M&Aを行うと借入金・個人保証はどうなる?
2024年2月6日
このページのまとめ
- 企業の借入先には金融機関や役員などがある
- M&Aした際、企業の借入金は株式譲渡か事業譲渡かで引継ぎの有無が変わる
- M&Aした際、個人保証は代表者の登記変更後に解消される
- M&Aでの個人保証の解消には「経営者保証ガイドライン」にのっとって行う
- M&Aの際、条件を満たせば抵当権を外せる
企業の資金調達の主たる手段は、金融機関からの借入金でしょう。ほとんどの企業は借入れを行っていて、その資金を運転資金として使っています。その際、代表取締役が個人保証しているケースが多く見られます。
M&Aが行われる際、借入金を引継ぐケースと引継がないケースがあり、採用するM&Aの手法によって異なります。譲渡側の経営者は個人保証を外したいと考えているため、M&Aの手法による借入金の引継ぎの可否について、理解しておくことが大切です。
そこで本記事では、M&Aを通じて借入金や個人の個人保証などがどうなるのかについて、詳しく解説します。M&Aを検討される方や、個人保証が経営者の方々は、ぜひ参考にしてください。
目次
企業の借入金・個人保証とは
事業を展開するためには、多額の資金が必要です。運転資金だけでなく投資資金も必要です。
特に工場や店舗などの設備投資には高額な費用がかかるため、経営者の自己資金だけではまかなえないことが一般的です。そこで、企業は金融機関など外部からの借入れを活用します。
借入金とは、企業が金融機関などから融資を受けることによって調達した資金のことです。借入金には、決算日の翌日から1年以内に返済期限がくる「短期借入金」と、1年を超えて返済期限がくる「長期借入金」の2つがあります。
短期借入金は「流動負債」、長期借入金は「固定負債」として貸借対照表に計上されます。
金融機関から借入れを行う際、返済能力に対するリスクを軽減するため、金融機関は、人的な担保として連帯保証を要求したり、物的な担保として抵当権を設定したりすることがあります。これによって、返済できない場合の債権回収を図ることが一般的です。
借入金による財務上の効果
金融機関から借入れを行うということは、負債を増やすということです。企業は、負債を増加させることによって、自己資金を超えた投資を可能とします。これを「レバレッジ(=てこ)」といい、自己資本を超えた資金を使うことで、収益性を高めることができます。
また、レバレッジを効かせることで、ROE(「Return On Equity」)(自己資本利益率)を高めることができ、資本を効率よく使って事業を営むことができます。
借入金の調達先としての金融機関と役員
金融機関は、一般的な資金調達先です。企業は日常的に金融機関と付き合いし、運転資金を確保するとともに、設備投資や事業拡大などの資金を借りています。特に中小企業にとって、緊急時の資金不足を補うための借入金は非常に重要です。
一方で、中小企業の場合、役員が個人的な資金を会社に貸し付けることも一般的です。これを「役員借入金」と呼びます。役員が個人資金を会社に貸し付ける際、銀行借入金と異なり、利息の支払いは任意です。支払われていないケースが多いでしょう。つまり、利息が付かないか、低金利で借りられるため、会社の負担が軽減されます。
また、役員借入金を通じて資金を会社に供与する場合、増資とは異なり、資本金の増加を伴いません。それゆえ、中小企業向けの特別な税制優遇措置が適用されたり、地方税負担を軽減させたりするメリットがあります。
企業の個人保証とは
中小企業が金融機関から借入を受ける際、経営者個人が会社の連帯保証人となります。これが経営者の個人保証です。もし企業が倒産し、借入金の返済ができなくなった場合、経営者個人が企業の代わりに債務を返済する責任が求められます。
特に中小企業の借入時には、個人保証が不可欠とされます。これは、経営者と中小企業を一体とみなす考え方に基づき、経営者に借入金返済への覚悟を持たせること、回収不能リスクの高い債権を確実に回収することが理由です。
M&A時に企業の借入金・個人保証はどうなるのか
M&Aが行われる際には、企業の借入金や、経営者の個人保証は、引継がれるケースと引継がれないケースがあります。M&Aが行われる際の具体的な取り扱いについて解説します。
M&Aにおける借入金の扱い
借入金の取り扱いは、譲渡する手法に応じて異なることになります。M&Aの手法として一般的な「株式譲渡」と「事業譲渡」のケースでは、借入金や連帯保証の取り扱いがどうなるのか説明いたします。
株式譲渡では借入金を引き継ぐ
