このページのまとめ
- 株式取得は、買収のカテゴリーに属するM&Aスキーム(手法)の総称
- 株式取得は、株式譲渡・株式交換・株式移転・第三者割当増資の4種類
- 株式譲渡の取引手段には、相対取引・市場買付・TOB(株式公開買付)の3種類がある
- 株式取得は包括承継、事業譲渡は個別承継である点に大きな違いがある
- 株式取得のメリットは、「手続きが簡易」「許認可が継承できる」など
「株式取得とはどのような手法?」と疑問に思っている方もいるのではないでしょうか?
株式取得とは、相手の会社の株式を取得することで経営権を得るM&Aのスキームです。株式取得には主に4つの種類があり、自社に合った手法を選択することが大切です。
本コラムでは、株式取得の各M&Aスキームの内容や手続き、メリット・デメリットなどを解説。また、事業譲渡との違いや仕訳・会計処理の方法なども紹介します。
目次
株式取得とは
株式取得は、複数のM&Aスキーム(手法)の総称です。M&Aスキームは、まず以下の3つの系統に分かれています。
- 買収
- 合併
- 会社分割
株式取得は上記の中の「買収」にカテゴライズされます。そして株式取得は、以下のM&Aスキームの総称です。
- 株式譲渡
- 株式交換
- 株式移転
- 第三者割当増資
M&Aでは、資本が移動することによって権利が移転します。つまり、買収によって、会社の経営権や事業の運営権が、売り手から買い手に移るものです。
株式取得は、買収の対象が売り手企業の株式であることを意味します。
他のM&A手法の種類
ここで、株式取得以外のM&Aスキームも簡単に紹介しておきましょう。まず、「買収」にカテゴライズされるM&Aスキームには、株式取得以外に事業譲渡があります(株式取得と事業譲渡の違いについては後述)。
「合併」にカテゴライズされるM&Aスキームは、吸収合併と新設合併です。合併では、複数の企業を1社に統合します。既存企業間で行われる合併が吸収合併、企業を新設して他の既存企業を吸収させる合併が新設合併です。
「会社分割」には、吸収分割と新設分割があります。会社分割は、売り手企業の事業部門を丸ごと買い手に移転させるM&Aスキームです。吸収分割は既存企業間で行われるもので、新設分割は新設企業が買い手となります。
また、広義のM&Aとして位置付けられているのが「資本提携」です。資本提携では、権利は移転しませんが資本は移動します。具体的には、経営権を左右しない程度の少額出資や、少数の株式の持ち合い、合弁会社の設立などです。
株式取得の4つの種類
株式取得には、以下の4種類があります。
- 株式譲渡
- 株式交換
- 株式移転
- 第三者割当増資
各株式取得の概要を説明します。
株式譲渡
株式譲渡とは、対象企業の株式の過半数を買収することで、その経営権を取得するM&Aスキームです。株式の所有者が代わるだけでM&Aが成立します。当事者間の交渉と契約のみで手続きが進められるため、他のM&Aスキームに比べて簡易的な点が特徴です。
中小企業の場合、オーナー経営者が全株式を所有していることが多く、その場合、より簡潔に手続きが進みます。中小企業のM&Aで最も多く採用されているのが株式譲渡です。
株式譲渡を行う具体的な手段には以下のものがあります。
- 相対(あいたい)取引
- 市場買付
- TOB(株式公開買付)
それぞれの違いを説明します。
相対取引
相対取引とは、売り手と買い手が直接、株式の売買を行う方法です。非上場会社の株式を取得する場合、相対取引しか手段がありません。それは、非上場会社の株式は株式市場に流通しておらず、市場で買い付けることが不可能であるためです。
なお、上場会社の株式を相対取引で取得するケースもあります。
市場買付
市場買付とは、株式市場において株式を買付けることです。取得できるのは上場会社の株式だけです。ただし、企業の買収を目的にして市場買付が採用されることは、ほとんどありません。それは以下のような理由のためです。
- 大量の株式買付は株価が高騰し、買収予算がかさんでしまう
- 市場に出回っている株式数は少なく、買収に必要な数には足りない
- 一度に5%超の割合の株式を取得する場合、TOBを行う義務がある
TOBについては以下で説明します。
TOB(株式公開買付)
TOB(Take Over Bid)とは、株式の買い手が事前に不特定多数の株主に条件を告知し、株式市場外で株式を買付ける方法です。株主に告知する条件は以下のような内容になります。
- 買付株式総数
- 買付価格
- 募集期間
