農業における事業承継のメリットとは?引き継ぎのポイントを解説
2024年8月19日
このページのまとめ
- 農業業界は後継者不足が叫ばれている
- 農地法の改正によって法人の農業参入も増加している
- 農業の事業承継の種類は「親族内承継」「親族外承継」「第三者承継(M&A)」
- 農業の事業承継のメリットは効率的な事業拡大や販路の確保など
- 農業の事業承継を成功させるために政府の支援策やM&A仲介業者の利用がおすすめ
後継者不足が深刻化している農業業界では、今後第三者に事業を承継するケースが増加するとみられます。親族への承継が多い農業において、第三者である企業や個人事業主が事業を受け継ぐためには、入念な事前準備が必須です。
本記事では、農業に新たに着手すべく事業承継を検討している方のために、業界の動向や買い手・売り手側のメリット、成功に導くポイントなどを解説します。
目次
農業の事業承継が増加している背景
担い手の高齢化が進む農業業界においては、後継者不足の問題が深刻化しています。そこで、畑や菜園を引き継ぐ農業承継案件が増加しているのが実情です。
新しい農業の後継者としては、個人だけではなく法人の参入も増えるなど、事業承継の形が多様化しています。ここでは、農業の事業承継が増加している背景を詳しく解説します。
高齢化により後継者が不足している
農業は高齢化により、事業を継いでくれる後継者を確保するのが難しくなっています。農林水産省が発表した「農業労働力に関する統計」によると、令和5(2023)年度の基幹的農業従事者(個人経営体)の65歳以上の割合は70.7%と高い数値を記録しています。
2020年から2023年のデータを以下にまとめました。
2020年 | 2021年 | 2022年 | 2023年 | |
基幹的農業従事者(万人) | 136.3 | 130.2 | 122.6 | 116.4 |
うち65歳以上(万人) | 94.9(69.6%) | 90.5(69.5%) | 86.0(70.1%) | 82.3(70.7%) |
平均年齢(歳) | 67.8 | 67.9 | 68.4 | 68.7 |
ここ数年の傾向としては、65歳以上の割合が若干増加傾向にあり、約7割を占めているのがわかります。平均年齢は67〜68歳程度を推移しており、一般企業であれば定年退職を迎える年齢の方々が日本の農業を支えているという状況です。
また、株式会社帝国データバンク実施の調査「特別企画:全国「後継者不在率」動向調査(2023 年)」によると、2022年と2023年における農業・林業・漁業 の後継者不在率が50%を超えていることから、半数以上の農家が次の担い手を確保できていない厳しい状況がみえてきます。
後継者不在率(%) | 2022年 | 2023年 |
農業・林業・漁業 | 52.3 | 50.3 |
農林水産省「農業の経営継承に関する手続き」によると、農業の後継者としては、親族が大半を占めており(95.4%)、同居の後継者が居る割合が30%です。同居の後継者が居ない70%の内、別居の後継者が居る割合は19%にとどまっているのが現状です。
つまり、日本の農業は65歳以上の方々に支えられているのが現状であり、そのなかで後継者が確保できている割合は半数以下です。とくに農業の事業承継は主に家族間でおこなわれるのが一般的であるため、身内に後継者がいない多くの場合は、これまで大切にしてきた農地を手放さなければならないという問題に直面しています。
参照元:農林水産省「農業労働力に関する統計」
参照元:農林水産省「農業の経営継承に関する手続き」
参照元:株式会社帝国データバンク「特別企画:全国「後継者不在率」動向調査(2023 年)」
法人の参入も増加している
農林水産省が、5年ごとに農林業を営んでいるすべての農家・林家や法人を対象に実施する「農業センサス」によると、2005年から2020年で法人の経営する農業関連事業は11,571件増加しています。
2005年 | 2010年 | 2015年 | 2020年 | |
農業経営体数 | 2,009,380 | 1,679,084 | 1,377,266 | 1,075,705 |
法人経営体数 | 19,136 | 21,627 | 27,101 | 30,707 |
一方で農業経営対数自体は減少傾向にあることから、農業全体に占める法人の割合が増加していることが伺えます。法人の農業への参入が進んでいる背景には、2009年の農地法改正により法人であっても農地を賃借する形で農業に着手できるようになった点が関係しているでしょう。
