このページのまとめ
- 新株予約権とは、権利行使した人が株式の交付を受けられる権利
- 新株予約権は、ストックオプション・無償割当て・社外向け発行・有利発行の主に4種類
- 新株予約権を発行するメリットは、比較的容易に調達できることなど
- 新株予約権を発行するデメリットは、想定した資金調達ができない可能性があることなど
- 新株予約権は投資家にとっても、通常より安く株式を取得しやすいメリットがある
資金調達を検討中に、「新株予約権を発行すべき?」と悩んでいる方もいるのではないでしょうか。新株予約権の発行は、資金調達手段や敵対的買収への対策として有効です。
本記事では、新株予約権の仕組みやメリットとデメリットについて解説しています。また、所有者の権利行使方法や会社側の権利行使期間の決め方も説明しているので、ぜひ参考にしてください。
目次
新株予約権とは
新株予約権とは、株式交付に関する権利のことです。新株予約権を持つ人は、株式を発行する会社に対して権利を行使することで株式の交付を受けられます(会社法第2条第21号)。
通常の新株発行との違いについて、以下の表にまとめました。
通常の新株発行 | 新株予約権 | |
定義 | 会社が新たに株式を発行すること | 権利者が会社に行使することで株式の交付を受けられる権利 |
株主になるタイミング | 株式を取得する際 | 権利を行使する際 |
価格 | 原則として株式発行時の市場価格または市場価格に近い額 | あらかじめ設定された行使価格 |
通常の新株発行では、株式を取得した人が株主になるのに対し、新株予約権を持つ人は権利を行使したタイミングで株主になる点が違いです。
また、新株予約権は、あらかじめ定められた権利行使価格で取得します。そのため、新株予約権を持つ人(新株予約権者)は、行使時の市場価額次第で経済的利益を得ることや、不利益を被ることがあるでしょう。
参照元:e-Gov法令検索「会社法 第二条」
新株予約権の種類
新株予約権は、主に4種類に分類できます。それぞれの概要を以下の表にまとめました。
主な発行先 | 主な目的 | |
ストックオプション | 社内 | 役員・従業員のモチベーション向上 |
無償割当て | 既存株主 | 大規模な増資 |
社外向け発行 | 社外の投資家など | 資金調達 |
有利発行 | 既存株主以外の第三者 | 資金調達、債務超過解消 |
ここから、各種類の特徴をより詳しく解説します。
ストックオプション
ストックオプションとは、株式を発行する会社内向けに発行する新株予約権のことです。ストックオプションを有する役員・従業員は、期間内に権利を行使することで株式を取得できます。
主にモチベーション向上のために発行されるもののため、ストックオプションの権利行使価格は市場価格より低めに設定されることが一般的です。
無償割当
無償割当とは、既存株主を対象に、持ち株比率に応じて無料で発行される新株予約権のことをいいます。
新株発行による大規模な増資を実施する際、発行済み株式の価値が下落する可能性があり、既存株主の反発を招くことになりかねません。既存株主の利益を守る観点から、無償割当が行われます。
非上場企業の新株予約権は市場で取引することはできませんが、公開会社が実施する上場型新株予約権の無償割当は一定期間、公開市場での取引が可能です。これは「ライツ・オファリング」と呼ばれます。ライツ・オファリングでは、株主は権利を行使せずに、無償で割り当てられた新株予約権自体を売却することで換金できます。
社外向け発行
社外向け発行とは、社外の利害関係者や投資家を対象に発行される新株予約権です。社外向けに新株予約権を発行する目的は、資金調達と敵対的買収対策が一般的です。
新株予約権を友好的な関係にある関係者に発行することで、すぐに資金調達ができ、安定株主を増やすことにつながります。また、株式は返済義務がないため、新株予約権を発行しても純資産が増えるだけで負債にはなりません。ただし、新株予約権を大量に発行すると、株価の下落を招くことになりかねないため、注意が必要です。
社外向け発行を行うと、発行株式数を増やすことになり、結果として敵対的買収を検討する関係者が保有する株式数の割合を下げることにつながります。
有利発行
有利発行とは、株主以外の第三者に対して、有利な価格(無償含む)や条件で新株予約権を発行することをいいます。新たな株主を募集する目的で有利発行を行うと、発行を受けない既存株主の株式価値が希薄化し、株価の下落などにより不利益となる可能性があるため、株主総会での特別決議が原則として必要となります。
新株予約権発行にかかる費用
