このページのまとめ
- 時価評価とは、企業資産の価値をリアルタイムな市場価格に基づき評価する方法
- 時価評価では価額が変動するが、簿価評価では基本的に価額が変動しない
- 時価評価は客観的な価値評価ができる一方で、恣意的な価格操作が行われやすい
- 売買目的で保有している有価証券は時価評価の対象となる
- 非上場の中小企業の価値算定には、コストアプローチによる評価が適している
M&Aの相手探しについて悩んでいる経営者の方も多いのではないでしょうか。
企業価値の高いM&A相手を見つけるためには、現時点での企業価値を客観的に評価することが大切です。
本記事では、企業価値算定において重要性が高まっている時価評価について詳しく解説します。
時価評価のメリット・デメリットや対象となる資産、企業価値の計算方法や減価償却資産の取り扱いについても解説するので、ぜひ参考にしてください。
目次
時価評価とは
時価評価とは、特定の資産や投資対象の価値を現在の市場価格に基づいて評価する手法の一つです。
この評価手法は、資産の本質的な価値よりも市場の需給関係によって価格が変動する株式などの金融商品やの棚卸資産などの価値を評価する際に用いられます。
変動する価値を評価する手法が台頭した背景には、企業による金融商品への投資増加や、ビジネスのグローバル化に伴い国際的な会計ルールを整備する必要性が高まったことが挙げられます。
金融市場の急速な拡大やグローバル化により、資産価値の変動がより複雑化する動きに対応すべく、日本においても1999年に「金融商品に関する会計基準」が公表され、続いて2006年に「棚卸資産の評価に関する会計基準」が公表されました。
これにより、一部の資産に対し、従来の会計基準ではなく市場価格を反映する評価手法が適しているとされ、時価評価が適用されるようになったのです。
参照元:企業会計基準委員会「金融商品に関する会計基準」「棚卸資産の評価に関する会計基準」
関連記事:企業価値とは?計算方法や高めるための4つの方法をわかりやすく解説
時価評価と簿価評価との違い
企業会計においては、時価評価のほかに「簿価評価」と呼ばれる手法があり、日本企業における会計処理では長らくこの「簿価評価」を用いた価額の記載が主流となっていました。
ここからは、簿価評価の基本に加え、時価評価との違いについて解説していきます。
簿価評価とは
簿価評価の「簿価」とは「帳簿価額」の略であり、資産や負債の「会計帳簿に記載された評価額」のことを指します。
簿価は金融資産を取得したときの取得価額と同義とされ、時価評価が導入される以前の企業会計では、この「簿価=取得時の原価」をベースに処理を行う取得原価主義の簿価会計が主流でした。
しかし、先述のとおり、資産価値が変動しやすい金融商品を保有する企業が増加したことで、企業は正確な経営状況を把握するために、金融商品の含み損益を財務諸表に反映する必要性が高まりました。
その結果、一部の資産において簿価よりも時価が重視されるようになったのです。
含み損益を反映させるかどうかに違いがある
時価評価と簿価表記の大きな違いの1つが、「含み損益」を財務諸表に反映するかどうかという点です。
含み損益とは、資産の取得原価と時価評価額との間に生じる差額を指します。取得原価よりも時価評価額が上昇することで生まれた「儲け」の部分を「含み益」、反対に時価評価額が取得原価を下回ることで「損した」部分を「含み損」と呼びます。
簿価評価による会計では、取得原価を帳簿に記入し続けるため、基本的に記載価額の変動が生まれることはありません。
一方で時価評価を用いた会計では、変動する金融商品の含み損益を「評価損益」という形で財務諸表に反映させるため、資産価額が変動します。
時価評価のメリット・デメリット
簿価評価と時価評価には大きな違いがあるものの、2つの手法に優劣はありません。状況に応じて、簿価評価と時価評価を使い分けるものです。
そのため、時価評価額が重視される場面が多くなったからといって、全ての場面において時価評価が簿価評価よりも適しているとはいえないのです。
ここでは、時価評価のメリットとデメリットについて解説していきます。時価評価の両側面を理解したうえで適した場面で用いるようにしましょう。
時価評価のメリット
時価評価のメリットは、企業が保有する資産価値をある程度リアルタイムに、かつ正確に把握することができるようになるという点です。
簿価評価では、資産の取得原価が財務諸表に記載され続けるため、価額の変動が激しい金融商品を保有している場合には含み損益が反映されず、財務力が低下していても気付けない可能性が高くなります。
株式や不動産は含み損が生まれることで、企業財務に対し債務超過などの大きなダメージを与えることもあります。そのため、含み損益の変動が反映される時価評価は、正確な資産価値を把握するうえで有効に働くのです。
時価評価のデメリット
