このページのまとめ
- 事業売却とは、会社の事業の一部または全部を第三者に売ること
- 事業売却によって、資金調達や経営リソースの集中などが叶うメリットがある
- 事業売却の相場は、株式市場と照らし合わせたり年買法を用いたりして算定する
- 事業売却にかかる主な税金は「法人税」「消費税」「不動産取得税」「登録免許税」
- 事業売却を成功させるには、事業の魅力を磨いたり支援機関を利用したりするのがおすすめ
「事業売却をしたいけど何から調べたらよいのか分からない…」とお困りの方も多いのではないでしょうか。
事業売却を行うためには、価格相場の把握や相手探し、書類の作成、各種手続きなど、多くのプロセスを踏みます。
本コラムでは、事業売却の基礎知識を紹介。事業売却の方法やメリット、相場の算定方法などについて解説します。事業売却完了までの一連の流れや成功のポイントなども記載しているので、ぜひ参考にしてください。
目次
事業売却とは
事業売却とは、会社の事業を第三者に売ることをいいます。
事業のすべてを譲渡することも、事業の一部を譲渡することも、どちらも可能です。
事業売却の2つの方法
事業譲渡
事業譲渡は英語で表すと「Asset Purchase」で、会社の事業の一部またはすべてを第三者に売却することを指します。「事業売却」と同義に扱われる言葉です。
事業譲渡においては、売却することによって得られる利益は会社が受け取ります。
株式譲渡
株式譲渡とは、会社が所有する株式を売却することです。英語では「Stock Purchase」といいます。
「会社売却」と呼ぶこともあります。
事業譲渡に比べて容易な手続きで経営権を移すことが可能です。
株式譲渡によってあがる利益は、株主である経営者が受け取ります。
事業売却を行う4つの目的
事業売却を行う目的は主に以下の4つです。
1.事業を継続させるため
事業売却を行うことによって、自社の事業を継続させることができます。
後継者問題により事業が途絶えそうなとき、事業売却が危機的状況を打破する方法になります。
事業売却を行うことができれば、資産やノウハウを引き継ぐことが可能です。
また、従業員の雇用も守られ、事業を引き続き支えてくれるでしょう。
2.事業見直しを行うため
事業売却の目的の1つは、事業を見直すことです。
赤字が続いている事業がある場合や、力を入れたい事業がほかに発生した場合などに、事業売却が実施されます。
事業売却をすることにより、利益が見込まれるコア事業に注力できるようになります。
3.資金を確保するため
資金を集めることも、事業売却をすることの目的だといえます。
資金不足に悩む企業であれば、事業売却によって得た資金を使って事業を立て直すのも1つの選択肢です。
集めた資金を使って、注力したい事業や新たに始める事業に投資することができます。
4.財務基盤を安定させるため
財務基盤を安定させることを目的に事業売却を行う企業も存在します。特にベンチャー企業がこの目的で事業売却の手段をとっています。
まだ伸びていく過程にある会社が、事業売却によって大企業の傘下に入れば、財務基盤の安定を図ることが可能です。
財務基盤を安定させることで、人材確保や設備の増設などに投資できるようになります。長期的な観点で考えると、会社にとって大きなプラスになるでしょう。
事業売却の価値の4つの算定方法
事業売却の価値を求める方法は、「DCF法」「類似会社比較法」「時価純資産法」「年買法」の4つです。
それぞれの詳しい計算方法を紹介します。
1.DCF法
DCF法(Discounted Cash Flow 法)とは、割引現在価値を用いて事業の価値を算出する方法です。
将来的に得られることになるキャッシュ・フローを見積もり、ディスカウントレートを使って割引現在価値を算出します。
2.類似会社比較法
類似会社比較法とは、売却対象の企業と類似した上場企業の株価を参考にして事業価値を算出する方法です。「マルチプル法」とも呼ばれます。
用いる倍率には、企業の評価指標であるEBITDAのほか、財務諸表にある売上高や営業利益、当期純利益などが利用されます。
3.時価純資産法
時価純資産法とは、純資産の時価から事業の価値を算定する方法です。
