このページのまとめ
- 承継会社とは、会社分割における買い手側企業のことを言う
- 会社分割を活用することで、承継会社は、後継者の育成や事業拡大、新規事業への進出などを実現できる
- 会社分割を活用することで、承継会社は、事業の選択と集中、事業承継や企業グループ内の事業再編などを実現できる
- 会社分割において、承継会社は現金なしでの事業取得、短期間で手続きが完了することなどといったメリットがある
- 承継会社は要件を満たせば税制の優遇措置を得られる
会社分割を検討されている経営者の方で、「自社が承継会社となる場合、どのような手続きが必要となるのか」と疑問に思っている方も多いのではないでしょうか?
承継会社とは、会社分割における買い手側企業のことです。会社分割では、他方の会社から事業を包括的に承継することになり、事業を包括的に承継する企業のことを承継会社と呼びます。
本コラムでは、会社分割において承継会社となる場合に必要な手続き、承継会社となるメリット・デメリット、発生する費用や税金などを詳しく解説していきます。
目次
承継会社とは?
承継会社とは、M&Aスキーム(手法)の1つである会社分割において、買い手側となる企業を指す用語です。会社分割では、売り手側企業の事業部門を丸ごと、買い手側である承継会社が取得します。一度に取得する事業部門の数に制限はなく、同時に複数の事業部門を承継することも可能です。
会社法において、会社分割は組織再編行為の1つとされています。他のM&Aスキームで組織再編行為とされているのは、合併、株式交換、株式移転です。会社分割は、承継会社の立場の違いで以下の2つの分類があります。
- 吸収分割
- 新設分割
吸収分割は、既存企業間で行われる会社分割です。吸収分割の場合、既存の別の会社が分割された事業を承継します。このプロセスを通じて、例えば不採算部門の切り離しや、特定事業領域の強化などが可能になります。吸収分割を利用することで、組織のスリム化や効率的な経営資源の再配置が期待できます。新設分割では、会社分割のために新設された企業が承継会社となります。こちらは主に、企業の再生や新しい事業の展開に有効で、新設分割によって、既存の組織から独立した新しい事業体が生まれます。また、会社分割では、承継会社が支払う対価の受け取り手の違いで以下の2つの分類があります。
- 分社型分割
- 分割型分割
分社型分割は、売り手企業が承継会社から対価の支払いを受けます。分社型分割は、特に企業が子会社を通じて新しい事業分野に進出したり、既存の事業をより専門化するために用いられます。
分割型分割は、売り手企業の株主が承継会社から対価の支払いを受ける会社分割です。この方式は、分割会社の株主が直接新設された承継会社の株式を受け取るため、株主に直接利益が還元される点が特徴です。
分割型分割の具体的な例を考えると、A社が製造業と卸売業を営んでいる状況で、製造部門を分離し新会社C社を設立する場合、A社の株主はC社の株式を直接受け取ります。この手法は、株主に対して新しいビジネスチャンスを提供しつつ、企業自体は特定の事業に集中することができます。
分割型分割は、事業の特定部門が大きな成長潜在力を持っている場合や、分割によって独立した企業の方がより高い価値を生み出せると考えられる場合に適しています。
したがって、会社分割を細かく分けると以下の4つの分類になります。
- 分社型吸収分割
- 分割型吸収分割
- 分社型新設分割
- 分割型新設分割
分社型吸収分割は、既存企業間で行われる会社分割において売り手企業が承継会社から対価を受け取ります。分割型吸収分割は、会社分割を既存企業間で行い、売り手企業の株主が承継会社から対価を受け取るものです。
分社型新設分割は、承継会社となる新設企業が、売り手企業に対価を支払います。分割型新設分割は、承継会社となる新設企業が、売り手企業の株主に対価を支払うものです。
分割会社との違い
分割会社とは、会社分割における売り手側企業のことです。会社分割では、分割会社の事業部門を丸ごと承継会社に売却します。この丸ごととは、包括承継を意味するものです。会社分割を行うと、分割会社の対象事業に関連する資産、権利義務、従事している社員、取引先との契約など全てが承継会社に移転します。
関連する資産とは、不動産、設備、機械、在庫、備品などの有形固定資産や、商標権、意匠権などの無形固定資産などです。その中には、事業に必要な許認可も含まれていますが、許認可を引き継げない例外の事業もあります。
たとえば、一般自動車運送事業と旅館業は、承継会社が行政庁の許可を取り直さなければなりません。宅地建物取引業の免許取得や貸金業の登録なども、承継会社が新たに行う必要があります。承継会社としては、許認可引き継ぎの可否について、会社分割の効力発生前に確認しておくことが重要です。
分割会社は、分割後も独立した法人として存続し続けることが多く、分割により譲渡されなかった事業を継続して運営します。
事業譲渡会社・事業譲受会社との違い
会社分割と類似するM&Aスキームに事業譲渡があります。
事業譲渡とは、売り手企業の行う事業とそれに関連する資産や権利義務などを選別して売買する取引です。会社分割における分割会社・承継会社のように用語化された用い方はされていませんが、事業譲渡での売り手が事業譲渡会社、買い手は事業譲受会社といえるでしょう。
事業譲渡の場合、主に個別の資産や特定の事業セグメントが移動しますが、会社分割の場合は、会社の一部または全体が包括的に承継会社に移転されます。
事業譲渡では、譲渡される資産の選択が可能で、個々の資産ごとに契約が行われます。対して、会社分割では、事業セグメント全体が一括して移転し、組織や契約関係も含めて承継されます。事業譲渡会社・事業譲受会社間の合意は必要ですが、売りたいもの・買いたいものを選別できるのが会社分割との大きな違いです。会社分割のような包括承継の場合、承継会社は不要な資産や負債なども引き継がなくてはなりません。偶発債務などの簿外債務が隠されているリスクもあります。譲渡対象を選別できる事業譲渡では、不要なものを引き継がずに済むのです。その反面、事業譲渡では許認可は引き継げません。取引先との契約や従業員との労働契約などは、全て個別に同意を得て新たに契約し直す必要があります。
