M&Aのクロージングとは?手続きや必要書類などをわかりやすく解説
2024年6月12日
このページのまとめ
- クロージングとは、最終契約書に基づいて手続きを行い、M&Aを完了させること
- クロージングは、M&Aが法的に有効であることを証明するために必要
- M&Aを完了させるためにもプレ/ポストクロージングについての理解が必要
- クロージングでは書類の準備や煩雑な手続きが必要であり、専門家に依頼することが大切
- M&Aの相談先としてはM&A仲介会社や金融機関、士業専門家などがある
M&Aを成功させるうえで、クロージングを円滑に進めたいと考えている方も多いでしょう。本記事では、M&Aを検討している方に向けて、クロージングの重要性や期間、必要な手続きや用意すべき書類、クロージングの注意点などを解説します。
クロージングに不備があるとM&A自体が法的に有効であることを証明できないため、注意しましょう。M&Aの相談先も紹介するので、参考にしてください。
目次
M&Aにおけるクロージングとは?重要性と期間
M&Aにおけるクロージングとは、最終契約書に基づいて最終的な手続きを行い、M&Aを完了させることです。経営権の移転や対価の支払いを完了させ、会社や事業を引き渡すためにさまざまな実務を行います。
M&Aに向けたプロセスは重要ですが、最終契約書を締結して終わりではありません。M&Aの目的を果たすためには、クロージングが必要です。
ここでは、M&Aにおけるクロージングの重要性とクロージングに要する期間について解説します。
M&Aにおけるクロージングの重要性
クロージングは、M&Aの有効性を法的に証明するために欠かせない、重要なプロセスです。
クロージングで行う実務は多岐にわたります。たとえば、株式譲渡の場合なら、株式を譲渡することにより、譲渡企業の経営者から譲受企業に経営権が移転されます。その対価として、譲受企業は株式代金を支払う仕組みです。これらの手続きは会社法などの法律に基づいて厳正に行われ、クロージングが完了してはじめて、正式に経営権が移転され、M&A成約となります。
つまり、最終契約を締結するのみでは、M&Aの目的は果たせません。クロージングは、M&Aを成立させ、その有効性を第三者に証明するために欠かせないプロセスと言えます。
クロージングの手続きに抜け漏れや不適格な要素があった場合、M&Aの有効性を法的に証明できません。複数のM&Aが同時に行われるなど、取引が複雑になると必要書類や手続きも複雑になるため、各手続きを履行して法律要件を充足する必要があります。
クロージングにかかる期間は1ヶ月~1年
クロージングでは煩雑な手続きが必要になるため、一朝一夕では完了しません。クロージングにかかる期間は、M&Aの手法や引き渡す資産などによって異なります。
一般的には、1ヶ月~1年ほどの期間が必要です。場合によっては、1年以上かかることもあります。
クロージングの手続きは法律に基づいて進める必要があり、M&Aのケースによってやるべき手続きが大きく異なります。決して簡単なプロセスではないため、専門家によるサポートを受けることがおすすめです。
M&Aにおける契約からクロージングまでの流れ
クロージングについて理解するうえで、M&Aの開始からクロージングに至るまでの取引全体の流れを理解することが大切です。
M&Aを実行するためには、譲渡企業・譲受企業ともに複数のプロセスを経る必要がありますが、大きな流れとして以下の4つに分られます。
- アドバイザーとの相談
- マッチング
- トップ面談・条件交渉
- 最終契約の締結
主なステップは以下の表のとおりです。それぞれのステップについて詳しく解説します。
譲渡側(売り手企業) | 譲受側(買い手企業) | |
準備フェーズ | アドバイザーへの相談 | |
マッチングフェーズ | マッチング | |
M&A相手の選定 | ||
ノンネームシートの作成 | ||
ネームクリアの検討 | ||
交渉フェーズ | トップ面談・条件交渉 | |
