このページのまとめ
- 事業譲渡契約書は事業譲渡を行う際に必要になる契約書
- 事業譲渡契約書はトラブル防止のために重要
- 事業譲渡契約書には譲渡する資産や遵守事項を記載する
- 事業譲渡契約書に取り決めた内容が反映されているか確認する
- 事業譲渡契約書を作成する際は必ず専門家に確認してもらう
「事業譲渡契約書を作成したい」「契約書に記載する内容を知りたい」と考えている経営者も多いことでしょう。契約を成立させるためには、取り決めた内容を正確に反映し、正しい契約書を作ることが必要です。
本コラムでは、事業譲渡契約書に必要な記載項目や、作成時の注意点を解説します。トラブルなく契約を成立させるためにも、参考にしてください。
目次
事業譲渡契約書とは
事業譲渡契約書とは、M&Aスキームの一種である「事業譲渡」を行う際に使用する契約書です。事業譲渡で引き継ぐ資産や契約にあたっての遵守事項、従業員の雇用条件などを記載します。契約書に不備があるとトラブルが起きてしまうため、不備や見落としがないように注意しなければなりません。
事業譲渡とは
事業譲渡とは、事業の一部、または全部を譲渡するM&Aスキームのことです。会社分割や株式譲渡とは異なり、譲渡対象の資産を自由に選択できる特徴があります。たとえば、必要な資産だけを取得し、不要な資産は引き継がないように選ぶこともできます。
しかし、ほかのスキームと比べて手続きが大変な点はデメリットです。譲渡する資産や契約に関しては、個別で一つずつ契約を結ばなければならないからです。M&Aスキームを決める際には、メリットデメリットを比較して、最適なものを選びましょう。
株式譲渡との違い
株式譲渡とは、譲渡対象になる会社が持つ株式を買い手に譲渡するM&Aスキームです。事業譲渡とは異なり、会社全体を譲渡する特徴があります。そのため、株式譲渡は必要な資産だけではなく、負債などの不要な資産も引き継がなければなりません。
また、株式譲渡の場合、譲渡企業の経営権がなくなる点も異なっています。事業譲渡では譲渡を行っても、経営権は残ります。
関連記事:M&Aにおける事業譲渡とは?メリット・デメリット、手続き・ポイントなどを解説
事業譲渡契約書が必要な理由
事業譲渡契約書が必要な理由は、次の2点です。
- 事業譲渡時のトラブルを防ぐため
- 競業避止義務の認知と了承を得るため
それぞれの理由に関して解説します。
事業譲渡時のトラブルを防ぐため
事業譲渡契約書が必要な理由は、事業譲渡で発生するトラブルを防ぐためです。契約が成立しても、譲渡後に起こるトラブルがあるため注意しましょう。たとえば、次のようなトラブルに注意が必要です。
- 未払いの債務に関する支払い請求
- Webサイトの権利主張
それぞれに関して解説します。
未払いの債務に関する支払い請求
事業譲渡を行う場合、買い手に債務を譲渡できない場合があります。買い手に債務を引き継いでもらえない場合、売り手に債務が残るため、対応しなければなりません。たとえば、未払いの債務が残っている場合は、事業譲渡後も債権者への支払いが必要です。
未払いの債務のトラブルを起こさないためには、事業譲渡契約書に債務に関して記載しましょう。事業譲渡を行ったあとでも、未払いの債務を買い手に請求できる旨を記載します。契約書に記載しておくことで、事業譲渡後の債務の支払いを回避できるようになります。
Webサイトの権利主張
Webサイトを譲渡した場合、著作権や著作人格権に注意しましょう。著作人格権とは、Webサイトを作成した人の人格を守る権利のことです。著作物とは異なり、譲渡ができません。
事業譲渡を実施しても、著作者が権利を主張した場合には、買い手は著作物の使用や変更ができなくなります。トラブルを防ぐために、著作人格権を行使しないことを事業譲渡契約書に示しておきましょう。
著作人格権には、Webサイトのデザインや記事、設計などが含まれます。Webサイトを譲り受ける際には、作成者が誰かを確認しておきましょう。