存続会社・消滅会社との違い
組織再編行為であるM&Aスキームには合併もあります。合併とは、複数の企業が1つに統合されるM&Aスキームです。合併による統合後、法人格が残る企業を存続会社といいます。また、存続会社に吸収されて法人格がなくなる企業が消滅会社です。合併には以下の2種類があります。
- 吸収合併
- 新設合併
吸収合併とは、既存企業間で行われる合併のことです。新設合併とは、新設された企業が存続会社となって既存企業を統合する合併をさします。会社分割も、事業組織単位で承継会社が分割会社の事業を統合する点は、合併との類似点といえるでしょう。
会社分割と合併の最大の違いは、会社分割では消滅会社は発生しないことです。分割会社が、たとえ全部の事業を承継会社に会社分割したとしても、法人格だけは残ります。
存続会社という用語は、主に企業合併の際に用いられる用語です。合併において、二つ以上の会社が一つに統合される際、合併後に残る会社を存続会社と呼びます。存続会社は合併前の企業の法人格を継続し、合併によって統合された資産や債務を引き継ぎます。
一方、消滅会社という用語も合併の際に使われる用語で、合併によって法人格が消滅する会社を指します。合併時には、通常、一方の会社が存続会社として残り、もう一方の会社は消滅会社となって法人格が終了します。消滅会社の資産、債務、契約等は存続会社に引き継がれます。
なお、会社分割と合併などのような組織再編行為の場合、法令で定められている要件を満たすと適格組織再編とみなされ、承継会社、存続会社は税制上の優遇措置を受けることが可能です。この点は会社分割と合併の共通点になります。
承継会社の6つの活用方法
会社分割によって事業を承継した会社(承継会社)は、経営者の目的に応じてさまざまに活用することが可能です。承継会社の主な活用方法としては以下の6点が挙げられます。
- 後継者の育成
- 事業拡大
- 新規事業への進出
- 事業の選択と集中
- 事業承継
- 企業グループ内の事業再編
それぞれ、どのような承継会社の活用方法となるのかを説明します。
後継者の育成
会社分割により、承継会社において後継者に経営の経験を積ませることが可能です。企業が複数の事業を運営している場合、特定の事業部門を分割して新たな子会社(承継会社)とすることにより、後継者に実践的な経営経験を積ませることが可能になります。
具体的には、大規模な組織が複数の事業を運営している場合、その一部を新設する子会社、すなわち承継会社に分割し、後継者に経営の実践的な経験を積ませる機会を提供します。このプロセスでは、後継者が承継会社のリーダーとして経営戦略の立案、日常の運営管理、重要な意思決定など、経営に関わる実際の経験を積むことが可能です。
1つの会社の中でも後継者教育はできますが、子会社とはいえ、承継会社において社長の立場となって経営経験を積んだ方が、後日、親会社を引き継ぐ際に役立つでしょう。なお、この場合の承継会社は、分社型新設分割に該当します。
事業拡大
会社分割を行い、新たに形成される承継会社は、事業拡大の大きなチャンスを提供します。特に同業他社の事業を取得することによって、承継会社は瞬時に事業規模を拡大することが可能になります。このプロセスにより、必要な資産、取引先、顧客基盤、従業員などが一気に増加し、市場での競争力を大きく高めることができます。
事業拡大によって得られる主な利点の一つは、スケールメリットの実現です。規模が大きくなることで、コスト効率が向上し、生産効率や経営効率の改善が期待できます。また、営業拠点や営業地域の拡張を通じて、新たな市場への進出や顧客層の拡大が図れます。
さらに、事業統合によって異なる企業文化や経営リソースが融合することで、新たなシナジー効果を創出することも可能です。
なお、この場合の承継会社が該当するのは、分社型吸収分割、または分割型吸収分割です。
新規事業への進出
会社分割により形成される承継会社を活用することで、新規事業への進出が効率的かつリスクを抑えた形で実現可能になります。
通常、新規事業に進出する際には、市場調査、事業計画の策定、資源の確保など、多大な時間、労力、そして財政的な投資が必要となります。また、実際に事業を立ち上げた後も、その事業が安定し成功するまでには長期間の努力とコストが必要です。
しかし、承継会社として異業種の事業を取得することで、新規事業の立ち上げに伴う初期段階の障壁を大幅に低減できます。すでに市場で確立された事業を承継することで、市場分析やブランド構築、顧客基盤の確立などの過程を省略し、即座に事業運営に着手することが可能になります。
また、既存の成功している事業を基盤として新規事業に進出することは、リスクの分散という観点でも有利です。新規事業が想定通りに進まなかった場合でも、承継会社の既存事業が安定した収益を確保しているため、全体としての経営リスクを軽減できます。
なお、この場合の承継会社は、分社型吸収分割、または分割型吸収分割に該当します。
事業の選択と集中
会社分割を利用して承継会社を形成することは、売り手(分割会社)にとって事業の選択と集中を実現する有効な手段となります。多くの企業はリスク分散のために事業の多角化を進めますが、必ずしも全ての事業が成功するわけではありません。このような状況下で、企業は収益性の高い主力事業に経営資源を集中させることが望ましい場合があります。
会社分割を通じて、不採算事業や非主力事業を承継会社へ移管することにより、経営の効率化や焦点の絞り込みが可能になります。これにより、主力事業への投資や開発により多くの資源を割り当てることができ、結果的に企業全体の業績向上に貢献します。
