第三者割当増資とは?メリットや方法・流れをわかりやすく解説

2024年2月13日

第三者割当増資とは?メリットや方法・流れをわかりやすく解説

このページのまとめ

  • 第三者割当増資とは、特定の第三者に対して新株を割り当てる増資
  • 第三者割当増資のメリットは、返済義務を負わずに資金調達できる点など
  • 第三者割当増資のデメリットは、保有割合が低下する株主との関係が悪化しうる点など
  • 第三者割当増資で有利発行する際は、株主総会の特別決議が必要な点に注意が必要
  • 第三者割当増資以外にも、無償増資や銀行借入などでM&A資金の調達は可能

第三者割当増資を検討するにあたって、「公募増資でなくてもよいか?」と悩んでいる方もいるのではないでしょうか。第三者割当増資は、特定の第三者に割り当てる手法である点が公募増資との違いです。

本記事では、第三者割当増資のメリットとデメリットを解説します。手続きの流れや注意点についても説明しているため、第三者割当増資を選択するか迷っている方や、実施方法がわからない方はぜひ参考にしてください。

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第三者割当増資とは

第三者割当増資とは、法人・個人問わず、特定の第三者に対して新株を割り当てることにより、増資することを指します。

一般的に、増資とは企業が資本金を増やすことです。第三者割当増資以外にも、株主割当増資や公募増資といった増資方法があります。それぞれの主な違いは、誰が株式を引き受けるかという点です。

ここから、第三者割当増資の目的や公募増資との違い、第三者割当増資により株価を算定する方法の3点について、詳しく解説します。

第三者割当増資の目的

資金調達が第三者割当増資の主な目的です。企業は、新規事業を立ち上げる際や設備資金へ投資する際、敵対的買収へ対抗するために、第三者割当増資により資金調達することがあります。

また、返済義務が生じない点も、あえて企業が第三者割当増資を実施する目的のひとつです。それに対し、銀行を通じて資金調達した場合は、返済しなければなりません。

さらに、他者との関係を強化することを目的に、第三者割当増資を実施することもあります。第三者割当増資は、株式と引き換えに特定の第三者に出資してもらう方法です。そのため、業務提携だけでつながるよりも双方の結びつきが明確になるでしょう。

第三者割当増資と公募増資の違い

公募増資とは、企業が新たに株式を発行する際、不特定かつ多数の投資家に勧誘することです。同じ増資でも、第三者割当増資は特定の第三者に割り当てる手法に対し、公募増資は不特定多数に発行する手法である点が異なります。

第三者割当増資・公募増資・株主割当増資・株式譲渡の違いを表にまとめました。

株式に関する手法増資株式譲渡
第三者割当増資株主割当増資公募増資
概要新規・既存問わず特定の第三者に株式を割り当てる既存の株主に、持ち株数に応じて株式を割り当てる不特定多数の出資者に株式を割り当てる株主が保有する株式を他者に移転する
新規株式の発行ありありありなし
資本金・議決権数の変動ありありありなし

なお、公募増資や株式譲渡の場合、企業側が意図しない第三者に株式(議決権)が渡る可能性があります。

第三者割当増資で株価を算定する方法

第三者割当増資を実施する際に株価を算定する方法は、基本的に一般的な株価算定方法と同じです。以下、3つの株価算定手法があります。

  • コスト・アプローチ
  • インカム・アプローチ
  • マーケット・アプローチ

コストアプローチとは、企業の貸借対照表における純資産に注目して、価値を評価するアプローチです(例:簿価純資産法・時価純資産法など)。株式を比較的簡単に評価できる点にメリットがある一方で、企業の収益性や将来性を評価できない点がデメリットとして指摘されています。

インカム・アプローチとは、企業の収益性・将来性やキャッシュフローなどに注目して、価値を評価するアプローチです(例:DCF法・収益還元法など)。企業独自の収益力を評価に反映できるメリットがある一方、客観性に欠ける点がデメリットとして挙げられます。

マーケットアプローチとは、上場している同業企業や類似する取引事例などと比較することにより、価値を評価するアプローチです(例:類似企業比較法・類似取引比較法など)。客観的かつ公正な評価ができる一方、類似する上場企業や取引がない場合に評価できない点がデメリットとして挙げられます。

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第三者割当増資のメリット・デメリット

第三者割当増資を実施するには、メリットもデメリットもあります。それぞれ確認していきましょう。

第三者割当増資を実施するメリット

資金調達や引受先との関係性強化以外にも、第三者割当増資にはさまざまなメリットがあります。

まず、第三者割当増資で手元の資金が増えれば、一般的に純資産比率(純資産/資産)が向上するため、信用力を強化できる点がメリットです。財務指標が改善して信用力が高まれば、今後金融機関などからも資金調達しやすくなるでしょう。

