M&Aのプロセスとは?一連の流れや成功のポイントについても解説

2024年8月5日

M&Aのプロセスとは?一連の流れや成功のポイントについても解説

このページのまとめ

  • M&Aとは、企業の合併・買収を意味する「Mergers and Acquisitions」の略
  • M&Aには、準備・交渉・クロージング・経営統合の4つのプロセスがある
  • 準備では企業や専門家の選定、交渉ではデューデリジェンスや面談を行う
  • クロージングでは譲渡の手続きを行い、経営統合では統合後の戦略プランを策定する
  • M&Aを成功させるためには、企業選定のスキルや遂行能力、トラブル対応力が必要

M&Aを検討している人の中には「M&Aのプロセスについて詳しく知りたい」とお悩みの方も多いのではないでしょうか。M&Aを成功させるには、しっかりとプロセスを把握して準備することが大切です。

本記事ではM&Aの概要や具体的なプロセスについて詳しく解説しています。また、M&Aを成功させるために必要な知識やスキルについても紹介しているので、M&A実施の参考にしてください。

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M&Aとは

M&Aとは「Mergers and Acquisitions」の略称で、合併と買収を意味します。

M&Aには売り手・買い手が存在し、それぞれ以下のような目的とメリットがあります。

M&Aを行う目的M&Aで得られるメリット
売り手後継者・事業継承問題の解決経営基盤の強化創業者利益の獲得後継者・事業継承問題が解決され、会社を存続できる経営資源によって企業が安定し発展する従業員の雇用が守られる技術やノウハウが承継される
買い手事業の拡大や強化・シェア向上新規事業への参画シナジー効果の創出会買収側の資産を使ってリスクを抑えて事業を始められる効率良く経営できる優秀な人材を確保できる技術力・生産力が向上させられる

少し前まではM&Aと聞くと、大企業が行うものというイメージがありましたが、現在では中小企業でもM&Aは数多く実施されており、企業にとって身近な選択肢となりました。

しかし、M&Aには準備が多いため、プロセスや手順を理解しなければ、失敗してしまう可能性もあります。M&Aのメリットやデメリット、詳しい基礎知識が知りたい方は、「M&Aとは?会社が事業承継するメリットや手法を紹介!案件増加の理由も解説」でも詳しく解説しているので、参考にしてください。

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M&Aの一連の流れ(4つのプロセス)

M&Aは経営戦略の一環として行われ、基本的に以下の4つのプロセスを経て進行していきます。

  1. 準備・検討
  2. 交渉
  3. クロージング
  4. 経営統合

M&Aを成功させるためにも、これから紹介するプロセスをしっかりと把握しておきましょう。

 

売り手側

買い手側

1. 準備・検討

M&Aの目的の明確化と戦略の策定

M&A専門家の選定

相手企業の選定と契約(マッチング作業)

1. ロングリスト・ショートリストの作成

2.ノンネームシートの開示

 

3.NDAの締結

 

4.ネームクリアの検討・実施

5.IM・プロセスレターの開示

 

2. 交渉

基本条件の交渉

1.買収範囲およびM&Aスキームの選定

 

2.企業価値の評価算定

3.トップ面談

 

4.意向表明書の提出

5.基本合意書の締結

6.基本合意についての適時開示

最終条件の交渉

 

1.デューデリジェンス

 

2.PMIの計画

3.M&Aの最終契約書の締結

3. クロージング

クロージング準備

1.株式譲渡の準備

 

2.株主・従業員・債権者の権利保護のプロセス

3.独占禁止法関連の手続き

4.契約書に関する手続き

クロージングと事後処理

1.譲渡の手続き

2.臨時株主総会と取締役会の開催

 

3.登記手続き

4. 経営統合

 

1. 短期プランの戦略策定・実行

 

2. 中長期プランの戦略策定・実行

それぞれのプロセスについて、以降の章で具体的に解説します。

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準備・検討

準備・検討段階では、大きく分けると下記の3つの手順を踏みます。

  • M&Aの目的の明確化と戦略の策定
  • M&A専門家の選定
  • 相手企業の選定と契約(マッチング作業)

それぞれ詳しく解説していきます。

M&Aの目的の明確化と戦略の策定

初めに、何のためにM&Aを行うのか具体的な目標を設定しましょう。それに付随して、目標実現のためにはどのような戦略が必要なのかを練っていきます。目的や戦略が不明確なままM&Aを進めてしまうと、成立しても経営統合で成果が出ずに損失を被る場合もあります。