時価の影響を受けやすい土地が事業売却予定の資産に多く含まれる場合をはじめ、DCF法や類似会社比較法では計算が難しい赤字の事業の価値を算定したい場合などにも利用されます。
時価純資産法では、まず事業が保有している資産と負債の時価を出し、そして資産の時価から負債の時価を引きます。
そうして算定された純資産の時価が、事業売却の価値とみなされます。
時価を正しく算定するためには専門家による評価が必要になるため、外部サービスへの依頼をすることがほとんどです。
4.年買法
年買法とは、時価純資産に数年分の営業利益を足して事業の価値を算出する方法です。「年倍法」と表記される場合もあります。
計算式にすると「時価純資産+営業利益×任意の年数」です。
掛ける年数は、売却する事業の営業利益が見込まれる年数を挿入します。
営業利益が見込まれる年数は譲渡側と譲受側の企業の合意によって決定され、一般的に1~5年の間の年数が使用されることが多いようです。
年買法はほかの算定方法と比べると簡易な方法です。正確性は劣りますが、大まかな事業売却の価値をスピーディに算出できます。
事業売却の相場価格
事業売却の相場価格は、主に株式市場と照らし合わせることで求められます。
また、年買法を使って算定することも方法の一つです。
株式市場と照らし合わせて算定する
事業売却の相場価格は、一般的に株式市場と照らし合わせて算出されます。
売却予定の事業の純利益に、東証一部に上場している銘柄の平均PER(株価収益率)を掛けた金額が事業売却の相場価格です。
日本取引所グループの「規模別・業種別PER・PBR」によると、東証一部に上場している銘柄のPERは平均で20.4倍です(2022年4月時点)。
たとえば、売却する事業の純利益が年間1,000万円だった場合、計算式は「1,000万円×20.4 = 2億400万円」となり、事業売却の相場価格は2億400万円と見積もることができます。
ただし、株式市場と照らし合わせて事業売却の相場価格を求める場合、注意することが2点あります。
1つ目は、株式市場はマクロ経済の影響を受けやすい点です。
経済社会に大きな動きがあれば、株価やPERも大きく変動する可能性があります。時が経つと当時算定した相場価格と乖離する恐れがあるので、常に最新の数値を参考にしましょう。
2つ目は、一般的に使用される平均PERが、東証一部に上場しているプライム市場におけるすべての業種の平均PERであることです。
もし厳密な事業売却の相場価格を算出したい場合は、売却予定の事業と同じ市場区分・業種の平均PERを参考にしましょう。売却予定の事業と類似した企業のPERを参考にすることもおすすめです。
年買法を使って求める
事業売却の相場価格は、年買法でも計算できます。
「時価純資産+営業利益×3~5年」で算出される金額が、事業売却の相場価格の目安です。
時価純資産が1億円で、営業利益が1,200万円の事業売却を例に挙げると、計算式は「1億円+1,200万円×3~5年」となり、事業売却の相場価格は「1億3,600万円~1億6,000万円」と算定できます。
事業売却に関する税金の種類
事業売却に際してかかる主な税金の種類は、「法人税」「消費税」「不動産取得税」「登録免許税」の4種類です。
売却側にかかる「法人税」
事業売却する側にかかる主な税金は、法人税です。
事業売却を行った際に発生する譲渡損益に法人税が課税されます。
節税方法
事業譲渡による事業売却の場合、あらかじめ余分な資産を整理して減らしてから譲渡することで、税額を低く抑えられます。
株式譲渡をすることで事業売却を行う場合は、事前に不必要な資産を別の会社に移行しましょう。そもそもの売却価格を下げることが節税につながります。
また、役員退職金を活用することも節税方法の一つです。
買収側にかかる「消費税」
事業売却の買収側が支払う主な税金は、消費税です。
譲渡される資産に課税対象資産が含まれている場合に消費税がかかります。
課税の対象となる資産は、有形固定資産や営業権、棚卸資産などです。土地は該当しません。
買収側にかかる「不動産取得税」
事業売却の対象に不動産がある場合、不動産取得税を支払う必要があります。
