このページのまとめ
- M&Aにおける企業価値評価(バリュエーション)とは、対象企業の価値を評価すること
- 価値算定方法は、コストアプローチ・マーケットアプローチ・インカムアプローチの3つ
- 企業価値評価の方法によって、専門的知識を問われることがある点に注意が必要
- 売り手は、強みがあれば企業価値評価以上の価格で売却できる可能性がある
- 買い手は、買収を決断するにあたってシナジー効果の検討も必要だと理解する
M&Aを検討するにあたって、「企業価値評価はどうやってすればよいの?」と気になっている方もいるのではないでしょうか。企業価値評価の手法は、コストアプローチ・マーケットアプローチ・インカムアプローチの3種です。
本コラムでは、M&Aの企業価値評価の方法や手順を紹介します。企業価値評価を実施する際の注意点もまとめているため、ぜひ参考にしてください。
目次
M&Aにおける企業価値評価とは
M&Aにおける企業価値評価とは、対象となる企業の価値を評価することです。企業価値評価を英語で「バリュエーション(valuation)」と表現することもあります。
M&Aにおいて、売り手が対象企業をより高く売ること、買い手がより安く買うことだけを目指すと、価格交渉は平行線に進むでしょう。企業価値評価は、対象企業をいくらで売却(買収)するかの目安をつくるために必要な作業です。
M&Aにおける企業価値評価には、さまざまな方法があります。絶対的な指標はないため、用いる方法によって、企業価値評価の数値は変動するでしょう。
なお、企業価値評価はM&Aだけでなく、自社の経営戦略を策定する場面や、事業承継する企業の相続税を評価する際にも用いられます。
企業価値評価(バリュエーション)に関連する用語
M&A関連では、企業価値評価(バリュエーション)以外にも以下のような用語が使われます。
- 買収価格・売却価格
- 時価総額
- 事業価値
- 株主価値
企業価値評価で算出する「企業価値」と混同しないように、それぞれの特徴や違いを確認していきましょう。
買収価格・売却価格とは
買収価格(譲受価格)や売却価格(譲渡価格)は、M&Aで双方による交渉の結果決まった、実際に売買する際の価格のことです。買い手にとっては「買収価格」、売り手にとっては「売却価格」となります。
企業価値は計算をして出た数値を指すのに対し、買収価格や売却価格は最終的に交渉の結果で決まる点が主な違いです。
最初に企業価値を算出したうえで、買収価格・売却価格の交渉をはじめることが一般的です。
時価総額とは
時価総額とは、株式をある時点の株価で評価した場合、どのくらいの金額になっているかを表した指標です。通常、時価総額は以下の数式で計算できます。
- 時価総額 = 株価 × 発行済株式数
時価総額を確認すれば、現時点での対象企業の規模の大きさがわかるでしょう。
企業価値は企業全体の価値を示した指標であるのに対し、時価総額は基本的に自己資本(企業が返済不要なお金)に注目した数値である点が違いです。また、時価総額は基本的に上場会社でなければ算出できない点も異なります。
事業価値とは
事業価値とは、事業活動から生み出される価値のことです。一般的に、事業活動で得られる将来キャッシュフローの現在価値で算出します。
企業価値は対象企業全体の価値を指すのに対し、事業価値はあくまで事業活動に関連するものに限定される点が主な違いです。
事業価値に遊休資産や投資用の有価証券、余剰資金など事業に関連しない資産(非事業用資産)を加えれば、企業価値となります。
株主価値とは
株主価値とは、企業価値のうち株主に帰属する部分の価値です。
株主価値は、企業価値 – 有利子負債(他人資本)で計算できます。そのため、対象企業全体の価値を示す企業価値に対し、株主価値はあくまで自己資本のみの価値を示している点が主な違いです。
株主価値に他人資本を加えたものが企業価値になると理解するとよいでしょう。
M&Aで企業価値評価する3つのタイミング
M&Aで企業価値を算定(企業価値評価)するタイミングは、主に以下のとおりです。
- M&Aの基本合意書を締結する前
- デューデリジェンス実施後
