このページのまとめ
- 会社を廃業する場合であっても、従業員が給与や退職金を受け取る権利は失われない
- 退職金制度を設けていない場合は、会社に支払い義務は発生しない
- 廃業した会社が退職金を支払えない場合、従業員は未払賃金立替払制度を利用できる
- 従業員を30日以内に解雇する場合、原則として「解雇予告手当」の支払いが必要
- 従業員には有給休暇を消化する権利があるので、廃業までに使用できる
会社を廃業するにあたって、従業員に対して退職金を支払えるのか不安を覚える経営者は少なくないでしょう。会社が廃業しても、規定がある場合は退職金を支払う義務があります。
本記事では、会社を廃業する場合の退職金の支払い義務や金額の相場、有給休暇の取り扱いなどについて、分かりやすくまとめました。また、未払い金があるケースや役員の退職金についても解説しています。
目次
退職金はどうなる?会社の廃業と休業・倒産・破産との違い
会社や事業を廃業した場合や、倒産や破産になった場合、従業員に支払うべき退職金は発生するのでしょうか。
- 会社や事業を廃業した場合
- 会社を休業または倒産させた場合
- 会社が破産した場合
ここでは、上記のケースに分けて退職金について解説します。。
会社の廃業と退職金の扱い
廃業とは、理由や事情にかかわらず「会社や事業をやめる」ことを指します。退職金の規約を設けている会社が廃業する場合には、従業員に対し退職金を支払わなければなりません。
廃業という言葉は、法人・企業においてはもちろん、個人事業においても用いられる場合があります。退職金の規約のある企業に勤めていない個人事業主が事業を廃する場合、退職金を受け取ることはできません。
会社の休業・倒産と退職金の扱い
休業とは名前通り、会社や事業を休止させることです。この言葉は単に「営業時間外である」ことを指す場合もある一方、届出を出して「事業活動を完全に休止させる」という意味で用いられる場合もあります。後者の場合、従業員との雇用契約は原則として解消されません。そのため退職金も発生しないことが一般的です。
会社の倒産とは、一般に会社が経済的に破綻し、債務を履行できない状態に陥ることを指します。倒産は、厳密な法律用語ではありません。また「会社が潰れる」という言葉は、実質的に倒産を示すことが多いです。会社が倒産した場合に退職金が支払われるかどうかは、退職金に関する契約の有無や財務状況、法的な手続き(破産)を行うかどうか等によって異なります。
会社の破産と退職金の扱い
会社の破産とは、「財産を手放す代わりに債務を帳消しにする」裁判上の手続きを指します。個人に対する自己破産のような手続きが、会社にも適用されると考えてよいでしょう。
破産の際には財産を手放す必要があるため、事業に用いた建物や機械などは、一般に手放す必要があります。また、法人代表者が各債務の連帯保証人となっている場合には、会社代表者が自己破産を起こさざるを得なくなることも多いです。
退職金制度が設けられている企業が破産した場合、退職金は企業が持つ財産の中から優先して配当されます(優先的破産債権)。
退職金と解雇予告手当との違い
「退職金」「解雇予告手当」は、どちらも事業から退く際に従業員に対して支払われるお金です。ここからは、2つの手当の違いについて解説します。
退職金は退職時に支払われる金銭
退職金とは、「従業員が退職するとき」に支払われるお金です。退職金は会社の廃業に伴わない、定年退職などによる一般的な退職であっても、あらかじめ定められた就業規則に則って支払われます。
退職金の設定は、法的に義務付けられたものではありません。そのため就業規則に退職金に関する記載が存在しない場合、退職の理由にかかわらず、退職金は発生しません。
■退職金に関する就業規則の例
(退職金の支給)第52条 勤続__年以上の労働者が退職し又は解雇されたときは、この章に定めるところにより退職金を支給する。ただし、自己都合による退職者で、勤続__年未満の者には退職金を支給しない。また、第63条第2項により懲戒解雇された者には、退職金の全部又は一部を支給しないことがある。 |
引用元:厚生労働省「モデル就業規則」
