このページのまとめ
- 非上場株式の評価は相続や事業承継、M&Aなどの場面で必要
- 非上場株式の評価方法は、同族株主等への該当有無などによって判断する
- 非上場株式の評価方法には、類似業種比準方式や純資産価額方式などがある
- 一般的にM&Aでは、DCF法などで算出した企業価値をもとに取引金額を決定する
- 非上場株式の評価損は、一定の条件を満たした場合に計上可能
非上場株式の評価方法には、類似業種比準方式や純資産価額方式などがあり、同族株主等の有無や会社規模などの基準によって活用する手段が変わります。また、M&Aでは原則として取引金額が時価となるため、取引金額を算出する際の基準となるバリュエーションの手段を理解しておくことが重要です。非上場株式における評価手段を選ぶ基準や算式などについて、国税庁が示している方式を中心に解説します。
目次
非上場株式の評価が必要となる場面とは
非上場株式の評価は、主に以下2つの場面で必要となります。
- 相続・贈与(事業承継)
- 第三者とのM&A
以下では、各場面で必要となる理由を解説します。
1.相続・贈与(事業承継)
非上場株式を相続または贈与によって引き継ぐ場合、相続税や贈与税が課される可能性があります。
国税庁 タックスアンサー「No.4102 相続税がかかる場合」によると、相続税に関しては、相続および遺贈によって取得した財産(相続時精算課税の適用を受けている財産を含む)の合算金額が基礎控除額を超える場合、超えた部分に課されます。基礎控除額は、「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」の算式で算出します。
一方で国税庁 タックスアンサー「No.4402 贈与税がかかる場合」によると、贈与税に関しては、1年間に贈与を受けた財産の合算額が基礎控除額の110万円を上回る場合に、超えた部分に対して課されます(相続時精算課税の場合)。
つまり、相続税や贈与税の課税可否判断や課税額の算出を行うには、相続財産や贈与財産の合算額を算出する必要があります。したがって、相続・贈与財産に非上場株式が含まれている場合には、必ず株価の評価を行わなくてはいけません。
なお、事業承継の場合には、先代経営者から後継者が株式を承継するプロセスが発生します。そのため、相続と贈与のどちらを用いるにせよ、非上場株式の評価が求められます。
※参照元:
国税庁 タックスアンサー「No.4102 相続税がかかる場合」
国税庁 タックスアンサー「No.4402 贈与税がかかる場合」
2.第三者とのM&A
第三者とのM&Aでは、非上場株式の譲渡を伴うことがあります。非上場株式の譲渡にあたっては、企業価値の評価(バリュエーション)や税金の算出を行うために、やはり株式の評価が必要となります。
以上のことから、贈与・相続や売却等によって株式の持ち主が変わる場合には、原則として非上場株式の評価が必要になると言えます。
非上場株式を時価で評価する重要性
非上場株式の時価評価が重要である最大の理由は、正しい金額で納税する必要があるためです。外部の第三者同士によるM&Aなど、純然たる第三者間による取引の場合、原則として取引金額が時価となり、譲渡益に対して課税されます。
そのため、売り手・買い手双方が自らの利益を重視し、公平な交渉に基づいて決定された取引金額であれば、時価として認められるでしょう。
一方で、第三者間ではない間柄(親族間など)での売買取引では、税務上有利となるように取引金額を自由に決定できてしまいます。そのため、純然たる第三者間によらない非上場株式の譲渡(相続や贈与も含む)では、主に相続税法などの各種税法に規定された時価に基づいて納税する決まりとなっています。
時価と乖離した金額をもとに納税すると、想定外に納税する金額が増えてしまうリスクが生じます。たとえば、時価よりも著しく低い価額で株式を取得すると、「相続税法」第7条に基づいて贈与税が課されるおそれがあります。また、取得する側が法人である場合には、受贈益に対して法人税が課されることになります(「法人税法」第22条第2項)。
時価よりも安い金額で計算した金額に基づいて納税した場合、後になって過少申告加算税の支払いを裁判所から命じられることになり得ます。こうした事態を防ぐためにも、時価評価は重要となります。
※参照元:
e-Gov「相続税法」第7条
e-Gov「法人税法」第22条第2項
相続・贈与における非上場株式の評価方法を選ぶ基準
非上場株式の相続・贈与では、時価を正しく算出することが求められます。そのため、国税庁 タックスアンサー「No.4638 取引相場のない株式の評価」に基づいて、評価手段を選ぶことが原則となります。評価手段は複数あり、状況によって適している手段は異なります。
ここでは、どの評価手段を選ぶかを判断する基準をご紹介します。