また、経営の合理化手段として、農作物の製造から販売・加工までを一貫しておこなうようなビジネス形態が増えたことも、法人参入を後押ししたとされています。
参照元:農林水産省「農業センサス2020」農業経営体(総数)農業経営体数
農林水産省「農業センサス2010」農業経営体(総数)農業経営体数
農業の事業承継をする3つの方法
農業の事業承継をする方法は、次の3つあります。
- 親族内承継
- 親族外承継(従業員等)
- 第三者承継(M&A)
それぞれの概要や特徴を確認しておきましょう。
親族内承継
親族内承継は、農業を営む経営者の兄弟や子どもなどをはじめとする、親族に事業を承継するものです。甥姪や娘婿などに事業を承継する場合も、親族内承継とみなされます。
親族内承継の場合は、すでにお互いの関係性が築けているため、スムーズに事業の引き渡しができる可能性が高いでしょう。準備期間にも比較的余裕をもって進められるケースが多く、後継者が農業に実際に触れられるチャンスも多くあります。
一方で、相続人が複数存在するような場合では、事業用資産と個人資産の分離が曖昧になりがちです。農業を続けるための資産を、後継者に十分に残せない可能性が考えられます。
親族外承継(従業員等)
親族外承継は、従業員や役員、共同創業者などに向けた事業の承継を意味します。長く該当の事業や農業に携わってきた人物を選べば、親族内で後継者を確保できなかった場合でも、これまでと同じように事業を続けられるのがメリットです。
ただし、資産の承継が高額になる場合は、農業の後継者にはある程度の資金力が求められる点には注意しましょう。また、親族内承継と比べると、従業員や取引先といった関係者の理解を得るのが難しくなる可能性があります。
第三者承継(M&A)
第三者承継とは、親族や従業員以外の第三者に事業を承継することです。ときには、個人ではなく企業への事業承継がおこなわれる場合もあります。
第三者承継の主な手法は、次のとおりです。
- 事業譲渡
- 株式譲渡(株式会社の場合)
- 外部人材の招へい
親族内後継者も従業員も居ない農家の場合、後継者問題を解決する手段として第三者承継が注目されています。広く後継者を探すことができるほか、売却が決まれば資金を得られるのが第三者承継のメリットです。
しかし、希望しているような人材が事業を承継してくれるとは限りません。農業についての知識が充分でないケースでは、農業の基本から指導する必要があります。
農業の事業承継で引き継ぐ3つの資源
農業を支えている多くの経営資源の内、事業承継で引き継ぐのは主に次の3つです。
- 人材
- 有形資産
- 無形資産
農業を継承する際に、知っておきたい資源について解説します。
人材
農業を承継する際には、その事業に関わっている従業員なども一緒に引き継がれます。それまで事業に携わってきた人材がそのまま残るため、ノウハウを獲得できるのがメリットです。
従業員だけではなく、経営者が別に存在する場合は、経営者まで含めて事業を引き継ぎます。ただし、農業の場合は経営権を含めて承継するケースが多いようです。
有形資産
農業承継においては、畑や菜園、農機具などといった有形資産も対象になります。モノだけではなく、牛や豚などの家畜や樹木なども含まれる点を押さえておきましょう。
また、前経営者時代に残った運転資金や借入金などがあれば、それらも承継対象となります。事業の経営状況が思わしくなければ、借入金がある可能性も考えられるため、事業承継を進める前に忘れずに確認することが大切です。
無形資産
無形資産とは、貸借対照表に記載されている資産以外のものを意味します。農業にまつわる知識はもちろん、前経営者が作り上げたイメージや人脈、信頼、ブランド力なども無形資産にあたります。
農業を安定的に続けていくためには、独自のノウハウや経営戦略、取引先との良好な関係性が欠かせません。農業の事業承継をする場合は、そうした無形資産ごと譲り受けることができるため、スムーズに農業に参入できるのがメリットです。
農業の事業承継をするメリット
ここからは、第三者承継によって農業の事業承継をするメリットを、買い手側と売り手側の立場に分けて解説します。
買い手側のメリット
第三者が農業を買収するメリットは、同業種と異業種の場合で異なる点を押さえておきましょう。
ここでいう同業種買収とは、農業を営む企業または経営者が農業を承継するケースを意味します。一方で異業種買収は、農業以外の事業をおこなっている企業または経営者による買収のことです。