売り手と買い手どちらも自社の現状を把握して、M&Aによってどのような効果が得られるのかを確認しておくことが大切です。

M&Aにおける主な目的と戦略の具体例は、以下を参考にしてください。

売り手

売り手側の主な目的と戦略は以下のとおりです。

目的戦略
利益を得る高値で買い取ってくれる企業を中心に選定する
後継者を見つける同業他社を中心に選定する
従業員の雇用を守る成長性が高く経営基盤が安定している企業を中心に選定する
ノウハウを途絶えさせない自社の文化や業務フローと近しい企業を中心に選定する

買い手

買い手側の主な目的と戦略は以下のとおりです。

目的戦略
新規事業に参画する自社の現在のビジネスドメインとは異なる領域でありつつも、自社とシナジーを生めそうな成長企業を中心に選定する
既存事業を強化する同業他社を中心に選定する。もしくは同じ業界であってもバリューチェーン・サプライチェーンが異なる企業を中心に選定する
人材・ノウハウを獲得する上記の新規事業か既存事業かによって適切な方針を採用しつつも、人材やノウハウが期待したとおりに獲得できるようPMIプランの策定に注力する

M&A専門家の選定

M&Aに精通した社員がいる一部の企業では自力でM&Aを行うケースも稀にありますが、M&Aは専門知識が求められるため、専門家へ依頼するのが一般的です。それぞれ得意とする業種や規模、対応しているエリアが異なるので、自社と相性の良さそうなM&A専門家を選定しましょう。

主なM&Aの専門家とその特徴は、以下のとおりです。

金融機関銀行・証券会社・保険会社など地域の会社と取引しており、地元企業にコネクションがある
商工団体商工団体は金融機関と同じく地域との繋がりが強い地元を盛り上げようとしている企業を紹介してもらえる可能性がある
士業弁護士・公認会計士・税理士の3つから選べる法律・会計・税金に関する業務を支援してくれて、各種デューデリジェンスにも対応している
事業承継・引継ぎ支援センター国が設置する公的相談窓口でM&Aを支援してくれる中小企業の事業承継はもちろん、親族内・第三者への引継ぎも支援の対象
FA(ファイナンシャルアドバイザー)財務・金融に関する実践的なアドバイスをしてくれるプロフェッショナルM&Aの支援業務も行っている
M&A仲介会社各種専門家やM&Aのプロが在籍するM&Aに特化した支援機関相談から成約までトータルしてサポートしてくれる

関連記事:M&A・事業承継の専門家とは?それぞれの特徴や選ぶポイントなどを解説

相手企業の選定と契約(マッチング作業)

相手企業の選定と契約について、以下の5つの項目に分けて解説していきます。

  1. ロングリスト・ショートリストの作成
  2. ノンネームシートの開示(売り手側)
  3. NDAの締結
  4. ネームクリアの検討・実施(買い手側)
  5. IM・プロセスレターの開示(売り手側)

1.ロングリスト・ショートリストの作成

売り手・買い手ともに、まずロングリストやショートリストを活用して買い手・売り手の候補となる企業を絞り込んでいきます。

20〜30社ほどの候補をリストアップしたロングリストをつくり、その中から有力な相手候補となる数社に絞ったショートリストを作成する流れが一般的です。リストを作成する際、売り手・買い手企業はともに以下の情報を参考にしてください。

  • 開示書類
  • インターネット
  • 業界紙
  • 調査機関
  • 証券アナリストのレポート

詳しくは以下の記事も参考にしてください。

関連記事:ロングリストとショートリストとは?意味や違い、作成方法を解説

2.ノンネームシートの開示(売り手側)

企業のリストアップができたら、リストアップした企業に、第三者を介してノンネームシートを提出しアピールしましょう。

ノンネームシートは案件概要などが書かれた匿名の資料で、所在地・業種・目的・事業規模・希望価格などの情報が含まれる重要な書類です。買い手側に興味を持ってもらえる情報を掲載しつつも、匿名性が保たれるように作成しましょう。

ロングリストの企業にアプローチする場合マッチングする可能性が高まりますが、提示先が多くなるため、企業名が特定されてしまう可能性もあります。そのような理由から、多くの企業ではショートリストに絞ってから相手企業を選定します。