また、会社分割の際に承継会社に対する対価として現金を受け取ることができれば、その資金は主力事業のさらなる強化や新たな成長機会への投資に利用することができます。これは、企業の財務状況を改善し、事業の持続的な成長につながる重要な機会を提供します。
事業承継
会社分割を通じての事業承継は、特に後継者不在で経営者の引退が迫っている中小企業において重要な手段となり得ます。この手法により、企業の持続可能性が高まり、従業員、顧客、取引先、そして地域経済への影響を最小限に抑えることが可能です。
会社分割による事業承継では、現経営者が管理している事業や資産を新たに設立される承継会社に移転します。このプロセスにより、経営者が退任しても、事業は承継会社によって継続され、従業員の雇用も保たれます。このように事業の継続が保証されることは、従業員にとっても、取引先や顧客にとっても大きな安心材料となります。
特に中小企業においては、後継者問題が経営の大きな課題となっています。会社分割を活用することで、後継者がいない、あるいは後継者がまだ経営に必要なスキルや経験を備えていない場合にも、事業を存続させることができます。
また、会社分割による事業承継は、地域経済への影響も軽減します。地域に根差した企業が廃業せずに継続することは、地域社会や地域経済の安定に貢献します。特に地方都市や田舎では、一つの企業が多くの地域住民の雇用を支えることが少なくないため、その企業の存続は非常に重要です。
主力事業を承継会社に会社分割することで、買い手(承継会社)がその事業の新たな運営者となり、事業承継が達成されます。なお、この場合の承継会社は、どの会社分割でも可能ですが、現経営者(株主)個人が対価を得たい場合は、分割型吸収分割、または分割型新設分割にするとよいでしょう。
企業グループ内の事業再編
企業グループの場合、グループ内の事業再編のため、会社分割をして承継会社に1つの事業を集中させることができます。
たとえば、複数のグループ会社が同一の事業を運営している場合、会社分割を通じてこれらの事業を一つの承継会社に統合することができます。このようにすることで、事業の重複を排除し、運営の効率化を図ることができます。また、統合によって生じるスケールの経済を活用し、コスト削減や市場での競争力向上につなげることができます。
逆に、親会社または一つの子会社が複数の関連事業を手掛けている場合、それぞれの事業を別々の承継会社に分割することで、それぞれの事業に特化した運営が可能になります。そのため、各事業の成長ポテンシャルを最大限に引き出すことができます。また、各承継会社はその事業に特化した戦略を立てやすくなり、より効果的な事業展開が可能になります。
1つの事業を集中させる場合の承継会社が該当するのは、分社型吸収分割です。親会社が行っている事業を子会社に引き継がせる場合の承継会社も、分社型吸収分割です。ただし、子会社を新設して事業を引き継がせる場合の承継会社が該当するのは、分社型新設分割です。
承継会社の手続き
会社法で組織再編行為と規定されている会社分割は、実施する際の手続き内容も会社法で規定されており、これを遵守しなければなりません。
ここでは、会社分割の手続きの流れを、吸収分割と新設分割に分けて説明します。承継会社と分割会社では異なる手続きや、承継会社と分割会社のどちらかにしか発生しない手続きもあるため、注意しましょう。
吸収分割における手続きの流れ
吸収分割での手続きの流れは以下のとおりです。
- 取締役会での承認決議
- 会社分割契約の締結
- 事前開示書類の備置
- 労働者への通知と協議(労働者保護手続き)
- 株主総会の招集通知
- 株主総会の開催・特別決議
- 反対株主への株式買取請求通知
- 債権者保護手続き
- 公正取引委員会への届出
- 登記手続き
- 事後開示書類の備置
なお、労働者保護手続きは分割会社のみに発生する手続きです。
1.取締役会での承認決議(承継会社、分割会社)
吸収分割を行う承継会社、分割会社が取締役会設置会社の場合、まずは、取締役会で吸収分割を行う承認決議を経なければなりません(会社法362条)。決議の際には、締結前の会社分割契約書の内容を確認します。併せて、株主総会招集の決定も行います。取締役会を設置していない会社の場合、取締役の過半数が吸収分割に賛成することが必要です(会社法348条)。
2.会社分割契約の締結(承継会社、分割会社)
吸収分割に対する取締役会の承認決議または取締役の賛成が取れた後、承継会社と分割会社は会社分割契約書を締結します。会社分割契約書には、会社法757条と758条で定められた記載事項を網羅しなければなりません。主な記載事項は以下のとおりです。
- 承継会社、分割会社それぞれの商号、住所
- 分割会社から承継会社に分割される資産、負債、権利義務、労働契約などの内容
- 承継会社が支払う対価の内容
- 吸収分割の効力発生日およびそれまでのスケジュール
吸収分割の場合、承継会社が支払う対価は、現金以外に自社株式、社債、新株予約権付社債、その他の財産のいずれでも可能です(会社法758条)。なお、新設分割では、新設である承継会社には余分な現金はないため、それ以外の対価になります。
3.事前開示書類の備置(承継会社、分割会社)
会社法782条と794条の定めにより、承継会社と分割会社はそれぞれ会社分割契約書などの吸収分割に関する各種書類を開示し、さらにそれらを本店に備え置かなければなりません。株主または債権者から求めがあった場合には、事前開示書類の閲覧を認める必要があります。
備置期間の開始日は、以下のうち一番早い日にするのが定めです。
- 株主への通知日または公告日
- 債権者への保護手続き通知日または催告日
- 株主総会開催の2週間前
事前開示書類の備置期間は、開始日から6ヶ月間です。