解雇予告手当は解雇時に支払われる金銭
解雇予告手当とは、「予告なしで従業員を解雇する場合」に支払うべき手当です。退職金とは異なり、この制度は労働基準法に基づいています。解雇予告手当の金額は、一般に「30日以上分の給料」です。しかし、以下のような状況であれば、解雇予告手当を支払う必要はありません。
- 30日以上前に解雇の予告をした
- 天災など、やむを得ない理由により事業の継続が不可能になった
- 従業員自身が責任を負うべき、重大な問題を起こした
その他、雇用契約期間が短期間である場合や試用期間を用いている場合には、解雇予告手当が発生しない可能性があります。
【ケース別】会社廃業時の退職金の支払い義務
ここからは、会社を廃業する場合の退職金の取り扱いについて、ケース別に解説していきます。
退職金の記載がある場合
労働条件通知書や就業規則に退職金に関する記載が設けられている場合、その規則に則って退職金を支払う必要があります。従業員が退職金を受け取る条件を満たしているにもかかわらず、これを支払わなかった場合、元従業員に訴訟などの措置を取られる可能性があります。
未払いの退職金には遅延損害金が付加されます。トラブルを長引かせないためにも、財産を整理するなどして早期に支払いを行うことが重要です。
退職金の記載がない場合
その企業の規則にはじめから退職金の記載がない場合には、事業を廃業する場合であっても退職金の支払いは不要です。退職金は法律に基づく制度ではないため、退職金の設定がなくても法律上の問題はありません。
会社都合による退職や解雇をした場合の退職金相場
退職金の制度は企業が独自に定めるものであるため、一概に「こういった条件なら退職金はいくら」と示すことができません。しかし、東京都産業労働局の公開資料「令和4年版 中小企業の賃金・退職金事情」は退職金の相場を知るうえで良い参考となります。
■東京都産業労働局が公表しているモデル退職金の例(会社都合)
学校を卒業してすぐに就職した勤続10年の従業員の場合高卒…122万3千円大卒…149万8千円同様に勤続20年の従業員の場合高卒…328万4千円大卒…414万7千円同様に勤続30年の従業員の場合高卒…604万6千円大卒…754万2千円 |
引用元:東京都産業労働局「令和4年版 中小企業の賃金・退職金事情(P.120)」第8表
このように退職金は、最終学歴や勤続年数によって大きく変わることが多いです。
また、就業規則によっては、退職金を受け取る条件として「勤続年数が一定以上である」などの設定がされている場合があります。
会社廃業時の社長や役員の退職金の扱い
ここからは、会社を廃業する場合における社長や役員の退職金の取り扱いについて解説します。
役員の退職であれば「役員退職慰労金」が適用されうる
社長や役員が退職する場合、就業規則に則った通常の退職金とは異なる「役員退職慰労金」が支払われる場合があります。役員退職慰労金は就業規則ではなく、「定款」もしくは「株主総会の決議」によって決定します。
役員退職慰労金の計算式として、用いられることが多いのが「最終報酬月額×勤続年数×功績倍率」というものです。
功績倍率は、同業種・同規模の企業の役員に対する支給額データを参考にして算出するのが一般的です。
なお、役員退職慰労金の支給は、法律上で義務付けられたものではありません。
経営者や役員が死亡した場合は注意が必要
経営者や役員が死亡した場合に退職金を支払う旨の規定が存在するのなら、その規約に応じて手続きを進める必要があります。この状況では、死亡した経営者や役員の相続人(配偶者や子供など)が退職金を受け取る権利を相続します。
一般に、死亡に伴う退職金の手続きは遺族側が進めなければなりません。退職金の受け取りには時効が設定されているので、期日までに手続きを済ませましょう。
また、企業によっては退職金とは別に、弔慰金の制度が設けられていることがあります。
自営業者が廃業時に活用できる退職金制度
退職金に関する規定のある企業に勤めていない「自営業者」は、事業を廃する場合であっても退職金を受け取ることはできません。しかし、年金制度や共済制度などを利用することで、指定のタイミングで現金を受け取ることは可能です。
