このページのまとめ
- 合併比率とは、合併時に当事者の株主が受け取る株式の比率のこと
- 合併比率に端数が出た場合は、株式分割や株式併合で調整する
- 合併比率で株主の保有割合が変わらないように注意する
「合併比率の決め方が分からない」と悩んでいる経営者は多いことでしょう。合併する場合、消滅会社の株主には、保有株式に応じて存続会社や新設会社から株式が割り当てられます。
本記事では、合併比率の概要や決め方、算定方法、合併比率を決める際の注意点、参考となる事例を10選ご紹介します。こちらの記事を参考に、正しい合併比率を算出し合併を成功に導きましょう。
目次
合併比率とは
合併とは、2つ以上の会社が1つの会社になることです。合併には会社を承継する主体により、吸収合併と新設合併の2種類があります。吸収合併にあたっては、合併される側は吸収され消滅し、合併する側は存続会社として残ります。新設合併では、合併により消滅する会社の権利義務を新設する会社に承継させます。消滅会社の株主には、存続会社や新設会社から株式が割り当てられます。
合併比率とは、消滅会社の株主に対して、保有する株式に応じて割り当てられる存続会社や新設会社の株式の比率のことです。合併比率は、「◯:◯」で表されます。
たとえば、合併比率が「1:1」の場合、消滅会社の株主が5,000株持っていたとすると、存続会社や新設会社から5,000株の株式を受け取ります。株式比率が「1:0.5」の場合、存続会社や新設会社から受け取る株式は2,500株です。
合併比率は、株主の財産保護を目的に設けられています。株式には時価があるため、通常、合併される会社と合併する会社の株式は等価ではありません。時価の異なる株式を「1:1」の比率で交付すると、不公平が生じるため調整が必要になります。
合併比率を設けるもう一つの理由は、贈与税の発生を回避するためです。消滅会社の株主が、合併後に持分が増えると、贈与税が発生する可能性があるのです。
合併によって不公平が生じたり贈与税が発生したりしないように、合併比率を正しく設定しなければなりません。
関連記事:企業の合併とは?種類やメリット・デメリット・手続き方法、事例を解説
合併比率の決め方
合併比率は、次のような流れで決められます。
- 合併する企業の価値を算定する
- 合併比率を仮に決める
- 合併後の株主構成を確認する
- 合併比率と株主構成を調整する
- 端数処理などの調整を行う
それぞれの流れに関して解説します。
合併する企業の価値を算定する
合併比率を決めるために、まずは企業価値の算定が必要です。企業価値を算定する方法としては、次の3つが挙げられます。
- コストアプローチ
- インカムアプローチ
- マーケットアプローチ
コストアプローチとは、会社が所持している資産価値を基準に計算する方法です。「アセットアプローチ」や「ストックアプローチ」とも呼ばれます。具体的な算定方法には、「簿価純資産法」「時価純資産法」などが挙げられます。
インカムアプローチは、企業の収益を基準に計算する方法です。譲渡企業のキャッシュフローや、将来的に得られる収益を基準にします。具体的な算定方法には、「DCF法」「収益還元法」「配当還元法」などがあります。
マーケットアプローチは市場相場や過去の取引をもとに計算する方法で、客観的に判断できる点が特徴です。具体的な算定方法には、「PBR法」「EBITDA法」「市場株価法」などがあります。
用いる計算方法は、企業の状況や専門家の判断によって変わります。方法ごとにメリットデメリットが異なるため、複数の方法を組み合わせるケースも珍しくありません。
ただし状況に合わない計算方法を選択すると、企業価値が正しく反映されないため注意が必要です。
合併比率を仮に決める
企業価値の算定方法を決めた後は、合併比率の仮決定を行います。各株主の財産価値が変動しないように、慎重に比率を算出します。
合併比率の計算式は次のとおりです。
合併比率=合併される会社の1株あたりの評価額÷合併する会社の1株あたりの評価額
たとえば合併される会社の1株あたりの評価額が1,000円、合併する側の評価額が2,000円だとすると、合併比率は「1,000円÷2,000円=0.5」と算出されます。この条件における合併比率は「1:0.5」とわかるでしょう。
合併後の株主構成を確認する
合併後の株主構成の確認も重要です。合併する会社の株式を渡すことで、合併後に株主が保有する株式の割合が変わるからです。
