このページのまとめ
- 資金を投じて利益を得るという意味では、M&Aも投資の一種である
- M&A投資のスキームには株式取得、事業譲渡、会社分割、合併がある
- M&A投資のメリットは、シナジー効果が期待できることや経営権を握れることなど
- M&Aが投資である以上、利益が出ないリスクがある
- M&A投資の成功のために、リスク調査をしたり仲介会社を活用したりするのがおすすめ
既存事業を成長させるためにM&A投資を検討している方もいるでしょう。
M&Aと投資の大きな違いは、目的にあります。値上がり益や配当金を目的とした株式投資と異なり、M&Aの主な目的は経営権や事業の獲得などです。
本コラムでは、M&Aと投資の違いや代表的な投資スキームを中心に解説します。投資としてのM&Aを行うメリットやポイントも紹介しているため、ぜひ参考にしてください。
目次
M&Aと投資の違い
ここでは、M&Aと投資の違いについて説明します。
M&Aとは
M&Aとは、「Mergers and Acquisitions」の略称で、会社(事業)の合併や買収を意味します。
- 合併:2つ以上の会社が合わさり、1つの会社となるM&A手法のこと
- 買収:他社の株式(=経営権)や事業を買い取るM&A手法のこと
買い手企業のM&Aの目的はさまざまですが、一般的には経営権の取得であることが多いです。それに伴い、新たな製品やブランド、顧客、人材、流通経路、ライセンスなども獲得できます。なお、通常の株式売買と異なり、証券市場は通さず、企業同士で直接契約することが多いです。
投資とは
投資とは、利益を得る目的で資金を投じる行為を指します。個人の投資といえば、株式や投資信託といった金融商品の購入が一般的でしょう。しかし、ビジネスでは自社に投資を行い、事業そのものから利益を得る事業投資も存在します。
金融投資との違い
金融投資とは、他社の株券や債権などを購入し、値上がり益や配当金を得る方法を指します。金融投資ではM&A(株式譲渡)と同じように、株式などの購入が行われます。
しかし、M&Aと異なり、金融投資の目的はあくまでも値上がり益や配当金などです。一定割合の株式を取得して、経営権や事業を獲得しようとするM&Aとは目的が大きく異なります。
事業投資との違い
事業投資とは、自社に対して出資し、事業そのものから利益やシナジー効果を得る方法を指します。事業投資とM&Aは、事業に対する出資である点は共通しています。
しかし、事業投資は自社の事業に出資し、M&Aは他社の経営権を取得するために出資します。このように事業投資とM&Aでは、自社の事業か・他社の事業かという投資先に違いがあります。
M&Aは投資の1つ
前述したとおり、M&Aと投資は目的や手段が異なるため、全く同じものとはいえません。しかし、資金を投じて利益を得るという意味では、M&Aも投資の一種として捉えられるでしょう。
M&Aによる投資のスキーム
代表的な M&Aスキームには、以下の4種類があります。
- 株式取得
- 事業譲渡
- 会社分割
- 合併
ここでは、M&Aによる投資のスキームについて詳しく説明します。
株式取得
株式取得とは、売り手企業の株式を取得し、経営権を獲得するM&A手法のことを指します。最も一般的な手法は株式譲渡ですが、株式取得の方法は、ほかにも以下のようにいくつか種類があります。
- 株式公開買付(TOB):不特定多数の人に買付価格や期間を告知し、株式を購入する手法
- 第三者割当増資:売り手企業が新たに株式を発行し、買い手企業が取得する方法
- 株式交換:売り手企業の株式の100%を取得し、株主に買い手企業の株式を取得させる方法
会社の経営権を取得するためには、少なくとも50%超の株式を取得する必要があります。投資目的でM&Aを行う際も、基本的には50%超の株式取得を目指すことになるでしょう。
M&Aによる投資では、手続きが簡便という大きな利点があることから、株式取得(特に株式譲渡)の手法を活用することが一般的です。
事業譲渡
事業譲渡とは、売り手企業の事業の全部または一部を買収するM&A手法のことを指します。不動産や設備などの有形財産だけでなく、人材や特許権、ブランドなどの無形財産も取得できます。どの資産を譲渡するか、売り手企業と協議をして選択することも可能です。
なお、事業譲渡では金銭による取引が基本で、株式を取得するわけではないので注意しましょう。
