新設分割による資本金の決め方とは?注意点や設定後の変化について解説

2023年10月17日

新設分割による資本金の決め方とは?注意点や設定後の変化について解説

このページのまとめ

  • 新設分割における新会社の資本金は、分割方法や承継資産によって引き継ぎ方が変わる
  • 分割会社から引き継ぐことができる資産は、資本金や利益剰余金などの5種類
  • 資本金額によって適用となる法制度が変わるため、受けられる優遇措置も変化する
  • 資本金1億円を境界として、税務上のさまざまな手続きや適用となるルールが変わる

会社分割により新設した会社の資本金額を検討している経営者の方もいるのではないでしょうか。資本金の設定においては、会社分割のスキームや資本移転に関する法制度について理解することが大切です。

本記事では、新設会社の資本金設定の方法や注意点について詳しく解説します。分割会社から引き継ぐ資産の種類や資本金額によって変わる税務についても解説するので、ぜひ参考にしてください。

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新設分割とは

新設分割とは、M&Aにおいて既存の企業が特定の事業を分割し切り離す会社分割の1つの手法です。切り離された事業は新しく設立した会社に移転されるため、「新設分割」と呼ばれます。

新設分割の種類

新設分割においては、その分割方法を大きく以下の3つに分けることができます。

  1. 分社型新設分割
  2. 分割型新設分割
  3. 共同分割

それぞれの特徴について解説していきます。

1.分社型新設分割

「分社型」とは、分割の対価として分割先の会社の株式を分割を行った会社(以下、分割会社)が取得する手法を意味します。

新設分割を分社型で行うということは、切り離した事業を新設会社へ移転させる対価として、新設会社の株式を「分割会社が取得する」という形で会社分割が行われるということです。

2.分割型新設分割

「分割型」とは、分割の対価として分割先会社の株式を分割会社の株主が受け取る手法を意味します。

分割型で新設分割を行うということは、分割の対価として新設会社の株式を分割会社の「株主が受け取る」という形で会社分割が行われるということです。

3.共同新設分割

共同新設分割とは、2社以上の会社がそれぞれに分割した事業を、新しく設立した会社に移転し統合させる会社分割の手法を意味します。

共同新設分割は、グループ企業の再編や競合他社との連携強化などを目的に行われることが多く、分割の対価は事業の切り離しを行ったそれぞれの分割事業に対して、新設会社の株式が交付されます。

それぞれの新設分割の特徴をまとめると、下記のようになります。

株式の受け手元会社の数
分社型新設分割分割会社1社
分割型新設分割分割会社の株主1社
共同新設分割分割会社複数

新設分割と吸収分割との違い

吸収分割は、新設分割と同様に会社分割における1つの手法です。切り離した事業を新しく設立した会社へと移転させる手法が新設分割であるのに対し、吸収分割における事業の移転先は既存の会社です。

また新設分割の場合、新設会社の株式が分割の対価となるのに対し、吸収分割では、分割先の企業の株式以外の財産などを対価とすることも可能である点も両者が異なる点として挙げられます。

新設分割と吸収分割の違いをまとめると、下記のようになります。

事業の移転先
新設分割新会社
吸収分割既存の会社
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新設会社の資本金の決め方

新設会社の資本金は、分割会社から一部承継した資産を設定することが一般的です。しかし、承継資産の状態や分割を行う会社同士の関係性などによって、引き継ぐ際のルールが変わってきます。

新設会社の資本金を含む純資産の設定において変動するポイントは以下の2つです。

  1. 承継する資産が資産超過か負債超過かによって、新設会社の純資産への振り分け方が変わる
  2. 新設分割が適格要件を満たすか否かによって引き継ぐ資産額が変わる

