時価純資産法の計算方法とは?メリットや他の計算法との違いを解説

2023年9月25日

時価純資産法の計算方法とは?メリットや他の計算法との違いを解説

このページのまとめ

  • 時価純資産法は企業価値を算出するコストアプローチの1つ
  • 時価純資産法は貸借対照表にある純資産をもとに時価評価して計算する
  • 時価純資産法のメリットは計算がしやすく客観性が高いこと
  • 企業価値算出方法は時価純資産法以外にもDCF法、類似会社比較法など多数ある

自社の売却を検討している方の中には、売却価格の算定を行うにあたり時価純資産法の利用を検討している方もいるのではないでしょうか。時価純資産法には、計算がしやすくわかりやすい、企業価値算出結果の客観性が高いといったメリットがあります。

本コラムでは、時価純資産法の概要や利用するメリット、使用方法などについて解説。また、時価純資産法の計算式を用いた具体例も紹介します。時価純資産法の活用でお悩みの際は、ぜひ参考にしてください。

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時価純資産法とは

時価純資産法とは、M&Aにおける企業価値の評価を算出するバリエーションの1つです。M&Aの企業評価算出方法のバリエーションは、「インカムアプローチ」「コストアプローチ」「マーケットアプローチ」の3種類があります。時価純資産法は、「コストアプローチ」に分類されます。

簿価純資産法との違い

コストアプローチには、時価純資産法のほかに簿価純資産法などがあります。時価純資産法と簿価純資産法の違いは、計算の基となる数値の出所です。時価純資産法は時価換算して企業価値を算出するのに対し、簿価純資産法は帳簿価格(簿価)をもとに企業価値を算出します。

簿価純資産法のメリットは、帳簿の値をもとに企業価値を算出するため、客観性が高い点です。ただし、帳簿価額と時価に差がある場合、実際の企業価値とは異なる可能性があるというデメリットがあります。

「コストアプローチ」とは?

「コストアプローチ」は、企業評価算出方法のバリエーションの1つです。またの名をストックアプローチ、ネットアセットアプローチともいい、貸借対照表にある純資産をもとにして企業価値を評価する方法を指します。種類は、主に時価純資産法と簿価純資産法の2種類です。

「コストアプローチ」以外の企業評価算出方法である「インカムアプローチ」は企業の収益力、「マーケットアプローチ」は株式やM&A市場における取引価格をベースとした評価方法となります。

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時価純資産法の算出方法

ここからは、時価純資産法を用いて企業価値を算定する計算方法、資産や負債の内訳について解説します。

時価純資産法の計算式

時価純資産法の計算式は、以下のとおりです。

時価資産総額 ー時価負債総額=時価純資産法による企業価値

資産や負債には、以下のようなものが含まれます。

  • 売掛金、受取手形、貸付金等
  • 有価証券、子会社・関連会社株式
  • 棚卸資産
  • 退職給与引当金、退職給付会計
  • 賞与引当金
  • 未払給与、未払税金

これらを時価評価に直し、計算式にあてはめます。

では、具体例を紹介していきます。企業Aを例に考えてみましょう。

まず、企業Aの時価評価された資産を考えていきます。企業Aが保有する土地や建物、株式などを現在の市場価値に換算すると、合計が900万円と仮定しましょう。

つづいて、企業Aの時価評価された負債を考えていきます。企業Aの長期借入金などを時価評価すると、合計が200万円と仮定します。

これを計算式に当てはめると、

時価評価された資産(900万円)ー時価評価された負債(200万円)=時価純資産法による企業価値(700万円)

よって、700万円が企業Aの時価純資産法による企業価値となります。これが企業Aの現時点での財務状況を表しています。

時価評価の対象となる資産

主な時価評価する資産は、以下の5つが挙げられます。

  • 営業債権 
  • 有価証券、子会社・関連会社株式
  • 棚卸資産
  • 有形固定資産
  • 知的財産権

資産を計算する際には、それぞれ注意点があります。

営業債権

営業債権とは売掛債権ともいい、商品やサービスを提供した後に、後々金銭を請求できる権利のことです。企業間や個人商売で多くの取引がある場合、その都度支払いをする手間とコストを省き、後々に一定期間の取引における金銭をまとめて後払いし、スムーズに業務を遂行できるシステムとして、用いられています。営業債権には、売掛金、受取手形、貸付金などがあります。

