このページのまとめ
- 支配権とは、一定の株式を取得し株式会社の経営を支配できる権利を指す
- 持株比率が50%以上の場合、役員の選任・解任に関する普通決議を単独で行える
- 持株比率が3分の2以上の場合、定款変更や合併に関する特別決議を単独で行える
- 中小企業の事業承継では後継者が100%株式を取得する完全経営支配状態を目指す
「ビジネスにおける支配権とは何か」と気になる方もいるでしょう。支配権とは、株式会社の株式を一定数所有しており、その会社の意思決定を行える権利・権限のことを指します。1人の経営者が100%保有していることもあれば、複数の株主が分散して保有していることもあります。
本記事では、ビジネスにおける支配権について説明します。また、支配権と持株比率の関係や事業承継の際のポイントなども解説するので、ぜひ参考にしてください。
目次
支配権とは
支配権とは、権利の対象となるものを直接的に支配できる権利のことを指します。ビジネスにおいては、株主が会社に対して行使できる権利・権限を指すことが多く、中でも株主総会に出席して議決に参加する議決権を一定数所有している状態をいいます。
議決権とは、株式総会に出席し、経営・議決に参加する権利のことです。議決権は株式の持分によって異なり、持株数が多ければ多いほどその会社の意思決定に強い影響を与えられます。特に持株比率が3分の2以上であり、通常であれば多数の株主の決議が必要となる特別決議を単独で可決させられる状態を「支配権を有している」といいます。
経営権との違い
経営権とは、株式を一定数以上所有し、その会社の意思決定に携われる権利・権限のことを指します。持株比率が過半数である場合、単独で普通決議を可決できます。支配権に比べると持株比率は小さいため、単独で特別決議を可決させることはできません。
拒否権との違い
拒否権とは、株式を3分の1以上所有し、その会社の特別決議を拒否できる権利・権限のことを指します。ある株主に支配権を持たせたくない場合、ほかの株主はこの拒否権が得られるだけの株式を獲得しなければなりません。
支配権と持株比率の関係
持株比率によってその株主の影響力は、以下のように大きく変わります。
持株比率 | 単独で可決できる主な議決事項 |
持株比率50%以上 | 役員および会計監査人の選任・解任 資本金の増額・減額 準備金の増額・減額 余剰金の処分・配当 など |
持株比率3分の2以上 | 定款変更 解散、解散した会社の継続 吸収合併契約等の承認 新設合併契約等の承認 など |
持株比率4分の3以上 | 非公開会社での株主の取り扱いを変える定款変更 |
ここでは、持株比率ごとの支配権の内容について確認しましょう。
1.持株比率50%以上
持株比率が50%以上の場合、普通決議の議決事項を単独で可決することが可能です。普通決議とは、議決権を行使できる株主の過半数の株主が出席し、その議決権の過半数の賛成をもって可決される決議のことです。普通決議の対象となる主な議決事項には、以下のようなものが挙げられます。
- 自己株式取得に関する事項の決定
- 役員および会計監査人の選任・解任
- 資本金の増額・減額
- 準備金の増額・減額
- 余剰金の処分・配当 など
なお、取締役会設置会社と取締役会非設置会社によって対象となる議決事項は異なります。取締役会とは、会社の重要な意思決定を行う組織体でのことを指します。取締役会は、上場企業などの株式公開会社は設置が義務付けられていますが、非公開企業の場合は設置するかどうかを選択することが可能です。
取締役会非設置会社の場合は、株主総会があらゆる事項に関する決定権を有しています。そのため、取締役会非設置会社の株式を50%以上所有している場合、特別決議などを除くあらゆる事項を決定できます。
2.持株比率3分の2以上
持株比率が3分の2以上の場合、特別決議の議決事項を単独で可決することが可能です。特別決議とは、議決権を行使できる株主の過半数の株主が出席し、その議決権の3分の2以上の賛成で可決される決議のことです。以下のように、会社の重大な議決事項を決定する際に特別決議が行われます。
- 譲渡制限株式の買取
- 譲渡制限株主の相続人に対する売渡請求
- 定款変更
- 解散、解散した会社の継続
- 吸収合併契約等の承認
- 新設合併契約等の承認 など
会社法では、会社に関する重大な議事は特別決議で決めるよう規定しています。持株比率が3分の2以上である場合、このような特別決議が必要な事柄であっても単独で可決することが可能です。そのため、持株比率が3分の2以上の場合は、実質的にその会社の経営を支配しているといえるのです。
3.持株比率4分の3以上
持株比率が4分の3以上の場合も、特殊決議の議決事項を単独で可決することが可能です。特殊決議には2つの手続きがあり、非公開会社における剰余金配当・残余財産分配・議決権について株主ごとに異なる取り扱いをする定款変更では、最も重い議決権の4分の3以上の賛成が必要になります。
なお、特殊決議の対象となるもうひとつの決議事項は、株式の全てに譲渡制限を設ける定款変更についてです。こちらは前述の場合と異なり、議決権の3分の2以上の賛成で可決することが可能です。ただし、ほかの特別決議と異なり、その株主総会では、株主(頭数)の半数が参加している必要があります。
4.持株比率100%
持株比率が100%の場合は、「完全経営支配権」と呼ばれます。株主が完全経営支配権を有している場合、当該株主はその会社の意思決定をほかの株主からの制約を受けることなく行えるようになります。そのため、M&Aや事業承継においては100%の株式を取得することが重要になります。
特に中小企業での事業承継では、完全経営支配状態を目指すのが重要です。他人が株式を1株でも所有していると、その株主には株主代表訴訟提起権などの単独株主権が認められます。仮に訴訟を提起されたら、経営に重大な支障が出る可能性が高いため、持株比率100%を目指す必要があるのです。