登記の有無や取得の理由を問わず課税される税金です。また、無償であっても課税されます。
買収側にかかる「登録免許税」
登録免許税は、不動産取得に関係する税金です。
事業売却で不動産を取得し、不動産登記を行う場合、登録免許税がかかります。
節税方法
事業売却の内容に営業権がある場合、節税できることがあります。
買収した資産の時価を超過した部分の営業権に値する金額は、5年間で均等償却し、課税所得の損金に算入することが可能です。
事業売却の会計処理のやり方
事業売却における会計処理の方法を解説します。
勘定科目・簿価・時価は、以下の内容だと仮定して例を示していきます。
勘定科目 | 簿価(千円) | 時価(千円) |
棚卸資産 | 35,000 | 35,000 |
地 | 280,000 | 300,000 |
建物 | 50,000 | 45,000 |
機械装置 | 110,000 | 100,000 |
ソフトウェア | 80,000 | 70,000 |
特許権 | 3,000 | 100,000 |
商標権 | 2000 | 3,000 |
合計 | 560,000 | 653,000 |
売却側と買収側、別々にみていきましょう。
売却側の会計処理の場合
事業売却において、売却価格は時価から算出します。
一方、譲渡対象となる資産は簿価で計上します。
事業売却では無形資産の価値を示す「のれん」を仕訳内容に含めるのが一般的です。
事業譲渡益は時価総額から簿価総額を差し引いた金額になりますが、のれんがある場合はその分が事業譲渡益に加算されます。
上記の表からのれんを含めない事業譲渡益が9,300万円となり、のれんが1億4,700万円と算定された場合、事業譲渡益の合計金額は2億4,000万円になります。
したがって、売却額は簿価総額の5億6千万円に事業譲渡益2億4,000万円を足した、8億円です。
仕訳としては以下の表のとおりになります。
借方には、売却価格である現金預金の金額を記載してください。
貸方には、売却した資産や事業譲渡益の内訳・金額を記載しましょう。
借方 | 貸方 | ||
勘定科目 | 金額(千円) | 勘定科目 | 金額(千円) |
現金預金 | 800,000 | 棚卸資産 | 35,000 |
土地 | 280,000 | ||
建物 | 50,000 | ||
機械装置 | 110,000 | ||
ソフトウェア | 80,000 | ||
特許権 | 3000 | ||
商標権 | 2,000 | ||
事業譲渡益 | 240,000 |
消費税に関しては、貸方に仮受消費税を記載し、借方には同額の現金預金を記載します。
のれんが消費税の課税対象になる点に注意しましょう。
なお、土地は非課税です。
買収側の会計処理の場合
事業売却において買い手は資産を時価で譲受するので、借方に記載する資産の金額は時価です。
貸方には現金預金(売却価格)を記載します。
のれんの金額は、現金預金と時価総額の差額にあたります。
のれんは借方の勘定科目に追加してください。
借方 | 貸方 | ||
勘定科目 | 金額(千円) | 勘定科目 | 金額(千円) |
棚卸資産 | 35,000 | 現金預金 | 800,000 |
土地 | 300,000 | ||
建物 | 45,000 | ||
機械装置 | 100,000 | ||
ソフトウェア | 70,000 | ||
特許権 | 100,000 | ||
商標権 | 3,000 | ||
のれん | 147,000 |
消費税は借方に仮払消費税として記載します。貸方には同じ金額の現金預金を書いてください。
なお、土地には課税がありません。
のれんの減価償却をする場合
のれんは償却資産です。最長20年間にわたって減価償却をすることができます。
のれんの減価償却をする際は、借方の勘定科目に「のれん償却」、貸方の勘定科目に「のれん」と記載してください。
のれんの減価償却については、同額の償却費を毎年計上する「定額法」を採用することがほとんどです。
たとえば定額法を用いて1億4,700万円ののれんを10年間で償却する場合、仕訳は以下のとおりになります。
借方 | 貸方 | ||
