配当還元方式とは?要件や計算方法・フローチャートを紹介

2023年11月20日

配当還元方式とは?要件や計算方法・フローチャートを紹介

このページのまとめ

  • 配当還元方式は非上場株式の計算法で、他に類似業種比準方式・純資産価額方式などがある
  • 配当還元方式は少数株主の方が向いており、少数株主の株式を評価することが主な役割
  • ただし配当還元方式は、企業の方針に左右されやすい配当を根拠としていることに留意
  • 配当還元方式は基本的に株式評価の方法だが、考え方は企業価値算定方法と同じ
  • 配当還元方式よりも原則的評価方式の方が評価が低いことがある

配当還元方式は非上場株式の評価額を計算する方法の一種です。しかし非上場株式の評価方法は配当還元方式以外にもあるため、どの方法が良いのか分からないという方もいるかもしれません。この記事では、配当還元方式とは何か?また配当還元方式の活用シーン、具体的な活用例についても解説しています。非上場株式を相続、贈与、遺贈などで取得して評価額が分からないとお困りの方は、ぜひ参考にしてください。

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配当還元方式とは

配当還元方式とは非上場株式の評価額を計算する方法の一種です。非上場株式は上場株式のように明らかになっていません。そのため非上場株式を相続した場合、株価が分からないためどれくらいの資産価値があるのか分からず相続税の計算もできないことになります。

そこで非上場株式の評価額を算出する場合には、個別の計算方法が決められています。非上場株式の評価額を算出する方法は複数ありますが、「配当還元方式」は代表的な計算方法の1つです。

配当還元方式が使われるシーン

配当還元方式は、同族会社や同族株主がいる会社の、少数株主が保有している株式を評価する際に使います。会社の経営に大きな影響を与えない少数株主は、主に配当金目的で株式を保有しているため、配当金を基準に計算する配当還元方式が用いられます。非上場株式を保有しているものの、企業の経営に大きな影響を与えない方が株式を取得するときは配当還元方式を活用するものと言えるでしょう。

また配当還元方式は、その他の株式評価方法よりも評価額が低くなる傾向があります。

配当還元方式の要件

配当還元方式は、相続や贈与、遺贈によって、同族株主以外の方が非上場株式を取得したときに用いられる評価方法です。自分が同族株主に該当するかを確認するために、まずは次の3つの定義を理解しましょう。

  • 同族株主
  • 中心的な同族株主
  • 中心的な株主

それぞれ詳しく解説していきます。

同族株主

同族株主とは、課税時期、あるいは相続開始時における評価会社の株主の中で、株主の1人やその同族関係者が有する議決権の合計数が、評価会社の議決権総数の30%以上であるときの株主、およびその同族関係者のことです。(株主の1人や、その同族関係者の有する議決権の合計数が最多のグループが持つ議決権の合計数が50%超であれば50%超。)

なお、同族関係者とは、同族関係にある個人や法人のことで、同族関係にある個人とは以下のいずれかに該当する方のことを指します。

  1. 当該株主の親族
  2. 株主と内縁関係にある方
  3. 株主の使用人
  4. 株主から受け取った金銭やその他資産で生計を維持している方
  5. 2~4の方と生計を一つにする親族

親族とは配偶者や6親等内の血族、3親等内の姻族のことです。

中心的な同族株主とは?

課税時期に同族株主の1人と株主の配偶者、直系血族、兄弟姉妹、1親等の姻族が持つ議決権の合計数が、その会社の議決権総数の25%以上である場合の株主を「中心的な同族株主」と言います。

なお、直系血族とは親、祖父母、子、孫等の他、祖父母よりも上の世代、あるいは孫よりも下の世代も含みます。

中心的な株主とは?

中心的な株主とは、課税時期に株主の1人やその同族関係者が保有する議決権の合計数が、会社の議決権総数の15%以上である株式グループの中で、いずれかのグループに単独でその会社の議決権総数の10%以上の議決権を持つ株主がいる場合の株主のことを言います。