ここでは自営業者が利用できる、退職金に準ずる制度について解説します。
1.国民年金基金
国民年金基金とは、自営業者が老齢年金の支給額を上乗せできる公的な年金制度です。
自営業者は、厚生年金に加入している会社員の方に比べると、受け取れる年金が少なくなります。この差異を縮め、自営業者であっても安心して過ごしていけるように設定されたのが、国民年金基金です。上乗せされる年金の金額や年金を受け取れる期間は、加入したプラン等によって変動します。
2.小規模企業共済
小規模企業共済とは、個人事業主や経営者が廃業や退職に備えて加入できる積立制度です。掛金の全額は確定申告時の控除対象となります。共済金(積立金)が退職・廃業時の備えとなるのはもちろん、現役時代においては高い節税効果にも期待できるのが、「小規模企業共済」の特徴です。
また、小規模企業共済は、掛金を担保とした事業資金などの貸付にも対応しています。廃業後の備えとしてはもちろん、事業資金をやり繰りするうえでも、小規模企業共済は便利な制度だといえるでしょう。
3.個人型確定拠出年金
iDeCo(イデコ)の名前でも知られる「個人型確定拠出年金」は、任意で加入できる私的な年金制度です。国民年金のみでは老後が不安だという場合、iDeCoへの加入を視野に入れると良いでしょう。
個人型確定拠出年金への掛金は、小規模企業共済への掛金と同様に所得控除の対象となります。高い節税効果に期待したい場合、あるいはより多くの積立制度を利用したい場合には、「小規模企業共済」との併用も可能です。
会社を廃業する際にかかる費用
会社を廃業する際の費用は、「処分すべき財産(不動産や施設などを含む)があるか」「手続きを税理士や司法書士に依頼するか」などによって異なります。
特に処分すべき財産などがない場合、登記とそれに伴う税金に必要な費用は計4万1000円ほどです。これに加えて官報公告が必要なので、別途4万円前後の費用が掛かります。廃業には最低でも8万円程度の費用が必要と考えてよいでしょう。
また、手続きを税理士や司法書士に依頼する場合、依頼先や内容に応じた報酬を支払う必要があります。
廃業した会社に未払い金が存在する場合
退職金はもちろん、通常の給与を含む未払い金が発生している状態で会社が倒産してしまう例は多々あります。
会社が倒産しても、従業員が未払い金を請求する権利は失われません。また、会社が破産した場合、従業員に対する未払い金は、取引先への債務などよりも優先して支払われます。
それでもどうしても会社が未払い金を支払えないという場合には、「未払賃金立替払制度」を利用できる可能性があります。この制度は名前の通り、未払いの賃金を国が立て替えてくれる制度のことです。
■未払賃金立替払制度を利用する条件
(1) 使用者が、 [1] 1年以上事業活動を行っていたこと [2] 倒産したこと(法律上の倒産、事実上の倒産)(中小企業について、事業活動が停止し、再開する見込みがなく、賃金支払能力がない場合) (2)労働者が、倒産について裁判所への申立て等(法律上の倒産の場合)又は労働基準監督署への認定申請(事実上の倒産の場合)が行われた日の6か月前の日から2年の間に退職した者であること |
立替払の金額は、未払賃金の8割です。また、退職時の年齢ごとに金額の上限が設定されています。
退職金倒産とは?発生しやすい会社の特徴
退職金倒産とは、退職金の支払いをするための資金繰りに支障が生じ、倒産に至ってしまうことをいいます。退職金倒産が発生しやすいのは、高額な退職金を受け取る権利のある従業員が、一度に退職した場合です。大きな事故などの事情がなければ、一般に高齢化が進んだ会社で起こりやすい現象といえるでしょう。
従業員が退職金を受け取る要件を満たしているのであれば、会社が退職金倒産に陥った場合でも、退職金の請求が可能です。また、会社が退職金に充てる財産を持たない場合には、「未払賃金立替払制度」を利用できる可能性があります。
【ケース別】会社が廃業する際の有給休暇の取り扱い
事業を廃業するにあたり、従業員の有給休暇の取り扱いについて悩む経営者の方は少なくありません。ここからは、廃業時の有給休暇の取り扱いについてケース別に解説します。
