アプリ売却のポイントは?トレンドや相場、事例などを踏まえて解説

2023年5月2日

アプリ売却のポイントは?トレンドや相場、事例などを踏まえて解説

このページのまとめ

  • アプリ市場の成長にともない「アプリ売買」も増加傾向にある
  • アプリ売却の手法は、主に「株式譲渡」「事業譲渡」「個人開発者による売却」の3つ
  • アプリの売却価格の算定方法は「インカムアプローチ」「コストアプローチ」「マーケットアプローチ」が主流
  • 売買手法や売却価格の算定方法によって、アプリ売却完了までのフローが異なる

「アプリ売却をしたいけど、何から始めたらよいのか分からない」という方もいるのではないでしょうか?
近年では、業界問わず多くの企業がユーザーに対してアプリを提供しており、重要な競争優位の源泉となっています。こうしたトレンドが見られるなか、各企業や個人によるアプリの売買も活発に行われており、その狙いはさまざまです。

本コラムでは、アプリを売却するにあたっての基本的な流れや手法、押さえておくべきポイントを、過去の成功・失敗事例を踏まえて解説します。

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アプリ売却における国内のトレンド

まず、アプリ売却における国内の動向を解説します。

アプリ市場

スマートフォンの登場以降、日本国内に限らず、グローバル全体でアプリ市場は非常に活発であり、コロナ禍の影響でそのトレンドはますます加速しています。
App Annie(現data.ai)の「モバイル市場年鑑2022(※)」によると、2021年、国内市場における累計アプリは約2,100万本、新規リリースは約10%にあたる200万本で、いまやアプリは人々の生活に欠かせないものといえます。
一方で、国内ユーザーにおけるアプリのダウンロード数は約26億本となっており、グローバル企業のアプリが中心であることが伺えます。

これらはスマートフォンやタブレットにインストールして使用するモバイルアプリのデータですが、ブラウザで作動するWebアプリも存在することを踏まえると、「アプリ市場」の規模の大きさは容易に推測できるでしょう。

また、国内のアプリと言えば、ゲームアプリを思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。総務省の「令和4年度 情報通信白書」によると実際に国内アプリ上での金銭的な取引では、2021年で約4兆円(306億ドル)の規模があるうち、ゲームが70%を占めています(※)。

一方で、先述のダウンロード数の観点では、ゲームは15%にとどまっています。

したがって、アプリ市場には、金銭的価値には表れない、企業のさまざまな戦略的目的を反映したアプリが存在しており、潜在的な規模の大きさが伺えます。

※参考:総務省「令和4年度 情報通信白書
※参考:data.ai「モバイル市場年鑑2022

M&A市場全体

次に本コラムが対象とする、企業や個人による資本的な移動を伴う取引、いわゆるM&Aにおける市場の概況にも触れておきます。現在、1年間のM&A件数は4,300件ほどあり、年々件数は増加しています(※)。
ただし、これらの件数はTOB(株式公開買付)のような公開取引であり、アプリ売買を含む個人による非公開取引なども鑑みると、規模はさらに大きいと推察されます。

※参考:MAAOnline「グラフで見るM&A動向

アプリ売却

こうした活況なアプリ市場およびM&A市場において、アプリの売却自体も活発に行われています。しかし、大企業の取引などは明確に「アプリ売買」を明示せず、一般的な事業譲渡として公開されるケースも多くあります。

なお、より広義的に「アプリ売買」を捉えれば、アプリ開発事業の売買なども含まれますが、本コラムではモバイルアプリやWebアプリそのものの売買を対象としている取引のことを「アプリ売買」として定義します。

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アプリ売却の手法

続いて本章では、アプリ売却の具体的な手法を解説します。

本コラムでのM&Aの定義

アプリ売却には複数の手法が存在し、その1つがM&Aです。しかしながら、M&Aという言葉は、使われる文脈などによりさまざまな意味で用いられます。例えば、両社間で出資を伴わない業務提携、出資を伴いつつも過半数は得ずに親子関係ではなく協業関係とする、資本業務提携やジョイントベンチャー(JV)・特別目的会社(SPC)設立なども、M&Aの一部とされることがあります。

