的です。しかし、自己信託のスキームを用いることで、投資家などと直接受益権売買を行うことができるため、仲介手数料を引かれることなく効率的な資金調達が可能となります。

また、自己信託では事業譲渡で生じるような個別の権利や財産の移転にかかる手続きが不要なままで、事業にかかる財産を信託財産に移転することが可能です。

対象となる事業に関係する特許や商標、知的財産などの財産だけを信託財産として移転することで、当該事業に限定した収益力に合わせて事業資金を調達できるようになります。そのため、特定事業の成長の加速化の効果も期待できるでしょう。

他社との事業連携の強化

自己信託の活用は、特定の事業において他社との連携関係強化においても高い効果が期待できます。

連携先企業と関係性を強化する場合には、以下の2つの方法をとることが重要となってきます。

  • 自己信託によって特定事業が社内の他部門から切り離されていること
  • 特定事業の受益権を、事業連携先の会社に移転すること

上記2つのポイントをおさえた自己信託を実施することにより、他部門を起点としたリスクが当該事業に及ぶことを防ぐことができます。
連携先との信頼関係を強化することができ、連携によるシナジー効果も生まれやすくなるでしょう。

新規・赤字事業によるリスク軽減

新規事業への参入に際しては、当該事業のみを自己信託して切り離すことで、リスクを軽減させることができます。新規事業が万が一赤字が生じて失敗に終わったとしても、その影響が会社本体に波及することを防ぐことができます。

リスクヘッジの観点からは、新規事業に限らず赤字事業においても同様の効果を自己信託によって享受できることが考えられます。

赤字事業を自己信託によって切り離し他の関連会社などを受益者に設定することで、さらなる収益悪化が生じても、その影響が会社本体へ及ぶことを回避することができます。

このように自己信託においては、対象となる事業にかかる人材や設備、権利などをまとめて本体から切り離すことができます。リスクヘッジが実現できる点が大きな強みといえます。

事業承継

「事業承継を行う予定だが、現経営者が経営は続けたい」というときにも、自己信託を活用することができます。
この場合、受益者に後継者となる人物を設定し、自己信託を行います。信託終了は経営者の死亡によることなどを定めておき、死亡した際には、後継者に株式が移転されるように設定しておきます。これによって、スムーズに事業承継を行うことができます。

事業承継に自己信託を活用するメリットは、株価が低下しているタイミングで、受益者に株式の贈与を行うことができる点です。贈与税は、自己信託を行ったタイミングで課されます。自己信託によって、株価が低い時期に株式を贈与することで贈与税を抑えることができるため、事業承継にかかる費用を減らすことができます。

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まとめ

事業信託は、特定の事業の管理・運営を第三者に委ねることです。事業の再生や成長促進、リスクヘッジを効率的に行うことができるというメリットをもった経営における選択肢の1つです。

そのメリットは、事業を委託する側と受ける側の双方において大きいもので、契約内容の設定や権利の取り扱いにおける自由度の高いルールにより、企業の経営戦略の一環としてさまざまな形で活用できることが期待されています。

ただし、事業そのものを他者に委ねるというスキームの特性から、消極財産がネックになったり、自由度の高いルールが起因して当事者間でのトラブルが発生したりといった点には注意が必要です。

このようなリスクの回避と事業信託による効果の最大化を達成するためには、従来の信託分野における知識だけでなく、企業経営や事業再生に関する実務知識と経験がある専門家にサポートを依頼することをおすすめします。

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