このページのまとめ
- 事業承継の現状は、経営者の高齢化や倒産件数の増加などで厳しい状況
- 事業承継が進まない理由は金銭面の問題や後継者不足
- 事業承継の課題は後継者の育成・選定問題、個人保証の引継ぎなど
- 親族内承継や親族外承継などがあるが、M&Aを使った事業承継が増えている
後継者不在の状況にお悩みの経営者の中には、事業承継の課題や方法について知りたいと考えている方もいるでしょう。事業承継の課題ややり方を知ることによってスムーズに事業承継を行うことができます。
本コラムでは、事業承継の現状や課題、事業承継のやり方などを解説します。事業承継M&Aのメリットやデメリットについてもご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
目次
事業承継の現状
事業承継について現状を表す特徴は下記の3点です。
- 事業経営者の高齢化
- 休廃業や解散する企業の増加
- 親族外承継の増加
それぞれ詳しく解説します。
事業経営者の高齢化
近年、事業経営者の高齢化が進んでいます。帝国データバンクが行った「全国「社長年齢」分析調査」によると、2021年の社長の平均年齢は60.3歳です。1990年に調査を開始して以降、31年連続で過去最高を更新しています。60代以上の割合も高く、60代が26.9%、70代が20.2%となっています。
社長の平均年齢の上昇は、事業承継や世代交代が進んでいないことを表しており、後継者の育成や選定の時間を考慮すると、経営者の高齢化は事業承継の喫緊の課題です。後継者不足も顕著で日本経済を支える中小企業の事業承継は、今後さらに深刻になってくるかもしれません。
休廃業や解散する企業の増加
休廃業・解散件数の増加も大きな課題です。帝国データバンクの「全国企業「休廃業・解散」動向調査(2021年)」によれば、2021年における廃業や休業の数は5万4709件とコロナ禍の影響を強く受けた2020年より減少したものの「あきらめ休廃業(資産超過状態での休廃業・解散)」の割合は増加しています。
休廃業・解散を行った企業の代表者年齢は、2021年平均で70.3歳となり、初めて70歳を超えました。経営者のボリュームゾーンである、50代・60代の休廃業・解散の割合は減っていることから、事業承継がうまく進まず、代表の高齢化が進むことで、休廃業・解散を余儀なくされている状況が伺えます。
親族外承継の増加
事業承継と聞くと、子どもや孫など親族に承継をするケースが多いと思われる方も多いかもしれませんが、近年は従業員や社外の第三者といった親族外への承継の割合が年々増加しています。
帝国データバンクの「全国企業「後継者不在率」動向調査(2022年)」によると2021年には31.4%だった内部昇格が、2022年には33.9%と2.5%増加しています。また、買収や出向を中心にしたM&Aなどの割合は20.3%を占めており、調査依頼初の20%超えとなりました。
過去の主流だった親族内承継は減少傾向にあり、従業員などに引き継ぐ親族外承継が増加しているのも、現在の事業承継の特徴といえるでしょう。
参照元:
帝国データバンク「全国「社長年齢」分析調査」「全国企業「休廃業・解散」動向調査(2021年)」「全国企業「後継者不在率」動向調査(2022年)」
事業承継が進まない理由
事業承継が進まない理由はいくつかありますが、主な理由は2つです。
- 金銭面の問題
- 後継者の不在・育成の問題
それぞれの理由について説明します。
金銭面の問題
株式買取や納税の資金不足は事業承継が進まない主な理由の1つです。
高額な株価や株式の分散リスク
承継者が事業を引き継ぐために必要な株式を購入するためには、高額な費用がかかる場合があります。特に、有望な企業や家族経営の中小企業では、株価が高騰していることが多く、承継者にとって負担が大きくなり、株式の買取ができないといった事情があるのです。
また、株式の分散リスクも事業承継が進まない理由になります。中小企業は、創業者や初期の経営者や家族が株式を保有しているケースが多いです。
しかし、株主の世代交代や相続によって、株式の所有権が分散してしまうことがあります。
承継者が必要な株式を確保するためには、複数の株主との交渉や分散した株式を個別に買い取る必要が生じます。そのため時間や手間、資金的な負担がかかるのです。
納税の資金不足
納税の資金不足も事業承継が進まない理由です。事業を承継する場合、相続税や贈与税が発生する可能性があります。
これらの税金は、事業の評価額に基づいて課税されるため、事業の価値が高いほど高額な税金が必要です。特に、土地や建物などの不動産資産が含まれる場合は、その評価額によっては莫大な税金がかかることがあります。