株式譲渡は、譲渡側が保有する会社の株式を他の企業に譲渡する方法です。これによって、経営権が移転することになります。
株式譲渡において、株式を譲受ける企業は、会社(法人)の全ての資産および負債を引き継ぎます。これは、会社の支配権を表章する株式を譲渡することで、会社そのものに変化が伴わないためです。会計上の資産、債務だけでなく、知的財産権や契約関係・雇用関係、さらには簿外債務まで引き継がれます。借入金がある場合、譲受側の企業が当然にこれを引き継ぐことになります。
株式譲渡は、M&A譲渡スキームの中でも手続きが比較的簡単です。そのため、中小企業のM&Aにおいても広く利用されています。株式譲渡を行うことで、会社の株主が変わるため、その株主の経営方針によって、借入金の借り換え、繰上げ返済などが行われることがあります。また、借り換えによって借入先の金融機関が変更されることもあります。
事業譲渡では借入金を引き継がない
事業譲渡の際、引き継がれるのは事業の一部分だけであり、会社の法人格は引き継がれません。このため、会社の借入金などの金銭債務は、原則として、引き継がれることはありません。
事業譲渡には、対象会社が全事業を譲渡するケースと、特定の事業だけを譲渡するケースがあります。基本的に、譲渡される事業の範囲は、譲渡側と譲受側が協議を通じて選択することができます。
なお、事業譲渡契約書には、承継される資産と契約の明細を添付し、譲渡する事業の内容を明確に記載することが必要です。事業は多種多様な資産と契約によって構成されており、その一部の資産が承継されずに残ってしまうこともあるからです。
M&A時における個人保証の扱い
中小企業では、金融機関から借入金に対してほとんどの経営者が個人保証を負っています。それゆえ、M&Aの手法によって経営者の個人保証が残るケースもあれば、消滅するケースがあります。
個人保証は解消される
金融機関が個人保証を設定するには、経営者は企業の代表者であるため、譲受側の企業が代表者であることが、全部事項証明書などにより証明されなければなりません。
M&Aが行われる際、株式譲渡のケースでは先代経営者が個人保証契約を外してもらうと同時に、新しい経営者が個人保証契約を締結することになります。
ただし、個人保証が自動的に新しい所有者に移行するわけではありません。
そして個人保証の移行には、債権者の同意が必要です。保証の性質上、保証人の信用力に依存するためです。
事業譲渡の場合、一体化された資産の集合体が譲受側の企業に譲渡されますが、会社自体は解散しません。それゆえ、借入金が引き継がれなければ、先代経営者が譲渡側に残された借入金の個人保証を続けることになります。
譲渡側の企業の経営者の個人保証が外れ、譲受側の経営者が個人保証を引き継ぐのは、代表者の変更登記が行われた後になるでしょう。
個人保証が確実に外れるのか、不安を抱えている場合には、契約書に、個人保証の引き継ぎについての合意事項について記載しておくと安心です。
経営者保証ガイドラインで個人保証の解除が可能
経営者保証ガイドラインとは、金融機関が中小企業に融資を行う際に、経営者に個人保証を求める際の対応、個人保証を外すべき条件などについて記載されたガイドラインです。法令はありません。自主規制ルール、基本指針であり、準拠しなかったとしても罰則はありません。
このガイドラインでは、債務者である会社の経営者から求められた場合の個人保証の解除が規定されています。詳しく説明いたします。
経営者保証ガイドラインの拘束力
この制度は、中小企業、経営者、金融機関が共通して遵守すべき自主的なルールとして位置付けられており、法的な拘束力は持ちません。関係者はこのガイドラインを自発的に尊重し、遵守することが期待されています。
この枠組みの中で、経営者保証の解除に関しては、最終的な判断は金融機関に委ねられています。これは、経営者保証が多くの場合、中小企業における融資の重要な部分を占めているため、金融機関にとってはリスク管理の観点から重要な要素となります。
経営者保証の解除に関しては、金融機関はその企業の財務状況、経営の安定性、将来の収益性などを慎重に評価します。また、経営者が保証を解除することを望む場合、企業の健全な財務状態や信用力の証明が求められることが一般的です。
経営者保証ガイドラインの利用方法
経営者保証ガイドラインを利用する際の金融機関側の対応や条件を理解しなければいけません。このガイドラインの適用を希望する経営者は次のような効果を期待しています。
- 経営者が個人保証を提供しなくても、金融機関から新たに融資を受けられる
- 既存の経営者保証の見直しを検討