時価評価のデメリットは、市場価格を反映して変動することから、評価額が不安定になり評価するタイミングによって価格が大きく変わってしまうことです。
時価評価においては絶対的に確定した価額というものが存在しないため、恣意的に価額を操作することも可能となり、時には客観性に欠ける評価となってしまう可能性があります。
加えて時価評価による価額とは、算定日に当該資産の売却や負債の移転を実行した場合に発生する「想定」の価額であるため、場合によっては資産調査会社に依頼する必要が生じるなど、価額の算定に多大な手間とコストが発生してしまいます。
価格があまり変動しない資産や売却目的ではない資産にまで時価評価を用いると、不要な労力を負うことになってしまうことから、このような場合においては簿価評価を用いた方が適切であるといえるのです。
資産ごとの評価基準
時価評価の対象となる資産は、先述の「金融商品に関する会計基準」と「棚卸資産の評価に関する会計基準」の中で規定されています。
具体的には、固定資産・棚卸資産・土地・有価証券・金銭債権・繰延資産が対象となります。また、有価証券に関しては、保有目的によって分類された4種類それぞれに対し、時価評価の対象となる場合とそうでない場合が決められています。
ここからは、保有目的別にそれぞれの有価証券の評価方法を解説していきます。
売買目的の有価証券
時価の変動によって利益を得ることを目的に保有する有価証券を、売買目的有価証券と呼びます。売買目的有価証券は、時価評価をもって賃借対照表の流動資産の部に計上します。
また、決算期末時点でも時価評価を行い、評価によって生じた差額は当期の損益として損益計算書に計上します。
満期保有目的の債券
利息の受け取りを目的として満期まで継続保有する社債やその他の債券を、満期保有目的債券と呼びます。売買目的による保有ではないため、原則として時価評価はされません。
賃借対照表には、投資有価証券として固定資産の部に計上します。
子会社および関連会社の株式
自社以外の企業への議決権行使を目的として保有される株式を、子会社株式または関連会社株式と呼びます。時価評価ではなく取得原価をもって、関連会社株式として賃借対照表の固定資産の部へ計上します。
これは、子会社株式および関連会社株式は、長期的に保有することで事業投資の成果による利益を得ることが重要であり、短期間での売買により利益を得ることが目的ではないためです。
その他有価証券
これまで挙げてきた「売買目的有価証券」「満期保有目的債券」「子会社および関連会社株式」のいずれにも該当せず、なおかつ市場動向によって売却を想定している有価証券は、その他有価証券に分類されます。
売買目的有価証券ほど短期間ではないものの、長期的に見ていずれは売買されるものであることから、時価をもって賃借対照表の固定資産の部に、投資有価証券として計上します。
評価差額に関しては、当期損益として損益計算書へ計上するのではなく、賃借対照表の純資産の部へ「その他有価証券評価差額金」として計上します。
時価評価の計算方法
時価評価は、企業会計における資産算定のほかに、M&Aや事業承継において企業価値を測る場面でも用いられます。
企業価値を評価する際のアプローチ方法には、主に以下の3つの方法が用いられます。
- コストアプローチ:企業の純資産価値に着目した評価方法
- インカムアプローチ:企業の収益力に着目した評価方法
- マーケットアプローチ:株式市場における評価に着目した評価方法
この中で、時価評価に関わる企業の価値評価には、コストアプローチが適しています。
これは、実態の賃借対照表や損益計算書をベースに、時価評価を用いて客観的な資産価値を算定し、企業価値に反映させることができるためです。
コストアプローチ法を用いて企業価値を算定するには、「簿価純資産法」「時価純資産法」「時価純資産+営業権法」の3つの方法があります。
非上場の中小企業におけるM&Aでは、時価評価された純資産に営業権を付加して企業価値とする「時価純資産+営業権法」が用いられるケースがよく見られます。
ここからは、「時価純資産+営業権法」を用いた企業価値の算定方法を、順を追って解説していきます。
時価純資産の計算方法
時価純資産を評価する場合、簿価純資産をベースに修正を加えて時価純資産を算定していきます。
1.決算書を企業会計基準へ修正
まずは企業会計基準の観点から、以下のような点において修正を行います。
- 未払費用の計上
- 賞与引当金の計上
- 退職給付引当金の計上
- 減価償却過不足の修正
実際の現金の出入りが発生した時点ではなく、取引そのものが発生した時点に軸を置いて会計処理を行う「発生主義」に修正することで、決算書の精度を高めていきます。
2.含み損益を反映
M&Aにおいては、資産価値を取得原価ではなく時価で把握しておくべきものがいくつかあり、以下の資産に関しては時価へ評価替えする必要があります。
- 不動産(土地):不動産調査会社による調査や固定資産税評価額を参考に時価へ評価替えを行い、含み損益も計上する
