このページのまとめ
- 株式譲渡とは株主が株式を他の企業または個人に譲渡することである
- 非上場株式とは株式の売買が制限されている譲渡制限付き株式のこと
- 譲渡制限株式を売却するには、取締役会か株主総会の承認が必要
- 株式譲渡の価格を求める方法には3つのアプローチがある
- 株式譲渡には時価譲渡・低額譲渡・高額譲渡の3パターンがあり、それぞれ税金が異なる
本記事では株式譲渡について知りたい、または検討している方に向け、株式譲渡に必要となる基礎知識、非上場企業の株式を譲渡する場合のメリットや価格設定において難しいとされる理由、交渉のポイント、株式譲渡の価格の求め方について解説します。
また、株式譲渡で発生する税金についても解説しているため、株式譲渡の全体像が理解できるでしょう。株式譲渡をお考えの方は是非参考にしてください。
目次
株式譲渡とは?
株式譲渡とは、ある企業の株主が自社の保有する「株式」を他の企業または個人に譲渡することです。この手続きは、会社のさらなる成長、組織の再構築、事業承継など、さまざまな目的で行われています。
株式とは
株式とは、株式会社が資金を調達するために発行する証券のことであり、これを所有することで出資者はその会社の一部所有者となります。株式を持つことで、出資者は配当の受取権、株主総会での議決権などの権利を持つことになります。
株主は以下の権利を持ちます。
- 株主総会に参加する権利
- 配当金を受け取る権利
- 株式を売却する権利
- 株主優待を受ける権利
株式証明書は「株券」とも呼ばれますが、現代の日本では株券は交付されず、株主名簿に記録されるのみというケースも少なくありません。
株式には下記2つがあり、株主は個人であるケースと法人であるケースの2種類があります。
- 譲渡制限のない株式
- 譲渡制限株式
譲渡制限のない株式とは
譲渡制限のない株式とは、自由に売買できる株式のことを指します。譲渡制限付株式とは異なり、株主の数が多くなるケースや頻繁に入れ替わるケースも考えられるため、会社側はこれらが発生することも想定します。
ここでは、以下2種類の株式について解説します。
- 証券取引所で自由に取引ができる上場株式
- 非上場株式のうち、譲渡制限のない株式
上場株式
上場株式とは、株式が証券取引所に公開されており、誰でも自由に売買ができる株式のことを指します。例えば、東京証券取引所であればプライム市場・スタンダード市場・グロース市場などで取引が行われており、市場では自由に株式を売買できるので、譲渡制限はありません。
一般的に、株式市場でよく聞く「時価総額」とは、株式を証券取引所に上場している会社の公開株式の時価に関する指標です。時価総額は株価を発行済み株式数で乗じることで求められる値であり、常に変動しています。
時価総額を指標として用いる理由は、株価には企業ごとにばらつきがあるため、株価だけでは比較が難しい場合があるからです。時価総額は企業の市場価値を表し、評価する際に用いられる指標となっています。
なお、個人が上場株式を取引する場合は、時価総額ではなく1株当たりの株価と売買単位を考慮して行います。
譲渡制限のない非上場株式とは
非上場株式は証券取引所に上場しておらず、株式市場で自由に取引ができない株式です。日本では、非上場株式には譲渡する場合のさまざまな条件など譲渡制限が設けられることが一般的ですが、株式会社は譲渡制限がない非上場株式を発行することも可能です。
譲渡制限株式とは
譲渡制限株式とは、株式の売買が制限され、譲渡する際に条件が必要な株式を指します。日本の中小企業の株式のほとんどが譲渡制限株式であり、譲渡制限株式を発行している株式会社は上場できません。
譲渡制限株式の売買を行う際には特別な手続きが必要となります。そのため、一般的な個人投資家が容易に売買することは難しいという特性があります。
また、譲渡制限株式の売買は、実際には、後継者に譲渡する場合や会社を売却する場合など、限られたケースでしか行われません。譲渡制限のない株式(特に上場株式)と比べると、譲渡制限株式の流動性はずっと低いと言えるでしょう。
中小企業では、初めから株式の流動性を制限するために譲渡制限株式を発行することは多くありません。これは、株主が入れ替わることによって経営の安定性が損なわれることを防ぐためです。
譲渡制限株式を売却するには、取締役会か株主総会の承認が必要です。
なお、非上場会社には時価総額の概念は当てはまりません。
株式譲渡価格の考え方
