石川県のM&Aの動向や特徴は?M&A事例も紹介
2023年10月4日
このページのまとめ
- 「ものづくり王国」として知られる石川県は製造業が盛んである
- 後継者や労働者不足による産業空洞化が進みM&Aのチャンス
- 石川県七尾市のように県内企業の買収を促進する動きがある
- 石川県のM&A件数は増加傾向にある
- 石川県の企業による全国の企業の買収が活発に行われている
石川県は、繊維工業や電子部品などの製造業が発展している点が特徴です。しかし、少子化の影響や産業の衰退が危惧されています。そのため、石川県の企業を買収したい企業にとってはチャンスであり、M&Aが活発に実施されています。また、石川県の企業が他県の企業を買収する事例も少なくありません。本稿では、石川県に焦点を当て、M&Aの動向や特徴、実際の事例を解説します。
目次
製造業が盛んでM&Aが活発な石川県
石川県「石川県の産業を取り巻く状況・課題【基礎データ】」によると、石川県は2019年時点の県内GDPの23.2%を製造業が占める「ものづくり王国」です。なかでも伝統的な繊維製品や生産用機械の製造が盛んですが、最近では電子部品などIT関連の産業が発展しています。
建設機械メーカーの小松製作所(コマツ)に代表されるように、石川県は世界中で利用される機械や製品製造の一役を担っています。
2005年に県が制定した「石川県産業革新戦略」にある通り、自治体が手動となって戦略的企業誘致を進めており、日本海側でも有数の工業集積地域として発展を続けてきました。
例えば、事業構想PROJECT DESIGN ONLINE「石川から世界へ、炭素繊維で次世代産業を創る」にあるように、産官学の連携による炭素繊維複合材料を用いた次世代産業の研究開発に代表される東レやコマツ産機、大和ハウス工業など、日本経済のエンジンとなる企業が多数存在します。
また、金庫室用大型扉、回転寿司コンベア機など特定の分野で世界トップシェアを誇る「グローバルニッチトップ」として知られる企業も多数あります。
経済産業省が発表した「2020年版グローバルニッチトップ企業100選」では、石川県から6社が選ばれ、全国で4位という結果でした。
※参照元:
石川県「石川県の産業を取り巻く状況・課題【基礎データ】」
石川県「石川県産業革新戦略」
事業構想PROJECT DESIGN ONLINE「石川から世界へ、炭素繊維で次世代産業を創る」
経済産業省「2020年版グローバルニッチトップ企業100選」
石川県のM&Aの動向
石川県「石川県の産業を取り巻く状況・課題 【基礎データ】」によると、事業承継先として近年同族承継が減少する中、「M&Aほか」の分類がゆるやかに増加しています。
過去にはリーマンショックや東日本大震災後にM&A件数が減少していますが、M&A市場は拡大傾向にあります。
M&A増加の要因はいくつかありますが、なかでも大きいのが経営者の高齢化に伴う後継者問題です。石川県のみならず、全国的に後継者問題に起因するM&Aは増加しています。
※参照元:石川県「石川県の産業を取り巻く状況・課題 【基礎データ】」P102
関連記事:地方でのM&A動向と特有の難しさ、後継者問題や事例を解説
石川県のM&Aが増加している理由
石川県でM&Aが増加している背景にはさまざまな要因があります。石川県ならではのM&Aの特徴を解説します。
産業空洞化によるM&Aの増加
「石川県の産業を取り巻く状況・課題【基礎データ】」によると、石川県では2000年をピークに人口が緩やかに減少しています。なかでも、石川県の産業の担い手である生産年齢人口の減少が顕著です。男女ともに20代前半の若者が大都市、特に東京へ転出しており、働き手の減少が石川県の企業の経営に影響を及ぼしています。また、若者の転出は企業の後継者選定を困難にする側面もあります。
経済産業省「中小企業・小規模事業者におけるM&Aの現状と課題」には、全国で2025年までに平均引退年齢である70歳を迎える中小企業経営者が約245万人にのぼる一方、約半数で後継者が見つかっていないとあります。若者の転出超過が慢性的に進む石川県でも、同様の傾向があると予想されるでしょう。
これらの現状から、後継者不足の解決策の1つとしてM&Aが推進されています。産業の空洞化による後継者不足に悩む石川県の企業にとっても、M&Aは魅力的な後継者選定の方法といえます。