勘定科目 | 金額(千円) | 勘定科目 | 金額(千円) |
のれん償却 | 14,700 | のれん | 14,700 |
年間の償却額は1,470万円です。
償却期間を決めるときは、「その事業を買収するために投資した金額をどれくらいの期間で回収できるか」を考え、その年数を償却期間の目安にしましょう。
事業売却の6つのメリット【売る側】
事業売却において、事業を売却する側が得られるメリットは次の6つです。
- 資金を調達できる
- 売却する資産を選べる
- 経営リソースを集中させることができる
- 従業員が働き続けられる
- 商号を変えずに経営を続けられる
- 債権者へ通知しなくてもよい
以下で詳しく説明します。
1.資金を調達できる
事業売却を行うメリットの1つは、資金を調達できることです。
事業売却は売買契約によって成立するため、売り手側は売却益を手に入れられます。
2.売却する資産を選べる
事業売却のメリットは、売却する資産を任意で決められることです。
資産ごと会社を売却する会社売却とは異なり、事業売却では売る資産を選べます。
資産を確保したまま事業を継続してさらに売却益を得られることは、事業売却のメリットといえるでしょう。
3.経営リソースを集中させることができる
事業売却で不要な事業や負債を抱える事業を譲渡すれば、ほかの事業に経営リソースを割けるようになります。将来性がある新規事業や特に注力したい事業に集中することで、経営改善につながることが期待できるでしょう。
残った資産や事業売却によって得た売却益も、力を入れたい事業への投資に利用できます。
4.従業員が働き続けられる
事業売却を選ぶメリットは、従業員がそのまま働き続けられることです。
事業売却と聞くと「従業員はどうなるの?」と心配になる方もいると思いますが、会社自体は存続するので、基本的に従業員は会社に在籍することができます。
また、買収側の企業は豊かな経営資源を保有していることが多く、職場環境や待遇が改善されるケースも大いに考えられるでしょう。
リストラはされにくい
事業売却では、買い取った事業を支える人材の確保も目的の1つとしていることが多いため、従業員がリストラされることはほとんどありません。
また、労働契約法の第16条において、「客観的に合理的な理由を欠いており、社会通念上相当であると認められない解雇は無効とする」と定められているため、簡単にはリストラできません。
今までともに歩んできた従業員の雇用は守られるので安心してください。
従業員がリストラされるリスクを最小限に抑えたい場合は、事業売却の交渉時にリストラの必要性がないかどうかを買収側に確認しておきましょう。「従業員の雇用を継続すること」を事業売却の条件に盛り込むことも有効な手段です。
5.商号を変えずに経営を続けられる
事業売却をするメリットは、会社の商号を変えないまま経営を続けられることです。
会社売却では商号を使用する権利も買収側に移る一方、事業売却であれば商号を使い続けられます。
その商号で築いてきた歴史やブランド力をそのままに、経営を継続することが可能です。
また、商号が変わらないため、取引先や顧客に混乱を招くこともありません。
変わらぬ信頼を寄せてもらえるでしょう。
6.債権者へ通知しなくてもよい
事業売却であれば、債権者への通知・公告する必要がありません。
債権者をはさむプロセスが減り、事業売却がスムーズに進められます。
事業売却の3つのデメリット【売る側】
事業売却において、事業を売る側が感じうるデメリットは、「税金がかかる」「株主総会で賛同を得なければならない」「入念な準備が必要である」の3つです。
1.税金がかかる
事業売却をすると税金がかかる点は覚えておく必要があります。
事業売却をした際に発生する譲渡損益に課税される法人税を納めましょう。
2.株主総会で賛同を得なければならない
事業売却を行うときに考えられるデメリットは、株主総会の特別決議で賛同を得なければならないことです。
株主からの賛同を得るためには、納得してもらうための準備や手続きが必要です。
その準備や手続きには時間や労力を要するため、事業売却を行うときの大変なポイントといえます。