株式譲渡価格といっても通常、買い手側と売り手側では価格の見積もりに差異があります。
買い手の立場では、会社の株式譲渡価格は低めに見積もる傾向があります。買収後、買い手はしばしばその会社のオーナーや経営者になります。トップの交代によって業績が悪化したり、退職者が増えたりするリスクも伴うためです。
一方で、売り手側の立場では、会社の株式譲渡価格は高く見積もられることが多いです。これは、売り手が一生懸命に成長させた会社の売却で高い売却益を期待するためです。ただし会社の価値とかけ離れた金額を提示すると、M&Aの成立が難しくなる可能性があります。
したがって、事業や会社を売却しようと考えている場合でも株式譲渡価格の目安について理解しておく必要があります。
株式譲渡価格は買収対象となる会社の価値に基づいて算出され、事業売却や企業売却の際の支払い金額の目安となります。株式譲渡価格の目安を把握していないと、相場よりも低い価格で事業を売却してしまったり、逆に相場よりも高い価格で企業を買収してしまったりするリスクがあります。
株式譲渡価格に影響を与える要素
企業の価値には、貸借対照表の数字だけでなく目に見えない価値も含まれます。以下は株式譲渡価格に影響を与える主な要素です。
取引先・顧客リスト
優良な取引先や顧客リストを持つ企業は、株式譲渡後も基本的にそのまま取引を継続できるため、株式譲渡価格にプラスの影響を与えます。また、売上に繋がっていないような顧客リストでも、買収企業の事業にマッチする顧客リストである場合、思いもよらず高い評価を受ける可能性もあります。
優秀な社員
専門知識や経験を持つ優秀な社員が在籍する企業は、買い手にとって大きな魅力となります。優秀な人材を獲得するコストが削減できる分、買い手の売却理由の一つとしてよく挙がるモノとなっています。
大きな市場シェア
既に市場シェアを持つ企業を買収することで順調なビジネス拡大が見込まれるので、株式譲渡価格に影響します。また、まだシェアが得られていない企業でも、まだまだ市場が発展途上で、成長見込みがある場合には、株式譲渡価格に大きく影響を与えることがあります。
高度な技術力
高度な技術力を持つ企業は、その技術力自体が価値となり、株式譲渡価格を高める要因となります。特に特許を取得しているような技術を持つ企業は、特に高く評価される傾向にあります。
企業理念・経営者の人間性
企業理念や経営者の人間性も株式譲渡価格に影響を与えます。これらは目に見えにくいものですが、買い手は企業のビジョンや経営者の人間性が自社に合うかどうかを重要視します。
上場企業と非上場企業の違い
上場企業と非上場企業の株式譲渡価格の時価について解説します。
上場企業
上場企業の場合、市場で株式が取引されているため、市場での取引価格が時価となります。株価に株式数を掛けて算出されるのが時価総額で、株式公開会社の時価となります。時価総額は必ずしもその企業の正当な評価ではありませんが、一般的な市場の評価を反映しているため、妥当性のある参考指標と言えます。
非上場企業
非上場企業では、市場で取引されていないため、時価総額の指標を使用できません。そのため何らかの方法で時価を算出する必要があります。
非上場企業の場合は次章で説明する株式算定の方法を用います。複数の算定方法を組み合わせるなど、状況に応じた適切な方法を選択することが重要です。
株式譲渡の価格を求める3つのアプローチ方法
株式を譲渡する場合、その株式の価値はどのように決まるのでしょうか。株式価値を判断するアプローチは、主に以下の3つです。
- マーケットアプローチ
- インカムアプローチ
- コストアプローチ
それぞれ詳しく見ていきましょう。
マーケットアプローチ
マーケットアプローチでは、市場や過去の類似取引を参考にして株価を算定します。この手法はシンプルで理解しやすいため、実務ではよく利用されます。過去の事例を基準にするので、客観性が高く当事者の納得感を得やすい特徴があります。
しかし、同業他社の類似取引や適切な業種の例が見つからない場合は適用できず、算出結果に違和感が生じることもあります。
インカムアプローチ
インカムアプローチは、株価を算定する際に「今後企業がどのくらいお金を稼げるか」を重要視する手法です。将来の業績を株価に反映できる方法であり、将来の成長が期待される企業に適しています。
将来の業績は事業計画書をもとに推測されるため、楽観的な予測や個人の意見によって株価が大きく左右されるリスクがあることに注意が必要です。