承継者が納税資金を確保するためには、銀行などからの資金調達を検討するでしょう。しかし、中小企業は金融機関からの融資を受けることが難しい場合があります。
銀行などの金融機関は、承継者の信用力や事業計画の評価に基づいて融資を判断するため、十分な担保や実績がない場合には融資を受けることが難しいからです。
これらの金銭面の問題が事業承継の障害となり、承継者が事業を引き継ぐことを躊躇する要因となることがあります。
事業承継を円滑に行うための解決策のひとつとして贈与税や相続税の納税を猶予する事業承継税制もありますが、事業承継の円滑化を図るためには、金銭面の問題を解決する必要があるでしょう。
後継者の不在・育成の問題
日本政策金融公庫総合研究所の「「中小企業の事業承継に関するインターネット調査」(2016年2月)」によると、廃業予定の中小企業のうち約29%が後継者の不在(後継者難による廃業)を理由にしています。
適切な後継者候補が存在しない場合、事業の継続が困難です。これは、経営者の家族に子供がおらず、または子供たちが事業を継ぐ意欲や能力を持っていない場合などが考えられます。後継者の不在は、事業の継続と経営の安定性に大きな影響を及ぼす要因となるでしょう。
また、後継者がいる場合でも、経営者として必要なスキルや知識、経験が不足していることがあります。
経営者としての役割や責任を理解し、事業を適切に引き継ぐためには、専門的なトレーニングや教育が必要です。しかし、後継者の育成が怠られていたり、経営者からの適切な指導や知識の伝承が行われていない場合には、承継の準備が進まないことがあります。
これらの後継者の不在や育成の問題は、事業の持続性や継続的な成長を妨げる可能性があります。
参照元:日本政策金融公庫総合研究所「「中小企業の事業承継に関するインターネット調査」(2016年2月)」
事業承継を進める上での課題
事業承継を進める上での課題はたくさんありますが、主な課題は3つです。
- 後継者の育成・選定問題
- 個人保証の引継ぎ
- 雇用の維持・従業員への配慮
事業承継を進めるうえでの課題を理解していきましょう。
後継者の育成・選定
事業承継を進める上での課題として、後継者の育成と選定に関する問題があります。
後継者の育成
後継者の育成は、組織や企業の継続性を確保するために非常に重要です。以下に、後継者の育成方法の具体例を紹介します。
後継者の育成は、将来のリーダーシップのポテンシャルを持つ人材を早期に特定し、その能力を評価することから始まります。経験、スキル、リーダーシップの資質、学習能力などを総合的に評価し、後継者候補を見つける必要があるのです。
また、各後継者候補に対して、個別の開発計画を策定します。これには、必要なスキルや知識の特定、経験の積み重ね、トレーニングや教育プログラムの参加などが含まれます。後継者候補の強みや成長の機会を最大限に活用するために、個別のニーズに応じた計画を作成するのが良いでしょう。
後継者候補には、経験豊富なリーダーや管理職からのメンタリングやコーチングも必要です。メンターは、個別のガイダンスやフィードバックを提供し、後継者候補の成長と発展を支援します。メンタリングとコーチングは、リーダーシップのスキルやビジネスの洞察力を磨くのに役立ちます。
後継者の選定
後継者の選定においては客観的な視点や公正な評価が重要ですが、経営者自身がバイアスを持っていたり、自身の意向や固執によって適切な後継者を選ばない場合も少なくありません。
これによって、経営者自身の興味や家族の関与が重視され、能力や適性に基づいた選定が行われない可能性があります。
後継者選定の際に、経営者自身の期待や要求に応える能力だけを重視してしまうと、事業の継続や成長に必要な資質が後継者に不足している場合があるので注意が必要です。
このように、後継者の育成と選定には時間がかかる可能性があります。事業承継を考え始めたら、なるべく早期に行動するべきです。
個人保証の引継ぎ
事業承継を進める上での課題の一つとして、個人保証の引継ぎがあります。
個人保証は、経営者が事業に関連する債務や負債に対して個人的な責任を負うものです。経営者が個人保証を行っている場合、その保証責任は事業の承継後も引き継がれる可能性があります。
中小企業庁が発表している経営者保証ガイドラインによって個人保証なしでの資金調達方法を金融機関に求める対策を行っていますが、まだまだ個人保証を求める金融機関は多いのが実状です。
後継者にとっては、経営者が引き継ぐ前の債務や負債に対して責任を負わなければならないことは大きな問題でしょう。
個人保証が存在する場合、後継者は銀行や金融機関との交渉を行う必要があります。債権者は、事業承継後も安定した返済がなされることを求めるでしょう。後継者が個人保証の引継ぎをする際には、債権者との合意を形成し、リスクを最小限に抑えることが重要です。