なお、売却する資産が総資産の5分の1を超えない場合、株主総会の特別決議は不要です。
3.入念な準備が必要である
事業売却のデメリットは、入念な準備が必要とされることです。
比較的手続きが容易な株式譲渡とは異なり、事業売却ではさまざまな手続きが求められます。
事業売却を進める過程で、事業別財務諸表や事業譲渡届出書など、多数の資料や提出書類を作成しなければなりません。
また、事業売却が締結したあとも、個別財産の一つひとつの事業承継の許諾を得る必要があるなど、手続きは多岐にわたります。
求められる書類や手続きは会社の規模や事業売却の内容によってケースバイケースなので、自社の事業売却にあたって必要なものを見極めることも大切です。しっかり準備をして、漏れがないようにしましょう。
事業売却の4つのメリット【買う側】
事業売却において、事業を買収する側が得られるメリットは次の4つです。
- 買収する事業・資産を選定できる
- 「のれん」を損金算入できる
- 簿外債務を引き継ぐリスクがない
- 債権者への通知が不要
以下で詳しく説明します。
1.買収する事業・資産を選定できる
事業売却のメリットは、買収する事業や資産を選べることです。
会社を丸ごと買収する場合と異なり、負債やいらない資産は承継しないこともできます。
売却側の企業と交渉をし、買収する対象を決めましょう。
2.「のれん」を損金算入できる
事業売却において買収を行うメリットの1つは、のれんを損金算入できることです。
「のれん」とは、会社・事業が持つブランド力やノウハウなどの無形資産の価値を指します。
「営業権」や「超過収益力」という言葉が同じ意味で使用されることもあります。
事業売却で事業を買収した場合、のれんに相当する金額を「のれん償却」の損金扱いにすることが可能です。節税につながることは、事業の買い手にとってメリットだといえます。
3.簿外債務を引き継ぐリスクがない
事業売却では会社のすべてを買い取るわけではないため、簿外債務を引き継ぐ必要はありません。
「簿外債務」とは、貸借対照表上に載っていない債務のことです。
未払いの残業代や社会保険金、退職給付引当金、訴訟リスクなどが簿外債務の例です。
簿外債務を引き継いでしまうと、内容によっては運営に支障をきたすほどの損害を被ることもあるので、簿外債務を引き継ぐリスクがないことは大きな安心材料です。
4.債権者への通知が不要
事業売却において事業を買収する場合、債権者への通知・公告は必要ありません。
債権者への連絡や対応をするという工程が省けるのは、事業売却におけるメリットの1つです。事業の買収を円滑に進行することができます。
事業売却の2つのデメリット【買う側】
事業売却において、事業を買う側のデメリットは、「税金を払う必要がある」「手続きの手間がかかる」の2つです。
1.税金を払う必要がある
事業売却において事業の買収を行った場合、税金がかかります。
課税対象となる可能性がある税金の種類は、消費税や不動産取得税、登録免許税などです。
資金繰りを考える際には、税金の支払いも視野に入れておきましょう。
2.手続きの手間がかかる
事業売却で事業を買収するときのデメリットは、手続きが大変であることです。
事業売却により事業の買収を行った場合、種類によっては許認可の取得や移転の手続きが求められることがあります。多くの行政上の手続きに追われる可能性があることは念頭に置いておきましょう。
また、事業売却では従業員の労働契約は引き継がれないので、雇用契約を新たに結ぶことが必要です。
労働契約を結ぶためには合意が必要であり、合意に向けて事前協議を開催しなければなりません。
合意を得られるような説明を用意したり、雇用契約を交わしたりと、やるべきことはたくさんあります。
事業売却の流れ
ここでは、事業売却完了までの一連の流れを紹介します。
1.売却する事業を決定する
まずは売却する事業を決めます。
今後の経営戦略に基づき、業績が振るわない事業やコアでない事業などの売却を検討しましょう。
売却する事業が決まったら、その事業の情報を整理してください。
2.事業売却を行う相手を探す
事業売却を持ちかける相手を探します。事業売却の相手を見つける方法は、主に以下の4つです。
