自己株取得のメリットとは?取得方法や会計・税務処理について解説

2023年11月28日

自己株取得のメリットとは?取得方法や会計・税務処理について解説

このページのまとめ

  • 自己株取得とは、自ら発行した株式を買い戻す行為を指す
  • 自己株取得には、株価上昇や買収防衛、経営権の強化などのメリットがある
  • 自己株取得は株主に対する資本の払い戻しであるため会社法上の財源規制がある
  • 自己株は、市場、既存株主、子会社・関連会社から取得する

株価の向上や買収防衛のために、自己株式取得を考えている経営者の方もいるでしょう。自己株式のメリットには、ほかにも株主への還元や資本構造の最適化にも役立ちます。

このコラムでは、自己株取得のメリットを詳しく解説し、自己株式を取得するための具体的な手続きや方法についても紹介します。ぜひ自己株式取得をする際の参考にしてください。

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自己株取得とは

自己株取得とは、株式会社が自ら発行した株式を、市場や株主から買い戻す行為を指します。

買い戻した株式は、自己株式として企業の財務諸表に記載されます。これらの株式は特定の権利、例えば配当や株主総会における議決権を持ちません。自己株式には、利益を受け取る自益権のみが適用されます。

そのため、自己株式の取得は企業の経営戦略の一部として検討されることが多いです。

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自己株取得のメリット

ここでは、自己株取得を行う企業にもたらされるメリットについて詳しく解説します。

株価を上昇させられる

自己株式を行うことで、株式の供給が減少し株価が上昇しやすくなります。

株価の上昇は、企業にとって非常に重要です。株価の低下は、投資家や株主にとってリスクとなるため、株価の上昇は企業の価値を高める要素として注目されます。

また、市場に出回る株式の量を減少させることで、供給と需要のバランスが変わり、株価の大きな変動を防ぐ効果が期待されます。市場に出回る株式が増えると、株価が下落しやすくなるため、自己株式の取得はそのような下落リスクを緩和する役割も果たします。

また、自己株式の取得を通じて、企業は市場に対して自社の株式に対する信頼や評価の高さを示すことができます。

これは、投資家やアナリストにとって、企業の経営陣が自社の将来性に自信を持っているという強いメッセージとなり、結果として株価の安定や上昇に寄与することが期待されます。

買収防衛に役立つ

敵対的買収は、他の企業が無断で大量の株式を取得し、経営権を奪おうとする行為です。

このような動きは、特に株式が分散している企業や、経営陣と大株主との間に意見の対立が存在する企業においてリスクとなります。敵対的買収が成功すると、企業の経営方針や文化、従業員の待遇などが大きく変わる可能性があり、これは企業の長期的な成長や安定を損なう可能性があるためです。

自己株取得は、このような敵対的買収のリスクを軽減するための有効な手段となります。企業が自己株取得を行うことで、市場に出回っている株式の量を減少させることができ、敵対的買収を試みる企業の株式取得のハードルが高まります。

さらに、自己株取得を通じて株価を上昇させることができれば、買収コストも増大し、敵対的買収の意欲を減退させる効果も期待できます。

また、自己株取得は、企業が自身の経営方針やビジョンに自信を持っていることの証ともなります。

これにより、株主や投資家からの信頼を得ることができ、経営の安定性や持続可能性を高めることができるのです。

M&Aの対価としての利用できる

企業同士の合併や買収(M&A)は、ビジネスの拡大や新しい市場への参入、技術の獲得など、多岐にわたる目的で行われます。

M&Aの際の取引には、通常、大きな資金が動くことが一般的です。しかし、現金を直接交換するだけがM&Aの方法ではありません。自己株式を活用して、現金の出費を抑えつつ、M&Aを実現する方法が存在します。具体的には、買収先の株主に対して、自社の自己株式を提供し、その対価として買収先の株式を取得する方法です。

この方式を採用することで、現金を大量に用意する必要がなくなり、資金繰りの負担を軽減することが可能です。また、現金を使用しないことで、企業の負債が増加するリスクも回避できるのです。

株主に還元できる

企業の経営において、株主への還元は非常に重要な要素となります。株主は企業に資金を提供することで、その成果や利益を期待しています。そのため、企業が利益を上げた際に、それを株主に還元することは、企業の信頼性や魅力を高める要因となります。

自己株式の取得は、この株主への還元策の一つとして注目されています。自己株式を取得することで、市場に流通する株式の総数が減少します。その結果、1株当たりの利益、通常EPS(Earnings Per Share)として表される指標が増加する可能性が高まります。EPSの増加は、株主にとっては1株あたりの収益が増えることを意味します。

さらに、自己株式の取得によって、企業は株価の安定や株価のサポートという側面でも株主に還元する効果が期待されます。

また、自己株式の取得は、企業が自身の株式の価値を高く評価しているというメッセージを市場に送ることができます。これは、経営陣の自社株に対する信頼感を示すものとして、株主や投資家にポジティブな印象を与えることができるのです。

