廃業の前に知っておくべき、M&Aを活用した事業承継について解説

2023年7月12日

廃業の前に知っておくべき、M&Aを活用した事業承継について解説

このページのまとめ

  • 廃業を回避するための手段としてM&Aは有効である
  • 業績が良くても廃業している中小企業は意外と多い
  • 企業が廃業するとさまざまなものが失われるため社会的影響が大きい
  • 廃業せずにM&Aをして存続すると、経営者にも社会にも多くのメリットがある
  • 廃業回避を支援してくれる機関・制度は充実してきている

中小企業経営者の方の中には、さまざまな理由で廃業を考えている人が多くいます。日本経済を支える担い手である中小企業が廃業してしまうと多くの影響があることから、近年では、中小企業庁をはじめ、政府が主体的に中小企業の廃業回避を支援しています。

このコラムでは、中小企業における廃業の最新データを踏まえたうえで、廃業の前に知っておきたいM&Aを活用した事業承継の基礎知識について解説していきます。このコラムを読むことで、M&Aを活用する時に利用可能な機関や制度について理解できるようになります。

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中小企業における廃業の最新データ

まずは、中小企業における廃業の最新データを紹介していきます。最新のデータを読み解くことで、中小企業の廃業を防ぎ、事業を承継していくことが重視されていることを確認します。

中小企業の廃業件数は減っている

日本国内における休業・解散を含めた廃業の状況について、帝国データバンクの全国企業「休廃業・解散」動向調査(2022年)をみていきましょう。

この調査の結果は、以下の図表のようにまとめられます。

休廃業・解散件数推移のグラフイメージ

引用元:帝国データバンク『特別企画:全国企業「休廃業・解散」動向調査(2022 年)』(2023年1月16日)

2022年には日本全国で約53,426の個人事業主含む会社が、休業・廃業に追い込まれています。この結果は、前年比で約1,300件(2.3%)の減少となっていて、近年、休廃業・解散件数は減少傾向にあることがわかります。この数字だけみれば、休業・廃業に追い込まれる会社は減っていることを意味するので、良い傾向であると考えられるかもしれません。

休廃業・解散 推移(表)のイメージ

引用元:帝国データバンク『特別企画:全国企業「休廃業・解散」動向調査(2022 年)』(2023年1月16日)

一方、2022年の休廃業・解散件数を前年末時点の企業総数で除して計算される休廃業・解散率は3.66%となっており、前年度比は-2.3pt。件数だけでなく率としても休廃業・解散件数は減少傾向となっています。

上記のデータを分析した帝国データバンクは、”良好な資金調達環境に加え、金融機関をはじめ官民一体の伴走支援策によって、休廃業へと傾きつつあった経営マインドに「待った」を掛けたことが、休廃業・解散の発生を抑制した主な要因”であると総括しています。

このデータから、良好な資金調達環境や支援策によって休廃業・解散件数が抑えられていることが読み取れますが、新型コロナウイルスの世界的な流行がおさまりつつある2023年以降は、資金調達環境は悪くなり、支援策も少なくなることが考えられることから、今後は休廃業・解散件数が増加に転じる可能性がある点に注意が必要です。

2023年からは数多くの企業がコロナウイルスに関連する融資の元本および利息の返済を開始すると予想されます。そのため、今後は、将来の状況が分からない中で、新型コロナウイルスの世界的な流行で減少した収益性の改善と借入金の返済という課題と向き合わなければなりません。

参照元:帝国データバンク『特別企画:全国企業「休廃業・解散」動向調査(2022 年)』(2023年1月16日)

資産超過型廃業が増えている

「資産超過型」「黒字」休廃業の各割合の年別推移のイメージ

引用元:帝国データバンク『特別企画:全国企業「休廃業・解散」動向調査(2022 年)』(2023年1月16日)

2022年までは、新型コロナウイルスが世界的に流行したことで、政府が主導して、金融機関が持続化給付金を支給するなど、無利子・無担保の融資を行って、中小企業に対して手厚い支援策が実施されてきました。2023年からは、融資資金の返済が始まります。コロナ禍以前から業績に苦しんでいた中小企業にとっては、政府主導のコロナの援助政策は一時的な生存手段にすぎません。

実際、上の図表のように、資産が負債を上回る健全な会社であっても、休廃業を選んでいる会社があることがわかります。休廃業した会社のうち、実に63.4%もの会社が、資産超過の状態で休廃業の道を選んでいます。黒字休廃業率は減少していますが、2022年において54.3%と、半分以上の会社が黒字のまま休廃業を選んでいます。

