【医療法人のM&A】病院買収のスキームや動向、事例を紹介

2024年8月16日

【医療法人のM&A】病院買収のスキームや動向、事例を紹介

このページのまとめ

  • 医療業界は後継者不足・人材不足が深刻
  • 施設の老朽化や設備投資により、資金を必要とする医療法人が多い
  • 合併などのM&Aを実施する医療法人が増えている
  • 医療法人だけでなく、営利法人による買収も多い
  • 地域ニーズを分析してからM&Aを実施することが大切

「医療法人を買収・売却したいが、何から始めればよいのだろうか?」と気になっている方もいるのではないでしょうか。後継者不足や施設・設備の老朽化により医療法人を手放したい方や、買収して事業規模を拡大したい方もいます。

本記事では、医療法人の現状や、M&Aの現状を解説します。また、活用されることが多いスキームやM&A成功のポイント、事例も紹介するので、ぜひ参考にしてください。

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医療法人・病院の現状

医療法人では、さまざまな問題が顕在化しています。医療法人のM&Aの現状を紹介する前に、まずは医療法人を取り巻く現状について解説します。

施設の老朽化や設備投資の増加

1985年に成立した第一次医療法改正により、医療圏ごとに病床数が定められ、基準を超える病院や病床の設置が制限されるようになりました。規制の適用を避ける目的もあり、1980年前後には病院建設が急増しました。

1980年前後に建設された施設は築年数が40年を超え、老朽化が進み、建て替えの時期を迎えています。また、1981年5月31日以前に建築許可を受けた建物は現行の耐震基準を満たしていない可能性があり、安全性を確保するためにも建て替えを迫られています。

施設自体には問題がなくても、設備投資が必要になっているケースも少なくありません。医療業界は技術の進歩が目覚ましく、より正確な診断、より患者に負担をかけない治療を実現するためには、新しい設備を適宜導入することが必要です。

施設の改築、設備投資のいずれも莫大な費用がかかります。資金調達に悩む医療法人も多いと想定されるでしょう。

診療報酬改定や医療制度変更に対する調整

医療費を左右する診療報酬は、2年に一度改定されます。また、不定期ではありますが、医療制度も頻繁に変更されます。

改定・変更が生じる都度、医療法人は適切に対応しなくてはいけません。通常業務でさえ多く、時間外労働時間の増加や人手不足に陥りがちな医療法人ですが、改定・変更が多いことでも業務負担がさらに増え、労働時間や人材不足の問題がさらに深刻化しています。

医療業界の働き方改革

医療業界でも働き方改革は進みつつあります。過重労働を減らし、労働者がワークライフバランスをとりながら働くためには必要なことですが、人手不足が深刻になるなどの問題もあります。

人手不足の状態で患者を受け入れ、医療事故につながることや、待ち時間の増加や対応の質の低下により患者離れが起こるケースもあるでしょう。働き方改革の実施のためにも、医師や看護師などの医療スタッフの十分な数の確保が欠かせません。

医療資源の偏在

医療機関や高度な設備、医師・看護師などの医療スタッフは、都市部に集中しています。類似する機能を持つ医療機関が林立し、開業しても経営が成り立たないケースや、既存の医療資源を十分に活用できないケースも少なくありません。

過剰供給の現実がある一方で、医療資源の不足から住民が適切な医療を受けられない地域もあります。しかし、医療資源が不足する地域で開業しても住民自体が少なく、採算がとれないケースもあります。

診療所医師の平均年齢の増加

診療所は医師1人以上で開業できるため、個人経営が多い傾向にあります。医療機関で働く医師の平均年齢は年々上昇していますが、診療所では病院よりも高齢化が深刻であり、近い将来、事業承継などの問題が生じると考えられます。各年の12月31日時点の医師平均年齢は以下をご覧ください。

調査年2014年2016年2018年2020年2022年
病院医師の平均年齢44.2歳44.5歳44.8歳45.1歳45.4歳
診療所医師の平均年齢59.2歳59.6歳60.0歳60.2歳60.4歳