ここからは、新設分割によって引き継がれる資産の種類と上記2つのポイントにおける具体的な変動内容について解説していきます。

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分割会社から承継できる資産

分割会社から新設会社へと引き継がれる資産は純資産に該当する資産で、賃借対照表上の全資産から負債を差し引いた額が純資産に該当します。

純資産には5つの種類があり、新設分割の際にはそれぞれを設定する必要があります。

資本金

株主などの出資者が会社に対して払い込んだ金額を元に設定されるもので、受けた出資に対して返済義務が生じないものです。

2023年9月の時点で資本金1円であっても会社設立が可能となっていますが、資本金は会社の社会的信用度を示す重要な指標となっています。そのため、あまりにも低い資本金額の場合融資を受けられないなどのデメリットが生じることがある点には注意が必要です。

また、建設業や旅行業、人材派遣業などの許認可が必要な事業者においては、最低資本金額が定められているため、規定金額を超える資本金額に設定しなければなりません。

資本準備金

資本準備金は、出資者から払い込まれた金額のうち、資本金として計上していない金額を指します。

将来的に発生する支出や損失に対する備えとして、払い込まれた出資額の1/2を超えない範囲内であれば、資本準備金として積立て計上することが会社法によって義務付けられています。

参照元:e-Gov法令検索「会社法第445条2項・3項

その他資本剰余金

その他資本剰余金とは、出資者から集めた金額の中で資本金にも資本準備金にも該当しない金額を指します。

その他資本剰余金には、自己株式の処分差益や資本準備金の減少差益などが含まれます。

利益準備金

利益準備金は、会社が蓄積してきた利益のうち、株主への配当に利用できない金額を指します。

会社が得た利益を株主に配当することによって会社の財産がなくなってしまうことを防ぎ、財務基盤を強化することを目的とされています。そのため、会社は利益の一部を利益準備金として計上することが会社法によって義務付けられています。

積立金額は、配当金額の1/10とされており、資本準備金と利益準備金の合計額が資本金の1/4未満となるラインまでが積立限度額と定められています。

出典:e-Gov法令検索「会社法第445条4項

その他利益剰余金

その他利益剰余金とは、会社が得た利益のうち、内部留保している金額で、先述の利益準備金を除いた部分が該当します。

株主への配当の原資となるその他利益剰余金は会社の業績によって変動するため、それに伴い実際の配当金も変動するという仕組みになっています。

その他利益剰余金は、その用途が比較的自由である点が特徴で、会社が任意で行う積立や資本金、資本準備金へ振り替えることも可能です。

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新設会社への資産の承継方法

実際に新設会社へ資産を承継する際、承継資産の状況や分割方法によって承継方法が変動するため注意が必要です。

ここからは、新設分割の2つの形である「分社型新設分割」と「分割型新設分割」において分割会社の資産を引き継ぐケースを想定して、それぞれの承継方法について解説していきます。

分社型新設分割の場合

分社型新設分割における資産の引き継ぎの際にチェックすべきポイントは、承継する資産がプラスとマイナスいずれの状態にあるかという点です。

承継する資産の状態が資産超過か負債超過かによって、新設会社の資本金の設定ルールは以下のように変わってきます。

承継資産が資産超過の場合

  • 分割事業にかかる株式資本相当額の範囲内で、承継資産を資本金・資本準備金・その他資本剰余金に自由に振り分けることが可能
  • 新設会社の利益剰余金は0円に設定する

承継資産が債務超過の場合

  • 新設会社の資本金・資本準備金・その他資本剰余金は「0円」に設定する
  • マイナスとなっている株式資本相当額の全額を利益剰余金としてマイナス表示で計上する

参照元:e-Gov法令検索「会社計算規則 | 第49条2項

また、分割後に分割会社と新設会社との間に支配関係が継続する場合(適格分割)は、承継する資産は帳簿価額を基礎として算定されます。しかし、支配関係が継続しない場合(非適格分割)は時価を基礎として算定されるという違いが生じます。