関連記事:ノンネームシート(NN)とは?M&Aでの重要性や記載項目の例を解説

3.NDAの締結

ノンネームシートなどをもとにマッチングができたら、次に情報漏洩を防ぐためにNDA(秘密保持契約)を締結するのが原則です。NDAを締結したあとはお互いに企業名を明らかにして、より詳しい交渉段階に移行します。

4.ネームクリアの検討・実施(買い手側)

NDAが締結できれば、続いてそれぞれの秘密情報を開示し、より詳細な交渉に移る準備を進めていきます。その第一段階として企業名の開示を行いますが、これをネームクリアと呼びます。

ネームクリアとは匿名で打診した売り手・買い手企業が、社名を相手企業に開示する行為のことで、基本的には買い手側が主導権を持ち、ネームクリアを行うべきかどうかの判断をします。

関連記事:M&Aのネームクリアとは?実施するタイミングやメリットを解説

5.IM・プロセスレターの開示(売り手側)

M&Aには相対方式・入札方式の2種類の交渉方法があります。相対方式とは、気に入った1社だけと交渉を進める方法で、入札方式は複数の買い手による入札で交渉を進めていく方法です。

相対方式は売り手側はIM(インフォメーション・メモランダム)を提出する必要があり、入札方式ではIMに加えてプロセスレターを提出しなくてはいけません。

IMとは売り手側の企業に関する情報が詳しく掲載された資料です。買い手側はIMに書かれている内容を参考に分析を行い、実現可能性などを検討して本格的な交渉へ進んで良いかを決めます。

プロセスレターは売り手企業が提示する資料です。入札方法やプロセスの進め方、案件の概要やスケジュールなどが掲載されています。買い手候補はプロセスレターを参考に、必要種類を準備したうえで入札に臨みましょう。

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交渉

交渉段階では、下記の2つの手順があります。

  • 基本条件の交渉
  • 最終条件の交渉

どちらも大切な内容なので、チェックしておきましょう。

基本条件の交渉

基本条件の交渉について、下記の6つの項目に分けて解説します。

  1. 買収範囲およびM&Aスキームの選定
  2. 企業価値の評価算定(買い手側)
  3. トップ面談
  4. 意向表明書の提出(買い手側)
  5. 基本合意書の締結
  6. 基本合意の適時開示

詳しく見ていきましょう。

1.買収範囲およびM&Aスキームの選定

まずは買い手・売り手の目的に応じて買収範囲を決定します。

会社全体の場合は株式譲渡のスキームが基本となりますが、一部を切り出す事業譲渡などの場合は、どこまでの範囲を対象とすべきか精査が必要です。精査の観点としては、機能・人・モノ・契約などが代表的で、買い手と売り手の交渉が行われます。

注意したいのは、交渉が始まった段階で、相手側からスキームの指定を相談される場合がある点です。話し合いの中で初期のスキームとは方針が変わることもあります。法律や財務など専門的な知識が必要となるので、どのようなスキームが適切か、専門家に相談しながら進めることがおすすめです。

関連記事:M&Aの手法(スキーム)とは?各方法の特徴などをわかりやすく解説

2.企業価値の評価算定(買い手側)

企業価値の評価算定とは、名前のとおり企業の価値を評価して金額で表すことです。この算定をもとに、売買金額の見積もりをします。また、本格的な交渉に進んでも問題ないかどうかを検討する判断材料にもなります。

売り手はもちろん買い手も評価算定をする場合もありますが、この時点で買い手が所持する情報には制限があるため、正確な評価が難しい点に注意しましょう。

企業価値にはさまざまな算定方法がありますが、適正な買収価格を設定して、売り手企業にとって魅力的な条件を示すには、合理的な企業価値の評価算定が必要です。そのため、不安な場合は専門家に依頼するのが良いでしょう。

関連記事:企業価値とは?計算方法や企業価値を高める6つの方法を解説

3.トップ面談

トップ面談とは、交渉開始後に買い手と売り手双方のトップが対談して、経営に関する視点や経営統合後のビジョンについて話し合う場です。トップ面談は経営の方針や人格などの点で共感し合えるかどうかを確認します。通常、トップ面談では価格交渉など条件に関わる議論はしません。