本コラムでは、簡略化のために、M&Aを「出資を伴い、かつ取引両社が協業関係ではなく明確な買い手と売り手に分かれる親子関係にある取引」と定義して、アプリ売買におけるM&Aを紹介していきます。

アプリのM&Aは、アプリを運営する会社自体を売却する「株式譲渡」と、アプリ事業のみを売却する「事業譲渡」の2つに大別できます。また、個人開発者が事業形式を取っておらずアプリを売却する場合は、アプリ単体の純粋売却となるため、M&Aの形式は取らない点に留意が必要です。ただし、その場合もM&Aと比較して手続きが簡略化される程度で、本コラムで紹介する売却時のポイントそのものは変わりません。

株式譲渡と事業譲渡の違い

では、アプリ売却における主な手法である、株式譲渡と事業譲渡にはどのような違いがあるのでしょうか。簡潔に言えば、株式譲渡とは、株式の過半数以上を売却して会社の経営権を譲渡することです。一方で事業譲渡とは、会社の特定の事業のみを譲渡することを指し、会社の経営権は現状の株主のままとなります。

買い手側の目線に立てば、株式譲渡は会社そのものを買うため、経営資源全般を取得できることにより、運営のスムーズさ、期待した効果(シナジー)の得やすさ、手続きの簡便さなどのメリットを得られるでしょう。ただし、リスクも合わせて抱え込むこととなります。
それに対して事業譲渡は、リスクを抑えられる一方、株式譲渡よりも手続きが煩雑になったり、期待した人材などの経営資源が得られなかったりするデメリットがあります。

また、買い手側だけではなく、売り手側にとってもそれぞれの手法によって得られる効果は異なります。
手続きの煩雑さの違いは買い手側と同様にありつつも、最大のポイントは他事業への影響です。つまり、アプリ運営以外の事業を有している場合、その事業をどう捉えるかによって手法を判断することが望ましいでしょう。
例えば、アプリ運営事業を売却することで、他事業にリソースを集中でき、より成長が見込めるのであれば、事業単体を切り離す事業譲渡が適しています。
一方で、アプリ運営と密接に関連している事業を営んでおり、切り離すことで相乗効果が得られなくなる場合は、株式譲渡が賢明な判断です。
そのほか、株式譲渡によって対価を得られるのは株式を保有している株主であるのに対して、事業譲渡では会社自身が対価を得られるという受益者の違いも、売り手側にとっての効果の違いとなります。

両手法における違いは、別記事にて詳細に解説していますので、興味のある方はこちらの記事もご参照ください。

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アプリ売却までの流れと期間

M&Aは、手法の違いや買い手側・売り手側の立場に寄らず、基本的には次の流れで進めます。これはアプリ売却においても同様です。

  1. M&A戦略の策定
  2. 買い手・売り手のターゲットの選定
  3. 秘密保持契約(NDA)の締結
  4. 基本合意書(MOU)の締結
  5. デューデリジェンス(DD)の実施
  6. 買収等契約書の締結
  7. クロージング・移管および統合

また、M&A全般的に、期間は半年~1年ほどかかるとされていますが、案件の特性、事業譲渡や株式譲渡などの手法によって大きく異なります。
例えば、両社の意向が速やかに合意された場合は数カ月で完了するケースもありますし、2社だけではなく3社以上の会社が関与し、スキームやコミュニケーションが煩雑になれば1年以上を要する場合もあります。

