M&Aと独占禁止法(独禁法)の関係とは?事前届出や注意点を解説

2023年9月6日

M&Aと独占禁止法(独禁法)の関係とは?事前届出や注意点を解説

このページのまとめ

  • M&Aによって自由な競争が妨げられる場合、独占禁止法に抵触する可能性がある
  • 一定規模以上の企業がM&Aを行う場合、事前の届出が必要な場合がある
  • 独占禁止法に基づく届出を行った場合、公正取引委員会による審査が行われる
  • 独占禁止法に抵触すると判断された場合は、改善をする必要がある

特に同業他社のM&Aを検討する場合、独占禁止法への抵触を不安に思う方は多いでしょう。公正取引委員会に自由な競争を妨げることになるM&Aだと判断された場合、制限を受ける可能性があります。

本記事では、M&Aが独占禁止法に抵触するパターンや独占禁止法下の届出義務の条件・内容、公正取引委員会が実施する審査などについて、詳しく解説します。

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独占禁止法とは

独占禁止法とは、「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」の通称です。
この法律は企業の不正取引などによる、経済の停滞や消費者の損失を防ぐために設けられています。
これまでには、下記のような事例が独占禁止法違反と見なされています。

  • 競争入札の案件においてあらかじめ業者間で談合を行い、落札者やその価格を決めておく
  • 商品やサービスを不当なほど安価で提供し、他社の営業を妨げる
  • 不当な方法によるライバル業者の排除や市場の支配

独占禁止法に関する調査を行っているのは国の機関である「公正取引委員会」です。この委員会は独占禁止法を運用するために設置されている、国の行政機関の1つであり、「行政調査」「行政処分」などを行う権限を有しています。

公正取引委員会は「その取引や合併が独占禁止法に抵触していないか調査する」という性質上、「準司法的機能」を持っているとも称されています。
加えて裁判官の許可証により、捜索や差押えを行う権利(犯則調査権限)も、公正取引委員会が所有する権限の1つです。

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M&Aに関する独占禁止法の規制

独占禁止法はM&Aの場面にも適用されます。
しかしながら、「談合」や「他社の営業妨害」といった事例に比べると、M&A関連の独占禁止法はピンと来ないかもしれません。
ここからは、M&Aが独占禁止法に抵触しうる事例や可能性について解説します。

M&Aが独占禁止法に抵触する場面とその範囲

M&Aが独占禁止法に抵触するのは、主に「自由な競争が妨げられ、消費者などが不利益を被る可能性がある場合」です。

例えば同業他社を合併・買収することによって以下のような状態に至ってしまうと、独占禁止法に抵触してしまう可能性があります。

  • 何かを購入しようと思ったらA社以外の選択肢がない
  • A社がその品物やサービスの価格を実質的に決定している

消費者や社会が不利益を被る合併・買収は、公正取引委員会によって承認されません。ただし指摘された問題点を改善すれば、M&Aを達成できる場合もあります。

実体規制と届出規制

M&Aの場面における、独占禁止法関連の規制は「実体規制」と「届出規制」の2種類です。

「実体規制」とは、M&Aにより自由競争が妨げられる可能性がある場合に取られる規制です。例えばあるエリアにおいて、70%のシェアを占める企業が、同業の20%のシェアを占める企業と合併した場合には、実体規制の対象となりえます。
また、取引の方法に不正がある場合も実体規制の対象です。

「届出規制」とは一定以上の規模の会社がM&Aを行う場合に事前の届出が必要になることを指します。届出が義務付けられる基準はさまざまで、売上高や議決権保有割合が大きく変動する場合などが対象です。

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独占禁止法におけるM&Aの事前届出制度

M&Aにより競争を実質的に制限される可能性がある場合には、事前に公正取引委員会に届出と報告を行わなければなりません。
ここでは、独占禁止法に関するM&A時の事前届出制度について解説します。

届出が必要なM&Aの要件

M&Aが以下の条件のすべてを満たす場合、公正取引委員会への届出が必要となります。

■届出が必要なM&Aの要件

株式を取得しようとする会社やグループ(買い手)の、国内売上高合計額が200億円超株式を発行する会社とその子会社(売り手)の、国内売上高合計額が50億円超株式の取得によって、買い手が保有する議決権保有割合が新たに20%または50%を超える

届出後は公正取引委員会の審査を受ける必要があります。この審査により、自由競争を阻害しないと見なされた場合には、議決権保有割合が50%を超えていてもM&Aを実行できます。