※参照元:国税庁 タックスアンサー「No.4638 取引相場のない株式の評価」
同族株主等かどうか
はじめに、株式を取得した株主が「同族株主等かどうか」を確認します。原則として、同族株主等に該当する場合は一部の例外を除いて「原則的評価方式」、該当しない場合は「特例的評価方式(配当還元方式)」によって非上場株式を評価します。
国税庁「同族株主の判定」によると、同族株主とは課税時期における株主のうち、「株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数」が「評価会社の議決権総数の30%以上(株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数が最も多いグループの有する議決権の合計数が50%超である場合には、50%超)」である場合における「その株主及びその同族関係者」を指します。
同族関係者とは、株主や株主の親族、株主と事実上の婚姻関係にある人、同族関係者が議決権の過半数を持つ会社などが該当します(「法人税法施行令」第4条)。
つまり、主として議決権総数の30%超(または50%超)を持つグループに属しているか、もしくはその同族関係者である場合には同族株主と判定できます。
※参照元:
国税庁「同族株主の判定」
e-Gov「法人税法施行令」第4条
一定の少数株式所有者に該当するかどうか
前述のとおり、同族株主等に該当する場合は主に「原則的評価方式」を用います。ただし、同族株主のうち「一定の少数株式所有者」に該当する場合には、例外的に特例的評価方式(配当還元方式)を用いることとなります。
一定の少数株式所有者への該当可否は、国税庁の「(同族株主以外の株主等が取得した株式)」財産評価基本通達 第8章 第1節188をもとに判断します。非常に複雑で判断には専門的な知識を要するため、必ず税理士などの専門家に相談しましょう。
※参照元:国税庁「(同族株主以外の株主等が取得した株式)」財産評価基本通達 第8章 第1節188
会社の規模はどのくらいか
原則的評価方式を用いる場合、会社の規模によって使用する評価手段が以下のとおり細分化されています。
- 大会社:類似業種比準方式
- 小会社:純資産価額方式
- 中会社:大会社と小会社の評価手段を併用
なお、会社規模は、従業員数や業種、年間取引金額、総資産価額などによって詳細に規定されています。中小企業の定義は、「中小企業基本法」という法律で業種ごとに定められています。ここで定められている中小企業以外の企業のことを大企業と呼びます。
特定の評価会社における非上場株式の評価
非上場株式の評価に関しては、前章でお伝えした内容が基本となります。ですが、「特定の評価会社における非上場株式」に関しては別途評価の指針が定められています。
この章では、前述した国税庁 タックスアンサー「No.4638 取引相場のない株式の評価」をもとに、特定の評価会社に関する定義や具体的な評価方法を解説します。
※参照元:
国税庁 タックスアンサー「No.4638 取引相場のない株式の評価」
特定の評価会社とは
国税庁 財産評価基本通達「(特定の評価会社の株式)」189によると、特定の評価会社とは、以下の条件に合致する会社を指します。
- 比準要素数1の会社
- 株式等保有特定会社(株式等の保有割合が一定割合以上の会社)
- 土地保有特定会社(土地等の保有割合が一定割合以上の会社)
- 課税時期において開業から3年未満の会社、比準要素数0の会社
- 開業前もしくは休業中の会社
- 清算中の会社
なお、比準要素数1の会社とは、「配当金額」、「利益金額」、「純資産価額(簿価)」のうち、直前期末におけるいずれか2つの要素がゼロであり、かつ直前々期末における比準要素のいずれか2つ以上がゼロである会社を意味します。また、比準要素数0の会社とは、直前期末において上記3要素がすべてゼロである会社です。
※参照元:国税庁 財産評価基本通達「(特定の評価会社の株式)」189
原則として純資産価額方式を用いる
特定の評価会社に該当する場合、原則として純資産価額方式によって非上場株式の評価を行います。ただし、比準要素数1の会社に関しては、純資産価額方式と類似業種比準方式を併用した金額を用いることも認められています(国税庁 (特定の評価会社の株式)「(比準要素数1の会社の株式の評価)」189-2)。
また、株式等保有特定会社に関しては、「S1+S2方式」と呼ばれる特殊な評価法を用いることも認められています(国税庁 (特定の評価会社の株式)「(株式等保有特定会社の株式の評価)」189-3)。この方式は、通達にて算出手段が規定されているS1とS2の金額を算出し、それを合算することで評価するものです。
※参照元:
国税庁 (特定の評価会社の株式)「(比準要素数1の会社の株式の評価)」189-2
国税庁 (特定の評価会社の株式)「(株式等保有特定会社の株式の評価)」189-3