会社分割
会社分割とは、新法人や他法人に事業の全部または一部を承継させる企業再編を指します。会社分割は、事業の承継先と対価の受取先の関係によって以下の4種類に分類することができます。
- 新設分割型分割:新会社に事業や資産を承継させて、対価は株主が受け取るスキーム
- 新設分社型分割:新会社に事業や資産を承継させて、対価は売り手企業が受け取るスキーム
- 吸収分割型分割:既存企業に事業や資産を承継させて、対価は株主が受け取るスキーム
- 吸収分社型分割:既存企業に事業や資産を承継させて、対価は売り手企業が受け取るスキーム
会社分割によるM&Aでは、一般的に新設分割型分割を使うことが多いです。まずは旧法人に対象の事業と資産を残し、そのほかの事業や資産を新法人に承継します。そして、買い手企業は旧法人の株式を購入し、経営権・事業・資産を取得することになります。
合併
合併とは、複数の企業を1つに統合させるM&A手法です。株式取得や会社分割といったほかの手法と異なり、法人格が消滅する会社と存続する会社の両方が存在します。消滅する会社が有する権利義務の全てを存続会社が取り込む点が大きな特徴です。
合併の手法は、消滅会社の権利義務をどのような存続会社が取得するかによって2種類に分けられます。既存の会社が承継する場合は「吸収合併」、新しく設立する会社が承継する場合は「新設合併」と呼ばれます。
一般的には、グループ内の組織再編を行うケースで活用されます。この場合、現金ではなく株式を対価とすることが多いです。また、グループ外部の企業を完全子会社化(株式を100%取得)する目的でも合併が用いられます。複数の企業が完全に1つとなるため、株式取得や事業譲渡と比べて、シナジー効果が発揮されやすいといわれています。
関連記事:M&Aの種類とは?各スキーム(手法)の特徴や選び方を解説
M&Aによる投資の動向
M&Aを投資として捉えた場合、「国内企業による海外企業への投資」「PEファンドによる日本市場への参入」という2つのトレンドが見られます。本章では、M&Aによる投資の最新動向を解説します。
海外企業への投資を目的としたM&Aの活発化
目的別に見ると、海外企業への投資を目的としたM&Aが活発に行われています。
経済産業省が発表した資料によると、全体として、2020年はコロナ禍の影響で減少したものの、それ以降は回復〜拡大傾向です。
ただし2023年において、国内企業同士のM&A(IN-IN)、および海外企業による国内企業の買収(OUT-IN)の件数は前年および前々年と比べて減少しています。一方で、国内企業による海外企業の買収(IN-OUT)の件数は増加しました。
IN-OUT型M&Aの件数が増加している背景として、少子高齢化の影響により、あらゆる業界で国内市場の縮小が危惧されていることが挙げられます。国内でのみ事業を継続すると、市場縮小によって業績の悪化が予想されます。
こうした理由から、市場の成長が見込まれる海外市場への進出によって会社の存続や成長を図る企業が増えており、その投資手段としてM&Aが活用されていると考えられます。
PEファンドによるM&Aの増加
買い手企業の特性で見ると、PEファンドによるM&Aも増加傾向にあります。PEファンドとは、PE投資(未公開企業への投資)を専門的に行うファンドです。
PEファンドによるM&Aが増加している理由は2つ挙げられます。
日本企業が有するポテンシャルの高さ
PEファンドは、投資した未公開企業の企業価値を高めた後に、株式を売却することで利益の創出を目指します。つまり、企業価値の向上により利益を得られる可能性が高いと判断されて、PEファンドによる買収が活発化していると考えられます。
ファンドに対するイメージの向上
2000年代頃までは、経営不振の企業を買収し、早期に投資回収するビジネスモデルが「ハゲタカファンド」と呼ばれており、ファンドへの会社売却はマイナスの印象を抱かれていました。
しかし近年は、中長期にわたる時間をかけて企業価値の向上を図るファンドが増えていることや、政府関連のファンドが台頭してきたことなどに伴い、ファンドという存在に対するイメージが改善されてきました。こうしたイメージアップにより、売却先としてファンドを前向きに検討する企業が増えてきたことで、PEファンドが関与するM&Aが活発になっていると考えられます。
参照元:
経済産業省「外国企業と日本企業の協業連携事例集」
M&A投資を行うメリット・デメリット
ここでは、投資としてのM&Aを行うメリットとデメリットについて説明します。
7つのメリット
M&A投資を行うメリットは、以下のとおりです。
1.既存事業とのシナジー効果が期待できる
M&A投資を行うことで、既存事業とのシナジー効果が期待できるようになります。シナジー効果とは、2つ以上の企業・事業が一緒になることで得られる相乗効果のことです。シナジー効果の種類はいろいろありますが、売上拡大やコスト削減の2つが代表的です。また、売上拡大やコスト削減のシナジー効果は、それぞれバリューチェーンの各段階で見られます。
売上拡大 | コスト削減 | |
購買 | 資材調達の安定化 | 仕入れ交渉力の強化 |
製造 | 生産能力の拡大 | 外注作業の内製化 |
物流 | 販売経路の拡大 | 物流の最適化 |
販売 | 販売拡大 | マーケティングコストの削減 |
2.売り手企業の経営権を握ることができる
M&A投資の場合は、売り手企業の経営権を取得することが一般的です。経営権を取得した場合は、その会社や事業の方針を決定することができます。買い手企業が経営手腕に長けていれば、短期間でM&Aに投じた資金を回収できるでしょう。
3.経済的・時間的なコストを削減できる
新規事業を始めたり、既存事業の強化を図ったりするためには費用や時間がかかります。しかし、M&A投資を行えば、すでに成長した他社の事業や資産などを買い取ることが可能です。そのため、新規事業や既存事業を成長させるために必要な経済的・時間的なコストを削減できます。
4.顧客やノウハウ、技術といった経営資源を獲得できる
M&A投資により、自社が持っていない顧客基盤や業務・経営に関するノウハウ、技術などを獲得できます。これにより、自社の弱みを補強したり、成長力や競争優位性を高めたりできるようになります。また、新しいビジネスや製品の創出も可能となるでしょう。
5.事業領域・規模の拡大を見込める
M&A投資は、既存事業の規模を拡大したり、事業ドメインが広がることにもつながります。
たとえば同業他社を買収することで、自社の店舗や販路の拡大につながり、売上や利益の増加が見込まれます。一方で、自社とは異なる事業を運営する他社に投資することにより、その事業ドメインに新規で参入できます。事業領域を広げることは新しい収益源の確保につながるだけでなく、会社全体において業績悪化のリスク軽減にもつながります。
6.内製化や物流の最適化による恩恵を得られる
M&Aによって企業は内製化を進めることができます。外部企業に支払う手数料や報酬が不要となるため、利益率が向上します。また、自社で製品の生産や開発を行うことで、ノウハウや技術の蓄積も期待できます。
加えて、垂直統合型のM&Aにより、物流の最適化も期待できます。具体的には運搬経路の短縮や施設の統廃合などを行えるようになり、コスト削減やスピーディーな顧客対応の実現が可能となります。
7.株価の上昇を見込める
M&Aに伴い、収益性の向上や中長期的な企業価値の向上が見込まれる場合、投資家から投資対象として高く評価されやすくなります。これにより株価の上昇が見込めます。
株価が上昇することで自社のブランド力や知名度、資金調達能力が高まります。その結果、より一層長期的な事業の成長が実現されやすくなるでしょう。
4つのデメリット
M&A投資を行うデメリットは、以下のとおりです。
1.ある程度のまとまった資金が必要になる
M&Aを行うためには、ある程度のまとまった資金を用意する必要があります。
具体的な金額はケースごとに異なるため、明確にいくら必要なのかを説明するのは難しいです。小規模な案件では数百万円で売買が行われているケースがありますが、上場企業など規模の大きな企業のM&Aでは、数十億円で取引が行われるケースもあります。
小規模な案件を除いて、事業資金に余裕がある場合や、資金調達ができる場合でないとM&Aは難しいでしょう。
2.必ずしもM&Aで利益が出るとは限らない
M&A投資には一定のリスクがあり、必ずしも買収後に利益が出るわけではありません。また、買収後の事業が失敗した結果、多額の損失が発生する可能性もあります。
利益が出ない原因はさまざまですが、主な理由には以下のようなものが挙げられます。
- バリュエーション(企業価値評価)で、売り手企業の事業を過大評価した