競業避止義務の認知と了承を得るため
競業避止義務の認知と了承を得るためにも、事業譲渡契約書が必要です。会社法第21条で競業避止義務が定められており、定めておく必要があります。
競業避止義務とは、事業譲渡を実施した場合、「売り手は同じ市長村や近隣の市町村で、20年間は同じ事業を行ってはならない」と定めたものです。売り手は事業を譲渡しても、事業に関するノウハウや技術を持っています。買い手の近くで同じ事業を始めてしまい、買い手の売り上げなどに影響が出ることを抑えるためです。
ただし、競業避止義務に関しては、買い手の同意により地域や期間の変更が実施できます。たとえば、競業避止の範囲を市町村ではなく都道府県まで広げたり、期間を30年のように長い期間まで伸ばしたりが可能です。
参照元:e-Gov法令検索「会社法第21条」
事業譲渡契約書に記載する事項
事業譲渡に記載する事項に関して確認しておきましょう。事業譲渡契約書には、次のような内容を記載します。
- 契約者
- 事業譲渡に対する合意
- 効力発生日
- 譲渡資産の特定
- 公租公課の負担
- 事業譲渡の対価
- 書類の交付時期
- 財産の移転時期
- 転籍など従業員に関する取り決め
- 表明保証
- クロージング前の遵守事項
- クロージング後の遵守事項
- 補償
- 契約解除
- 協議条項
- 適用する法律と管轄の裁判所
- 署名
それぞれの項目に関して解説するため、事業譲渡契約書作成の参考にしてください。
1.契約者
契約書の冒頭には、契約者を記載しましょう。買い手と売り手両方の企業名を記載します。
たとえば、「株式会社〇〇と株式会社△△は、次のとおり事業譲渡契約を締結する」のように記載しましょう。
2.事業譲渡に対する合意
売り手から買い手に対し、譲渡する事業を明確に示しましょう。たとえば、「甲が営む〇〇事業」のように、明確に指定するようにしてください。
3.効力発生日
事業譲渡の効力発生日も記載しましょう。事業譲渡を実施する場合、効力発生日の前日までに、株主総会で承認を受ける必要があるからです。
4.譲渡資産の特定
譲渡資産を正確に記載しましょう。不備がある場合、契約成立後に損害賠償請求などのトラブルが発生する可能性もあります。譲渡資産に関しては、項目ごとに目録を作りましょう。「譲渡資産」「事業に関する契約」「従業員の雇用」などの項目に分類します。
ここでは、「対象の資産」「対象の債務」「対象の契約」の3つに関して、詳しく説明します。
対象の資産
譲渡の対象になる資産には、備品や設備、車両、機械などが挙げられます。事業譲渡契約書には、引き継ぐ資産とともに、不動産の移転登記や登記手続き、登録免許税の費用負担に関して記載しましょう。また、買い手と売り手のどちらが、対抗要件の具備と税金を請け負うかも記載します。
また、著作物の譲渡が行われる場合には、譲渡後のトラブル防止のために、著作人格権を行使しない旨を記載する必要もあります。
対象資産の目録に関しては、次のような内容を明記しましょう。
- 預金額
- 固定資産
- 流動資産
- 知的財産権
買い手は引き継ぐ資産を明確にし、売り手は譲渡する資産を明確にしてください。
対象になる資産が多い場合、「〇〇に関するすべての資産」と明記し、注釈を残すようにします。「ただし、〇〇は除く」と記載し、一部の資産は譲渡しないことを明記しましょう。
対象の債務
譲渡対象の債務には、固定負債と流動負債があります。固定負債とは、1年以上の長期にわたって返済する債務のことです。未払金や社債、請求費用がある保証金などが該当します。
流動負債とは、1年以内に返済する負債のことです。買掛金や未払金、リース債務などが該当します。
債務を譲渡対象にする場合は、債権者への通知や承認が必要です。また、債務の種類も確かめておきましょう。債務のなかには譲渡が認められないものもあるため、債権者と売り手で結ばれた契約を確認する必要があります。売り手の経営者が連帯保証を持っている場合は、契約後に解除し、買い手に引き継ぐ条項も必要です。