- M&A実行前
3つのタイミングの概要を確認していきましょう。
M&Aの基本合意書を締結する前
基本合意書(LOI)とは、M&Aの交渉を進める中で、買収価格や条件などの基本的な内容について、買い手と売り手が合意に達した段階で締結する書類のことです。基本的に基本合意書には法的拘束力はありませんが、双方に心理的な拘束力を与えるための書類として活用されます。
このタイミングで企業価値評価を実施するのは、基本合意書に買収価格の上限設定などが盛り込まれるためです。計算結果が今後の価格交渉にも影響を与えるため、基本合意書締結前であっても慎重に企業価値評価を実施しなければなりません。
基本合意書に記載する金額については、デューデリジェンスの結果次第で変更する文言を書面に盛り込むことが一般的です。
デューデリジェンス実施後
デューデリジェンス(DD)とは、M&Aの対象企業に対する調査手続きのことです。買い手は、財務デューデリジェンス・税務デューデリジェンス・法務デューデリジェンスなどの各デューデリジェンスを通じて、対象企業とのM&Aを実行しても問題ないかどうかを判断します。
デューデリジェンス後に企業価値評価を実施すると、新たに判明したリスクを考慮したうえで企業価値を算出できるでしょう。ただし、デューデリジェンス実施後の企業価値が、基本合意書に記載した金額から大きく乖離することは特別な事情がない限りありません。
一般的に、デューデリジェンス実施後に算出した企業価値に基づき、M&Aの価格交渉が進められます。
M&A実行前
買い手は、M&A実行前(最終契約締結前)に企業価値評価を実施することがあります。M&Aの意思決定をするにあたって、取締役への説明資料として企業価値評価の結果が必要になることがあるためです。
一般的に、M&A実行前に企業価値評価する際は、基本合意書締結前やデューデリジェンス実施後と比べて簡易的な方法を用います。
M&A企業価値評価の3つの算定方法
M&Aで企業価値評価(バリュエーション)する際、さまざまな算定方法があります。代表的なアプローチが、以下の3種類です。
- コストアプローチ
- マーケットアプローチ
- インカムアプローチ
各アプローチについて、詳しく解説します。
1. コストアプローチ
コストアプローチとは、対象企業の貸借対照表に記載されている項目(資産・負債・純資産)のうち、純資産に注目して価値を算出する企業価値評価方法です。「ネットアセットアプローチ」と呼ぶこともあります。
ここから、コストアプローチの具体的な手法や、メリットとデメリットを確認していきましょう。
コストアプローチの具体的な手法
コストアプローチの主な手法は、以下の2つです。
- 簿価純資産法
- 時価純資産法
簿価純資産価額法とは、貸借対照表上に記載されている(帳簿価額)資産合計額から、負債合計額を引いた「純資産額」を対象企業の価値としてみなす手法です。貸借対照表上の資産が負債よりも大きく、その差額が大きいほど価値が高く算定されます。
時価純資産価額法とは、貸借対照表上の資産・負債額を時価に換算し、時価資産から時価負債を引いた「時価純資産額」を対象企業の価値としてみなす手法です。時価純資産価額法を使えば、帳簿上の数字を用いていて実態と乖離しやすいという簿価純資産法の課題を解消できます。
ただし、時価に換算できない資産がある点や、すべてを時価換算するには時間や労力を要する点を考慮し、比較的容易に把握できるもののみ時価換算することが一般的です。
コストアプローチのメリット
貸借対照表の数字を参考にするため、客観的な評価を算定できる点がコストアプローチのメリットです。明確な根拠に基づき算出された数値であれば、売り手・買い手双方が企業価値に納得したうえで交渉を進めることができます。
また、貸借対照表上の数字をもとに算定する方法であるため、計算しやすい点もコストアプローチのメリットです。比較的簡単に企業価値評価ができます。
コストアプローチのデメリット
コストアプローチの簿価純資産法を用いる場合、資産の含み益や含み損を反映しない点がデメリットです。所有する有価証券や不動産に含み益・含み損が出ていたとしても企業価値には反映されないため、正確性に欠けるともいえます。
