M&A後の従業員の待遇はどうなる?社員への影響やトラブル回避方法を解説
2023年10月27日
このページのまとめ
- M&Aは売り手の従業員にとって、雇用の継続や待遇の向上などのメリットがある
- M&Aに対して不安を感じる従業員は多いので、適切な時期に丁寧に説明をすることが必要
- M&Aのことを伝えるタイミングは、従業員のポジションによって適切な時期が異なる
- 従業員がM&Aに反対した場合は、配置転換や買い手企業への出向なども検討する
「M&Aで企業を売却すると従業員はどうなる?必要な対応は?」とお悩みの方も多いのではないでしょうか。
M&Aをすると売却側の待遇が上がることが多いですが、従業員は不安を覚えがちです。社内が混乱する可能性もあるため、適切なタイミングで丁寧に従業員に説明する必要があります。
この記事では、M&Aのことを従業員に伝えるのにふさわしいタイミングや伝え方のポイント、反対した従業員への対処法について解説します。
目次
従業員にとってのM&Aを行う3つのメリット
M&Aの売り手側の従業員は、買収されることに対してネガティブなイメージを持ってしまいがちです。しかし買収されることで得られるメリットがあります。
ここでは、M&Aの売り手となった企業の従業員が得られるメリットを3つ紹介します。
- 継続して雇用される
- 待遇が良くなる場合がある
- 仕事の幅が広がる
それぞれ詳しく説明します。
1.継続して雇用される
M&Aが行われた場合、基本的に事業が継続します。会社を廃業する場合は、従業員は次の職探しをしなければなりませんが、M&Aであれば従業員はそのまま継続して雇用されます。
2.待遇が良くなる場合がある
多くの場合、M&Aで買収する側の企業は買収される側の企業よりも好業績です。そのため、M&A後に待遇が改善されるケースがほとんどです。。
3.仕事の幅が広がる
M&Aを機に従業員の仕事の幅が広がることが期待できます。
たとえば、譲受会社がこれまでとは全く異なる業種であれば、譲渡側の従業員は新しい仕事を経験できるかもしれません。また、買収を機にこれまでとは異なる社内業務にチャレンジできることもあります。
M&Aについて従業員への説明が重要な理由
従業員にM&Aについて説明しておくことは大変重要です。なぜなら説明不足や、説明するタイミングを誤ると、M&A自体が失敗に終わってしまう可能性があるからです。
従業員が抱える不安の例には、以下のようなものが挙げられます。
- 解雇されるのではないか
- 待遇が悪くなるのではないか
- 買収先企業の経営方針が合わないのではないか
- 買収先企業の社員と良好な関係が築けないのではないか
- 職場環境が大幅に変わるのではないか
従業員がM&Aに対して過剰な不安を抱いたままでは、M&A後の統合がうまくいきません。従業員が納得できる説明をして、不安を取り除きましょう。
従業員にM&Aのことを説明する適切なタイミングについては、次で説明します。」
M&Aのことを従業員に説明する適切なタイミング
M&Aについて従業員に説明するタイミングは、基本合意締結の前・基本合意締結の後・クロージング後という段階に分け、役職ごとに行うと良いでしょう。
なおクロージングとは、M&Aが実行され、対価の支払いと経営権の移行が実施されることをいいます。
1.基本合意締結の前
基本合意締結の前の時点では、意思決定に影響を及ぼす経営層に説明をしておきます。これは、基本合意締結の前段階で経営層の意見が重要になるからです。
また、企業評価をする際に自社の財務情報が必要になるため、経理部門の協力が不可欠です。そのため、経理部門の上席者には基本合意締結の前の段階でM&Aについて伝えておきましょう。
2.基本合意締結の後
基本合意締結の後は、各事業部の責任者レベルの従業員にも説明が必要です。
M&Aの基本合意契約が締結された後は、デューデリジェンス(DD)の準備をする必要があります。デューデリジェンスとは「買収監査」のことで、買収側が売却対象企業の価値やリスクの大きさを評価する調査のことです。
デューデリジェンスでは、会社のキーマンにインタビューをする「マネジメントインタビュー」という工程があります。責任者レベルの従業員はキーマンに該当する可能性があるため、説明をしておく必要があるでしょう。
また、責任者にあたる従業員は現場の従業員と経営層をつなぐパイプ役も果たしています。部署等グループ単位で協力してもらえる体制を作ってもらうためにも、しっかりと説明してください。