コストアプローチ
コストアプローチでは、会社の現在の純資産額から導き出します。この手法は他の2つの手法と基本的な考え方は同じですが、純資産額の算出については異なる修正が行われる場合もあります。
会社の決算書をもとに算出されるため、当事者にとって理解しやすい方法です。しかし、純資産額を直近の貸借対照表の数値から算出するため、将来の業績(損益)を考慮することはありません。今後の成長が見込まれる企業には適さない手法と言えます。
株式譲渡価額の算出方法
株式譲渡価額の算定にはいくつかの方法があります。
種類 |
概要 |
一般的な利用シーン |
メリット |
デメリット |
簿価純資産法 |
純資産(会社の総資産から負債を差し引いたもの)を株主価値として算定する方法 |
資産が現金のみの中小企業 |
・算出が容易で客観性が高い |
・含み益・含み損を反映しないため、評価が割安または割高になる可能性がある |
時価純資産法 |
全資産と負債を時価に修正したうえで、純資産を株主価値として算定する方法 |
時価変動の大きい資産を保有する中小企業 |
・貸借対照表をベースに時価を求めるため、算出が比較的容易 |
・将来の収益性期待を評価に反映できない |
類似業種比準法 |
事業内容が類似する上場企業の株価を基準にして、自社の1株当たりの配当金、利益金額、純資産価額の3要素(比準要素)を比較して株価を算定する方法 |
取引相場のない株式を評価する場合 |
・国税庁の基準に沿っているため、客観性があり、算出が比較的容易 |
・相続税評価に適しているが、株式譲渡では評価額が低くなる可能性がある |
類似取引比較法 |
過去の類似した取引をもとに算定する方法 |
参考となる類似取引が存在する場合 |
・同業他社(非上場)の類似取引を基準とするため、客観性が確保される |
・参考となる事例を見つけるのが難しい場合がある |
配当還元法 |
1株あたりの配当金額を「資本還元率」で割り引いて株価を算定する方法 |
相続税の算出時や株主の経済的利益が配当のみの場合 |
・実際の株式配当金をもとにするため、算出が比較的容易 |
・客観性が高くないため、株式譲渡の場合には株式価値が低くなることがある |
収益還元法 |
今後、毎年一定の平均利益を生み出すと仮定し「資本還元率」で割り引き株価を算定する手法 |
将来の利益に大きな変動がないと見込まれる、安定期にある中小企業 |
・将来の収益が一定であると仮定することで、DCF法よりも簡単に算出できる |
・事業計画などを詳細に反映していないため、簡易である分DCF法と比較すると正確性に劣る |
DCF法 |
将来のキャッシュフロー(CF)を予測し「割引率」で現在価値に割り引いて株価を算定する方法 |
成長中のベンチャー企業やスタートアップ企業のM&A |
・将来性を反映した評価が可能な場合に最も目的に適している |
・主観的な評価が入るため、評価額が大きく変動するリスクがある |
以下では、株式譲渡価額について、主な方法を7つ解説していきます。
簿価純資産法
この方法は、純資産(企業の全資産から負債を差し引いた額)を株主の価値として算出する方法です。主に中小企業や資産が現金のみの企業で利用されます。
時価純資産法
この方法は、純資産だけでなく、全資産と負債を時価に修正してから株主価値を算定する手法です。主に時価変動の大きな資産を持つ中小企業などで利用されます。
類似業種比準法
取引相場のない株式の評価方法の1つである類似業種比準方式は、自社の株価を算定する際に、類似する事業内容を持つ上場企業の株価を参考にします。この方法では、自社の1株当たりの配当金額、利益金額、純資産価額の3要素(比準要素)を類似企業のものと比較して評価します。
具体的には、類似する大企業の利益や配当が多い場合、その株価は高くなる傾向があります。以前は比準割合が配当1:利益3:純資産1でしたが、平成29年1月1日以降は配当1:利益1:純資産1に改正されました。この改正により、利益の影響が以前よりも少なくなりました。
ただし、この方法は単年度の損益が大きく計上される中小企業などには実態を反映しにくい場合もあります。また、比較対象となる類似業種の大企業には適切な評価ができますが、中小企業では株価が実態を反映しないこともあります。
類似業種比準方式では、比較対象となる類似業種の大企業の株価、1株あたりの配当金額、1株あたりの利益金額、1株あたりの純資産価額を考慮します。国税庁は「類似業種比準価額計算上の業種目及び業種目別株価等」(リンクは令和5年分)として、通達で適宜公表しています。