参照元:厚生労働省「令和4(2022)年 医師・歯科医師・薬剤師統計の概況

医療業界は後継者不在が深刻

医療業界は後継者不在率が高い業界です。株式会社帝国データバンクの「特別企画:全国「後継者不在率」動向調査(2023 年)」によると、医療業界の後継者不在率は平均よりも大幅に高く、2023年の調査では65.3%の法人で後継者が決まっていません。特に後継者不在率が高い5つの業界については、以下をご覧ください。

調査年2022年2023年
自動車・自転車小売66.7%66.4%
医療業68.0%65.3%
職別工事業67.1%64.6%
専門サービス68.1%63.4%
郵便・電気通信65.3%61.9%
平均57.2%53.9%

医療法人の後継者不在の主な理由としては、次の2点が挙げられます。

  • 承継への意識の変化
  • 将来に対する不安

かつては「家業を継ぐ」という考え方が一般的でしたが、現在では職業選択についてより柔軟な考え方を持つ方も増えてきました。開業医の子どもとして生まれても、一般企業に勤務したり、病院の勤務医を選択したりする方もいます。

また、人口減少や都市部への人口集中により、医療機関を継いでも経営を維持できるのかと不安に感じる方も少なくありません。不安を抱えて診療所を継ぐよりは、大病院の勤務医として働くことを選択するケースもあります。

参照元:株式会社帝国データバンク「特別企画:全国「後継者不在率」動向調査(2023 年)

医療法人版事業承継税制の実施

医療法人版事業承継税制とは、医療法人の持分を被相続人から相続や遺贈により取得した場合、認定医療法人に限り、相続税の申告期限内であれば認定移行計画に記載された移行期限まで納税が猶予される制度です。なお、認定医療法人とは、「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律」の規定に関し、厚生労働大臣の認定を受けた医療法人のことです。

医療法人版事業承継税制が適用されると、出資持分のある医療法人から出資持分のない医療法人に相続・贈与が生じた場合、納税が猶予されます。また、その後一定期間出資持分を保有することで、最終的には相続税・贈与税が免除されます。制度の活用により、医療法人の売却・買収の活発化が見込まれるでしょう。

参照元:国税庁「No.4150 医療法人の持分についての相続税の納税猶予の特例

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医療法人・病院のM&Aの現状

後継者不在などの理由で、廃止する診療所も少なくありません。厚生労働省の調査によれば、年間7,000~8,000件程度の診療所が廃止されています。

医療法人一般病院診療所
2019年10月~2020年9月に廃止した法人数1257,770
2020年10月~2021年9月に廃止した法人数927,612
2021年10月~2022年9月に廃止した法人数1066,697

その一方で、医療法人の合併は増加傾向にあります。厚生労働省の調べによれば、2016~2018年の3年間に医療法人の合併は83件実施され、前3年を大きく上回りました。合併により廃止を回避する医療法人も増加していると考えられます。

調査対象年医療法人の合併件数
2004~2006年12件
2007~2009年30件
2010~2012年43件
2013~2015年52件
2016~2018年83件

参照元:厚生労働省「令和2(2020)年 医療施設(動態)調査・病院報告の概況
参照元:厚生労働省「令和3(2021)年 医療施設(動態)調査・病院報告の概況
参照元:厚生労働省「令和4(2022)年 医療施設(動態)調査・病院報告の概況
参照元:厚生労働省「― 令和元年度 医療施設経営安定化推進事業 ―医療施設の合併、事業譲渡に係る調査研究報告書

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医療法人の種類

医療法人の種類のイメージ

医療法人は、社団医療法人と財団医療法人の2つの形態に分けられます。医療法人の種類ごとの特徴について解説します。

社団医療法人

社団医療法人とは、出資者全員による社員総会の承認を得て設立する医療法人です。主に医師が出資者となり、1人につき1つの議決権を持ちます。なお、社団法人では理事は原則3名以上、監事は1名以上配置しなくてはいけません。

社団医療法人には、出資持分なしの法人と出資持分ありの法人があります。

持分なし医療法人

出資持分なしの医療法人では、基金を拠出することで活動原資を調達します。活動資金の調達先を基金に求めると、基金拠出型医療法人と分類されます。

なお、基金拠出型医療法人は、社会医療法人や特定医療法人としての承認を受けられません。いずれかの法人としての承認を得たい場合は、基金を返還し、定款にも反映させることが必要です。

