M&Aとして実施される現物出資とは?メリットや留意点、事例などを解説

2023年8月30日

M&Aとして実施される現物出資とは?メリットや留意点、事例などを解説

このページのまとめ

  • 現物出資とは、会社に金銭以外の財産を出資すること
  • 通常の金銭出資以外のM&Aの手段として、現物出資による増資も有力な手段となる
  • デットエクイティスワップとして債権を現物出資し、債務者を救済することも可能
  • 現物出資は手元資金が少額でも出資可能性があることがメリットとなる
  • 現物出資には検査役調査などの法律上の手続きが必要なため留意が必要

M&Aの方法を検討する中で、通常の金銭による買収以外の方法はないのか、気になっている方も多いのではないでしょうか。
現物出資なら、会社に対して金銭以外の財産(不動産や固定資産、有価証券など)を出資できるため、優良な資産や事業があれば資金が不足していてもM&Aを実施できます。本記事では、現物出資によるM&Aの概要と、手続き上の留意点、会計処理と税務、メリットやデメリット、実際の事例などを解説します。

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現物出資とは

現物出資とは、会社に対して金銭以外の財産を出資することです。会社設立時の出資方法ですが、設立後の増資すなわちM&Aの場面においても採用できます。

現物出資の対象となる財産は、貸借対照表に計上されかつ譲渡可能なものが該当します。通常は不動産、機械装置などの固定資産、有価証券などが利用されますが、事業も出資することができます。

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現物出資によるM&Aとは

現物出資によるM&Aには大きく2パターンあり、会社設立後に通常の出資(増資)として行われる場合と、出資の特殊形であるデットエクイティスワップとして行われる場合とがあります。それぞれについて、以下で詳しく解説していきます。


通常の出資の場合

資産または事業そのものを出資し、対価として株式の交付を受けるケースです。出資を受け入れた企業にとっては、出資者が新たに経営に参画するため、M&Aの一形態と言えます。出資後に共同で営みたい事業を出資する、あるいは事業の中核資産を出資するなどして、互いの連携を深めることが可能です。

デットエクイティスワップに該当する場合

ある会社に対して債権を有している場合、その債権を債務者発行の株式に振り替えるのがデットエクイティスワップです。すなわち、デットエクイティスワップとは、債権者にとって債権を現物出資して株式の交付を受けることを意味します。。債権者は株主となり、通常は経営に参画することになるため、これもやはりM&Aの一形態となります。

出資する財産は必然的に債権となり、債権者による債務者の救済のような性格を有しています。また、取引内容によっては検査役調査が不要になることや、現物出資がグループ内債権者により行われるかどうかによって税務上の取り扱いが変わってくることなど、デットエクイティスワップには特徴的な点がいくつかあります。

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現物出資の会社法上の取り扱い

次に、現物出資に関連する法律のうち、会社法上の取り扱いと留意点について解説していきます。

決議などの要件

現物出資を受ける株式会社は募集株式の発行にあたり、株式数や払込金額等、そして現物出資財産の内容及び価額などの募集事項について、株主総会決議(公開会社では取締役会決議)で決定する必要があります(会社法199条)。

検査役の調査と、免除される場合

金銭出資と異なり、現物出資では出資財産の価額を決定する必要がありますが、会社法207条により原則として当該価額に対して裁判所選任の検査役の調査が必要です。また、裁判所は検査役の報告から出資財産の価額が不当だと考えれば変更決定をすること、現物出資者がそのような場合に出資の意思表示を取り消せることなども定められています。

ただし、検査役調査が免除されるケースもあります。例えば、現物出資財産の価額が少額(500万円以下)の場合や、上場有価証券を時価以下で出資する場合などが挙げられますが、特に重要なのは以下のケースです。

  1. 弁護士や公認会計士等から現物出資財産の価額が相当であることの証明を受けた場合
  2. 出資財産が、一定の要件を満たす債権である場合

2は、デットエクイティスワップを円滑に実施するための規定と言えます。

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現物出資のその他の法律上の留意点

ここでは、会社法とその他の法律に関連して、現物出資において誤認しやすい点や留意が必要な点を解説していきます。

1.会社分割との違い

現物出資で事業を出資する場合、見かけ上は会社分割とよく似ていますが、いくつかの相違点があります。会社分割は組織法上の行為であり、事業という不可分な有機的一体を分離して他企業に取得させることを意味します。つまり、事業を構成する資産や負債がすべて包括的に移転することが特徴です。

