このページのまとめ
- 逆取得とは、企業結合が行われるM&Aの会計基準における用語
- 逆取得とは、M&Aで株式を対価として受け取った側が取得者となる逆転現象
- 逆取得が発生するM&A手法は吸収合併と吸収分割と株式交換と株式交付の4種類
- 逆取得のメリットは「合併差損の回避」「繰越欠損金の控除」「上場にかかるコスト削減」
吸収合併などのM&Aを検討している方の中には、逆取得という用語に興味を持たれた方もいらっしゃるのではないでしょうか。逆取得は特殊なケースですが、M&A手法の吸収合併、吸収分割、株式交換、株式交付で発生し得るものです。
本コラムでは、各M&A手法における逆取得の概要や逆取得のメリット、事例、注意点などを解説します。
目次
逆取得とは?
逆取得とは、企業結合が行われるM&Aの会計基準における用語です。
ここでは、逆取得の定義を紹介します。また、よく似た用語である「逆さ合併」との意味の違いを解説します。
逆取得の定義
逆取得とは、本来なら対価を支払った側が取得者となるところを、対価を受け取った側が取得者となる逆転現象のことです。
具体的な定義の内容は、次項以降で該当するM&A手法ごとに説明します。
逆取得は「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則(通称、財務諸表等規則)第八条36」で定義されています。
財務諸表等規則は、旧・証券取引法(現・金融商品取引法)の規定により、1963(昭和38)年に旧・大蔵省令として定められました。現在は、内閣府令として存在しています。
参照元:e-Gov法令検索「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則 」
逆取得と逆さ合併の違い
「逆さ合併」と「逆取得」は同じことを意味する言葉ではありません。逆さ合併は、逆取得に該当する手法のうちの一つです。
逆さ合併とは、吸収合併を行った際、規模の大きな企業が消滅会社となり、規模の小さな企業が存続会社となることです。このとき、存続会社が対価を自社株式にしている場合、両社の企業規模の違いから、過半数となるような大量の自社株式を交付し、逆取得となる可能性があるでしょう。
各M&A手法における逆取得
企業結合には「会社と会社の結合」「事業と事業の結合」「会社と事業の結合」の3タイプがあります。
3タイプのいずれかに該当するM&Aスキーム(手法)は、吸収合併・新設合併・株式交換・株式移転・株式交付・吸収分割・新設分割・事業譲渡の8種類です。
そして、逆取得が発生し得るM&A手法は以下の4種類です。
- 吸収合併
- 吸収分割
- 株式交換
- 株式交付
逆取得が発生するのは、M&Aの対価が自社株式である場合のみです。M&Aの対価が自社株式の場合、対価を支払う側は新株を発行するか、自己株式(金庫株)を引き渡すか、あるいはその両方かで行います。
その際に、相手側に渡した株式数が発行済み株式数の過半数だった場合、逆取得が起こります。
それぞれのM&A手法における逆取得の発生する場合を確認しましょう。
吸収合併
吸収合併とは、既存の企業間で行われる合併です。合併は、複数の企業を1社に統合するもので、統合された企業は法人格が消滅し(これを消滅会社といいます)、統合した企業は法人格が残ります(これを存続会社といいます)。
合併では、対価として現金や自社株式、社債、新株予約権、その他の財産などの選択肢があります。対価を渡す相手は、消滅会社の株主です。
消滅会社の株主が個人であれ法人であれ、対価として過半数の株式を受け取れば、実質的に存続会社を取得したことになります。これが、吸収合併における逆取得のケースです。
吸収分割
吸収分割とは、既存の企業間で行われる会社分割です。会社分割では、一方の企業が行っている事業を、もう一方の企業に事業部ごと包括承継させます。事業部を譲渡した側が分割会社、事業を承継した側が承継会社です。
吸収分割も、吸収合併と同様に、対価は現金や自社株式、社債、新株予約権、その他の財産などの選択肢があります。吸収合併で対価を渡す相手は、分割会社自身(分社型吸収分割)と分割会社の株主(分割型吸収分割)のどちらかです。
どちらの相手に対価を渡すとしても、相手が過半数の株式を取得すれば承継会社を取得したことになります。本来、事業を取得したのは承継会社だったところが、分割会社が承継会社の親会社、または分割会社の株主が承継会社の経営権を握るという逆取得が起こります。
また、財務諸表等規則では、吸収分割での逆取得の定義と合わせて、現物出資での逆取得も定義しています。それは、現物出資した企業が、現物出資を受けた企業の過半数の株式を得た場合、逆取得に該当する企業結合であるというものです。
株式交換
株式交換とは、完全親子会社関係になることを前提に、買収側(親会社になる側)が買収される側(子会社になる側)の全株式を取得する対価として自社株式を支払うM&A手法です。