持分あり医療法人

出資持分ありの医療法人では、出資者が退社する際に拠出金が返還されます。そのため、出資持分を他に譲渡することで、医療法人の経営承継が可能です。

出資持分ありの医療法人では従業員との雇用契約や患者情報も原則として引き継がれますが、持分なしの医療法人では従業員との雇用契約を引き継げず、再雇用しない場合は退職金の支払いが生じます。

なお、出資持分ありの医療法人は、2007年以降は新規設立ができなくなりました。ただし、既存の出資持分ありの医療法人については経過措置がとられているため、当分の間はそのままの形で存続できます。

財団医療法人

財団医療法人とは、提供された財産を原資として経営する医療法人のことです。持分出資や基金拠出などはありません。

また、財団医療法人における最高意思決定機関は評議員会です。評議員は社団医療法人の出資者(社員)に相当し、評議員会は一般社団法人における社員総会に相当します。

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医療法人のM&Aで活用されるスキーム

医療法人同士がM&Aを実施するか、医療法人と営利法人がM&Aを実施するかによって、活用されるスキームが異なります。一般的に活用されることが多いスキームを紹介します。

医療法人同士のM&A

医療法人同士でM&Aが実施される場合は、以下のスキームが活用されることが一般的です。各手法の特徴は、以下をご覧ください。

M&Aのスキーム特徴
持分譲渡・売り手側の医療法人の社員の持分を買い取る
・持分あり社団医療法人のみで活用できるスキーム
社員入れ替え・売り手側の医療法人の社員・評議員を辞職させ、買い手側が社員・評議員に就く
・財団医療法人もしくは持分なし社団医療法人で活用できる
合併・複数の医療法人を1つにまとめるスキーム
・医療法人の種別に制限なし
分割・医療法人内の一部事業を切り離し、他の医療法人に移動させるスキーム
・社会医療法人、特定医療法人、持分あり医療法人以外の法人のみ利用可能

持分譲渡

持分譲渡とは、売り手側の医療法人の社員の持分を、買い手側の医療法人が買い取る手法です。持分ありの社団医療法人でのみ、活用できるM&Aのスキームです。

社団医療法人では、総社員の過半数が出席した社員総会において、出席者の過半数が賛成すると役員の選任・解任を決議できます。つまり、買収したい社団医療法人の社員の過半数を買い手側が占めれば、役員をすべて入れ替え、経営権を取得することが可能です。

なお、役員の除名や定款変更には、総社員の3分の2以上が出席した社員総会で、出席者の3分の2以上の賛成を得なくてはいけません。また、定款変更の決議を得たときは都道府県知事の認可を得ること、法人名称や理事長が変更になる場合は登記手続きが求められます。

社員入れ替え

社員入れ替えとは、売り手側の持分なし社団医療法人の社員を辞職させ、買い手側の社員がその地位に就くことです。総社員の過半数を買い手側が占めると、経営権を取得できます。

財団医療法人でも同様に、評議員を入れ替えることで経営権の取得が可能です。なお、辞職させた社員・評議員に対しては、退職金として対価を支払うことが一般的です。また、持分譲渡と同様、認可や変更登記などの手続きが必要になります。

合併

合併とは、複数の医療法人が1つの法人としてまとまるスキームです。特定の医療法人に他の医療法人が吸収される(吸収された医療法人は消滅)ときは「吸収合併」、新設した医療法人に関連する全医療法人が吸収される(吸収された医療法人は消滅)ときは、「新設合併」と呼びます。

医療法人の種類に関係なく活用できるスキームです。なお、新設合併における吸収する側の法人のみ存続しますが、他の関連法人はすべて消滅します。

分割

分割とは、医療法人の一部の事業を切り出し、その事業に含まれる権利・義務を他の医療法人にまとめて承継させる手法です。承継する医療法人が既存法人の場合は「吸収分割」、新たに医療法人を設立して承継する場合は「新設分割」と呼びます。

売却したい事業のみを売却、あるいは買収したい事業のみを買収できるため、他の手法と比べると自由度の高いM&Aが可能です。ただし、社会医療法人と特定医療法人、持分あり医療法人は分割できないため、その他の種類の法人で活用されます。