3.クロージング後
一般従業員に対しての説明は、クロージング後に行います。情報漏洩のリスクもあるため、早い段階では行わないほうがよいでしょう。
上場企業とのM&Aになると、情報漏洩がインサイダー取引と見なされる可能性があるため注意が必要です。
従業員にとっては急な知らせになるため、誠実な態度で臨まないと不信感を抱かれてしまう恐れがあります。M&Aが実施された後の待遇や、業務内容等をしっかり説明することが大切です。
M&Aのことを従業員に説明する際の3つのポイント
従業員に対する説明が不十分だった場合、従業員の不満が増幅し、大量離職につながる恐れがあります。
ここではM&Aの売り手となっている企業が従業員に説明するときのポイントを、3つ紹介します。
- 説明には買い手企業の担当者にも同席してもらう
- すべての従業員に説明する
- 仕事内容や待遇について詳しく説明する
従業員に対する説明が不十分だった場合、従業員の不満が増幅し、大量離職につながる恐れがあります。そのような事態を防ぐために、ポイントを押さえて説明をしましょう。
1.説明には買い手企業の担当者にも同席してもらう
一般従業員にM&Aの説明をする際は、買い手企業の担当者にも同席してもらいましょう。突然M&Aの説明を受けた従業員は、今後の処遇に不安を感じることがほとんどです。
こうした情報は、買い手側の責任者から受けた方が従業員も納得しやすいでしょう。情報が不足していると従業員が不安になり、退職をしてしまうこともあり得ます。より多くの従業員に残ってもらうために、売り手・買い手が協力して丁寧に説明することが大切です。
2.すべての従業員に説明する
一般従業員に説明するときは、従業員全員に同じタイミングで伝える必要があります。タイミングがずれると、情報漏洩のリスクがあるほか、従業員同士のまた聞きが生じてしまい、社内に混乱が生じるおそれがあります。
全従業員が集合する朝礼や会議などの場を利用すれば同じ情報が一斉に届くため、内容に差が生じる可能性は少なくなるでしょう。
3.仕事内容や待遇について詳しく説明する
従業員はM&A後の待遇や雇用、給与体系等に不安を感じている可能性が高いため、特に詳細に説明をする必要があります。
また、引き続き働く意思がある従業員にとっては、M&Aに至った経緯や今後の事業計画等も関心が高い内容です。理由も含めて丁寧に説明してください。
M&Aを説明する際の2つの注意点
M&Aを説明する段階では、以下の2つの点に注意しましょう。
1.M&Aにはリスクがあることも伝える
従業員にはリスクについても理解してもらえるような説明をしましょう。
M&Aは買い手の意向があってのものなので、説明段階では雇用条件の変更や受け入れ社員の条件変更などが行われることはあり得ます。
M&Aで売却される側の従業員は不安を感じていますが、「M&Aのリスクは全くない」「待遇が変わることはない」などのようにリスクが全くないと言い切る伝え方をすると、後で食い違いが生じてしまい、大量の自主退職を招くことにつながりかねません。
M&Aで従業員に少しでも迷惑がかかる可能性があるときは、その旨を正確に従業員に伝えておく必要があるでしょう。
2.従業員に寄り添った対応をする
M&Aの説明をするときは、従業員が将来に対して不安を感じていることを理解して対応することが大切です。
従業員はM&Aの内容についての情報が経営層に比べて少ない状態なので、抱える不安は大きいと考えられます。
説明の際に従業員から不安要素について質問されたら極力回答できるように、準備をしっかりしておきましょう。必要に応じて資料も用意してください。
M&Aに従業員が反対した場合の3つの対処法
M&Aについて従業員に十分説明しても、すべての従業員に理解を得られるとは限りません。しかし「M&Aに反対している」という理由だけで従業員の解雇を言い渡すと、労働基準法に抵触する可能性があります。
どうしても解雇をする場合は「整理解雇」という方法がありますが、「人員整理を行うための客観的必要性」「会社による解雇回避の努力」「解雇の対象となる人選の合理性」「労使間の十分な協議」の4つの要件を満たす必要があり、かなりの困難を伴います。
したがってM&Aに反対する従業員がいる場合、解雇以外の方法を検討することになるでしょう。
ここでは、反対する従業員の対処法を3つ紹介します。
- 自社内で配置転換を行う
- 買い手企業へ出向させる