※参照元:
石川県「石川県の産業を取り巻く状況・課題【基礎データ】」
経済産業省「中小企業・小規模事業者におけるM&Aの現状と課題」
深刻な後継者不在によるM&Aの増加
帝国データバンク「特別企画:2017 年 北陸 3 県後継者問題に関する企業の実態調査」では、調査対象である建設業・製造業・卸売業・小売業・運輸・通信業・サービス業・不動産業・その他業種の3246社のうち「後継者あり」が1609社、「後継者なし」が1637社となっており、後継者不在率は2017年時点で50.4%を記録しました。対象企業のうち半数以上の企業で後継者が未選定という深刻な事態です。
産業別の後継者不在率では、県内の中核産業である「製造業」で42.6%を記録しましたが、他の産業(建設業55.7%、卸売業54.9%、小売業51.0%、運輸・通信業46.5%、サービス業50.6%、不動産業60.8%)と比べると低い結果となりました。これは、石川県は製造業が盛んであり、技術承継に積極的な企業が多いためと予想されます。
後継者が選定されず、廃業を迎える可能性のある企業が約半数を占めるなか、後継者問題の解決手段としてM&Aが期待されています。
※参照元:帝国データバンク「特別企画:2017 年 北陸 3 県後継者問題に関する企業の実態調査」
個人によるM&Aが増加
多様な働き方や生き方が広がるなか、個人が中小零細企業を買収する事例が増えています。石川県には、個人によるM&Aに活路を見出し、後継者問題を解決するために独自の動きを見せる市町村もあります。
株式会社ビズリーチ「後継者不足により地方都市が存続の危機に ビズリーチ、石川県七尾市と事業承継プロジェクト」によると、石川県七尾市では民間業者と事業承継プロジェクトを立ち上げました。首都圏在住のビジネスパーソン向けに経営者募集イベントを開催するなど、プロジェクトを通して個人と地元企業を結びつける取り組みを行っています。
※参照元:
株式会社ビズリーチ「後継者不足により地方都市が存続の危機に ビズリーチ、石川県七尾市と事業承継プロジェクト」
石川県の企業が買い手となったM&A事例
石川県では買い手、売り手ともに県内企業、または買い手が県内企業のM&Aが多数を占めます。
石川県所在の企業が買い手となったM&Aの事例を紹介します。実際の事例を通じて、石川県のM&Aに対する理解を深めましょう。
たくみやホールディングスによるM&A
2018年に石川県小松市で菓子の製造卸を経営するたくみやホールディングス株式会社(たくみや)が、京都市で和菓子屋を経営する笹屋昌園を買収しました。
たくみやは、前年に石川県金沢市でハチミツ専門店を経営するみつばちの詩工房を買収しており、菓子業界で業容を拡大しています。
石川県は江戸時代に茶の湯が庶民に浸透し、特に金沢市は日本菓子三大処の一つとして知られています。たくみやには、国内の和菓子業界が衰退期にあるなかで中小の菓子業者を買収し、市場シェアの拡大を図りたい考えがあります。
売り手も、笹屋昌園のように生き残りを懸けて大手の提携先を求めています。市場縮小や原料費高騰が進行する状況においても、菓子業界ではM&Aが活発に行われると予想されます。
※参照元:日本政策投資銀行「日本投資ファンド第1号投資事業有限責任組合によるたくみやホールディングス(株)への資本参加について」
日成ビルド工業によるM&A
2018年に石川県金沢市でプレハブや宿泊施設、駐車場などを運営する日成ビルド工業株式会社が、栃木県宇都宮市で建設業や太陽光発電事業を運営するアーバン・スタッフ株式会社を買収しました。
日成ビルド工業は、もともと建設業を主力事業としていましたが、建設業は景況が国や自治体の予算に左右されるため不安定でした。そこで、駐車場や不動産などのいわゆるストック型ビジネスの拡大に注力してきました。
アーバン・スタッフは、30箇所を超える太陽光発電設備を保有しており、安定した収益基盤を持っています。今回のM&Aによって、日成ビルド工業はストック型ビジネスの拡大を図り、収益の安定化を進めたい考えです。
また、建設業におけるグループ商品、製品の幅を広げて提案力を強化するとともに、シナジー効果を発揮し、業容の拡大を図る狙いもあります。
※参照元:日経XTECH「日成ビルド、企業買収で太陽光発電に参入、収益を安定化」