対象債務の目録は、固定債務と流動債務を分けて記載します。資産と同様に、「〇〇に関するすべての負債」と記載してください。引き継がない負債に関しては、「ただし、〇〇は除く」と記載しましょう。
対象の契約
譲渡対象になる契約には、取引先との契約や、建物の賃貸借契約があります。事業譲渡の場合、事業譲渡契約書を締結しても取引先などの契約は引き継がれません。個別に再契約を実施する必要があります。買い手は契約書に、契約先の承認を得る旨を記載しましょう。
また、契約先の承認が得られなかったケースに備えて、契約書を取り交わす前に報告や対応を行うことを記載しましょう。
さらに、事業譲渡契約書とは別に、契約上の地位の承継が必要です。売り手と買い手と、契約先の三者で行いましょう。取引先ごとに契約書を用意し、事業譲渡契約書の添付書類として交付します。
5.公租公課の負担
公租公課とは、国に納める税金や保険料のことです。たとえば、次のような税金を指します。
- 固定資産税
- 事業税
- 自動車税
- 雇用保険
- 社会保険
公租公課の負担は、譲渡日より前は売り手、譲渡日よりもあとは買い手になります。負担する金額を日割りで計算し、支払う額を明記しましょう。
また、間違って取引相手が負担すべき金額を払ってしまうこともあります。自社の負担が増加しないように、取引相手に清算を求められる内容も記載しましょう。
6.事業譲渡の対価
事業譲渡で支払う金額と、振込先の銀行口座を記載しましょう。振込手数料に関しては、買い手が負担するケースが一般的です。認識違いを避けるためにも、振込手数料の支払いに関しても記載しておきましょう。
また、代金の支払いが証明できるように、売り手が領収書を発行する旨も記載しましょう。
7.書類の交付時期
事業譲渡で使用する書類がある場合には、交付時期を明記しましょう。必要になる書類には、次のような書類があります。
- 取締役会・株主総会の議事録(事業譲渡を承認したもの)
- 免責登記の書類
- 売り手の商業登記簿謄本
また、基本的には、書類の交付日は譲渡日に設定されます。
8.財産の移転時期
財産の移転時期も明記しましょう。譲渡日を移転時期にするケースや、譲渡日から30日以内と定めるケースがあります。
また、手続きに関しても、売り手に財産の引継ぎに関する手続きのみを求めるケースと、手続き費用を含めるケースがあります。
当事者間で話し合い、移転時期と移転手続きに関して明記しましょう。
9.転籍など従業員に関する取り決め
転籍などを行う従業員に関する取り決めも記載しましょう。事業譲渡では、売り手の従業員が買い手に自動的には引き継がれないためです。買い手に引き継がれる従業員を特定し、該当の従業員と個別に契約を結びなおさなければなりません。
まずは、買い手に転籍する従業員を特定し、別紙に掲載しましょう。合わせて、買い手は売り手に対し、転籍する従業員から「転籍同意書」を取得する努力義務を課します。
事業を行うために欠かせないキーパーソンに関しては、「事業譲渡を行うための前提条件として転籍同意書の取得が必要になる」旨を記載するなどの対応も求められます。
10.表明保証
表明保証とは、対象企業の財務や法務に関する事項が正確かつ真実であると表明し、保証するものです。事業譲渡契約書の締結日と譲渡日に取り上げる事項が、正しいことを表明します。
売り手側の場合には、次のような内容を保証しましょう。
- 事業譲渡契約書締結に関する手続きをすべて終えている
- 事業譲渡契約は、社内の規定や法律、第三者と交わした契約に反しない
- 現時点で契約に影響をおよぼす司法・行政手続きがなく、今後も発生見込みはない
買い手の場合には、次のような内容を保証します。
- 買い手は日本の法律に従い、今も事業を続けている
- 事業に必要な権利と働きを所持している
- 契約に見合った権利・機能を備え自社が果たす手続きを終えている