回収が長期化しているものは債務者の財政状態や経営成績から回収可能性を検討し、実態に合わせた価値を算出する必要があります。

有価証券、子会社・関連会社株式

有価証券、子会社・関連会社株式における時価評価に直す際の注意点は、上場会社の有価証券の場合、評価時点において証券取引所から公表された取引価格で評価しなければならないことです。また、非公開会社の株式などの場合は、投資先の財政状態や経営成績を考慮して評価する必要があります。非公開会社の社債等の場合は、営業債権と同様に回収可能性を検討し、評価する必要があります。

棚卸資産

棚卸資産とは、企業が販売する目的で一時的に所有している資産(在庫)です。長期在庫になっている品や販売中止予定品などの販売見込みが低い商品は、評価を減額しましょう。

有形固定資産

有形固定資産は、企業が保有する土地や建物など、長期で使用される物理的形態をもつ事業用資産を指します。土地や建物は不動産鑑定による評価証明を取得して評価しますが、時価で価値がつかない場合、利用見込みがない場合は、廃棄処分代などを見積もって評価する必要があります。

知的財産権

知的財産権は、将来的な収益や費用削減額に着目したDCF法やその権利固有の評価を合わせて検討することが必要です。

時価評価の対象となる負債

主な時価評価する負債は、以下の6つが挙げられます。

  • 買掛金、未払金
  • 退職給与引当金・退職給付会計
  • 賞与引当金
  • 未払給与、未払税金
  • 税効果会計
  • 偶発債務

負債を計算する際には、それぞれ注意点があります。

買掛金・未払金

買掛金や未払金の残高は負債として評価します。帳簿に載っていない未計上債務がないか確認しましょう。

退職給与引当金・退職給付会計

退職給与引当金や退職給付会計は、買い手企業を前提としている場合、評価時点における自己都合要支給額を、売り手企業を前提としている場合は会社都合要支給額によって評価します。退職給与の場合は、確定金額のみを時価換算する点に気をつけましょう。なお、非公開会社の場合は退職給付引当金は法人税に従って評価されます。

賞与引当金

賞与引当金は、評価時点において発生している賞与支給見込額によって評価します。

未払給与、未払税金

評価時点において帳簿に記載されていない未払給与や未払税金がある場合、時価負債の一部として評価します。未払給与については、未払残業代も考慮して計算することが必要です。

税効果会計

税効果会計とは、会計上の費用額と税務上の費用額に差がある場合、法人税などの税金を期間配分することで、税金費用を合理的に対応させる会計手法のことです。税効果会計を適用していない会社の場合、税効果を認識した上で企業評価を行うか否かを検討しましょう。適用している場合は、タックスプランニングや企業組織再編税制上の取り扱いを考慮する必要があります。

偶発債務

偶発債務とは、将来的に発生する可能性がある債務のことです。訴訟などのリスクを考慮して、評価する必要があります。

このように、さまざまな要素を考慮した上で、負債を算出しましょう。

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時価純資産法を活用するメリット

時価純資産法を用いる場合、2種類のメリットが考えられます。メリットは、以下のとおりです。

  • 計算がしやすくわかりやすい
  • 企業価値算出結果の客観性が高い

それぞれ解説していきます。

計算がしやすくわかりやすい

他の手法を用いる場合は、ファイナンスの専門知識や大量のデータが必要となるケースが多いのに比べ、時価純資産法は貸借対照表の数値を計算式に当てはめるだけで比較的容易に企業価値を算出できます。

企業価値算出結果の客観性が高い

貸借対照表をもとに算出されるため、個人の主観や恣意が入りにくい傾向にあります。そのため、企業価値算出結果の客観性が高く、現時点での企業価値を反映させやすいという特徴があります。

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時価純資産法を活用するデメリット

時価純資産法を用いる場合、2種類のデメリットが考えられます。デメリットは、以下のとおりです。

  • 企業の将来性を反映し切れない
  • 人材やブランド力など無形資産が企業価値に含まれない

それぞれ解説していきます。

企業の将来性を反映しきれない

一般的にM&Aは将来の収益性を望んで行われるものです。しかし、時価純資産法は過去の利益の蓄積である純資産をもとに算出するため、現時点での企業価値は反映されやすいものの、将来性は反映されません。将来的な企業価値を算出するにはDCF法など、別の手法で改めて算出する必要があります。成長中の企業においては、適切な企業価値を算定しにくい手法といえるでしょう。