それぞれのケースでの、農業の事業承継における買い手側のメリットを解説します。
同業種買収の場合
同業種買収の場合、すでに事業としての形が整っているものを買収することで、効率的に事業拡大ができるのが1つ目のメリットです。農地を購入し一から農業をスタートさせるのに比べて、圧倒的に効率がよいといえるでしょう。
2つ目のメリットは、既存の取引先を引き継ぐことで、新たな販路を確保できることです。すでに取引先との信頼性ができていたり、農作物に対するファンが多かったりする場合は、事業買収後も安定した利益を見込めます。
異業種買収の場合
農業以外の事業を営む企業による買収では、農作物の管理・収穫から加工販売までを一気におこなう、サプライチェーンの確保が実現できるのがメリットです。自社商品やサービスを展開するにあたって、材料の安定供給やコストダウンの効果が期待できます。
また、企業ブランドの強化目的でも、農業の事業承継を実施するケースがみられます。地域貢献やCSR(Corporate Social Responsibility)活動の一環として農業に携わることで、企業イメージの改善を図るのが狙いです。
売り手側のメリット
農業の事業承継における売り手側のメリットとしては、次のようなものが挙げられます。
- 後継者問題の解決
- 資金の確保
- 次世代農業への移行
売り手側のメリットとしてまず欠かすことができないのが、後継者問題を解決できる手段となり得るという点です。身内に後継者がおらず行く先に不安を感じている場合、事業承継はメリットある選択肢といえるでしょう。
また、事業を売却することで資金を確保できるのも、売り手側のメリットです。資金繰りが思わしくない場合には、事業の売却によって得られる資金で、ゆとりが得られる可能性があります。
売却先が資金力のある企業などの場合、最新のロボット技術や情報通信技術を駆使したスマート農業の実施を検討しているケースも考えられるでしょう。農業の事業承継は、大切に育てた農地が、新技術によってより成長していくためのきっかけとなるかもしれません。
農業の事業承継をする際の注意点
後継者問題の解決策として注目が高まっている農業の事業承継ですが、実際の手続きを進めるうえではいくつかのポイントに注意する必要があります。ここからは、農業の事業承継の注意点を、買い手側と売り手側に分けて解説します。
買い手側の注意点
買い手の立場では、事業継承によって引き継ぐ従業員との信頼関係を重要視する必要があります。事業拡大を目的にした農業の事業承継では、従業員を保有しているある程度の規模の事業をターゲットとするケースも考えられるでしょう。
新しい経営者として、既存従業員と信頼関係を結べなければ、その後のビジネスが軌道に乗らない恐れがあります。従業員の立場や意見をしっかりと把握し、協力してビジネスを展開していけるように促すことが重要です。
既存の従業員は、農業にまつわる知識やノウハウを保有しているため、うまく付き合うことができれば、事業にとって欠かせない役割を果たしてくれるでしょう。
売り手側の注意点
売り手側の立場としては、事業の売却価格や契約のタイミングが思いどおりになるとは限らないという点には注意する必要があります。これまで愛情や手間をかけて育ててきた事業であればあるほど、できるだけよい条件で事業承継をしたいと考えるのが一般的です。
しかし、農業の第三者承継においては、買い手は多くの事業を比較し、自社とのシナジーを得られそうな事業を選別していきます。つまり、いくら売り手側が「この人に買ってほしい」「売却価格は下げられない」と思っていても、状況によっては条件を見直さなければならない可能性があるでしょう。
また、農業の事業承継を焦って進めようとすると、契約を進めるうえで見落としやトラブルが発生してしまうかもしれません。農業の事業承継には、M&Aマッチング支援サービスなどを利用したとしても半年程度の時間がかかるといわれています。
できるだけ希望の条件で事業を売却するためには、余裕をもって準備を進めることが大切です。
農業の事業承継を成功させる4つのコツ
農業の事業承継を成功させるためには、次の4つのポイントを意識してみましょう。
- 利用できる補助金や制度を確認する
- 事業承継を機に法人化を検討する
- マッチングサイトを利用してみる
- M&A仲介業者に相談する
農業の事業承継は、農地や農機具、従業員などを含んだ規模の大きいM&Aになることもあり、万全の準備をして臨む必要があります。農業の事業承継を検討している際に知っておきたい、成功に導くポイントを解説します。