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アプリ売却費用の算定

続いてアプリ売却費用の算定方法について解説します。

M&Aにおける価格算出 – デューデリジェンス

アプリを売却するにあたって、「いくらで売れるか」は最大の焦点となるでしょう。
アプリの売却価格は、デューデリジェンス(DD)にて算出されます。DDは売却対象となる企業や事業の価格、リスクを調査・評価するプロセスを指し、さまざまな観点から行われます。事業活動などを評価するビジネスDD、財務諸表を中心とした財務活動を評価する財務DD、アプリのような情報システムやIT戦略などを評価するIT DDのほか、人事DD、法務DD、環境DD、税務DD、不動産DDなど多岐にわたり、M&Aのスコープに応じてどこまで精緻に行われるかが決まります。
また、これらのDDは専門的知見を要することと、第三者視点が必要なことから、外部アドバイザーを活用して行われるのが一般的です。買い手がアドバイザーの活用を含めDDを主導し、買収先の買収価格を決める活動をバイサイドDD(これを簡略化してDDと呼ぶことが多い)、売り手側が売却価格の適性を決める活動をセルサイドDDと呼びます。

DDの主な目的である価格算出は、次の3つのアプローチを中心に行われ、単体ないしは複数の組み合わせにより実施されます。

  • 収益性に着目したインカムアプローチ
  • 純資産に着目したコストアプローチ
  • 過去事例などに着目したマーケットアプローチ

インカムアプローチは、収益や利益に着目し「将来的に対象企業・事業がどの程度稼げるのか」を評価する手法です。そのため、基本的には現在の企業価値よりも高い評価を得られる一方で、評価における一定の恣意性が生じてしまう点が特徴です。

コストアプローチは、純資産に着目し「現在の対象企業・事業がどの程度に値するか」を評価する手法で、インカムアプローチのように将来性は考慮されません。したがって、客観性を担保できるメリットがある一方、成長期の企業・事業にとっては価格が想定よりも低くなるおそれがあります。

マーケットアプローチは、類似する事例に着目し「対象企業・事業はどの類似事例に相当するか」を評価する手法です。コストアプローチと同様に客観性を担保できるほか、算出が容易な点が特徴です。一方で、「類似事例」の正確な定義が困難というデメリットがあります。企業や事業がおかれる市場環境は流動的であり、必ずしも過去と一致するものではありません。例えば、コロナ禍の前後ではまったく異なりますし、GAFAMのようなメガプレイヤーの登場、スマートフォンやAIのような革新的なテクノロジーの進化などによっても市場は大きく変化します。

M&Aにおける価格算出についても、詳細は別記事にて解説していますので、気になる方はぜひご参照ください。

アプリ売却における算出方法

アプリ売却においては、M&Aである株式譲渡と事業譲渡に加えて、個人開発者の売却といった3つの手法が存在しますが、基本となる価格の算出方法はそれぞれ異なります。

  • 株式譲渡:純資産+営業利益+役員報酬2-5年分(インカムアプローチ+コストアプローチ)
  • 事業譲渡:譲渡資産+事業利益2-5年分(インカムアプローチ+コストアプローチ)
  • 個人アプリ売却:ユーザー数などが同一の過去事例と同程度(マーケットアプローチ)

アプリ売却に影響する要素

また、アプリ売却の価格算出に影響する主な要素は次の4つで、インカムアプローチおよびマーケットアプローチを用いる際に適用されます。

  1. 規模:ユーザー数・アクティブユーザー数(MAUなど)・アカウント数・ダウンロード数など
  2. 汎用性:モバイルアプリとWebアプリ両方での展開有無、iOSとAndroid両方の展開有無など
  3. 将来性:ターゲット市場の成長性、潜在ターゲットユーザーなど
  4. 希少性:アプリ自体の独自性やユニークさ、事業に紐付く経営資源(優れたエンジニア、ノウハウ、特許など)の競争力など
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アプリ売却の成功事例4選

ここからは、アプリ売却における成功事例を紹介していきます。

FacebookのInstagram買収

今では当たり前のように日本国内でも多くのユーザーに利用されているInstagramですが、買収が発表されたのはおよそ10年前の2012年です。当時のInstagramは、アプリのリリースから2年でアクティブユーザー数3,000万人という急成長を果たしているものの、収益はほとんどあげておらず、従業員も13人という体制で、まだまだ未熟な創業期のスタートアップの1つでした。しかしながら、Facebookは10億ドルもの価格でInstagramの買収を決定し、大きなニュースとなったことは記憶に新しい方も多いのではないでしょうか。

