このページのまとめ
- 株式交換とは完全親子関係になる前提で行われるM&Aスキーム
- 以前まで株式交換の対価は自社株式のみだったが現在は現金、社債なども可能
- 株式交換の対価が株式の場合、親会社の資本金・資本準備金は増額となる
- 資本金・資本準備金の増額において会計上と税務上では計上内容が異なる
- 適格株式交換の場合、税制上の優遇措置を得られる
「株式交換をしたら親会社側の資本金はどうなるの?」とお考えの方もいらっしゃるのではないでしょうか。株式を対価に株式交換を実施した場合、資本金・資本準備金は増額となります。
本コラムでは、株式交換の概要、株式を対価にした株式交換での親会社での資本金の扱い、株式交換後の会計・税務処理の基本などを解説します。
目次
株式交換とは
株式交換とは、完全親子会社関係になる前提で行われるM&Aスキーム(手法)のことです。以前は、親会社(買い手)が子会社株主(売り手)に渡す対価は、自社株式の交付のみに限定されていたため、株式交換という呼称になりました。2005年の法改正により、現在は株式以外に社債や新株予約権、現金も対価にできます。
対価を株式にすれば、現金を用意せずに完全子会社を取得できるのはメリットです。しかし、その反面、親会社の株主構成が変わってしまう点には注意が必要となります。
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株式交換を行う際に資本金は増加する?
株式交換の対価が社債や現金だった場合、親会社の株式数は変動していませんから、当然、資本金も変わりはありません。
一方、株式交換の対価を自社株式の交付(新株の発行)とした場合は、発行株式数が増えたわけなので、その分、増資されたとみなされます。つまり、親会社の資本金および資本準備金は増えるわけです。
増額される資本金および資本準備金の金額は、株式交換契約書の中で定めます。
株式交換における資本金の扱い
株式を対価とした株式交換において、親会社の資本金および資本準備金の仕訳を行う場合、会計処理と税務処理では仕訳の内容が異なります。会計上の仕訳は以下のとおりです。
- (借方)子会社株式の金額は子会社の簿価純資産額
- (貸方)資本金および資本準備金は株式交換契約書で定めた額
つまり、資本金と資本準備金の合計額が子会社の簿価純資産額と同額になります。
一方、税務上の仕訳は、以下のとおりです(子会社株主が50名未満の場合)。
- (借方)子会社株式の金額は株式交換前に子会社株主が保有していた株式の帳簿価額
- (貸方)資本金などの額は借方と同額
資本金1千万円の会社の純資産が1億円以上など、資本金額よりも多くあることは少なくありません。その観点からいうと、株式交換の資本金および資本準備金の仕訳は、税務処理よりも会計処理の方が金額が大きくなることになります。
会計上での扱いとそのポイント
株式交換の会計処理における会計基準として、以下の2つの基準があります。
- 取得:支配関係のなかった会社を株式交換により新たに完全子会社とした場合
- 共通支配下の取引:100%未満の支配関係にある子会社に対する株式交換、または企業グループ内の100%子会社間で行われる株式交換
共通支配下の取引は、内部取引とみなされます。また、株式交換実施後の連結財務諸表では、株式の取得原価から株式交換実施日の純資産の時価を控除した金額をのれんとして計上するのが決まりです。のれんは、連結決算上、損益に影響を及ぼします。
税務上での扱いとそのポイント
株式交換は、会社法の規定により組織再編行為とされています。他のM&Aスキームでは、合併、会社分割、株式移転も組織再編行為です。組織再編行為の場合、定められている複数の要件を満たすと、適格組織再編とみなされ税制上の優遇措置を受けられます。
適格株式交換の場合、子会社株式の取得額は、子会社の簿価純資産または株式帳簿価額となり、事実上、法人税が課税されません。
適格株式交換の要件に該当する場合
企業グループ内の100%子会社間で行われる株式交換の適格要件は以下の2つです。
- 支配関係継続要件
- 金銭等不交付要件
100%未満の支配関係にある親子会社間で行われる株式交換の適格要件は以下の4つです。
- 支配関係継続要件
- 金銭等不交付要件
- 従業者引継要件
- 事業継続要件
支配関係継続要件とは、株式交換後も支配関係が維持される見込みであることをさします。金銭等不交付要件とは、対価が株式であることです。
従業者引継要件とは、子会社の従業員の80%以上が継続して従事する見込みを示します。事業継続要件とは、子会社が行ってきた事業が、株式交換後も継続されていく見込みであることです。
適格株式交換の要件に該当しない場合
上述した要件を満たさない株式交換は、非適格株式交換となってしまいます。非適格株式交換では、親会社は、対価である株式の時価で子会社株式を取得したことになってしまうのです。時価での計上となった場合、時価と簿価の差額が利益とみなされ法人税の対象となります。適格株式交換とは、大きな違いです。
株式交換の会計処理
株式交換の会計処理の前提として、会計上の4つの区分があります。
- 取得
- 持分の結合
- 共同支配企業の形成
- 共同支配下の取引
株式交換前に、どちらの企業が親会社になるか明確である場合が「取得」です。株式交換前に親会社・子会社が明確でない場合は「持分の結合」とされます。資本関係のない複数の企業が共同で1社を支配する関係の場合が「共同支配企業の形成」です。企業グループ内で株式交換をする場合は「共同支配下の取引」となります。
親会社の会計処理
株式交換をした親会社の会計処理は、どの区分かで変わります。
- 取得:パーチェス法
- 持ち分の結合:持分プーリング法
- 共同支配企業の形成:持分プーリング法
- 共同支配下の取引:持分プーリング法
パーチェス法では、子会社の資産・負債を公正価値で評価し直します。一方、持分プーリング法は、子会社の資産・負債を簿価のまま計上する会計処理です。
子会社の会計処理
株式交換において、以下のケースを除けば子会社側で会計処理は発生しません。
- 子会社が自己株式を所有していて対価を得た場合(譲渡益の会計処理)
- 新株予約権および新株予約権付社債を発行していた場合(それぞれが消滅した会計処理)
基本的に子会社で会計処理が発生しない理由は、対価を受け取るのが株主だからです。
株式交換の税務処理
株式交換の税務処理は、適格株式交換か非適格株式交換かで内容が変わります。また、適格株式交換における親会社では、株式交換前の子会社の株主数が50人未満か50人以上かで内容が変わるため、注意が必要です。
親会社の税務処理
適格株式交換で株主が50人未満の場合は、株式交換前時点における子会社側の株式帳簿価額が、親会社の株式取得価額です。
適格株式交換において、株式交換前の子会社株主が50人以上の場合、子会社の簿価純資産額を株式の取得価額とします。
非適格株式交換の場合は、株式の取得価額は時価評価された金額になります。
子会社の税務処理
子会社が自己株式を所有していて、その譲渡対価を親会社から受け取った場合のみ譲渡益が発生し、法人税の対象になります。なお、法人税は株式譲渡益に単独で課税されるものではなく、同一年度の他の損益と通算した金額への課税です。設備投資や特別損失、赤字事業などがあり、損益の通算結果がマイナスであれば、その年度は課税を受けません。
まとめ
株式交換の対価を株式にした場合、親会社の発行株式数は増加するため、直接的な出資を受けていなくても増資したことになり、資本金・資本準備金の額は増加します。また、株式交換を実施した後の会計処理や税務処理は複雑で、専門的な知識が欠かせません。実際の現場では、専門家のアドバイスやサポートを受けながら行いましょう。
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