分割型新設分割の場合

事業の分割の対価を分割会社ではなく分割会社の株主が受け取る分割型新設分割における資産の引き継ぎ方法は、会社計算規則によって2つの方法が定められています。

1つは、分社型新設分割と同様に、承継資産を株式資本相当額の範囲内で自由に資本金・資本準備金・その他資本剰余金に振り分けることで引き継ぐ方法です。

ただし、承継資産の状態がプラスかマイナスかによって、分社型新設分割の場合と同様に資産を振り分けるルールが異なります。

そしてもう1つが、分割会社側であらかじめ減少させると決めていた資本金・資本準備金・その他資本剰余金・利益準備金・その他利益剰余金の金額をそのまま新設会社が引き継ぐ方法です。

分割型新設分割においては、移転する事業にかかる株式資本相当額の中から株主への現物配当処理を行うため、その他利益剰余金、またはその他資本剰余金が減少することになります。

参照元:e-Gov法令検索「会社計算規則第49条2項、第50条1項

関連記事:会社分割とは?事業譲渡との違いや実施方法、ポイントを解説

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新設分割で資本金を設定する際の注意点

新設会社の資本金は、一部の業種を除き自由に設定することが可能であるものの、資本金額によって、適用となる法律や必要となる税務が異なってきます。

ここからは、資本金を設定する際に注意すべきポイントを、法律と税務の2つの視点からそれぞれ解説していきます。

資本金額によって法律的な区分が変動する

会社の経営や事業展開に関する法制度の多くは、会社の資本金額に応じて適用範囲が定められています。そのため、新設会社の資本金をいくらに設定するかによって、今後の経営や事業展開にもたらす影響が変わってきます。

新設会社の資本金設定に際して考慮すべき法律としては、以下の2つが挙げられます。

  1. 下請代金支払遅延等防止法
  2. 中小企業基本法

まず下請代金支払遅延等防止法においては、発注元となる親事業者の資本金額によって下請事業者の条件が以下のように定められています。

製造委託や修理業者の場合

親事業者(新設会社)下請事業者
資本金が1,000〜3億円資本金が1,000万円以下の会社または個人事業者
資本金が3億円超資本金が3億円以下の会社または個人事業者

情報成果物作成委託や業務提供委託の場合

親事業者(新設会社)下請事業者
資本金が1,000〜5,000万円資本金が1,000万円以下の会社または個人事業者
資本金が5,000万円超資本金が5,000万円以下の会社または個人事業者

「情報成果物作成委託」とは、ソフトウェアやシステムなどのプログラムや、音楽・アニメなどの作品、商品や広告のデザインなどの作成を他の業者に委託することを指します。

次に中小企業基本法では、中小企業とみなされる条件を業種別に定義されており、同法にて定めた基準に則して各種補助金や優遇措置適用の判断を行います。

業種別中小企業者の定義

業種中小企業者の定義
製造業およびその他企業資本金額または出資の総額が3億円以下、
または使用する従業員が300人以下の会社
卸売業資本金額または出資の総額が1億円以下、
または使用する従業員が100人以下の会社
小売業資本金額または出資の総額が5,000万円以下、
または使用する従業員が50人以下の会社
サービス業資本金額または出資の総額が5,000万円以下、
または使用する従業員が100人以下の会社

引用:中小企業庁:「中小企業・小規模企業者の定義

上記で示した定義は、中小企業政策における基本的な範囲を定めたものであり、法制度によっては異なる定義が用いられている場合もあります。

中小企業関連立法においてはソフトウェア業・情報処理サービス業や旅館業などにおいても中小企業者とする条件を定めています。そのため、業種に応じて適した資本金額を確認することが大切です。