総じて、自己株式の取得は、企業の健全な経営と株主への還元の意識を示す行為として、多くの企業で採用されている戦略となっています。

資本構造を最適化できる

資本構造とは、企業が資金を調達する際の構成比率、すなわち自己資本と外部資本のバランスを指します。このバランスは、企業のリスク耐性や成長戦略、そして投資家からの評価に大きく影響を与えるため、経営者にとっては非常に重要な経営判断の一つとなります。

企業が過剰な資金を持っている場合、その資金を効果的に活用しないと、資本コストが増加するリスクがあります。

資本コストとは、企業が資金を調達する際に発生するコストのことで、これが高くなると企業の収益性が低下する可能性があります。そのため、過剰な資金を持つ企業は、その資金を有効に活用する方法を模索する必要があります。

自己株取得は、このような過剰な資金を有効に活用する手段の一つとして注目されています。自己株取得を行うことで、企業は自己資本の割合を増やすことができ、結果として資本構造を最適化することが可能となります。

自己資本の割合が増えると、外部からの資金調達に依存する度合いが低くなり、経営の自由度が増すとともに、外部環境の変動に対するリスク耐性も向上します。

また、自己株取得を通じて資本構造を最適化することは、投資家からの評価向上にも寄与します。適切な資本構造を維持することで、企業の財務健全性が高まり、長期的な企業価値の向上が期待されるからです。

経営権を強化できる

企業の経営において、経営権の確保や強化は非常に重要な要素です。経営権とは、企業の方針を決定する権利や、重要な経営判断を下す権限を指します。この経営権が分散してしまうと、経営の方向性がブレやすくなり、企業の成長や発展が阻害されるリスクが高まります。自己株取得は、この経営権の確保や強化に寄与する手段の一つとして注目されています。

具体的には、企業が市場から自社の株式を取得することで、流通する株式の総数が減少します。その結果、経営陣や主要な株主が保有する株式の割合が相対的に増加し、経営権が強化されることとなります。

経営権の強化は、企業の経営方針や戦略を一貫して推進するうえでの大きなメリットをもたらします。例えば、中長期的な投資計画や事業展開の方針をスムーズに進めることができるようになります。また、経営陣の意向が反映されやすくなるため、迅速な経営判断や柔軟な戦略転換が可能となります。

さらに、経営権の強化は、外部からの敵対的な買収のリスクを低減する効果も持っています。経営陣が持つ株式の割合が増えることで、他の企業や投資家が大量の株式を取得し、経営権を握ることが難しくなります。

しかし、経営権の強化は、適切なバランスを保つことが求められます。経営陣の権限が過度に強化されると、経営の透明性が低下し、株主からの監督機能が弱まる恐れがあります。そのため、自己株取得を行う際には、経営権の強化と経営の透明性を両立させることが重要となります。

事業承継に利用できる

事業承継は、企業の持続的な成長と継続性を確保するための重要なステップです。特に、家族経営の企業や中小企業では、次世代へのスムーズな事業移行が経営の安定性や企業価値の維持に直結します。この過程で、自己株取得が有効なツールとして活用されることが増えてきました。

自己株取得を活用することで、経営者や家族が必要な株式を取得しやすくなります。これにより、経営の安定性を保ちながら、事業の承継を進めることができるのです。具体的には、後継者が必要な株式を取得することで、経営権の移行をスムーズに行うことが可能となります。

また、事業承継の際には、多額の資金が必要となることが一般的です。自己株取得を通じて、後継者が株式を売却し、その資金を事業承継のための資金として活用することも考えられます。自己株取得により、事業承継に伴う資金調達の負担を軽減することができるでしょう。

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自己株式取得のデメリット

自己株式取得には、メリットだけでなくデメリットも存在します。自己株式取得のデメリットは、次の2つです。

資金が必要となる

自己株式を取得するには、当然ながら相応の資金が必要となります。そのため、自己株式を取得した結果、資金繰りに悪影響が出たり、自己資本比率が下がったりする可能性があります。

資金繰りが悪化すると、債権者や株主に対する弁済資金・利益分配資金が減ったとみなされる可能性があるため、利害関係者へも少なからず影響があります。株主の離反などが起こらないよう、注意して進めることが大切です。

みなし配当に対して源泉徴収される

自己株式を取得した際、売り手の株主にみなし配当が発生したとみなされ、自社に対して源泉徴収される可能性があります。みなし配当とは、自己株式取得の対価が株式に対する配当とみなされることを指します。

みなし配当は、自己株式を取得した際の価格が、資本金として払い戻した額よりも多い場合に発生します。たとえば、資本金100万円・総株式数100株・取得株式10株の場合、資本金として払い戻した額は10万円となり、それより高い価格で購入すると、売り手に対してみなし配当があったとされます。株主に株を譲渡したときよりも企業価値が上がっている場合は、自己株式取得の際にみなし配当が発生する可能性が高いです。