このことは、休廃業の原因が、会社の業績の悪化に起因しているわけではないことを示しています。それでは、一体何が原因で、休廃業が進んでいるのでしょうか。

その答えは、長引くコロナ禍によって会社の売上の減少が続いていること、原材料価格やエネルギー価格が高騰していること、働き手となる若年層の減少による人材確保の難しさに起因する人件費の増加などで、会社が収益面や財務面にダメージを受けたことで、資産超過の状態でかつ黒字であっても、将来を悲観して自主的に休廃業・解散を選ぶ中小企業経営者が増えているためです。コロナ禍だけでなく、「この状態では会社を引き継ぐわけにはいかない」「自分の世代で事業を閉じるべきだ」と判断する中小事業者は決して稀ではありません。資金が尽きて他人に迷惑をかけるよりも、事業を休止したり、解散を選ぶ中小企業が増加することは十分に予想されます。

しかし、資産超過で、黒字である会社が休廃業の道を選んでしまえば、そこで会社が蓄積してきた技術・ノウハウが失われることになります。休廃業や解散ではなく、有望な経営者に会社を引き渡すことができれば、事業の再構築が進む可能性があります。したがって、中小企業の経営者が休廃業や解散を選ぶ前に、M&Aという会社を継続する道を選べるよう、社会的に支援していくことが今後は重要になると考えられます。

参照元:帝国データバンク『特別企画:全国企業「休廃業・解散」動向調査(2022 年)』(2023年1月16日)

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M&Aで廃業は回避できる

ここからは、現在は中小企業でも廃業を選ぶことなくM&Aで事業を継続しやすい状況になっていることを解説します。

優良な中小企業をM&Aで獲得したい企業が多い

近年は、資産超過や黒字であり、独自の技術やノウハウを有している有料な中小企業をM&Aで獲得したいと考えている企業は多くいます。優良な中小企業をM&Aで獲得したいと多くの企業が考えている理由として代表的な理由は以下の2つです。

  • M&Aによって新規の市場や製品ラインにスムーズに進出することが可能になる
  • M&Aによって独自の専門知識や技術を自社のビジネスに活かすことが可能になる

M&Aを活用せずに、新たにビジネスを始める場合、時間と資源を大量に必要としますが、すでにビジネスをしている中小企業を買収すれば、その時間とコストを大幅に削減できます。また、中小企業の中には、特定の領域において独自の専門知識や技術を持つ場合があります。これらの企業を獲得することで、それらの技術を自社のビジネスに活かすことが可能です。さらに、似たような業界で活動する中小企業を買収することで、両社の業務を統合し、コスト削減や生産効率の向上を図れます。

廃業回避を支援する資料が提供されている

近年では、中小企業の事業承継を後押しするための様々な資料が整備されてきています。

たとえば、中小企業庁は以下のような事業承継やM&Aに関するガイドラインやマニュアルを公開しています。

ガイドライン・マニュアル資料の概要
事業承継ガイドライン中小企業・小規模事業者における円滑な事業承継のために必要な取組、活用すべきツール、注意すべきポイント等を紹介している
経営者のための事業承継マニュアル事業承継に向けた準備を早期に始めることの重要性や、事業承継をめぐるさまざまな課題への対策、経営承継円滑化法をはじめとする支援制度、事業承継をサポートする体制の紹介など、円滑な事業承継を実現するうえで必要な最新の情報が盛り込まれている
中小 M&A ガイドライン -第三者への円滑な事業引継ぎに向けてM&Aに関する意識、知識、経験がない後継者不在の中小企業の経営者の背中を押し、M&Aを適切な形で進めるための手引きが示されている。併せて、M&Aを支援する関係者が、それぞれの特色・能力に応じて中小企業のM&Aを適切にサポートするための基本的な事項が示されている。
中小企業庁 中小M&Aハンドブック「中小M&Aガイドライン」のうち第1章(後継者不在の中小企業向けの手引き)の内容を、より分かりやすく解説したもの。
中小PMIガイドライン~中小M&Aを成功に導くためにM&A後のプロセスであるPMI(POST MERGER INTEGRATION)について解説したもの。

