このページのまとめ
- 吸収分割とは、特定の事業を分離して他の会社に承継するM&Aの手法の一つ
- 吸収分割と事業譲渡の違いは、税金や引き継がれる範囲などにある
- 吸収分割は、株式を対価に実施できることや許認可を引き継げることなどがメリット
- 吸収分割は、事業再編や不採算事業の整理などを目的に行われる
- 吸収分割を円滑に進めるためには、債権者保護手続きを行うことが不可欠
現在の事業ポートフォリオに課題を抱えている経営者の中には、吸収分割を選択肢の一つとして考えている方もいるのではないでしょうか?
吸収分割とは、対象の事業を分割して別の企業に承継する方法です。事業再編や不採算事業の切り離しなどの目的を叶えるために実施されます。
本記事では、吸収分割がもたらす効果やデメリット、手続きをスムーズに進めるポイントなどを解説します。流れや事例も載せているので参考にしてください。
目次
吸収分割とは会社分割の一つの手法
吸収分割とは、会社分割の一つの形に分類される、M&A手法の1つです。
この「会社分割」とは、対象事業に関して株式会社や合同会社が有している権利義務の全て(またはその一部)を分割し、それらを他の会社に承継させることを意味しています。
ここからは、吸収分割のスキームと、会社分割のもう一つの形である「新設分割」と吸収分割の違いについて解説していきます。
吸収分割には2種類ある
吸収分割は、分社型吸収分割と分割型吸収分割という2つの種類に分けることができます。
この2つの違いは、会社分割において当該事業の権利義務を承継した企業(承継会社)が、当該事業を切り離した企業(分割会社)に対し交付する株式や金銭などの対価を「誰が受け取るか」という点です。
分割会社が対価を受け取るケースが分社型吸収分割、そして分割会社の株主が対価を受け取るケースが分割型吸収分割と呼ばれており、どちらの方法で吸収分割を進めるかによって、必要な手続きが異なってきます。
新設分割との違い
新設分割は、吸収分割と同じ会社分割の1つの手法ですが、最大の違いは「承継先」にあります。
新設分割はその名の通り、事業の権利義務承継に際して「新しく設立した」会社に承継することを意味しますが、吸収分割における承継先は「既存」の会社です。
また先述の対価の受け取りに関しては、吸収分割で支払われる対価は株式以外の金銭などの財産でも交付が可能ですが、新設分割の場合は、原則として対価は株式で交付されるといった違いもあります。
吸収分割と似ている事業譲渡・吸収合併との違い
数あるM&A手法の中には混同してしまいがちな手法がいくつか存在します。ここからは、事業譲渡と吸収合併について、それぞれの特徴と違いを解説していきます。
事業譲渡との違い
事業譲渡とは、企業の一部や事業、それらにかかる資産などを選別して売買取引するM&A手法です。
吸収分割と事業譲渡との大きな違いは、吸収分割が当該事業にかかる資産や負債などの全てを包括的に移転するスキームであるのに対し、事業譲渡はそれぞれの項目ごとに個別に移転の手続きを進めていくという点です。
例えば、対象となる事業にかかる負債がある場合、吸収分割ではその負債も承継会社に移転される一方で、事業譲渡の場合は譲渡対象から外すことができます。
また、取引に際し発生する税金も吸収分割と事業譲渡とでは異なり、吸収分割の場合は不課税取引とされるため消費税が発生しないのに対し、事業譲渡は売買取引とされるため消費税が発生します。
吸収合併との違い
吸収合併とは、2社以上の既存会社が合併契約を締結して、存続させる1つの法人格に他の法人格の会社の権利義務全てを承継するM&A手法です。
吸収分割と吸収合併の大きな違いとしては、取引後の会社の存続が挙げられ、吸収分割では、事業を切り離した後も分割会社は存続しますが、吸収合併の場合は吸収された会社は消滅してしまいます。
これは、吸収分割が事業単位で他社に移転することが可能であるのに対し、吸収合併は会社が保有している債券や権利義務の全てを移転するため、吸収された後の会社には何も残らないという大きな違いがあるためです。
吸収分割のメリット・デメリット
