M&Aの目的とは?スキームごとに売り手・買い手の目的を解説

2023年10月16日

M&Aの目的とは?スキームごとに売り手・買い手の目的を解説

このページのまとめ

  • 企業がM&Aを実施する主たる目的は、事業承継・イグジット・経営戦略の3つ
  • 売り手と買い手双方にとってM&Aを行う目的は異なる
  • 売り手はM&Aにより資金調達や事業承継、ポートフォリオ転換などの目的が達成できる
  • 買い手はM&Aにより経営資源の獲得や事業成長の加速化などの目的が達成できる

自社に適したM&Aの方法について悩んでいる経営者の方も多いのではないでしょうか。M&Aを成功させるためには、自社の抱える課題や経営状況に適した方法でM&Aを行うことが大切です。

本記事では、M&Aを行うことによりどのような目的が達成できるかについて詳しく解説します。売り手と買い手の双方の視点から、各M&A手法がどのような目的達成に適しているかについても解説するので、ぜひ参考にしてください。

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M&Aの主な目的

M&Aの目的は、企業の経営状況や課題、経営戦略によって様々です。ここではまず、企業がM&Aを選択する主な目的について解説していきます。

1.事業承継

帝国データバンクが全国の全業種約27万社を対象に行った「全国企業『後継者不在率』動向調査(2022)」では、57.2%の企業が後継者がいないと回答しています。

それだけ多くの経営者が後継者問題を抱えていると言えますが、実は近年、後継者不足率は5年連続で下降傾向にあります。

そして、後継者不足率の減少に反比例する形でM&Aによる事業継承の件数が伸びているのです。

この調査結果が示すように、後継者不足に悩む企業が事業を存続し従業員の雇用を継続するために有効な手段として、M&Aを選択するケースが増えています。

依然として半数強の企業が後継者不足に直面しているという現状から、今後も事業承継を目的としたM&A件数は増加の一途を辿ることが予想されます。

参照元:帝国データバンク「全国企業「後継者不在率」動向調査(2022)

2.イグジット

スタートアップが起業資金の回収を図るイグジットの手段として、M&Aは長らく活用されてきました。特に近年は、M&Aにより事業売却で得た資金をもとに新事業を立ち上げる連続起業家が増えたことが、イグジットの手段としてM&Aが選ばれる理由となっています。

M&Aによるイグジット経験のある事業者は、ベンチャーキャピタルなどのファンドから高く評価されるため、その後の資金調達もスムーズに行えることもM&Aを選択するメリットの一つです。

3.経営戦略

もともとM&Aは、短期間での効率的な事業成長や新規事業への円滑な参入、市場におけるシェア拡大を目的とした経営戦略の一環として行われることが主流でした。

近年では、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大を経たポストコロナ社会において、テレワークの導入や消費者需要の変化など、企業の経営環境が大きく変わってきています。そのため、中核事業の強化や成長分野への経営資源配分といった、企業の競争力を高める目的でM&Aを選択する傾向が強まっています。

三菱UFJリサーチコンサルティングが実施した日本企業の今後のM&A戦略に関する調査では、ITサービスやAI、ビッグデータに代表されるテクノロジー分野の買収や東南アジア企業の買収に対して多くの企業が意欲を見せているという結果が明らかになっています。

この調査結果が示すように、グローバル市場における競争力強化を目指し、DX(デジタルトランスフォーメーション)を実現するためのM&Aや新規事業分野へ進出するためのM&Aが今後も活発化していくことが考えられます。

出典元:三菱UFJリサーチ&コンサルティング「2020年M&Aの実態調査 ポストコロナ時代を見据えたM&A戦略とは

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売り手側のM&Aの目的

M&Aは売り手と買い手双方の立場において、ポジティブな効果を生み出すことができる有効な手段です。ここからは、売り手側の視点に立って、M&Aを行う際の代表的な5つの目的について解説していきます。

1. 資金調達

売り手となる譲渡企業にとって、M&Aは効率良くキャッシュを獲得できる有効な手段です。事業や株式の売却によって得た資金は、これまでの投資回収や新規事業の立ち上げ資金に充てることができます。

投資資金の回収は企業にとって大きな課題であり、ビジネスモデルや事業内容によっては投資資金が回収できるまでに長い期間が必要となる場合もあります。また、新規事業の立ち上げや事業拡大を図りたいと思っていても、資金不足がネックとなって実現できないケースも珍しくはありません。