トップ面談は一般的に意向表明書の提出後に行われますが、交渉開始のタイミングで行われる場合もあり、状況により前後します。トップ面談は大切なプロセスです。トップ同士の意見が合致すれば、その後のプロセスが短期間で進んでいくケースもあります。

4.意向表明書の提出(買い手側)

買い手の意思が固まったら、意向表明書を提出します。買収の方向性や希望する金額・M&Aスキーム・スケジュールなど詳細を整理した内容を書面で伝達しましょう。意向表明書の提出は、M&Aにおいて必須項目ではありませんが、買い手の意気込みを示して交渉を円滑に進めていく効果があります。

5.基本合意書の締結

M&Aの交渉がある程度進んだ段階で、基本合意書の締結を行います。相対方式の場合、譲渡金額・M&Aスキーム・スケジュールなどを確認して今後の進め方について議論するのが目的です。基本合意書の締結は、あくまで確認書という役割なので、法的拘束力を持たず、最終交渉段階で中身の変更があるケースもあります。

例外として、「独占交渉権」については法的拘束力が働きます。独占交渉権とは、売り手は数ヶ月間は基本合意書を交わした企業以外とM&Aの交渉ができないという内容です。買い手にとって競合の第三者の心配がなくなるので、M&Aに集中できるメリットがあります。

さらに、「買い手は売り手にデューデリジェンスを実施すること」「売り手はデューデリジェンスに協力すること」も義務付けられるので、違反した場合は相手側に、交渉の破棄や損害賠償を請求できる権利が生まれるので注意しましょう。

入札方式の場合は原則基本合意書は交わさず、意向表明書を元に数社の中から買い手候補が選出されて、次の過程に移ります。

6.基本合意についての適時開示

上場企業の場合に限り、基本合意を行った場合、取締役会決議が行われたタイミングで、内容を外部に開示する義務が生じます。しかし例外として、M&Aの成立の可能性が低い段階や開示によって取引に悪影響を及ぼす場合は、開示しなくても良いとされています。

最終条件の交渉

最終条件の交渉には、細かく分けると以下の3つのプロセスがあります。

  1. デューデリジェンス(買い手側)
  2. PMIの計画(買い手側)
  3. M&Aの最終契約書の締結

詳しく見ていきましょう。

1.デューデリジェンス(買い手側)

デューデリジェンスとは、譲受する予定の企業のリスクや価値などについて調査することです。売り手企業から提出される資料は、情報漏えいを避けるために「データルーム」と呼ばれる特別に設置された部屋のみで開示されます。

デューデリジェンスはこれまでのプロセスで得た情報が正確かどうかの確認の意味合いもあり、財務や法務などさまざまな角度から調査が行われます。専門性が高い知識が求められるため、基本的には専門家への依頼が必要です。

デューデリジェンスは必ず実施しなくてはならないわけではありませんが、怠るとM&A実施後に重大なリスクが発覚するおそれがあるので、実施することを強くおすすめします。リスクに気づかないままM&Aを実施した場合、想定していた効果が得られなかったり、株主や従業員からの信頼を失ったりする可能性があるので注意しましょう。

売り手企業は、買い手企業が依頼したデューデリジェンスに対応することが求められます。必要な書類は多岐にわたるので、専門家や士業の協力を得られるとスムーズに進めることが可能です。

デューデリジェンスによって検出された問題やリスクに応じて、買い手側は価値暫定や買収価格の修正、スキームの変更などを提示して、売り手側に問題点の解消やリスクに対する補償などを要求していきます。

デューデリジェンスに関する詳しい内容は、「デューデリジェンス(DD)とは?意味や実施の流れをわかりやすく解説」M&Aにおける調査項目とは?デューデリジェンスなど調査の全体像を解説」でも解説しているので、参考にしてください。

2.PMIの計画(買い手側)

PMIとは経営統合作業のことで、M&Aで一番重要なプロセスともいわれています。M&Aの成約後に行われるPMIは、M&Aによるシナジー効果を最大限に発揮するために実施します。この段階で、PMIの短期プランを作成し、最終契約書にPMIに関する情報を取り入れることが重要です。

デューデリジェンスによって譲受する企業の内部情報を得られるので、デューデリジェンスのタイミングもしくはそれと平行して計画するのが良いでしょう。

3.M&Aの最終契約書の締結

デューデリジェンスやPMIの計画策定を終えて、特に問題がなければ、M&Aの最終契約書の締結に移ります。問題がある場合は、この段階でM&Aの実施を見送る場合もあります。