その一方で、審査の結果、希望通りにM&Aを進められず、合併・買収の条件の変更を求められる可能性も否定できません。

また、届出義務があるにもかかわらずその届出を行わない場合には、独占禁止法により200万円以下の罰金が適用される可能性があります。

届出制度の必要書類

公正取引委員会へ届出を行う際、必要となる書類は以下の通りです。

■M&Aにより独占禁止法に抵触する可能性がある場合の必要書類

株式取得に関する計画届出書(公正取引員会公式サイトでダウンロード可能)株式の取得に関する契約書の写又は意思決定を証するに足りる書類届出会社の最近一事業年度の事業報告,貸借対照表及び損益計算書株式の取得に関し株主総会の決議又は総社員の同意があったときには,その決議又は同意の記録の写届出会社の属する企業結合集団の最終親会社により作成された有価証券報告書その他当該届出会社が属する企業結合集団の財産及び損益の状況を示すために必要かつ適当なもの

各書類は「緑色のA4判紙ファイルにつづって提出」する必要があります。

公正取引委員会の窓口は、全国に9箇所設置されています。お近くに窓口があるのなら、直接出向いて書類を提出することができます(事前アポイントメント推奨)。また、各書類はオンラインで提出することも可能です。

窓口の設置場所や連絡先、書類のオンライン提出などに関する詳細については、公正取引委員会の公式サイトをご確認ください。

参照元:公正取引員会「株式取得の届出制度(独占禁止法第10条第2項,第5項)」

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M&Aの事前届出制度手続きの流れ

ここからは、事前届出が必要なM&Aを行う場合の手続きの流れについて解説します。

  1. 届出前相談(任意)
  2. M&Aの事前届出の実施
  3. 公正取引委員会の1次審査
  4. 公正取引委員会の2次審査
  5. 届出会社による問題解消措置の提案
  6. 公正取引委員会による排除措置命令

それぞれのプロセスについて、詳しく見ていきましょう。

1.届出前相談(任意)

公正取引委員会は、企業結合・合併に関する相談を受け付けています。

届出書に記載すべき内容に不明な点がある場合や、そもそも合併の承認を得られる可能性があるかどうか等、不安がある場合には「届出前相談」を行うのが有効です。

公正取引委員会は公式サイトにおいて、届出前相談の場では委員会の考え方の確認や届出書に記載すべき内容に関連した相談が可能であるとしています。

相談窓口は、各種書類の提出先と同じです。また、公正取引委員会公式サイトによると、届出前相談の回答までには2週間~1ヶ月の日数が必要です。

■計画届出書の提出先、相談先

北海道公正取引委員会事務総局 北海道事務所 総務課札幌市中央区大通西12丁目 札幌第3合同庁舎
東北公正取引委員会事務総局 東北事務所 総務課仙台市青葉区本町3-2-23 仙台第2合同庁舎
関東、北陸公正取引委員会事務総局 経済取引局 企業結合課東京都千代田区霞が関1-1-1 中央合同庁舎第6号館B棟
中部公正取引委員会事務総局 中部事務所 経済取引指導官名古屋市中区三の丸2-5-1 名古屋合同庁舎第2号館
近畿公正取引委員会事務総局 近畿中国四国事務所 経済取引指導官大阪市中央区大手前4-1-76 大阪合同庁舎第4号館10階
中国公正取引委員会事務総局 中国支所 総務課広島市中区上八丁堀6-30 広島合同庁舎第4号館
四国公正取引委員会事務総局 四国支所 総務課高松市サンポート3-33 高松サンポート合同庁舎南館8階
九州公正取引委員会事務総局 九州事務所 経済取引指導官福岡市博多区博多駅東2-10-7 福岡第2合同庁舎別館
沖縄県内閣府 沖縄総合事務局総務部 公正取引課 経済係那覇市おもろまち2-1-1 那覇第2地方合同庁舎2号館6階

参照元:公正取引員会「企業結合関係の相談・届出等窓口」

窓口によっては電話やメールによる事前相談が可能な場合があります。窓口が遠方で出向きづらいという場合には、来所以外の方法での相談もご検討ください。

その他、公正取引委員会の公式サイトでは、過去の相談事例を確認することができます。独占禁止法に抵触する懸念がある場合には、こちらを事前に確認しておくのもよいでしょう。

2.M&Aの事前届出の実施

「株式取得に関する計画届出書」をはじめとする必要書類の提出方法は、所定の窓口での提出あるいはオンライン(Eメール)による提出のいずれかです。

窓口の所在地は、上の項目に掲載した通りです。
事前アポイントなしでの手続きも可能ですが、公正取引委員会は事前の予約を推奨しています。

すべての書類をPDFなどで作成し、Eメールで提出することも可能です(1回あたり50MBまで)。
書類をEメールで送る際の注意点や送信先については、公正取引委員会の公式サイトをご確認ください。