意向表明書の提出 | ||
条件交渉 | ||
契約フェーズ | 最終契約の締結 | |
基本合意契約・秘密保持契約締結 | ||
デューデリジェンス | ||
最終契約書締結 | ||
クロージング |
1.アドバイザーとの相談
まずは、M&Aは専門家であるアドバイザーへの相談からスタートしましょう。クロージング以外にもM&A先の選定や交渉、各種契約書の締結などの手続きを行います。いずれの作業も専門的知識を必要とするため、専門家のサポートは必要不可欠です。
また、M&Aが不満足な結果にならないように、M&Aを通して実現したいことを明確にしておく必要があります。アドバイザーと相談しながら、将来のビジョンを明確にしていきましょう。
以下では、譲渡企業・譲受企業それぞれが事前に検討しておきたい事項について解説します。
譲渡企業が検討する事項
売り手側である譲渡企業が検討したい事項としては、以下のようなものが挙げられます。
- 譲渡対価の金額
- 譲渡タイミング
- 商品・ブランドの引き継ぎ
- 役員・従業員の待遇
- 経営者の引退後の生活
譲渡目的としては、不採算事業の切り離しや第三者への事業承継などがメインになりますが、上記の内容を事前に検討しておくと、満足度の高いM&Aにつながるでしょう。
また、交渉時にアピールできるポイントと弱み/リスクとなる側面についてあらかじめ整理しておくことも重要です。譲受側はアドバイザーと委託契約を結んでから交渉相手探しに入ります。
譲受企業が検討する事項
買い手側である譲受企業が検討したい事項としては、買収後の組織のあり方や成長戦略などがあります。それに基づいて、M&Aの戦略を検討していく必要があるためです。
2.マッチング
次は、M&A先を選定するステップです。M&A仲介会社に依頼した場合は、候補先をリストアップしてくれるため、そのなかから交渉先候補を絞ります。
さらに、候補が絞れたら、ノンネームシートを候補先に提出し、交渉へ進むか検討してもらいます。
M&A相手の選定
続いてM&A先の選定・交渉に入ります。M&A仲介会社が作成した買い手候補の基礎的な情報が整理されたリスト(ロングリストやショートリスト)をもとに相手企業を絞っていきましょう。この工程で妥協すると、希望条件に合致する相手と契約を結ぶことは難しくなるため、時間をかけて検討を進めることが重要です。
買い手候補を絞れたら、交渉に移りましょう。M&Aを進めるうえで必要な資料を提出し、互いの意見のすり合わせを行っていきます。この際に提出する資料がノンネームシートです。
ノンネームシートの提供・ネームクリア
ノンネームシートとは、交渉相手を探す段階で買主候補に提供する資料で、企業名が特定されないような形で案件を記載した概要書のことです。自社がM&Aを希望しているという情報が外部に漏れると、従業員や取引先、消費者、株式市場などに伝わって事業に悪影響が出たり、株価変動などの環境変化によりM&A交渉が難しくなってしまったりする可能性があるため、企業名を伏せた状態で情報を提示します。
ノンネームシートには、業種や本社所在地のほか、事業規模、業績推移、売却理由、売却希望価格、想定されるM&Aスキームなどが記載されているのが一般的です。ノンネームシートを提供し合い、買い手・売り手のお互いが検討を進めます。
続いて行うのが、ネームクリアです。ネームクリアとは、売り手側が企業名や経営に関する情報を、買い手側に提供する工程です。
ノンネームシートだけでは買い手側は買収するか判断できないため、売り手側は自社の強みや経営状況、魅力などを伝えます。ネームクリアを行うことで、買い手側は対象会社の具体的な情報を得られ、M&Aの検討を本格的に進められるようになります。
ネームクリアを経て、譲渡企業の経営者と譲受企業の経営者がトップ面談へと進む流れです。
3.トップ面談・条件交渉
続いて、経営者同士で行うトップ面談です。トップ面談では、互いに質問をしながらお互いの意思を確認します。お互いが納得していない形で次の工程に進むと、後悔することになりかねないため、徹底的に話し合うことが重要です。