- 企業の債務を整理する際に、経営者の個人負担を軽減してもらえる
金融機関側としては個人保証を外すことは難しい問題となります。個人保証を外すことによって、債権の回収可能性が低下するからです。
しかし、経営者保証ガイドラインは、次の3つの条件の全てまたは一部を満たせば適用を受けることが可能です。
- 法人・個人が分離していること
- 財務基盤が強化されていること
- 経営の透明性が確保されていること
具体的にどのような状況であれば、この3つの条件を満たすか、細かいガイドラインが示されています。
1.法人・個人が分離している
このガイドラインを適切に活用するためには、法人の資産と経営者の個人資産が明確に分離されていることが必要です。これには、役員報酬や配当が売上に見合っているか、または会社から経営者への不適切な貸付が行われていないかといった点が含まれます。これらは、社会的な通念に基づいて適切な範囲内にあることが求められます。
法人と個人の資産が十分に分離されているかの確認は、公認会計士などの専門家によって行われます。これらの専門家は、法人と個人の資産の内容を詳細に検証し、その結果を金融機関に提供することが求められます。この検証は、金融機関が経営者保証の解除を検討する際の重要な参考情報となります。
2.財務基盤が強化されている
金融機関から経営者の個人保証なしで融資を受けるには、法人自体の資産や収益力が債務返済能力を客観的に示している必要があります。特に中小企業の場合、財務基盤が不安定であると、万一の際に返済不能に陥るリスクが高まるため、強固な財務基盤が重要な条件となります。
業績が良好で、十分なキャッシュフローと利益の蓄積がある企業は、この条件を満たしていると見なされます。また、業績が必ずしも高くない場合でも、過去の利益が豊富に蓄えられており、借入金の返済能力がある場合も問題はありません。
このため、中小企業は常に財務状態の健全性を維持し、改善することに注力する必要があります。これには、効果的な収益管理、コスト削減、リスク管理などが含まれます。また、金融機関に対して信頼性のある情報を提供し、企業の財務状況を適切に伝えることも重要です。
3.経営の透明性が確保されている
経営の透明性を確保することは、このガイドラインを適用するために不可欠な条件です。財務状況や企業の意思決定プロセスが明確かつ透明であることは、事業展開や財務状況の正確な見通しを立てる上で重要です。金融機関から融資を受ける際には、これらの情報を適時かつ適切に開示し、誠実に説明する義務があります。
経営の透明性を確保するためには、定期的な財務報告、監査、開示基準の遵守が前提となります。また、それを証明するには、公認会計士などの外部専門家によるチェックが重要です。これらは、金融機関が融資の判断を行う際の重要な要素であり、企業の信用力に直接影響します。また、実態として、中小企業が健全な財務状態を維持し、成長を続けるための重要な基盤となります。
経営者保証ガイドラインの利用
経営者保証ガイドラインは要求すれば適用されるものではありません。実際のところ、適用されるケースのほうが少ないです。それゆえ、これを利用する際には、ガイドラインの適用を受けられるように、会社の財務基盤の強化など3つの条件を、しっかりと充足していかなければなりません。
経営者保証ガイドラインについて相談したい場合には、次の窓口を訪ねてみることをおすすめします。
- 中小企業基盤整備機構の地域本部
- 政府系の金融機関など、経営者保証ガイドラインを取り扱っている金融機関
- 各地域の商工会や商工会議所
- 公認会計士・税理士や中小企業診断士
中小企業基盤整備機構が提供する「専門家派遣制度」は、中小企業の経営改善や透明性の向上に非常に効果的な手段です。
専門家派遣制度では、弁護士、公認会計士、税理士などの専門家が年に最大3回まで無料で派遣されます。これにより、直接的な専門的支援を受けることが可能です。これらの専門家は、財務状況の分析、経営戦略の策定、法的問題のアドバイスなど、多岐にわたる分野でサポートを提供します。
中小企業は、このような専門家の知見を利用することで、経営の健全性を高めるとともに、金融機関からの融資を受ける際の条件満足に向けた取り組みを強化できます。それゆえ、中小企業の経営者は、このような支援制度を積極的に活用することを検討すべきです。
M&Aにおける借入金・個人保証に関するよくある疑問
M&Aを行う場合、借入金や個人保証に関して譲渡側の経営者から多くの質問が出ます。それらの質問を紹介し、回答を提供いたします。
M&Aで個人保証や抵当権を外せるのか?