ここからは、吸収分割によって生じるメリットとデメリットについて解説していきます。
吸収分割のメリット
吸収分割では、以下の3つのメリットが生まれることが考えられます。
- 手元の現金が少なくても実施可能
- 許認可をそのまま引き継ぐことができる
- 従業員の同意なしに転籍させることができる
それぞれのメリットの内容を見ていきましょう。
1.手元の現金が少なくても実施可能
吸収分割では、事業を引き受ける承継会社が分割会社に対して支払う対価として「株式」を交付することができます。
事業譲渡では対価を現金で支払うため資金を用意する必要がありますが、吸収分割であれば分割会社に株式を交付するだけで対価支払いが完了するため、現金が少ない・資金繰りが困難な場合でも資金調達を心配する必要がありません。
2.許認可をそのまま引き継ぐことができる
吸収分割は、事業にかかる許認可を含めて包括的に承継することができるため、承継会社は分割成立後スムーズな承継事業の開始が可能です。
対して事業譲渡の場合は、許認可の承継は認められておらず、全ての許認可を再取得する必要があるため、申請・取得手続きの工数が発生してしまいます。
3.従業員の同意なしに転籍させることができる
吸収分割では、承継事業に従事していた従業員の労働契約もそのまま承継会社に引き継がれるため、個々の従業員の同意を得ることなく承継会社への転籍を進めることができます。
ただしこれは、労働契約書などに事業承継に関する定めが明記されている場合にのみ可能となります。
承継に関する定めを設けていない場合は、個々の従業員から転籍の同意を得る「転籍合意」という手続きを経なければなりません。
また従業員が分割会社に残留する場合においても、業務内容や労働条件の変化によって当該従業員が不利益を被ることを防止するために、労働契約承継法に準じた手続きを経る必要があります。
吸収分割のデメリット
吸収分割によって考えられるデメリットは、以下の3つです。
- 一部事業はゼロから許認可申請が必要
- 税務・会計処理が難しい
- 株価下落のリスクがある
それぞれのデメリットの内容を見ていきましょう。
1.一部事業はゼロから許認可申請が必要
吸収分割において、大半の許認可は所定の機関に届出を提出するだけでそのまま承継会社への承継手続きが完了します。
しかし一部の許認可に関しては、吸収分割の場合であっても再申請・再取得の必要があるため注意が必要です。
ここでは再申請が必要な許認可の一部を紹介します。
- 宅地建物取引業
- 建設業
- 貸金業
補足までに、再申請・再取得の必要はないものの、許認可承継に際して所定機関からの承認が必要なものも一部紹介します。
- ホテル・旅館営業
- 介護事業
- パチンコ店営業
- 一般旅客自動車運送事業
- 一般貨物自動車運送事業
- 第二種貨物利用運送事業
このように、分割する事業の業種・内容によって、そこにかかる許認可を引き継ぐための手続きが異なる点には注意が必要です。
2.税務・会計処理が難しい
承継会社を新しく設立する新設分割や、譲渡項目の選別と項目ごとの手続きが必要な事業譲渡と比較すれば、吸収分割は包括承継によりさまざまな手続きの負担が軽減されます。
しかし、その他のM&A手法と同様、吸収分割に際しては煩雑な税務・会計に関する手続きが発生します。
例えば、株式の評価方法などの条件がケースバイケースで変動するため、誤った評価方法で算出した金額を計上してしまうと、最悪の場合、不正会計や脱税とみなされるなどのトラブルに発展することが考えられます。
こうしたリスクを最小化するためにも、吸収分割における税務・会計処理は実績豊富な専門家にサポートを依頼したほうがよいでしょう。
3.株価下落のリスクがある
吸収分割を含む会社分割においては、基本的に対価は株式交付となるため、新株の発行により承継会社の株価は一時的に下落することが少なくありません。
その後も株価が安くなったことで従来よりも多くの投資家が買い求めれば、さらに下落が進む可能性があります。