M&Aでは、売却する事業や企業の将来的な収益力も価値として評価し売却価格が算定されるため、売却する事業や企業の価値が高ければ、スピーディな増資が期待できます。

2.経営資源の継承

株式会社東京商工リサーチが実施した調査では、2022年度に後継者不在に起因した「後継者難」倒産の件数が409件となり、2018年の調査開始以降5年連続で増加を続け、当年度に過去最多を更新したと報じられています。

同調査によると、後継者難倒産の直接的な要因として最も多かったものが経営者の死亡や体調不良となっており、後継者不在に直面しながらも後継者育成や事業承継に着手する間もなく倒産に至るケースが多いという現状が見受けられます。

M&Aでは、それまで企業が培ってきた技術やノウハウ、設備を引き継ぎ、従業員の雇用も継続することができることから、現経営者が人材育成や事業承継などに手間や時間を割くことなく、新たな形で貴重な経営資源を次世代に継承することが可能となります。

出典元:株式会社東京商工リサーチ「2022年度「後継者難」倒産は409件 5年連続で増加、最多件数を更新

3.事業ポートフォリオの転換

不採算事業を抱える企業は、M&Aによって事業を売却することで、限られた経営資源を収益性・将来性の高い事業に集中投入することが可能となります。少子高齢化に伴う人口の減少という背景から、多くの企業はグローバル市場における競争力を高めることが喫緊の課題となっています。

そのため、選択と集中を行う必要性に迫られている企業にとっては、事業再編によるポートフォリオの転換を目的としたM&Aは効果的な選択肢となるのです。

4.創業者利益の確定

譲渡企業の創業者は、M&Aによって十分な売却益を享受することができます。

創業者が高齢の場合、獲得した資金は引退後の生活費として使用されるケースが多く、若い創業者の場合は、売却益を活用して新たな会社を起業するなど連続起業家として活躍するケースも見られます。

5.経営者保証の解除

M&Aを行うことによって、経営者が負っていた個人保証や担保は譲受企業に引き継がれるため、経営者は保証や担保の責任から解放されます。

それにより経営者は、精神的にも身軽な気持ちで、売却益をもとに穏やかな生活を送ることも、新たなチャレンジ資金として活用することもできるのです。

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買い手側のM&Aの目的

企業や事業を譲り受ける買い手側の企業も、さまざまな目的のためにM&Aを行います。

ここからは買い手側の視点に立って、M&Aを行う際の代表的な5つの目的について解説していきます。

1.技術・ノウハウの獲得

M&Aによって譲渡企業が持つ技術やノウハウに加え、許認可や権利などの知的財産を移転することができるため、それらの資源を効率的に事業成長や経営に活用することができます。

自社のみで新しい技術の獲得を図ろうとした場合、人材育成や研究・開発などに対し相当な時間と労力を費やす必要があります。

しかし、すでに高い技術やノウハウ、知的財産などの資産を保有している企業とM&Aを実施することにより、技術獲得にかかるコストを大幅に削減することが可能となります。

2.人材の獲得

M&Aでは、譲渡企業に在籍している人材をそのまま継続雇用することが可能であるため、高い専門性や豊富な経験を持っている人材を効率的に確保することができます。

人口減少を続ける昨今において優秀な人材の確保は重大な経営課題の1つとなっているため、M&Aにより戦力となる人材が一定数確保できることのメリットはとても大きいといえます。

新しい人材が加わることで、既存の体制に新たな視点やノウハウが活用され、業務効率が向上したり、展開している商品やサービスの品質が向上したりするといったシナジー効果も期待できるでしょう。

3.事業成長の加速化

特定の事業領域において存在感を発揮している企業とM&Aを実施することで、譲受企業は譲渡企業の成長基盤をそのまま引き継ぐことができます。そして受け継いだ経営資源を活用することで、スピーディに事業成長を図ることが可能となります。

また、新規事業への参入を目的としたM&Aにおいても、当該領域におけるノウハウや販路、取引先などを保有する企業の買収は有効な手段です。譲渡企業の持つ資源を受け継ぐことで、参入コストを抑えながらも新領域において素早く事業を展開していくことが可能となります。

4.シェア拡大

海外企業や競合企業とのM&Aは、市場シェア拡大を目指す企業にとって高い効果が期待できる経営戦略です。

人口減少により市場縮小が進む日本において、多くの企業が積極的に海外市場への参入やプレゼンス向上を目指している中、ターゲット市場で高いシェアを誇る現地企業や海外企業を買収することで、スムーズな市場参入が可能となります。