同族株主以外の株主は配当還元方式を用いる(一部ケースを除く)
例外的に、1〜4の会社に該当し、かつ同族株主以外である場合には、配当還元方式を活用する決まりとなっています。
清算中の会社の場合は清算分配見込額によって評価
清算中の会社(6の会社)に関しては、1〜5とは異なり、清算分配見込額によって非上場株式の評価を行う必要があります。具体的には、清算の結果分配を受ける見込みの金額に関して、課税時期から分配される日までの期間に応じた基準年利率による複利現価の金額を用います(国税庁(特定の評価会社の株式)「(清算中の会社の株式の評価)」189-6)。
※参照元:国税庁(特定の評価会社の株式)「(清算中の会社の株式の評価)」189-6
相続・贈与における非上場株式の評価方法
ここまで紹介したように、原則として非上場株式の評価では、原則的評価方式である「類似業種比準方式」と「純資産価額方式」、そして特例的評価方式である「配当還元方式」の3種類が活用されます。
この章では、各方式における具体的な評価方法を解説します。
類似業種比準方式
類似業種比準方式とは、事業内容が似ている上場企業の株価を基準に、自社の1株当たりの配当金額、利益額、純資産価額の3要素を比較することで、非上場株式を評価する方法です。
前述のとおり、主に大会社の評価で用います。
国税庁 財産評価基本通達「(類似業種比準価額)」180およびJ-Net21「会社の株式の評価はどうやって決まる?−類似業種比準方式」によると、この方式では以下の算式によって評価対象企業の株式価額(類似業種比準価額)を評価します。
類似業種比準価額 = 類似業種の株価 × 比準割合 × 勘酌率(大会社の場合は0.7) × (X÷50円)
比準割合 = {(a÷A)+(b÷B)+ (c÷C) ÷ 3}
※備考
- a:評価対象企業の1株当たり配当金額
- A:類似業種の1株当たり配当金額
- b:評価対象企業の1株当たり利益金額
- B:類似業種の1株当たり利益金額
- c:評価対象企業の1株当たり純資産価額
- C:類似業種の1株当たり純資産価額
- X:1株当たり資本金等の額
- 勘酌率:中会社は0.6、小会社は0.5
※参照元:
国税庁 財産評価基本通達「(類似業種比準価額)」180
J-Net21「会社の株式の評価はどうやって決まる?−類似業種比準方式」
純資産価額方式
純資産価額方式とは、会社が解散する場合を想定し、株主に分配されるはずの正味の財産価値で非上場株式を評価する方法です。前述のとおり、主に小会社の評価で用います。
国税庁 財産評価基本通達「(純資産価額)」185によると、この方式では以下の算式によって評価対象企業の株式価額(1株当たり純資産価額)を算出します。
1株当たり純資産価額 = (D – E – F)÷ 課税時期における発行済株式数
※備考
- D:相続税評価額によって算出した総資産価額
- E:相続税評価額によって算出した負債の額
- F:評価差額に対する法人税等相当額
- 法人税等相当額:評価差額の37%(国税庁 財産評価基本通達「(評価差額に対する法人税額等に相当する金額)」186-2
※参照元:
国税庁 財産評価基本通達「(純資産価額)」185
国税庁 財産評価基本通達「(評価差額に対する法人税額等に相当する金額)」186-2
配当還元方式
配当還元方式とは、株式を持つことによって受け取る年間配当金額を、一定の利率(10%)で還元することで、元本である株式の価額を評価する方法です。前述のとおり、主に同族株主等に該当しない場合の特例的な評価方式です。
この方式では、以下の算式によって評価対象企業の株式価額(1株当たり配当還元価額)を評価します(国税庁 財産評価基本通達「(評価会社の1株当たりの配当金額等の計算)」183)。
1株当たり配当還元価額 = (G÷10%) × (X÷50円)
1株当たり年間配当金額【G】 = (H÷2)÷(直前期末の資本金?÷50円)
※備考
- G:1株当たり年間配当金額
- X:1株当たり資本金等の額
- H:直前期末以前2年間の配当金合計
※参照元: 国税庁 財産評価基本通達「(評価会社の1株当たりの配当金額等の計算)」183
非上場株式の評価損に関する税務
非上場株式をめぐる税務では、評価損の計上可否を正しく判断することが重要です。この章では、評価損を計上できる条件をくわしく解説します。
非上場株式の評価損を計上できる条件
国税庁「基本通達・法人税法 第9章 第3款 有価証券の評価損」9-1-7によると、法人税法施行令 第68条第1項第2号において、非上場株式の評価損を計上するには、以下2つの条件をクリアすることが求められています。
- 法人の資産状態が著しく悪化したことに伴い、有価証券の価額が著しく低下する
- 1に準ずる特別の事実