事業承継時に支配権を確保する方法
事業承継を行う際は、後継者に支配権を与えるために以下のようなことを行うのが重要です。
- 既存株主から自社株式を買い取る
- 遺言を使って株式を相続させる
- 相続時に相続人へ売渡請求を行う
- 種類株式の黄金株を後継者に持たせる
それぞれについて詳しく確認しましょう。
1.既存株主から自社株式を買い取る
何かしらの事情で株式が分散している場合もあるでしょう。このような場合には、現在の経営者が生前に、既存株主から自社の株式を買い取っておく方法があります。これによりあらかじめ手元に株式を集約させられるため、事業承継時に円滑に後継者に株式(支配権)を渡すことができます。
ただし、既存株主から株式を買い取る場合、既存株主に株式を売却する意思があること、現在の経営者が株式の購入資金を有していることなどが課題になります。また、仮に相場より安く株式を売買したら、その差額に対して贈与税が課されるリスクが生じるため注意が必要です。
2.遺言を使って株式を相続させる
被相続人の死亡に伴い株式を相続させるなら、遺言書を残しておく方法があります。遺言書がない場合、相続人は遺産分割協議を行い、その内容に従って相続を行います。遺産分割協議の内容にもよりますが、複数の相続人がそれぞれ株式を相続する場合、後継者が支配権を獲得しにくくなります。
一方、遺言書を残しておけば、原則として遺言書の内容が優先されます。遺言書を使って株式を相続させる場合は、ほかの相続人の遺留分を侵害しないように配慮すること、その相続で代償分割を行えるよう相続人(後継者)に代償金を用意させておくことなどに注意すると良いでしょう。
3.相続時に相続人へ売渡請求を行う
相続によって、その会社にとって好ましくない人が株式を取得してしまうこともあります。そのような場合でも、非公開会社であれば相続人に対して株式の売渡請求を行える可能性があります。売渡請求を行った場合、相続人の同意がなくても会社がその人の株式を取得することができます。
相続人に対する売渡請求を行うには、当該株式が譲渡制限株式であること、定款に売渡請求ができる旨の規定があることなどの条件を満たす必要があります。また、株主総会において売渡請求に関する特別決議も得なければなりません。さらに会社は株式の購入資金を用意しておく必要があります。
4.種類株式の黄金株を後継者に持たせる
黄金株とは、株主総会における重要事項の決定に対して拒否権を発動できる種類株式です。拒否権を後継者に持たせておくことで、株主総会で不本意な決議が可決されそうになった場合でも拒否権を発動できます。その結果、後継者がある程度、その会社の経営をコントロールできるようになります。
黄金株を発行させるには、まず株主総会での手続きが必要になります。そして、定款変更をおこなう必要があるため、法務局で変更登記の手続きを行います。なお、黄金株は強力な種類株式であり、デメリットも多くあるため、発行するにあたってはメリットとデメリットをよく検討しましょう。
M&Aでの支配権プレミアムとは
M&Aにおける企業価値評価では、支配権プレミアムと呼ばれる付加価値が考慮されることがあります。前述のとおり、一定の株式を取得できれば、その会社の経営に強い影響を与えることが可能です。支配権を獲得できるM&A案件ではこの価値を評価し、相場より買収価格が高まります。
M&Aにおける企業価値評価の算定方法には、主に以下の3種類があります。
- コスト・アプローチ:対象会社の純資産に着目した算定方法
- マーケット・アプローチ:対象会社の同種他社の時価などに着目した算定方法
- インカム・アプローチ:対象会社の将来の利益予測などに着目した算定方法
また、それぞれのアプローチ方法には、より細かい算定方法があります。算定方法によって支配権プレミアムが含まれるかどうかは異なり、たとえば、マーケット・アプローチの場合は一般的に類似取引比較法には支配権プレミアムが含まれ、類似業種比較法には含まれないと考えられています。
M&Aにおける企業価値評価は売り主と買い主の両方に重要なことでありながら、算定方法が複雑で正確に計算するのは難しいです。M&Aを行う際はFAや仲介会社に相談することをおすすめします。
まとめ
ビジネスにおける支配権とは、一般的に特定の株主がその会社に対して行使できる権利・権限のことを指します。権利・権限は持株比率によって異なり、持株比率が高まれば重要な議決事項も単独で可決できるようになります。持株比率別の単独で可決できる主な議決事項は、以下のとおりです。
持株比率 | 単独で可決できる主な議決事項 |
持株比率50%以上 | 役員および会計監査人の選任・解任 資本金の増額・減額 準備金の増額・減額 余剰金の処分・配当 など |
持株比率3分の2以上 | 定款変更 解散、解散した会社の継続 吸収合併契約等の承認 新設合併契約等の承認 など |
持株比率4分の3以上 | 非公開会社での株主の取り扱いを変える定款変更 |
一般的に、持株比率が3分の2以上であれば支配権を有しており、持株比率が50%以上であれば経営権を有しているといわれます。また、持株比率を3分の1以上保有していれば株式決定における特別決議に反対することができるため、支配権に対して拒否権と呼ばれています。
持株比率によって経営への影響力が変わるため、事業承継をするにあたっては既存株主から自社株式を買い取る、遺言で特定の相続人に株式を相続させる、相続時に相続人へ売渡請求を行うなどが重要です。また、M&Aにおいては、支配権プレミアムという付加価値を享受できるようになるでしょう。
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