一方で、現物出資は取引法上の行為であり、出資する事業に含まれる資産が選択的に移転させられる点と、検査役調査が原則必要という点で会社分割とは異なります。

2.事業譲渡との違い

事業譲渡はその名の通り、事業を譲渡し、対価として金銭を受け取る行為です。他方、現物出資は事業を譲渡し、対価として株式の交付を受けることを指します。単なる事業の売買ではなく、出資者が経営に参画する点で異なります。

3.会社法以外の法律における留意点

現物出資を実施すると、金融商品取引法(発行済株式総数の注記など)、不動産関連の法律(移転登記など)、許認可など他の法律における取り扱いにも影響があるため留意が必要です。

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現物出資の会計処理と税務

現物出資を行う側と受け入れる側の、会計処理(個別財務諸表における取扱いに限定)及び税務について解説していきます。

現物出資をする者側

現物出資者は「事業分離等に関する会計基準」に従い、対価として交付された株式を計上します。まず、現物出資により出資先が子会社または関連会社になる場合は、移転損益を認識せず、出資財産の帳簿価額で相手企業の株式を計上し、それ以外の場合は移転損益を認識した上で出資財産の時価をもって相手企業の株式を計上します。

税務上では、法人税の適格現物出資の要件がポイントです。例えば、事前も事後も完全支配関係にある法人間の対価を株式のみとする現物出資であれば、通常は適格現物出資となり、帳簿価額で譲渡されたとみなされて譲渡損益課税の繰り延べが可能となります。

現物出資を受ける企業側

現物出資を受ける側の企業は「企業結合に関する会計基準」に従い当該資産を計上します。まず、現物出資によって出資者の子会社となるなど「共通支配下取引」に該当する場合、または「共同支配企業の形成」に該当する場合は、出資された資産を出資直前の適正な帳簿価額で計上します。

それ以外のケースは「取得」に該当するため、パーチェス法により、出資された資産を時価で計上します。なお、現物出資を受けるのみでは課税関係は発生しません。

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現物出資によるM&Aのメリット(現物出資をする者側)

ここでは、現物出資をする者の側の、現物出資によるM&Aのメリットを解説していきます。

手元資金が潤沢になくても出資が可能

手元資金に余裕がなく、金銭による出資ができなくても、優良な資産または事業を保有していれば現物出資を実施できる可能性があります。例えば、地方の中小企業でキャッシュリッチではないが不動産を広く保有している場合でも、M&Aの可能性が広がるでしょう。

また、類似の事業を営む会社間で重要な事業用資産を現物出資すれば、資金を減少させることなくM&Aを実行できます。対価として議決権付き株式を交付され、経営上の連携を深めることが可能です。

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現物出資によるM&Aのメリット(現物出資を受ける企業側)

次に、現物出資を受ける企業側の、現物出資によるM&Aのメリットを解説していきます。

デットエクイティスワップにより、債権者からの救済を受けられる

デットエクイティスワップとして現物出資が実施されれば、受け入れた会社側では負債の減少と資本の増加によりバランスシートの改善効果があります。デットエクイティスワップで出資される金銭債権は、条件を満たせば検査役調査も不要となるため、手続上も簡便になります。

また、債権者が完全親会社であり、支配権を維持しながらデットエクイティスワップにより債権を株式に転換する場合には、税制適格要件も満たすため、譲渡損益課税の繰り延べという税務メリットも享受できるでしょう。

完全親子関係にある会社間に債権債務関係があることは珍しくなく、債務超過状態にある子会社がデットエクイティスワップによる救済を親会社に依頼するケースは多くあります。

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現物出資によるM&Aのデメリット(現物出資をする者側)

以下では、現物出資をする者の側から見た、現物出資によるM&Aのデメリットについても見ていきます。

出資できるかどうかは、保有資産の内容による

通常の金銭出資であれば、出資可能な資産の評価金額は明らかです。しかし現物出資財産の場合、一定の評価手続によって価額が決定され、また裁判所選任の検査役による調査により変更が必要となる可能性があります。結果的に想定していた出資金額に満たない可能性もあり、この点は現物出資によるM&Aのデメリットとなります。