そのほか、分割により株主の構成や株式所有率が変化したことで企業イメージが下がり、株価下落につながる可能性も考えられます。
吸収分割が行われるケース
吸収分割は、ある特定の事業だけを切り離すことにより、分割会社に多くのメリットを生み出します。
以下のようなケースにおいては、吸収分割を行うことにより分割企業が抱える課題を解決し、メリットをもたらすことが考えられます。
- 事業再編
- 不採算事業の整理
- 肥大化した事業の分離
それぞれのケースにおいてどのように吸収分割が活用されるかをみていきましょう。
1.事業再編
市場や生活者のニーズの変化に伴い、企業の競争力低下や存続の危機などの状況に直面した時、経営者には抜本的な経営改革の実行が求められます。
従来の会社組織全体を再編し、効率的な経営基盤の再構築を進めていくにあたり、事業再編や経営統合のための方法として、吸収分割が用いられるケースがあります。
2.不採算事業の整理
企業内で事業の多角化が進むと必ず、収益性の低い事業や将来的な成長が見込めない事業といった不採算事業が可視化されます。
成長見込みのない不採算事業をいつまでも抱えておくことは、限られた経営資源の浪費につながるため、企業は経営資源を優先的に投下すべき事業とそうでない事業を選り分ける必要に迫られます。
吸収分割は、このような企業の選択と集中による経営効率の向上・競争力強化の起爆剤としても活用されるケースが多い、効果的な事業整理の方法です。
3.肥大化した事業の分離
事業が大きくなりすぎると、組織内での指揮系統が曖昧になったり、意思決定のスピードが低下したりすることで、事業全体のパフォーマンス低下といったデメリットが生まれます。
また事業に携わる従業員の増加に伴い、固定費負担が増大するといった側面も問題視されるようになります。
肥大化した事業を切り離すことによって、スピーディーな意思決定や生産性向上、固定費削減の実現につながるため、吸収分割は組織のスリム化にも貢献する方法として注目を集めているのです。
吸収分割を実施した3つの事例
経営環境の変化が早い昨今において吸収分割は、コア事業の強化や成長事業への投資に経営資源を集中させる必要性の高まりへの対応策として、有効な効果が期待できます。
ここからは、事業を取り巻く環境変化に応じる形で吸収分割という選択をした企業事例をみていきましょう。
- ソニー株式会社
- KDDI株式会社
- 資生堂薬品株式会社
3社それぞれの吸収分割の形について解説します。
1.ソニー株式会社
総合電機メーカーであるソニー株式会社(現ソニーグループ株式会社、以下ソニーグループ)は、2021年4月1日付けで大規模な経営機構改革を実施し、その一環として、同社のエレクトロニクス事業をグループ会社のソニーモバイルコミュニケーションズ株式会社(同日付けで「ソニー株式会社」へ商号変更、以下ソニー)へと吸収分割にて承継しました。
そしてグループ本社から切り出されたエレクトロニクス事業を承継したソニーは、カメラ、スマートフォン、テレビやオーディオといった製品別に細分化されていた以下の3つのグループ会社を同日付けで吸収合併しています。
- ソニーイメージングプロダクツ&ソリューションズ株式会社
- ソニーホームエンタテインメント&サウンドプロダクツ株式会社
- ソニーエレクトロニクス株式会社
この吸収分割と吸収合併は、ソニーグループが展開する6つの事業のうち、業績好調なゲーム・音楽・映画・金融の4事業に比べ、エレクトロニクス事業の収益性が国際情勢や海外勢の台頭により低下していることに対応するための事業再編が目的です。
関連する事業会社を集約させて再編成することで、成長促進と競争力強化を図った結果、エレクトロニクス分野の増収に大きく貢献し、21年度のグループ全体の業績は売上・利益ともに過去最高(22年5月10日発表時点)を更新しました。
参照元:
ソニーグループ株式会社「エレクトロニクス・プロダクツ&ソリューション事業に係る 会社分割(簡易吸収分割)に関する追加情報のお知らせ」
ソニーグループ株式会社「2021年度連結業績概要(P3,P5)」
2.KDDI株式会社