1.利用できる補助金や制度を確認する
後継者不足が深刻化している農業の事業承継に対しては、国もさまざまな支援を講じています。農業の事業承継をスムーズかつ効果的に実施するためには、政府支援策の利用が可能かどうかを忘れずに確認しましょう。
具体的には、次のような支援策が挙げられます。
制度・支援 | 内容 |
経営継承・発展等支援事業の補助金 | 最大100万円まで支給を受けられる |
事業承継税制 | 贈与税や相続税の猶予を受けられる |
農地に関する納税猶予制度 | 農地をすべて後継者に贈与したケースで、贈与税の納税が猶予される |
政府は農業の事業承継に対する支援策を積極的に実施しているため、新たに追加された支援策の有無や適用範囲などを確認し、積極的に利用するのも手です。
参照元:農林水産省「経営継承・発展等支援事業(経営継承関係)」
参照元:国税庁「事業承継税制特集」
参照元:国税庁「No.4438 農業後継者が農地等の贈与を受けた場合の納税猶予の特例」
2.事業承継を機に法人化を検討する
個人事業主として農業の事業承継をしようと考えている場合は、事業承継手続きを機に法人化する道もあります。法人化によって、引き継ぐ資産は会社の所有とみなされ、権利移転の手続きなどをシンプルに進められるようになります。
また、給与所得控除といった、税制面での優遇を受けられる可能性もあるため、条件によっては法人化のメリットは大きくなるでしょう。
ただし、法人化に際しても、それなりの準備と手続きの手間も増えます。法人化の必要性がどの程度であるかを検討し、メリットとデメリットについても洗い出しておくとよいでしょう。
3.マッチングサイトを利用してみる
農業の事業承継をするにあたって、売り手と買い手をつなぐM&Aのマッチングサイトを利用する方法もあります。自分の人脈や力ではコンタクトが難しい相手とも、マッチングサイトであれば広い候補のなかから契約相手を探せるのがメリットです。
事業の内容や地域などから事業の売却を希望している相手を探すことができるなど、手軽かつ簡単に利用できるサービスが増えています。ただし、農業に特化したM&Aマッチングサイトは少ないため、必ずしも希望の売却・買収相手が見つかるとは限りません。
また、M&Aマッチングサイトでは、実際の契約における専門的なサポートまではカバーされておらず、自分たちで責任をもって契約を進める必要があります。
4.M&A仲介業者に相談する
農業の事業承継を確実に進めるためには、M&A仲介業者に相談するのも1つの手段です。農業の事業承継には、農業やM&A契約にまつわる知識だけではなく、税金や法律など幅広い知識が求められます。
専門的な知識がない素人がM&Aを進める場合、自社にとって有利な条件で進めることが難しかったり、必要な手続きを飛ばしてしまったりという懸念が残るでしょう。
M&A仲介業者を利用すれば、契約相手を探す段階から、手続きの準備、契約の進行までトータルでサポートしてもらえます。専門的な知識が必須であるM&Aにおいては、いつでも相談できるM&Aのエキスパートが傍に居てくれるメリットは大きいでしょう。
まとめ
後継者不足の問題を抱えている農業業界では、今後も事業承継が増加すると考えられます。個人だけではなく、法人の参入が見込まれていることもあり、農業の在り方が多様化していくでしょう。
農業の事業承継をする買い手側のメリットとしては、スムーズな事業拡大や販路確保、農業にまつわるノウハウの獲得が挙げられます。一方で売り手側のメリットは、後継者問題の解決や売却による資金の確保などが考えられるでしょう。
これまで大切に育んできた農地や農作物を次の担い手に託す手段である事業承継ですが、契約のタイミングや売却価格については、必ずしも思いどおりにいくとは限りません。農業のM&Aには、専門的な知識が求められる機会も多いため、確実に手続きを進めるためにはM&A仲介業者の利用がおすすめです。
レバレジーズM&Aアドバイザリー株式会社は、農業の事業承継をはじめとするM&Aをサポートする仲介会社です。事業承継に関する専門的な知識と豊富な経験を兼ね備えたコンサルタントが在籍しています。
事業承継について不明点がある場合は、お気軽にレバレジーズM&Aアドバイザリー株式会社にお問い合わせください。料金に関しては、M&Aの成約時に料金が発生する完全成功報酬型です。
M&A成約まで、無料でご利用いただけます(譲受側のみ中間金あり)。無料相談も実施しているため、M&Aを検討している際には、お気軽にお問い合わせください。