入札方式ではデューデリジェンスが終わったタイミングで入札書を出し、売り手がそれを比較して最終的にどこに譲渡するのかを決定します。最終条件交渉がまとまり次第、M&A取引契約が締結となります。

最終契約書とは総称で、株式譲渡なら株式譲渡契約書、合併なら合併契約書のように種類に合わせた契約書が使用されます。

最終契約書に記載される主な内容は以下のとおりです。

  • 買収価額
  • M&Aスキーム
  • 対価支払い条件
  • 解除条件
  • 表明保証
  • 競業避止義務(事業譲渡の場合)
  • 誓約事項
  • 秘密保持
  • 損害賠償請求
  • 裁判管轄
  • 費用負担
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クロージング

クロージング段階では、大きく分けて下記の2つの手順があります。

  • クロージング準備
  • クロージングと事後処理

今回は、M&Aのスキームに「株式譲渡」を選択したと仮定して、クロージングについて解説します。

それぞれ詳しく見ていきましょう。

クロージング準備

クロージング準備について、以下の項目に分けて解説していきます。

  1. 株式譲渡の準備(売り手側)
  2. 株主・従業員・債権者の権利保護のプロセス
  3. 独占禁止法関連の手続き
  4. 契約書に関する手続き

順番に見ていきましょう。

1.株式譲渡の準備(売り手側)

株式の取得方法は、主に以下の3つです。

  1. 個別の株主譲渡契約を結び、買取を行う
  2. 株式取引市場を通じて、買取を行う
  3. 買取価格を公表して、不特定多数の株主から株式を集める(公開買付)

2と3に関しては、上場企業の株式に限り可能な方法です。2のように株式取引市場を通して買取する場合、一定の割合を超える株式を買い取った場合は、大量保有報告書を財務局へ提出しなければいけません。また、一定の割合を超える株式の取得を目指す場合は、金融商品取引法により公開買付を強制される場合もあります。上場企業が売り手の場合、株式譲渡では公開買付が一般的で、金融商品取引法でルール・買付期間が定められています。

上場していない企業では1対1の相対取引が行われ、経営者が株式をすべて所有している場合と分散している場合で準備内容が異なります。

経営者がすべての株式を所有している場合は、会社が株式発行会社であり、かつ株券を未発行の場合に限り、次の準備が必要です。株式の発行・交付をして経営者が所持する、もしくは定款を変更して株券不発行会社になるかのどちらかを選択する必要があります。

株式が分散している場合は、個別に株主と交渉・契約するのは難しいため、経営者がそれらの株式を買ってまとめる、もしくは経営者が少数の株式を所持している株主から委任状をもらい、株主代表として譲渡契約を行うかのどちらかを選びます。

2.株主・従業員・債権者の権利保護のプロセス

株主・従業員・債権者に関する権利保護のプロセスには、主に以下の4つがあります。

  • 株主総会の特別決議
  • 債権者の保護手続き
  • 反対株主株式買取請求への対応
  • 労働契約承継法に基づく手続き

詳しく紹介していきます。

株主総会の特別決議

通常、M&Aには株主総会による特別決議が必要です。ただし、スキームが株式譲渡・第三者割当増資のケースの場合は、原則として株主総会における特別決議を行う必要はありません。また、譲渡される資産・対価がきわめて小さい場合や、売り手と買い手に親会社・子会社の関係がある場合は株主総会を省略できるケースもあります。

別のスキームにおいては特別決議が必要になることもあるのでよく確認しましょう。

債権者の保護手続き

株式譲渡においては債権者の保護手続きの必要性は発生しません。

株式交換・合併・吸収分割・株式移転を実施する場合は、債権者の保護手続きが必要です。債権者の保護手続きとは、債権者の利益・権利を保護するため、M&Aの実施を通知し、異議を唱える場を設けられるようにする手続きのことです。

実際に異議が唱えられた場合、会社は債務弁済や担保提供などの対応をしなければいけません。吸収分割や新設分割のケースなどで、かつ対価が売り手企業の株主に交付される場合に、債権が買い手企業に承継されない債権者に対して保護手続きを行います。