たとえば、株式の保有割合が3分の1を超えた場合、該当の株主は株主総会の特別決議を阻止できるようになります。また、保有割合が2分の1を超えると、株主総会の普通決議を通すことが可能です。さらに保有割合が3分の2を超えると、株主総会の特別決議を通せるようになります。
株式の保有割合が変わると、株主は権利を獲得したり失ったりするため、合併後の株主構成がどのようになるかをきちんと確認します。
合併比率と株主構成を調整する
決定した合併比率を調整し、株主が納得できる形にしなければなりません。たとえば、次のような方法で調整してみましょう。
- 株式価値評価に関して、別の方法を採用してみる
- 合併前後に当事者間で株式を売買する
- 合併前後に種類株式や属人条項を定める
- 会社分割のように、合併以外のM&Aスキームを検討する
- あえて不公平になる比率を設定し、贈与税を納税する
最適な方法を見つけるためには、税務や法務に関する専門的な知識が求められます。税制適格合併の要件を満たせなくなる場合もあるため、M&Aに詳しい専門家に相談しましょう。
端数処理などの調整を行う
合併比率を計算した場合、端数が出る場合があります。合併比率に端数が出ると、株主が保有する株式にも端数が出てしまうため調整が必要です。ここでは、合併比率に端数が出た場合の対処法を2つ説明します。
合併比率を調整する
端数が生じる場合は、企業価値を算定する段階で合併比率を調整します。注意すべき点は、企業価値の算定をしなおした場合、合併比率も変わってしまうケースがあることです。株主の損得に影響を及ぼすことから、慎重に行わなければなりません。
企業価値を適切に算定するためには、税理士や会計士などの専門的な知識が必要です。専門家に算定を依頼し、適切な数値を出せるようにしましょう。
株式数で調整を行う
小数点や端数が出てしまった場合、株式分割や株式併合といった方法で調整できます。たとえば株式分割で1株を10分の1に、また株式併合で10株を1株にすることで端数をなくせる場合があります。
合併比率を決める際の注意点
合併比率を決める際には、次の2つに注意しましょう。
- 株主の財産が変化しないようにする
- 債務超過している企業は合併比率の算出方法が変わる
それぞれの注意点に関して、解説します。
1.株主の財産が変化しないようにする
合併比率は、合併後の株主の財産が変わらないように決めることが大切です。合併の際に、時価の異なる株式を1:1で交付すると不公平が生じます。そのため合併の際には、合併する側とされる側の財産に変化が生じないように慎重に調整しましょう。
また合併される側の株主が、合併により持分が増えると贈与税が発生する点にも注意が必要です。合併後に双方から不満が噴出しないように、細心の注意を払いながら合併比率を決めなければなりません。
2.債務超過している企業は合併比率の算出方法が変わる
債務超過している企業は、合併比率の計算方法が変わるため注意しましょう。債務超過している企業は、株式の価値が実質的にない状態です。負債が資産を上回っていることから、株価は実質的に0円と扱われます。
注意点は、比率が「1:0」のようになってしまうと、無対価合併になってしまうことです。無対価合併とは、合併後に株式や金銭などを交付しない合併のことです。
無対価合併の場合、適格合併の要件を満たしません。適格要件とみなされるためには、「合併される側の会社の株主に合併する側の会社の株式など以外の資産が交付されない」「合併する会社の合併事業と、合併される会社の被合併事業が相互に関連している」などを満たさなければならないからです。適格合併ではない場合、税制上のメリットを受けられません。
さらに、債務超過企業は、繰越欠損金を合併会社に引き継げます。しかし、適格合併ではない場合、繰越欠損金の引継ぎができません。
適格合併を行うためには、「1000:1」のように極端に小さな割合で設定します。たとえば、債務超過企業の株を1000持っていても、合併後の会社の株を1株しか交付せずに済むからです。小さな割合にしてしまえば、適格合併を適用できます。また、株主への影響も抑えられるメリットがあります。
合併比率の事例10選
ここでは、以下の10例を取り上げて、合併の背景や合併比率をご紹介します。
- マルハニチロHDとマルハニチロ水産の事例
- 日本製紙グループ本社と日本製紙の事例
- 日本創発グループとグラフィックグループの事例
- 新日本製鐵と住友金属工業の事例
- 山之内製薬と藤沢薬品の事例
- ファミリーマートとユニーグループHDの事例
- 片倉チッカリンとコープケミカルの事例