参照元:国税庁「類似業種比準価額計算上の業種目及び業種目別株価等」
類似取引比較法
類似取引比較法は、M&Aや増資などの場合に使われる算出方法で、同業他社の過去の株価評価実績などを参考にします。他の非上場企業の株式がどのような株価で取引されたかを参考にして、株価を算出します。つまり、同じ業種の他社の株式取引事例を参考にして株価を推定する手法です。
この手法は同業他社の似た取引を基準とすることより、客観性があります。ただし、参考にできる事例を見つけることが困難な場合や、情報が公開されていないために活用が難しい場合もあります。
配当還元法
配当還元法は特例的な手法であり、収益の予想などを必要とせず、実際の株式配当金の金額から株価を算出します。そのため、非常に簡単に算定できますが、通常の株価算定には使うことができません。
この手法は主に相続の特殊な場合に用いられることが一般的です。増資やM&Aなどで用いられることは他の手法に比べてあまり多くありません。ただし、優先配当権が付いているなど、配当に対する出資者の経済的利益の比重が大きいケースであれば、この手法が適切な場合もあります。
収益還元法
収益還元法は事業計画に基づいた各年度の予想利益から、将来の収益を1株あたりの株価に反映させて株主価値を算定する方法です。しかし、この方法は利益が一定で推移すると仮定して算定するため、予想利益の変動が予測される場合には効果的な評価方法とは言えず、採用される例は多くありません。
そのため、将来的に大きな利益の変動が見込まれる場合には、より柔軟な評価が可能な次のDCF法が検討されます。それでも、収益還元法は低コストであるため、上場企業や財務情報が容易に入手できる企業を対象とし、ロングリストから候補企業を絞り込む際の簡易的な評価方法としては有用です。
DCF法
この方法は、「ディスカウントキャッシュフロー法」と呼ばれています。主に成長段階にあるベンチャーやスタートアップ企業のM&Aに利用されます。
手順は以下の通りです。
- 業計画に基づいて将来の「フリー・キャッシュ・フロー(FCF)」を予測する。
- 「FCF」を「割引率」で割り引いて、将来のキャッシュフローを「現在の価値」に置き換える。
- 各年で算定した割引現在価値を足し合わせることで、「株主価値」を算出する。一般的に、算定する期間は投資家による投資期間をもとに決定される。
フリー・キャッシュ・フローとは
「フリー・キャッシュ・フロー」とは、会社が自由に使うことができるお金です。「割引率」とは、将来貰えることになるお金を現在価値に割り引くための割合のことです。将来のキャッシュフローを現在の価値に直すために使用されます。
例えば、今1億円を貰った場合、100年後までに資産を運用して1億円以上の金額に増やせる可能性があります。逆に考えると、100年後に貰う1億円の割引現在価値は今貰う1億円の価値よりも低いと言えるということです。
ディスカウントキャッシュフロー(DCF法)で気をつける点
ディスカウントキャッシュフロー法では、フリー・キャッシュ・フローや割引率の予測によって株価が大きく変動するため、実現可能性のある事業計画書をもとに、適正な値を決定する必要があります。
将来の業績を予想するため、楽観的な予測や恣意的な予測によって株価が大きく左右される可能性に注意しましょう。
非上場株式を譲渡・譲受する際のメリット
この章では非上場株式を売却する際のメリットについて説明します。
譲渡側のメリット
譲渡側のメリットは以下の通りです。
譲渡側のメリット1:資金を獲得できる可能性がある
非上場株式を売却することで、資金を得るチャンスがあります。成長が期待される企業の未公開株式であれば、高値で取引されることがあります。得られた資金は新規事業の展開や既存事業の拡大、さらには老後の資金として活用できます。
譲渡側のメリット2:節税効果が期待できる
非上場株式の売却は、相続に比べて税負担を軽減できる場合があります。
相続税は最大で55%の税率である一方 、株式譲渡は個人で20%程度、法人で30%程度の税率が適用されます。ただし、非上場株式の金額によっては相続税の税率の方が低い場合もありますので注意が必要です。
参照元:
国税庁 タックスアンサー 「No.4155 相続税の税率」