営利法人による医療法人の買収

医療法人以外の営利法人が医療法人を買収するケースもあります。営利法人によって買収される場合は、以下のスキームを活用することが一般的です。

M&Aのスキーム特徴
持分譲渡・売り手側の医療法人の社員の持分を買い取る
・持分あり社団医療法人のみで活用できるスキーム
社員入れ替え・売り手側の医療法人の社員・評議員を辞職させ、買い手側が社員・評議員に就く
・財団医療法人もしくは持分なし社団医療法人で活用できる
資本業務提携・お互いの経営資源を活用する関係を構築する
・医療法人の種類に制限なし

持分譲渡、社員入れ替え

持分あり社団医療法人の持分を買い取る「持分譲渡」や、医療法人の社員や評議員に辞めてもらい、買い手企業側の人物が社員・評議員になる「社員入れ替え」は、営利法人による医療法人の買収の際にも活用されます。

また、買収後は、都道府県知事への認可申請、名称変更や理事長変更時には登記手続きなどが必要です。

資本業務提携

資本業務提携とは、相手法人に対して出資を行い、強固な業務協力体制を構築することです。お互いの経営資源を活用することでシナジー効果を期待できるだけでなく、法人としてはそれぞれ独立を維持できるため、提携実施後に社内・院内で混乱が起こりにくいというメリットがあります。

なお、「資本提携や業務提携はM&Aには含まれない」という味方もあります。しかし、経営資源を相互活用できることや、関連する法人すべてが共栄を図れるといった意味では、広義においてはM&Aに含めることが一般的です。

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医療法人のM&Aのメリット

医療法人がM&Aを実施することには、買い手側にだけでなく売り手側にも多様なメリットがあります。主なメリットを紹介します。

買い手のメリット

買い手側のメリットとしては、以下の点が挙げられます。

  • 経営を軌道に乗せるまでの時間を短縮できる
  • サービスの多角化を実現できる
  • 許認可手続きを省略できる
  • 人材を確保できる
  • 病床数を確保できる

医療機関が不足している地域、特定の診療科が不足している地域を除き、新規の医療法人が経営を軌道に乗せるまでには相応の時間がかかります。丁寧な対応を長期にわたって続けることで、地道に信頼を獲得していかなくてはいけません。

しかし、すでに地域に受け入れられている医療機関を買収するなら、時間をかけずに経営を軌道に乗せられます。対応していなかった診療科のある医療機関を買収すれば、サービスの多角化も可能です。

M&Aの種類によっては、許認可の手続きを省略できるのもメリットです。また、医療業界では人手不足が問題になっていますが、従業員をそのまま引き継げる方法でM&Aを実施すれば、人材確保の時間もかかりません。

病床数は基本的には自治体の医療計画に基づいて決まるため、病床数が上限に達している場合は、医療機関が自由に増やすことはできません。しかし、M&Aにより医療機関ごと買収すれば、医療計画に抵触しない形で病床数を増やすことが可能です。

売り手のメリット

医療法人を売却することには、次のメリットがあります。

  • 後継者問題を解決できる
  • 創業者利益を獲得できる
  • 経営改善・施設再生を実現できる

後継者不在の法人なら、M&Aにより買い手企業の人材に承継してもらうことが可能です。単に廃業すれば利益を得られないどころか、設備や施設の処分費がかかることもあります。しかし、営利法人や他の医療法人に売却すれば、売却益を得られ、事業資金や老後資金などに活用できるでしょう。

また、経営手腕の優れた相手に売却すれば、経営状態が改善される可能性があります。地域から必要とされる医療機関になるだけでなく、施設の建て替えや新しい設備の導入なども可能になります。

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医療法人のM&Aの事例

医療法人のM&Aの事例を紹介します。各事例で用いられたスキームや、期待される効果などについても解説します。

医療法人同士の事例

医療法人同士でM&Aが実施されるケースは少なくありません。

買い手企業は医療経営について熟知しているため、買収後の経営がスムーズに進むというメリットがあります。また、経営を統合する場合なら、事務や医薬品管理などの共通する業務・スペースをカットし、より効率的な運営が可能になる点もメリットです。