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配当還元方式のフローチャート

同族株主、中心的な同族株主、中心的な株主の定義が理解できたら、自分が同族株主に該当するかどうか、フローチャートで確かめてみましょう。

会社の区分株主の区分評価方式
同族株主がいる取得者が同族株主取得者の取得後の議決権割合が5%以上同族株主等原則的評価方式
取得者が同族株主取得者の取得後の議決権割合が5%未満中心的な同族株主がいない
中心的な同族株主がいる取得者が中心的な株主または役員
取得者が中心的な株主または役員のいずれでもない同族株主等以外配当還元方式
取得者が同族株主でない
同族株主がいない取得者の属するグループの議決権割合の合計が15%以上取得者の取得後の議決権割合が5%以上同族株主等原則的評価方式
取得者の取得後の議決権割合が5%未満中心的な株主がいない
中心的な株主がいる取得者が役員
取得者が役員でない同族株主等以外配当還元方式
取得者の属する株主グループの議決権割合の合計が15%未満
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配当還元方式とその他の評価方法の違い

非上場株式の株式評価をする際、配当還元方式以外にも次のような評価方法もあります。

  • 原則的評価方式
  • 純資産価額方式
  • 類似業種比準方式
  • 特例的評価方式

代表的な計算方法として配当還元方式をしましたが、同族株主か否か、あるいは会社規模などによって使用する評価方法が異なります。各評価方法の概要について解説します。

原則的評価方式

原則的評価方式とは、この後紹介する「純資産価額方式」と「類似業種比準方式」の総称です。

純資産価額方式

評価対象となる企業の1株式に対しどれほどの純資産が割り当てられる可能性があるかという観点で株式を評価します。

純資産方式は、大きく「純資産の算定」と「1株あたりの純資産の算定」に分けられます。まずは資産と負債の差額から純資産を算定。次に課税時期の各資産の合計額から各夫妻の合計と法人税相当額を引いた金額を求めます。さらに求めた金額を、発行済み株数で割り、1株あたりの純資産額を計算します。

純資産方式は、自社の財務諸表をもとに計算をするため、市場の影響が含まれません。

逆に自社の資産や負債の影響が含まれることから、時価評価できる資産を保有して時価が上昇すると株価が大きめに算定される可能性があります。

その会社が解散すると仮定したときの株主に分配される財産価値を評価する方法のため、比較的小さい規模の会社は、上場企業の株価をもとに計算する類似業種比準方式より純資産価額方式が適していると言えるでしょう。

類似業種比準方式

類似業種比準方式は業界ごとに上場している標準的な会社の株価等をもとに、非上場株価を計算する方法です。算定額が、上場企業の株価に左右されやすく、利益を出している企業ほど評価額が高くなる傾向があります。類似業種比準方式は主に大企業の株式評価算定に用いられる評価方法です。

実際の取引価格を参考にしているため、信憑性があり、M&Aなどにも活用されています。

類似業種比準方式の計算式は以下のとおりです。

A×{(b÷B+c÷C+d÷D)÷3}×斟酌率

A=類似業種の株価
B=課税時期の属する年の類似業種の1株あたりの配当金額
C=課税時期の属する年の類似業種の1株あたりの年利益金額
D=課税時期の属する年の類似業種の1株あたりの純資産価額(帳簿価額)
b=評価会社の1株あたりの配当金額
c=評価会社の1株あたりの年利益金額
d=評価会社の1株あたりの純資産価額(帳簿価額)
斟酌率=大会社0.7、中会社0.6、子会社0.5

特例評価方式

特例評価方式とは、配当金還元方式が該当します。

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配当還元方式の重要性

未上場企業には、配当を目的として株式を保有し、経営の意思決定に積極的に関与しない少数株主がいます。

このような場合に、その株式を評価することを目的として配当還元方式がしばしば利用されます。

配当還元方式が必要な理由

前章にて紹介した通り、原則的評価方式には、純資産価額方式や類似業種比準方式があります。これらの評価方法は企業の純資産や営業利益といった企業経営の結果を根拠としており、このような指標は株主による経営の意思決定に大きく影響を受けます。そのため、原則的評価方式は主に、同族株主のような経営権を持つ株主の株式を評価するのに適していると言えるでしょう。

言い換えれば、少数株主は経営の意思決定に深く関与していない以上、これらの株式を評価するために、純資産や営業利益などを扱うことは適切ではありません。このような課題を解消するため、配当還元方式が必要となるのです。

一方で、配当還元方式が根拠としている配当は、企業の方針によって大きく左右されるという点に留意が必要です。例えば、無配当や少配当、多配当などの判断は、企業の経営方針によって定められるため、極端な配当方針であるほど株式の評価額にも大きく影響してしまいます。