国税庁タックスアンサー 「No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)」
財務省「法人課税に関する基本的な資料」
譲渡側のメリット3:後継者問題の解決になる場合がある
後継者不足は特に中小企業の経営者にとって大きな課題となっています。少子高齢化が進む中、中小企業は後継者を見つけることが難しい状況にありますが、非上場株式の売却を通じて後継者を見つける解決法が注目を集めています。売却によって後継者に株式を譲渡し、事業承継を円滑に進めることが可能です。
以上のことから、非上場株式を売却することで企業や個人にとってのさまざまなメリットを実現できる可能性が見えてきました。ただし、売却時には専門家の助言を仰ぐなど注意深く進めることが重要です。
譲渡側のメリット4:従業員の雇用を守ることができる
従業員の雇用を維持できることもメリットです。経営者の高齢化による後継者不足で会社が閉鎖されると、費用面の問題だけでなく従業員の失業も引き起こします。株式譲渡により経営権が移転すると、株主は変わりますが、従業員の生活を守ることができます。
譲受側のメリット
譲受側のメリットは以下の通りです。
譲受側のメリット1:会社の経営権を取得できる
株式の過半数を所有する株主は、その会社の経営権を持ちます。一般的に、中小企業は発行済株式数が少ないため、M&Aで全株式を取得しやすい傾向があります。
譲受側のメリット2:従業員や取引先との契約および許認可を引き継げる
株式譲渡では、従業員との雇用関係や取引先との契約関係、取得済みの許認可が原則としてそのまま引き継がれるため、比較的円滑に企業の取得を進められます。
譲受側のメリット3:税制措置の活用
中小企業がM&Aによってグループ化を進める場合の税制措置として「中小企業事業再編投資損失準備金」があります。
2027年3月31日までに事業承継等の事前調査(デューデリジェンス)を含む経営力向上計画が認定された中小企業者等は、株式取得によるM&Aを実施する際(取得価額が10億円以下の場合)、取得価額の70%に相当する金額を準備金として積み立てることができます。この準備金は、当該事業年度において課税所得から損金算入することができます。なお、この制度には益金算入開始までの据置期間が5年あります。
さらに、過去5年間にM&Aを実施した中堅・中小企業が、産業競争力強化法に基づいて新設される特別事業再編計画の認定を受けた場合、次のように適用されます。認定後初回の株式取得によるM&Aにおいては取得価額の90%、2回目以降は100%の金額を準備金として積み立てた場合、その事業年度において当該金額を課税所得から損金算入することができます。この場合の益金算入開始までの据置期間は10年です。
参照元: 中小企業庁「中小企業事業再編投資損失準備金(中堅・中小グループ化税制)」
譲受側のメリット4:迅速に自社の成長を実現できる
株式譲渡により過半数の株式を取得することで、実質的に譲渡企業の統治権を握ることができます。これにより、新たな経営者の意思決定を円滑に行えます。
非上場株式の一般的な譲渡方法
この章では、非上場株式を譲渡(売却)する方法について、順を追って解説します。
買い手候補を探す
非上場株式を売却する際は、まず買い手の候補を見つける必要があります。自社だけで探すのは簡単ではないため、M&Aを専門にしている会社に依頼すると効率的です。買い手候補の条件を伝え、ロングリストやショートリストを作成して買い手候補を絞り込んでいきます。
買い手候補との交渉・合意
買い手候補が見つかれば、売却条件や金額、従業員の処遇、雇用契約などのM&Aの条件を交渉します。買い手は会社を理解するためにデューデリジェンス(買収監査)を行うこともあります。デューデリジェンスで見つかった項目は契約書に反映され、最終的な合意に進みます。
株式譲渡の承認請求・決議
非上場株式(譲渡制限株式)の譲渡には会社の承認が必要です。株主総会または取締役会での決議が必要ですが、承認されない場合は別の指定買取人が指定されることもあります。
株式譲渡契約の締結
会社の承認が得られたら、株式譲渡契約書の条件を決定し、締結します。売買代金や従業員の取り扱い、取引先などの条件が契約書に含まれます。
売買代金の決済
契約書が締結された後、売買代金の決済を行います。非上場株式の取引は通常、多額の金額が動くため、銀行口座に代金が振り込まれることが一般的です。決済が完了した後、株式が譲渡され、取引が成立します。
株主名簿の書き換え