4.労働者への通知と協議(労働者保護手続き、分割会社)
吸収分割を行う分割会社は、労働者保護手続きの一環として、吸収分割で承継会社に転籍することになる従業員に対し、労働契約の承継の有無や吸収分割後の業務内容などの事前通知と協議をしなければなりません。これは、「会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律 (通称、労働契約承継法)」で定められています。
労働組合がある会社では、労働組合への通知も必須です。また、分割会社は、従業員、労働組合への通知から最低2週間の期間を設けて、従業員が転籍に異議を申し出る機会を作らなければなりません。
5.株主総会の招集通知(承継会社、分割会社)
吸収分割を実施するには、承継会社、分割会社ともに株主総会の特別決議による承認が必要です(会社法309条、783条、795条)。臨時株主総会開催のために、株主に招集通知を送付します。
会社法299条の定めにより、株主総会の招集通知の送付期限は、上場企業においては株主総会開催日の2週間前まで、非上場企業においては株主総会開催日の1週間前までです。ただし、電子投票や書面投票を行う非上場企業の場合は、2週間前までの送付期限となっています。
6.株主総会の開催・特別決議(承継会社、分割会社)
臨時株主総会の開催日を迎えたら、承継会社と分割会社は特別決議による承認を得なければ吸収分割が実施できません。出席株主の過半数の賛成で議決できる普通決議と違って、特別決議では、議決権を有する過半数の株主が株主総会に出席している状況で採決を行い、その3分の2以上から賛成を得る必要があります。
この臨時株主総会の開催日は、会社法783条の定めにより、会社分割契約書に定めている吸収分割の効力発生日前日までが期限です。
7.反対株主への株式買取請求通知(承継会社、分割会社)
会社法785条と797条の定めにより、吸収分割に反対を表明した株主は、承継会社または分割会社に対し、株式の買取請求をできることになっています。承継会社、分割会社は、それぞれの株主に対し、吸収分割に反対する株主は株式買取請求ができるという通知もしなければなりません。
株式の買取請求期間は、吸収分割の効力発生日の20日前から前日までの間です。
8.債権者保護手続き(承継会社、分割会社)
会社法789条と799条では、吸収分割を行う承継会社と分割会社に対し、それぞれの債権者を保護する手続きも定めています。具体的な内容は、債権者に対し、吸収分割を実施することとそれについて会社に異議を申し立てられることを官報で公告し、さらに債権者個別に催告することです。
公告および個別催告を行わなければならない期日は、吸収分割の効力が発生する1ヶ月前までとなっています。なお、承継会社または分割会社が、定款にて「電子公告または日刊新聞への掲載を行った場合には個別催告の代わりにできる」としている場合、電子公告または日刊新聞への掲載で個別催告を省略可能です。
債権者保護手続きが適正に行われていないと吸収分割が認められません。異議が申し立てられた場合の対応も重要です。
9.公正取引委員会への届出(承継会社、分割会社)
以下のいずれかの要件に該当する吸収分割の承継会社と分割会社は、吸収分割の効力発生前に公正取引委員会に届け出て審査を受けなければなりません。これは独占禁止法15条の定めです。
- 全ての事業を分割する分割会社のいずれか1社の企業グループ国内売上高合計額200億円超、かつ承継会社の企業グループ国内売上高合計額50億円超
- 全ての事業を分割する分割会社のいずれか1社の企業グループ国内売上高合計額50億円超、かつ承継会社の企業グループ国内売上高合計額200億円超
- 重要な事業を分割する分割会社のいずれか1社の分割対象事業の国内売上高100億円超、かつ承継会社の企業グループ国内売上高合計額50億円超
- 重要な事業を分割する分割会社のいずれか1社の分割対象事業の国内売上高30億円超、かつ承継会社の企業グループ国内売上高合計額200億円超
なお上記の要件に該当しても、企業グループ内で行われる吸収分割の場合は届け出る必要はありません。
公正取引委員会の審査期間は、届出受理後120日、または届出後に追加提出が求められた資料の受理後90日のどちらか遅い方となっています。公正取引委員会に認められないと吸収分割が行えません。
10.登記手続き(承継会社、分割会社)
ここまでの手続きが無事に終わっていて、会社分割契約書に定めた効力発生日を迎えたら、同日をもって分割会社の事業は承継会社に移転します。
承継会社、分割会社ともに、吸収分割の効力発生日を迎えてから2週間以内に、管轄の法務局にて変更登記の手続きをしなければなりません。これは、会社法903条における定めです。
11.事後開示書類の備置(承継会社、分割会社)
吸収分割の効力発生日を迎えたら、承継会社、分割会社ともに、会社法で定められた吸収分割の事後開示書類を備え置かなければなりません。これは、会社法791条と801条の定めです。事後開示書類を備置する場所は、事前開示書類と同様に本店と定められています。
備置期間は、吸収分割の効力発生日から6ヶ月間です。株主や債権者からの閲覧要求には、対応しなければなりません。
新設分割における手続きの流れ
新設分割の手続きの流れは以下のとおりです。
- 新設分割計画書の作成
- 定款の作成・認証
- 取締役会での承認決議
- 事前開示書類の備置
- 労働者への通知と協議(労働者保護手続き)
- 株主総会の招集通知
- 株主総会の開催・特別決議
- 反対株主への株式買取請求通知
- 債権者保護手続き
- 公正取引委員会への届出
- 資本金の払込み
- 登記手続き
- 事後開示書類の備置
承継会社を新設しなければならない点が吸収分割との違いです。また、多くの手続きは分割会社側のみで発生します。
1.新設分割計画書の作成(承継会社、分割会社)
