このページのまとめ
- 相対取引とは市場を介さず売り手買い手の当事者間で株式売買すること
- メリットは株式価格や数量、決済方法を当事者間で自由に決められる点
- デメリットは価格自由度がある反面どちらか一方が損をする可能性がある点
- 合理的な株価を取引前に把握することでデメリットを低減することができる
市場を介さない「相対取引」は取引相手と1対1で取引することを指し、価格、数量、決済方法などを当事者間で決定するのが特徴です。このページでは、市場取引との違いや相対取引のメリット・デメリット、そして、相対取引における株式価格の価格決定方法について解説します。
自由度の高い取引方法である相対取引の場合、需給バランスで価格が決定する市場取引より大きな利益を得られる可能性にも着目していきます。
目次
M&Aにおける相対取引とは
M&Aにおける相対取引とは、株式売買を実施する際に、市場を介さずに、売買の当事者同士で売買方法、取引価格、取引数量を決定して売買を行う取引のことです。取引価格は需給状況などを勘案しながら、双方の合意により決定されます。
M&A以外でも、相対取引が行われるケースがあります。
具体的には、政策保有株のような大口の株式を売却する場合に相対取引をするケースが挙げられます。これは、大口の株式を一度に市場で売却すると株式相場を乱すため、買い手が決まっている場合に有用な方法です。「相対売買」や「店頭取引」とも呼ばれることがあります。
もう一つの株式売買の手法である市場取引とは
株式売買の方法として、相対取引のほかに市場取引という方法があります。
市場取引とは、市場において不特定多数で取引する方法です。例えば、上場株式であれば、証券取引所を介して買いたい人と売りたい人の間で取引が行われます。個人をはじめとした一般投資家は証券取引所には直接は参加できないため、証券会社に「売り」や「買い」の注文を行い、証券会社が代わりに取引を実行しています。
なお、非上場の中小企業におけるM&Aでは、市場に株式が公開されていないため相対取引が一般的な取引方法となります。
M&Aにおける相対取引のメリットとデメリット
相対取引のメリットとデメリットを考察することで、相対取引ならではの取引価格の自由度を理解し、的確に活用できるよう検討しましょう。
相対取引のメリット
相対取引のメリットとして、下記の2点が挙げられます。
- 価格・数量・決済方法などを当事者間で自由に決めることができる
- 市場における株価の影響を受けることなく取引できる
それぞれについて詳しく解説します。
価格・数量・決済方法などを当事者間で自由に決めることができる
M&Aの株式譲渡において、最大のメリットは、価格や数量、決済方法などを当事者間で自由に決められる点です。株価算定の根拠となる取引価格は、業績・有形資産・事業成長をはじめとした将来の収益性などを考慮して決めることが一般的です。つまり、現在価値と将来価値の双方を勘案して価格が決まると言えます。
市場における株価の影響を受けることなく取引できる
市場価格は需給のバランスによって決まるため、市場取引で大量の株式を買おうとすると、どうしても株価は上昇します。M&Aにおいて、買い手は株価算定に基づき買収資金を用意しますが、該当株式の上昇局面では、当初の予算では全数を買い集めることができなくなります。
その点、相対取引では合意した価格が動くことはないため、予算内で目的の株式を全数買い集めることができます。
そのため、株価が変動する市場取引よりも大きな利益を得られる可能性があるのです。
相対取引のデメリット
一方で、相対取引のメリットとして、下記の3点が挙げられます。
- 取引が不公正になるリスクがある
- 市場取引と異なり取引に時間がかかる
- 市場取引よりもトラブルになるリスクがある
一つずつ解説していきます。
取引が不公正になるリスクがある
相対取引は、株価の設定に自由度がある反面、どちらかが損をする可能性があり、取引が不公正になるリスクがあります。
市場取引は、上述の通り需給バランスで株価が形成されるため、価格には一定の合理性があります。一方、相対取引は当事者間で価格を自由に決められるため、合理的な価格よりも高く取引が成立してしまうリスクがあります。
例えば、M&A実施後に「簿外債務」が発見されることがあります。この簿外債務が取引成立以後に分かった場合、本来の取引価格よりも高く買ってしまったというケースがあります。
M&Aでは、売り手と買い手の二者間における情報の「非対称性」がどうしても存在するため、価格決定の自由度と裏腹にリスクがあることには十分留意する必要があります。
市場取引と異なり取引に時間がかかる
市場取引では、証券会社を介してインターネットや電話で即日取引が可能です。
一方、相対取引の場合は、売り手買い手の双方で価格や決済方法をはじめとするさまざまな条件を決める必要があるため、取引に時間を要します。