意向表明書の提出
トップ面談後に意向表明書を提出します。意向表明書とは、買い手側が譲り受けの意思を示すための書面です。法的拘束力はありませんが、本格的な交渉に移ることに合意したことを意味します。
条件交渉の実施
実際にM&Aを進めるうえで欠かせないのが条件交渉の実施です。トップ面談だけですべての詳細を詰めることは困難なため、トップ面談の実施後にあらためて条件交渉の場を設けます。
条件交渉では、買収価格や従業員の処遇などを決めます。売り手・買い手双方が望まない結果とならないように、慎重に交渉を進めましょう。
4.最終契約の締結
条件交渉が完了したら、いよいよ契約フェーズに突入します。M&Aの契約フェーズでは、さまざまな契約を結ぶことになりますが、契約フェーズで不備があるとM&Aは成立しないため、注意が必要です。
基本合意契約・秘密保持契約締結
M&Aの話がまとまったら基本合意契約・秘密保持契約を締結します。基本合意書とは、現時点の契約内容について双方が合意したことを示す契約書です。秘密保持契約などの一部の例外を除き、法的拘束力はもちません。基本合意書に記載される譲渡金額などは、あくまで現時点のものです。そのため、今後実施されるデューデリジェンスの結果によっては、変更されることもあります。
一方で秘密保持契約とは、取引にあたって開示する情報を、開示者の同意なく第三者に公開したり目的外利用したりするのを禁止する契約です。M&Aを実施する際は秘密保持契約を締結します。
デューデリジェンス
デューデリジェンスとは、買い手側が売り手側から提供された情報が正しいかどうかを判断するために行う調査のことです。買い手側が派遣する専門家によって、あらゆる面から徹底的な調査が行われます。なお、デューデリジェンスで重大な問題が見つかった場合、この段階でM&Aが不成立になることもあります。
M&Aにおいて不利となる事実の隠蔽や改ざんは、買い手側からの信用を失う結果となるため、売り手側としても協力的な姿勢を見せて、求められた情報はしっかりと共有することが重要です。
最終契約書締結
デューデリジェンス終了後に、買い手/売り手の間で最終条件の交渉を行います。買収価格や従業員の処遇、支払い方法などの詳細が決定したら、最終契約を結びましょう。
最終契約を締結したあとは後戻りはできません。そのため、契約内容は不備がないか、何度も見直すようにしましょう。
クロージング
最終契約書を締結したら、クロージングを実施します。クロージングでは、譲渡対価の決済や株券・代表印の引き渡しなどを行います。
4つのパターン別│M&Aにおけるクロージング
クロージングの進め方や必要な手続きは、M&Aの手法によって異なります。たとえば、M&Aでよく用いられる手法である株式譲渡では、クロージングにかかる時間が比較的短く済むことが多いです。一方、事業譲渡では、特別決議の実施や当事者から個別に合意を得たりするプロセスが必要であり、その分時間や手間がかかります。
- 株式譲渡
- 事業譲渡
- 合併・会社分割
- 第三者割当増資
ここでは、上記4パターンのM&Aの手法の特徴と、クロージングの進め方や手続きについて解説します。
1.株式譲渡
株式譲渡とは、譲渡企業が譲受企業に株式を譲渡し、譲受企業が対価として株式代金を支払うことで、経営権を移転させる手法です。株式譲渡は多くのM&Aで用いられる代表的なスキームであり、ほかの手法に比べると手続きが比較的簡単という特徴があります。
株式譲渡でM&Aを実行する際の、クロージングの進め方・手続きは以下のとおりです。
- 譲渡企業が株式と株式名簿といった必要書類を譲受企業に引き渡す
- 譲受企業が株式の対価として株式代金を支払う
- 株主名簿の書き換えを行う
- 譲渡企業の実印や通帳、そのほかの書類を譲受企業に引き渡す
- 譲受企業がクロージング日に臨時株主総会を開催する