対価について現在は法改正され、追加手続きを行えば、自社株式以外に現金、社債、新株予約権、買収側の親会社の株式などを対価にできます。買収側が対価を支払うのは、子会社になる企業の株主です。つまり、買収側企業の株主構成が変わります。
そして、株式交換実施時に、子会社になる企業の株主へ対価として渡した自社株式数が過半数だった場合、逆取得が発生します。株式交換で親会社となった買収側企業の経営権を、株式交換の子会社の元株主が取得します。
株式交付
株式交付とは、対象企業を子会社化する対価として自社株式を用いるM&A手法です。2020年(令和3年)施行の改正会社法で新たに認められました。
一見、株式交換と類似していますが、完全親子会社関係になる前提ではないことが違いです。対価は、自社株式以外に現金、社債、新株予約権なども用いられます。また、株式交付は、国内の株式会社同士でしか実行できません。
株式交付の場合も、親会社となる企業が、子会社にする企業の株主に自社株式を交付します。このとき、交付する自社株式数が過半数だった場合、子会社の元の株主が、親会社となった企業の経営権を握ることになり、逆取得となります。
逆取得を活用する3つのメリット
ここでは、逆取得のメリットを紹介します。主なメリットは以下のとおりです。
- 合併差損の回避
- 繰越欠損金の控除
- 上場にかかるコスト削減
これらのメリットは、基本的に吸収合併における逆取得のメリットです。それぞれのメリットの内容を説明します。
1.合併差損の回避
通常の吸収合併において、消滅会社が実質債務超過だと、それを引き継ぐ存続会社では損失が出てしまいます。これが合併差損です。
逆取得では、取得企業の資産・負債は個別財務諸表上の処理として簿価受け入れとなるため、合併差損の回避が実現します。
2.繰越欠損金の控除
吸収合併をする場合、業績の良い企業が買い手側として存続会社となるのが一般的でしょう。しかし、合併する企業の中に繰越欠損金を抱えている企業がある場合、その企業が存続会社となれば節税が可能です。
このとき、逆取得を用いることで、存続会社の繰越欠損金を納税時に活用しつつ、存続会社の経営権は消滅会社の株主が持てます。
3.上場にかかるコスト削減
株式上場を実現するには、手間と時間と費用がかかります。規模の大きな企業ほど、その度合いは高いでしょう。
そこで、規模の大きな非上場企業が、規模が小さめの上場企業に吸収される合併を行い逆取得することで、非上場企業(消滅会社)の株主が上場企業(存続会社)の経営権を握り、実質的に上場を果たせます。このように逆取得によって、上場にかかるコストの大幅な削減が可能です。
逆取得の事例
逆取得が行われた吸収合併の事例を紹介します。
2003年(平成15年)3月、三井住友銀行とわかしお銀行が合併しました。資本金1兆3,267億円、総資産98兆9,009億円の三井住友銀行が消滅会社、資本金208億円、総資産4,889億円のわかしお銀行が存続会社です。
合併比率は、わかしお銀行1株に対して、三井住友銀行は0.007株でした。合併後、すぐに商号を三井住友銀行に変更しています。逆さ合併であり、逆取得のケースです。
参照元:三井住友銀行「三井住友銀行とわかしお銀行の合併契約書締結について」
逆取得を実施する際の注意点
吸収合併・吸収分割・株式交換・株式交付は、それぞれ会社法で手続き方法や条件が規定されています。それだけでも専門的な知識や経験が要求されますが、そのうえ逆取得を行うとなると、さらに注意深く慎重に進めることが肝要です。確認が不十分なまま進めると逆取得が失敗し、メリットを得られない恐れがあります。
逆取得を伴う吸収合併、吸収分割、株式交換、株式交付のいずれかを行う場合には、M&A仲介会社などの専門家を起用して手続きを進めることがおすすめです。正しい知識と豊富な経験を持った専門家のアドバイスを受けて、間違いなく進めましょう。
まとめ
逆取得とは、通常であれば対価を支払う側が取得者になるM&Aの取引において、対価を受け取る側が実質的な取得者になる現象のことです。株式の過半数以上を獲得し、支配権を得ます。逆取得が発生しうるM&Aの手法は吸収合併・吸収分割・株式交換・株式交付の4つです。
逆取得を実施するメリットは、合併差損を回避できること、繰越欠損金の控除ができること、低コストで上場できることです。逆取得を上手く活用すれば、費用や手間をカットすることができます。
M&Aの実施や逆取得の活用には、専門的な知識・経験が必要になります。会社法や会計などに関する最新情報も求められます。そのため、M&Aに通じた人材や専門家などのアドバイスを受けると良いでしょう。複雑なプロセスを円滑に進めることができるようになります。
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