新設分割は、登記を行う日まで承継会社が存在しない状態です。したがって、吸収分割のように会社分割契約書が締結できません。そこで、新設分割では、会社分割契約書に代わるものとして、新設分割計画書を作成することが会社法762条で定められています。新設分割計画書に記載する主な事項は以下のとおりです。
- 新設分割設立会社(承継会社)の目的、商号、本店住所、発行可能株式数
- 新設分割設立会社の発起人(出資者)の氏名または商号
- 新設分割設立会社の資本金、資本準備金の額
- 新設分割設立会社設立時の取締役、監査役、会計参与などの氏名
- 新設分割設立会社のその他の定款内容
- 分割会社から承継する資産、債務、労働契約、その他の権利義務
- 新設分割設立会社の支払う対価の内容と算定方法
- 新設分割設立会社の登記予定日とそれまでのスケジュール
以上は、会社法763条で定められています。
2.定款の作成・認証(承継会社)
会社法26条では、会社を設立する際には定款を作成することを義務付けています。新設分割の場合、新設分割計画書において新設分割設立会社の定款の内容を決めています。それを定款として認証する作業が必要です。
定款の認証とは、会社法30条で定められているもので、作成した定款を公証役場に持ち込み、公証人から認証を受けます。この認証によって、定款が法令に基づいて適正に作成されたことの証明になるのです。
3.取締役会での承認決議(分割会社)
新設分割では、分割会社が取締役会設置会社であれば、取締役会で新設分割計画書の承認決議を行います。取締役会非設置会社では、新設分割計画書に対する取締役の過半数の賛成が必要です。また、株主総会の招集の決定も行います。
4.事前開示書類の備置(分割会社)
承継会社はまだ設立されていないため、この手続きは分割会社のみに発生します。内容は吸収分割と同じです。
5.労働者への通知と協議(労働者保護手続き、分割会社)
この手続きは分割会社のみに発生します。内容は吸収分割と同じです。
6.株主総会の招集通知(分割会社)
承継会社はまだ設立されていないため、この手続きは分割会社のみに発生します。内容は吸収分割と同様です。
7.株主総会の開催・特別決議(分割会社)
承継会社はまだ設立されていないので、この手続きは分割会社のみに発生します。内容は吸収分割と同じです。
8.反対株主への株式買取請求通知(分割会社)
承継会社はまだ設立されていないため、この手続きは分割会社のみが行います。内容は吸収分割と同じです。
9.債権者保護手続き(分割会社)
承継会社はまだ設立されていないため、この手続きは分割会社のみに発生します。内容は吸収分割と同じです。
10.公正取引委員会への届出(分割会社)
新設分割の方法が共同新設分割の場合、要件に該当する分割会社は、公正取引委員会に届け出て審査を受けなければなりません。共同新設分割とは、2社以上の既存企業が1つの新設会社に事業を分割する新設分割のことです。届け出の要件は、下記の表のとおりです。それぞれの行の内容をすべて満たす場合、届け出が必要です。
全部承継会社の売上高 | 重要部分承継会社の売上高 | 承継事業の売上高 | |
要件1 | いずれか1つの企業が200億円以上、かつ他1つの企業が50億円以上 | – | – |
要件2 | いずれか1つの企業が200億円以上 | いずれか1つの企業が30億円以上 | – |
要件3 | いずれか1つの企業が50億円以上 | いずれか1つの企業が100億円以上 | – |
要件4 | – | いずれか1つの企業が50億円以上 | いずれか1つの企業が30億円以上 |
上記のいずれかの要件に該当しても、企業グループ内で行われる共同新設分割の場合は届け出る必要はありません。公正取引委員会の審査期間は、吸収分割の届出の場合と同様です。届出受理後120日、または届出後に追加提出が求められた資料の受理後90日のどちらか遅い方となります。
11.資本金の払い込み(承継会社)
会社の新設にあたっては、設立登記をするまでに資本金の払い込みを済ませることが必要です。会社の設立には、以下の2種類があります。
- 発起設立
- 募集設立
発起設立では、出資者となる発起人が出資を行います(会社法34条)。募集設立では、発起人が行った出資の募集に申し込みをした設立時募集株式の引受人と発起人が出資します(会社法57条、63条)。
12.登記手続き(承継会社、分割会社)
新設分割の効力発生日は、承継会社が管轄の法務局に設立登記を行った日になります。そのため、分割会社が行う変更登記は、承継会社の設立登記と同時に行わなければなりません。新設分割の効力の発生などに関しては、会社法764条で定められています。
13.事後開示書類の備置(承継会社、分割会社)
この手続きの内容は吸収分割と同様です。
承継会社になる4つのメリット
会社分割で承継会社になる主なメリットは以下の4点です。
- 現金なしに事業を承継できる
- 短期間で手続きが完了する
- シナジー効果が期待できる
- 要件を満たすと税制の優遇措置が得られる
承継会社のそれぞれのメリットの内容を説明します。
現金なしに事業を承継できる
会社分割で承継会社が支払う対価は、現金、自社株式、社債、新株予約権付社債、その他の財産などの中から決められます。たとえば、類似するM&Aスキームである事業譲渡の場合、対価は現金のみです。一方、会社分割での承継会社は、現金以外を対価にすることが可能なので、現金を調達せずにM&Aを実施し事業を取得できます。
なお、新設分割では、承継会社は新設企業です。まだ事業活動を行っていないため資本金以外の現金を所有していません。したがって、新設分割での承継会社の対価は、そもそも現金以外のいずれかとなります。
短期間で手続きが完了する
会社分割を利用して承継会社を設立する場合、手続きの完了が比較的短期間で可能なのは大きなメリットです。これは主に、会社分割が包括承継の性質を持っているためです。そのため、事業譲渡におけるような個々の契約や手続きに関わる時間と労力を大幅に削減できます。