簿価純資産法が抱える課題を解消する時価純資産法も、将来性を反映できない点がデメリットです。ブランドや技術力のように、帳簿に表示されていない無形資産は企業価値に含められません。
なお、コストアプローチのデメリットを解消するため、時価純資産法で算出した結果に営業権(のれん代)を考慮して企業価値を算出することがあります。
2. マーケットアプローチ
マーケットアプローチとは、 対象企業で実施された類似取引事例や同業の上場企業など、類似する取引事例・企業・事業と比較して相対的な価値を算出する企業価値評価方法です。マーケットアプローチの具体的な手法や、メリットとデメリットを解説します。
マーケットアプローチの具体的な手法
マーケットアプローチの主な手法は、以下の3つです。
- マルチプル法(類似企業比較法)
- 類似取引比較法
- 市場株価法(市場株価平均法)
マルチプル法(類似企業比較法)とは、事業内容が類似する上場会社の株価を参考に、価値を算出する方法です。類似企業のEV/EBITDA倍率などの指標を用いて計算することで、企業価値を算定できます。
類似取引比較法とは、対象企業の類似するM&Aの取引事例を参考に、企業価値を算出する方法です。類似する企業の売却額を売上高や利益などの任意の指標で割って計算した額に、対象企業の売上高や利益などを掛けることで企業価値を算出できます。
市場株価法(市場株価平均法)とは、過去数ヶ月の株価平均を参考に、企業価値を算出する方法です。そのため、上場企業が対象の場合に利用できます。
マーケットアプローチのメリット
市場の需要やトレンドを企業価値に反映できる点が、マーケットアプローチのメリットです。マーケットアプローチを使えば、複雑な計算なしで景気動向や世界情勢などの要素を企業価値に盛り込めます。
公開されている数値を使うため、客観性を保てる点もメリットです。主観的な要素が入りにくいため、買い手・売り手双方が結果に納得しやすいでしょう。
マーケットアプローチのデメリット
マーケットアプローチのデメリットは、対象企業と似た条件を満たす上場会社が見つからない場合に適切な企業価値評価が難しい点です。とくに、非上場会社と上場会社では、さまざまな面で条件が異なります。
マーケットアプローチのマルチプル法は、類似する会社の特殊要因に対象企業の価値が左右されうる点もデメリットです。類似する企業の株価を参考にするため、特別損益の発生や会計基準の変更など、対象企業に関係ないことが原因で企業価値が上がったり、下がったりすることがあります。
また、マーケットアプローチの類似取引比較法は、日本で公開されているM&Aの取引事例が少ない点です。類似企業との共通性が少ない取引を無理に採用すると、適切な企業価値評価ができません。
3. インカムアプローチ
インカムアプローチとは、評価対象会社から期待される利益やキャッシュ・フローに基づいて価値を評価する企業価値評価方法です。ここから、インカムアプローチの具体的な手法や、メリットとデメリットを解説します。
インカムアプローチの具体的な手法
インカムアプローチの主な手法は、以下の3つです。
- DCF法(ディスカウンテッド・キャッシュフロー法)
- 配当還元法
- 収益還元法
DCF法(ディスカウンテッド・キャッシュフロー法)とは、対象企業が将来獲得できると期待されるフリーキャッシュフロー(FCF)を使って価値を算出する方法です。FCFは、事業計画の数値から算出します。
配当還元法とは、対象企業の将来の配当額を使って企業価値を算出する方法です。配当還元法で価値を算出する際は、以下2つの式を使います。
- 1株あたりの年間配当金=(直前の期とさらに前の期の配当金総額を合計したもの ÷ 2)÷ (直前期の資本金 ÷ 50円)
- 配当還元価額 =(1株あたりの年間配当金 ÷ 10%)×(1株当たりの資本金等の額 ÷ 50円)
1株あたりの年間配当金を計算してから、配当還元価額を求めましょう。