株式譲渡のクロージングは、必要書類の準備に時間がかかるものの、比較的短時間で完了することが多いです。中小企業のM&Aでは、1〜3日程度でクロージングが完了するケースも多く見られます。
2.事業譲渡
事業譲渡とは、会社まるごとではなく、譲渡企業の事業や資産の一部を譲渡し、譲受企業が対価を支払う手法です。株式譲渡に次いでよく見られます。譲渡する事業を選べるのが特徴で、株式譲渡のクロージングよりも煩雑な手続きが必要になることが多いです。
事業譲渡でM&Aを実行する際の、クロージングの進め方・手続きは以下のとおりです。
- 特別決議を実施する
- 資産や契約の当事者の合意を個別に得る
事業譲渡では、譲渡企業については事業の全部、あるいは重要な事業の一部を譲渡する場合、譲受企業については事業の全部を譲受する場合に、特別決議を実施する必要があります。
さらに、資産や契約の当事者から、個別に合意を得る必要があり、クロージングに時間がかかる場合が多いです。
3.合併、会社分割
合併は、複数の会社を1つの法人格としてまとめる手法、会社分割は権利義務の一部もしくは全部を別会社に移転させる手法です。
合併と会社分割は、それぞれ以下の種類に分けられます。
合併
- 新設合併:会社を新設し、既存の法人格を消滅させ、新設会社にすべての権利義務を承継させる
- 吸収合併:権利義務を承継させる会社以外の法人格を消滅させ、残った1社にすべての権利義務を承継させる
会社分割
- 新設分割:会社を新設し、権利義務を承継させる
- 吸収分割:既存の会社に権利義務を承継させる
合併や会社分割でM&Aを実行する際の、クロージングの進め方・手続きは以下のとおりです。
- 特別決議を実施する
- 債権者保護手続きを行う
合併や会社分割では、会社のあり方が変化するため、特別決議が必要です。さらに、債権者を保護するための手続きも欠かせません。債権者保護手続きでは、債権者に対して1ヶ月間の異議申し立て期間を設ける必要があるため、クロージングには時間がかかります。
第三者割当増資
第三者割当増資とは、会社が特定の第三者に新株を発行し、株式を引き受けてもらう手法です。資金調達を目的に実施されます。
第三者割当増資でM&Aを実行する際の、クロージングの進め方・手続きは以下のとおりです。
- 特別決議を実施する(株式譲渡に制限をかけている、あるいは株価と適正価格が大きく乖離している場合)
- 譲渡企業の取締役会決議を得て新株を発行する
- 株式を引き受ける第三者から株式代金を受け取る
第三者割当増資では、株式数が増加し、株主構成が変化します。上場企業が第三者割当増資を実施する場合は、既存株主の利益を保護しなければなりません。
上場していない中小企業の場合も、株式譲渡に制限をかけている、あるいは株価と適正価格が大きく乖離している場合は、特別決議を実施する必要があります。ほとんどの中小企業が株式譲渡に制限をかけているため、第三者割当増資のクロージングでは特別決議の実施が必要、と理解しておきましょう。
M&Aのプレクロージングとポストクロージング
M&Aにおけるクロージングには、プレクロージングとポストクロージングの2つがあります。ここでは、M&Aのプレ・ポストクロージング手続きについて、解説していきます。
プレクロージングとは
プレクロージングは、その名のとおり、クロージングにおける準備のことです。実際のクロージングをスムーズに進めるために行うもので、関係者が出席してチェック事項をもとに一つひとつ確認しながら進めていきます。プレクロージングをしっかりと行い、クロージング時には手続きを機械的に行うだけですむようにしましょう。
ポストクロージングとは
ポストクロージングとは、クロージングの後にM&A取引の当事者が義務付けられた手続きのことをいいます。ポストクロージング手続きの手順は、以下のとおりです。
- 取締役会および株主総会で必要な決議を取る
- クロージング後の誓約事項の実施
- 対価の調整
- 財務諸表の作成 など