3.公正取引委員会の1次審査

所定の書類を公正取引委員会に提出すると、委員会による「第1次審査」が実施されます。
この審査により、当該M&Aが「独占禁止法上問題がない」「より詳細な審査、報告が必要」「独占禁止法違反の疑いあり」のいずれに該当するか、という結果を得ることができます。

M&Aのための事前届出を行った会社は、届出の受理から30日間は当該株式などを取得することができません(株式取得の禁止期間)。
しかしながら、1次審査により「独占禁止法上問題がない」と判断された場合、この禁止期間は短縮されることもあります。

一方、「独占禁止法違反の疑いあり」という審査結果が出た場合には、「確約手続に関する対応方針」に沿って手続きが取られます。
この場合、まずは「どの部分が独占禁止法に抵触する可能性があるか」といった概要が通達されるため、その内容に応じて改善を行わなければなりません。

4.公正取引委員会の2次審査

第1次審査において、「より詳細な審査、報告が必要」という結果が出た場合に必要となるのが第2次審査です。

第2次審査が必要になった場合には、公正取引委員会より「報告等受理書」が交付されます。
公正取引委員会は必要な追加情報を加味したうえで、改めて「問題なし」「独占禁止法に抵触する可能性あり」という審査結果を出す形となるでしょう。
第1次審査と同様、審査結果によっては「確約手続に関する対応方針」に沿った要求が行われる可能性があります。

5.届出会社による問題解消措置の提案

公正取引委員会により「当該M&Aが独占禁止法に抵触する可能性がある」と判断された場合、問題となる箇所の改善により、株式の取得などを認められる可能性があります。

この過程は、事前相談を通して問題となりうる箇所を改善しておくことで、省くことができる可能性があります。
例えば公正取引委員会が公開している以下の事例では、問題となった2社の市場シェアが高いこともあり、「共同研究開発自体は問題ないが、共通ブランドの確立は問題となりうる」という回答が出されています。

機械メーカー2社が,新分野への参入を目的として技術の共同研究開発を行うことについては直ちに独占禁止法上問題となるものではないが,既存分野において技術を統廃合し共通ブランドを確立することについては,独占禁止法上問題となるおそれがある。

引用元:公正取引委員会「相談事例集」

相談に対する回答を受けて、改善をしておきましょう。

6.公正取引委員会による排除措置命令

もし公正取引委員会により、独占禁止法への抵触が認められた場合には、「排除措置命令」が行われます。
これは簡単に言うと、「独占禁止法に抵触している状態を解除するための命令」です。排除措置命令は行政がその権限を持って行う、行政処分の1つです。

例えば過去、事前に会合を行うなどして独占禁止法への抵触が認められた愛知県の制服販売業者らに対しては、主に以下の内容の排除措置命令が出されています。

  • 株主総会において、違反行為の消滅や今後不正な会合を行わないことを確認し、決議すること
  • 問題となった高校や一般消費者、従業員に、上の措置を通知すること

ただしこの命令は、実際に独占禁止法に抵触した、つまりすでに自由競争に支障が発生している場合に発令されます。
M&Aによりこれから独占禁止法違反に発展する可能性がある場合には、まず「確約手続に関する対応方針」に基づく対応が取られます。

参照元:公正取引委員会「(令和2年7月1日)愛知県立高等学校の制服の販売業者に対する排除措置命令等について」

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M&Aにおける独占禁止法の審査基準

ここからは、公正取引委員会が行う審査基準の目安について簡単に解説します。

「一定の取引分野」とは

独占禁止法に抵触する場面の1つとして挙げられるのが、「一定の取引分野における競争が実質的に制限される場合」です。

公正取引委員会は、この「一定の取引分野」を「企業結合により競争が制限されることとなるか否かを判断するための範囲」と定義しています。
つまりM&Aにより企業間の自由競争が妨げられた場合、「一定の取引分野における競争が実質的に制限」されたことを理由に、独占禁止法に抵触してしまう可能性があります。

公正取引委員会は「一定の取引分野」の例として、

  • ガス業(LPガス卸売と充填)
  • ゴム製品製造業(市販用タイヤ、新車用タイヤ)
  • インターネット付随サービス業(有料動画配信、オンライン予約サービス、電子書籍の出版や小売)