参照元:
e-Gov法令検索「下請代金支払遅延等防止法第2条3項
中小企業庁「中小企業・小規模企業者の定義

資本金額によって必要な税務が異なる

税法上においては「資本金1億円」が中小企業と大企業を分けるラインとなり、様々な優遇措置は基本的に資本金1億円以下の会社が対象とされています。

ここからは、資本金額によって生じる税務上の8つの変化について解説していきます。

1.外形標準課税

資本金1億円超の会社は、外形標準課税の適用となります。

外形標準課税とは、資本金やオフィスの床面積、従業員数などを含む会社の規模を基準として税額を算定する課税方式です。会社の所得を基準とする課税方式よりも高い税率が適用されます。

2.法人税

資本金1億円超の会社は、法人税の軽減税率適用の対象外となります。

資本金が1億円以下の会社の場合、800万円以下の所得に対しては法人税15%までの軽減措置を受けることができます。一方で、資本金1億円超の会社の場合は800万円以下の所得にも23.3%の税率で法人税が算定されます。

3.留保金課税

資本金1億円超の会社は、留保金課税が適用されます。

留保金課税とは、過度な内部留保を防ぐ目的で会社内に留保している利益に対して法人税を追加課税する制度です。また例外として、資本金1億円以下の会社は課税対象外となります。

4.貸倒引当金

資本金1億円超の会社では、貸倒引当金の損金算入ができません。

売掛金や貸付金などの回収ができなくなるリスクに備えてあらかじめ計上しておくのが貸倒引当金です。また例外として、資本金1億円以下の会社であれば貸倒引当金を損金算入することが認められています。

5.少額減価償却資産

資本金1億円超の会社では、少額減価償却資産の損金算入ができません。

少額減価償却資産とは30万円未満の資産のことを指します。資産の所得年度に経費処理をした場合、その全額を損金算入することが、資本金1億円以下の会社において認められています。

6.特別償却や特別控除

政策に紐づく形で法人税が優遇される特別償却や特別控除は、その大半が資本金1億円以下の会社が対象となっています。

様々な試験や研究にかかる費用(試験研究費)に対する特別控除も、原則として資本金1億円以下の会社が対象となります。

7.欠損金繰越控除

資本金1億円以下の会社の方が、欠損金の繰越控除と繰戻還付制度において優遇されます。

事業年度の開始日前日から10年以内に生じた欠損金を当期に損金参入することができるのが欠損金の繰越控除です。資本金1億円以下の会社であれば欠損金全額を控除することが可能です。

また、資本金1億円以下の会社であれば、ある事業年度に生じた欠損金を当年度開始日より過去1年以内に繰戻すことで、納付済みの法人税などの税金の還付を受けることができます。

資本金が1億円超の会社の場合、欠損金の繰越控除は当期の課税所得の50%までと、控除額に限度が設けられています。

繰戻還付においては適用範囲が拡大したため、2023年9月時点では資本金1億円超10億円以下の会社までであれば還付を受けることができます。

8.消費税の免税事業者

会社設立時の資本金額が1,000万円以下の会社は免税事業者とみなされ、1〜2期目の消費税の申告と納税が不要となります。

ただし新設分割の場合は、免税事業者か否かの判断基準とされるのが設立時の資本金ではなく、分割を実施する前の分割会社での準備期間における課税売上額となります。

ここでの課税売上が1,000万円以上となっている場合は、消費税の申告・納税義務が生じるので、分割前の売上にも考慮する必要があるのです。

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まとめ

新設分割によって生まれた会社の資本金設定においては、さまざまな要因を考慮したうえで自社に適した資本金を設定することが大切です。分割方法や分割会社から引き継ぐ資産によって必要な手続きが変わってくるだけでなく、分割後に適用となる法制度も資本金によって異なります。

資本金にはその会社の社会的信用を証明するという役割があると同時に、その設定額によってその後の経営や事業展開に大きな影響を及ぼす可能性がある重要な要素であるため、慎重に検討する必要があります。新設分割における資産引き継ぎや資本金の設定に関しては、ケースバイケースで細かな会計処理が発生するため、専門家にサポートしてもらいながら進める方が懸命です。

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