つまり、主に「資産状態の悪化」と「株価などの著しい下落」が生じた場合に、評価損の計上が可能となります。ただし、正確に評価損の計上可否を判断するには、資産状態と有価証券価額の悪化に関する基準を知っておく必要があります。この点については、以下にて解説します。
※参照元:国税庁「基本通達・法人税法 第9章 第3款 有価証券の評価損」9-1-7
「資産状態の著しい悪化」とは
国税庁「基本通達・法人税法 第9章 第3款 有価証券の評価損」9-1-9では、下記の事実を「資産状態の著しい悪化」と定義しています。
- 有価証券取得から相当の期間経過後に、規定の事実(※)が生じる
- 事業年度終了日における発行法人の1株(または1口)当たり純資産価額が、有価証券取得時点の1株当たり純資産価額と比べて約50%以上下回る
※以下のどれかの事実が生じた場合を指します。
- 特別清算開始の命令があった
- 破産手続開始の決定があった
- 更生手続開始の決定があった
- 再生手続開始の決定があった
※参照元:国税庁「基本通達・法人税法 第9章 第3款 有価証券の評価損」9-1-9
「有価証券の価額の著しい低下」とは
国税庁「基本通達・法人税法 第9章 第3款 有価証券の評価損」9-1-7および9-1-11の規定により、以下条件をどちらも満たす場合に、有価証券の価額が著しく低下していると判断します(市場価格がない有価証券にも準用)。
- 事業年度終了時点における価額が、帳簿価額の約50%相当額を下回る
- 近い将来その価額の回復が見込まれない
なお、回復可能性の判断に関しては、過去における市場価格の推移や発行法人の業績などをもとに行われます。
※参照元:国税庁「基本通達・法人税法 第9章 第3款 有価証券の評価損」9-1-7および9-1-11
M&Aにおける非上場株式の評価方法
前述のとおり第三者とのM&Aでは、原則として取引した金額が非上場株式の時価となります。つまりM&Aでは、主として取引金額をもとに納税などの税務手続きを行います。
一般的に取引金額は、企業価値評価の結果を踏まえ、売り手と買い手の交渉によって決定します。企業価値評価(バリュエーション)を実施することで、ファイナンスの理論的な観点から適正な取引金額を検討することが可能となります。
そこでこの章では、企業価値評価における3つのアプローチを解説します。
インカムアプローチ
インカムアプローチとは、売り手企業の収益性をもとに企業価値を評価する方法です。
代表的な手法に、売り手企業が将来生み出すと考えられるフリーキャッシュフロー(FCF)を基準に用いる「DCF法」があります。DCF法では、今後の事業運営で得ることが見込まれるFCFを、WACCなどの割引率を用いて現在価値に割り引くことで企業価値評価を行います。
事業計画書をもとに、売り手企業の収益性や将来性を加味した評価を行える点がメリットです。一方で、あくまで計画に基づいた評価であるため、売り手企業の恣意が入りやすいデメリットがあります。
マーケットアプローチ
マーケットアプローチとは、市場にフォーカスして企業価値を評価する方法です。代表的な手法に、売り手企業と類似する上場企業の株価指標を基準とする「マルチプル法」があります。マルチプル法では、類似上場企業の株価指標(EBITDA倍率など)を算出し、それと売り手企業のKPIを掛けることによって企業価値評価を行います。
類似する会社や過去の取引などを基準とするため、客観性の高い評価を下せます。ただし、各企業が持つ個別の価値を反映しにくい点や、類似する企業や取引がない場合には活用できない点がデメリットです。
コストアプローチ
コストアプローチとは、売り手企業の純資産をもとに企業価値を評価する方法です。代表的な手法に、含み損などを反映・修正した時価純資産を基準とする「時価純資産法」があります。時価純資産法では、資産と負債を時価に換算し、その差額(時価純資産)をもとに企業価値評価を行います。
純資産をベースにすることで客観性の高い評価を行えます。また、他のアプローチと比べて容易に算出しやすい点もメリットです。ただし、収益性や個別の価値を反映できない点がデメリットとなります。
まとめ
本稿では、非上場株式の評価方法を選ぶ基準や具体的な算式、M&Aにおけるバリュエーションの手法を解説しました。
相続・贈与の場面では、非上場株式の評価方法を「同族株主等への該当有無」や「会社規模」などの基準に基づいて選択する必要があります。具体的な手法に、「類似業種比準方式」や「純資産価額方式」、「配当還元方式」があります。
一方で、純然たる第三者間で行うM&Aでは、原則として取引金額が時価となります。取引金額はバリュエーションの結果をもとに交渉で決定されることが多いため、インカムアプローチなどの手法を知っておくと良いでしょう。
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