などを挙げています。

水平型M&Aの基準

同じ業種・業界間でM&Aを行う「水平型M&A」の場合、審査において重要となるのは以下の要素です。

  • 競争状況(市場シェアとその順位など)
  • 輸入圧力の状況
  • 他社の新規参入が可能であるか
  • 隣接市場からの競争圧力
  • 需要者からの競争圧力
  • その他、事業能力やグループの経営状況など

M&Aにより自由な競争が妨げられたり、市場を寡占する可能性が認められる場合には、当該M&Aが認められなかったり、一定の条件を付加されたりする可能性があるでしょう。

例えば市場シェアが非常に高い2社が合併すると、合併した会社がその商品やサービスの価格をほとんど自由に引き上げられるようになり得ます。
加えて競合が参入しづらい事情などが重なれば、公正取引委員会によって合併を認められない可能性が高くなります。

公正取引委員会は審査を行ううえで、「ハーフィンダール・ハーシュマン指数(HHI)」を使用しています。
HHIとは「当該一定の取引分野における各事業者の市場シェアの2乗の総和」により算出される数字であり、その数字が高いほど市場シェアの占有率が高いと見なされます。

垂直型M&Aの基準

事業の効率化やコスト削減などを理由に異業種間でM&Aを行う「垂直型M&A」の場合、「水平型M&A」に比べると自由競争が妨げられる可能性は低くなります。
ただし、川上または川下市場において市場の閉鎖性・排他性の問題が生じる場合においては考慮が必要と、公正取引委員会は述べています。

具体的な例を挙げると、「M&Aにより新たに親会社となった企業が圧倒的な市場シェアを占めており、子会社以外への供給を中止し、競合他社に損失を与えた」場合などには、独占禁止法に抵触する可能性があります。

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M&Aにおける独占禁止法上の4つの注意点

M&Aにおける独占禁止法について、注意すべき点は主に以下の4つです。

  • 当事者の合意だけではM&Aを進められない場合がある
  • 届出・審査次第でM&Aが長期化する場合がある
  • 国際間のM&Aでは各国の法律にも対応する必要がある
  • ガンジャンピングにならないよう対応する必要がある

ここからは、M&Aにより独占禁止法に抵触する懸念がある場合の注意点について解説します。

当事者の合意だけではM&Aを進められない場合がある

独占禁止法の観点から届出が必要なM&Aの場合、公正取引委員会の審査に通過しない限り、手続きを進めることができません。
また、届出の受理から30日間は当該株式などの取得が制限されます(株式取得の禁止期間)。
仮にこの手続きを無視してM&Aを行った場合には、独占禁止法違反として200万円以下の罰金を課せられる可能性があります。

届出・審査次第でM&Aが長期化する場合がある

公正取引委員会の審査が長引いたり、改善を求められたりした場合には、M&Aが長期化してしまう可能性があります。
また、独占禁止法への違反を避けるために変更が必要となり、想定通りにM&Aが進まない可能性も否めません。

国の機関による審査が必要となる都合上、小規模なM&Aよりも手間や時間が掛かりやすくなることを確認しておきましょう。

国際間のM&Aでは各国の法律にも対応する必要がある

国際間でM&Aを行う場合には、相手方となる企業が籍を置く国や地域のルールにも対応する必要があります。これは、日本国外においても独占禁止法に相当する制限や届出義務が存在するためです。
事前に相手方の国や地域における、法令や条約を確認しておきましょう。

例えば米国の独占禁止法にあたる制限は「反トラスト法」と呼ばれており、「シャーマン法(1890年制定)」「クレイトン法(1914年制定)」「連邦取引委員会法(1914年制定)」「の3つから成り立っています。
また、農業や漁業など一部の産業などは、反トラスト法の対象外として設定されています。

ガンジャンピングにならないよう対応する必要がある

ガンジャンピング(Gun jumping)とは、M&Aの手続きを実施する前の段階で先取りして協調的行動をとる行為のことです。ここで言う「協調的行動」には、重要な情報の交換や実質的な統合行為などが挙げられます。

ガンジャンピングとは和製英語における「フライング」の意で、陸上競技の場面でスタート前に走り出してしまう行為を指します。

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まとめ

独占禁止法上で問題があるM&Aは、公正取引委員会の審査に通過できなかったり、何らかの制約を設けられる可能性があります。予定していた内容およびスケジュールでM&Aを進行することが難しくなるので、独占禁止法に抵触しないかどうか事前に確認しておきましょう。公正取引委員会に届出前相談をすることもできます。

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レバレジーズM&Aアドバイザリーでは、独占禁止法関連を含む専門知識を有したコンサルタントが在籍しており、M&Aのご成約まで一貫してサポートいたします。

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