また競合他社を買収することで、両者が持つ顧客やネットワークを活用してシェアを拡大していくことができるでしょう。

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スキームごとのM&Aの目的

M&Aには、企業や事業の売買を行う理由や目的によって、それぞれ適した取引方法があります。

M&Aの手法を表す際、広義のM&Aと狭義のM&Aという2つの考え方があり、狭義のM&Aにおける手法は主に以下の9つです。

買収1.株式譲渡譲受企業が譲渡企業の株式を買い取り、経営権を取得する
2.株式交換譲受企業が譲渡企業の全株式を買い取り、完全子会社化する。対価は親会社の株式で支払う
3.株式移転親会社を新設し、保有する全株式を親会社に移転し、完全子会社化する
4.第三者割当増資譲渡企業が新株を発行し、譲受企業がそれを買い取る
5.事業譲渡譲渡企業が持つ事業の一部、または全部を譲受企業が買い取る
合併6.新設合併新設した譲受企業が存続会社となり、譲渡企業と統合する
7.吸収合併既存の譲受企業が存続会社となり、譲渡企業と統合する
分割8.新設分割新設した譲受企業が譲渡企業の事業を引き継ぐ
9.吸収分割既存の譲受企業が譲渡企業の事業を引き継ぐ

ここからは各手法ごとに、売り手と買い手双方にとってどのような目的達成に適した手法であるかについて解説していきます。

1.株式譲渡

株式譲渡は、譲渡企業の株式を譲受企業に譲渡することで譲受企業が譲渡企業の経営権を取得し、譲渡企業は対価として現預金を受け取るというM&A手法です。

売り手の目的

株式譲渡は、譲渡企業が経営資源を継承したい場合に適したM&A手法です。

株式譲渡によって譲受企業が取得するものは経営権のみとなるため、株式譲渡を行った後も譲渡企業は自社の法人格をそのまま残すことができます。

譲渡企業の従業員や取引先との契約はそのまま引き継ぐことができるため、社内への影響が比較的少ない状態でM&Aを実施することが可能です。

買い手の目的

株式譲渡は、譲受企業が優秀な人材や技術・ノウハウを効率的に獲得したい場合に適したM&A手法です。

株式譲渡を行っても、譲渡企業が従業員と結んでいる雇用契約や取引先との契約、事業に関連する各種許認可などに対しては影響は及ばず、再契約や再取得などの手続き不要でそのまま残すことができます。

譲受企業は譲渡企業の経営資源をそのまま残した状態で経営権を行使することができるため、優秀な人材や技術・ノウハウを効率的に活用することが可能となります。

2.株式交換

株式交換は、譲受企業が譲渡企業の全株式を取得し、譲渡企業を子会社化するM&A手法です。

株式交換はグループ企業の形成や再編で用いられる手法で、譲渡企業は全株式を譲渡した対価として譲受企業の株式を受け取ります。

売り手の目的

株式交換は、譲渡企業の創業者がリタイア後の生活費や新事業立ち上げのための資金を獲得したい場合に適したM&A手法です。

譲受企業の株式が株式交換の対価として交付されることで、創業者は譲受企業から配当金を受け取る権利を獲得します。

加えて株式交換契約の締結時に定めたタイミングで、受け取った譲受企業の株式を換金することも可能であるため、株式交換後に譲受企業の株価が上昇していればキャピタルゲインを得ることも可能です。

買い手の目的

株式交換は、譲受企業がスピーディな事業成長を望む場合に適したM&A手法です。

株式取得の対価として自社株式を交付する株式交換では、譲受企業は買収のための現金を準備する必要がないため、資金調達に手間と時間を割くことなく譲渡企業を速やかに子会社化することができます。

そして譲受企業は、譲渡企業の経営資源を速やかに事業に活用することで、人材育成や市場開拓などにかかるコストの削減とスピーディーな事業成長の両方を実現することが可能となります。

3.株式移転

株式移転は、新設会社を譲受企業として譲渡企業の全株式を取得することで、譲渡企業を完全子会社化するM&A手法です。

売り手の目的

株式移転は、譲渡企業が自社の企業文化や制度など独自性を維持した状態での経営統合を望む場合に適したM&A手法です。

株式移転では、譲渡企業は譲受企業の完全子会社という位置付けにはなるものの、譲渡企業は自社の法人格や独自性を維持することが可能です。

株式交換よりも、譲受企業と比較的対等な関係を築くことができるため、M&Aによって社内制度や風土が急変することに対する従業員や経営層の抵抗を軽減した状態でゆるやかに経営統合を実現することができます。

買い手の目的

株式移転は、譲受企業が効率的に人材や技術を獲得し、事業の成長・拡大を速やかに進めたい場合に適したM&A手法です。

株式移転では、子会社となる譲渡企業の文化や社風を維持した状態で経営統合を進めることができるため、譲渡企業側のM&Aに対する抵抗感や反発を軽減し、シナジー効果を生み出しやすい環境を整えることができます。