株式交換や株式移転のケースで債権者保護手続きが必要になるケースは稀です。売り手企業の新株予約権付社債に付された新株予約権が、買い手企業の新株予約権と交換されるケースでは、新株予約権付社債の債権者に対して債権者の保護手続きを施します。

反対株主株式買取請求への対応

反対株主株式買取請求への対応は、株式譲渡においては発生しません。

株式譲渡・第三者割当増資以外のプロセスでは、M&Aに反対意見を持つ株主に対して株式買取請求権が付与されます(契約承認に株主総会決議が不必要なケースを除く)。株式交換・吸収分割・事業譲渡・吸収合併のケースでは、M&Aの成立予定日の20日前から反対株主による買取請求が可能です。

株式移転・新設分割・親切合併のケースでは、株主総会決議が行われた日から14日以内に、反対株主に対して買取請求の告知もしくは通知を行い、その日から20日以内であれば買取請求を受け付けなくてはいけません。

原則買取請求は請求者と会社の間で行われますが、M&A成立から30日が経過しても決議が決まらないときは、裁判所に適正額を決定してもらうケースもあります。

労働契約承継法に基づく手続き

労働契約承継法に基づく手続きは、株式譲渡においては発生しないプロセスです。

新設分割・吸収分割の場合、M&A契約によって事業に関係する権利義務がまとめて買い手に継承されます。それぞれ個別に契約を取り直す必要はありませんが、雇用契約と労働協約に関しては事前に協議を行う必要があります。

分割される事業に主に従事しており、M&A契約により新設の買い手企業に雇用契約が承継されない従業員と、分割事業とは別の事業に従事していながらも雇用契約が継承される従業員では、雇用内容・労働条件が大きく異なります。そのため、異議がある従業員には意見する場が設けられます。

異議申出は株主総会開催よりも前に設定され、異議がある場合、従業員はM&A契約とは相反する処遇を受けるので覚えておきましょう。

3.独占禁止法関連の手続き

M&Aの対象となる企業の国内売上高が一定値を超えている場合、公正取引委員会へ事前に通知して独占禁止法に違反していないかの審査を受けなくてはいけません。

なおM&Aを行う企業が同一グループ内の場合は、この手続きは不要です。

国内売上高はM&Aの当事企業だけでなく、属するグループの合計で判定されるので、該当する際は注意しましょう。

公正取引委員会に届出が受理された場合、そこから30日間はM&Aが禁止されるので、スケジューリングの際は考慮する必要があります。独占禁止法に関して明らかに問題がない場合は、期間の短縮もできるので専門家に相談してみましょう。

4.契約書に関する手続き

契約者のコベナンツ条項(義務や制限)に規定されている内容にしたがって、クロージングまでに必要な準備を行います。売り手企業に求められるものが多く、主な例は以下のとおりです。

  • 取引契約にチェンジオブコントロール条項が含まれる場合は取引先から継続の同意を得る
  • 許認可の届出を行う
  • 不適切な会計処理を正す
  • 未払いの残業代を清算する

これらはあくまで1例で、ほかにも対応が求められる場合もあります。

クロージングと事後処理

クロージングと事後処理について、下記の3つに分けて紹介していきます。

  1. 譲渡の手続き
  2. 臨時株主総会と取締役会の開催
  3. 登記手続き(買い手側)

それぞれ詳しく見ていきましょう。

1.譲渡の手続き

譲渡に必要な種類を用意して、クロージングの当日にスムーズに契約を行えるように準備しておきましょう。クロージングの事前に、M&Aを行う両者の実務担当が集い、手続きの流れや書類の確認をするプレクロージングが行われるケースもあります。最終契約書で決定したM&Aスキームを履行しますが、譲渡方法によってクロージングの行程は異なります。

株式譲渡では、契約当事者の意思表示と株券引渡しに加えて対価の支払いが行われれば、株式の譲渡が成立します。ただし、譲渡制限株式は取締役会による承認が求められるケースもあります。

株式の対価の支払いは基本的に銀行振込にて行われ、クロージング日は銀行営業日に設定されることが多いです。M&Aの相手が海外企業の場合は、送金方法など特別な配慮が必要になるので留意しましょう。

また、第三者(売り手を含む)に譲渡の効力を生じさせるには、株主名簿の名義書換が必須です。原則、売主の株主と買い手が協力して、売り手に対して名義書換の請求を行いますが、株券を取得する場合は、買い手単独でも書換請求が可能です。そのほか、売り手の実印など、重要物の引渡しが行われるケースもあるので覚えておきましょう。