具体的には、以下の点で時間短縮が期待できます。
- 契約関係のシンプル化
- 従業員関連の手続きの簡素化
- 許認可やライセンスの継続
- 管理的な負担の軽減
会社分割では、承継会社が既存の契約を包括的に引き継ぎます。そのため、取引先との個別の契約引き継ぎ交渉や再契約の必要がありません。また、従業員との労働契約も同様に包括承継されるため、個別の労働契約の交渉や結び直しのプロセスが不要になります。特定の許認可やライセンスも承継会社に移行するため、新たにこれらを取得する必要がなくなります。そのため、行政手続きの時間と労力が節約されます。
このように、資産や負債、従業員、契約などが一括で移転されるため、これらを個別に管理する負担が軽減されます。
シナジー効果が期待できる
会社分割によって形成される承継会社は、元の会社の事業部門を内包することにより、顕著なシナジー効果を期待できる可能性があります。この組織再編は、株式譲渡や通常のM&A手法と比較して、事業のより密接な統合を可能にします。
シナジー効果が期待される主な理由は以下のとおりです。
理由 | 概要 |
効率的な資源の共有と活用 | 承継会社による事業統合は、人的資源、技術、知識、および経営資源の共有を促進する。そのため、重複するコストが削減され、効率的な運営が可能になる。 |
経営戦略の統一と実行力の向上 | 単一の経営チームによる一元的な経営戦略の立案と実行が可能になる。そのため、戦略の一貫性が高まり、迅速な意思決定と実行力が向上する。 |
事業シナジーの創出 | 異なる事業領域間での協力や新しい事業チャンスの発見が容易になる。異なる事業部門間でのアイデアの交流や新しい市場への進出、製品開発など、革新的な取り組みが促進される可能性がある。 |
市場での競争力強化 | 統合された事業は、市場でのより強固なポジショニングを達成しやすくなる。市場シェアの拡大、顧客基盤の拡張、ブランド価値の向上などが期待できる。 |
リスク管理の強化 | 事業リスクを共有することで、リスクの分散や効果的な管理が可能になる。そのため、事業の持続可能性が高まり、長期的な安定性が確保される可能性がある。 |
内部プロセスの最適化 | 統合された運営により、内部プロセスの合理化が進む。そのため、生産性の向上やコスト削減が実現される可能性がある。 |
会社分割での承継会社は、分割会社の事業部門を自社内に統合するものです。株式譲渡などの買収スキームにより他社を子会社化するM&Aと比べ、承継会社内に事業統合してしまう方が、一般的にシナジー効果は発揮されやすいとされています。シナジー効果が発現すれば、大幅な業績の向上が見込めるでしょう。
要件を満たすと税制の優遇措置が得られる
会社法で組織再編行為と定められている会社分割・合併・株式交換・株式移転では、組織再編税制が導入されています。
組織再編税制の要件を満たした会社分割を行った承継会社は、適格会社分割の承継会社とみなされ、税制上の優遇措置を得られるのです。具体的には、承継会社が分割会社から引き継いだ資産、負債の簿価での計上が認められるため、実質的に法人税の課税が発生しません。
承継会社になる4つのデメリット
会社分割の承継会社においては、以下のデメリットを被る場合があります。
- 株主構成が変わってしまう場合がある
- 債務を引き継ぐ可能性がある
- 統合作業に時間・手間がかかる
- 要件を満たさないと税制の優遇措置を得られない
承継会社のそれぞれのデメリットについて、以下に説明します。メリットとデメリットは、表裏一体の場合もあり、メリットを取るかデメリットを避けるか、その見極めが肝要です。
株主構成が変わってしまう場合がある
会社分割の対価には、承継会社の自社株式がよく用いられます。承継会社のメリットでも触れたとおり、現金を用意せずにM&Aを実施できるのは大いに利点です。
しかし、対価を承継会社の自社株式にした場合、新株を交付することになり、承継会社における株主構成が変わってしまうことを意味します。交付する株式数によっては、大きな議決権を有する株主が新たに加わることになり、経営への影響が懸念されるでしょう。
簿外債務を引き継ぐ可能性がある
会社分割で事業を承継する場合、承継方法は包括承継になるため、簿外債務を引き継いでしまうリスクがあります。
たとえば、ある事業が製造した製品に欠陥があった場合、それに起因するリコール(製品回収)義務も承継企業が引き受けることになります。これは、公に記録されていない、予見されていなかった負担(簿外債務)をも引き継ぐことを意味します。
また、第三者に対する債務保証や潜在的な訴訟リスクなども引き継がれる可能性があります。これらの債務は財務諸表には表れないため、承継前の徹底したデューデリジェンス(事前調査)が不可欠です。万一、承継後にこれらの問題が顕在化した場合、承継企業は予期せぬ負担を負うことになります。
統合作業に時間・手間がかかる
会社分割を行った承継会社では、M&A後、買い手側企業が必ず行うPMI(Post Merger Integration=経営統合プロセス)で、手間取ったり混乱が生じたりする可能性があります。承継後の企業の成否は、PMIの実施の成否に大きく依存すると言っても過言ではありません。
特に会社分割の場合、異なる組織文化を持つ2つの組織が1つに統合される過程は、多くの課題を含んでいます。統合作業において、ポイントとなるのは以下のとおりです。
- 組織文化の統合
- 従業員の適応期間
- 従業員サポートの重要性
元々異なる企業であった2つの組織が統合される際、それぞれの組織文化、働き方、経営理念などが異なることが普通です。この文化的な違いは、従業員の仕事の進め方、コミュニケーションのスタイル、意思決定プロセスに影響を及ぼします。