加えて株式移転において対価は株式で支払われることから、買収資金の調達も不要となる点も、スピード感を持って事業を成長させていきたい企業には大きなメリットと言えます。

4.第三者割当増資

第三者割当増資は、既存の株主以外の特定の第三者に対して新株を発行することで資金調達を行う手法です。

売り手の目的

第三者割当増資は、譲渡企業が財務基盤強化や経営再建を望む場合に適したM&A手法です。第三者割当増資の最大のメリットは、比較的シンプルな手続きで会社に資金を投入することができるという点にあります。

株式譲渡のように株主間で株式のやり取りが行われるのではないため、新株を発行した企業に直接売却金が入ってきます。そのため、売り手側の企業は獲得した資金を活用して、速やかに財務状況の改善や事業再編を進めることができるのです。

買い手の目的

第三者割当増資は、譲受企業が譲渡企業と協力して事業成長や経営基盤の強化を図りたい場合に適したM&A手法です。第三者割当増資により譲渡企業の新株を一定数以上引き受けた場合、譲受企業は譲渡企業の経営権を獲得することになるため、譲渡企業の経営や事業に対する影響力を高めることができます。

加えて、譲受企業は増資により譲渡企業と資本関係となっていることから、株式譲渡よりも互いに強固な関係性の構築が期待できるため、シナジー効果によって譲受企業が展開する事業の成長・拡大を加速化させることも可能です。

5.事業譲渡

事業譲渡は、譲渡企業が展開する事業の一部または全部を譲受企業に譲渡するM&A手法です。

売り手の目的

事業譲渡は、譲渡企業が不採算事業を手放し、事業ポートフォリオの転換を図りたい場合に適したM&A手法です。

事業譲渡は、会社を丸ごと売却する手法とは違い、事業単位で売却する手法であるため、譲渡企業が売却したい企業だけを他者へ譲渡することが可能です。

不採算事業を抱えている場合や中核事業の成長のために資金投入を強化したい場合など、事業譲渡を行うことで収益性の低い事業を切り離し、その売却益を中核事業への投資へと活用することができます。

買い手の目的

事業譲渡は、譲受企業が負債や債務などの財務上のリスクを引き継ぐことなく、自社事業に有益な経営資源を獲得したい場合に適したM&A手法です。

株式交換や株式譲渡のように会社全体を包括的に引き継ぐ場合、譲渡企業が抱える負債や債務も全て譲受企業が引き継ぐことになります。

しかし事業譲渡では、譲受企業が欲しい事業だけを単体で買収することができるため、買収事業にかかる有益な技術やノウハウ、人材だけの獲得が可能です。

財務上のリスクを侵すことなく必要な経営資源だけをピンポイントで得ることができる事業譲渡を用いることで、M&Aによる譲受企業側のリスクを大幅に軽減しながら事業成長の加速化が期待できます。

6.新設合併

新設合併は、新設した会社に2社以上の企業の資産や権利義務などを全て引き継がせるM&Aにおける企業合併の1つの手法です。

売り手の目的

新設合併では、自社の経営資源を維持しながら対等な関係性でM&Aを実施したい場合に適したM&A手法です。

新設合併が他のM&A手法と大きく異なる特徴として、M&Aを実施する当時会社が全て消滅することにあります。そのため、新設合併を行う企業はそれぞれが雇用している従業員をはじめとする経営資源をそのまま新設会社に引き継ぐことができます。

加えて新設合併は、新設会社に全て吸収され、各当事会社は法人格ごと消滅するため、当事会社同士が対等な関係を築くことが可能です。当事会社間で「吸収した側」「吸収された側」という意識の差は、その後の円滑な経営統合やシナジー効果の発揮を妨げる要因となる可能性があるため、当事会社同士が「対等な立場でM&Aを実施した」と感じられることによる効果はとても大きいといえます。

新設会社においてそれぞれが意欲的に会社の成長に取り組めるムードが生まれやすいという点において、新設合併は有効なM&A手法です。

買い手の目的

新設合併では、当事会社全てが新設会社に吸収され消滅するため、企業の「買い手」となる存在が生まれません。

そのため新設合併は、対等な関係でのM&Aを希望する企業に適した手法であると言えます。

7.吸収合併

吸収合併は、複数の企業の中で1つの企業の法人格のみを残し、その存続企業にその他の企業の資産や権利義務などを全て引き継がせるという、M&Aにおける企業合併の1つの手法です。