本件のポイントは何といっても、FacebookがInstagramの将来性を見極めたことにあります。当時のSNS市場は、TwitterやFacebookを中心に隆盛を極めていましたが、Instagramは既存プレイヤーが主流とする「メッセージのシェア」ではなく「写真のシェア」に特化したアプリで独自のポジションを取ることに成功しました。SNS市場の潜在的な成長性をFacebookが正しく評価できた、典型的な成功事例の1つといえるでしょう。

参考:日本経済新聞「『社員13人、売上高ゼロ』でも買収額810億円、フェイスブックM&Aの真相

ポケモンGO運営のNianticのGoogle独立

今ではアプリが人々の行動を大きく変えたとして賞賛を浴びているポケモンGOがリリースされたのは、COVID-19が流行する少し前の2016年ごろです。多くの人が公園や通りに出て、スマートフォンをかざしながらその場に立ち止まり集まる風景は、若干奇異な光景として覚えている方も多いでしょう。当時はまだ技術としても成熟していないAR(拡張現実)を用いて、スマートフォン上の世界と現実世界をつなげた独特のアプリは、すぐに世界中で人気となりました。

そのポケモンGOがリリースされる1年前、運営会社のNiantic LabsはGoogleから独立しています。Niantic Labsは、Ingressと呼ばれるスマートフォン向けの位置情報ゲームを展開するGoogleの社内ベンチャーの1つでした。独立直後に、Niantic LabsはGoogle、任天堂、ポケモンから23.8億円の資金調達を行っており、今となれば明らかにポケモンGOのリリースに向けた独立、資金調達の動きだったことが伺えます。本件における成功要因は、Googleという大企業から独立することで、組織体制がスリムになり、ポケモンGOのアプリ開発に事業として集中できた点が挙げられるでしょう。AR活用などの意思決定や、リリース後の急成長に対応できる体制づくりなどは、事業の集中によって成し得た結果であり、事業領域の選択と集中がいかに重要であるかが本件からわかります。

参考:ASCII.jp「IngressのNiantic Labs、23.8億円の資金調達に成功

Pairsなど運営のエウレカとTinderなどのIACの統合

最近では、日本でもPairsなどのマッチングアプリが出会いの場として浸透してきましたが、利用者が拡大したのはここ2~3年です。Pairsは、2015年時点で200万人以上のユーザーを持つ人気アプリでしたが、国内およびグローバルでの事業成長に課題を抱えていました。そこで、Pairsをはじめとしたマッチングアプリを運営するエウレカは、2015年にTinderなどを運営するアメリカのIACへの事業売却を決定します。

IACはTinder以外にも、MatchやOkCupidなどの世界的に有名なマッチングアプリを運営しており、事業ノウハウが豊富にあります。IACへの売却によるエウレカ自身の成長加速が、本件の主な狙いでした。その後、Pairsは2019年に累計ユーザー数1,000万人を獲得、2023年現在は2,000万人のユーザー数を抱えるほどに成長を遂げています。このように、同事業への売却による事業シナジーの創出も、アプリ売却における重要なポイントです。

参考:東洋経済Online「『エウレカ』が米企業にバイアウトしたワケ

俳句てふてふの毎日新聞への売却

上記のような市場へのインパクトが大きい案件だけではなく、アプリ売却には個人開発者によるエグジットの例も多数あります。
「俳句てふてふ」は大学生の伊藤氏が個人的に開発した俳句のSNSアプリですが、そのアプリが毎日新聞の担当者の目に止まったことで、エグジットが実現しました。

売却の狙いは、金銭的な対価の受け取りもさることながら、個人での小規模なアプリの開発・運営リソース不足の解消もありました。その後、本アプリは売却の1年後に、毎日新聞により大規模な機能拡充が行われています。また、開発者である伊藤氏も、売却して得た資金を元に別事業に注力できており、個人開発者による売却の成功事例と言えるでしょう。