上述したように、M&Aでは最終契約日からクロージング日まで期間があくのが一般的です。その間に株価の影響を受けて企業価値が変動する可能性が高く、大きく乖離することも考えられます。
そのような状態になった場合、どちらかが損をするリスクを軽減するために盛り込まれるのが価格調整条項です。価格調整条項とは、契約した日からクロージング日までの間に変動した企業価値を反映させて価格調整を行う旨を約した条項のことです。対価の調整では、アーンアウト条項を用いるケースもあります。
M&Aの重要ポイント「クロージング条件」とは
クロージング条件とは、M&Aを実行するうえで譲れない条件のことです。クロージング条件をどのように定めるかは、案件ごとに異なります。譲渡企業と譲受企業の間で合意した最終契約書によって定められます。
ここでは、クロージング条件がなぜ重要なのか、クロージング条件の例やクロージング条件を定める際の注意点について解説します。
クロージング条件が重要視される理由
クロージング条件は、M&Aを成立させる前提となる条件です。譲渡企業と譲受企業の双方が譲れない条件として定めたものであるため、クロージング条件に沿わないと、M&Aの目的が果たせなくなってしまいます。クロージング条件を1つでも満たせなかった場合、M&Aの成立が延期されたり、最終契約が解除されたりするリスクもあるのです。
このように、クロージング条件はM&Aを成立させるために非常に重要なポイントです。
クロージング条件の代表例
クロージング条件の代表例は、MAC条項とキーマン条項です。
「MAC条項」とは、Material Adverse Change(重大な悪影響)に関する条項のことです。最終契約締結からクロージングまでに、M&Aの成立にかかわる重大な悪影響が発生した場合の措置について定めます。
譲渡企業が不祥事を起こしたり、譲渡企業の大口取引先が倒産したりといった事態が発生する可能性はゼロではありません。その際に、契約解除や条件の変更などが行えるよう、MAC条項を規定します。
「キーマン条項」とは、譲渡企業のオーナーや重要な役員といった事業運営の中核を担う人材を、M&A実施後に一定期間在籍させることに関する取り決めです。ロックアップとも呼ばれます。
重要な人材が抜けてしまうと、M&A実施後にスムーズに事業を運営できなくなる可能性があります。
キーマン条項を定め、重要人物を一定期間在籍させて事業の引き継ぎを行うことで、譲受企業に発生しうる損失を回避できます。
クロージング条件を決定する際の注意点
クロージング条件は、譲渡企業や譲受企業が決めるものですが、なんでも自由に定めてよいというわけではありません。クロージング条件は、M&Aの成立を左右する重要な前提条件です。そのため、重大な事項について定め、具体的かつ客観的に理解できる条件にする必要があります。
双方が納得できる条件を定めなければ、トラブルにつながる可能性があります。また、条件を具体的に定めなければ、どのような状況なら条件を満たしていると言えるのかがわかりません。譲受企業が「条件を満たしていない」と一方的に主張し、M&Aが成立しなくなってしまうという事態も考えられます。
トラブルを防ぐためにも、クロージング条件は重要な事項についてのみ定め、具体的かつ客観的な内容にすることが必要です。
M&Aのクロージング後に欠かせない「PMI」とは
クロージングと同様に欠かせないのが、PMIです。PMIは、「Post Merger Integration」の略で、M&A成立後の経営統合プロセスのことを指します。
M&Aの成立はゴールではなく、あくまでもスタートです。M&A後のリスクを取り除き、高い成果をあげるためには、PMIが欠かせません。クロージングがM&Aの成立を左右する重要なプロセスであるのに対し、PMIはM&Aを成功に導くための重要なプロセスと言えます。
ここでは、PMIで実施する内容と、PMIを達成させるためのポイントについて解説します。
PMIの内容
