株式交換の適格要件とは?非適格との違いや要件の該当基準、税制改正を解説

2024年3月11日

株式交換の適格要件とは?非適格との違いや要件の該当基準、税制改正を解説

このページのまとめ

  • 株式交換とは発行済み株式を他の企業に引き継ぎ親子会社の関係を構築するM&Aの手法
  • 株式交換の適格要件を満たすと、税制上の優遇措置を受けられる
  • 適格要件には7つの条件があり、企業間の関係によって満たすべき条件が変わる
  • 株式交換の適格要件を満たす場合と満たさない場合では、税務処理が変わる
  • 税制改正により株式交換の適格要件を満たしやすくなった

「株式交換の適格要件には何があるのだろうか」と、気になっている方も多いのではないでしょうか。株式交換の適格要件は相手会社との関係によって異なるため、正しく理解しておくことが求められます。

本記事では、株式交換の適格要件において満たすべき条件や、適格要件を満たしたときの税務処理をまとめました。税制上の優遇措置を受けるためにも、ぜひ参考にしてください。

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株式交換とは?

株式交換とは、会社が売り手企業の発行済株式のすべてを引き継ぐことによって、完全親子会社の関係を築くM&Aの手法です。株式交換のあとは、100%の完全支配関係が生まれます。

株式交換は原則として株主総会における特別決議が必要ですが、簡易株式交換や略式株式交換など、簡易な手続きも認められています。株式を引き継いだ側は「完全親会社」となり、株式を譲渡した企業は「完全子会社」となります。また、株式交換の対価としては、完全親会社の株式を交付するのが一般的です。

簡易株式交換と略式株式交換がある

通常の株式交換は、株主総会における特別決議を経なければなりません。しかし、一定の要件に該当する場合、簡易株式交換や略式株式交換が認められます。

簡易株式交換とは、親会社が株式交換で支払う対価が親会社の純資産のうち5分の1以下である場合、株主総会の決議を省略できる方法です。

略式株式交換は、株主交換を行う前に、親会社が子会社の議決権のうち90%以上を所持している場合は決議を省略できる方法です。ただし、以下の場合は株主総会の決議が必要になります。

  • 親会社が非公開企業であり、かつ譲渡制限株式が交付される場合
  • 子会社が公開企業で、譲渡制限株式が交付される場合

上記の点は頭に入れておきましょう。

関連記事:株式交換とは?実施のメリット・デメリットや事例をわかりやすく解説

三角株式交換

三角株式交換とは、子会社が親会社の株式を使って相手会社と株式交換を実施することです。

たとえば、子会社が相手会社を完全子会社化する場合であれば、子会社は親会社の株式と相手会社の株式を交換し、相手会社は子会社の完全子会社、つまり親会社にとっての完全孫会社とします。

三角株式交換は海外企業を子会社化するときに用いられることが多い手法です。

株式交換のメリット

買い手企業にとって、株式交換には次のメリットがあります。

  • 現金なしに完全子会社化できる
  • 所在不明な株主や少数株主がいるときでも実施できる
  • 短期間でM&Aを完了させることもできる

株式交換は株式を対価として渡すため、現金なしに完全子会社化できます。また、所在不明な株主や少数株主がいても実施できる手法のため、短期間での完了が可能です。

一方、売り手企業にとっては、次のメリットがあります。

  • 会社を存続できる
  • 資金調達しやすくなる

子会社となることで、廃業せずに済みます。また、大規模な会社の子会社になれば、社会的信用を得やすくなり、資金調達しやすくなります。

株式交換のデメリット

次の点は、買い手企業にとってのデメリットになるかもしれません。

  • 株主構成が変化する
  • 株価が下落する可能性がある

売り手企業が発行済み株式の一部を保有することで、株主構成が変化します。議決権にも影響が生じ、重要事項の決定がスムーズにできない可能性もあるでしょう。また、上場している場合であれば、自社株の価値が下がり、株価下落の可能性もあります。