- 自主退職を勧める
以下で詳しく解説します。
1.自社内で配置転換を行う
自社の違う部署に配置転換することで、反対していた従業員の考え方が変わる可能性があります。
従業員が希望する部署に配置転換をすれば、スムーズに配置転換が行えるかもしれません。
ただし、M&Aに反対すれば希望する部署に配置転換してもらえると考える従業員がほかにも現れる可能性があるため、慎重に検討する必要があります。
また、退職に追い込む原因と捉えられるような配置転換はしてはいけません。退職を強要したとして、訴訟問題に発展する恐れがあります。
2.買い手企業へ出向させる
従業員を買い手企業に出向させることも対処法の一つです。
従業員が買い手企業に出向することによって、買い手企業の風土や経営方針などに触れることができます。直接知ることで、買い手企業やM&Aに対して前向きな気持ちになってくれるかもしれません。また、出向の経験がキャリアアップにつながり、働き続ける意欲がわく可能性もあります。
ただしこの方法についても、自社内で配置転換を行うケースと同様、ほかの社員への配慮が必要です。また、退職を強要するための命令だと捉えられないように注意してください。
3.自主退職を勧める
自社内の配置転換や、買い手企業への出向を提案しても、反対意見を変える見込みのない従業員に対しては、自主退職を勧めることになるでしょう。
ただし、自主退職を勧める場合、会社から解雇されたと見なされることがないよう、丁寧な説明が必要です。
長時間にわたる退職勧告や、何度も繰り返される説得行為は、退職の強要とみなされる恐れがあります。
従業員にM&Aで迷惑をかけないための3つの注意点
ここでは、M&Aの実施にあたって従業員に迷惑をかけないために注意するべきポイントを3つ紹介します。
- 従業員の雇用や待遇を維持できるよう交渉する
- 改悪される場合はより丁寧な説明をする
- 退職する従業員の手続きもしっかり対応する
それぞれ詳しく説明します。
1.従業員の雇用や待遇を維持できるよう交渉する
M&A交渉では、雇用の継続・現状の待遇の維持は最低限できるように交渉をしましょう。買い手も従業員の価値を含めた現在の企業価値を評価して企業買収を検討しているため、大量の自主退職は望まないはずです。従業員が引き続き満足のいく環境で働けるように、しっかり交渉してください。
交渉の結果、現状の雇用環境と同等、あるいはより良い環境にすることができれば、従業員に安心してもらえるでしょう。
2.改悪される場合はより丁寧な説明をする
従業員の待遇等が決まったら、その旨を伝えることになりますが、交渉の結果、現在の待遇や給与を維持できない可能性もあります。特に改悪するような場合は、より丁寧な説明が必要です。なぜ待遇が悪化してしまうのか、正当な理由を説明してください。
3.退職する従業員の手続きもしっかり対応する
M&Aを機に退職する従業員がいる場合は、退職の手続きに真摯に対応しましょう。
退職は自己都合退職と会社都合退職の2通りがあります。自己都合退職とは、退職の原因が主に従業員側にある退職のこと、会社都合退職とは解雇や退職勧奨といった会社の都合で雇用契約を終了することです。
退職理由がM&Aのみであれば会社都合にすることはできませんが、M&Aによって転勤や大幅な賃金低下があれば会社都合に当たる場合もあります。
自己都合退職と会社都合退職は、失業給付金や退職金、本人のキャリアなどに影響を与えます。従業員一人ひとりの事情を十分加味したうえで検討するようにしましょう。
まとめ
M&Aには多くのメリットがあり、売り手企業の従業員にとっても良い機会です。しかし一般の従業員の立場からすると、会社サイドで一方的に物事が進められていたと感じて、不満を持つ人もいるかもしれません。また、M&Aを行うリスクもあるので、不安を覚える従業員もいるでしょう。
従業員が持つ不満や不安を解消して円満にM&Aを進めるために、適切なタイミングで丁寧な説明をしてください。必要に応じて買い手企業にも協力してもらいましょう。
しかし、丁寧に説明してもM&Aに反対する従業員が現れる可能性はあります。M&Aに反対することを理由に従業員を解雇することは難しいため、その場合は、「自社内で配置転換を行う」「買い手企業へ出向させる」「自主退職を勧める」等の対処が必要になります。
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