M&Aのエスクローとは?意味や仕組み、メリットなどをわかりやすく解説

2023年8月29日

M&Aのエスクローとは?意味や仕組み、メリットなどをわかりやすく解説

このページのまとめ

  • エスクローとは売買時に第三者が当事者の間に入り、取引の安全性を確保するサービス
  • M&Aでエスクローを利用する方法には信託契約と銀行口座がある
  • M&Aでは多額な資金が移動するため、エスクローが利用されることがある
  • エスクローをM&Aで行うメリットは、第三者が介在することでトラブルを防げる点
  • エスクローをM&Aで行うデメリットは、手間や手数料がかかる点

「M&Aにおけるエスクローとは何?」と疑問をお持ちの方もいるのではないでしょうか?エスクローとは、多額の資金移動が発生する取引を安心して進めるためのサービスのことです。

このコラムでは、エスクローの概要や仕組み、M&Aで利用するメリットとデメリットを解説します。そのほか、エスクローの具体的な方法や活用事例も紹介するため、今後M&Aを検討している方は参考にしてください。

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エスクローとは?

エスクロー(escrow)とは、物品などを売買するにあたって、信頼できる中立的な立場の第三者が契約の当事者間に入り、取引の安全を保障する仲介サービスのことです。「取引保全サービス」と呼ぶこともあります。

エスクローサービスが利用されるのは、不動産売買やM&Aのように多額の資金移動が発生する場面です。ここから、M&Aにおけるエスクローの役割や、エスクローがM&Aで利用される理由を解説します。

M&Aにおけるエスクローの役割

売買代金決済のタイミングと契約履行のタイミングの間に生じる時間差を埋めて、安全性を確保することが、M&Aにおけるエスクローの主な役割です。エスクローは、取引を円滑化させる仲介サービスとして活用されます。

もともとエスクローはアメリカで発達した仕組みで、不動産取引の安全を確保するためのものでした。不動産取引でエスクローを利用する場合、買い手から代金を、売り手から権利証などを寄託された第三者が、決済や登記、引き渡しなどの業務を行います。

近年は、M&Aでも幅広く利用されるようになりました。M&Aで利用する場合、決済の資金の一部を寄託された第三者が、特定の条件が満たされてから決済の資金を売主に支払います。

エスクローがM&Aでなぜ利用されるのか

M&Aにおいて、多額の資金が移動することがエスクローが利用される主な理由です。M&Aでは、取引代金以外にも仲介手数料や各報酬、デューデリジェンス費用などさまざまな費用が発生します。

買い手側の企業は、成功するかどうか曖昧な状態で多額な買収費用を支払うことに不安を感じるでしょう。エスクローを利用すれば、M&Aが完了するまで売買代金が売り手側に入金されることはないため、買い手は念入りにデューデリジェンスを実施してリスクを洗い出したうえで契約を成立させることができます。

また、売り手側も、エスクロー事業者が売買代金を保管していることがわかる点がポイントです。買い手がエスクロー事業者に必要な資金を入金していることがわかれば、売り手は最終的に代金が未入金となる不安を軽減できます。

つまり、金銭の支払いと受け渡しの間に生じる時間差の問題を解消するエスクローは、買い手側にとっても売り手側にとっても、M&Aで公正な取引を進めるために大切なサービスです。

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エスクローの仕組み

日本語で「第三者寄託」とも表現するエスクローの仕組みは、買い手・売り手・エスクローサービス事業者の三者間で成り立っています。以下の段階を踏むことで、取引を確実に行うことが可能です。

  1. 買い手がエスクロー事業者に商品代金を渡す
  2. 売り手が支払いを確認した後に商品を渡す
  3. 売り手がエスクロー事業者から商品代金を受領する

エスクロー全般の仕組みを解説します。

1.買い手がエスクロー事業者に商品代金を渡す

商品売買契約を締結してから、買い手が購入した商品の代金をエスクロー事業者に渡します。

本来、商品を購入して発生した支払い義務は、買い手が売り手に代金を支払うことで解消することが一般的です。一方、エスクローの場合は、エスクロー事業者に代金を支払うことで、買い手の支払い義務が消滅します。