参考:株式会社PoliPoli「PoliPoliが俳句のSNSアプリ 俳句てふてふを毎日新聞社に事業譲渡

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アプリ売却の失敗事例4選

一方で、アプリ売却は、必ずしも成功するとは限りません。本章では、いくつかの特徴的な失敗事例について紹介します。

VineのTwitterへの売却

「6秒動画」として一時期流行したVineは、アプリ売却における失敗事例の1つです。Vineは2012年6月に、6秒間ループ再生するクリップ動画の共有サービスとして設立されるも、その4カ月後の10月にはTwitterに買収されました。このスピード感での買収は、先述のFacebookとInstagramの事例とも類似しており、アプリの開発側としては一見、成功と言えるかもしれません。しかし、結局は2016年に利用者の減少およびTwitterの社内再編により、サービス終了に至ってしまいました。

本件の失敗理由としては、Instagramのように将来性がなかったことではありません。なぜなら、現在もTwitterで短い動画をシェアする機能はあり、市場ニーズがなくなったわけではないためです。理由は大きく2つあり、1つはVineへの十分な投資がなされなかったこと、もう1つは主要人材の流出です。売却後、YouTubeやFacebookなどの競合に対して、Vineを主戦場とするインフルエンサーの流出を招いたほか、類似する動画クリップサービスをTwitter内に搭載したことで、Vineを経由する必要性がなくなってしまいました。TwitterがVineを重要なサービスと認識しておらず、投資が不十分になされていなかったことが伺えます。

また、9人もの幹部がVineを同時に退職していたことも明らかとなっており、原因はTwitter社内での人事にあるとされています。このような結果から、Vineとしては本当にTwitterへの売却が正しかったのか、という点で学ぶべきことが多いと言えます。

参考:All ThingsD「Twitter Buys Vine, a Video Clip Company That Never Launched

Evernoteの売却不可

メモアプリとして一世を風靡したEvernoteも参考となる失敗事例です。以前はユニコーンの1社として数えられ、順調な成長を遂げていた同社ですが、PCやスマートフォンにメモ機能が標準搭載されたことに伴い、その地位を瞬く間に失っていきます。それでも同社CEOは出口戦略を考えず、100年続く企業をモットーとしており、売却を選択肢としていませんでした。しかし、この逆風をうまく乗り切れず、2016年ごろから経営不振に陥り、その後売却先を探すも見つからない状態にまで至ってしまいました。2022年11月にイタリアのBending Spoonsに買収されましたが、現在のグローバルにおけるEvernoteのポジションは、かつてほどではないことは明らかです。本件からの学びは、売却における適切なタイミングを見極めることの重要性にあります。もし、メモ機能の標準搭載前ないしはその直後に売却を検討していれば、また別の未来があったかもしれません。

参考:NewsPicks「【教訓】『チャレンジ』の罠。エバーノートの失敗に学ぶ

スマートウォッチPebbleのFitbitへの売却

Apple Watchに代表されるように、スマートウォッチは現在人気の製品群ですが、その先駆けはPebbleというメーカーの製品です。Pebble は2016年時点で、多額の資金調達を実現し、スマートウォッチのシェアも一定数を有していました。しかし、スマートウォッチ市場の減少に伴い、同年にウェアラブルメーカーのFitbitへと売却されます。この売却により、予定していた新製品「Pebble 2」の開発停止に加えて、製品保証などのサービス不可がFitbitより決定されたことで、Pebbleは大規模な顧客の流出を招くことになりました。2023年現在でのスマートウォッチ市場の回復と成長を鑑みれば、Pebbleにとってこのタイミングでの売却は失敗だったといえるでしょう。