引用元:中小企業庁「事業承継の支援策」

これに加えて、事業承継・引継ぎを行う中小企業に対して補助金を交付したり(事業承継・引継ぎ補助金)、事業承継時の税金を安くする税制(参考:中小企業庁:事業承継税制(一般措置)の前提となる認定)の整備が進んでいるなど、中小企業が廃業を回避して事業を承継するための環境が整ってきています。

参照元:
中小企業庁「中小企業庁:事業承継の支援策
中小企業庁「中小企業庁:事業承継税制(一般措置)の前提となる認定
中小企業庁「事業承継ガイドライン
中小企業庁「経営者のための事業承継マニュアル
中小企業庁「中小 M&A ガイドライン -第三者への円滑な事業引継ぎに向けて
中小企業庁「中小企業庁 中小M&Aハンドブック
中小企業庁「 中小PMIガイドライン~中小M&Aを成功に導くために

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廃業せずにM&Aを実施するメリット

次に、経営者が休廃業せずにM&Aを実施するメリットについて、経営者個人のメリットと、社会的なメリットに分けて説明していきます。

経営者のメリット

経営者のメリットは、以下の2つです。

会社の事業を存続させられる

M&Aは事業の継続性を確保するうえで有用です。廃業すると、その企業の知識・技術・ブランド等の価値は一緒に消滅してしまいます。しかしM&Aを通じて別の会社や個人などに売却することで、会社は新しい組織の一部として生き続け、事業自体も継続させられます。新しい企業の一部となることで、より大きな市場にアクセスしたり、より広範な製品やサービスを提供したりすることが可能です。
M&Aでは、これをシナジー効果と呼びます。

また、M&Aは事業リスクの分散化にも寄与します。現在の事業が行き詰まっていた場合、その事業を売却することで、新しい業界への参入するためのリソースを得ながらビジネスの安定性を向上させられます。

経営者として引退したあとの老後資金を確保できる

廃業ではなく、M&Aを通じて別の会社や個人などに会社を売却すれば、その売却代金を受け取ることができます。廃業してしまえば、売却代金を受け取ることは当然できません。売却代金を受け取ることができれば、経営者として引退したあとの老後資金を確保できます。

社会的なメリット

社会的なメリットは、以下のとおりです。

労働者の雇用維持ができる

企業が存続することで、雇用を維持することができます。廃業すると労働者は失業してしまいますが、M&Aを実施すれば買い手企業のもとで働くことが可能です。買い手企業が従業員のノウハウを評価している場合は、雇用条件が良くなる可能性もあるでしょう。

事業が発展する可能性がある

業績が振るわない時期があっても、その事業が持つ可能性は無くなるわけではありません。譲渡先の企業で新たな戦略を立てたり、業務改善を行ったりすることで、回復する可能性があります。

地域貢献につながる

中小企業は、地域経済の活性化や地域コミュニティへの貢献といった点で重要な役割を果たしています。廃業すると、その影響は地域全体に及ぶことがあります。M&Aをすることで事業を引き継ぐことができれば、引き続き地域に貢献できます。

社会的信頼を保全できる

廃業すると、取引先や顧客、地域社会からの信頼を失う可能性がありますが、M&Aによって事業が存続すればそれを防ぐことが可能です。できるかぎり廃業を回避し、企業を維持するべきです。

廃業を回避し事業を継続することで、上記のようなメリットが得られるため、中小企業経営者は廃業を回避してM&Aを実施することが望ましいです。

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M&Aにおける譲渡先を探せる機関・制度

中小企業がM&Aを活用して譲渡先を探せるよう、支援機関や支援制度が整備されています。ここでは、M&Aを活用した譲渡先探しを支援してくれる機関や制度について解説していきます。

事業承継・引継ぎ支援センター

事業承継・引継ぎ支援センターは、国がM&Aを通じた事業承継を積極的に推進するために設置した公的相談窓口です。親族内への承継はもちろん、会社外部の第三者への引継ぎなど、中小企業の事業承継に関するさまざまな相談に対応してくれる機関です。

事業承継・引継ぎ支援センターは、新型コロナウイルス感染症の影響により、2020年の休廃業・解散の件数が過去最高の約5万件となったことで、中小企業の事業承継が喫緊の課題であると認識されたことで誕生しました。

事業承継・引き継ぎ支援センターは、以下で示すようなサービスを無料で提供しています。

  1. 事業承継・引継ぎ(親族内・第三者)に関する御相談
  2. 事業承継診断による事業承継・引継ぎに向けた課題の抽出
  3. 事業承継を進めるための事業承継計画の策定
  4. 事業引継ぎにおける譲受/譲渡企業を見つけるためのマッチング支援
  5. 経営者保証解除に向けた専門家支援