- 第一三共とサン・ファーマの事例
- サイバーリンクスとニュートラルの事例
- ソフトバンクと子会社4社の事例
それぞれの事例について、詳しく見ていきましょう。
1.マルハニチロHDとマルハニチロ水産の事例
2014年、マルハニチロHDとマルハニチロ水産は、マルハニチロ水産を存続会社として吸収合併を行うと発表しました。新会社の名称は、マルハニチロ株式会社です。合併にあたり、マルハニチロHDの10株をマルハニチロ株式会社の1株に割り当てるとしています。
この合併により、よりシンプルな体制のもとで経営の合理化や効率化が見込めるとしています。
業種 | 合併比率 | 合併目的 |
水産 | マルハニチロHD:マルハニチロ水産=1:10 | 経営の合理化や効率化 |
参照元:株式会社マルハニチロホールディングス「株式会社マルハニチロ水産との合併に関するご案内」
2. 日本製紙グループ本社と日本製紙の事例
2012年、日本製紙グループ本社は、完全子会社である日本製紙を存続会社として合併しました。日本製紙グループ本社の普通株式1株に対して、日本製紙の普通株式1株を割り当てています。日本製紙を存続会社としたのは、各種許認可などを継続し、事業活動への影響を最小限にするためです。
この合併により、包装素材分野や紙器パッケージ分野およびバイオケミカル分野などの成長分野事業に注力できるとしています。
業種 | 合併比率 | 合併目的 |
紙・パルプ事業 | 日本製紙グループ:日本製紙=1:1 | 成長分野事業への注力 |
参照元:日本製紙株式会社「当社連結子会社日本製紙との合併契約の締結、ならびに日本製紙と当社連結子会社日本大昭和板紙、日本紙パックおよび日本製紙ケミカルとの合併契約の締結に関するお知らせ」
3. 日本創発グループとグラフィックグループの事例
2017年、日本創発グループとグラフィックグループは合併を発表しました。グラフィックグループは、商業印刷会社の日経印刷の完全親会社です。今回の合併により、日経印刷は、日本創発グループの傘下に入ることになります。
日経印刷は、高度な情報管理を有しており、教育や金融、各省庁の白書などを発行している会社です。この合併により、経営資源の共有が可能となり、製造効率や品質の向上が期待できるとしています。
日本創発グループとグラフィックグループの合併比率は、次のとおりです。
業種 | 合併比率 | 合併目的 |
印刷業 | 日本創発グループ:グラフィックグループ=1:6 | 経営資源の共有や企業価値向上 |
参照元:株式会社日本創発グループ「グラフィックグループ株式会社の株式取得及び吸収合併による日経印刷株式会社の完全子会社化に関するお知ら」
4. 新日本製鐵と住友金属工業の事例
2012年、鉄鋼業界で国内トップの新日本製鐵と3位の住友金属工業が合併し、粗鋼生産世界2位となる新日鐵住金株式会社が誕生しました。
この合併は、経営資源の集約と得意領域におけるシナジー、世界的な鉄鋼需要の増大への対応、グローバル市場の競争力強化を目的として実施されました。
この合併における合併比率は、次のとおりです。
業種 | 合併比率 | 合併目的 |
鉄鋼業 | 新日本製鐵:住友金属工業=1:0.735 | 経営資源の集約化や競争力の強化 |
参照元:日本製鉄株式会社「沿革」
5. 山之内製薬と藤沢薬品の事例
2005年、山之内製薬と藤沢薬品が合併し、アステラス製薬株式会社が誕生しました。山之内製薬は、研究開発力に強みを持つ会社です。一方、藤沢薬品は、苦労して米国事業を立ち上げた歴史を持ちます。
両社は、主力製品が重複していないことや、これから米国事業に注力したいことなどを理由に合併しました。今後は、優れた研究開発力や自社販売力をもとに、世界の医薬品市場で戦える競争力を有した会社を目指すとしています。
この合併における合併比率は、以下のとおりです。
業種 | 合併比率 | 合併目的 |
医薬品 | 山之内製薬:藤沢薬品=1:0.71 | 研究開発力の向上や米国での事業展開 |
参照元:アステラス製薬株式会社「会社沿革」
6. ファミリーマートとユニーグループHDの事例
2016年、ファミリーマートとユニーグループHDは合併し、ユニー・ファミリーマートホールディングス株式会社が誕生しました。ファミリーマートは、ユニーグループHDが運営するスーパーの獲得を目的として、合併について話し合いを進めてきました。
小売業界では競争が一層激しくなっているため、この合併により経営資源を集約できれば、競争力を強化できるとしています。