人材やブランド力など無形資産が企業価値に含まれない

時価純資産法では、人材やブランド力などの無形資産が企業価値に含まれないというデメリットがあります。

一般的にM&Aでは、無形資産の価値も考慮して取引が行われますが、時価純資産法は貸借対照表の数値を計算式に当てはめて算出するため、無形資産は含まれません。

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時価純資産法以外によく使われる企業価値評価手法

企業価値評価を算出する手法は、時価純資産法以外にも多数あります。その中でもよく使われる手法は、以下のとおりです。

  1. DCF法
  2. 類似会社比較法(マルチプル法)
  3. 市場株価法
  4. 配当還元法

それぞれどのように算出するのか解説していきます。

1.DCF法

DCF法は、ディスカウントキャッシュフロー法の略で、企業の将来得られるフリーキャッシュフローをもとに、企業価値を計算する手法です。

DCF法の計算方法は、以下のとおりです。

フリーキャッシュフロー×(1+割引き率)

上記の計算を年度ごとに行い、それらを合算した値が企業価値となります。

DCF法と時価純資産法の違いは、将来の収益性を加味できるかどうかという点です。時価純資産法は将来の収益性を反映できないのに対し、DCF法は将来の収益性を反映することができます。

ただし、フリーキャッシュフローはあくまで予測なので、主観や恣意が含まれやすく、現実とはかけ離れた企業価値が算出される可能性があります。

2.類似会社比較法

類似会社比較法(マルチプル法)は、評価対象となる企業と類似した上場企業を選び、上場企業の株式指標をもとに企業価値を算出する手法です。

類似会社比較法の計算式は、採用する財務指標によって異なります。たとえば、PER倍率により企業価値を算出する計算式は、以下のとおりです。

企業価値=PERの平均値または中央値×企業の利益

PERとはまたの名を株価収益率といい、株価がEPS(1株あたりの純利益)の何倍の価値になっているかを示すものです。

PERを求める際の計算式は、以下のとおりです。

PER=株価÷EPS(1株あたりの純利益)

類似した企業をもとに算出するため、客観性の高さや十分な利益を生産していない未上場企業にも適用できるというメリットがあります。

ただし、類似企業を選定することが難しいというデメリットがあります。特に、独自の技術やビジネスモデルを持つ企業は、類似企業の抽出が困難となる可能性が高いです。

3.市場株価法

市場株価法は、過去の株価の平均を算出し、企業価値を評価する手法です。一般的には、1〜3ヶ月ほどの株価の平均を企業評価とみなします。 

公開された市場で取引されるため、客観性の高い点がメリットとなります。ただし、市場株価法は限られた上場企業しか活用できません。例えば、上場企業の中でも取引が少なく流動性が低い企業は対象外となります。

また、市場の株価は一時的に大量売却されるなど、異常値が発生することもあるので、注意が必要です。

4.配当還元法

配当還元法は、過去2年間の配当額から将来の配当額を予想し、そこから評価対象となる企業価値を算出する手法です。

配当還元価額=1株あたりの年間配当額÷10%×1株あたりの資本金等の額÷50円

資本金などの額は、資本金と資本剰余金の合計を指します。

配当額から企業価値を算出するため、個人の主観や恣意が含まれにくく、客観性が高い点がメリットといえます。

ただし、配当のみに着目しているため、理論的ではないというデメリットがあります。というのも、企業は配当すればするほど、純資産が減少し、その分株価が下がる傾向にあるためです。しかし、配当還元法の計算では、配当すればするほど企業価値が上がる仕組みになっているので、注意が必要です。

また、配当還元法一般的には相続税の計算方法として活用され、企業価値を算出するのにはあまり用いられません。その理由は相続税の計算方法以外では、不当に株式価値を下げる可能性があるからです。配当還元法を利用したい際は、これらの注意点を踏まえて活用しましょう。

関連記事:企業価値とは?計算方法や高めるための4つの方法をわかりやすく解説

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まとめ

時価純資産法は企業価値を算出するコストアプローチの1つで、企業が保有する資産の時価総額から、負債の時価総額を引いて、企業価値を求めます。

計算が比較的容易で、企業価値算出結果の客観性が高いというメリットがある一方で、企業の将来性を反映しきれず、無形資産が企業価値に含まれないというデメリットがあります。

企業価値を算出する方法は、時価純資産法以外にもDCF法・類似会社比較法・市場株価法・配当還元法などがよく使われます。ただし、計算は専門的になるため、正確な企業価値を算定したい場合は、専門家に相談することをおすすめします。

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