収益還元法とは、対象企業の事業計画から計算した将来得られる利益をもとに、価値を算出する方法です。将来得られる利益を資本還元率で割ることで算出します。
インカムアプローチのメリット
インカムアプローチを用いるメリットは、対象企業の将来性や成長性を踏まえて企業価値評価できる点です。コストアプローチやマーケットアプローチが基本的に過去や現在の数値に基づき算出するのに対し、インカムアプローチでは将来予想される数値を使います。
インカムアプローチのDCF法の場合、投資リスクを考慮して企業価値評価できる点もメリットです。買い手は、リスクを踏まえてM&Aの妥当性を判断できます。
また、インカムアプローチの配当還元法や収益還元法は比較的簡単に計算できる点がメリットです。ただし、簡単に計算できる分、DCF法と比べると実態を反映しにくい点に注意しましょう。
インカムアプローチのデメリット
基本的に事業計画に基づき価値を算出するため、作成者の主観で算定結果が変わる可能性がある点がインカムアプローチのデメリットです。明確な根拠があるわけではないため、具体的な数値を用いるコストアプローチやマーケットアプローチと比べると、やや客観性に欠ける部分があります。
また、インカムアプローチのDCF法を用いる場合、手間や時間を要する点がデメリットです。そのため、M&Aの判断を下すまでに十分な時間がなければ、正確な計算が難しいでしょう。
インカムアプローチの配当還元法を使う場合は、会社の配当政策によって企業価値が大きく異なる点がデメリットです。そのため、M&Aの企業価値評価で配当還元法を使用できる場面は限定されます。
M&Aにおける企業価値の計算手順
M&Aで企業価値評価をする場面において、各アプローチの中でどの方法を用いるかで計算手順が異なります。
今回は、コストアプローチの時価純資産法を計算する手順、マーケットアプローチのマルチプル法で計算する手順、インカムアプローチのDCF法で計算する手順をそれぞれ解説します。
コストアプローチ(時価純資産法)で計算する手順
コストアプローチの時価純資産法で計算する際の流れは、以下のとおりです。
- 有価証券や不動産など保有する資産や負債を時価に置き換える
- 時価資産額と時価負債額の差額を計算する
ここから、具体的な数値を使って計算していきましょう。今回は、以下のケースでA社の企業価値評価を計算します。
A社貸借対照表 | |
資産4,500万円 *保有する有価証券(上場株式)の含み益+500万円 | 負債3,000万円 *偶発債務+200万円 |
純資産1,500万円 |
有価証券の含み益が発生しているため、時価資産額は5,000万円(4,500万円 + 500万円)です。また、偶発債務があるため、時価負債額は3,200万円(3,000万円 + 200万円)と計算できます。
よって、企業価値(時価純資産額)は1,800万円(5,000万円 – 3,200万円)です。A社の場合、簿価純資産法(純資産額1,500万円)を使うよりも、時価純資産額法で評価した方が企業価値が300万円高くなります。
なお、時価純資産額に直近の営業利益数年分を加えて企業価値を計算することもあります。直近の営業利益が300万円で、4年分を加えることになった場合、A社の企業価値は3,000万円(1,800万円 + 300万円 × 4年)です。
マーケットアプローチ(マルチプル法)で計算する手順
マーケットアプローチのマルチプル法で計算する際の流れは、以下のとおりです。
- 上場会社の中から、対象企業に類似する会社を3〜5社選ぶ
- 選定した企業の任意の倍率指標(EV/EBITDA倍率・PER・PBR・売上高倍率など)を算定・確認する
- 算定した倍率指標の平均値・中央値を確認する
- 倍率指標の中央値などに対象企業の指標をかけて、企業価値を計算する
類似する会社5社を選定した結果、EV/EBITDA倍率(倍率指標)の中央値が4であったと仮定し、マルチプル法でB社の企業価値を計算してみましょう。今回計算に使うB社のデータは以下のとおりです。
- B社のEBITDA:1,500万円
- B社の有利子負債:1,000万円