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企業価値と株式の算出方法の類似点と違い

前章にて、配当還元方式とその他の株式評価方法の違いについて解説しました。では、株式と企業価値を算出する方法は、考え方が異なるのでしょうか。

それぞれの詳細な特徴は後述しますが、企業価値と株式の算出方法の違いをまとめると次の通りになります。

種類

企業価値算出方法

株式の算出方法

両者の類似点・違い

コスト
アプローチ

  • 簿価純資産法
  • 時価純資産法
  • 純資産価額方式
  • 純資産に基づく計算方法は同じ
  • 純資産価額方式でも簿価ベースか時価ベースかに分類可能

マーケット
アプローチ

  • 市場株価法
  • 類似企業比較法(PBR法、PER法、EV/EBITDA法)
  • 類似業種比準方式
  • 過去の株価に基づく市場株価法と同じ考え方
  • 類似企業比較法は株式算出では用いられない
  • 基本的に上場している大企業で採用される点は両者とも同様

インカム
アプローチ

  • 収益還元法
  • DCF法
  • 配当還元法
  • 配当還元方式
  • 将来の配当予測から価値算出する配当還元法と同じ考え方
  • 収益還元法やDCF法は株式算出では用いられない

表からわかる通り、企業価値の方が算出方法の種類は豊富で、さまざまな手法が存在します。しかし、これは企業全体と株式という対象範囲の広さの違いに起因しているためであり、企業価値と株式とで算出方法の基本的な考え方は同じであると言えるでしょう。

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企業価値の算出方法の全体像

基本的に企業価値評価は、純資産などを基にするコストアプローチ、類似事例を基にするマーケットアプローチ、収益などを基にするインカムアプローチの3つに分類されます。

  1. コストアプローチ
  2. マーケットアプローチ
  3. インカムアプローチ

本稿で紹介している配当還元方式や原則的評価方式は、主に株式の評価を主眼としています。企業価値を評価する手法に対して一部異なる計算を加える必要があるものの、基本的な考え方は同様と言えるでしょう。

企業価値の算出方法におけるコストアプローチとマーケットアプローチ、インカムアプローチそれぞれの具体的な内容については、別途下記の記事にて解説していますので、合わせてご参照ください。本稿では、これらと配当還元方式や原則的評価方式との類似点や違いについて紹介します。

関連記事:レバレジーズM&Aアドバイザリー 「M&Aの売却価格の目安は?算定法や買収額をアップさせる方法を解説

コストアプローチ

コストアプローチとは、資産と負債の差分である純資産に注目することを基本思想とした算出方法で、主に次の2つの手法が存在します。

  • 簿価純資産法
  • 時価純資産法

コストアプローチでは自社のバランスシートのみに着目するため、市場の影響を受けないこと、および将来的な価値は含めずに現在の価値のみを採用する点が特徴となります。

株式の評価方法として紹介した原則的評価方式における純資産価額方式は、このコストアプローチと同様の考え方であると言えるでしょう。純資産価額方式は、上場・非上場に関係なく採用することが可能なため、幅広く用いられています。

M&Aなどの企業価値算出におけるコストアプローチでは、純資産の評価をバランスシート上の数値そのままの簿価で計算する方法と、これらを取引時点のリアルな数値に計算し直し時価で評価する方法とがあります。純資産価額方式でも同様です。

時価に計算し直すことから手間と複雑な計算を要するため、基本的には簿価での純資産評価が一般的です。しかし、特に上場企業の株式を評価する場合は、より正確な評価のために時価ベースでの計算が採用されるケースが存在します。

いずれにしても、純資産を基にする企業価値評価のコストアプローチと株式評価の純資産価額方式は同じ計算方法と理解しておきましょう。

マーケットアプローチ

続いてマーケットアプローチは、対象企業と類似した企業を参考にすることを基本概念とする算出方法です。対象企業と同じ業界や市場、または同程度の規模かどうかなどの観点から類似企業を複数選択し、それらをベンチマークとして企業価値を試算します。

ベンチマークとして用いる指標の違いに応じて、マーケットアプローチによる企業価値の算出方法にはいくつかの種類が存在します。

  • 市場株価法
  • 類似企業比較法
    • PBR法
    • PER法
    • EV/EBITDA法

大きくは市場株価法と類似会社比較法に分けられます。

市場株価法

市場株価法はその名の通り、過去の株価を参照指標として用います。具体的には、過去の株価の平均をとり、それらから対象企業の企業価値を導く形となります。

株価を用いるという点から推察される通り、上場企業での試算に用いられることが一般的です。

類似会社比較法

一方の類似会社比較法は、比較する指標の違いから、PBR(Price Book-value Ratio:株価純資産倍率)法、PER(Price Earnings Ratio:株価収益率)法、EV・EBITDA(Enterprise Value:企業価値、Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortization:利払い前税引き前償却前利益)法などがあります。