多くの株主からの応募を得られるように、買付価格を株式市場での株価より高くするのが一般的です。株式市場外での取引であるため、市場買付のような株価の急騰は起こりません。
取得する株式の対象企業経営陣の同意を得て行う友好的TOBと、同意を得ないで行われる敵対的TOBがあります。敵対的TOBにはさまざまな防衛策があり、必ずしも成功するとは限りません。
株式交換
株式交換とは、完全親子会社関係になる前提で、買い手が売り手の全株式を取得するM&Aスキームです。現在は法改正により、対価を自社株式・現金・社債から選べますが、以前の対価は株式のみであったため、株式交換といわれています。株式交換がよく用いられるのは、企業グループの再編、グループとしての事業規模拡大や新規事業進出などの場合です。
自社株式を対価にした場合、現金を用意せずに株式を取得できます。ただし、株式交換は包括承継であるため、負債や不要資産も承継しなければなりません。特に、後日になって偶発債務などの簿外債務が発覚した場合は、経営上のダメージとなりかねません。これを防ぐには、念入りなデューデリジェンス(売り手企業の経営状態の精微な調査)が必要です。
株式移転
株式移転とは、新設企業が完全親会社となるために、1社以上の既存企業の全株式を取得するM&Aスキームです。株式移転は、特に持株会社体制の構築や複数の企業を経営統合する際などに用いられます。親会社が新設企業である点を除けば、株式交換と同じ手法です。ただし、新設企業には余剰な資金がないため、現金を対価にできません。
第三者割当増資
第三者割当増資とは、特定の第三者に株式を発行して出資を受け、資本金および資本準備金を増額させることです。株式の発行側とすれば、返済する必要のない資金を調達をしたことになります。一方、出資側としては、以下どちらかが狙いです。
- 発行済株式総数の2分の1未満の出資:新たな株主となることで経営に影響力を持ちつつ関係性を強化する
- 発行済株式総数の過半数の出資:子会社化して経営のイニシアティブを握る
発行済株式総数の2分の1未満の増資だったとしても、株式発行側の株主構成・比率が変化するのは明らかであり、注意が必要です。子会社化したい出資側としては、既存株主が存在するため、第三者割当増資で全株式は取得できません。
株式取得と事業譲渡の違い
事業譲渡とは、売り手が行う事業とそれに関連する資産や権利義務などを、売り手・買い手の協議のうえで選別して売買するM&Aスキームです。
株式取得と事業譲渡は、同じ買収カテゴリーに分類されていますが、両者には違いがあります。大きな違いは、株式取得が包括承継(ただし第三者割当増資は除く)、事業譲渡が個別承継であることです。
簡単にいえば、包括承継とは対象企業を丸ごと買収することですが、個別承継では対象企業の事業や資産などを選別して買収します。
株式取得と事業譲渡の違いを明らかにするため、経営権・許認可・契約の3項目で具体的に比較してみましょう。
経営権
株式取得の買収対象は、対象企業の株式です。株式取得によって、対象企業の経営権は買い手に移ります。一方、事業譲渡の買収対象は、対象企業の行う事業とそれに関連する資産などです。対象事業の運営権は買い手に移りますが、経営権は移りません。これが、株式取得と事業譲渡の根本的な違いです。
したがって、事業譲渡の売り手側の経営者は、手元に残った事業を引き続き行ったり、譲渡対価を資金に新規事業にチャレンジしたりできます。
許認可
株式取得は、株主が代わるだけで会社そのものには何の変化もありません。事業活動は以前と同様に継続できます。一方、事業譲渡は、事業の運営権は取得できても事業の運営に必要な許認可は譲渡対象にできません。許認可とは、申請した事業主に与えられるものだからです。
したがって、事業譲渡の場合、買い手側で時間を逆算して許認可を取得しておかないと、事業譲渡が成立しても事業を開始できない事態になってしまいかねません。
契約
株式取得は包括承継であり、取引先との契約や従業員との労働契約もそのままの状態で買い手が引き継ぎます。一方、事業譲渡では、売り手以外の当事者がいる契約関係は、譲渡対象にできません。そのため、取引先との契約は、それぞれの取引先から個別に合意を得て、新たに買い手との間で契約を締結する必要があります。
従業員との労働契約も同様です。譲渡対象事業に従事している売り手側の従業員一人ひとりから移籍の同意を得て、労働契約を新たに締結して雇用しなければなりません。総じて、事業譲渡では、許認可の申請、契約の締結し直しなど、株式取得では発生しない手続き面が煩雑であるといえます。
株式取得の4つのメリット
株式取得のメリットとして、以下の4点が挙げられます。
- 手続きが簡易的