一方の事業譲渡では、対象となる権利義務関係を個別に手続きする必要があります。

しかしながら、これらの個別手続きには契約の相手方との調整などが発生し、時間を要することからクロージングまでに実施しきれないケースが多いです。そのため、クロージング以降の申し送り事項として契約書に反映するなどの手続きを行いましょう。

2.臨時株主総会と取締役会の開催

M&Aが行われた後は、組織体制や組織の刷新が必要になります。また、合わせて定款変更なども必要に応じて決議されます。

買い手が売り手の全株式を取得するケースにおいては、開催通知を省略できるので、株主総会の開催日をクロージング当日に設定し、実施することも可能です。新たな代表取締役を選ぶ場合は、臨時株主総会に続いて取締役会も開催します。

3.登記手続き(買い手側)

M&Aによって資本金額や代表の交代、発行済株式総数の変更などがある場合は、登記内容の変更・申請の手続きが必要になります。

関連記事:M&Aのクロージングとは?手続きや必要書類などをわかりやすく解説

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経営統合(買い手側)

経営統合段階では、大きく分けると下記の2つの手順を踏みます。

  1. 短期プランの戦略策定・実行
  2. 中長期プランの戦略策定・実行

詳しく見ていきましょう。

1.短期プランの戦略策定・実行

短期プランとは、M&A実施後から半年以内を目安に行われる作業のことです。デューデリジェンスと並行して経営統合のプランを策定し、クロージング後すぐに実行できるように準備しておきましょう。

主に下記のような事項が作業に含まれます。

  • 組織の統合・再編
  • 規定の統合
  • 人事制度の統合
  • 企業風土の融合
  • 管理部門の統合
  • 経営資源の共有化
  • 業務の見直し・効率化
  • 財務の見直し

上記を参考にして、準備を進めてください。

2.中長期プランの戦略策定・実行

中長期プランとは、短期プランと並行して、企業の中長期的な戦略を策定していく作業です。短期プランでは半年以内に完結できない内容もあるので、その事項について中長期プランで時間をかけて行っていきます。

現状を分析して長期的なビジョンを策定することで、具体的に実行計画に落とし込んでいくことが重要です。計画実行の際は進捗管理とモニタリングに力を入れましょう。

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M&Aのプロセスで重要なポイント

次に、M&Aを進めるにあたって、買い手と売り手それぞれの見落としがちな重要ポイントについて解説します。

買い手における重要なポイント

買い手にとってのポイントとしては次の2点が挙げられるでしょう。

  1. M&Aを目的ではなく手段として意識し計画すること
  2. 経営統合における初めの100日で成功体験を生むこと

以下で詳しく解説します。

1. M&Aを目的ではなく手段として意識し計画すること

M&Aはあくまで目的ではなく、戦略目標を達成するための手段であることを忘れてはなりません。

この点は、M&Aが進むほど忘れられやすく、タフで時間のかかるプロセスを経る中で、クロージングすることに満足してしまうケースも多々存在します。たとえば、より早い合意を優先してしまい、DDを簡素化しリスクを見逃してしまうなどが挙げられるでしょう。

これらを回避するためには、統合後のシナジーをどう創出するかなど、統合計画を早い段階から立て、意識することが重要です。

2. 経営統合における初めの100日で成功体験を生むこと

経営統合では短期と中長期の戦略を立てて実行しますが、その中でもクロージング後の初めの100日はM&Aの成否を分ける重要なポイントといわれます。

この期間は買収した側の社員も買収された側の社員も不安な時期となるため、ここでいかに今後に対するポジティブな見通しを持たせるかが非常に重要です。

特に、小さい範囲でも成功体験を創出することが必要で、営業連携によるクロスセルや業務プロセス変更による生産性向上などが挙げられるでしょう。

売り手における重要なポイント

一方の売り手にとっての重要な観点として次の2点が挙げられます。

  1. 情報を開示するタイミングに留意すること
  2. 事前に自社の強みやリスクを把握しておくこと

以下で詳しく解説します。

1. 情報を開示するタイミングに留意すること

売り手にとって自社の情報をどの段階でどこまで開示するかは、交渉戦略上のポイントとなります。

情報を出しすぎると金額などの交渉に不利に働いてしまう一方で、情報を出さないと買い手が撤退するなどのリスクがあります。たとえば、財務情報などバリュエーションに直結する情報は慎重にしつつ、将来の計画やキーパーソンなど買い手の懸念点に関する情報は早めに開示することは有効な手段の1つです。