auブランドによる携帯電話事業を展開する大手通信キャリアのKDDI株式会社は、2023年4月1日付けで、同社が展開する中部地区におけるauひかりマンション au one net事業を、連結子会社である中部テレコミュニケーション株式会社(以下、ctc)に承継する簡易吸収分割を実施しています。
FTTHとは「Fiber To The Home」の略称で、光ファイバー回線を一般個人宅へ引き込みインターネットに接続する配線方式の1つです。FTTH事業を全国展開しているKDDIでは、中部地区における同事業拡大のため、2008年にctcを子会社化し、地域に密着した営業活動を展開することで、同地区でのFTTHサービスの契約数を順当に伸ばしていました。
この吸収分割では、これまでKDDIが展開していた集合住宅向けFTTHサービス「auひかりマンション」事業をctcに承継し、中部地区におけるFTTH事業全般をctcが担うことで、さらなるサービス品質の向上と契約数の増加を図ることが目的です。
参照元:KDDI株式会社「連結子会社との会社分割 (簡易吸収分割) に関するお知らせ」
3.資生堂薬品株式会社
大手化粧品メーカーの株式会社資生堂の子会社である資生堂ジャパン株式会社は、同じく子会社である資生堂薬品株式会社の全事業を承継するために、2024年1月1日付けで吸収分割を実施すると発表しています。
この吸収分割は、今後の成長市場と期待されているクリーン&ダーマ領域や体の内側の健康と美を大切にするインナービューティー領域における新たなブランドの成長戦略の実行により、収益性向上を図ることが目的です。
そのため、同領域でのブランドを持っている資生堂薬品の事業を全て承継することで、経営の合理化・効率化実現を進めており、分割会社となる資生堂薬品は、全事業の承継が完了したあと消滅する予定となっています。
参照元:株式会社資生堂「連結子会社間の会社分割(吸収分割)のお知らせ」
吸収分割に必要な手続き
吸収分割に必要な手続きは実に煩雑で、時間がかかる手続きもあります。吸収分割の実施に際しては、最終的な効力発生日から逆算して各プロセスのスケジューリングを行いましょう。そうすれば、抜け漏れなく効率的に手続きを進めることができます。
大まかな手続きの流れとしては以下のようになります。
- 分割計画の策定
- 官報公告を申込
- 3-1.吸収分割契約の締結
3-2.労働者への通知 - 4-1.個別催告
4-2.異議申し立ての受付開始
4-3.事前開示書類を備置 - 5-1.株式総会招集通知
5-2.反対株主に対して株式買取請求通知 - 株主総会開催
- 分割の効力発生
- 登記申請
- 事後開示書類を備置
ここからは、各プロセスにおける手続き内容を順を追って解説していきます。
1.分割計画の策定
効力発生日まで:3ヶ月
会社分割において、分割計画書の策定は新設分割の場合にのみ、義務付けられています。
しかし、吸収分割においても計画書を策定しておくことで、この後の吸収分割契約の締結に際し、分割会社と承継会社との間に齟齬が生まれたり手続きの抜け漏れが発生したりするリスクを最小化することができます。
分割計画書では以下のような条件についてしっかり定めておきましょう。
- 吸収分割の目的
- 対価として交付する株式の数、種類
- 承継会社へと承継する資産や債務、雇用契約、その他の権利義務
ここから、分割会社と承継会社とがどのような内容で吸収分割契約を締結するか、効力発生日に向けてどのようなスケジュールで進めていくかなどを協議を重ねていき、基本合意書を作成していきます。
2.官報公告を申し込み
効力発生日まで:2ヶ月
政府や各省庁から国民に対して法律や政令・条約などの重要なお知らせを掲載する広報誌的な役割を持つ官報ですが、吸収分割に際しては同紙に公告を掲載することが義務付けられています。(会社法第789条2項)
出典元:e-Gov法令検索「会社法」
3-1.吸収分割契約の締結
効力発生日まで:2ヶ月〜
吸収分割契約の内容が取締役会で承認されたら、実際の契約締結に進みます。