- デューデリジェンスが不十分で、簿外債務などのリスクを見抜けなかった
- PMIの計画が不十分で、M&A後の経営・統合が円滑に進められなかった など
そのため、M&A投資をする際は、利益が出ないリスクがあることを十分理解しておきましょう。
3.PMIの実施に伴うコストの増加
買収後のPMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)には、多くの場合多大なコストがかかります。システムの統合や人事制度の再編など、多岐にわたる作業が必要となり、予想外の費用が発生することも少なくありません。PMIの業務にかかるコストが当初の想定を上回り、かえって業績が悪化するリスクに注意が必要です。
4.企業文化の衝突や従業員の離職が生じ得る
投資先の企業と自社との間で、企業文化や組織風土、働き方などが大きく異なるケースは少なくありません。PMIの過程では、こうした違いによって従業員同士の軋轢やモチベーション低下が生じるおそれがあります。場合によっては、キーパーソンの離職によって事業の続行が困難となる事態もあり得ます。
投資資金を回収し、それ以上の利益を得るには、こうした衝突や離職などのリスクを最小限に抑えることが重要です。そのためには、事前に策定した計画に沿って、慎重に人事や文化面の統合を図っていくことが求められます。
M&A投資を成功させるための8つのポイント
ここでは、M&A投資を行う際のポイントについて説明します。
1.初めは小規模なM&A投資をする
M&A投資には、必ずしも利益につながらない可能性があるため、まずは小規模なM&A投資を行い、できる限りリスクを小さくするのがおすすめです。また、小規模M&Aのほうが、交渉で優位になりやすく、買収後もコントロールしやすくなります。
最初は小規模なM&A投資を行い、事業を徐々に大きくしてから中規模・大規模なM&Aを行うようにしましょう。
2.今後成長が見込める企業を狙う
M&A投資を行う目的は、基本的には他社を買収し利益を上げることにあります。そのため、できる限り今後成長が見込める企業をターゲットにすることをおすすめします。
売り手企業がM&Aをする目的は不採算事業の整理だけでなく、事業は好調であるものの後継者不足でM&Aを実施する場合も考えられます。このように十分成長が見込めるにもかかわらず、M&Aを行おうとしているケースもあるのです。
これまでの企業業績や市場規模などを踏まえて、成長性のある企業を買収するのがよいでしょう。
3.リスクに関する調査を十分行う
M&Aを行う際に注意するべき主要なリスクは以下の4つです。
- 財務リスク:簿外債務、偶発債務、債務保証の有無や資産の実在性に関するリスクなど
- 法務リスク:株式の瑕疵の有無、各種契約や知的財産権のリスク、訴訟・紛争リスクなど
- 経営リスク:未払い賃金の有無、成長性に関するリスク、経営統合後に関するリスクなど
- 人材リスク:従業員の待遇・賃金に関するリスク、キーマンの退職リスクなど
このほかにも税務リスク、ITリスク、環境リスクなど、M&Aに伴うリスクは多岐にわたります。そこで適正にリスクを調査・評価するためのデューデリジェンスをしっかりと行う必要があります。
デューデリジェンスとは、買い手企業が売り手企業について詳細に調査・評価する工程を指します。このデューデリジェンスを行うことでリスクを正しく評価し、譲渡価格を調整することが可能です。なお、一般的にこのデューデリジェンスは弁護士や公認会計士、M&A仲介会社などの専門家に依頼して行います。
4.M&A仲介会社のサポートを受ける
M&Aをするには、バリュエーションやデューデリジェンスなどの知識やスキルが必要になります。専門的な内容になるので、実施する際は仲介会社やFA(ファイナンシャルアドバイザー)のサポートを受けるのがおすすめです。
- 仲介会社:売り手企業と買い手企業の間に入り、仲介役としてM&Aの成立を目指す業者
- FA:売り手企業と買い手企業の一方の側に立ち、M&Aのサポートをしてくれる業者
このように役割は異なりますが、いずれもM&Aを実現できるようサポートをしてくれます。
なお、中小規模M&Aの場合は、M&A仲介会社に依頼したほうがよいといわれることが多いです。また、上場企業同士など大規模M&Aの場合はFAのサポートを受けるのが望ましいとされています。