雇用の維持・従業員への配慮
事業承継を進める上での課題の一つに、雇用の維持と従業員への配慮があります。事業承継による経営権の移行や組織の変化は、従業員にとって不安定な状況をもたらす場合があるでしょう。
後継者が経営方針や人員配置の見直しを行う際には、雇用の不安が生じる可能性があります。従業員は自身の雇用の安定性や将来のキャリアについての懸念を抱くことがあるでしょう。
従業員への適切なコミュニケーションや情報提供が不足する場合、事業承継のプロセスにおいて不透明さや不信感が生じる可能性があります。
不確実性や情報の不足は、従業員のモチベーションや忠誠心の低下につながる可能性があるので注意が必要です。
事業承継による組織変更や新しい経営方針の導入は、一部の従業員にとっては適応困難な状況を生み出すことがあります。
この結果、優れた人材の流出や雇用環境の変化によるスキルの不足が発生する可能性があるので、後継者は従業員のスキルや能力を評価し、必要なトレーニングやサポートを提供する必要があるのです。
このように経営方針や待遇の変化に不満を抱く従業員が出てくる可能性もあるので、従業員への告知や配慮が必要になります。
事業承継の後継者選びのポイント
事業承継を行うにあたって、後継者選びは非常に重要なポイントです。後継者選びのポイントはたくさんありますが、押さえておくべき2つのポイントについて説明をします。
- 従業員について理解が深いか
- 経営に関わるスキルがあるか
後継者選びのポイントについて説明します。
従業員について理解が深いか
従業員に関して理解を深めれば、経営者になってからのコミュニケーションもスムーズになります。
特に、M&Aを行って事業承継を行う場合、売り手の会社の従業員は、不安な気持ちになっているケースが多いです。売り手の会社の従業員に関しては、特にきめ細かいフォローをすべきでしょう。
従業員についての理解がないと、従業員の求心力が薄れ、会社経営を成功させるのは難しくなります。
経営に関わるスキルがあるか
経営者である以上、経営に関わるスキルは重要です。財務・会計、事業・業界などに関する経営能力は必須条件になります。
自社の状況や外部環境を理解し、競争に立ち向かうために目指すべき姿とのギャップをどう埋めるかを経営戦略に落とし込めるだけの幅広い経営スキルが必要です。
もちろん、財務や会計に優れていても、従業員を率いる人間性も重要になります。さまざまな経験を積んでリーダーとしてふさわしい人格を身に付けておく必要があるのです。
事業承継の方法
事業承継の方法は、事業承継する相手方の違いによって3つに分かれます。
- 親族内承継
- 親族外承継
- M&A
それぞれの方法について説明します。
親族内承継
事業承継の親族内承継とは、企業の経営権や所有権が、家族や親族の間で相続や贈与の形で引き継がれることを指します。この承継形態は、多くの中小企業や家族経営の企業で見られますが近年減少傾向にあります。
親族内承継は、家族の伝統や価値を企業に引き継ぐことを重視します。家族経営の企業はしばしば家族の歴史や信念に基づいており、親族内承継はこの連続性を保つ手段となります。
親族内承継は、企業の経営の継続性を高めることが可能です。家族や親族は、長期的なビジョンを持って企業を運営することができ、事業の安定性と成長を追求する傾向があります。
また、親族内承継では、経営者からのノウハウやビジネスネットワークの継承が比較的スムーズに行われるのも特徴です。家族内での承継のため、情報やネットワークの共有が容易であり、これらの資産を次世代に引き継ぐことができます。
親族外承継
事業承継の親族外承継とは、企業の経営権や所有権が、家族や親族以外の者に引き継がれることを指します。親族外承継は、家族経営の企業で経営者の後継者がいない場合や、企業の成長や専門知識の獲得を目指す場合に選択されることがあり、近年の増加傾向です。
親族外承継では、経営者の後継者として家族や親族以外の者が選ばれます。経営者は、経営能力や専門知識、経験などを重視して、最適な候補者を選定します。これにより、経営者の能力やビジネスノウハウを持った後継者が企業の指揮を引き継ぐことが可能です。
親族外承継では主に社内の役員や従業員に承継する場合と社外の人材に承継する方法があります。社内の役員や従業員に承継する場合は、業務内容に精通しているためスムーズな承継が期待できるでしょう。
一方、外部の人材が経営に参画する場合は、新たな視点や経営スキルをもたらすことができます。経営者の外部選定により、企業において革新的なアイデアや戦略の導入が可能となり、競争力の強化や成長の促進が期待できるでしょう。