- 契約には法的拘束力があり強制執行が実施できる
- 契約は買い手の定款や法律、売り手側と取引先との契約に反しない
- 買い手は倒産の手続きを踏んでおらず、手続きを始める要因もない
- 買い手は債務超過や不払いの恐れがなく、財務状況は安定している
- 買い手は反社会的勢力に属しておらず、関係性を持たない
表明保証は、個別の内容に対して行う場合もあります。その場合は、別紙に目録を設け、細かな表明保証を記載しましょう。
11.クロージング前の遵守事項
事業譲渡締結から譲渡日までには、一定の期間があります。クロージング前の遵守事項では、譲渡が問題なく実施できるように、買い手から売り手に対して遵守を求める事項を記載するケースが一般的です。
たとえば、譲渡日までに取引相手に行ってもらう事項を記載しましょう。「債務を承継するために債権者の承諾を得る」「資産を引き継ぐために手続きを行う」などが挙げられます。
また、売り手が対象事業の状態を変更しないように求めることもあります。状態が変わることで、買い手が想定していた事業譲渡の目的が達せないケースも発生するからです。「買い手の許可なく、事業に影響を与える行動をしない」「事業に重大な影響が発生した場合は報告する」などの記載が必要です。
12.クロージング後の遵守事項
クロージング後にも、遵守事項を定めておきましょう。取引相手の行為によって、事業譲渡の目的が達成できなくなる恐れがあるからです。
たとえば、買い手は引き継いだ従業員の雇用を守るように定められます。売り手に関しては、競業避止義務やキーパーソンの引き抜き防止が定められるでしょう。
競業避止義務に関しては、会社法で規定されている内容とは異なる内容で、契約を結ぶことができます。競業避止義務の期間と範囲は変更可能なため、今後の事業展開を想定しながら、定めるようにしましょう。
13.補償
契約違反や表明保証違反が生じた場合に備えて、損害に対する補償を受けられるよう規定しましょう。買い手と売り手で交渉し、条件を定めます。
買い手の場合は、売り手の補償範囲を制限せず、被った損害の補償を求めるケースが一般的です。一方で、売り手は補償額に上限を求めたり、補償請求の期間制限を求めて交渉を行うケースが一般的になります。
14.契約解除
契約の不履行が合った場合には、契約解除が可能です。しかし、事業譲渡では事業譲渡後の契約解除を認めてしまうと影響が大きいことから、事業譲渡前までの契約解除を定めるケースが一般的になります。
解除に関しては、法を介した破産手続きと、表明保証違反に関して記載しましょう。たとえば、次のような内容を定めます。
- 譲渡日までに譲渡条件が満たされない場合、相手に通知を行うことで契約解除ができる
- どのような理由がある場合でも、対価の支払いや事業の引き渡し後に契約解除はできない
- 表明保証違反があり、遵守を促したにもかかわらず実行されない場合、相手方に書面を送ることで契約解除ができる
ただし、譲渡日までに定めた条件を満たせない場合もあります。やむを得ない場合、譲渡日が変更できる旨を記載しても良いでしょう。
15.協議条項
協議事項とは、契約に定めていない内容や、疑問が起きた場合の協議に関して記した事項です。問題が起きた場合には、当事者間で協議を行い、解決する旨を記載します。
16.適用する法律と管轄の裁判所
適用する法律と管轄の裁判所も記載しましょう。日本の場合には、「日本法に準拠する」と記載し、契約を解釈する法律を明確にします。
また、トラブルが起きた場合に備えて、管轄の裁判所も決めておきましょう。「〇〇裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする」のように記載します。
17.署名
署名には、「日付」「会社名」「代表者名」「会社の住所」を記載しましょう。売り手と買い手両方の情報を記載します。
また、押印した事業譲渡契約書を双方が1通ずつ保管する旨も明記しましょう。