5.M&Aに関する基礎知識を身につけておく
M&A投資の成功とは、以下の2つの条件を満たすことであると考えられます。
- 交渉や契約をトラブルなくスムーズに進める
- 投資した金額を回収し、それ以上の利益やシナジーを創出する
そのためには、M&Aに関連する会計や財務、税務、法律に関する知識を持った上で、バリュエーションや契約内容の決定を行う必要があります。また、財務諸表などの表面には表れない、投資先企業とのシナジー効果や、今後の市場予測といったビジネス面の知識やノウハウも求められます。
書籍やセミナー、M&A仲介会社のWebメディアなどを通じて、基本的な知識を習得しておくことで、最適な意思決定を行えるようになるでしょう。
6.投資先企業に在籍する従業員とのコミュニケーションを疎かにしない
前述のとおり、従業員のモチベーション低下や離職は、M&A投資の成功を妨げる要因となり得ます。こうしたリスクを防ぐには、投資先企業に在籍する従業員と入念かつ丁寧なコミュニケーションを図り、不安や疑問を可能な限り解消することが重要です。
契約直前・直後はもちろんのこと、買収後に行うPMIのプロセスでも継続的に対話を重ねましょう。特に、収益創出の大部分を担うキーパーソン(優秀な従業員など)と確固たる信頼関係を構築できれば、買収した事業に対する積極的な貢献を期待できるため、よりM&A投資の成功に近づきます。
7.経営への最適な参画度合いを見極める
M&A後は、投資先企業の経営にどの程度参画するかを適切に見極める必要があります。
過度に介入すると現地の経営陣のモチベーション低下やキーパーソンの離職を招くおそれがあります。一方で放任しすぎると、統合が円滑に進まなくなったり、成果に結びつかない事業運営を続けられたりするおそれがあります。
したがって、投資先企業の状況に応じて、適宜アプローチを変えていくことが求められます。たとえば、投資先企業に優秀な従業員や経営陣、競争優位性の高いノウハウや技術などがある場合は、経営への関与を最小限に留め、資金提供によってサポートする戦略が効果的であると考えられます。
一方で、投資先企業の事業運営や業績、人材面に問題・懸念がある場合は、資金だけでなく経営ノウハウや人材も積極的に提供するなど、本格的に参画した方が効果的でしょう。
8.投資ファンドの手法を参考にする
買収を成功させるには、M&A投資のプロである投資ファンドの手法が参考となります。投資ファンドでは、財務やビジネスなどの高度な知識を有する専門家の主導により、リスクを最小限に抑えつつ高いリターンを狙うM&A戦略がとられます。また、一般的な事業会社と比べて、M&A投資に関する成功事例も豊富に持っています。
そのため、投資ファンドによる買収やPMIの手法を参考・採用することで、自力でM&Aを行う場合よりも成功可能性を高められると考えられます。
投資ファンドによるM&Aの基礎知識
投資ファンドによるM&Aについて説明します。
投資ファンドとは
投資ファンドとは、投資家から資金を集めて投資をし、得られた利益を分配する仕組みを指します。
また、このような投資ビジネスを行う機関や組織のことを「投資ファンド」と呼びます。
投資ファンドは、買収した企業の価値を高める活動をしてから、株式公開や株式売却などを行い利益を得ます。
関連記事:M&Aにおける投資銀行の役割は?各部門や仲介会社との違いについても解説
投資ファンドの種類
投資ファンドの種類は、M&Aにおける投資の目的や対象、時期といった観点から5種類に大別されます。
種類 | 投資対象 | 利益創出に向けた主な活動 |
ヘッジファンド | 上場株式や債券、先物などさまざま | デリバティブの駆使など |
ベンチャーキャピタル | 未上場のベンチャー企業 | コンサルティングなど |
バイアウトファンド | 成長期および成熟期の企業 | コンサルティングやMBIなど |
企業再生ファンド | 経営不振状態の企業 | 事業再生やコスト削減、人員整理など |
ディストレスファンド | 経営破綻している企業 | 不採算事業の切り離しやリストラクチャリングなど |
以下でそれぞれ詳しく解説します。
1.ヘッジファンド
ヘッジファンドとは、デリバティブを駆使して相場が下がったときにも利益を出せるファンドです。
ファンドによって方針は異なりますが、中には、経営に直接関与してくる物言う株主も存在します。