吸収分割契約には、会社法第757条・第758条で定められた以下の事項を記載しなければなりません。
- 分割会社・承継会社の商号・住所
- 吸収分割の対象となる資産や債務、雇用契約、その他の権利義務
- 吸収分割の対価交付に関する事項
- 吸収分割の効力発生日
- 別途定められた事項(分割型吸収分割の場合)
契約締結が完了したら、実際に効力が発生する「効力発生日」までの間に、さまざまな手続きを進めていきます。
出典元:e-Gov法令検索「会社法」
3-2.労働者への通知
効力発生日まで:2ヶ月〜
分割会社で承継される事業に従事していた従業員には、吸収分割後の労働契約等に関して事前通知することが「会社の分割に伴う労働契約の承継等に関する法律」にて義務付けられています。
当該従業員への分割後の就業場所や業務内容などの通知は、株式総会開催日の2週間前の日の前日までに行うよう、同法律にて定められています。
出典元:e-Gov法令検索「会社の分割に伴う労働契約の承継等に関する法律 第2条」
4-1.個別催告
効力発生日まで:1ヶ月半〜
吸収分割によって不利益を被る可能性のある債権者に対しては、官報公告と併せて個別に吸収分割を行う旨などが定められた事項を通知します。(会社法第789条2項、同第799条2項)
出典元:e-Gov法令検索「会社法」
4-2.異議申し立ての受付開始
効力発生日まで:1ヶ月半〜
官報公告や個別催告にて知らせた異議申し立て期間内に、債権者からの異議申し立てを受け付けます。
この期間中に異議申し立てがあった場合は、債権者に対して弁済、または相当の担保を提供する、もしくは弁済を受けるという目的で信託会社等に相当の財産を信託する必要が出てきます。
4-3.事前開示書類を備置
効力発生日まで:1ヶ月半〜
吸収分割における分割会社と承継会社は、債権者保護手続きを含む分割手続きを開始した日から、以下のような一定事項を記載した書類を本店に備え置かなければなりません。(会社法第782条、第794条)
記載が義務付けられている事項の一例を紹介します。
- 吸収分割契約の内容
- 分割対価の相当性に関する事項
- 分割型吸収分割を行う場合はそれにかかる事項
- 計算書類の内容
- (分割会社)承継会社に承継する債務の履行の見込みに関する事項
(承継会社)承継会社の債務の履行の見込みに関する事項
開示書類の備置は、株主や債権者保護を目的とし、彼らに必要な情報を提供するために義務付けられている手続きで、吸収分割の効力発生日以降も同様に、「事後開示書類の備置」が必要です。
出典元:e-Gov法令検索「会社法」
5-1.株式総会招集通知
効力発生日まで:1ヶ月〜
吸収分割を実施するためには、株式総会における特別決議にて、株主の承認を得る必要があります。
そのため、株主に対し、総会招集通知と併せて、吸収分割を実施する旨を通知します。
総会招集通知を行うにあたっては通知期限が定められており、株式の譲渡制限規定のない公開会社の場合は総会開催日の2週間前までに通知しなければなりません。
また、譲渡制限がある会社の場合は開催日の1週間前までが招集通知の期限となるため、通知書の発送手続きは余裕を持って行うことが大切です。(会社法第299条)
出典元:e-Gov法令検索「会社法」
5-2.反対株主に対して株式買取請求通知
効力発生日まで:1ヶ月〜
吸収分割に反対する株主は、吸収分割の効力発生日の20日前からその前日までの期間中に、当該会社に対して株式買取請求権を行使することができます。
そのため吸収分割の当事会社は、そのような反対株主に対して、株式買取請求権の通知を原則書面にて送付します。
その後、株主と会社との間で株式の買取価格が合意に至ったら、吸収分割の効力発生日から60日以内に反対株主に対して代金を支払わなければなりません。(会社法第785条、同第786条)
出典元:e-Gov法令検索「会社法」
6.株主総会開催
効力発生日まで:3週間〜
吸収分割の実施には、その効力発生日の前日までに株式総会の特別決議にて承認を得なければなりません。(会社法第783条)