売り手の目的

吸収合併は、売り手企業となる消滅会社が自社の経営資源を活かしながら、事業の安定的成長を望む場合に適したM&A手法です。

吸収合併では、消滅会社の持つ資産や権利義務などを包括的に存続会社が吸収するため、従業員の雇用契約もそのまま引き継がれます。

また事業に関わる許認可なども再取得の必要なく、そのまま存続会社が活用することになるので、これまで培ってきた経営資源を無駄にすることなく、存続会社に託すことが可能です。

加えて、吸収合併において存続会社となる企業は、資本力のある大規模な企業であることが多いことから、消滅会社にとっては吸収されることで結果的に事業の安定的な成長を望めるというメリットも期待できます。

買い手の目的

吸収合併は、買い手企業となる存続会社がスピード感を重視して効率的に事業成長やシェア拡大を図りたい場合に適したM&A手法です。

存続会社は、消滅企業の経営資源を包括的に引き継ぐことで、新たな顧客や取引先・販路などを獲得することができ、効率的に市場シェア拡大を図ることが可能です。

また吸収合併では、消滅会社に対する対価を株式に設定することができるため、M&Aのための資金調達は不要となります。加えて、消滅会社が取得していた許認可や免許などもそのまま引き継ぐことができるため、再取得・再申請の手間も省くことができ、事業成長やシェアの拡大に集中して注力することができます。

8.新設分割

新設分割は、企業が展開する事業の一部または全てを新設する企業に承継させるという、M&Aにおける会社分割の1つの手法です。

売り手の目的

新設分割では、分割会社が切り出す事業を包括的に新設会社に承継することができるため、事業の引き継ぎをスピーディに行いたい場合に効果的なM&A手法です。

事業譲渡では、当該事業に関連する契約や許認可をまとめて引き継ぐことができないため、譲受企業は取引先と契約を結び直したり、事業に必要な許認可を再申請する必要があります。

その点新設分割では包括承継となるため、分割会社からの移転に時間とコストをかける必要がなく、速やかに経営資源の移転を完了することができます。

買い手の目的

新設分割は、分割会社が事業を切り離すことで事業ポートフォリオの転換を図りたい場合に効果的なM&A手法です。

ちなみに新設分割では、事業を新設会社に分割・移転した分割会社が対価として新設会社の株式を取得するため、分割会社が新設会社の親会社という関係になります。

新設分割の魅力の1つとして、切り離した特定事業だけで子会社を作ったり、複数の企業が関連する事業を切り出して1社にまとめたりと、柔軟性の高いM&Aが実現しやすい手法であるという点が挙げられます。

例えば、中核事業を切り離して子会社化することで収益拡大を図り、その対価として取得した新設会社の株式の売却益で、分割会社の企業再生を図るといった形でも新設分割の手法は有効です。

このように新設分割では、必要な経営資源を必要な分だけ調達し必要箇所に投入することで、効率的な事業成長と経営のスリム化をバランスよく進めることが可能となります。

9.吸収分割

吸収分割は、企業が展開する事業の一部または全てを既存の別企業に承継させるという、M&Aにおける会社分割の1つの手法です。

売り手の目的

吸収分割は、分割企業が不採算事業や成長が見込めない事業を整理して資金調達を行いたい場合に適したM&A手法です。

事業の多角展開により、組織が複雑化し、意思決定スピードが遅くなっている場合、吸収分割によって事業を整理し、組織を再編することで経営のスリム化を図ることができます。

加えて収益性の低い事業が経営を圧迫している場合も、吸収分割の対価を現金にすることで、経営改善や財務基盤の強化のために資金を投入することも可能となります。

買い手の目的

吸収分割は、分割事業を引き継ぐ承継会社がコストを抑えながら新規事業の成長を加速化させたい場合に適したM&A手法です。

吸収分割では事業にかかる従業員との雇用契約や取引先との契約、各種許認可などを包括的に分割会社から承継することができるため、人材やノウハウが蓄積されていない状態であっても新規事業へスムーズに参入し成長を加速化させることが可能です。

分割事業が持つ経営資源を比較的シンプルな手続きで引き継ぐことができるため、承継会社の中で様々なシナジー効果が生まれることが期待できます。

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まとめ

M&Aは、売り手となる企業と買い手となる企業の双方にとってさまざまなメリットをもたらすことが期待できる経営戦略における選択肢の1つです。企業経営者がどのような課題を抱え、将来的にどのようなビジョンを描いているかによって、M&Aを選択する目的も適した手法も異なってきます。

M&Aの実施にあたっては、当事会社の業種・業態や事業内容、経営状況など、多岐にわたる要素を複合的に勘案して当事会社に適した手法が決まるため、まずはM&Aのプロフェッショナルに相談してみることをおすすめします。

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