2.売り手が支払いを確認した後に商品を渡す

売り手は、エスクロー事業者に対して支払いがあったことを確認したうえで、商品を買い手に渡します。支払いがあったことを売り手に伝えるのは、エスクロー事業者の役割です。
その後、買い手がエスクロー事業者に対して、商品を受け取ったことを通知します。

万が一、該当する取引が不成立になった場合、保管されている金額は最終的に買い手に戻る点がポイントです。

3.売り手がエスクロー事業者から商品代金を受領する

買い手が商品を受け取ったことをエスクロー事業者に通知してから、売り手は商品代金を受領します。一連の流れはここまでです。

代金の入金が確認できてから商品を買い手に渡すため、売り手は代金を確実に回収できます。また、売り手は代金を受け取るには商品を送付する必要があるため、買い手が商品を受け取れないリスクも軽減できるでしょう。

ただし、買い手が商品を受け取ったにもかかわらず、エスクロー事業者に商品受領の旨を伝えない場合、売り手が代金を受領できないことがある点に注意が必要です。

なお、エスクローを利用する取引では、買い手と売り手の間の商品売買契約を締結する以外に買い手を委託者、売り手を受益者とする信託も設定します(エスクロー事業者が信託銀行の場合)。

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エスクローをM&Aで行う2つのメリット

エスクローをM&Aで行うメリットは、主に以下の2つです。

  • 売り手側と買い手側の認識相違を防ぐことにつながる
  • 第三者が介在することで金銭授受トラブルを防げる

各メリットを解説します。

売り手側と買い手側の認識相違を防ぐことにつながる

M&Aにおいてエスクローを利用することで、売り手と買い手の間で認識の相違が生じることを防げることがメリットです。

M&Aの取引では、買い手と売り手の間で契約に対する見解が異なることがあります。エスクローを利用した場合、契約内容を第三者機関に見せる機会があるため、対等だと思い込んでいた契約が実は自社にとって著しく不利なものであったことにあとから気づくような事態を防げるでしょう。

第三者が介在することで金銭授受トラブルを防げる

エスクローを利用すると第三者が介在するため、金銭授受に関するトラブルを未然に防げる点もメリットです。

エスクローでは、M&A実行後に第三者から入金されるため、売り手は今まで取引したことのない相手でも金銭を受け取り損ねるリスクが低いでしょう。また、買い手も事前にゆとりをもってデューデリジェンスを実施できるため、M&A実施後に対象企業に簿外債務などがあることが判明して損失を被るリスクを軽減できます。

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エスクローをM&Aで行う2つのデメリット

エスクローをM&Aで行う際、以下の2つのデメリットも生じます。

  • 手数料が必要になる
  • 手続きに手間がかかる

各デメリットを確認していきましょう。

手数料が必要になる

エスクローをM&Aで行う場合、エスクロー事業者に対して支払う手数料が発生する点がデメリットです。手数料の金額はエスクロー事業者によって異なります。

一般的には、M&Aの取引価格の1〜2%が相場です。取引金額が大きければ大きいほど、高額なエスクロー費用を支払わなければならない点に注意しましょう。

手続きに手間がかかる

エスクローの手続きに手間がかかる点もデメリットです。M&Aの契約自体でさまざまな手続きが必要なうえに、エスクローの手続きが加わります。エスクローを利用するにあたって、方法や支払い条件などを細かく決めなければなりません。

そのため、一定の日数が余分にかかります。スムーズにM&Aを実行したい買い手や、早く代金を受け取りたい売り手はあらかじめ注意が必要です。

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エスクローの2つの方法と流れ

M&Aでエスクローを行う場合、以下のいずれかを利用することが一般的です。

  • 信託契約
  • 銀行口座

それぞれの流れや特徴を解説します。

方法1.信託契約

信託契約とは、受託者が委託者の財産(信託財産)を委託目的にしたがって管理・処分する契約のことです。エスクローでは、主に以下の流れで進められます。

  1. 買い手とエスクロー事業者が信託契約を締結する
  2. 買い手が信託財産として資金をエスクロー事業者に預ける
  3. エスクロー事業者が信託財産を管理する
  4. 条件が満たされた時点で、エスクロー事業者が売り手に代金を渡す