ただし、承継会社が分割会社の特別支配会社である場合などの一定条件に該当する場合に限っては、株式総会での決議不要で、吸収分割を行うことができます。(会社法第784条)
出典元:e-Gov法令検索「会社法」
7.分割の効力発生
効力発生日まで:0日
吸収分割の効力発生日は、吸収分割契約書にて自由に定めることができるため、土日祝日であっても指定が可能です。
万が一効力発生日に変更の必要性が出てきた時は、双方の会社同士が合意した場合に限り、当初指定した効力発生日の前日までに新たな効力発生日を公告すれば変更することも可能です。(会社法第790条)
出典元:e-Gov法令検索「会社法」
8.登記申請
効力発生日から:〜2週間
吸収分割の効力発生日から「2週間以内」に、分割会社と承継会社それぞれの変更登記を「同時」に行わなければなりません。
登記申請に際しては、一般的に承継会社が双方の会社の登記変更手続きを行うケースが多いため、承継会社は分割会社分も含む、以下のような書類の準備が必要となります。
分割会社
- 印鑑証明書
- 委任状(司法書士が代理で行う場合)
承継会社
- 吸収分割契約書
- 分割会社と承継会社それぞれの株式総会議事録
- 分割会社と承継会社それぞれの株主リスト
- 債権者保護手続きにかかる書類
- 資本金の計上に関する証明書
- 分割会社の登記事項証明書
- 委任状(司法書士が代理で行う場合)
また申請の際には、分割会社と承継会社それぞれに登録免許税の納付が発生します。
9.事後開示書類を備置
吸収分割の効力発生日から6ヶ月後までの期間、分割会社と承継会社の双方は本店に、定められた事項を記載した書類を備え置かなくてはなりません。(会社法第791条、同第801条)
事後開示が必要な事項としては、以下のようなものが定められています。
- 吸収分割の効力発生日
- 承継された権利義務に関する事項
- 債権者保護手続きの経過
- 株主への通知・公告・株式の買取請求にかかる事項
- 新株予約権に関する事項
- 分割登記を行った日
- そのほか重要な事項
上場企業の親会社と子会社が吸収分割を行った場合には、開示書類の備置のほかにも、一定の会社情報を投資家に対して開示する「適時宜開示」を行う必要も出てきます。
出典元:e-Gov法令検索「会社法」
吸収分割を円滑に進めるための債権者保護手続き
吸収分割の手続きを進めていくなかで、重要なポイントとなるのが「債権者保護手続き」です。
この手続きをきちんと完了しておかなければ、後ほど吸収分割実施にさまざまな影響を及ぼすリスクが高くなります。
そのため債権者手続きを行う前には、以下のような事項を確認しておくことが大切です。
- 債権者保護手続きの概要
- 手続きの実施期間
- 保護の対象となる人
- 具体的な手続き内容
それぞれの事項について、順番に解説していきます。
債権者保護手続きとは
債権者保護手続きとは、吸収分割を含む会社分割や合併による企業の組織再編に際し、自社の債権者が被る可能性があるリスクを最小化し、彼らの利益を保護することを目的とした手続きです。
会社分割によって自社の資産や負債が変動し、債権者への支払いができなくなったりするといった事態を事前に防止するために、分割を行う会社が債権者保護手続きを実施することが義務付けられています。
出典元:e-Gov法令検索「会社法」
債権者保護手続きの実施期間
債権者保護手続きでは、あらかじめ指定された実施期間やスケジュールに準じて手続きを進めなければならない場面が多くあります。
そのため、それぞれの手続きにどのくらいの時間がかかるのかを事前にしっかりと確認し、余裕を持たせたスケジュールを決めていくことが大切です。
一連の債権者保護手続きは、遅くとも吸収分割の効力発生日の前日までには全て完了していなければなりません。
もしも効力発生日までに完了できなかった場合は、吸収分割の効力を発生することができず、もう一度吸収分割の手続きをやり直さなければならなくなります。
債権者保護手続き内容に不備や遅延が生じた場合、吸収分割を行うこと自体が難しくなったり、債権者や株主との間でトラブルに発展したりするおそれがあります。定められた期間内に抜け漏れなく手続きを完了させてください。