また、返済義務が生じない点も第三者割当増資のメリットです。社債の発行や銀行からの借入などと異なり、第三者割当増資により調達した資金は原則返済する必要がありません。

さらに、手続きが比較的簡単な点もメリットです。手続きの流れについては、後ほど詳しく解説します。

そのほか、引受先を決められるため、意図しない相手が議決権を持つことを防げる点もメリットです。

第三者割当増資を実施するデメリット

第三者割当増資を実施する主なデメリットは、既存株主の保有割合が低下する点です。第三者割当増資により株式を新たに発行すると、株式を割り当てられなかった株主の保有割合が低下します。

たとえば、発行株式200株のうちAとBが100株ずつ保有している場合、保有割合はそれぞれ50%です。しかし、第三者割当により新たにCに50株割り当てると、AとBが保有する割合はそれぞれ40%まで低下してしまいます(Cが保有する割合は20%)。保有割合の低下に伴い、既存株主との関係が悪化することもあるでしょう。

また、発行価格の妥当性を検討が必要な点もデメリットです。発行価格が時価を大きく下回る場合、株主総会の特別決議などを経なければなりません。

なお、第三者割当増資で株式を取得する側にも、多額の資金が必要というデメリットがあります。なぜなら、既存株式のやり取りをする株式譲渡の方が、一定の議決権割合を確保するために必要な株式数が少なくて済むためです。

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第三者割当増資の手続き方法(流れ)

第三者割当増資を実施する際の手続きの流れは、以下のとおりです。

  1. 募集事項の決定
  2. 株主への通知と公告・引受申込希望者へ通知
  3. 割当先を決めて申込者へ通知

各手順ですべきことを解説します。

1. 募集事項の決定

最初に、第三者割当増資の募集事項を決めなければなりません。公開会社の場合、取締役会で内容を決められます(会社法第201条第1項)。

募集事項の内容は、以下のとおりです。

  • 募集株式の数
  • 募集株式の払込金額・算定方法
  • 当該財産の内容・価額(金銭以外の財産を出資の目的とする場合)
  • 金銭の払込み、財産給付の期日・期間
  • 増加する資本金・資本準備金に関する事項

なお、有利発行に該当する場合は、取締役会では決められません(会社法第199条第3項)。

参照元:e-Gov法令検索「会社法第二百一条」
参照元:e-Gov法令検索「会社法第百九十九条」

2. 株主への通知と公告・引受申込希望者へ通知

1で決めた事柄を払込期日の2週間前までに株主に伝えなければなりません。ただし、株主に直接通知する代わりに、公告によることもできます(会社法第201条第3項・第4項)。

また、募集株式の引受けを希望する人に対して、以下を通知しなければなりません(会社法第203条第1項)。

  • 株式会社の商号
  • 募集事項
  • 払込の取扱場所
  • そのほか、法務省令で定める事項

なお、募集株式の引受けを希望する人は、氏名・住所・引受株式数を記載した申込書の提出が必要です(会社法第203条第2項)。

参照元:e-Gov法令検索「会社法第二百一条」
参照元:e-Gov法令検索「会社法第二百三条」

3. 割当先を決めて申込者へ通知

発行企業は引受の申込を受け付けたら、割当先や割り当てる株式数を決めます。定款に別段の定めがある場合を除き、株主総会(取締役会設置会社は取締役会)で決めなければなりません(会社法第204条第1項・第2項)。決定後、内容を申込者に対して通知します。

最後に、指定した払込取扱場所(会社法第208条第1項)で出資者から払込みを受けたら株式を発行し、資本金額や発行株式数増加の登記変更の手続きをします。

参照元:e-Gov法令検索「会社法第二百四条」
参照元:e-Gov法令検索「会社法第二百八条」

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第三者割当増資で注意すること

第三者割当増資を実施するにあたって、注意すべき点は以下のとおりです。

  • 既存株主保有割合を考慮する
  • 有利発行は株主総会で特別決議が必要
  • 第三者割当増資実施後に変更登記の申請が必要
  • 第三者割当増資が株価に影響を与える

各注意点を解説します。

既存株主保有割合を考慮する

既存株主の株式保有割合を考慮した上で、第三者割当増資を実施しましょう。なぜなら、第三者割当増資で発行済株式総数が増加することに伴い、新株を割り当てられなかった既存株主の株式保有割合が低下することで、企業と株主の関係性が悪化する可能性があるためです。