会社が新株予約権を発行するにあたってかかる費用は、会社の規模や新株予約権の種類によっても異なります。
たとえばストックオプションを発行する場合、数十万円から数百万円が発行にかかる費用の目安です。ストックオプションに関する登記費用自体は10万円前後で済みますが、専門家へ依頼するにあたって別途コストがかかるでしょう。
新株予約権を発行するメリット
会社が新株予約権を発行するメリットは、主に以下のとおりです。
- 比較的容易に資金調達ができる
- 敵対的買収への対策になる
- 役職員のモチベーション向上につながる
各メリットについて、詳しく解説します。
比較的容易に資金調達ができる
新株予約権を発行する会社のメリットとして、資金調達が比較的容易に行える点が挙げられます。社内の関係者や既存株主、友好的な社外関係者などに有利な条件で新株予約権を発行する場合、特段の事情がない限り応じてくれることが多く、安定的な資金調達が実現できます。
また、銀行から融資を受ける場合や社債を発行する場合と異なり、株式発行によって調達した資金には返済義務がありません。融資や社債に対しては利息を支払う必要がありますが、その必要もありません。
敵対的買収への対策になる
新株予約権は、敵対的買収に対抗する手段として活用されるケースも増えています。具体的には、敵対的買収を企てる個人や組織が会社の規定違反をしたとき、既存の株主に対して無償割当てを実施する「事前警告型買収防衛策」、普段から信託銀行などに対して差別的行使条件が付いた新株予約権を発行しておくことで、敵対的買収を行う個人や組織に対抗する「信託型ライツ・プラン」などが挙げられます。
役職員のモチベーション向上につながる
役職員のモチベーション向上につながる点も、新株予約権発行のメリットです。
社内向けにストックオプションを発行すれば、権利を取得した役員や従業員は自社の業績を拡大させようと尽力するでしょう。なぜなら、自社が成長して株価が上がったタイミングで、新株予約権を行使できれば、多額の報酬を手に入れられるためです。
また、新株予約権取得から数年間は権利行使できないようにすることで、会社は従業員の流出を防げます。
新株予約権を発行するデメリット
会社が新株予約権を発行するデメリットは、以下のとおりです。
- 想定した資金調達ができない可能性がある
- 株価が下落するおそれがある
各デメリットを解説します。
想定した資金調達ができない可能性がある
新株予約権を発行したとしても、権利が行使されなければ資金調達は行えません。
新株予約権の権利行使は、あくまで取得した側の判断に委ねられています。そのため、新株予約権者の想定より株価が上がらなかった場合、新株予約権が期間内に行使されずに失効してしまうというケースも考えられます。
株価が下落するおそれがある
権利が行使された場合、権利者が取得した株式を売却することで、株価が大きく下落してしまう可能性があります。ストックオプションの場合、株価の下落だけでなく、多額の利益を得た従業員や役員が会社を辞めてしまうことも考えられます。
新株予約権を発行する方法
続いて、新株予約権の発行方法をみていきましょう。発行方法には、公正発行と有利発行の2種類があります。
- 公正発行
- 有利発行
公正発行は、全株主に対して新株予約権を発行する方法で、社外向け発行や無償割当、有償のストックオプションが該当します。有利発行は前述した通り、株主以外の第三者に対して、有利な価格で新株予約権を発行する方法です。
公正発行
公開会社が新株予約権の公正発行を行う場合、取締役会での決議を経て証券会社に依頼するだけで、発行が完了します。
ただし、取締役会決議のみによって新株予約権を発行する場合には、新株予約権の割当日の2週間前までに、株主に対して募集事項(新株予約権発行要領)を通知し、又はこれに代えて公告する必要があるので、注意が必要です(会社法240条2項・3項)。
一方で、非公開会社が新株予約権の公正発行を行う場合は、株主総会での特別決議が必要となります。
有利発行
公開会社、非公開会社いずれも、有利発行を行う場合は株主総会の特別決議が必要です。有利発行を実施すると、株価が下落するなど、既存株主が不利益を被るリスクがあるため、株主総会の特別決議で理由を説明し、承認を得る必要があります。
発行手続きは、株主総会で取締役から株主に対して有利発行を行う理由を説明し、特別決議での承認を得ます。発行の申し込みがあった場合、株主総会で割り当てる人や数を決め、割当数を通知します。新株予約権の発行日に新株予約権原簿を作成し、割当日から2週間以内に変更登記を行います。
