このページのまとめ
- 事業承継は親族内承継・従業員承継・M&Aによる事業承継の3種類
- M&A(特に株式譲渡)による事業承継が増加傾向
- 株式譲渡のメリットは、従業員の雇用維持・売却益獲得・債務からの解放など
- 株式譲渡をした個人の売却益への所得税率は20.315%(2023年5月時点)
- 株式譲渡を実施するには会社の承認機関(取締役会または株主総会)による承認が必要
M&Aによる事業承継で数多く用いられているスキーム(手法)が株式譲渡です。しかし、中小企業経営者の多くは、初めてのM&Aで不安点も多いかもしれません。
本コラムでは、株式譲渡のメリット・デメリット、株式譲渡で売り手に課される税金、株式譲渡の社内手続きなど株式譲渡の基本的な内容をまとめました。また、事業承継の種類、株式譲渡と事業譲渡の違い、株式譲渡での必要書類なども解説しています。
目次
株式譲渡による事業承継とは?
株式譲渡とは、M&Aスキームの1つです。買い手は対象企業の株式を過半数買収することで、その経営権を取得(承継)します。中小企業のM&Aでは、広く用いられているスキームです。後継者候補のいない中小企業の場合、この株式譲渡を用いて事業承継を実現する動きが増えてきています。
株式譲渡と事業譲渡の違い
事業譲渡とは、対象企業が行う事業とそれに関連する資産などを選別して売買する取引です。事業譲渡も中小企業のM&Aでよく用いられます。株式譲渡と事業譲渡の違いを明らかにするため、それぞれの特徴を比較していきます。まずは株式譲渡の主な特徴は以下のとおりです。。
- 包括承継(会社を丸ごと承継)
- 比較的、手続きが簡易(株式譲渡契約のみでM&Aが成立)
- 売り手は株主
- 会社の経営権は買い手に移転
一方、事業譲渡の主な特徴は以下のとおりです。
- 個別承継(資産などの譲渡対象を協議して選別)
- 契約や許認可を引き継げない
- 手続きが煩雑
- 売り手は会社
- 会社の経営権は売り手に残る
法人格を持たない個人事業主の場合、M&Aで事業承継をするための手段は事業譲渡だけになります。
事業承継の種類
事業承継には、先代経営者と後継者との関係性によって以下の3種類があります。
- 親族内承継
- 従業員承継
- M&Aによる事業承継
それぞれの違いを説明します。
親族内承継
親族内承継とは、経営者の子ども、配偶者など親族が後継者となる事業承継です。後継者は相続、あるいは生前贈与により株式を取得し、経営者となります。従来、日本の中小企業では広く行われてきましたが、現在は減少傾向です。その理由には以下のようなものがあります。
- 少子化により後継者候補が減少
- 価値観の多様化により、親の跡を継がない子どもや、子どもに後を継がせようとしない親が増加
- 後継者の相続税、贈与税の負担が大きい
帝国データバンクの「全国企業『後継者不在率』動向調査(2022)」によると、2018(平成30)年には39.6%の比率だった親族内承継(同族承継)は、2022(令和4)年には34.0%に減っています。
参照元:株式会社帝国データバンク『全国企業「後継者不在率」動向調査(2022)』(2022年11月16日)
従業員承継
従業員承継とは、会社の役員や従業員が後継者となる事業承継です。社内承継ともいいます。親族に後継者候補がいない場合、次善の策として行われることが多い事業承継です。
従業員承継の後継者は親族ではないため、相続や生前贈与の対象にはなりません。したがって、先代経営者から株式を買い取って経営権を取得する必要があります。
株式の買い取りには多額の資金が必要です。その資金が用意できないため、後継者になるのを断念するケースもあります。事業承継を第一優先に考える経営者が、そのような後継者の断念を回避するために株式を無償譲渡する可能性もありますが、その場合は贈与税が後継者に課されるため、大きな資金的負担が発生することは変わりません。後継者の自己資金が不足している場合は、金融機関やファンドなどから資金調達を行うことになります。
また、上述した帝国データバンクの調査では、2022年の従業員承継(内部昇格)の比率は33.9%でした。事業承継の手法の1つとして、よく用いられている承継方法といえます。
M&Aによる事業承継