PMIで実施する内容は、ケースごとにさまざまです。以下では、クロージングまでに行うPMIと、クロージング後に行うPMIに分けて、代表的な内容を解説します。
クロージングまでに行うPMIとしては、統合に関する方針を固めることが挙げられます。統合方針は以下の3つに分類され、どのパターンを選ぶかを決めておきましょう。
- 連邦型統合:譲渡企業を子会社として存続させ、子会社の経営の自主性を維持する
- 支配型統合:譲渡企業を子会社として存続させ、譲受企業が積極的に経営に関与する
- 吸収型統合:譲渡企業を吸収し、同一法人とする
クロージング後は、円滑に統合してM&A実施によるリスクを取り除き、シナジー効果を発揮してM&Aの成果を高められるよう、PMIを実施します。譲渡企業と譲受企業それぞれから人材を選定し、PMIの専門チームを組む場合も多いです。
優先して取り組むべき課題については「ライティング・プラン」として計画をまとめます。具体的には、以下のような事項について見直しを行い、統合のために必要な作業を進めていきます。
- 定款や業務規程、運用ルール
- 財務
- 経営管理
- 役員人事
- 組織体制・人員配置
- 労働条件
- 役割や責任の範囲
PMIを達成させるためのポイント
PMIは、M&Aを成功させるための重要なプロセスであり、実施には多くの時間がかかります。成約から1年ほどかかる場合が多く、長期的に取り組まなければなりません。
十分な時間が割けず、PMIが不十分な状態では、M&A実施前に期待していた成果があげられなかったり、譲渡企業から反発が起こり、人材が次々と流出してしまったりするリスクがあります。
そのため、PMIは余裕を持って進めましょう。なるべく早い段階からPMIについて検討・着手し、計画的に進めていくことが大切です。
M&Aのクロージングに必要な書類
M&Aのクロージングには、譲渡企業・譲受企業ともに多くの書類を用意する必要があります。書類の中には、用意するのに時間がかかるものもあります。必要な書類を理解して前もって準備し、スムーズに進められるようにしましょう。
ここでは、株式譲渡を実施する際に必要な書類を、売り手側と買い手側にわけて紹介します。ただし、実際に必要な書類はM&Aのケースごとに異なるため、専門家に相談することが大切です。
売り手側の必要書類
譲渡企業は、以下のような書類を用意しましょう。
- 株主名簿:株主や持分比率を確認するために必要
- 株式譲渡に関する名義書換の委任状/株主名簿記載事項書換請求書:株主名簿を書き換えるために必要
- 譲渡企業の印鑑証明書:株主名簿を書き換えるために必要
- 株式譲渡承認の議事録:譲渡制限株式会社の場合に必要
- 株式譲渡承認書兼承認通知書:株主総会の特別決議で、株式譲渡の承認を得たことを示す書類
- 株式譲渡代金の領収書:株式の取得対価を受け取ったことを示すための領収書
買い手の必要書類
譲受企業は、以下のような書類を用意しましょう。
- クロージングに関わる書類の受領書:譲渡企業から、クロージングに関わる書類を受け取ったことを示す書類
- 顧問契約書:譲渡企業の経営者と顧問契約を締結する場合に必要
- 譲受企業の印鑑証明書:印鑑が、確かに譲受企業のものであることを証明するために必要
- 譲受企業の登記簿謄本/登記事項証明書:譲受企業の登記事項を証明するために必要
M&Aにおけるクロージングの3つの注意点
クロージングはM&Aにおいて非常に重要なプロセスであり、一定の時間がかかります。クロージングについても考慮したうえでM&Aのスケジュールを立てましょう。クロージングは法律に則って行う必要があり、専門知識が必須です。
ここでは、クロージングを実施する際の注意点を3つ紹介します。
- 余裕のあるスケジュールを組む
- 価格調整を盛り込む
- M&Aの専門家に協力を依頼する
専門家のサポートのもと、確実にクロージングを進めましょう。
1.余裕のあるスケジュールを組む
クロージングには時間がかかるため、余裕のあるスケジュールを組むことが大切です。
