社員へ事業承継で株式譲渡する際の課題は?流れも紹介

2024年7月19日

社員へ事業承継で株式譲渡する際の課題は?流れも紹介

このページのまとめ

  • 事業承継問題の解消やモチベーション向上が、社員に株式譲渡する主な目的
  • 社員に株式譲渡する際は、議決権割合やシナジー効果の有無に注意が必要
  • 社員に十分な資金がないことがある点が、事業承継で株式譲渡する際の課題のひとつ
  • 社員に買取資金がない場合は、銀行融資を利用するなどの方法がある

社員の事業承継を検討する際、「どのように株式譲渡すればよい?」と気になっている方もいるのではないでしょうか。事業承継目的での社員への株式譲渡は、双方で売買価格を決め、株主総会などの決議を経て実施することが一般的です。

本記事では、社員へ株式譲渡する目的や流れを説明しています。社員に十分な資金がないときに株式譲渡する方法についても解説しているので、参考にしてください。

WEBから無料相談
M&Aのプロに相談する

社員への株式譲渡とは?

社員への株式譲渡とは、いくつかの目的で社員に対して自社の株式を譲渡することです。ここから、株式譲渡の方法やメリット、「社員」の定義について解説します。

株式譲渡の方法

株式譲渡は、売り手の株主が保有する株式を対価と引き換えに買い手へ譲渡することにより、経営権を承継させるM&A手法です。株式譲渡の具体的な方法として、以下が挙げられます。

  • 公開買い付け(TOB)
  • 市場買い付け
  • 相対取引

公開買い付けは、買い手が価格・期間・集める株式数などを公告し、公開取引市場を利用せずに、売り手の不特定多数の株主から直接株式を買い付けることを指します。それに対し、市場買い付けは公開取引市場で買い付けることです。

また、相対取引は買い手が売り手の株主と直接交渉して株式を取得する方法を指します。非上場会社の株式譲渡は、相対取引で実施されることが一般的です。

株式譲渡を選択するメリット

M&Aの手法として株式譲渡を選択する場合、手続きが簡便である点がメリットです。売り手が取引先や従業員などから個別に同意を得る必要はありません。

また、売り手株主は創業者利益を多く獲得できる可能性がある点もメリットです。ノウハウや営業権などの目に見えない資産を考慮したのれんが上乗せされれば、高い価格で会社を売却できるでしょう。

なお、過半数の株式を譲渡することで、経営権を失う点には注意が必要です。

社員の定義

会社法において、「社員」は会社に出資した人のことを指します。そのため、本来「社員」と「従業員」は異なる概念です。

しかし、本記事では従業員全般(会社と雇用契約を結び、雇用されている人)を「社員」と表現しています。株式を譲り受ける前の段階であっても「社員」と記載しているため、混同しないようにしてください。

WEBから無料相談
M&Aのプロに相談する

社員・従業員に株式譲渡する理由・目的

会社が株式を社員(従業員)に譲渡する主な理由や目的は、以下のとおりです。

  • 事業承継問題を解消する
  • 社員・従業員のモチベーションを向上させる

それぞれ解説します。

事業承継問題を解消する

事業承継問題を解消することが、社員に株式譲渡する理由のひとつです。事業承継とは、人・有形資産・無形資産といった経営資源を後継者に引き継ぎ、会社を存続させることを指します。

経営者を引退することを考えていても、親族に後継者の候補が見当たらないことがあるでしょう。第三者から適任者を探そうとしても、適性がわからなかったり、人となりを知れず不安に感じたりする可能性があります。

その点、社員に株式譲渡すれば、事業のことを熟知している従業員に承継できる点がメリットです。一緒に働く中で、経営者としての適性があるのかも見極められます。

社員・従業員のモチベーションを向上させる

モチベーションの向上を期待して、社員に株式譲渡することもあります。

会社が成長すればするほど、その株価の上昇も期待できることが一般的です。そのため、社員は受け取った株式の価値を上げようとして、今まで以上に労働に対するモチベーションが高まるでしょう。結果として、会社の成長につながることが経営者側にとってのメリットです。