事業譲渡契約書を作成する6つのポイント
事業譲渡契約書を作成する際のポイントは、次の6つです。
- 契約書は自社で作る
- 取り決めの内容が反映されているか確認する
- 対価の支払い額は明記する
- 法令上の規定に配慮する
- 商号続用時の免責登記を加える
- 従業員の処遇次第で対応を変える
トラブルを防止し、スムーズな契約を行うためにも参考にしてください。
1.契約書は自社で作る
契約書に関しては、自社で作るようにしましょう。契約書の作成を行うことで、事業譲渡契約の主導権を握りやすくなるからです。契約書の作成に関しては、契約自由の原則により、買い手と売り手のどちらが作成しても良いと定められています。
しかし、契約書の原案に不備があったり、質が悪かったりしてしまうと、主導権を握り返されてしまいます。取引相手からより良い原案を出されてしまうと、相手優位の交渉になってしまうかもしれません。
契約書作成には、雛形を使うことも有効です。ただし、譲渡する資産に応じて内容は変更してください。雛形をそのまま使用してしまったことで、譲渡対象の資産が含まれていなかったり、履行できない義務を課してしまったりするからです。
また、別紙を用意し、目録を作成しても良いでしょう。確認がしやすくなり、見落としが少なくなります。
契約書を作成したら専門家にアドバイスをもらう
契約書の質を高めるためには、専門家にアドバイスをもらうことが大切です。原案を作成したら、M&A仲介会社などの専門家に相談しましょう。
事業譲渡に応じて、譲渡対象になる資産や取引、契約は変わります。不備があるとトラブルや損害賠償請求のもとになってしまい、不利益が生じてしまうでしょう。自社だけで完成させようとせず、必ず専門家に相談してください。
2.取り決めの内容が反映されているか確認する
契約書に取り決めの内容が反映されているか確かめましょう。お互いに不利益が生じないように、対象の資産や事業、移転時期などを明記します。
たとえば、譲渡する事業や資産は1つずつ記載しましょう。不要な事業や資産を継承しないように、記載しなければなりません。譲渡対象が多い場合には、「ただし、〇〇は除く」と明記すると良いでしょう。
また、財産を移転させる時期や手続きに関しても明記してください。事業に必要な特許や設備などが移転されなければ、事業の開始に支障が出てしまうからです。
財産を移転する日までに、承認や引き渡し、登記などの手続きは終わらせておきましょう。買い手は財産を受け継いでも、対抗要件の具備がなければ権利を主張できないため注意してください。
3.対価の支払い額は明記する
事業譲渡で支払う対価の額は明記しましょう。支払日や支払い方法、振込手数料の負担も記載します。
また、財産評価に関しても記載しましょう。事業譲渡では、契約書締結から譲渡日まで一定期間があります。そのため、譲渡対象の価値が、譲渡日までに下がってしまうこともあります。適正価格で取引を行うのであれば、譲渡日までに財産評価を行うことを記載してください。
適正価格で取引を行いたい場合は、契約時に一定の金額を支払い、譲渡日に残りの金額を支払うことで対応できます。その際、自社にとって有利な評価を得る目的で、何度も財産評価を行わないように回数を制限させましょう。財務評価を求めた側に費用負担をさせるように記載すれば、有利な評価を受ける目的で財務評価を実施するケースを避けられます。
財産評価の保証
買い手の場合は、財務評価の保証に関しても記載しましょう。保証条項を記載すれば、売り手が財産評価に使用したデータの正確性が保証できます。
もし、評価に使用したデータに偽りがあった場合には、契約解除や契約内容の変更が可能です。
4.法令上の規定に配慮する
法令上の規定では、次の2点に配慮しましょう。
- 事業譲渡に関する手続き
- 競業避止義務
それぞれの規定に関して解説します。
事業譲渡に関する手続き
事業譲渡を行う際は、法律に従って実施する必要があります。たとえば、株式の買取請求に対応したり、株主総会や取締役会で承認を得なければなりません。