株式譲渡が完了すると株主名簿の書き換えが行われます。これにより、会社及び会社以外の第三者にも株式譲渡に対抗できることになります。
非上場株式の売却には専門的知識が欠かせません。専門家のアドバイスを仰ぐことが重要です。各段階での手続きや条件の取り決めに注意し、円滑な取引を進めましょう。
非上場株式の譲渡の価格を決定する難しさ
非上場株式の譲渡価格決定が難しいとされる理由について解説します。
株式譲渡の実施目的が多様
非上場株式の売買は、様々なシチュエーションで行われます。例えば、事業承継や相続対策、取引先との信頼関係構築のためなどです。しかし、非上場株式の譲渡価格には取引相場が存在しないため、価格の算定は専門家にとっても難しいテーマです。
税法が複雑
加えて、非上場株式の売買では税金の問題が重要視されるため、売買価格の決定に税法ルールが関係してくる点も複雑さを増しています。税法基準は、課税の公平性を実現するために画一的な計算方法を採用していますが、それによって算定される株価が必ずしもその会社の適切な価値を表しているとは言えない面があります。
税法基準で計算される株価は過去の決算数値に基づいており、会社の将来性を反映しにくいため、実際の取引価格との乖離が生じることがあるからです。特に、赤字体質の会社であっても将来の収益性が見込まれる場合や、好業績の会社であっても将来の収益力が落ちると判断される場合には、税法基準と実際の取引価格が異なることがあります。
このように、非上場株式の売買価格の決定は複雑であり、税法基準と実際の取引価格との乖離によって課税リスクが生じる可能性があります。しかしながら、どの程度の乖離が税務上のペナルティを引き起こすかの基準は曖昧であるため、非上場株式の売買価格の決定は非常に難しいテーマとなっています。
非上場株式の譲渡における時価の取り扱い
非上場株式の譲渡における時価は、「純然たる第三者間取引」であるかどうかによって変わってきます。株式の時価とは、市場での取引で形成される価格であり、客観的な交換価値を指します。
上場株式は市場で大量かつ継続的に取引されており、多くの取引を通じて一定の取引価格が形成されます。その取引価格は多くの参加者が市場を通じて決定するため、主観的な要因が排除されており、正当な価格として広く受け入れられます。
一方、非上場株式は上場株式のような活発な取引はなく、取引価格は取引当事者の主観的な要因によって決まることが多いと言えるでしょう。そのため、非上場株式の譲渡価格は客観的な価格を反映しているとは限りません。
ただし、非上場株式の取引価格が「純然たる第三者間」において決定された場合は、取引当事者の主観的な要因が排除されるものと考えられます。
したがって、非上場株式の取引価格を決定する際に、「純然たる第三者間」で取引が行われたか否かは大きなポイントであると言えます。
非上場株式の親族間での売買
親族間での非上場株式の売買は、事業承継の際によく行われる方法です。後継者に経営権を承継させるために、経営者から後継者に株式を譲渡します。これにより、相続や贈与で発生する、相続税や贈与税、株式分散の可能性などのリスクを避けて経営権を後継者に渡すことができます。
ただし、株式譲渡は資金力を必要とするため、後継者には一定の資金力が求められます。これは、株式が他の親族に渡らないように制約として機能する場合もあります。また、非上場株式の特徴として譲渡制限株式が多いため、後継者が経営権を獲得するには過半数、中小企業では100%の株式を譲渡するのが通常です。
親族間で非上場株式の売買を行う際には、以下の手段が用いられます。
- 後継者を役員に昇格させて役員報酬を調整し、資金を増やす
- 株式の価額を時価より安く設定して株式譲渡を円滑化する
- 他の手法と組み合わせて実行し、コストを抑える
ただし、株式譲渡は感情的な要素も含まれる場合がありますので、ルールを守ることが重要です。トラブルを避けるためにも注意しましょう。
親族間での非上場株式の譲渡で発生する税金
親族への非上場株式の譲渡で発生する税金については以下の通りです。
贈与税
経営者(株式所有者)が生きている間に身内へ株式を無償もしくは低額で譲渡すると、贈与税が発生します(詳細は「非上場株式を低額譲渡する場合に発生する税金」の章にて説明します)。これは事業承継の際によく見られる税金です。
贈与税は相続税と同様に累進課税制度が適用されており、贈与する額が大きければ高額な納税が必要となります。