友好的な長期の成長戦略を提案してくることもあれば、短期の利益獲得を目指した提案もあります。
2.ベンチャーキャピタル
ベンチャーキャピタル(VC)は、未上場のベンチャー企業の株式を購入・取得するファンドです。出資をすると同時にコンサルティングを行い、企業価値を向上させるために働きかけます。株式上場(IPO)を達成できたり、M&Aが成立したりした際には、株式を売却して利益を得ます。
ちなみに、投資先が未公開企業(≒非上場企業)であることから、VCは「PEファンド(非公開株式への投資を手がけるファンド)」の一部に含まれます。未公開企業が投資対象であれば、後述するバイアウトファンドや企業再生ファンドもPEファンドに該当します。
3.バイアウトファンド
バイアウトファンドは、成長期・成熟期にある企業の株式を購入・取得するファンドです。ベンチャーキャピタルと同じで、コンサルティングやMBIなどにより企業価値の向上を目指します。MBIとは、ファンドが外部経営者を送り込み、企業価値の向上などを図る手法のことです。その後、企業価値や株価が上昇したら、株式を売却して利益を得ることになります。
4.企業再生ファンド
企業再生ファンドとは、経営不振の状態にある企業に対して投資を行うファンドです。企業再生ファンドは、ターンアラウンドとワークアウトなどを実施して企業の再生を図ります。ターンアラウンドとは事業再生などを、ワークアウトとはコスト削減や人員整理などを指します。そして、企業価値が上がったら株式公開(IPO)やM&A(株式譲渡)を行って利益を獲得します。
5.ディストレスファンド
ディストレスファンドとは、経営破綻している企業に対して投資を行うファンドです。ディストレスファンドは、不採算事業の切り離しやリストラクチャリングで企業再生を図ります。そして、企業再生によって企業価値が上がったら、株式や事業などを売却して利益を獲得します。なお、経営破綻した企業の立て直しは難しいため、ハイリスク・ハイリターンのファンドといえます。
投資ファンドによるM&A戦略
投資ファンドでは、一般的に以下の流れでM&Aの実施から利益獲得までの戦略を実行します。
流れ | 具体的に行うこと |
①投資先企業の潜在的な価値の見極め | 競合他社や顧客、ビジネスモデルに対するニーズ、市場環境などを分析し、数年後までにどの程度企業価値を高められるかを見極める |
②企業価値を高める戦略や計画の策定 | 企業価値向上に向けて、具体的に行うことや必要となる経営資源、目標、評価基準、数ヶ月ごとのスケジュールなどを策定する |
③戦略や計画を実行するための準備 | 必要な経営資源の確保(優秀な人材の採用や配置など)、評価指標の設定などを実施する |
④企業価値の向上を実現する各種施策の実施 | 資金調達の実施や運転資金の管理、キャッシュフローの創出に向けた施策、結果重視の組織文化の醸成などを行う |
⑤利益の獲得 | 企業価値を高めた上で、IPOやM&Aによって株式の売却利益を確保する |
上記は、あくまで一般的な投資ファンドのM&A戦略を簡潔にまとめたものです。より深く・具体的に投資ファンドのM&A戦略を理解するには、実際の事例を複数参考にすることがおすすめです。
弊社が公開している以下の記事もぜひ参考にしていただけますと幸いです。
関連記事:投資ファンドのM&Aとは?メリット・デメリットや事例11選を紹介
まとめ
M&Aと投資は、どちらも株式売買を伴うことがあるため混同しやすい手続きといえます。しかし、M&Aの主な目的は経営権の獲得で、投資の主な目的は値上がり益の獲得となっています。この点は大きく異なるため、M&Aと投資の違いを判断するときのポイントにするとよいでしょう。
ただし、資金を投じて利益を得るという意味では、M&Aも投資の一種として見ることができます。M&A投資を行う際のポイントは、小さな規模から始めることや成長性のある企業を狙うことです。また、M&Aには専門的な知識やスキルが必要になるため、M&A仲介会社のサポートも重要です。
レバレジーズM&Aアドバイザリー株式会社は、M&A全般のサポートに対応している仲介会社です。各領域に精通しているコンサルタントが、豊富な経験にもとづいた的確なアドバイスを提供します。完全成功報酬型であり、相談も無料で行えます。まずは、お気軽にご連絡ください。