既存株主との関係を悪化させたり、議決権に大きな影響を与えたりしないためにも、発行価額に注意しましょう。発行価額が低ければ低いほど、既存株主が受ける不利益は大きくなります。

有利発行は株主総会で特別決議が必要

基本的に、公開会社は取締役会で第三者割当増資の募集事項を決められますが、有利発行に該当する場合は株主総会の特別決議など別途必要な手続きを要する点に注意しましょう。

有利発行とは、新株を発行する企業が自社株式の時価よりも低い価額で、第三者割当増資における株式の価額を設定することです。万が一、必要な手続きを取らずに有利発行を進めた場合、会社法第429条第1項を根拠に既存株主から役員に対して損害賠償責任を追及される可能性があります。

参照元:e-Gov法令検索「会社法第四百二十九条」

第三者割当増資実施後に変更登記の申請が必要

第三者割当増資を実施してから、変更登記の申請が必要な点を失念しないようにしましょう。

変更登記とは、登記簿に記載された内容を変更するための手続きを指します。企業の登記簿(履歴事項証明書)には、発行済株式総数や資本金額などが記載されているため、第三者割当増資により変動したことを伝えなければならないのです。

なお、会社法第915条第1項によると、変更が生じてから2週間以内に変更登記を進めなければなりません。

参照元:e-Gov法令検索「会社法第九百十五条」

第三者割当増資が株価に影響を与える

第三者割当増資が株価に影響を与えることがある点にも、注意が必要です。

第三者割当増資で株価が下がることもあれば、上がることもあります。それぞれ具体例と理由を確認していきましょう。

第三者割当増資で株価が下がる場合

第三者割当増資で株式の希薄化が生じることで、株価が下がることがあります。なぜなら、発行済株式が増えて1あたり利益が下落することにより、既存株主が保有する株式の売却を検討する可能性があるためです。

また、第三者割当増資を実施する目的が、新規事業立ち上げや設備投資など前向きなものではなく、悪化した財務状況を改善するためなど後ろ向きなものの場合も株価低下につながる可能性があります。

第三者割当増資で株価が上がる場合

新規事業立ち上げや技術開発・設備投資などが第三者割当増資の主な目的である場合に、株価が上がる可能性があります。なぜなら、内容によってプラス材料と判断した投資家が株式を取得しようとすることがあるためです。

また、第三者割当増資との引受先との資本提携などを目的としている場合に、シナジー効果を期待できれば株価が上がる可能性があります。

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第三者割当増資の事例3選

第三者割当増資を実施した主な事例として、以下が挙げられます。

  1. 大塚家具の第三者割当増資
  2. LEGAL FORTHの第三者割当増資
  3. ゼンショーの第三者割当増資

ここから、上記3つの事例について解説します。

1. 大塚家具の第三者割当増資

2019年12月、株式会社ヤマダ電機(以下、ヤマダ電機)(現:株式会社ヤマダホールディングス)が株式会社大塚家具(以下、大塚家具)の第三者割当増資の引き受けを完了したことを発表しました。同年2月には、両者の間ですでに業務提携に関する基本合意契約が締結されています。第三者割当増資による新株式(普通株式)の発行価額は1株につき145.8円です。

大塚家具は、2018年12月期まで3期連続の最終赤字で、経営不振に陥っていたことが、第三者割当増資のきっかけです。本件、第三者割当増資により大塚家具はヤマダ電機から約43.7億円を調達しています。一方、ヤマダ電機は株式の過半数を取得し、大塚家具の筆頭株主・親会社となりました。

なお、2021年9月に大塚家具はヤマダホールディングスの完全子会社となっています。さらに、2022年2月には、同じくヤマダホールディングスの連結子会社である株式会社ヤマダデンキを存続会社、大塚家具を消滅会社とする吸収合併が実施されました。

参照元:
株式会社ヤマダ電機(現:株式会社ヤマダホールディングス)「株式会社大塚家具との資本提携及びそれに伴う第三者割当増資の引き受けによる子会社の異動に関するお知らせ」
株式会社ヤマダ電機(現:株式会社ヤマダホールディングス)「株式会社大塚家具による第三者割当増資の引き受けの完了(子会社化)に関するお知らせ」
株式会社ヤマダホールディングス「子会社間の合併に関するお知らせ」
日本経済新聞(電子版)「ヤマダ電機、大塚家具の子会社化を完了」