信託財産として預ければ、万が一委託者の買い手や受託者のエスクロー事業者が倒産した場合でも、影響を受けない点がメリットです。信託法第34条には、受託者が信託財産と、固有財産や他の信託財産とを分別して管理しなければならないこと(分別管理義務)が定められています。

ただし、手続きにあたって必要な確認事項が複雑であるため、手間や時間がかかります。

参照元:e-Gov「信託法第三十四条」

方法2.銀行口座

銀行口座を使う方法とは、当事者(買い手・売り手)のどちらかの名義で口座を用意し、エスクロー事業者が代金を管理・送金することです。銀行口座を用いる場合は、以下の流れで進められます。

  1. 買い手・売り手いずれかの名義で口座を開設する(エスクロー事業者名義の場合もあり)
  2. 買い手が買収の金額を対象の口座に入金する
  3. エスクロー事業者が、対象の口座を管理・運用する
  4. 条件が満たされた時点で、対象の口座から売り手に送金される

銀行口座を利用する場合、スムーズに進められる点がメリットです。一方、万が一エスクロー事業者が倒産した場合に、入金されない可能性がある点がデメリットとして指摘されています。

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エスクローの3つの活用例

エスクローの主な活用例は、以下の3つです。

  • エスクロー口座から分割しリリースする
  • アーンアウト条項の締結に用いる
  • 譲渡企業が複数存在する場合に活用する

具体的な活用例を確認していきましょう。

エスクロー口座から分割しリリースする

エスクロー口座から一度に支払うことが義務ではないため、分割してリリースすることがあります。分割する場合、対象会社が運営する店舗の賃貸借契約更新などのタイミングごとに、リリースすることが一般的です。

分割してリリースすることで、大家側の意向で一部の店舗が契約更新できない場合のリスクを軽減できます。もし一括でリリースすることにしていると、運営するうち一店舗と契約している大家が反対しただけで、M&Aの成約自体が破綻してしまうことがあるでしょう。

アーンアウト条項の締結に用いる

エスクローをアーンアウト条項の締結に用いる事例もあります。アーンアウト条項とは、M&Aの実行後の一定期間内に、対象事業が目標を達成した場合に買い手が売り手に買収対価の残りを支払う取り決めのことです。

エスクローとアーンアウト条項を並行して利用することで、買い手は対象会社の将来性が不透明でも、買収しやすくなります。また、売り手もM&A後に業績が向上して目標を達成すれば受け取る代金が増えるため、モチベーションが高まるでしょう。

譲渡企業が複数存在する場合に活用する

譲渡企業が複数存在する場合に、エスクローで分割してリリースする方法を活用することもあります。

たとえば、売り手がフランチャイズシステムで多店舗を展開していると、複数の企業(店舗)と交渉して契約しなければなりません。その中で、一部の店舗がM&Aに反対することもあるでしょう。

そこで、エスクローの分割してリリースする仕組みを活用し、店舗ごとに支払いを完了する方法があります。それに対し、エスクローを利用しなかったり、エスクローの一括リリースを利用したりした場合、一部の店舗が反対したことでM&Aが頓挫してしまうでしょう。

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まとめ

エスクローとは、物品などを売買するにあたって、信頼性の高い中立的な第三者が当事者の間を仲介し、決済と商品のやりとりの安全性を確保する仕組みです。エスクローを行う場合は信託契約か銀行口座を活用します。

M&Aでエスクローを用いるメリットは、第三者が介在することで金銭授受トラブルを防げる点です。ただし、手間や費用がかかる点がデメリットとして挙げられます。
また、相互でM&A取引に誤解が生じないように、エスクローを活用することもあるでしょう。M&Aは金額が大きい取引になるため、エスクローの利用可否を含め、専門家に相談することが大切です。

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