木下会と沖縄徳洲会

譲渡側の医療法人木下会
譲受側の医療法人沖縄徳洲会
活用されたスキーム吸収合併
M&Aの目的・経営合理化
・コンプライアンス、ガバナンスの強化

沖縄徳洲会は徳洲会グループに所属する医療法人で、沖縄県や鹿児島県を中心に多数の診療所などを運営しています。2019年12月、千葉県で医療機関や介護施設を運営する木下会を吸収合併し、経営合理化を図りました。

参照元:徳洲会グループ「社会医療法人木下会 沖徳に吸収合併

一樹会と青嵐会

譲渡側の医療法人一樹会
譲受側の医療法人青嵐会
活用されたスキーム事業譲渡
M&Aの目的・経営合理化
・人材確保

一樹会は、徳島県で診療所や介護施設などを運営している医療法人です。2018年10月、徳島県と香川県で高齢者施設の運営をしている健祥会グループの一員、医療法人青嵐会は、一樹会の運営する介護老人保健施設を引き継ぎました。青嵐会はグループの規模を活かした経営効率化や、不足する介護人材の確保を目指しています。

参照元:健祥会グループ「健祥会、譲渡受け再生 | 日本経済新聞

翔洋会とときわ会

譲渡側の医療法人翔洋会
譲受側の医療法人ときわ会
活用されたスキーム債権者集会の承認による経営権取得
M&Aの目的医療提供体制の継続健診機能の向上

いわき市の医療法人翔洋会は、2018年11月に倒産して民事再生手続きをしていましたが、閉院による社会的影響が大きいと判断され、当局による監督命令下で運営を続けていました。同じくいわき市で医療機関や介護施設を運営する公益財団法人ときわ会と医療法人ときわ会は、2019年8月翔洋会の債権者集会の承認を得て、経営権を取得し、経営統合を実現しています。

参照元:ときわ会グループ「翔洋会に関するお知らせ(8月2日現在)

日本赤十字社と兵庫県立柏原病院・柏原赤十字病院

譲渡側の医療法人兵庫県立柏原病院、柏原赤十字病院
譲受側の医療法人日本赤十字社など
活用されたスキーム新設合併
M&Aの目的・地域医療拠点の構築
・経営効率化
・サービスの多角化

兵庫県立柏原病院と柏原赤十字病院は、いずれも地域を代表する病院ではありながら、適切な棲み分けができていませんでした。そのため、それぞれ病床数は少ないながらも利用率が低く、県立柏原病院は年間15億5,800万円、柏原赤十字病院は年間3億900万円の巨額の経常損益(いずれも2008年時点)を出していました。

そこで、地域医療の拠点を構築する目的で、日本赤十字社と兵庫県、丹波市などが協力して両病院を買収して総合新病院を新設するプロジェクトが立ち上がります。2019年7月に県立丹波医療センターが開院し、総病床数320床、27診療科を有する大病院として生まれ変わりました。

また、柏原赤十字病院が有していた健診事業は市の健康センターが引き継ぎ、新しく丹波市健康センターミルネとして誕生し、新病院に隣接した構造で市民が利用しやすいようになりました。

参照元:厚生労働省「【兵庫県】地域医療介護総合確保基金活用による再編・統合事例

異業種と医療法人の事例

異業種と医療法人の間でもM&Aが実施されることがあります。いくつかの事例から期待される効果や実施目的などを解説します。

エヌアイデイとアルム・天太会

関連する医療法人天太会
関連する営利法人エヌアイデイ、アルム
活用されたスキーム資本業務提携
M&Aの目的・AIソリューションの開発
・技術力の向上

医療法人天太会と、システム開発会社のエヌアイデイ、医療・介護向けのクラウドサービスを提供しているアルムの3社は、2019年5月資本業務提携を締結しました。元々天太会とアルムは資本業務提携を締結していましたが、新たにエヌアイデイとも締結することで、保健指導や医療データを活用したAIソリューションの開発と、技術力の向上を目指します。

参照元:株式会社エヌアイデイ「株式会社アルム及び医療法⼈社団天太会との医療・ヘルスケア AI ソリューション開発に向けた業務・資本提携に関するお知らせ

NTT西日本と真泉会

関連する医療法人真泉会
関連する営利法人NTT西日本
活用されたスキーム事業譲渡
M&Aの目的・雇用継続
・事業・経営の自由化

NTT西日本は2020年12月、松山病院を真泉会に譲渡しました。松山病院は元々逓信省が運営していた病院でしたが、郵政民営化後は企業立病院として経営されていた病院です。