M&Aによる事業承継とは、後継者不在の中小企業において、M&Aで会社を売却することによって、その買い手を後継者(新たな経営者)として事業承継を実現するものです。後継者難を受け、近年、実施されるケースが増えてきています。
先述の帝国データバンクの調査では、2022年、M&Aによる事業承継は初めて20%を突破しました(買収、出向、分社化含めて20.3%)。
関連記事:事業承継とは?方法や税制・補助金などについても解説
株式譲渡による事業承継のメリット・デメリット
ここでは、事業承継を株式譲渡で行った際に得られるメリットと、気をつける必要があるデメリットを、売り手・買い手の両面から説明します。
メリット
まず、株式譲渡で事業承継を行う際、売り手・買い手共通のメリットは以下のとおりです。
- 株式の売買成立で事業承継が実現するため、手続きが比較的簡易
- 株式の売買交渉で取引が済むため、短期間で成立しやすい
- 交渉自体も比較的簡便
株式譲渡で事業承継を行う際の売り手のメリットは以下のとおりです。
- 従業員の雇用維持
- 取引先との契約維持
- 売却益の獲得
- 債務・担保差し入れからの解放(基本的に債務も買い手に引き継がれる)
株式譲渡で事業承継を行う際の買い手のメリットは以下のとおりです。
- 株主が変わるだけなので事業継続に影響がない
- 事業拡大や新規事業進出が実現
- 中小企業事業再編投資損失準備金の活用により課税の繰り延べ措置が得られる
中小企業事業再編投資損失準備金による納税据置期間は、5年間となっています。
デメリット
株式譲渡で事業承継を行う際、売り手は以下のようなデメリットの発生に注意する必要があります。
- オーナー経営者が全株式を所有しておらず株式が分散している場合、全株主の同意を得るのに手間取る可能性がある
- 株式譲渡制限会社の場合、株式譲渡を行うには所定の承認手続きが必要(中小企業の多くは株式譲渡制限会社)
- 不採算事業が含まれていると、対価が低くなる場合や、買い手が見つからないことがある。
株式譲渡で事業承継を行う際、買い手は以下のようなデメリットの発生に注意する必要があります。
- 中小企業では所在不明の少数株主が存在するケースがあり、全株式を取得できないリスクがある
- 包括承継であるため不要な資産や負債も引き継ぐ
- 偶発債務などの簿外債務も引き継いでしまうおそれがある
- 事業譲渡と比べると買収額が高い傾向
簿外債務が株式譲渡成立後に発覚した場合、経営上のダメージを受けるおそれがあります。それを防ぐためには、入念なデューデリジェンス(売り手企業への精密調査)が欠かせません。
関連記事:株式譲渡による事業承継のメリットは?税金や手続きについても解説
株式譲渡による事業承継にかかる税金
株式譲渡による事業承継では、売り手によって以下のように税金が異なります。
- オーナー経営者個人が所有する自社株式を売却した場合
- 子会社の事業承継のために法人(親会社)が所有する子会社株式を売却した場合
売り手が個人の場合と法人の場合についてそれぞれ解説します。
個人の場合
個人が株式譲渡で株式を売却した場合、譲渡益に対して譲渡所得税が課されます。譲渡所得税の税率は、2023年5月現在、合計で20.315%、その内訳は以下のとおりです。総合課税ではなく申告分離課税であるため、税率は抑えられています。
- 所得税15%
- 復興特別所得税0.315%(2037年までの時限税)
- 住民税5%
譲渡所得額の計算方法は以下のように定められています。
- 譲渡所得=株式売却額-(取得費+委託手数料など)
取得費とは、オーナー経営者であれば会社設立時の資本金額のことです。委託手数料とは、M&A仲介会社などに支払う手数料(消費税含む)などを指します。
ちなみに、株式市場で取引できる上場企業の株式の売買の場合でも、税率や所得計算方法は同じです。所得額が赤字の場合、税金は発生しません。ただし、上場企業株式と一般株式の損益は通算できない決まりです。
法人の場合
法人が株式譲渡を実施した場合、その譲渡益に法人税が課されます。課される法人税の種類は、以下の5種類です。
- 法人税
- 法人住民税
- 地方法人税
- 法人事業税
- 特別法人事業税
これら全ての法人税の税率を通算した実効税率は、2023年5月時点で約34%となっています。ただし、法人税は株式譲渡益単体に課されるものではありません。その事業年度の全ての損益を通算した金額に課税されます。