また、企業によっては、独占禁止法に従い事業の譲受を報告したり、禁止期間は譲受を控えたりと、公正取引に対する配慮も求められます。
トラブルを避けるためには、契約書に保証条項を設けましょう。事業譲渡に関する手続きを記載し、認識の違いを防ぐことが求められます。
競業避止義務
事業譲渡契約書では、競業避止義務を記載します。競業避止の範囲と期間は当事者の事業に影響を与えます。
特別な規定がない場合、競業避止期間は20年、事業活動禁止の範囲は同市町村と近隣の市町村です。お互いの経営方針を考慮し、事業に影響が出ないよう範囲と期間を決めましょう。
5.商号続用時の免責登記を加える
商号続用とは、買い手が売り手の商号を引き継ぐことです。商号続用を行う場合、買い手は売り手の債務を引き継がなければなりません。
しかし、買い手は債務を負いたくない場合も多く、その場合には債務の弁済を避ける免責登記が実施できます。
免責登記を行う際には、事業を譲り受けたあとに債務を弁済しない旨を、本店所在地で登記します。買い手が免責登記を希望する際には、事業譲渡契約書に免責登記に関する事項を加えましょう。
6.従業員の処遇次第で対応を変える
従業員の処遇次第で、対応を変えられるように準備しましょう。事業譲渡契約の場合、従業員の処遇は次の3種類が想定されます。
- 従業員をそのまま買い手に引き継ぐ
- 雇用契約を再締結する
- 従業員を承継しない
それぞれの処遇に関して、解説します。
1.従業員をそのまま買い手に引き継ぐ
従業員をそのまま買い手に引き継ぐ場合、従業員の同意が必要です。契約書には、譲渡日までに従業員の同意を得る旨を記載しましょう。
また、買い手に転籍するため、従業員の労働環境も変わります。買い手での処遇に関しても記載しましょう。
2.雇用契約を再締結する
従業員を引き継ぐ場合、雇用契約を再締結する方法もあります。売り手は契約を解除し、買い手は契約を結びましょう。再契約を行う場合も、従業員の同意が必要になります。
再契約を行う場合、事業譲渡契約書には、売り手が雇用契約を解除し、再契約の同意を得ることを記載しましょう。
さらに、再締結を行う場合には、給与の未払いや退職金、有給休暇などの対応が必要です。買い手と売り手のどちらが対応するかを契約書に記載しましょう。
3.従業員を承継しない
従業員を継承しない場合、「転属」「出向」「解雇」の選択肢があります。転属とは配置転換と同様の意味であり、従業員を別の事業所に異動させ、雇用を続けることです。
出向の場合は、売り手と雇用契約を維持したまま、勤務先が買い手になります。従業員は売り手に雇用されていることから、給与の支払いは売り手です。ただし、業務の命令権は買い手になります。
解雇の場合、従業員は退職になります。その際、買い手と従業員のトラブルが予想されるでしょう。買い手がトラブルを避けるためには、雇用関係や雇用契約はすべて引き継がないことを契約書に明記する必要があります。
事業譲渡契約書のひな形を使う場合の注意点
Webサイトなどで公開されている事業譲渡契約書を使う場合、契約に必要な記載内容があるか確かめましょう。契約書は実施する契約の内容をカバーしなければなりません。内容に記載漏れがあるせいで効力を発揮しなかったり、記載があるせいで想定外の状況を引き起こす場合があったりするからです。
特に、事業譲渡のような契約は重要であり、さまざまなパターンもあります。ひな形を参考にする際には、
- 契約内容に沿った内容か
- 必要事項が記載されているか
- 契約内容と食い違っていないか
などは必ず確認してください。
海外企業と事業譲渡を行う場合の注意点
近年では、海外企業と事業譲渡を行う企業も増えています。グローバル化を果たすためにM&Aを行う日本企業もあれば、海外企業が日本に展開する目的で事業譲渡を行うケースもあるでしょう。