また、福利厚生の趣旨で会社から社員に株式譲渡するケースもあります。福利厚生として譲渡する場合も、社員のモチベーション向上が主な目的です。

WEBから無料相談
M&Aのプロに相談する

社員・従業員に株式譲渡する際の注意点

社員(従業員)に株式譲渡する際は、以下の点に注意が必要です。

  • 議決権割合
  • シナジー効果

それぞれ解説します。

議決権割合

議決権割合を意識した上で、社員に株式譲渡しましょう。

株主総会では株主が保有する1株ごとに1議決権が割り当てられることが原則です(1株1議決権の原則)。そのため、株式をより多く持つ株主ほど、会社に対して強い支配権を持ちます。

たとえば、定款で別段の定めがない限り、出席株主の議決権の過半数を占めていれば、役員報酬や剰余金の配当などを決議可能です。また、出席株主の議決権の3分の2を占めていれば、取締役などの選任・解任ができます。

そのため、万が一会社と敵対する社員に株式(議決権)が集まると、会社にとっての脅威となりかねません。社員に株式譲渡する際は、渡す株式数や相手に注意したり、議決権を制限したりするなどの配慮が必要です。

シナジー効果

十分なシナジー効果を期待できないことも、社員に株式譲渡する上で意識しておきたいポイントです。

シナジー効果とは、複数の会社や事業が結びつくことで、それぞれ単独で活動していたときよりも高い効果を生み出せること(相乗効果)を指します。双方の販売チャネルを活用して売上を伸ばす販売シナジーや、共同の生産拠点を設けることでコストダウンを図る生産シナジーなどが、シナジー効果の具体例です。

社員へ株式譲渡する場合、販売チャネルを活用したり、共同の生産拠点を設けたりすることは現実的ではなく、基本的にシナジー効果は生じません。他社に株式譲渡してM&Aを実施するケースと比べると、会社の発展には直結しにくいため、譲渡するタイミングや株式数などには注意が必要です。

WEBから無料相談
M&Aのプロに相談する

社員・従業員に株式譲渡する際の流れ

社員(従業員)に株式譲渡する際の流れは、譲渡方法によって異なります。主な譲渡方法は、以下のとおりです。

  • 報酬として株式を譲渡する
  • 従業員持株会に譲渡する
  • 対価と引き換えに株式を譲渡する

それぞれの流れを解説します。

報酬として株式を譲渡する場合

報酬のひとつとして社員に株式を譲渡する際の流れは、以下のとおりです。

  1. 原則的評価方式や配当還元法などを用いて、株価を算定する
  2. 算定後に報酬として株式を譲渡する

原則的評価方式とは、従業員数・総資産価額・売上高で会社を区分して大会社は類似業種比準方式、中会社は類似業種比準方式と純資産価額方式の併用、小会社は純資産価額方式で算定する方法を指します。一方、配当還元法は株式の配当額に注目して算定する方法です。

原則的評価方式と比べて、配当還元法の方が株価が低めに算出される傾向にあります。譲渡する株式が少ない場合は、配当還元法を基準に社員へ譲渡する株式の価格を算出することが一般的です。

従業員持株会に譲渡する場合

従業員持株会とは、従業員の中長期的な資産形成を支援するための制度です。従業員は、勤務先の株式を従業員持株会を通じて購入できます。

会社が従業員持株会に株式を譲渡する際の流れは、以下のとおりです。

  1. 従業員持株会を設置する
  2. 株式譲渡する範囲を決める
  3. 従業員持株会の規約を作成する
  4. 従業員(社員)向けに説明会を開き、規約などを説明する
  5. 株式譲渡を実行する

なお、従業員持株会は対象の従業員の給与から天引きし、株式を共同購入します。

対価と引き換えに株式を譲渡する場合

事業承継のように経営権を社員に移す場合は、一般的に対価と引き換えに株式を譲渡します。非上場会社で株式を譲渡する際の主な流れは、以下のとおりです。

  1. 株主と社員の間で売買価格などを交渉する
  2. 交渉がまとまったら、株式譲渡承認を請求する
  3. 株主総会で決議をする(取締役会設置会社の場合は取締役会)
  4. 承認後に株式譲渡を実行する