これらの指標を用いて類似企業と比較し、対象企業の価値を算定します。

既にご紹介した通り、株式算定の原則的評価方式における類似業種比準方式は、基本的に市場株価法を中心としています。類似企業の株価に対象企業の財務情報を組み合わせて算出されます。

その理由は、類似業種比準方式では株式価値を算出することを主眼としており、類似会社比較法を用いるよりも直接的に試算が可能であることが挙げられます。また、類似会社比較法における財務情報は、ベンチャー企業や未上場企業ではばらつきが大きく、正確な比較がしにくいことも理由の1つです。

したがって、マーケットアプローチが株式算定で用いられるのは市場株価法と同様の類似業種比準方式であり、主に上場している大企業の評価の場合であると理解しておきましょう。

インカムアプローチ

最後に、インカムアプローチは対象企業の将来性や成長性に重点を置いた算出方法であり、マーケットアプローチ同様、参照する指標に応じていくつかの種類が存在します。

  • 収益還元法
  • DCF法
  • 配当還元法

収益還元法とは直接還元法とも呼ばれ、その名の通り、対象企業の将来の収益や利益予測から企業価値を算出します。収益還元法は不動産価格の試算などで用いられるケースが多く、企業価値の算出においては、収益還元法よりも将来のキャッシュフローに依拠したDCF(Discounted Cash Flow)法の方が一般的です。

他にも、配当金の将来予測に注目する配当還元法が挙げられますが、本稿の主題である配当還元方式は、基本的にこの配当還元法と同様の考え方となります。

株式算定において収益還元法やDCF法に類した評価方法が存在しないのは、マーケットアプローチと同様、これらの評価方法から株式を算出するのは間接的であり、配当還元法の方がより直接的であることが主な理由です。

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配当還元方式の評価方法

配当還元方式の評価方法は主に以下の4つがあります。

実績配当還元法

過去に出した配当金をもとに株主価値を評価する方法です。過去の配当をもとにすることから、配当金を出したことがない企業には使えません。

標準配当還元法

株主価値を評価したい企業が属している業種の平均配当性向※をもとに株主価値を評価する方法です。配当を出したことがない企業でも使えます。また、一般的な業種の配当性向を参考にするため、評価額が業種ごとの配当性向に左右されます。

配当性向とは、利益に占める年間の配当金割合のことです。利益に対して配当金を多く出している企業ほど、配当金は高くなります。

国税庁配当還元法

国税庁が示した、相続財産の評価基準である「財産評価基本通達」を使った評価方法です。主に相続や贈与の際に活用できます。

ゴードンモデル表

企業の内部留保は再投資され、配当は増加するものと仮定して、株主価値を評価する方法です。1株当たりの配当÷(資本還元率-投資利益率×内部留保率)で1株あたりの評価額を計算します。

永遠に企業が成長することが前提となっているため、成長率が低い企業の評価には向いていません。

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配当還元方式の計算方法

配当還元方式とは、過去の配当額から将来の配当額を予想し、株式価値を求める計算方法です。

基本的な計算方法

配当還元方式の計算式は以下のとおりです。

配当還元価格=(年間配当額※÷10%)×(1株あたりの資本金額÷50円)

年間配当額=(直前期末以前2年間の配当金額÷2)÷1株あたりの資本金等の額を50円とした場合の発行済株式数
年間配当額が2円50銭未満の場合は、2円50銭とします。

先に紹介した配当還元方式の計算式をもとに、実際に計算してみましょう。
配当還元方式の計算例は以下のとおりです。

前提条件…資本金額5,000万円、発行済み株式数5,000株、1株当たりの資本金1万円、前期配当金総額300万円、前々期配当金総額400万円

年間配当額=(300万円+400万円)÷2=350万円÷(5,000万円÷50)
年間配当額=3.5円

(3.5円÷10%)×(1万円÷50円)=7,000円

配当還元方式で計算した1株あたりの評価額は7,000円

基本的な計算方法は上記の通りですが、配当は企業の方針によって大きく左右され、イレギュラーなケースもしばしば存在します。想定されるイレギュラーなケースとしては、次のパターンが挙げられるでしょう。

  1. 配当がゼロの場合
  2. 期末配当以外に定期的な配当がある場合
  3. 事業年度が1年ではない場合
  4. 原則的評価方式の方が配当還元方式よりも評価が下がる場合