しかし贈与税には軽減措置があり、例えば、年間110万円以下の贈与は非課税となる特例が設けられています。また、配偶者に贈与する場合は総額2,000万円までが非課税となる配偶者控除も受けられます。これらの軽減措置を利用することで、贈与税の負担を削減できるでしょう。
相続税
経営者(株式所有者)が亡くなった後に身内が株式を相続すると、相続税が発生します。相続税も累進課税制度が適用され、相続・贈与する額が大きいほど高額な納税が必要となります。しかし、事業承継税制を活用することで、相続税の猶予を受けることが可能です。
事業承継税制は中小企業の事業承継をサポートする税制であり、特定の条件を満たした中小企業は贈与税の100%の納税猶予を受けられます。これにより、実質的に相続税の支払いを免除されます。
ただし、事業承継税制を利用するにはいくつかの制約があるので注意が必要です。
非上場株式の譲渡のパターン 「時価譲渡・低額譲渡・高額譲渡」とは
この章では非上場株式の譲渡のパターンについて説明します。親族間の譲渡でも親族間以外の譲渡でもこの3パターンです。それぞれの税金については次章で解説します。
時価譲渡
時価で株式を譲渡するのが時価譲渡です。
低額譲渡
時価よりも低い金額で株式売買を行う株式譲渡が低額譲渡です。低額譲渡による株式譲渡では、売り手の儲け部分だけでなく買い手側にも課税があることに注意が必要です。これは、時価よりも低い金額で株式を取得した場合、買い手側にとってその差額が利益とみなされるからです。
高額譲渡
時価よりも高い金額で株式売買を行う株式譲渡が高額譲渡です。高額譲渡の場合、個人も法人も、売り手側にはまず時価で株式を譲渡した(とみなす)売却益が所得税の対象となります。さらに、時価を超える価格で株式を譲渡した分についても課税されます。時価を超えた差額分は、相手への贈与と見なされるためです。
買い手側については、個人の場合は時価を超えた分に対して課税はありません。しかし、法人については時価を超えた部分に課税されます。
非上場株式を時価譲渡する場合に発生する税金
前章でまとめた3つのパターンについて、個人から譲渡する場合と法人から譲渡する場合を個別に確認しましょう。
個人から譲渡する場合
個人から個人へと、個人から法人への時価譲渡の際にかかる税金は以下の通りです。
個人から個人へ時価譲渡時
個人から個人への株式譲渡では、売り手側には(実際売買価額-取得価額)に所得税が発生します。
買い手側の課税はありません。
個人から法人へ時価譲渡時
個人から法人への株式譲渡でも同様に、売り手側には(実際売買価額-取得価額)に所得税が発生します。買い手側の課税はありません。
法人から譲渡する場合
法人から個人へと、法人から法人への時価譲渡の際にかかる税金は以下の通りです。
法人から個人へ時価譲渡時
法人から個人への株式譲渡では、売り手側の課税としては(適正時価-取得価額)に法人税が発生します。買い手側の課税はありません。
法人から法人へ時価譲渡時
法人から法人への株式譲渡でも同様に、売り手側の課税としては(適正時価-取得価額)に法人税が発生します。買い手側の課税はありません。
時価譲渡のポイントとして、売り手側は課税されますが、買い手側には課税がないことが挙げられます。個人間や法人間の時価での株式譲渡においては、売り手の課税は所得税または法人税で計算されます。課税額は、譲渡時の実際の売買価格と取得価額、また所得税率や法人税率によって決まります。
非上場株式を低額譲渡する場合に発生する税金
低額譲渡での非上場株式の譲渡の税金は次の通りです。低額譲渡は主に親族間での譲渡で見られます。
個人から譲渡する場合
譲渡先が個人か法人かによって、かかる税金は異なります。
個人から個人へ低額譲渡時
個人から個人へ低額譲渡の場合、売り手側としては(実際売買価額-取得価額)に所得税がかかります。買い手側は(適正時価-実際売買価額)に贈与税がかかります。
個人から法人へ低額譲渡時
個人が法人へ低額譲渡する場合、株式売却における売り手側へは所得税がかかります。この場合、売買価格が適正な時価の1/2以上であるかどうかによって税額が異なります。
具体的には、売買価格が適正な時価の1/2未満の場合、所得税は(適正時価-取得価額)にかかります。一方で、売買価格が適正な時価の1/2以上の場合、所得税は(実際売買価額-取得価額)にかかります。
さらに、株式譲渡の買い手側へは、(適正時価-実際売買価額)に法人税がかかります。