参考:財経新聞「Fitbitに資産売却のスマートウォッチPebble、製品保証打ち切る

アンダーアーマーのMyFitnessPal、Endomondo、MapMyFitnessの買収

アンダーアーマーは日本でも人気のスポーツウェアブランドです。2013年から2015年にかけて、デジタルフィットネスへの注力を目的としてMyFitnessPal、Endomondo、MapMyFitnessを買収しました。しかしながら、2020年には3つのアプリのうちMyFitnessPalを売却、Endomondoはサービス終了に至り、この買収は明らかに失敗だったといえます。原因は、3つのアプリ間のシナジーを出せず、独自開発したナイキやアディダスなどの競合に遅れを取ったことが挙げられます。

ここまでは、買収したアンダーアーマーの目線ですが、売却側である各アプリとしてはどうでしょうか。金銭的な対価を得ることが目的であれば、各アプリは数百億円もの買収額となったことから、成功といえるかもしれません。しかし、各アプリの運営元会社や個人開発者にも同様に失敗というイメージがついてしまいました。アンダーアーマーではなく、別の買い手に買収されていれば別のシナリオも起き得たことから、売却側としても失敗と言えるのではないでしょうか。

参考:CNET Japan「スポーツウェアのアンダーアーマー、『MyFitnessPal』と『Endomondo』を買収

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アプリ売却における押さえておくべきポイント

ここまでを振り返り、アプリ売却の際に押さえておくべきポイントを見ていきましょう。
買い手側としては、いかに期待した効果を得られるか、すなわち購入価格を上回る効果を生み出せるかを主眼としているため、将来性やシナジーなど多くのことを検討する必要があります。一方で、売り手側は、いかに適切な価格で売却できるか、アプリの価格自体とタイミングが重要です。そのためには、買い手側は安く買いたい、売り手側は高く売りたいと思う両者の思惑のなかで、売り手側もきちんと主導権を持って交渉に臨む(すべて買い手主導・買い手依存にならない)ことが肝要だと言えます。具体的には、次のようなアクションが必要となるでしょう。

  • 上記のような価格構成要素を理解し、売り手側でもセルサイドデューデリジェンスを行い、価格を算出
  • 市場・競争環境を分析し、自アプリのポジションや優位性、将来性を明らかにする
  • ソフト面である、人材やノウハウなどについてもきちんと評価し、それらが本当に手放して良いものかを見極め、手段を選択(例:ソフト面に優位性が強いならば株式譲渡よりも事業譲渡が良いなど)
  • 既存の他事業への影響を考慮
  • 複数の買い手先を見つけて交渉・評価

加えて、売り手側としては、売却後の影響も考慮しておくべきです。売却後にアプリの運営がうまくいかなければ、売却者自身や他事業にも評判面などでネガティブな影響が出るかもしれません。また、売却によるエグジットを見据えているスタートアップオーナーや個人開発者は、上記のような観点を加味した上で、中長期的なアプリ開発方針を検討していく必要もあるでしょう。

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まとめ

本コラムでは、アプリ売却における全体像や成功および失敗事例、押さえておくべきポイントを紹介しました。アプリ市場全体の活況により、アプリ売買は今後も活発に行われると予測されます。そのため、アプリを運営する企業や個人開発者は、アプリの売却も1つの選択肢として手法や流れを理解し、開発方針や今後の成長戦略を考えていく必要があります。

アプリ売却の主な手法には、株式譲渡、事業譲渡、個人開発者による売却の3つがあり、他事業の有無や売却の狙いなどによって適切な手法を選択することが重要です。また、各手法により、売却の流れや売却価格なども異なります。特に価格については、インカム・コスト・マーケットの3つのアプローチがあり、それらの組み合わせにより決定されます。アプリ特有の指標として規模や汎用性、将来性、希少性などの観点も重要となるため、売却側もこれらの理解が必要です。加えて、基本的に売却が完了するまでには半年から1年を要するため、事前の計画・準備が欠かせません。

アプリ売却の狙いである、最適なタイミングと価格での売却を達成するためには、売却側も取引を主導し、セルサイドデューデリジェンスの実行などを主とするアクションが重要です。さらに、売却すること自体を目的とせず、他事業への影響やアプリそのものの成長方針なども加味した上で売却に臨むことで、より効果的な選択を実現できるでしょう。

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