社員へ株式を譲渡する目的によって、流れが異なるため注意しましょう。

WEBから無料相談
M&Aのプロに相談する

事業承継で社員に株式譲渡する際の課題

事業承継目的で社員に株式譲渡する際、以下の課題が挙げられます。

  • 経営者に適した人物がいるとは限らない
  • 経営者の負債は引き継いでもらえない
  • 社員に資金がない場合がある

それぞれ確認していきましょう。

経営者に適した人物がいるとは限らない

事業承継目的で社員に株式譲渡しようとしても、経営者にふさわしい人物がいるとは限らない点が課題です。

社員へ株式譲渡することで、事業のことを十分に理解している相手へ事業を承継させられます。ただし、社員の中から、経営の適性がある人物を見出せるとは限りません。

経営者には、業務に関する知識や技術だけでなく、取引先との関係や同業他社との付き合い、従業員へのマネジメントなどさまざまなスキルが求められます。たとえ優秀な社員だったとしても、経営者としては十分な力を発揮できないこともあるでしょう。

経営のセンスがない社員に会社を任せると、事業承継後の会社の存続に不安が残ります。また、経営のセンスがあったとしても、責任の重さから引き受けようとしないこともあるでしょう。

経営者の負債は引き継いでもらえない

経営者としての資質がある社員が事業承継を決断したとしても、一般的に現経営者が保証する負債までは引き継いでもらえない点も課題です。

銀行から融資を受ける際、状況によって経営者個人が会社の連帯保証人となることを求められる場合があります(経営者保証)。経営者保証がついていると、会社が倒産して返済不能になった際に、経営者個人が会社に代わって返済しなければなりません。

事業承継すること自体は前向きでも、自分が現経営者の代わりに既存債務の連帯保証人となることには後ろ向きな社員もいるでしょう。また、たとえ社員が連帯保証人の地位を引き継ぐことを決断したとしても、できないことがあります。なぜなら、後継者の信用力や資産、会社の資産などを考慮し、既存債務の連帯保証人を変更することに銀行が同意しない可能性があるためです。

経営者が保証人となる負債を引き継いでもらえない場合、事業承継後も引き続き借入に対して責任を負わなければなりません。

社員に資金がない場合がある

後継者に資金がない場合があることも、社員に株式を譲渡して事業承継する際の課題です。

一般的に、会社の経営権を譲るためには、後継者(社員)に議決権の過半数の株式を保有させなければなりません。そこで、現段階で社員が保有する株式数が少なければ(もしくは株式を持っていなければ)、それだけ多くの株式を譲渡する必要があります。

業績・財務内容が良好な会社ほど株価算定結果も高くなるため、社員は多額の資金を用意しなければなりません。社員個人の蓄えだけでは、買取資金を用意できない可能性も高いです。

WEBから無料相談
M&Aのプロに相談する

事業承継で社員に買取資金がない場合の対策

事業承継にあたって社員に十分な買取資金がない場合の対策は、主に以下のとおりです。

  • 銀行からの融資を利用する
  • 無償で譲渡する
  • 第三者へのM&Aを検討する

各対策について、詳しく解説します。

銀行からの融資を利用する

後継者候補の社員が個人で銀行からの融資を利用し、事業承継を実施する方法があります。返済財源は、代表者に就任してから得る役員報酬や、自社の株式から得る配当金収入などです。

また、MBOやEBOといった手法を活用することで、社員に買取資金がない場合でも事業承継できる場合があります。MBOは現経営陣のひとりが主要株主や親会社から株式を買い取る手法で、EBOは従業員が主要株主や親会社から株式を買い取る手法のことです。

MBO・EBOの主な流れは以下のとおりです。

  1. 後継者がSPC(特別目的会社)を設立する
  2. SPCが対象会社の既存株主から株式を取得する
  3. SPCと対象会社を合併させる

なお、SPC(特別目的会社)とは、資金調達など特定の目的のためだけに設立される会社を指します。

無償で譲渡する

株式を無償で譲渡すれば、社員に資金がなくても事業承継させられます。ただし、株式を無償譲渡する際にはいくつかの点に注意が必要です。

まず、無償で譲渡する場合、オーナー経営者は創業利益を受け取れません。事業承継後・引退後の生計をどのように維持していくのか、あらかじめ考えておく必要があります。

また、遺留分(法定相続人に最低限保証された遺産相続の権利)にも注意しなければなりません。現オーナー経営者が健在のうちに実施された生前贈与であっても、状況によって遺留分を侵害してしまい、後継者とオーナー経営者親族の間でトラブルに発展する可能性があります。