- 対価が現金(株式譲渡の場合)
- 許認可を継承できる
- 目的や状況に応じたスキームの選択肢がある
メリットは、売り手・買い手に共通するものもあれば、売り手・買い手のどちらかに有効なものもあります。
手続きが簡易的
株式取得は包括承継です。事業譲渡のような煩雑な手続きは発生しません。簡易的でスムーズにM&Aを進められるのは、売り手・買い手に共通する株式取得のメリットの1つです。
注意点として、必ずしも経営権が移るとは限らない第三者割当増資の場合は、株式取得のカテゴリーではありますが、包括承継とはいえません。しかし、手続きという面でいえば、第三者割当増資における売り手は株式を発行して出資を受けるだけであり、税金も発生せず、よりシンプルです。
対価が現金(株式譲渡の場合)
株式取得の1つである株式譲渡の対価は現金です。売り手がオーナー経営者個人であれば、老後資金や新規事業立ち上げなどに自由に使える資金が手に入ります。売り手が企業であれば、事業拡大のための設備投資や新規事業参入などへの事業資金として有効に活用できるでしょう。
株式交換・株式移転においても、対価を現金で受け取る場合は同じことがいえます。第三者割当増資はそもそも増資であり、増資分は有用な資金です。
許認可を継承できる
事業譲渡との違いでも述べたとおり、株式取得であれば買い手は許認可を引き継げるため、再取得などの手間は発生しません。
ただし、許認可の中には、国家資格などの所持者が役員や従業員にいることが条件の場合があります。M&Aを機に退職してしまう役員や従業員がいたり、役員構成を変更したりする場合は注意が必要です。
目的や状況に応じたスキームの選択肢がある
株式取得には4種のスキームがあり、目的や状況に合わせて選択できることもメリットといえるでしょう。
買い手であれば、完全子会社化を目指すなら株式譲渡や株式交換、持株会社体制の構築なら株式移転、資本提携なら第三者割当増資が選べます。また、資金に余裕があるなら株式譲渡や第三者割当増資を選択したり、現金を用意せず対価を自社株式にしたい場合は株式交換や株式移転を選択したりするなど、用意できる資金に応じた選択も可能です。
一方、売り手であれば、現金で対価を得たいなら株式譲渡、上場企業の株主になりたいなら株式交換や株式移転(買い手が上場企業の場合)といった選択肢があります。
株式取得の4つのデメリット
株式取得には、以下のような4つのデメリットがあります。
- 一部の事業だけの引き継ぎはできない
- 不要な資産や負債も引き継ぐ
- 株主が多数に分散されている場合に交渉が困難
- 想定したシナジー効果が創出されない
それぞれの内容を説明します。
一部の事業だけの引き継ぎはできない
株式取得は包括承継であるため、買い手は事業譲渡のように一部の事業だけを買収することは不可能です。売り手企業の中に不採算部門があっても、それを買収対象から外すことなどもできません。
不要な資産や負債も引き継ぐ
包括承継である株式取得のデメリットとして、買い手は不要な資産や負債も引き継がなければならない点があります。事業譲渡のように譲渡対象を選別できない以上、避けられない事態です。
逆に売り手の立場で考えると、会社の中に不採算部門がある場合、株式取得のスキームで会社の売却をしようとしても、包括承継を嫌って買い手がなかなか見つからない事態になってしまうかもしれません。
買い手が株式取得で最も警戒すべきなのは、偶発債務などの簿外債務を引き継ぐことです。簿外債務は、売り手側さえ認識していないケースもあります。簿外債務の内容によっては、企業価値の下落を招くような経営上の大ダメージが起こりかねません。そのような事態を回避するために、十分なデューデリジェンスを実施しましょう。
株主が多数に分散されている場合に交渉が困難
売り手側が非上場の中小企業の場合、株式が少数株主に分散しているケースがあります。そのような場合、一般に買い手は少数株主と個別交渉はしません。話の取りまとめはオーナー経営者に任されます。株式取得に反対する株主がいる場合、交渉が難航するかもしれません。
スクイーズアウトの手法を用いれば、少数株主の持つ株式を強制買取りもできますが、手続きの手間が増えたり確執が生まれたりします。
想定したシナジー効果が創出されない
事業譲渡や合併、会社分割では、売り手の会社や事業は買い手の組織に統合されます。一方、株式取得では、売り手と買い手は親子会社関係になりますが、売り手は子会社として独立性は保たれた状態です。両者をシナジー効果の観点で比較したとき、組織が統合された方が、シナジー効果が発現しやすいとされています。