一方、売り手企業は次のデメリットを被るかもしれません。

  • 買い手企業が非上場企業の場合は、株式の現金化が困難になる

買い手が非上場企業の場合、市場で株式を売却できないため、現金化が難しくなることもあります。

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株式交換と他のM&Aとの違い

株式交換と類似するM&A手法としては、次の2つが挙げられます。

  • 株式移転
  • 株式譲渡

それぞれの違いを説明します。

株式移転との違い

株式交換は、すでに企業として活動している企業同士が株式を交換する手法です。交換後、売り手企業は買い手企業の親会社になります。

一方、株式移転は、株式を取得させるための企業を新たに設立する手法です。移転後、新たに設立した企業は、既存会社の親会社になり、親会社の株式を既存企業に割り当てます。

会社法上の違い

株式交換は、会社法上で「吸収型組織再編行為」と分類されます。一方、株式移転では新たに企業を設立するため、「新設型組織再編行為」と分類されます。

利用されるシーンの違い

株式交換は企業間の合意のみで成立する手法で、主に子会社化するときに用いられます。一方、株式移転は、系列会社をまとめてホールディングス化するときや、企業同士が経営統合を実施するときに用いられる手法です。

ホールディングスを設立すれば、移転先を経営戦略や経営管理専門の会社とし、傘下企業は事業に専念しやすくなります。また、ホールディングスを設立しない場合でも、経営統合により企業間にシナジー効果が生まれ、より効率的な経営が可能になることがあります。

株式譲渡との違い

株式譲渡とは、議決権を増やし、経営権を獲得するために、株主から株式を直接買い取る手法です。買い手は対価として現金を支払います。ただし、子会社化を前提としているわけではないため、買い取る株式数や割合はケースバイケースです。

一方、株式交換も経営権の獲得を目的として実施されますが、子会社化を前提としているため、株主から直接株式を買い取るのではなく、株主総会の特別決議で実行します。また、株式の対価として現金を支払うのではなく、自社株式の一部を提供する点も、株式譲渡とは異なります。

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株式交換の適格要件とは

株式交換は税制上では適格株式交換と非適格株式交換に分けられ、適格株式交換であれば子会社は税制上の優遇が受けられます。

適格株式交換として認められるためには適格要件となっている複数の条件を満たすことが必要です。適格条件は、親会社が会社の株式を何パーセント保有しているかによって異なります。

株式交換の適格要件について、さらに詳しくみていきましょう。

株式交換時の課税を繰り延べられる要件

株式交換における法人税・所得税の計算では、適格株式交換と非適格株式交換を区別して税務処理が行われます。適格株式交換であれば、親会社・子会社のいずれにも課税は発生しません。適格要件は適格株式交換になるために必要な要件です。

株式交換では原則として課税されますが、適格要件を満たせば例外として課税が繰り延べられます。

適格要件の判定は関係性で変わる

適格要件を判定するための支配関係や共同事業の目的がある場合、さらに適格要件に該当するかを判断します。適格要件に当てはまるかを判定する条件は7つです。それぞれの条件は、関係性によって変わります。

それぞれの関係性で必要になる適格要件を表にしました。

完全支配関係支配関係共同事業目的
完全支配関係・支配関係の継続の要件
株式交換の対価要件
従業員の引継の要件
事業の継続の要件
事業の関連性の要件
株式の継続保有の要件
事業規模の要件もしくは経営参画の要件

完全支配関係とは、親会社が子会社の全株式を所有していることです。支配関係は、親会社が子会社の50%を超える株式を所有していることを指します。所有株式が50%を超えていれば取締役を選任でき、会社の支配が可能になるためです。

株式の保有が50%未満の場合も、共同事業目的があれば適格株式交換になる可能性があります。ただし、7つの条件すべてを満たさなければなりません。

次の項目で、7つの条件を詳しく紹介します。

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適格要件を判定する7つの条件

株式交換の適格要件は、下記の7種類あります。

  1. 完全支配関係・支配関係の継続の要件
  2. 株式交換の対価の要件
  3. 従業員の引継の要件
  4. 事業の継続の要件
  5. 事業の関連性の要件
  6. 株式の継続保有の要件
  7. 事業規模の要件もしくは経営参画の要件