出資の実現までに時間がかかる

現物出資を受け入れる企業側のデメリット(後述)にある通り、検査役調査などのために時間を要します。たとえ優良な資産を保有していても、出資が実現するまでには時間がかかるのが現物出資によるM&Aのデメリットです。

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現物出資によるM&Aのデメリット(現物出資を受ける企業側)

最後に、現物出資を受け入れる側の、現物出資によるM&Aのデメリットを見ていきます。

手続が煩雑で費用がかさむ

前述の通り、免除される場合を除き、現物出資財産の価額に対しては裁判所選任の検査役による調査が必要です。この検査は数カ月の期間を要するとされ、煩雑で時間がかかる上に、裁判所により報酬が定められるため費用もかかります。

M&Aによる利益を得ようとしているのに、時間がかかりすぎたり、手続き費用の負担が重すぎたりしては、目的を達成できません。これらは現物出資によるM&Aのデメリットと言えるでしょう。

こうした問題を避けるためには、弁護士や公認会計士、税理士などから、現物出資財産の価額が相当であることの証明を受け、検査役調査の免除を受けることが有効です。通常、顧問税理士などは出資財産の把握のために何らかの評価レポートを入手していることが多いため、追加コストを抑えて証明を取得できるかもしれません。

実際には、このような証明の入手により、検査役の調査が免除されているケースがほとんどです。
なお、現物出資財産が不動産の場合、この免除規定を適用するには、弁護士や税理士などの証明に加えて不動産鑑定士による鑑定評価も必要となります。

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現物出資によるM&Aの実際の事例

ここからは、現物出資によるM&Aの事例を、上場企業のプレスリリースなどを参考に見ていきましょう。

株式会社商船三井の現物出資によるノルウェー企業株式の取得

商船三井は2018年にサブシー支援船事業を営むAKOFS社(ノルウェー)の株式を取得し、これまで以上にサブシー支援船事業に本格参入していくと発表しました。
2016年に設立し、同事業を展開していた合弁会社を現物出資することで、AKOFS社の発行済み株式の25%を取得しています。

サブシー支援船事業は商船三井のメインの事業ではありませんが、安定的な需要と収益を見込めるため、今回のM&Aによって関与を深め、推進・拡大していくとしています。また、AKOFS社の親会社であるAkastor社は、ノルウェーの海運大手グループの中核企業で、本件により協業拡大の機会を追求するとのことです。

※参照元:株式会社商船三井「ノルウェー・AKOFS社株式取得によるサブシー支援船事業への本格参入」2018年6月19日

株式会社フレンドリーに対する親会社からの現物出資

外食事業を営む親会社である株式会社ジョイフルは、2021年にデットエクイティスワップを行い、貸付金債権を現物出資して子会社であるフレンドリーから種類株式の交付(第三者割当)を受けました。

フレンドリーはコロナ禍の影響を受け、居酒屋事業などの業績が低迷して債務超過に陥っていました。フレンドリーは上場企業でもあり、デットエクイティスワップによって発行される株式が普通株式であれば既存株主の利益の希薄化が生じてしまうことから、これを避けるためにいわゆる社債型優先株式(無議決権種類株式)の発行を決定しています。

プレスリリース(2021年12月)では、本件の現物出資において検査役の調査が不要となることも詳細に説明しています。弁済期到来済みの金銭債権が出資され、その価額が対応する負債の帳簿価額以下の場合には検査役調査が不要となりますが、この規定を適用するために、現物出資の対象となる貸付金債権の弁済期を本件第三者割当の実施時点とすることでジョイフルと合意したとのことです。

※参照元:株式会社フレンドリー「第三者割当によるB種優先株式の発行(現物出資(デット・エクイティ・スワップ))及び定款の一部変更並びに資本金、資本準備金の額の減少等に関するお知らせ」2021年12月13日

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まとめ

本稿では、現物出資によるM&Aの概要や留意点、メリット・デメリットを解説しました。

現物出資には、出資者にとっては手元資金が潤沢になくても実施できるメリットがあり、特に中小企業におけるM&Aの有力な手段の一つと言えるでしょう。また、企業にとっては業績が低迷し債務超過の状態でも、デットエクイティスワップとして救済に用いられるメリットもあることから、実際のルール(検査役の調査の免除規定など)に精通しておくことは有効です。

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