参照元:経済産業省 事業承継・引継ぎ支援センターの活動を開始します

M&A支援機関登録制度

M&A支援機関登録制度とは、中小企業が安心してM&Aに取り組む基盤を構築することを目的として、より一層円滑かつ安心してM&Aを活用できる環境づくりをするために整備されたものです。

M&A支援機関登録制度には、M&A支援を行うファイナンシャル・アドバイザー(FA)または仲介業者が登録されています。登録には一定の要件があり、規約が細かく定められた中小M&Aガイドラインの遵守の宣言などが要件となっているため、質の高いM&A支援サービスを提供可能な事業者だけが登録できる制度といえます。

登録M&A支援機関数の円グラフイメージ

引用元:中小企業庁 「M&A支援機関登録制度に係る登録フィナンシャル・アドバイザー及び仲介業者の公表(令和4年度公募(2月分))について

2023年3月17日時点では、登録M&A支援機関数(FA及び仲介業者)は3,117件にものぼり、このうち法人は2,284件、個人事業主は833件となっています。個別の登録支援機関については、「登録フィナンシャル・アドバイザー及び仲介業者一覧」から確認することが可能です。

また、登録M&A支援機関数を種類別に分けると、M&A専門業者(仲介)が666件、M&A専門業者(FA)が426件、税理士が615件、公認会計士が309件、地方銀行が80件、信用金庫・信用組合が66件などとなっており、M&A専門業者(仲介)・M&A専門業者(FA)・税理士・公認会計士などが中心に登録しています。

M&A支援機関登録制度事務局ホームページでは、M&Aを考えている中小企業経営者が、登録M&A支援機関を容易に検索できるデータベースを提供しているので参考にしてください。

参照元:
中小企業庁「事業引継ぎガイドライン ~M&A等を活用した事業承継の手続き~
中小企業庁「中小 M&A ガイドライン -第三者への円滑な事業引継ぎに向けて
中小企業庁「登録フィナンシャル・アドバイザー及び仲介業者一覧
中小企業庁「M&A支援機関登録制度

M&A仲介業者

M&A仲介業者とは、M&A支援機関の一つで、譲渡側・譲受側に対するマッチング支援をはじめ、中小M&Aの手続きに関する総合的な支援を専門に行う民間業者のことをいいます。
中小企業経営者にとってM&Aはかなりハードルが高いことであり、M&Aによって事業を引き継ぐことができないことから、廃業に至るケースもありました。

中小M&Aガイドラインでは、中小企業の経営者がM&Aを躊躇する要因として、3つの要因を挙げています。

  1. M&Aに関する知見がなく、進め方が分からない
  2. M&A業務の手数料等の目安が見極めにくい
  3. M&A支援に対する不信感

このことからも分かるとおり、M&Aに対する中小企業経営者からの需要の高まりとともに、M&A仲介業者も増加する一方、分かりにくい手数料体系やM&A支援に対する不信感が、中小企業経営者がM&Aを積極的に推し進めることの障害となっていました。

この問題を解決するために、上で説明したM&A支援機関登録制度が開始され、現在では、M&A仲介業者も中小M&Aガイドラインに則ったM&A支援サービスを展開するようになっています。

中小企業庁としては、2014年時点で2,300件程度であったM&A成約件数を、2029年頃までに官民合わせて年間6万件にまで伸ばすことを目標として掲げるなど、M&A仲介業者の役割が重要視されるようになってきています。近年では、M&A仲介業者を利用したM&Aも増えてきており、事業を引き継ぐための支援機関として広く認知されるようになってきています。

参照元:中小企業庁「中小M&Aガイドライン」について

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まとめ

日本では、中小企業の廃業が重要な課題として認識されるようになってきており、その対策としてさまざまな支援策が講じられています。廃業は、会社に蓄積されてきた技術やノウハウだけでなく、従業員の雇用が失われてしまうなど、社会的にネガティブな影響を数多く生み出してしまいます。
こうした影響があることを認識したうえで、廃業を考える前にM&Aを通じた事業承継の方法があることを理解しておくことが大切です。特に、近年では、M&Aを通じた事業承継を支援してくれる機関や制度が数多くあることから、はじめてM&Aを行う場合でも、適切なサポートを受けられるようになっています。

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