必ずしも上記のすべてを満たさなければならないわけではなく、企業同士の関係性によって満たすべき要件は異なります。

まず、株式交換のM&Aをする予定の対象企業とどのような関係にあるかを確認し、そこから満たすべき要件はどれなのかをチェックしましょう。

ここでは適格要件を判定する7つの条件を解説します。

1.完全支配関係・支配関係の継続の要件

完全支配関係もしくは支配関係の状態は、M&A後も継続させるという要件です。すべての関係性で求められます。完全支配関係の場合はその関係がそのまま維持され、支配関係の場合は現在の状態を維持もしくはそれ以上に継続させることが必要です。

株式交換前に存在していた支配関係の状態が、株式交換後も継続すると考えればよいでしょう。

2.株式交換の対価の要件

株式交換の対価として、完全親会社の株式以外の不交付という要件です。株式交換では、対価として親会社の株式を子会社株主に交付するのが一般的です。基本的に適格株式交換にするためにはすべての関係性に株式の交付が要求され、それ以外の交付はできないとされています。

しかしこの要件には例外もあります。税制改正で例外が設けられました。親会社が子会社となる会社の株式を3分の2以上所有している場合は、株式以外の資産を交付しても対価要件は満たされることになっています。

3.従業員の引継の要件

適格要件を満たすためには、株式交換のあとも従業員が引き続き会社に在籍することが必要です。その目安として、従業員の80%以上が引き続き会社に残ることが必要とされています。支配関係・共同事業目的の場合に求められる要件です。

株式交換によるM&A後は職場の環境が変わることにより、離職を選ぶ従業員が出てくる可能性もあります。適格株式交換にするためには80%以上の従業員を確保しなければならないため、M&Aの方針は決まったらできるだけ早く従業員に説明し、理解を得ることが大切です。

4.事業の継続の要件

完全子会社となる会社の事業が、株式交換後もこれまで通り事業を継続するという要件です。支配関係・共同事業目的の関係性に求められる要件で、完全支配関係にある場合は必要ありません。

継続が求められる事業は、「主要な事業」です。2つ以上の事業がある場合はそのすべてではなく、売上や損益状況などから主要な事業を判定します。

5.事業の関連性の要件

完全子会社となった企業の事業が、完全親会社の営む事業と相互に関連しているという要件です。複数の事業がある場合、主要な事業のいずれかかが関連していれば要件を満たします。この要件が必要なのは、共同事業目的の関係性がある場合のみです。

例えば、製品の開発・製造と製品の販売とでは事業が異なりますが、同じ製品を扱うのであれば、関連性があると認められるでしょう。

6.株式の継続保有の要件

株式交換の対価として交付される完全親会社の株式について、株主がその後も継続して保有するという要件です。共同事業目的の関係性で求められます。

従来は80%以上の株式について継続保有されることが必要とされていましたが、税制改正により条件が変わりました。親会社と同じグループの企業が株式を50%以上続けて保有していれば、その他の株主が20%以上の株式を売却しても要件を満たすとされています。

7.事業規模の要件もしくは経営参画の要件

事業規模要件と経営参画要件について、いずれかひとつを満たせばよいとされる要件です。共同事業目的の関係性のみに求められます。

事業規模要件とは、事業に関連している親会社と子会社の事業の売上金額・従業員数のどちらかががおおむね5倍を超えないというものです。

経営参画要件では、完全子会社の役員は退任せずに継続して残るものとされています。全員が残る必要はありません。特定役員(常務クラス以上)のうち、1人以上が残れば要件は満たされます。

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株式交換の適格要件を満たしたときの税務処理

株式交換では、親会社の株主においては資産のやり取りはなく、税務処理は発生しません。しかし、親会社と子会社、子会社の株主は課税対象になります。適格要件を満たすときの税務処理と、非適格要件の場合との違いについて見ていきましょう。

完全親会社

適格要件を充足している場合、完全親会社は課税対象とはなりません。しかし、完全子会社の株主の人数によって、株式の取得価額が変わる点に注意が必要です。

完全子会社の株主数株式取得価額の算定方法
50人未満株式交換の実施直前の株式の帳簿価額を合計し、必要経費を加算する
50人以上株式交換を実施する前期末の簿価純資産額に必要経費を加算する

非適格要件の場合も、適格要件の場合と同様、完全親会社は課税対象とはなりません。ただし、完全子会社の株式取得価額の算定には、株主数に関わらず時価を用いる点が異なります。