有利発行であるにもかかわらず株主総会で特別決議がない場合、株主は会社に対して発行の差止め請求をすることができます(会社法第210条・247条)。特別決議を経ずに有利発行した取締役は、会社に対して損害賠償責任を負うことになります。
自己新株予約権の会社法上のルール
対象の株式を発行する会社自身でも、新株予約権(自己新株予約権)を取得できます。自己新株予約権に関する会社法上のルールは、以下のとおりです。
自己新株予約権 | 会社法上のルール |
取得 | 特に定めなし |
消却 | 会社法第276条 ・消却する自己新株予約権の内容及び数を定める ・取締役会設置会社は上記について取締役会で決議する |
処分 | 特に定めなし |
なお、「消却」が取得した株式を社内で消滅させる行為に対し、「処分」は社外の第三者に売却することを指します。
参照元:e-Gov法令検索「会社法 第二百七十六条」
新株予約権の行使(権利行使)方法
新株予約権の権利を有する人が、行使するまでの流れは以下のとおりです。
- 株主確定日に新株予約権が割り当てられる
- 対象の株主に対して発行会社から権利行使請求権が送付される
- 株主がインターネットや書面などを通じて権利行使期間内で権利行使を申し込む
- 証券会社が権利行使に関する手続きを進める
- 審査通過後、新株予約権を行使した人が新株を取得する
権利行使期間は、発行する会社が自由に定められます。ただし、ストックオプション税制を適用するためには、付与決議日から2年を経過した日から10年を経過する日まで(設立5年未満の非上場会社は15年を経過する日まで)で定めなければなりません。
また、権利行使価額についても年間合計額が1,200万円を超えないように注意が必要です。
参照元:経済産業省「ストックオプション税制」
新株予約権の会計処理
新株予約権の会計処理を見ていきます。発行した場合と取得した場合で処理が異なります。
- 発行した場合
- 取得した場合
具体例を示しながら、それぞれの場合ごとに仕訳を説明します。
発行した場合
社外向け発行と社内向けでは会計処理が変わるので注意が必要です。新株予約権を発行した側の社外向け発行の新株予約権と、無償ストックオプションにおける仕訳と勘定科目をみていきます。
【社外向け発行の新株予約権】
◆発行時
1個1万円(新株予約権1個につき交付株式数100株、発行価額1株1万円、行使価額1株1万円)の新株予約権を10個発行し、普通預金に全額払い込まれた。
(借方)普通預金 100,000円 (貸方)新株予約権 100,000円
新株予約権の払い込みを受けたときは、新株予約権(純資産)の勘定科目で仕訳を行います。権利が行使されず失効する可能性があるため、払込時には資本金に組み入れません。
◆権利行使時
1個1万円(新株予約権1個につき交付株式数100株、行使価額1株1万円)の新株予約権について、7個分が権利行使され、普通預金に払い込まれた。権利行使分は新株発行が行われ、すべてを資本金とした。
(借方)普通預金 7,000,000円 (貸方)資本金 7,070,000円
新株予約権 70,000円
◆権利失効時
(例)1個1万円(新株予約権1個につき交付株式数100株、行使価額1株1万円)の新株予約権について、3個は権利が行使されずに期限を迎えた(権利失効した)。
(借方)新株予約権 30,000円 (貸方)新株予約権戻入益 30,000円
計算式:新株予約権1万円×3個=30,000円
権利失効により行使されなかった新株予約権は、「新株予約権戻入益」として、特別利益に振り替えます。
【社内向け無償ストックオプション】
◆付与時
新株予約権1個につき交付株式数100株、行使価額1株1万円のストックオプション6個を、当社の従業員に無償で付与した。
(仕訳なし)
無償ストックオプションは0円で付与するため、新株予約権のオプション料金の払い込みはなく、発行時の仕訳は不要です。
◆期末
期末にあたり、当期首に従業員に付与した6個のストックオプション(1個につき交付株式数100株、行使価額1株1万円)について、株式報酬費用を月割り計算します。ストックオプションの公正な評価額は1個1万円、対象勤務期間は3年です。
ストックオプションは従業員の労働に対して支払われる報酬としてとらえ、付与したストックオプションの公正な評価額を求め、当期に発生したと認められる額を「株式報酬費用(費用)」として処理します。
(借方)株式報酬費用 20,000円 (貸方)新株予約権 20,000円
計算式:1万円(公正な評価額)×6個×12÷36(月割)=20,000円
◆権利行使時