市場取引よりもトラブルになるリスクが大きい
相対取引は、取引方法を自由に決めることができるため、トラブルにならないよう注意が必要です。例えば、株券を先に渡して後日現金決済する方法で合意したはずが、現金が送金されてこないといったトラブルが発生するリスクもあります。
M&Aにおける相対取引での株式価格の算定
M&Aにおける相対取引では、売り買いの当事者間で株式の価格を決めます。この意味するところは、二者間取引において、どちらかが損をするリスクをはらんでいるということです。そのため相対取引では、合理的な根拠に基づいて価格を決めることがとても大切になってきます。
事前に合理的な価格を把握することができれば、市場取引より大きな利益を享受することも可能です。そのために、相対取引における代表的な株価算定方法を理解しましょう。
ファイナンス理論に基づく株価算定方法として、主に以下の3つが挙げられます。
- インカムアプローチ
- マーケットアプローチ
- コストアプローチ
それぞれの手法について、詳しく解説します。
インカムアプローチ
インカムアプローチは、過去よりも将来に生み出す利益に着目し、リスク等を考慮した割引率を用いて事業価値を導き出す方法です。
この方法では、企業の将来性や収益性が重視されます。M&Aでの企業価値評価の他に、金融機関の融資判断、事業や設備投資への投資判断のために使われることもあります。インカムアプローチに基づく代表的な算定方法が、下記のDCF法です。
DCF(Discounted Cash Flow)法
事業を行うことによって将来生み出されるキャッシュフローに着目し、企業価値を算定します。具体的には、フリーキャッシュフローをWACC(Weighted Average Cost of Capital)と呼ばれる割引率を使い、現在価値に割り引いた上で株価を算定します。
DCF法はM&Aでの株価算定に加え、新規事業のスタート時に事業投資の判断材料として用いられることもあります。非常に高度なファイナンスの専門性が求められます。
マーケットアプローチ
マーケットアプローチとは、類似企業や上場会社の株価に着目した評価方法です。市場で決定される価格をベースとして、対象会社の株式価値を評価します。代表的なものが市場株価法です。
市場株価法
上場企業のみに用いることができる企業評価方法で、過去3ヶ月から半年程度の平均株価を評価額とします。需給バランスが反映された客観性の高い価格が算定でき、また、数ヶ月分の平均価格を採用するため、短期的な株価変動の影響を排除できるメリットがあります。
コストアプローチ
コストアプローチは、貸借対照表の純資産を基準に企業価値を算出する方法です。貸借対照表を前提とするため客観性に優れた評価方法であり、中小企業のM&Aで多く活用されます。主な評価方法は以下の2つです。
簿価純資産法
簿価純資産法では、貸借対照表の資産から負債を差し引いて株式を評価します。いわゆる純資産に着目した算定方法です。デメリットとしては、貸借対照表は一般的に取得原価に基づいているため、現時点の価値と乖離していることが多いことがあげられます。
また、貸借対照表に基づき過去のある時点の純資産に着目するため、将来性を考慮できない点もデメリットと言えます。業績が長期にわたり安定している企業の評価には向いていますが、業績変動の大きい会社の評価で用いる場合は注意が必要です。
時価純資産法
時価純資産法は、純資産に着目する点は簿価純資産法と同じですが、現時点での純資産額から評価する点が異なります。中小企業では、貸借対照表の資産や負債を取得時のまま計上しているケースが多くあります。
そのため評価時点での実態を表すには、資産・負債の各項目を精査し、現時点での価値で再評価し、株価算定を行う必要があります。簿価純資産法と同様に将来性を考慮できないデメリットがありますが、評価に客観性があることと算定に手間がかからないことから、中小企業の評価では多く用いられるアプローチとなります。
これらのの評価方法にはメリット・デメリットがあるため、ひとつのアプローチで株価算定をするのではなく対象会社の事業特性に応じて複数のアプローチで株価を算定しましょう。
アプローチごとの算定結果を考慮した上で、M&Aにおける取引価格を決めることが一般的です。
まとめ
本稿では、M&Aにおける相対取引について解説をしました。相対取引は非常に自由度が高い点が特徴です。例えば、自由に価格を決定できるメリットがある反面、どちらか一方が損をする可能性もあります。
また、株価算定に基づき合理的な価格を把握して価格交渉に臨めば、市場取引よりも大きな利益を享受することも可能です。ただし、株価算定はM&Aの中でも非常に高度な知識と技術が必要で、高い専門性が求められます。
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