相手企業とのコミュニケーションの中で、適切な情報を開示する交渉戦略が鍵を握ります。

2. 事前に自社の強みやリスクを把握しておくこと

売り手にとってはいかに高い金額で売却できるかが非常に重要な論点ですが、価格については算定に恣意性が少なからず入る以上、買い手との交渉は避けられません。

交渉を優位に進めるためには、自社の強みをしっかりと把握して手札を揃えておくと同時に、リスクとなり得る要因を理解し、対策を打っておくことです。たとえば特定顧客へ売上が依存している場合や、重大な訴訟リスクなどは事前に緩和しておいた方が良い事例となります。

そのためには早めにセラーズデューデリジェンスなどを行って、自社の強みやリスクを精査しておくべきといえるでしょう。

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M&Aを成功させるために必要な知識やスキル

ここからは、M&Aを成功させるために必要な知識やスキルを解説します。主なものは、下記のとおりです。

  1. 最適な相手企業を見定める力
  2. スキームに関する知識や実践力
  3. トラブルへの対応力

それぞれ詳しく解説していくので、M&Aを成功させるためにチェックしておきましょう。

1.最適な相手企業を見定める力

M&Aを成功させるには、最適な企業を見定める力が必要になります。そのためには、まずは自社が抱えている課題を洗い出し、M&Aによって何を解決したいのかを明確にすることです。そのうえで、課題解決に合致しそうな相手企業を選定し、企業分析を行います。

企業分析では、東京商工リサーチや帝国データバンク、IR情報を見て、事業内容や展望、株主構成、取引先、財務状況などを詳しく確認することが大切です。また、その企業に詳しい人物に話を聞くなど、Web上では得ることができない情報を集めることも重要です。このように、最適な相手企業を見定めるには、相手企業の情報を網羅的に集める情報収集能力が不可欠になります。

2.スキームに関する知識や実践力

M&Aのスキームには、株式譲渡や事業譲渡などのスキームがあり、自社の課題に合わせて最適なスキームを選択することが重要です。スキームは種類によって、プロセスや実施できる条件、必要な現金などが変わります。自社がどのスキームを実施できるのか正確に判断できていないと、M&Aの進行中に実施不可であることが分かり、取り辞めになるなどのリスクが発生することも考えられます。

また、M&Aを実践する際には、プロジェクトを最後まで遂行できるマネジメント能力も求められます。複数のプロセスが同時進行することも多く、スケジュール管理から、関係各所への連絡、リスクヘッジなど綿密に管理することが重要です。複数プロジェクトを横断的に管理するスキルをもって対応するのが望ましいでしょう。

3.トラブルへの対応力

実際にM&Aを履行するにあたっては、円滑にすべてが進むのは稀で、予期せぬトラブルが発生するものです。たとえば、株主が不明なことがわかり株式譲渡ができなかったり、情報が漏れて従業員や取引先の離反につながったりなど、数々のトラブルが往々にして発生します。

どんなに注意してもトラブルはどうしても発生してしまうため、トラブルが発生することを前提として立ち回ることも重要です。どの過程でどのようなトラブルが発生しやすいのか、事前に調べて対応方法を頭に入れておき、冷静に対処できる力が求められます。

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まとめ

M&Aとは、2つ以上の会社が1つに合併したりある企業が他の企業を買収することです。M&Aのプロセスは、準備・交渉・クロージング・経営統合の4つに分かれます。さらに準備・交渉・クロージング・経営統合も細かいプロセスに分かれます。準備にあたっては、M&Aの目的の明確化や企業選定を、交渉ではデューデリジェンスや企業価値算定、トップ面談などを行います。また、クロージングでは譲渡の手続きや株主・従業員・債権者の権利保護を行い、経営統合では統合後の企業戦略を策定します。M&Aの実施にあたっては、企業選定のスキルやマネジメント能力、トラブル対応力など、高いスキルが求められます。そのため、M&Aを検討する場合は、専門知識をもったプロに相談することも検討すると良いでしょう。

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