日海不二サッシによるM&A
2018年に、石川県金沢市で建材事業やアルミサッシの加工・販売を行う日海不二サッシ株式会社は、同じく石川県金沢市で石川県内の官公庁を中心にビル用建材の販売を行うアジアニッカイ株式会社を買収しました。
日海不二サッシは、北陸地域を中心にビル・住宅用の建材を販売しており、グループのアルミサッシ生産拠点として機能しています。アジアニッカイは、今回のM&A以前から日海不二サッシの協力工場としてアルミサッシの加工・組立に従事していました。M&Aによって両社の関係はさらに緊密となり、大きなシナジー効果が期待できます。
日海不二サッシは、今回のM&Aの目的として「北陸地区での地域戦略の強化および顧客基盤の拡大」を挙げています。
※参照元:不二サッシ「当社連結子会社による アジアニッカイ株式会社の株式の取得(孫会社化)に関するお知らせ」
石川製作所によるM&A
石川県白山市で海上自衛隊向けに機雷などの防衛装備を販売する株式会社石川製作所は、2017年に神奈川県藤沢市で航空自衛隊向けに航空機用フライトデータレコーダーなどの搭載電子機器を販売する関東航空計器株式会社を買収しました。
石川製作所の顧客は主に海上自衛隊であり、航空自衛隊への販売実績が少ないため、今回のM&Aを通じて顧客を航空自衛隊まで広げ、事業多角化を図りたい考えです。また、防衛産業の顧客は自衛隊に限定され、需要は国の予算に左右されることから収益が不安定でした。海上自衛隊から航空自衛隊まで顧客層を広げることで、収益基盤を安定させる狙いもあります。
石川製作所の機械技術と関東航空計器の電子技術の組み合わせで、シナジー効果による技術革新や新製品の開発も期待されます。
※参照元:石川製作所「関東航空計器株式会社の株式の取得(子会社化)に関するお知らせ 」
丸井織物によるM&A
石川県中能登町でスポーツウェア用織物を生産する丸井織物株式会社は、2017年に石川県金沢市の染色加工の倉庫精練株式会社を買収しました。
当時、倉庫精練はコロナ禍での需要減少や原料費の高騰によって、5期連続で営業赤字が続き、東証の時価総額基準に抵触したことで上場廃止が決定していました。事業継続が困難となるなか、親会社の丸井織物にM&Aを要請しました。
繊維工業は石川県を代表する伝統的製造業です。しかし近年では、原料費の高騰によって業界が危機に直面しています。同じ繊維工業でも丸井織物と倉庫精練は業種が違いますが、今回のM&Aによって、事業の幅を広げると同時に、織り工程から染め工程までの一貫生産体制を整え、収益機会を拡大する狙いがあります。また、倉庫精練が持つ化繊長繊維の加工など、北陸で同社のみが保有する固有技術を取り込むことで、貴重な技術の喪失が阻止されました。
※参照元:日本経済新聞「石川の丸井織物、倉庫精練へのTOBが成立」
スギヨによるM&A
石川県七尾市で水産練製品の加工、販売を手掛ける株式会社スギヨは、2016年に新潟県新潟市の水産珍味加工メーカーであるマルタ食品株式会社を買収しました。
マルタ食品は「数の子わさび」や「にしん酢漬」といった水産珍味を主力商品としています。スギヨは同じ水産食品業界ですが、ちくわやカニカマなどの水産練り物が主力であり、市場が異なります。水産業界では市場の寡占化が進み、競争が激化しています。買収当時、スギヨは売上高が増加したものの、原料費の高騰で利益が圧迫されており、利益確保と大胆な事業効率化を両立する必要性に迫られていました。
今回のM&Aによって、両社が持つ商品開発・加工ノウハウや物流・工場施設などのインフラ、営業拠点を有効活用することで、事業の効率化や商品力の強化などを図りたい考えです。
※参照元:スギヨ「水産珍味加工メーカー「マルタ食品」の子会社化について」
まとめ
本稿では、石川県のM&Aについて、県内の産業構造やM&Aの動向、実際のM&A事例などを解説しました。
「ものづくり王国」石川県では製造業が盛んですが、県外への人口流出によって産業に衰退の兆候が見られます。少子化の影響で労働力が不足し、企業の経営を圧迫しています。また、後継者問題に悩む企業も少なくありません。このような状況は石川県にとってM&Aのチャンスであり、M&A件数は増加しています。
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