債権者保護手続きの対象者
債権者保護手続きの対象となるのは、吸収分割により何らかの不利益を被るおそれのある債権者なので、分割の影響を受けない債権者は対象とはなりません。
対象者となる人の一例としては、吸収分割によって債務者が分割会社から承継会社に変更する際に、承継される事業の債券を保有している、分割会社の債権者が挙げられます。
その他、負債を抱えた事業を承継することになった承継会社の債権者や、好調な事業が他社に移転されたことによって主力事業がなくなってしまった分割会社の債権者なども対象となります。
債権者保護手続きの内容
吸収分割において必要となる債権者保護手続きは、以下の3つです。
- 官報公告
- 個人催告
- 異議申し立ての受付
ここからは、それぞれの手続き内容と注意点について解説していきます。
1.官報公告
吸収分割をはじめとする会社分割や合併、株式移転などを行う際に官報公告が義務付けられている理由の大半は、債権者保護にあります。
そのため吸収分割を行う会社は、事前に債権者に対して事前に通知しておかなければならないのです。
官報公告には以下の内容を掲載します。
- 吸収分割をする旨
- 吸収分割を実施する企業の商号・住所
- 資本金と負債の変動額
- 計算書類
- 債権者が一定期間は異議を述べることができる旨
吸収分割における官報公告には細かな期限の設定があり、公告開始日は債権者の異議申し立て期間開始日まで1ヶ月以上、公告終了日は異議申し立て期間終了日まで1ヶ月以上の期間が空いていなければなりません。
加えて官報公告の掲載には、申し込みから約10日〜2週間ほどかかることも考慮し、余裕を持って申し込みを行うことが大切です。
2.個別催告
官報公告が全ての債権者に吸収分割を事前にお知らせする役割を担っているのに対し、個人催告は限定された債権者に対して行われる手続きです。
対象となるのは、吸収分割で何らかの影響を被る可能性のある債権者で、彼らに対しては官報公告とは別途、個別に書面などを通じて通知することが義務付けられています。
ただし、定款で公告方法を電子公告や日刊新聞紙上と定めている場合は、官報公告に加えて定款で定めた方法で公告すれば、個人への通知は省略することができます。(会社法第789条3項、同第799条3項)
定款にて電子公告や日刊新聞紙での公告を定めている場合には、官報公告の掲載申し込み手続きと併せて申し込むことが一般的ですので、早い段階で公告方法について確認をしておきましょう。
出典元:e-Gov法令検索「会社法」
3.異議申し立ての受付
吸収分割の当事会社は、最低1ヶ月間は異議申し立てを受け付ける期間を設けなければなりません。
この期間中に申し立てがない場合は、債権者が吸収分割に賛同しているとみなし、分割手続きを進めることができますが、申し立てがあった場合は先述のように債権者への支払い対応が発生します。
ただし、異議申し立てがあったとしても、吸収分割後に当該債権者が不利益を被るおそれがない場合は、弁済等の支払い対応をすることは不要となります。(会社法第799条)
出典元:e-Gov法令検索「会社法」
まとめ
吸収分割は、対象事業を自社から分割し、ほかの企業に承継させるスキームです。吸収分割には、「手元の現金が少なくても実施可能」「許認可をそのまま引き継ぐことができる」といったメリットがある一方、「税務・会計処理が難しい」「株価下落のリスクがある」などのデメリットもあります。
また、吸収分割を行うには複雑なプロセスを踏むことが必要です。円滑に手続きを進めるためには、あらかじめ流れを把握したうえで、余裕を持たせたスケジュールを組む必要があります。そのほか、債権者保護手続きについても漏れなく対応することが肝要です。吸収分割の手続きは多岐にわたり、それぞれ専門性が求められることがあるので、司法書士やM&A仲介会社などの専門家の支援を受けられると、安心して進められます。
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