法人から譲渡する場合
個人から譲渡する場合と同様に、譲渡先が個人か法人かによってかかる税金は異なります。
法人から個人への低額譲渡時
法人から個人へ低額譲渡の場合、売り手である法人は(適正時価-取得価額)について法人税がかります。買い手側には一時所得・給与所得として(適正時価-実際売買価額)に所得税がかかります。
法人から法人へ低額譲渡時
法人から法人へ低額譲渡の場合、売り手側は(適正時価-取得価額)に法人税が課されます。買い手側は(適正時価-実際売買価額)に法人税が課されます。
低額譲渡のポイントとして、売り手側だけでなく買い手側も課税があることに注意が必要です。また、課税額は実際の売買価格と適正時価がいくらかによって異なるため、正確な情報を把握することが重要です。
非上場株式を高額譲渡する場合に発生する税金
高額譲渡での非上場株式の譲渡の税金は次の通りです。高額譲渡も主に親族間での譲渡で見られます。
個人から譲渡する場合
譲渡先によって税金は異なります。
個人から個人への高額譲渡時
個人から個人へ高額譲渡の場合、売り手側は(適正時価-取得価額)に所得税が、また基本的に(実際売買価額-適正時価)について贈与税が課されます。買い手側には課税はありません。
個人から法人への高額譲渡時
個人から法人へ高額譲渡の場合、売り手側は所得(譲渡所得および一時または給与所得)について課税されます。つまり、譲渡所得=(適正時価-取得価額)と一時または給与所得=(実際売買価額-適正時価)に所得税がかかります。
買い手側には(実際売買価額-適正時価)に法人税が課されます。
法人から譲渡する場合
譲渡先によって税金は異なります。
法人から個人への高額譲渡時
法人から個人へ高額譲渡の場合、売り手側は法人税(譲渡損益および受贈益)が課されます。つまり、譲渡損益=(適正時価-取得価額)と受贈益=(実際売買価額―適正時価)に法人税がかかります。
買い手側には課税はありません。
法人から法人への高額譲渡時
法人から法人へ高額譲渡の場合、売り手側は法人税(譲渡損益および受贈益)が課されます。つまり、譲渡損益=(適正時価-取得価額)と受贈益=(実際売買価額―適正時価)に法人税がかかります。
買い手側には(実際売買価額-適正時価)について法人税が課されます。
高額譲渡では、売り手側と買い手側の両方に課税が発生する可能性があるため、注意が必要です。また、課税額は実際の売買価格と適正時価との差によって異なるため、正確な情報を把握することが重要です。
株式譲渡の価格を高めるポイント
株式譲渡における金額・価格を高めるための効果的な方法について、代表的な3つのポイントを解説します。
自社の価値が高いと考えている相手へ譲渡する
株式価値(企業価値)は主観的な要素がありますので、自社に高い価値を感じてくれる相手先に株式を売り込むことが重要です。
相手方に正確かつ具体的な情報を提供する
株式譲渡に関する金額を交渉する際、買い手に対して正確で具体的な情報を提供することが重要です。株式譲渡価格は買い手の主観によって決まるため、情報が豊富なほど買い手は自信を持ち、情報が不足していると自信を持てずに低い金額を提示する傾向があります。
以下のような情報を積極的に開示することが望ましいでしょう。
- 将来性に関する情報
- 買い手とのシナジー効果を期待させる情報
- 現在の事業のボトルネックや解消方法
- 企業が持つ稀少価値に関する情報
買い手同士が入札で競争できるようにする
入札の形式で買い手を選ぶことで、買い手に競合他社を意識させることも重要です。1対1の交渉では買い手は値引きを試みる傾向にありますが、競合他社を意識することで「ある程度高い価格提示を行わなければ買収できない」という印象を与え、価格を抑えようとする交渉を避けることができます。入札により買い手同士を競わせることで、株式譲渡価格を引き上げることが可能となります。
まとめ
本記事では、株式譲渡時の価格評価方法と価格決定のポイントについて解説しました。譲渡価格は株式譲渡において非常に重要な条件であり、その決定プロセスには専門的な知識が必要です。
株式譲渡後も会社は事業を継続するため、株式譲渡時の企業価値の判断はその後の事業にも大きな影響を与えると言えます。
このように重要かつ複雑な株式譲渡の手続については、専門家に相談しながら進めることをおすすめします。
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