合併比率の算出には、株式市価法やDCF法が使われています。合併比率は、次のとおりです。
業種 | 合併比率 | 合併目的 |
小売業 | ファミリーマート:ユニーグループHD=1:0.138 | 競争力の強化 |
参照元:株式会社ファミリーマート「株式会社ファミリーマートとユニーグループ・ホールディングス株式会社の経営統合に向けた基本合意書締結に関するお知らせ」
7. 片倉チッカリンとコープケミカルの事例
2015年、丸紅系の片倉チッカリンは化学肥料大手のコープケミカルを吸収合併すると発表しました。新会社の名称は、片倉コープアグリです。両社の合併比率は、片倉チッカリン:コープケミカル=1:0.275です。合併比率の算定は、第三者の算定機関に委託する形で行われました。
片倉チッカリンは、果樹・園芸用有機複合肥料を得意とする会社です。一方、コープケミカルは米麦向け化学肥料に強みを持ちます。両社が合併することにより、ほぼすべての営農類型をカバーする日本最大の肥料会社が誕生しました。
農家の減少が加速するなか、合併により規模拡大することで競争力の強化を見込めるとしています。
業種 | 合併比率 | 合併目的 |
化学 | 片倉チッカリン:コープケミカル=1:0.275 | 事業領域の拡大 |
参照元:片倉コープアグリ株式会社「吸収合併にかかる事後開示書面」
8. 第一三共とサン・ファーマの事例
2015年、インド後発医薬品大手のサン・ファーマは、第一三共の子会社である同業のランバクシー・ラボラトリーズを吸収合併しています。ランバクシー・ラボラトリーズもインドの後発医薬品メーカーですが、ずさんな管理体制が発覚し経営状況の悪化に苦しんでいました。
この合併で、第一三共はグループのお荷物会社となっていたランバクシー・ラボラトリーズを手放すことができました。当時、合併のニュースは市場において好材料として捉えられ、第一三共の株価は3.3%上昇という結果を残しています。
両社の合併比率は、次のとおりです。
業種 | 合併比率 | 合併目的 |
医薬品 | ランバクシー・ラボラトリーズ:サン・ファーマ=1:0.8 | 事業規模の拡大 |
参照元:第一三共株式会社「サン・ファーマと当社子会社のランバクシーの合併完了に関するお知らせ」
9. サイバーリンクスとニュートラルの事例
2015年、サイバーリンクスはニュートラルとの合併を発表しました。サイバーリンクスは、基幹業務システムなどのクラウドサービスや移動体通信機器の販売をメインとする会社です。一方、ニュートラルは、流通小売業や流通卸売業およびメーカー向けのインターネットEDIシステムの販売を手がけています。
この合併により、サイバーリンクは主力事業の拡大以外にも、ニュートラルのノウハウを活かし小規模卸売業やメーカーへのEDIサービスの展開をはじめ、食品流通業界における製造・物流・販売を結ぶ情報交換プラットフォームの構築を目指すとしています。
両社の合併比率は、次のとおりです。
業種 | 合併比率 | 合併目的 |
情報・通信業 | サイバーリンクス:ニュートラル=1:19 | EDIサービス展開の強化 |
参照元:株式会社サイバーリンクス「会社合併のご挨拶」
10. ソフトバンクと子会社4社の事例
2015年、ソフトバンクは、子会社であるソフトバンクモバイルとソフトバンクBB、ソフトバンクテレコム、ワイモバイルの4社を合併すると発表しました。この合併では、ソフトバンクモバイルが存続会社として残っています。
4社はこれまで、それぞれが持つ通信ネットワークや販売チャネルなどの相互活用を図ってきました。この合併により、各社が持つ経営資源を集約し、国内通信事業の一層の強化が見込めるとしています。
4社の合併比率は、次のとおりです。
業種 | 合併比率 | 合併目的 |
情報・通信業 | ソフトバンクモバイル:ソフトバンクBB:ソフトバンクテレコム:ワイモバイル=1:0.0468:0.2761:0.7600 | 経営資源の集約化 |
参照元:ソフトバンク株式会社「合併に関するお知らせ」
まとめ
合併比率とは、合併される会社の株主に対して、保有する株式に応じて割り当てられる存続会社や新設会社株式の比率のことです。合併においては、株主に不公平が生じないように、時価に応じた合併比率を決める必要があります。合併比率は客観性が求められるため、専門家への依頼が欠かせません。
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