したがって、当該年度において、設備投資や事業赤字、特別損失などの損金があって損益通算結果が赤字の場合、法人税は課税されません。損金が見込まれる年度に株式譲渡を実施すれば、節税効果が得られます。
事業承継税制
税金の話をいたしましたので、事業承継税制についても説明します。事業承継税制とは、相続・贈与によって非上場企業の株式を後継者が取得した際に、納税の猶予を受けられる制度です。さらに手続きを踏み条件を満たせば、納税の免除も得られます。親族内承継の際などに利用できる制度であり、M&Aによる株式譲渡は適用外です。
事業承継税制は、納税負担で事業承継をためらっていた後継者には朗報ですが、その手続きは複雑であり、いくつもの条件も満たさなければなりません。自社内で手続きなどに対応するのは難しいため、税理士などの専門家のアドバイスを受けると良いでしょう。
株式譲渡による事業承継の手続きについて
ここでは、株式譲渡による事業承継の手続きに関連し、以下の4点の概要を記します。
- 株式譲渡による事業承継の手続きの流れ
- 株式譲渡による事業承継の手続きでの必要書類
- 株式譲渡契約書に記載する主な項目
M&Aである株式譲渡は相手探しも含め、手続き、交渉、契約書の作成・チェックなど、いずれも専門的な知識や経験を必要とします。したがって、株式譲渡での事業承継を進める際には、M&A仲介会社などの専門家のサポートを受けるのが得策です。
手続きの流れ
M&Aで株式譲渡を実施しようとする際は、まず、株主が会社に譲渡承認請求を行います。取締役会が承認機関の場合は取締役会決議、取締役会が設置されていない会社の場合は株主総会での特別決議が必要です。
株主総会で株式譲渡承認が承認されたら、当事者間で株式譲渡契約書を締結します。その後、株式譲渡の買い手と売り手は、連名で会社に対し株主名簿の名義書き換え請求を行うのが手続きの流れです。さらに、名義書き換えの事実を確認するため、株式譲渡の買い手は、株主名簿記載事項の交付請求を行い、株主名簿記載事項証明書を取得します。
必要書類
株式譲渡の手続きの過程で必要となる書類を以下に記します。
- 株式譲渡承認請求書
- 株主総会招集のための取締役の決定書(取締役会非設置会社の場合)
- 臨時株主総会の招集通知書(取締役会非設置会社の場合)
- 臨時株主総会議事録(取締役会非設置会社の場合)
- 株式譲渡承認通知書
- 株式譲渡契約書
- 株主名簿
- 株主名簿の書き換え請求書
- 株主名簿記載事項証明書交付請求書
- 株主名簿記載事項証明書
取締役会設置会社では、取締役会で株式譲渡承認決議を行うことができます。その場合の必要書類は、取締役会議事録です。
株式譲渡契約書の記載事項一覧
株式譲渡契約書には、最低限、以下の条項を記載します。
- 譲渡対象株式の銘柄・種類・数
- 譲渡対価
- 対価の支払い方法
- 株式譲渡実行日(効力発生日)
- 株式譲渡実行の前提条件
- 株式譲渡実行前の順守事項
- 株式譲渡実行後の順守事項
- 表明保証
- 秘密保持
- 損害賠償
- 契約の解除
- 反社会的勢力の排除
- 準拠法
- 合意管轄
株式譲渡契約書に収入印紙は不要です。ただし、株式譲渡対価を前払いした場合には、収入印紙が必要になります。
関連記事:株式譲渡とは?手続きの流れや注意点・メリット・デメリットなどを解説
まとめ
後継者難が続く中小企業では、M&Aによる事業承継が増加傾向にあります。その際に多く用いられているM&Aスキームが株式譲渡です。株式譲渡による事業承継には多くのメリットがある一方、デメリットもあります。
できるだけデメリットを回避するには、専門的なM&Aの知識や経験が欠かせません。株式譲渡による事業承継を成功させるには、M&A仲介会社などの専門家に相談し、アドバイスを受けながら実施するのが得策です。
M&AならレバレジーズM&Aアドバイザリーにご相談を
レバレジーズM&Aアドバイザリー株式会社は、株式譲渡などのM&A全般をサポートする仲介会社です。各コンサルタントは単にM&Aに精通しているだけでなく、事業承継に配慮したサポートを提供できます。
料金体系は、M&Aご成約時にのみ料金が発生する完全成功報酬型のため、M&Aご成約まで費用は発生しません(譲受会社のみ中間金が発生します)。
随時、無料相談をお受けしておりますので、株式譲渡などのM&Aをご検討の際には、ぜひお気軽にお問い合わせください。