配当がゼロの場合

1つ目のイレギュラーな事例として、配当がゼロである、いわゆる無配当企業における計算方法について紹介します。

配当還元方式で非上場株式を算定する場合、年間配当額が2円50銭未満の場合は2円50銭とする決まりになっていますが、これは2年間無配当、つまり配当ゼロでも同じです。配当金ゼロであっても年間配当金は2円50銭で計算をするため、株式評価額がゼロになることはありません。

したがって、この場合は上記の基本例における年間配当額が2.5円となり、計算結果は次の通りとなります。

(2.5円÷10%)×(1万円÷50円)=5,000円

配当がゼロ、すなわち年間配当額を2円50銭と見なした場合、配当還元方式による1株あたりの評価額は5,000円となります。

期末配当以外に定期的な配当がある場合

2つ目のイレギュラーなケースとしては、期末配当以外の配当を行っている場合が挙げられます。

このケースでは、期末配当以外の定期的な配当を中間配当と設定して、年間配当額に合算します。

例えば、2年間で毎年2回の中間配当をそれぞれ1円50銭と設定しているとしましょう。この場合は、上記の基本例における年間配当額3円50銭に対して、2回の中間配当額の合計3円が追加されるため、年間配当額は6円50銭となります。

(6.5円÷10%)×(1万円÷50円)=13,000円

したがって、期末配当以外に定期的な配当がある場合、年間配当額が6円50銭とすると、配当還元方式による1株あたりの評価額は13,000円となることが分かります。

ただし、ここでの留意点は、定期的ではない臨時の配当は計算に含めないということです。企業によっては特別配当や記念配当を臨時で行うケースがありますが、これらは株式評価に包含せず、あくまでも定期的な配当のみを計算対象とすることに注意しましょう。

事業年度が1年ではない場合

次に想定されるケースは、事業年度が1年ちょうどではなく、1年未満に設定されている企業の株式を評価する場合です。

会社法では事業年度は1年以内と定められているため、1年未満に設定すること自体は問題ありません。企業の方針によっては、事業年度を例えば10ヶ月と規定する可能性もあります。

配当還元方式では2年間の配当金額を算出する必要があることから、このような場合、10ヶ月分を12ヶ月分へと按分して算出することが必要となります。

つまり、基本例における年間配当額3円50銭が10ヶ月における「年間」配当とすると、配当還元方式おける「年間」配当額および1株あたりの評価額は次の通りになります。

年間配当額 = 3.5円 ×(12ヶ月 ÷ 10ヶ月)= 4.2円

(4.2円÷10%)×(1万円÷50円)=8,400円

したがって、事業年度が10ヶ月である場合、配当還元方式による年間配当額は4円20銭と計算され、1株あたりの評価額は8,400円となります。

原則的評価方式の方が配当還元方式よりも評価が下がる場合

最後に留意事項として、配当還元方式における評価が原則的評価方式より高くなってしまうことが挙げられるでしょう。

基本的には配当還元方式の方が評価額は低くなる傾向があります。そのため少数株主は非上場株式の評価が低くなるよう、配当還元方式を採用します。

しかしまれに原則的評価方式の方が評価額は下がることもあります。これは上記のようなイレギュラーなケースで計算をした場合や、そもそもの配当自体が企業独自の方針に大きく左右されるという理由によるためです。

ただし、その場合は原則的評価方式の評価額を採用して問題ありません。基本的に株式評価や企業価値算定は、絶対的な値というものが存在せず、いずれの評価方法を採用しても算出者の主観や恣意性が含まれます。

したがって、買収の交渉戦略においても有利な評価額を採用する観点は重要です。評価額には買い手と売り手両者の交渉が必要となるため、買い手が可能な限り低い評価額を用いて交渉に臨むことは重要な手段の1つと言えるでしょう。

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まとめ

配当還元方式は非上場株式の評価額を算定する方法の1つです。非上場株式の評価額を算定する方法は、他にも類似業種比準方式や純資産価額方式などの原則的評価方式が存在します。配当還元方式は同族会社や同族株主がいる会社において、少数株主が保有している株式を評価する場合に適しています。

非上場株式の評価方式は、同族株主か否か、あるいは会社規模などによって異なるため、仕組みを理解し、それぞれの特徴やメリット・デメリットを考慮して、適切な手段を選択しましょう。税理士に相談して進めるのも1つの方法です。

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