M&Aを実施するときに、借入金における個人保証や抵当権を外すためには、以下の条件をクリアしなければなりません。
- 「譲受側の企業が、連帯保証債務を引き継ぐこと」を承諾すること
- 「金融機関が譲渡側の経営者が負担している個人保証や不動産に付した抵当権を外すこと」を承諾すること
金融機関は融資先の会社の代表者を連帯保証人とします。回収可能性を確保するためです。
そのため、M&Aによって代表者が変わる場合、取締役会決議、商業登記の変更など代表者変更のための会社法上の手続きを行う必要があります。
譲渡側の代表者としては、本当にM&A後に個人保証や抵当権が外されているか、株式譲渡契約書などに記載されているかを確認しなければいけません。この契約になっていないと、M&Aを実行して支配権は移転したものの、保証債務だけは負わされるという不都合な状況が発生するからです。公認会計士やM&A仲介業者に契約書の確認を依頼すべきでしょう。
役員からの借入金や役員に対する貸付金の扱いはどうなるのか?
中小企業において、会社が役員から借入れをしているケースは一般的です。M&Aの際、株式譲渡もしくは事業譲渡を行っても、これらの借入金や貸付金は通常、会社に残ります。株式譲渡の際に役員からの借入れが残っている場合、以下のような対策を考えることができます。
- 役員が貸付金を放棄する
- 役員が貸付金を資本に振り替える
- 役員が貸付金を譲受側の企業へ譲渡する
なお、事業譲渡時には、譲渡対価が会社に入りますので、その資金で、役員からの借入金を返済することが可能です。
これに対して、株式譲渡の際に役員に対する貸付けが残っている場合、役員は個人財産をもって会社に対して返済しなければいけません。
M&Aを実行した後の従業員との関係性はどうなるのか?
M&Aが実施された後、譲渡側の従業員が、譲受側の新しい経営者のもとでどのように雇用されるかは、契約時に双方の合意に基づき決定されます。一般的には、譲受側の企業が、譲渡側にいた全従業員を引き継ぎ、以前と同じ条件で雇用することが多くなっています。
また、譲渡側の経営者に関しては、基本的に代表取締役を退任します。しかし、PMIの役割などを期待され、譲受側の組織の中で代表権のない役員、非常勤の顧問として働き続けるケースもあります。これはM&Aの譲渡契約内容によって異なります。
まとめ
M&Aの手法によって借入金の引継ぎの可否が異なるため、中小企業の経営者は慎重な確認と注意が必要です。中小企業は金融機関からの融資を受ける際に、個人保証を求められることが一般的です。しかし、譲渡契約を適切に作成することで、これらの個人保証を外すことができます。
M&Aの借入金・個人保証には多くの注意点があることを理解し、初めの一歩としてM&Aの専門家、例えばM&A仲介業者や公認会計士に相談することが推奨されます。これにより、M&Aのプロセスを適切に進め、望ましい結果を得るための助言やサポートを受けることができます。
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