廃業が事前に通知されていた場合
廃業が事前に通知されていた場合、従業員は廃業までに残った有給休暇を消化することができます。会社側は、従業員から有休休暇の取得の希望があった場合は断ることができません。
廃業までに有給休暇を消化することが難しい場合、就業規則の内容や交渉によっては、有給休暇の買い上げを行うこともあります。
会社が廃業してしまった後は、有給休暇に関する権利も失われます。
なお、従業員は解雇の実施から30日以内に解雇を伝えた時に支払うべき「解雇予告手当」と有給休暇を併用することができます。
廃業に関する通知がなかった場合
事前の通知がなく突然廃業(倒産)する形となった場合、従業員は有給休暇の権利を行使できないことが一般的です。買取に関する規定があれば未払金としての請求が可能ですが、こちらは有給休暇の買取に関するルールが就業規則などに明記されている場合に限られます。
会社廃業時に経営者が重視すべきポイント
会社の廃業を検討している経営者が、あらためて考慮すべきこととは何なのでしょうか。できる限り従業員にわだかまりを残すことなく、事業から退く方法について考えていきましょう。
従業員が納得するまで真摯に対応する
会社の廃業を知った従業員は、失職に伴う不安を抱かざるを得ません。可能な限り従業員のケアを行うことは、経営者の務めといえるでしょう。
- できる限り早い段階(30日以上前)で解雇予告を出す
- 退職金が支払われる旨を伝える
(不可能であれば一時金を用意したり、未払賃金立替払制度を紹介する) - 有給休暇の使用を推奨する
- 有給休暇が消化しきれない場合は、買取を行う
- 再就職のサポートをする
このような対応を取れれば、従業員の不安を軽減することができます。
また、倒産や解雇により職を失った人は「特定受給資格者」として失業手当を受けられる可能性があります。行政のサポート制度を確認して紹介することも、従業員の安心に繋がります。
廃業を考える前に事業承継を検討してみる
自身で経営を行うことが難しい状態であっても、会社に残ったノウハウや設備、人材に興味を持つ企業があるかもしれません。この場合はM&A(買収・合併)の仲介業者などを利用することで、会社や従業員を引き継いだあとに事業を退ける可能性があります。
2018年発行の中小企業白書によると、M&Aによる事業承継を行った企業の約4割が「業績不振の打開」を目的としていたことが分かります。
後継者不足、あるいは業績不振という不安がある場合でも、M&Aに成功できれば会社を廃業する必要はなくなります。
参照元:中小企業庁「中小企業白書(2018年)」第6章第2節 第 2-6-16 図 M & A の実施時期別に見た、M & A の実施目的
関連記事:廃業とは?倒産や閉店などとの違いやメリット・デメリットなどを解説
まとめ
会社を廃業する際、退職金に関する規約が労働条件通知書や就業規則に載っている場合は退職金を支払う必要があります。そもそも退職金を支払うことを条件として設定していない場合は、支払い義務は発生しません。
退職金の支払い義務があるにもかかわらず支払わなかった場合は従業員に訴訟を起こされるなどのトラブルに発展するおそれがあるので、真摯に対応するようにしましょう。
会社を廃業する場合には、登記やそれに関する税金の支払いはもちろん、給与や退職金を含む「従業員の権利」を守るための対応も求められます。場合によっては専門家や行政に相談を行うなどして、可能な限りわだかまりなく、廃業したいところです。
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レバレジーズM&Aアドバイザリーは、経営不振に陥っている法人からの相談も承っています。「退職金の支払いが困難」「従業員が再就職できるか心配」という場合には、M&Aを選択肢の一つに加えてみてください。会社を廃業するのではなく、承継することができれば、退職金を支払う必要がなくなり、さらに従業員の雇用も守ることができます。
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