マルチプル法で計算する場合、倍率指標に対象企業の任意の指標をかけた金額から有利子負債を引きます。そのため、B社の企業価値は5,000万円(1,500万円 × 4 – 1,000万円)です。
なお、倍率指標として登場したEVは事業価値、EBITDAは利払い前・税引き前・減価償却前利益のことです。EBITDAは、営業利益に減価償却を加えて簡便的に算出できます。
インカムアプローチ(DCF法)で計算する手順
インカムアプローチのDCF法による計算はやや複雑です。簡単にまとめると、以下のような手順で計算します。
- フリーキャッシュフロー(FCF)を算出する
- 割引率を計算する
- ターミナルバリュー(TV)を算出する
- 各期のFCFを割引き、TVと合算して企業価値評価する
フリーキャッシュフロー(FCF)とは、会社の利益のうち自由に使えるお金のことです。簡易的にFCFを計算する場合、以下の数式を使います。
FCF = 営業活動によるキャッシュフロー + 投資活動によるキャッシュフロー
割引率とは、将来期待されるFCFが、現在どれくらいの価値に相当するか計算するための数値です。割引率を用いることで、将来FCFを得られる可能性が高くない場合に、企業価値を下げられます。
DCF法の割引率では、WACC(加重平均資本コスト)を用いることが一般的です。WACCは、以下の式で計算します。
WACC = 負債総額 ÷ (負債総額 + 株式の時価総額) × (1 – 実効税率) × 負債コスト + 時価総額 ÷ (時価総額 + 有利子負債) × 株主資本コスト
ターミナルバリュー(TV)とは、予測精度が高くない期間の企業価値を算出したものです。5年目までが予測期間に入っている場合、6年目以降のフリーキャッシュフロー総額がTVに該当します。
TVの算出式は以下のとおりです。TVを算出する際は、過剰評価しないように注意しましょう。
6年目の見込みFCF ÷ (割引率 – 永久成長率)
永久成長率とは、インフレ率を考慮したうえで一定で推移すると考えられる成長率のことです。一般的に、0〜1%の間で永久成長率を設定します。
なお、複雑なため、今回実際の数値を使った計算例は省略します。FCF法で企業価値評価する際は、Excelなどの表計算ソフトを使用することが一般的です。
M&Aで企業価値評価する際の5つの注意点
M&Aで企業価値評価する際、以下の点に注意しなければなりません。
- 上場会社と非上場会社で評価方法が異なる
- 単独ではなく併用して評価することを検討する
- 丁寧に事業計画を確認する
- キャッシュフローを確認する
- 専門的知識が問われる
5つの注意点について詳しく解説します。
上場会社と非上場会社で評価方法が異なる
上場会社か非上場会社かによって、企業価値評価が異なる点に注意しましょう。
株式を証券取引所で公開している上場会社と異なり、投資家が株式を自由に売買できない非上場会社には、明確な数値(株価)がありません。そのため、対象企業が非上場会社であれば、マーケットアプローチの市場株価法のように株価を使った方法で企業価値評価することが困難です。
上場会社と比べて、非上場会社の企業価値評価は手間がかかることをあらかじめ理解しておきましょう。
単独ではなく併用して評価することを検討する
企業価値を評価する際、単独の手法ではなく併用して評価することも検討しましょう。
企業価値評価には、以下のような考え方が存在します。
- 単独法
- 併用法
単独法とは、各アプローチのいずれか単独の評価手法で算出した結果を、対象企業の価値とする方法です。一方、併用法では、複数の評価手法で算出した結果をそれぞれ考慮して、企業価値を評価します。
たとえば、インカムアプローチのDCF法で計算した結果が3〜4億円の場合、企業価値も同額です。一方、併用法でマーケットアプローチも算出した結果が2〜3.5億円であれば、それぞれの評価手法の結果を考慮した3〜3.5億円で企業価値を評価します。
企業価値評価方法によって金額が大きく異なることがあるため、ひとつの方法に固執すると本来の価値から外れる可能性があります。実態に即した評価をするために、複数の手法を用いるとよいでしょう。