公正な評価額1個1万円(1個につき交付株式数100株、行使価額1株1万円)のストックオプションについて、5個分の権利が行使され、普通預金に払い込まれ、全額を資本金に組み入れた。なお、対象勤務期間中の公正な評価額の変動や条件未達成による失効はなかったものとする。
(借方)普通預金 5,000,000円 (貸方)資本金 5,050,000円
新株予約権 50,000円
◆権利失効時
公正な評価額1個1万円(1個につき交付株式数100株、行使価額1株1万円)のストックオプションについて、1個分の権利が行使されずに行使期間満了日を迎えた(権利失効した)。
(借方)新株予約権 10,000円 (貸方)新株予約権戻入益 10,000円
取得した場合
新株予約権を取得した場合、「新株予約権」の勘定科目でなく、有価証券(売買目的の場合)や投資有価証券(売買目的以外の場合)の勘定科目を用いて仕訳を行います。
新株予約権の取得時、権利行使時、権利失効時の仕訳について、具体例を挙げて紹介します。
◆取得時
1個1万円(1個につき交付株式数100株、発行価額1株1万円、行使価額1株1万円)の新株予約権3個を取得し、当座預金より支払った。新株予約権は売買目的の取得ではない。
(借方)投資有価証券 30,000円 (貸方)当座預金 30,000円
◆権利行使時
1個1万円(1個につき交付株式数100株、行使価額1株1万円)の新株予約権2個について権利を行使し、取得した株式の対価を当座預金より支払った。新株予約権は売買目的で取得したものではない。
(借方)投資有価証券 2,000,000円 (貸方)当座預金 2,020,000円
投資有価証券 20,000円
◆権利失効時
1個1万円(1個につき交付株式数100株、行使価額1株1万円)の新株予約権1個について権利を行使しないまま行使期間を経過したため、失効損を計上した。新株予約権は売買目的で取得したものではない。
(借方)新株予約権失効損 10,000円 (貸方)投資有価証券 10,000円
投資家に新株予約権発行を伝える際考慮すること
新株予約権発行にあたって、会社側は投資家側から見たメリットや投資家が懸念することをあらかじめ理解しておくことも大切です。
新株予約権取得のメリット
一般的に、新株予約権の行使価格は発行時の株価よりも安く設定されるため、通常よりも安価に株式を取得しやすい点が、権利を取得する投資家や従業員にとってのメリットです。
また、権利行使期間内であれば、新株予約権を持つ人はいつでも権利を行使できます。そのため、投資家は株式取得による損失リスクを自身で軽減できるでしょう。
新株予約権の取得で投資家が懸念すること
新株予約権行使価格に加えて、新株予約権料(オプション料)を払わなければならない点を投資家が懸念する可能性があります。権利を行使しなくても、新株予約権を取得した人はオプション料を支払わなければなりません。
また、株価が上昇するとは限らない点も、投資家にとってデメリットです。発行時の株価よりも権利行使価格が低くても、株価が下がると権利行使する意味がなくなるでしょう。
既存株主に新株予約権発行を伝える際考慮すること
既存株主から反対されないために、既存株主側のメリットやデメリットを理解した上で新株予約権発行を進めましょう。
既存株主にとっての新株予約権発行のメリットは、借入や社債発行と比べて企業価値に影響を与えにくい点です。一方、新株予約権が行使されると既存株主の持分が希薄化される点がデメリットとして挙げられます。なぜなら、新株予約権の権利行使後に株式数が増加するためです。
まとめ
新株予約権とは、株式交付に関する権利のひとつです。新株予約権を有する人は、株式を発行する会社に対して権利を行使することにより、株式の交付を受けられます。
会社が新株予約権を発行するメリットは、比較的容易に資金を調達できる点や敵対的買収への対策になりうる点です。また、ストックオプションを発行することにより、役員や従業員のモチベーション向上につなげることもできます。
一方で、想定した資金調達ができない可能性がある点が新株予約権のデメリットです。株価が上昇しなければ経済的利益を得られないため、新株予約権を持っているにもかかわらず権利が行使されない可能性もあります。
自社にとってのメリット・デメリットや、投資家・既存株主に理解させられるかを十分に検討した上で、新株予約権の発行を決断するとよいでしょう。新株予約権を発行する際は、行使価格や行使期間について慎重に検討しなければならないため、専門家への相談も検討してください。
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