みなし配当が発生した場合、自社に対して20.42%が源泉徴収されるため、想定していた費用よりも総コストが高くなってしまう可能性があります。そのため、自己株式を取得する際は不当に高額な金額にならないよう適切な価格を算定し、その金額で株主から譲渡してもらえるように努めましょう。

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自己株取得の方法

自己株の取得方法にはいくつかの種類があり、それぞれの方法には特有の特徴とメリットが存在します。以下では、主な自己株取得の方法を詳しく解説します。

市場取引

市場取引による自己株取得は、企業が株式市場で公開されている自社の株式を直接購入する方法です。この方法の最大の特徴は、迅速に大量の株式を取得できる点にあります。通常の株式取引と同様のプロセスを経て行われるため、特別な手続きは不要です。市場の流動性を活用して、短期間での株式取得を実現することが可能です。

公開買付

公開買付は、企業が一定の期間と価格を設定し、その条件で自社の株式を買い取る意向を公に宣言する方法です。この方法を選択する際、企業は株主に対して買取のオファーを行い、株主はそのオファーに応じて株式を売却することができます。公開買付のメリットは、企業が希望する株式数や価格を設定できる点にあります。

既存株主からの取得

この方法は、特定の既存株主から直接株式を取得するものです。大株主や関連会社など、特定の株主との間での取引が主となります。この方法のメリットは、取引の条件を柔軟に設定できる点や、取引の透明性を確保しつつ、効率的に株式を取得できる点にあります。

子会社からの取得

子会社が保有する親会社の株式を取得する方法です。これは、グループ全体の資本構造を調整し、最適化するための手段として採用されることが多いです。この方法を採用することで、グループ内の資金の流動性を高めるとともに、資本効率の向上を図ることができます。

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自己株取得の際の規制事項

自己株取得は、経営者や会社にとって多くのメリットを持つ一方で、一定の規制が存在します。以下、その主要な規制事項について詳しく解説します。

資金の調達源は余剰資金からのみ

自己株取得のための資金は、原則として借入金や社債の発行を資金調達の手段として使用することはできず、利益剰余金などの自由に使える余剰資金からのみ調達することが求められます。

余剰資金からのみ調達しなければならない理由は、会社の財務健全性を確保し、会社債権者や他の株主の権利を守るためです。また、過度な借入や負債の増加を防ぐといった理由もあります。

財源の確保に関する法的制約の遵守

自己株取得を行う際には、会社法や関連する法律、規則に定められた財源規制を遵守する必要があります。会社法では、自己株取得の際の財源として使用できる金額の上限や計算方法が定められています。たとえば、余剰金のみで自己株を取得しなくてはならない、といった規定も会社法に準じたものです。

以上のように、自己株取得には一定の規制が存在するため、会社や経営者はこれらの規制を十分に理解し、適切な手続きを踏むことが求められます。

特に、財源の確保に関する法的制約は厳格であり、これを遵守しないと、取得した自己株が無効となるリスクや、取締役などの責任追及のリスクが生じる可能性があります。

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自己株取得時の会計処理

自己株式の取得は、会計上、会社とその株主との間での資本のやりとりとして認識されます。この取引は、会社が株主に対して資産を返還する性質を持つため、資本の一部として扱われるのです。

具体的な会計処理としては、自己株式の取得原価は純資産の中の株主資本から差し引くことになります。また、自己株式取得に関連する経費は、損益計算書における営業外の費用として計上されることが一般的です。

この会計上の処理は、自己株式の取得理由や方法に関わらず、一貫して適用されるものとなっています。

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自己株取得時の税務処理

税務上、自己株式の取得方法によって、その取り扱いが異なる点が特徴的です。

相対取引の場合、自己株式を取得した法人は、自己株式取得の対価を資本金と利益積立金の2つに分けて計上します。資本金に該当する部分は、資本金の減少として、それ以外の部分は利益積立金の減少として取り扱われます。一方、株式を譲渡する株主は、自己株式の売却による収益の一部を、実際の配当と同じようにみなし配当として計上する必要があります。

市場取引の場合、取得した法人は、取得対価全額を資本金の減少として認識し、株主はみなし配当を認識することなく、譲渡損益のみを計上します。

このように、税務上の取り扱いは取得方法や取引の形態によって異なるため、注意深く対応する必要があります。

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まとめ

自己株取得とは、自ら発行した株式を買い戻す行為を指します。自己株取得には、株価の上昇や買収防衛、資本構造の最適化、株主への還元など、多くのメリットが存在しています。自己株式を取得するには、通常の株式と同じように市場取引を行うほか、公開買付や既存株主から直接取得する方法があります。

ただし、自己株式を取得する際の資金は、企業の利益余剰金からのみ行うことが会社法で定められています。借入金など、余剰資金以外の手段で自己株式取得を行うと、取得自体が無効とみなされる可能性もあるので、注意してください。

また、取得した株式は、M&Aの対価として利用することができます。M&Aを行うために自己株式を取得した場合、どのようなM&Aを実施するのが最適か、専門家に相談しながら進めていくことをおすすめします。

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