なお、単独法や併用法以外に、複数の評価手法を用いたうえでそれぞれの結果に折衷割合を適用する折衷法も存在します。
丁寧に事業計画を確認する
事業計画は対象企業の将来の姿を示したものであるため、慎重に確認するようにしましょう。とくにインカムアプローチを用いる場合、事業計画の数値に企業価値評価が大きく左右されるため注意が必要です。
事業計画を適切に作成することや丁寧に確認することは、企業価値評価以外にもさまざまなメリットがあります。
売り手は、丁寧に事業計画を作成することで買い手からの信頼が高まる点がメリットです。買い手も、対象企業の事業計画を慎重に確認することで法的リスクや金銭面でのリスクなどを把握しやすくなります。
キャッシュフローを確認する
M&Aで企業価値評価する際、キャッシュフローや資金繰りをしっかり確認するようにしましょう。とくに、インカムアプローチのDCF法を用いる際は、キャッシュフローが企業価値評価に影響を与える可能性があります。
また、DCF法以外の手法で評価して企業価値が高くても、資金繰りが悪化して黒字倒産することもあるでしょう。黒字倒産とは、利益は帳簿上利益が黒字にもかかわらず、支払いに必要な資金が不足して倒産することです。
キャッシュフローや資金繰りの状況を把握するためには、対象企業のキャッシュフロー計算書や、資金繰り表などを分析しなければなりません。
専門的知識が問われる
企業価値を評価するには、専門的知識が問われます。また、企業価値評価にはさまざまな方法があるため、どの方法が対象企業にふさわしいか自分だけで判断することは難しいでしょう。
そこで、曖昧なまま自分で進めようとせず、専門家への相談を検討してください。企業価値評価できる主な専門家は以下のとおりです。
- 公認会計士
- 税理士
- M&A仲介会社
ただし、専門家でも領域が異なると上手く企業価値評価できない可能性があります。M&Aの企業価値評価を適切に進めるためには、M&Aに精通した専門家を抱え、実績も兼ね備えたM&A仲介会社を探すことがおすすめです。
企業価値評価で売り手が理解しておくこと
売り手は、企業価値評価にあたってあらかじめ以下の点を理解しておきましょう。
- 収益力や資産が会社売却価格の計算に関連する
- 価値が低くてもM&Aの売却価格が高いこともある
それぞれ解説します。
収益力や資産が会社売却価格の計算に関連する
売り手は、高い収益力や純資産の厚さが企業価値の向上につながることを理解しておきましょう。企業価値が高くなれば、その分会社を高値で売却できる可能性が高まります。
高い収益力とは、総資産に対して利益の占める割合が大きいことです。とくに、コストアプローチで時価純資産法を使い、直近営業利益を数年分加える場合、収益力が高いほど企業価値が高まります。
また、純資産の厚さとは、資産が負債を上回る分が大きいことです。純資産が厚ければ、コストアプローチの企業価値も高くなります。
さらに、有利子負債が少ないこともポイントです。マーケットアプローチやインカムアプローチでは、有利子負債を控除して企業価値を算出することがあるため、少なければその分価値が高まります。
価値が低くてもM&Aの売却価格が高いこともある
売り手は、企業価値が低くてもM&Aで高く売却できることがある点も理解しておきましょう。最終的な売却価格は売り手と買い手の交渉で決まるため、ノウハウなどの強みがあれば相場以上の価格で売却できることがあります。
企業価値以上の高値で売却するためには、買い手に自社の魅力を知ってもらうことが大切です。まず、自社の強みを理解したうえで、強みを上手く伝える工夫をしましょう。
通常M&Aの交渉は個別方式ですが、売却価格を上げるためにオークション形式にすることもあります。魅力がある会社・事業をオークション形式で売却に出せば、買い手候補に「ほかの企業に買われる前に買おう」と決断してもらいやすくなる点がメリットです。
企業価値評価で買い手が理解しておくこと
買い手も、企業価値評価にあたって以下の点を理解しておかなければなりません。
- 営業権がM&A金額を左右することがある
- シナジー効果を考慮して企業買収を決める