また、異なる組織で仕事をしていた従業員が、承継会社の組織文化や仕事のやり方に慣れるまでには時間が必要です。この適応期間中に従業員の不安や混乱が生じる可能性があり、これが企業の生産性や効率に影響を与える恐れがあります。
従業員のサポート体制が不十分だと、新たな組織文化への適応が滞り、承継会社としてのメリットを十分に享受できなくなる可能性があります。経営陣やHR部門による積極的なコミュニケーション、適切なトレーニングプログラムの提供、そして従業員の意見や懸念を十分に聞き取ることが必要です。
買収によって売り手を子会社化するM&Aにおいては、売り手が独立性を保っているため、PMIを行う際の混乱は起きにくいとされています。一方、分割会社の事業部門を自社内に統合する承継会社においては、PMIを円滑に進めるには手間や時間を要する場合もあるでしょう。
要件を満たさないと税制の優遇措置を得られない
税制上の優遇措置を得られる適格会社分割を行うには、いくつもある要件を満たし、なおかつ、その状態を維持しなければなりません。承継会社が適格会社分割を行ったと認められるには、税法上の専門知識が必要であるうえ、状況によっては要件のハードルが高く実現が困難なこともあるでしょう。
適格会社分割とみなされなかった承継会社では、分割会社から引き継ぐ資産、負債を時価で計上しなければなりません。その場合、簿価と時価の差額がプラスであれば益金とみなされ、法人税の課税対象となってしまいます。
承継会社となった会社分割の事例【2024年度最新版】
ここからは、2023年度に実際に行われた会社分割の事例を取り上げていきます。取り上げる事例は以下のとおりです。
- 良品計画を承継会社とする会社分割の事例
- GMOフィナンシャルホールディングス株式会社を承継会社とする会社分割の事例
- 日清食品株式会社を承継会社とする会社分割の事例
それぞれ解説します。
良品計画を承継会社とする会社分割の事例
2023年9月、良品計画が行なった注目の会社分割事例として、三菱商事ファッション(MCF)の衣料品製造販売事業の一部を承継したケースがあります。
この事例は、良品計画の衣料品事業の強化という戦略に基づいたものです。良品計画において衣料品事業は、コロナ禍以降の経営上の課題となっており、今回の会社分割によって良品計画は生産体制の強化を目指すとしています。
具体的には、2024年5月1日に予定されている分割により、MCFの衣料品製造販売事業を担当している部門が良品計画に移管されます。移管される部門の従業員は約30人で、承継する部門の年間売上は328億円とされています。
この会社分割は、良品計画が開発・生産体制を社内で確立し、衣料品事業を強化するための重要な一歩を意味しています。商社機能の内製化によって、工場との直接取引を進めることで、コスト削減と生産の迅速化が図られると見込まれています。
この会社分割は、良品計画の経営テーマ「開発・生産体制の確立」の実現に寄与するもので、MCF社からの従業員承継により、新しい組織が形成されます。この取り組みにより、良品計画はより効率的で競争力のある事業運営を目指すとしています。
参考元:株式会社良品計画「会社分割(簡易吸収分割)による権利義務の承継に関するお知らせ」
GMOフィナンシャルホールディングス株式会社を承継会社とする会社分割の事例
2023年8月、GMOフィナンシャルホールディングスは自社を承継会社とする株式分割を実行しました。GMOフィナンシャルホールディングス株式会社を承継会社としたこの会社分割の事例は、同社が完全子会社であるGMO外貨株式会社のシステム開発・運用・保守等事業を承継することに関連したものです。
この会社分割は、GMOフィナンシャルホールディングスが2021年9月に子会社化したGMO外貨のシステム部門を、親会社であるGMOフィナンシャルホールディングスに統合するために行われました。GMO外貨を吸収分割会社、GMOフィナンシャルホールディングスを吸収分割承継会社とする形式の吸収分割です。
GMOフィナンシャルホールディングスは、GMO外貨に対して自社の普通株式を交付することにより、システム開発・運用・保守等の事業を承継します。この戦略的な会社分割の目的は、子会社が提供する各サービスのシステム部門を親会社に集約し、より機動的かつ柔軟に市場や顧客ニーズの変化に対応する組織を構築することにあります。
これにより、GMOフィナンシャルホールディングスはノウハウ共有を促進し、サービスの価値向上、システム開発の生産性向上、そして運用管理の効率化を図ることができ、事業成長をさらに推進することが期待されています。
参考:GMOフィナンシャルホールディングス株式会社「完全子会社との会社分割(簡易吸収分割)に関するお知らせ」
日清食品株式会社を承継会社とする会社分割の事例
2023年5月、日清食品株式会社は、ライオン株式会社から「ラクトフェリン」シリーズを含む機能性表示食品の一部事業を会社分割によって承継しました。
この分割は、ライオンの中期経営計画「Vision2030 1st STAGE」の一環として、事業ポートフォリオの改善を目指す動きの1つです。分割により、日清食品はライオンから通信販売で展開している機能性表示食品の一部に関わる事業を承継します。
日清食品は、自社の企業理念「美健賢食」のもと、健康志向製品の開発と販売に注力しており、この承継は日清食品の製品ラインアップの拡充と顧客基盤の拡大、さらに通販・ダイレクトマーケティング事業の強化に貢献すると見られています。
ライオンが販売していた「ナイスリムエッセンス ラクトフェリン」は、内臓脂肪を減らす助けとなる機能性表示食品であり、「ラクトフェリン サプリメント市場」での売上金額シェアNo.1を記録しています。これらの製品を日清食品が引き継ぐことで、日清食品はヘルス&ビューティーカテゴリーの製品群を充実させることが期待されています。