海外の企業と事業譲渡を行う場合には、相手企業の法律にもとづいて事業譲渡を行うケースに注意しましょう。日本の法律と合致しない部分もあります。
たとえば、日本とは異なり、株主総会決議を行わずに事業譲渡が実施できる国もあります。しかし、海外企業主導で進めた結果、日本では有効な契約と認められない場合もあるでしょう。
また、独占禁止法のように、それぞれの国の法規制に従わなければならないケースもあります。さらに、トラブルが起きた場合、どの国の裁判所で、どの国の法律で判断するかも問題です。
海外企業と事業譲渡を行う場合は、日本企業とは異なる観点で実行しなければなりません。海外企業とのM&Aに詳しい専門家に相談しましょう。
事業譲渡契約書では収入印紙が必要
事業譲渡契約書では、収入印紙が必要になります。収入印紙を購入し、契約書に貼り付けることで、印紙税を収めた証明になるからです。
ただし、収入印紙を貼るだけでは、印紙税を納めた証明にはなりません。貼り付けた収入印紙には、消印が必要になります。署名、または印章を押すことで対応してください。
署名を行う人物に関しては、特に定められていません。国税庁によると、「文書の作成者または代理人、使用人、そのほかの従業者」で良いとされています。また、署名は1人で良く、取引をした両者の署名は不要です。
参照元:国税庁「印紙の消印の方法」
消印が認められない場合に注意する
次の状況では、消印が認められないため注意しましょう。
- 単に「印」と書いたり、斜線を引いただけの場合
- 印章と署名が文書と彩紋に掛かっていない場合
- 鉛筆のように簡単に消せるもので署名した場合
彩紋とは、偽造防止のために書かれた模様のことです。彩紋と契約書に掛かるように、消印を行いましょう。
印紙税を納めないと追徴課税が起こる
事業譲渡契約書を作成するまでに印紙税を納めない場合、追徴課税が発生します。追徴課税は本来納めるべき金額の3倍になるため、注意しましょう。ただし、国の調査が実施される前に印紙税を納めていないことを申し出れば、追徴課税は1.1倍になります。
また、間違った方法で収入印紙を貼った場合、同じ金額の収入印紙が必要になります。不備があるとコストが追加で掛かってしまうため、間違いのないように納付しましょう。
収入印紙の金額
収入印紙の金額は、契約書に書かれた取引額に応じて変わります。次の表を参考にしてください。
取引金額 | 印紙税 |
契約金額の記載のないもの | 200円 |
1万円未満 | 非課税 |
10万円以下 | 200円 |
10万円を超え50万円以下 | 400円 |
50万円を超え100万円以下 | 1,000円 |
100万円を超え500万円以下 | 2,000円 |
500万円を超え1,000万円以下 | 1万円 |
1,000万円を超え5,000万円以下 | 2万円 |
5,000万円を超え1億円以下 | 6万円 |
1億円を超え5億円以下 | 10万円 |
5億円を超え10億円以下 | 20万円 |
10億円を超え50億円以下 | 40万円 |
50億円を超えるもの | 60万円 |
また、収入印紙はコンビニエンスストアや郵便局、法務局などで購入できます。コンビニエンスストアは少額のみの扱いが多いため、郵便局や法務局で購入すると良いでしょう。
引用元:国税庁「No.7140 印紙税額の一覧表(その1)第1号文書から第4号文書まで」
まとめ
事業譲渡を行う際には、事業譲渡契約書が欠かせません。契約書に必要になる項目は、確認しておきましょう。事業譲渡で譲渡する資産や契約によっても内容が変わるため、契約内容と契約書に齟齬がないか確かめることも大切です。
契約書に関しては、自社で作成も可能です。ただし、契約書に不備があるとトラブルにつながるため注意しましょう。自社で作成する場合にも、専門家に相談し、契約書に不備がないか確かめてもらうことが欠かせません。
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