それぞれの概要を紹介します。
営業権がM&A金額を左右することがある
買い手は、営業権がM&Aの金額を左右しうる点を理解しておきましょう。企業価値評価の手法によって、営業権が要因で企業価値が高くなっている可能性があります。
M&Aの営業権(のれん)とは、将来の収益源となるノウハウや人材・ブランド力などの無形資産のことです。帳簿上の数値と比べて価格が高くても、優秀な人材やノウハウがある会社であれば、M&Aで事業成長のスピードを上げて早い段階で投資金額を回収できます。数字だけを見て「割高だ」と判断せず、価値が高い根拠を見極めましょう。
シナジー効果を考慮して企業買収を決める
買い手は、企業価値だけでなく、シナジー効果も考慮したうえで企業買収を決断することが大切です。シナジー効果とは、販売・設備・技術などの機能を活用したり、複数の企業が提携したりすることで得られる相乗効果を指します。
買い手はシナジー効果を期待できる企業をM&Aすることで、自社だけで取り組む場合よりもリスクを抑えてスピーディーに事業を進められるでしょう。その結果、事業拡大や収益向上につながります。
M&Aの買収価格・売却価格を交渉する際の3つのポイント
買い手はM&Aの買収価格を企業価値よりも低く、売り手は売却価格を企業価値よりも高くするためには、交渉時に以下の3点に配慮することがポイントです。
- 上限と下限を決めておく
- 最初の価格提示は慎重におこなう
- 価格を譲歩することも検討する
それぞれ詳しく解説します。
上限と下限を決めておく
交渉に臨む前に、買収価格(売却価格)の上限と下限を決めておきましょう。
売り手の場合、上限はあらかじめ相手に提示する価格、下限は譲歩可能な価格を設定します。買い手の場合、その反対に下限が提示する価格、上限が譲歩する価格です。
いずれも、企業価値評価を参考にして上限・下限を設定します。買い手は、後で価値が下がる可能性を考慮して、不明瞭なシナジー効果分は盛り込まずに上限を設定することがポイントです。
最初の価格提示は慎重におこなう
最初の提示価格が今後を左右するため、慎重におこなうようにしましょう。買い手が提示する価格が売り手が想定する下限に近い場合、交渉が進みやすいです。
また、買い手が納得感のある説明をできれば、売り手が価格交渉に応じる可能性があります。売り手に「ただ安く買おうとしているのでは?」と思われないよう、買い手は価格を提示する際に企業価値評価との関連性・妥当性を明確に伝えましょう。
さらに、買い手は立場が上と勘違いして高圧的に価格提示すると、売り手に悪い印象を与えてしまい逆効果です。誠実な態度で交渉に臨むようにしましょう。
価格を譲歩することも検討する
買い手も売り手も、自分が決めた価格に固執せず、状況に応じて譲歩も検討することがM&A成功への近道です。譲歩価格を提示する際は、譲歩できる金額よりも少し下の金額(売り手は少し上の金額)を提示しましょう。
相手が譲歩価格に納得できない場合は、交渉を繰り返します。ここで慌てて相手のペースに飲まれ、妥協可能な金額よりも悪い条件で同意することは避けましょう。
なお、交渉の余地がなくなるため、相手に妥協可能な金額を先に伝えないことも大切です。
まとめ
M&Aにおける企業価値評価(バリュエーション)とは、対象企業の価値を評価することです。主にM&Aの基本合意書を締結する前、デューデリジェンス実施後、M&A実行前のタイミングで、企業価値評価を実施します。
企業価値評価する際の代表的なアプローチ方法が、コストアプローチ・マーケットアプローチ・インカムアプローチの3種類です。評価する際は、上場会社と非上場会社で評価方法が異なる点や、単独ではなく併用して評価するほうが妥当性が上がる点などを覚えておきましょう。
また、評価方法によって計算が複雑であったり、対象企業に適していない方法だったりすることもあるため、M&A仲介会社に相談することも大切です。M&Aの実績があり、専門家が多数在籍する会社に依頼しましょう。
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