親族外承継によって、経営者とともに専門知識や豊富なビジネスネットワークが企業にもたらされることがあります。外部の経営者は、自身の専門分野や業界のつながりを活かして、企業の成長や国際展開などを推進することができるでしょう。
最後に親族外承継は、企業のプロフェッショナルな組織化を促進する効果も持っています。外部の経営者の導入により、企業の経営プロセスや組織文化がより効率的かつプロフェッショナルになることが期待できます。
M&Aによる事業承継
M&Aによる事業承継は、既存の企業が別の企業を買収または合併することによって、経営権や所有権を引き継ぐ方法です。M&Aは、事業承継を迅速かつ効果的に実現する手段として利用されることがあります。
M&Aによる事業承継は、企業の成長戦略や市場進出戦略の一環として行われることがあります。買収や合併によって、既存の事業を拡大し、新たな市場に参入したり、競合他社を排除したりすることが可能です。
また、M&Aによる事業承継は、買収または合併対象企業が持つ人材、技術、ノウハウなどの資産を獲得する機会を提供します。これにより、経営者や従業員の知識と経験を活用したり、新たな技術や製品を取り入れたりすることができます。
M&Aによる事業承継は、企業の価値向上を目指す手段としても利用されます。買収や合併によって、市場シェアの拡大や競争力の向上、シナジー効果の創出などが期待され、企業価値の向上に寄与することがあるでしょう。
事業承継の課題解決に関する相談先
事業承継の課題解決に関する主な相談先は3つです。
- 事業承継・引継ぎ支援センター
- M&Aや事業承継等に詳しい専門家
それぞれに相談するメリットについて説明をしますので、参考にしてください。
事業承継・引継ぎ支援センター
事業承継・引継ぎ支援センターは国が運営する組織で、事業承継や引継ぎに関する情報を提供します。
例えば、法律や税務の手続き、経営計画の作成方法、事例やノウハウなどの情報を提供し、事業承継に関する理解を深めることが可能です。
事業承継・引継ぎ支援センターは、事業承継診断に基づく支援ニーズの掘り起こしや、事業承継計画の策定、M&Aのマッチング等の支援をワンストップで提供しています。事業承継に関する相談や質問を無料で受け付け、専門家が対応する窓口を設けています。
経験豊富な専門スタッフが相談者の疑問や問題に対してアドバイスを提供し、適切な解決策を見つけるサポートを行ってくれるのが特徴です。
M&Aや事業承継などに詳しい専門家
M&Aや事業承継などに詳しい専門家に相談するのも良いでしょう。税理士や公認会計士等の専門家はもちろん、M&A仲介会社や銀行などの金融機関でも相談ができます。さまざまなノウハウがあるため、スムーズにM&Aや事業承継を進めることができるでしょう。
事業承継をM&Aで行うという選択肢
近年、事業承継をM&Aで行うという選択肢が増えています。事業承継をM&Aで行うメリットやデメリットについて説明をしますので、参考にしてください。
M&Aのメリット
事業承継をM&Aで行う主なメリットをまとめました。
- 後継者がいなくても、事業承継ができる
- 創業者に大きな利益がもたらされる可能性がある
事業承継をM&Aで行うメリットは、後継者がいなくても事業承継ができることです。買い手企業を見つけることによってスムーズに事業承継が行えるのは大きなメリットになるでしょう。
また株式を持っている創業者に大きな利益がもたらされる可能性があります。株式を買い取ってもらった資金で悠々自適に暮らせる可能性があるのもメリットでしょう。
M&Aのデメリット
事業承継をM&Aで行う主なデメリットは以下の通りです。
- 良い相手が見つかるとは限らない
- M&Aが成立するまでに時間がかかる場合がある
M&Aを通じて事業承継を行おうと思っても、良い相手が見つかるとは限りません。希望の相手が見つからず、事業を譲渡できない場合もあるでしょう。また、買い手との条件面での交渉なども必要なため、M&Aが成立するまでに時間がかかる場合もあります。
まとめ
中小企業にとって事業承継は大きな課題になっています。中小企業の倒産が増え、経営者の年齢が高くなっている今、事業承継が喫緊の課題である企業は多いのではないでしょうか。
事業承継が進まない主な理由は、株式を買い取る資金が後継者にないなどの金銭面の問題と、そもそも後継者がいない問題があります。
また、事業承継を進める上での課題は、後継者の育成や個人保証の問題、雇用の維持や従業員への配慮などがあるでしょう。
最近では事業承継の方法として、伝統的な親族内承継以外にM&Aを選択肢として検討する企業が増えています。
M&Aを使った承継のメリットは、後継者がいなくても、事業承継ができることや、シナジー効果が得られる可能性があることなどです。
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