参考:日清食品株式会社 「『ラクトフェリン』 シリーズを含む機能性表示食品事業の一部取得について」
承継会社になることで発生する費用
会社分割の承継会社になることで、以下の税金が発生、または税額が変わる場合があります。
- 登録免許税
- 不動産取得税
- 法人住民税
- 法人事業税
- 官報公告費
- 専門家に対する報酬
それぞれの内容を確認しましょう。
登録免許税
会社分割での承継会社は、吸収分割では法人の変更登記、新設分割では法人の設立登記を行います。それぞれの登記では、以下の登録免許税がかかります。
- 吸収分割:増加した資本金額の0.7%相当額(計算結果が3万円未満の場合は3万円)
- 新設分割:資本金額の0.7%相当額(計算結果が15万円未満の株式会社は15万円)
会社分割により不動産を取得した承継会社は、所有権を移転させる登記を行います。その際の登録免許税は、不動産価額の2%相当額です。
不動産取得税
会社分割で不動産を取得した承継会社は、不動産取得税も課されます。取得した不動産が土地と家屋(住宅)の場合は不動産評価額の3%の税率、住宅以外の家屋の場合は不動産評価額の4%の税率です。ただし、以下の要件を全て満たしていると、不動産取得税は免税されます。
- 対価は承継会社の株式のみ
- 分割される事業が今後も承継会社で継続される見込み
- 分割される事業に従事する分割会社の従業員の8割以上が承継会社に転籍
- 分割事業に関連するほとんどの資産、負債が承継会社に移転
- 分割型分割の場合、それぞれの分割会社株主に対価として交付される株式数が、分割会社の株式保有率に合わせてある
また、評価額が10万円未満の土地と12万円未満の家屋の場合も課税されません。
法人住民税
均等割の法人住民税の場合、計算の基となるのは資本金と資本準備金の合計額です。吸収分割の結果、資本金および資本準備金の金額が上がる承継会社の場合、それだけ法人住民税の金額も高くなることになります。法人住民税は、都道府県と市区町村の両方に納めるものです。詳しい税額の計算方法・内容は、税理士や公認会計士などの専門家に確認しましょう。
法人事業税
法人事業税は、承継会社の本店が置かれている都道府県に納める税金です。法人事業税の税率は、資本金の額で変わります、具体的には、資本金が1億円以下と1億円超で税率が変わるため、会社分割で資本金が増加して1億円超となった承継会社の場合は、法人事業税が増えることになります。具体的な税額の計算方法は、税理士や公認会計士などの専門家に確認しましょう。
官報公告費
会社分割を行った場合、その事実を広く公表することが会社法で規定されています。
そのため、会社は官報を利用して公告を行います。官報公告に関する料金は、公告の内容や掲載範囲によって異なりますが、一般的な会社分割の公告における基本料金の目安は約30,000円です。
ただし、この料金はあくまで基本的な公告に関するものであり、公告の文字数や内容、特別な掲載要望によっては追加料金が発生する可能性があります。実際の公告費用は各企業の具体的な状況に応じて異なります。
専門家に対する報酬
専門家への報酬は、そのサービスの内容や会社のケースによって異なります。例えば、会社分割に関する登記のみを司法書士に依頼する場合、報酬はおおよそ20万円から30万円程度が一般的です。しかし、会社分割に関する包括的なサポートをコンサルタントなどに依頼する場合、報酬は数百万円から数千万円に上ることもあります。おおまかな目安は、下記のとおりです。
専門家 | 報酬額の目安 | 備考 |
司法書士 | 20万円~30万円 | 会社分割の登記 |
弁護士・コンサルタントなど | 着手金50万円~, 成功報酬50万円~ | 会社分割の相談・依頼 |
また、M&A仲介会社を利用することで、費用を抑えることが可能な場合もあります。これは、仲介会社が提供するサービスが多岐にわたるため、特定の分野の専門家を別途雇う必要がなくなることが理由です。特に、M&Aに精通している仲介会社は、会社分割のプロセスにおいても専門的な支援を提供できるため、効率的な手続きとコスト削減が期待できます。
まとめ
承継会社とは、会社分割を通じて新しく設立される企業や、既存事業が移転される企業のことを言います。会社分割は特定の事業部門や資産を独立した法人として分離する方法です。会社分割は、企業が事業の選択と集中を図ったり、事業拡大や新規事業への進出、後継者の育成など、多様な経営戦略を実現するために活用されています。
会社分割おいて承継会社の設立や運営には、コア事業への経営資源の集中、新市場への迅速な進出、市場シェアの拡大と規模の経済の実現、次世代経営者の実務経験の提供、スムーズな事業承継の実現、関連事業間の効率的な統合による業績向上、そして複雑な契約や手続きの不要化による手続きの迅速化などのメリットがあります。
一方で、承継会社を設立する際には、新たな管理体制の必要性や承継される事業の潜在リスクの移転、法務、会計、税務などに関わるコストなどのデメリットも考慮する必要があります。会社分割による承継会社の設立は、企業の現状と将来の目標を十分に理解し、会社分割のメリットと潜在的なリスクを総合的に評価することが重要です。適切な専門家のアドバイスを受けることで、プロセスをスムーズかつ効果的に進めることが可能です。
M&AならレバレジーズM&Aアドバイザリーにご相談を
レバレジーズM&Aアドバイザリー株式会社は、会社分割などのM&A全般をサポートする仲介会社です。専門的な知識・経験が豊富な各コンサルタントは、会社分割の承継会社の活用方法でも、それぞれの会社様に適したアドバイス・サポートを提供できます。
料金体系は、M&Aのご成約時にのみ料金が発生する完全成功報酬型のため、ご成約まで費用は発生しません(承継会社様には中間金が発生します)。
随時、無料相談をお受けしておりますので、会社分割などのM&Aをご検討の際には、ぜひお気軽にお問い合わせください。