期待するシナジー効果を得るためには、PMI(Post Merger Integration=経営統合プロセス)が重要です。PMIを成功させるためには、株式取得の交渉過程と並行して、有効なPMI計画を策定しておく必要があります。有効なPMI計画を策定するためには、M&A仲介会社など専門家のサポートを受けるのが得策です。
株式取得の手続き方法・流れ
ここでは、株式取得の方法を、対象企業が上場会社か非上場会社かというケースで分けて説明します。併せて、会社法に規定されている第三者割当増資の手続きも紹介します。
株式取得の対象が上場会社の場合
株式取得の対象企業が上場会社の場合、株式取得する手段は以下の3種類があります。
- 相対取引
- 市場買付
- TOB
M&Aである株式取得では、経営権を得るために少なくとも過半数の株式が必要です。したがって、株主に個別交渉する相対取引は、その相手がよほどの大株主である場合を除いて現実的ではありません。
株式市場で大量買付することになる市場買付は、株価の急騰を招いて買収予算がかさんでしまいます。そこで、友好的株式取得であれ、敵対的株式取得であれ、過半数の株式取得を目指すならTOBが現実的です。
株式取得の対象が上場会社でない場合
株式取得の対象企業が非上場会社の場合、基本的に株式取得の手段は相対取引です。買い手は、中小企業のオーナー経営者に対し、直接交渉して株式取得をします。
ただし、非上場会社でも規模が大きな企業の場合、TOBが実施されることがあります。
第三者割当増資を行う場合
会社法では、第三者割当増資の手続きを以下のように定めています。
- 取締役会で以下の株式募集要項を決める(有利発行の場合は株主総会の特別決議)
<株式数・払込金額・払込期日・増加する資本金および資本準備金> - 上記決定内容を株主に対し払込期日の2週間前までに通知・公告する
- 株式の引受申込希望者へ以下の内容を通知する
<株式会社の商号・募集事項・払込場所・その他法務省令で定める事項> - 引受申込者による以下の内容の書面の交付
<申込者の氏名または法人名・住所・引受ける株式数> - 取締役会で割当募集株式の株式数を決定し申込者に通知する
- 払込期日に引受人が払込を実行
以上は、会社法の199条から213条にかけて規定されています。
株式取得の仕訳
株式取得の際の仕訳を、M&Aのスキームごとに説明します。
株式譲渡の仕訳
株式譲渡の買い手の仕訳は、株式取得対価だけでなく、そこにM&A仲介会社などへ支払った手数料額も加算したうえで「資産」に計上するのがポイントです。勘定科目は、株式取得数次第で以下のように変わります。
- 子会社株式:過半数の株式取得
- 関連会社株式:20%超~50%以下の株式取得
- その他有価証券:20%以下の株式取得
株式譲渡の売り手が会社の場合の仕訳は、株式の売却対価から株式の取得金額を差し引いて「売却損益」を計上します。
株式交換・株式移転の仕訳
株式交換と株式移転は同一の仕訳です。
株式交換・株式移転の買い手(親会社)の仕訳は、子会社株式を「資産」に計上したうえで「資本金および資本準備金」を増やします。一方、売り手(子会社)の仕訳は、投資が清算されたか継続しているかで異なるため注意が必要です。
投資が清算の場合は、親会社からの対価を時価評価し、親会社に渡した子会社株式の簿価との差額を計算して「損益」に計上します。投資が継続の場合は、親会社に渡した子会社株式の簿価をそのまま引き継ぐだけです。
第三者割当増資の仕訳
第三者割当増資の出資者(買い手)の仕訳は、株式譲渡と同様です。「資産」に計上し、取得した株式数の比率に応じた勘定科目「子会社株式・関連会社株式・その他有価証券」のいずれかを用います。一方、第三者割当増資で出資を受けた側(売り手)の仕訳は、増資した額を純資産である資本金および資本準備金に加算する処理です。
まとめ
株式取得は、M&Aで「買収」にカテゴライズされるスキームです。株式取得には、株式譲渡・株式交換・株式移転・第三者割当増資の4種類があります。買収カテゴリーには事業譲渡もありますが、株式取得は包括承継、事業譲渡は個別承継であることが最大の違いです。株式取得と事業譲渡、それぞれのメリット・デメリットをよく比較し、自社のニーズに合ったスキームを選択することが肝要です。
株式取得時のリスクを最小限に抑えたり、自社にとって最適なM&Aを実施したりするためには、M&A仲介会社などの専門家のアドバイスを受けるのが得策です。
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