企業立病院は規制が多く、一般の病院よりも経営環境が厳しい傾向にあります。社会医療法人の真泉会に譲渡することで、事業や経営の自由度を高め、医療サービスの提供と雇用継続を実現しました。

参照元:NTT西日本「NTT西日本松山病院の事業譲渡について

日本郵政と生和会

関連する医療法人生和会
関連する営利法人日本郵政
活用されたスキーム事業譲渡
M&Aの目的・地域医療の発展

日本郵政は2022年10月、広島逓信病院を生和会に譲渡しました。生和会は広島県や山口県で、医療機関や介護施設を運営する法人です。

生和会に譲渡したことで、広島逓信病院はさらなる地域医療の発展を目指し、経営を継続しています。なお、譲渡後は名称を広島はくしま病院と変更しました。

参照元:日本郵政株式会社「広島逓信病院の事業譲渡について

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医療法人のM&Aを成功させるポイント

医療法人のM&Aを成功させるポイントとして、次の点が挙げられます。

  • 地域ニーズを調査する
  • M&Aの準備を早期に開始する
  • 適正な価格を設定する
  • 利害関係者に誠意を持って対応する
  • 行政との折衝・許認可引き継ぎを計画的に推進する

それぞれのポイントについて解説します。

地域ニーズを調査する

医師不足が叫ばれていますが、どこにでも当てはまるわけではありません。都市部と地域では医療機関や医療スタッフの充実度に大きな差があり、医療機関を開業しても採算が合わないケースもあります。

M&Aを実施する前に、地域ニーズを詳細に調査することが必要です。地域によっては対応診療科を増やすほうが良いことや、反対に専門性を追求するほうが良いこともあります。また、健診サービスや薬局などの他の医療関連の施設・サービスが不足している可能性もあります。

M&Aの準備を早期に開始する

M&Aは相手法人が見つかるまでに時間がかかることがあります。医療法人の買収や売却を検討している場合は、早期にM&Aの準備を開始することが大切です。

また、M&A実施後も経営統合や後継者育成などに時間がかかります。事業承継を検討している場合なら、目標とする時期から逆算して、早めにM&Aに着手しましょう。

適正な価格を設定する

売却を検討している医療法人は少なくないため、価格設定によっては買い手がつかない可能性もあります。M&A仲介会社にも相談し、妥当な価格を設定しましょう。

一般的に、譲渡価格は企業価値評価額をベースにして決定します。医療法人は非営利法人のため、過去のM&Aの事例からも譲渡価格を設定しやすいといわれています。

利害関係者に誠意を持って対応する

医療法人の買収・売却には、多くの利害関係者が関わります。各法人に勤務する従業員や患者、あるいは医療法人の土地を所有する地主など、多くの人々に影響を及ぼします。

利害関係者に誠意のない対応をすると、好ましくない印象を持たれるだけでなく、M&Aの交渉が期待するような方向で進まないかもしれません。「売ってやる」「買ってやる」といった気持ちを持たず、誠意を持って対応するようにしてください。

行政との折衝・許認可引き継ぎを計画的に推進する

医療法人の買収・売却は法人・個人だけでなく、行政とも関わります。さまざまな法律で医療法人の運営・経営が規定されているため、行政との折衝にも時間がかかると想定されます。

また、許認可の引き継ぎにも時間がかかる可能性があるでしょう。予定通りにM&Aを進めていくためにも、行政との折衝や許認可の引き継ぎは計画的に推進していくようにしてください。

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まとめ

医療業界は後継者不足や経営問題に悩む法人が多く、解決方法の一つとしてM&Aが選択されるケースも増えてきています。M&Aにより、事業承継や経営不振の解決だけでなく、事業の多角化や規模拡大も実現できることがあります。

レバレジーズM&Aアドバイザリー株式会社は、医療法人のM&Aの実績豊富な全国対応のM&A仲介会社です。料金に関しては、M&Aの成約時に料金が発生する完全成功報酬型です。 M&A成約まで、無料でご利用いただけます(譲受側のみ中間金あり)。 医療法人の買収・売却を検討している方は、お気軽にお問い合わせください。