2. LegalForceの第三者割当増資

2022年6月、株式会社LegalForce(以下、LegalForce)が第三者割当増資によりシリーズDラウンド(*)で約137億円の資金調達を実施しました。LegalForceのミッション、「全ての契約リスクを制御可能にする」ことを実現するため、採用・開発・営業の強化に投資することを資金調達の主な目的としています。主な引受先はSoftBank Vision Fund 2・Sequoia China・Goldman Sachsや、既存投資家のWiL, LLC・みずほキャピタル株式会社・三菱UFJキャピタル株式会社などが運営するファンドです。

LegalForceは、弁護士の知見やテクノロジーを掛け合わせることにより、契約業務の質の向上や効率化を実現し、契約リスクを制御するソフトウェアを開発・提供する企業です。AI契約審査プラットフォーム「LegalForce」や、AI契約管理システム「LegalForceキャビネ」を提供しています。

なお、2022年12月1日に株式会社LegalForceは社名を株式会社LegalOn Technologiesに変更しています。

(*)資金調達における段階のひとつ。主に、収益が安定し、IPOやM&A、海外展開などを見据えて動く局面のこと

参照元:
株式会社LegalOn Technologies「LegalForce、シリーズDラウンドにおいて総額約137億円を資金調達SoftBank Vision Fund 2、Sequoia China、Goldman Sachsが新規投資家として参画~累計調達額約179億円~」
株式会社LegalOn Technologies「【社名変更のお知らせ】 「LegalForce」から「LegalOn Technologies」に生まれ変わり グローバルで始動します~ 法とテクノロジーの力で、安心して前進できる社会を創る。~2022.12.01」

3. ゼンショーの第三者割当

2023年7月、株式会社ゼンショーホールディングス(以下、ゼンショー)は、第三者割当により総額300億円のA種優先株式を発行することを発表しました(割当先:株式会社日本政策投資銀行・株式会社みずほ銀行)。本件ではA種優先株式を発行しているため、増加した資本金・資本準備金と同額の資本金・資本準備金減少の効力が発生しています。

ゼンショーは、「すき家」「なか卯」「ジョリーパスタ」「はま寿司」など、外食業を営む企業です。2023年2月には、全国で358店舗(2023年1月1日時点)を構えるファストフードチェーンストア「ロッテリア」の全株式を取得しています。

SnowFox Topco Limited(以下、SnowFox)の株式取得資金を調達することが、本件でゼンショーが第三者割当を実施する目的です。SnowFoxは、北米やイギリスを中心に寿司のテイクアウト店や寿司の製造卸売業などの日本食事業を営む運営会社の持株会社です。

その後、2023年9月に、ゼンショーは新設の子会社を通じてSnowFoxの全株式取得手続きを完了しました。

参照元:
株式会社ゼンショーホールディングス「第三者割当によるA種優先株式の発行並びに株式発行と同時の資本金及び資本準備金の額の減少に関するお知らせ」
株式会社ゼンショーホールディングス「第三者割当による A 種優先株式の払込完了並びに株式発行と同時の資本金及び資本準備金の額の減少の効力発生に関するお知らせ」
株式会社ゼンショーホールディングス「株式会社ロッテリアの株式取得に関するお知らせ」
株式会社ゼンショーホールディングス「SnowFox Topco Limitedの株式取得(子会社化)完了に関するお知らせ」

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第三者割当増資以外で買収資金を調達する方法

第三者割当増資以外にも、金融機関などから借り入れる「融資」や無償増資などの資金調達方法があります。無償増資とは、株式分割や新株予約権発行のように、株主から払込金を受け取らず会社のほかの資産を振り替えて新株を割り当てることです。

なお、第三者割当増資・株主割当増資・公募増資は、有償増資に分類されます。以下に、有償増資・無償増資・融資の違いを表にまとめました。

有償増資無償増資銀行借入(融資)
返済義務なしなしあり
新たな株式発行ありありなし

自社を取り巻く状況に応じて、調達手段を検討しましょう。

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まとめ

第三者割当増資とは、法人・個人問わず、特定の第三者に対して新株を割り当てることにより、増資することです。返済義務が生じないため、新規事業を立ち上げる際やM&A・設備投資を検討する際などで、銀行からの融資の代わりの資金調達手段として用いることがあります。

第三者増資の主なメリットは、信用力を強化できる点や意図しない相手が議決権を持つことを防げる点などです。一方、既存株主の保有割合が低下するため、関係が悪化する可能性がある点がデメリットとして挙げられます。また、第三者割当増資で有利発行に該当する場合は、株主総会で特別決議が必要なため注意しましょう。

第三者割当増資やM&Aで不明な点がある場合は、専門家に相談することも大切です。専門家に相談すれば、M&Aを目的に第三者割当増資を実施する際に、候補先を見つけたりスムーズに手続きを進めたりできます。

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