完全子会社

適格要件を充足している場合、完全子会社は株式交換により株主が変わるだけのため、課税対象とはなりません。一方、非適格要件の場合には、以下の資産の時価評価損益に対して課税されます。

  • 固定資産
  • 土地(土地の上に生じる権利も含む)
  • 金銭債権
  • 有価証券
  • 繰延資産

ただし、含み損益や帳簿価額が1,000万円以下の資産と、売買を目的とした有価証券に対しては、課税対象から除外されます。

完全子会社の株主

適格要件を充足している場合、完全子会社の株主も課税対象とはなりません。また、非適格要件に該当し、なおかつ完全親会社の株式のみ交付される場合も、課税対象には該当しません。

しかし、非適格要件に該当し、対価に金銭が含まれる場合には、親会社から受け取る対価と親会社に渡す子会社株式の時価の差額が利益とみなされます。利益に対しては、株主が個人なら所得税、法人なら法人税が課せられます。

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株式交換の適格要件に関する3つの税制改正

株式交換の適格要件に関しては、近年3つの税制改正が行われています。改正では適格要件の緩和に向けられた内容も多く、株式交換によるM&Aの実施を容易にしているのが特徴です。

ここでは、平成28年度と29年度、および平成31年・令和元年度の税制改正を解説します。

平成28年度の税制改正の概要

平成28年度は、主に以下の2点が改正されています。

  • 経営参画要件の緩和
  • 完全親会社の税務処理で、完全子会社の株主が50名を超える場合の株式評価方法の変更

改正前の経営参画要件は、完全子会社の特定役員のうち、1名でも退任したら要件は満たせませんでした。この改正では、​​特定役員のうちいずれか1名だけでも留任すれば経営参画要件を満たせるようになり、適格株式交換として実施できる範囲が広がっています。

また、完全親会社の税務処理で、株主が50人を超える完全子会社の株式取得価額を算定する場合、株式交換等時点における税務上の純資産額で計算しなければなりませんでした。しかし、改正により前事業年度の純資産額を使用できるようになり、手続きが容易になっています。

平成29年度の税制改正の概要

平成29年度の改正では組織再編成税制の改正が行われ、スクイーズアウト関連の税制の整備が行われました。スクイーズアウトとは、大株主が少数株主から強制的に株式を買い取る手法です。改正前は、株式交換で親会社が子会社に交付するのは親会社の株式のみでしたが、改正により親会社が子会社の株式を3分の2以上保有している場合に限り、金銭の交付も認められるようになりました。

これにより、スクイーズアウトも適格株式交換として課税を受けずに行うことが可能になりました。そのため、今後はスクイーズアウトを用いて株式交換が行われることが増えると予想されています。

平成31年・令和元年度の税制改正の概要

平成31年・令和元年度の改正では、株式交換等のあとに逆さ合併が見込まれる場合の適格要件について変更が行われています。

逆さ合併とは、事業規模の小さな会社を存続会社にする吸収合併のことです。 事業規模の大きな会社が吸収されて消滅し、事業規模の小さな会社が存続します。

従来、株式交換の実施後に逆さ合併の実施が見込まれる場合、関係継続の適格要件を満たせないため株式交換は税制非適格とされていました。しかし、この改正では、関係継続の適格要件は合併の直前までの関係継続の有無で判断すると変更されています。その結果、適格要件に該当する可能性も出てきました。

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まとめ

株式交換では、適格要件を満たすと税制上の優遇措置を受けられ、課税時期が繰り延べられます。適格要件は、企業間の関係性や共同事業の目的などによって異なります。まずは適格要件が適用される関係性なのか判断し、関係性に応じた条件を満たしているのか確認しておきましょう。

また、株式交換の適格要件については、過去に何度か改正されています。株式交換を実施する前に最新情報を入手し、その時点での条件を満たしているのか調べることが大切です。
M&A仲介会社に相談すれば、最新情報についても熟知しているため、適格要件を満たす株式交換を実施するためのサポートを受けられます。

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料金に関しては、M&Aの成約時に料金が発生する完全成功報酬型です。M&A成約まで無料でご利用いただけます(譲受側のみ中間金あり)。

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