自社のコネクションを駆使して探す
馴染みがある取引企業に対して、事業売却を直接持ちかける方法です。
お互いの会社についてすでによく知っている相手になるので、事業売却をスピーディに進められる可能性があります。
また、取引のある企業を介して事業売却の相手を紹介してもらうことも有効な方法の1つです。
信頼している取引先からの紹介であれば、失敗のリスクも比較的低くなるといえます。
金融機関に相談する
地域に根付いた会社を事業売却の相手に選びたい場合は、金融機関に相談することもおすすめです。
金融機関は多くの地元企業とつながっています。各企業の経営状況にも詳しいため、事業売却をする相手としてふさわしい会社を紹介してくれるでしょう。
マッチングサイトで探す
事業売却の相手を探す方法に、マッチングサイトがあります。
マッチングサイトを利用するメリットは、たくさんの候補先企業から相手を選べることです。
また、事業売却における条件を設定して候補先企業を絞って探すこともできます。より希望に合致した相手を見つけやすい仕組みが整えられています。
M&A仲介会社を利用する
M&A仲介会社を利用して事業売却の相手を探すことも、有効な手段です。
M&A仲介会社は、事業売却をはじめとするM&A全般を支援してくれます。事業売却の相手探しも提供しているサービスの1つです。
M&A仲介会社は独自のデータベースやネットワークを持っており、幅広い候補先を所有しています。
得意とする業界・分野があるM&A仲介会社も存在していて、自社とマッチしたM&A仲介会社を選べば、より精度の高いマッチングが実現するでしょう。
3.事業売却の交渉をする
事業売却の相手が決まったら、交渉スタートです。
双方の経営者が話し合い、売却する事業の内容や譲渡金額、その他条件などを調整します。
事業売却の取引内容が決まったら作成するのが、「意向表明書」です。
意向表明書には法的拘束力はありませんが、買収側の希望を書面に残すために作成します。
事業売却の交渉時には、M&A仲介会社や事業売却のプロフェッショナルを活用することがおすすめです。専門的なアドバイスをしてくれるので、話し合いが円滑に進みやすいでしょう。
4.基本合意をする
事業売却の内容が固まったら、「基本合意書」を締結して基本合意を行います。
基本合意書には法的拘束力はないものの、事業売却の今後の流れをスムーズにしたり、食い違いによるトラブルの発生リスクを下げたりする効果が期待できる書類です。
安心して事業売却を進められるよう、基本合意書は締結しておきましょう。
基本合意書は、英語では「LOI(Letter of Intent)」や「MOU(Memorandum of Understanding)」と呼ばれます。
基本合意書の内容は、事業売却のスケジュールや価格、売却対象の詳細、従業員の承継条件などです。
情報の記載漏れを防ぐため、M&A仲介会社や事業売却の専門家からのアドバイスを受けると良いでしょう。
5.デューデリジェンスを実施する
基本合意書の締結が完了したら、買い手側がデューデリジェンスを実施します。
デューデリジェンスとは、買収する予定の企業の価値やリスクなどに関する調査を行うことです。財務や税務、法務、事業内容など、幅広い範囲を調査します。
事業売却においては、買収する事業に関する範囲のみを調査対象とすることがほとんどです。
調査される売り手側は、デューデリジェンスに対応することになります。調査に必要な書類を作成・提出したり、質疑に応答したりして、買い手からの信頼を得られるように対応しましょう。
デューデリジェンスは必ずしも行う必要はありませんが、リスクを認識しないまま事業売却を進めてしまうことがないよう、実施する企業が多いようです。
6.取締役会で決議する
デューデリジェンスを実施して売却する事業に問題がないことが分かったら、取締役会で決議します。
役員に確認をとり、事業売却の実行に向けて方針を固めましょう。
また、契約内容や必要書類の最終確認もこの時点で行います。もし不備が見つかった場合は、迅速に修正対応してください。
7.事業譲渡契約を締結する
取締役会で決議したら、事業譲渡契約書を作成して締結します。