さらに、株式を無償で譲り受けた社員に対し、贈与税がかかる場合もある点も理解しておかなければなりません。

第三者へのM&Aを検討する

適任者が見つからず、現経営者の親族への承継(親族承継)や社員への承継(従業員承継)が困難な場合は、M&Aで第三者へ売却(第三者承継)する方法も検討しましょう。

M&Aで第三者に売却すれば、幅広い候補者の中から後継者を探せるため、選択肢が広がる点がメリットです。また、資金力がある会社に売却すれば、負債を肩代わりしてもらい個人保証を解除したり、多額の創業者利益を得たりできる可能性があります。

ただし、親族承継や従業員承継と異なり、相手の人となりや素質などを知らない分、候補者選びは慎重に進めなければなりません。

WEBから無料相談
M&Aのプロに相談する

社員以外の第三者に株式譲渡する際の注意点

社員以外の第三者へ株式譲渡する際は、以下の点に注意が必要です。

  • 社員のモチベーション
  • 社員・従業員の雇用の維持

それぞれ詳しく解説します。

社員のモチベーション

親族や社員以外の第三者に株式譲渡して事業承継する場合、社員のモチベーションに注意を払いましょう。

勤め先が第三者に売却されたことについて、基本的に従業員は譲渡契約後に知ることになります。売却の理由が不明な場合・納得いかない場合や、売却先の経営方針が不透明な場合は、社員が不安を抱えたまま仕事を続けることになるでしょう。

また、第三者へ事業承継することで会社の文化や風土が変わることを懸念する社員もいます。社員が承継する場合と異なり、第三者へ事業承継する場合は双方の文化をうまく融合させなければなりません。

懸念事項があると、社員はモチベーションを維持することが難しく、以前のようなパフォーマンスを発揮できなかったり、退職を決断したりする可能性があります。結果的に、売り手と買い手双方が期待していたようなシナジー効果も発揮できなくなるでしょう。

社員・従業員の雇用の維持

社員(従業員)の雇用を維持することも、第三者に株式譲渡する際には配慮しなければなりません。

第三者と事業承継の交渉を進めるにあたって、主に基本合意や最終契約の場面で社員の処遇について話し合われます。社員を安心させるためにも、現経営者は事業承継後も引き続き社員の雇用を維持することや、待遇を悪化させないことを相手に主張することが大切です。第三者への承継後も雇用が維持されることをはっきりと伝えることが、社員のモチベーションを保つことにもつながるでしょう。

なお、承継後にトラブルが発生することを防ぐため、買い手が即座に従来の社員に対して待遇を悪化させるケースは一般的に多くありません。

WEBから無料相談
M&Aのプロに相談する

まとめ

会社が社員に株式譲渡する主な目的は、事業承継問題を解消することやモチベーションを向上させることなどです。目的によって、株式譲渡の方法も異なります。

事業承継目的の場合は、社員と交渉して対価を決めた上で株式を譲渡することが一般的です。ただし、業績や財務内容が良好で価格が高くなり、社員が資金を用意できない可能性があります。

事業承継にあたって、社員の手元に十分な買取資金がない場合の対策のひとつが、銀行からの借入です。また、社員への承継ではなく、第三者への承継(M&A)を検討する方法もあります。

第三者への承継を検討する際は、社員の雇用維持を前提として交渉を進めることが大切です。さらに、自社のことを理解してくれる相手を見つけるため、候補者を吟味しなければなりません。

レバレジーズM&Aアドバイザリー株式会社は、M&A全般をサポートする仲介会社です。独自の顧客データベースを活用して、貴社にとって最適な候補先企業の選定を実現します。事業承継やM&Aの相手探しで困っている場合は、ぜひご相談ください。