- 保険積立金:「積立金額の合計」から「現時点での解約払戻金額」に修正する
- その他資産:回収不能債券・売掛や、繰延資産などは、回収可能価額へ修正する
時価純資産の算定において、全ての資産・負債の価値を時価評価することは困難であるため、上記のような含み損益が発生している重要項目にのみ限定して、時価へ評価替えすることが一般的です。
3.税効果を検討
企業会計と税務会計の間で生じた税金の差異を調整し、適切に期間配分する手続きを「税効果会計」と言います。
処理の仕方によっては、企業価値評価に対してプラスとマイナス双方の効果をもたらす可能性があるため、慎重に考慮したうえで適切な処理方法を選ぶ必要があります。
例えば、M&A後の資産売却などにより、評価替えした時価と簿価との差額が実現した場合、その差額によって負担する税額はもちろん純資産額にも大きな差が生まれます。
そのため、税効果の側面から適切な方法で処理することで、時価評価による含み損益が純資産額に与える影響を緩和することができるのです。
税効果を考慮した具体的な手続きに関しては、ケースバイケースで適した方法が異なるため、専門的な知識と実績のあるプロへサポートを依頼することをおすすめします。
営業権の計算方法
ビジネスに関するノウハウやブランドイメージなど、企業が保有する無形資産の価値を指す営業権は「のれん」とも呼ばれ、M&Aにおいては、当該企業の将来的な収益性を含む潜在的な企業価値を示す重要な指標となります。
以下の計算式は、企業価値を測る際によく用いられる営業権の算定方法です。
営業権 = 実質利益 × 評価倍率
実質利益には、過去2〜5年間の平均利益(税引後)が用いられます。
評価倍率に関しては、3〜5倍が用いられることが多いものの、理論的に決められた数値ではなく、倍率が高ければ売り手が有利に、低ければ買い手が有利になるため、設定は慎重に行う必要があります。
参考値としては、買い手のニーズが高い業界であれば5倍、飲食業界などの競合他社が多く安定性の低い業界であれば1.5〜2倍程度となり、将来性が見込める企業ほど評価倍率は高くなるイメージです。
時価評価後の減価償却資産の会計処理
固定資産を時価で評価替えする際、多くの場合において当該資産は減価償却の対象となっており、資産額の変動に伴いその後の損金経理額などに調整が必要となってきます。
ここからは時価評価を行った後の減価償却資産の取り扱いについて解説していきます。
減価償却とは
長期間にわたり使用される固定資産の購入にかかった費用を、当該資産が使用できる期間にわたって分割して費用計上する会計処理のことを、減価償却といいます。
減価償却の対象となる資産は減価償却資産と呼ばれますが、全ての固定資産が減価償却資産とイコールになるわけではありません。
固定資産は「有形固定資産」「無形固定資産」「投資その他資産」の3つに分類され、そのうちの形ある有形固定資産の中から、減価償却の対象となる資産がさらに分けられます。
「減価償却資産」は、機械設備や建物、ソフトウェアといった経年劣化する有形固定資産であることが条件となります。
そのため、土地や美術品・骨董品などの時間の経過によって価値が変動しない資産は「非減価償却資産」と呼ばれ、減価償却の対象から外れます。
時価評価後の減価償却の方法
減価償却資産の時価評価を行った際、評価益と評価損のどちらが発生したかによって、評価年度の減価償却手続きに関連する金額を調整します。
時価評価を行った当年の会計処理はもちろん、償却可能限度額や償却限度額の計算においても、評価益と評価損のどちらを計上するかによって必要となる処理が異なる点には注意が必要です。
そのため、会計知識の豊富なプロの手を借りながら処理を進めた方が、誤処理のリスクを負う必要もなく、スムーズに変更手続きを進めることができるでしょう。
まとめ
時価評価は、市場における需給状況や投資家動向などによって変動する市場価格に基づいて、金融商品や企業の営業権などの資産価値を評価する手法です。
市場価格という客観的な視点から価額を算定することができることがメリットの時価評価ですが、その変動する性質から、評価タイミングをコントロールするなどの恣意的な価額操作が行われやすいという点がデメリットにもなります。
非上場企業が大半を占める中小企業のM&Aにおいては、財政状況や業績を企業価値にバランスよく反映でき、尚且つ方法が比較的簡易という点から、時価評価を用いた資産価値算定を行うことがおすすめです。
しかし、時価評価を企業会計やM&Aで用いる際には、企業の状況や税処理の仕方などによって複雑な手続きが発生します。
それらに対応する労力と誤処理のリスクとを回避するためにも、専門的な知識と経験を持つプロにサポートを依頼することで、自社に適した方法で円滑にM&Aを進めていくことができます。
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