事業譲渡契約書の記載内容には厳密な規制はありません。
主な事業譲渡契約書の記載事項には、売却対象となる事業の資産・負債や、価格、譲渡を行う期日などが挙げられます。売り手と買い手の合意のもと、必要事項を決定してください。
事業譲渡契約書は法的拘束力を持っています。締結完了後はその内容を遵守することになるので、記載事項は慎重に決定することが必要です。
そのため、事業売却の全般的な知識に長けたM&A仲介会社や、リーガルチェックをしてくれる弁護士などの専門家のアドバイスを受けると良いでしょう。
8.報告書の作成・提出を行う
事業譲渡契約の締結が完了したら、報告書の作成・提出に移ります。
事業売却に関する情報を記録として残しておく意味でも大切なプロセスです。
同時に、臨時報告書の提出と公正取引委員会への届出を行うのを忘れないようにしましょう。
9.株主総会で決議する
事業売却を行うためには、株主総会で決議をとることが必要です。
事業売却の効力発生日の20日前までに、事業売却を実施する旨と、それに伴って株主総会を開催することを株主に告知してください。
そして、事業売却の効力が発生する前日までに、株主総会の特別決議において承認を得ましょう。
特別決議による承認は、議決権の過半数を保有する株主が出席したうえ、その出席者の3分の2以上から賛成を得ることで成立します。
株主総会では、株主に快く承認してもらえるように、事業売却を行う意義や今後の会社の方針などをしっかり説明しましょう。
また、説明において「事業売却に反対の場合、株主には株式の買取請求権が与えられること」も周知する必要があります。
10.各種手続きを済ませる
事業売却を完了させるにあたって求められる各種手続きを行いましょう。
ここでの手続きは、基本的に買収側が主体となって動きます。具体的には、事業の資産や権利、債務、契約などを移転する手続きをします。監督官庁への許認可・各種手続きを進めてください。
事業売却を成功させる4つのポイント
ここでは、事業売却を成功させるポイントを4つ紹介します。
満足度の高い事業売却にできるよう、ぜひ参考にしてください。
1.企業の魅力を高める
事業売却を成功させるためには、売却する事業に魅力を感じてもらうことが必要です。
独自性が高い強みを持っていたり、突出したノウハウを備えたりしている事業であれば、多くの買い手企業の目に留まる可能性が高まります。
買い手にはまだない知識・技術を持っていれば、高評価を得られるでしょう。
2.問題点を解決してクリーンな状態にする
事業売却は売り手にとっても買い手にとっても、大きな決断です。相手の会社や売却対象の事業に対して信頼を寄せられるかどうかは、事業売却を進めるにあたって重要なポイントだといえるでしょう。
もし売却する事業に解決すべき問題点があるのであれば、早期に対処してください。
特に、財務や法務に関して重大な違反があとから発覚した場合、信頼を一瞬で損なってしまい、交渉決裂に至るケースも考えられます。
事業売却の過程では、売り手の事業の価値やリスクについて徹底的に調査する「デューデリジェンス」が行われることがほとんどです。違反や負債を故意に隠したり、うっかり申告漏れをしたりすることがないように気を付けましょう。
3.事業の将来性をアピールする
事業売却の対象事業の将来性をアピールしましょう。
事業を買収する企業は、事業売却によって得た事業を活用することによってさらなる発展を目指そうと考えています。
売却対象の事業に将来性があることをアピールして伝えることができれば、買収を検討してくれる可能性が高まります。
また、売買価格もアップすることが期待できるでしょう。
4.事業売却の支援機関を利用する
事業売却にはさまざまなプロセスが存在し、内容も複雑です。
事業売却について知り尽くした支援機関を利用することは、事業売却の成功への近道となります。
事業売却を支援してくれるものには、金融機関やマッチングサイト、M&A仲介会社などがあります。予算や事業内容によって、自社の事業売却に合った支援機関を選びましょう。
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