M&Aのスキームの中でも、比較的手続きが簡単とされる株式譲渡であっても、必要書類を用意するのにある程度の時間を要します。書類が適切に管理できておらず、想定よりも準備に時間がかかる場合もあるため、注意が必要です。
事業譲渡の場合は、特別決議を実施したり、資産や契約の当事者から個別に合意を得たりしなければならないため、さらに時間がかかります。
クロージングには時間がかかることを理解したうえで、スケジュールを組むことが不可欠です。
譲受企業の都合で、タイトなスケジュールを提案される可能性もあります。「クロージングにかかる時間の見通しが甘く、クロージング日までに必要な準備が終わらなかった」という事態にならないよう、専門家に相談して必要な時間を見積もっておきましょう。
2.価格調整を盛り込む
クロージングでは、価格調整を盛り込むことが重要です。
価格調整とは、M&Aの最終契約締結時の取得価格に、クロージング日までにおける財政状態の変化を反映することを指します。最終契約を締結してからクロージング日までには期間が空くため、その間に譲渡企業の財務状況が大きく変化し、企業価値が変化する可能性があります。
想定外の事態が発生して企業価値が大きく変動する可能性を考慮して、価格調整を盛り込みましょう。
3.M&Aの専門家に協力を依頼する
クロージングを適切に行うためには、M&Aの専門家に協力を依頼することがおすすめです。
クロージングでは煩雑な手続きが必要であり、法律に則って進めていかなければなりません。専門家を介さずに進めると、意図せず法律に違反してしまい、法的に有効なM&Aを実行できなくなるリスクがあるため、注意が必要です。
さらに、当事者だけで手続きを進めると契約内容を客観的にチェックできないことも難点です。一方に不利な条件になっていることに気づかないまま、M&Aが成立してしまう可能性があります。
クロージングをスムーズに進め、適切なM&Aを成立させるために、豊富な専門知識と実績を持つ専門家のサポートを受けましょう。
M&Aの相談先
M&Aについて相談したい場合の相談先について紹介します。主な相談先は、以下の4つです。
- M&A仲介会社
- 金融機関(銀行など)
- 士業専門家(税理士や公認会計士など)
- 事業承継・引継ぎ支援センター
それぞれの特徴は、以下の表のとおりです。
相談先 | メリット | デメリット |
M&A仲介会社 | ・多数の候補から交渉相手を探せる ・相談からクロージングまで一貫した支援を受けられる | ・着手金 ・中間金などが発生する場合がある |
金融機関(銀行など) | 資金調達に関する専門的アドバイスを受けられる | ・中小規模のM&Aには非対応なこともある |
士業専門家(税理士や公認会計士など) | ・財務面での専門的アドバイスを受けられる ・顧問税理士や会計士であれば相談しやすい | ・受けられるサポートが限定される恐れもある ・M&Aの支援経験がない場合もある |
事業承継・引継ぎ支援センター | ・全国に相談窓口があるため、利用しやすい ・無料で相談できる | ・支援範囲が限定される場合もある ・スピード感を求める場合は向かない |
M&A仲介会社
M&A仲介会社とは、譲渡企業と譲受企業をマッチングし、交渉の仲介・助言を行う会社です。買い手・売り手のどちらか一方が有利になるように交渉を進めるのではなく、あくまで中間的な立場で双方が納得できる成約を目指します。
M&Aの初期相談から相手先の選定、スケジューリング、企業価値評価、資料作成までM&Aに関わる全工程をサポートしてくれる仲介会社が多いのが特徴です。
M&A仲介会社を利用するメリットは、さまざまなM&A候補から相手を選べることにあります。双方が納得できるような企業を探してくれるため、納得のいくM&Aを実現しやすいでしょう。
デメリットとしては、コストが発生する点です。成功報酬以外に、着手金や中間金などが発生する場合もあります。
金融機関(銀行など)
銀行や信用金庫などの金融機関でも、事業承継の相談を行うことが可能です。普段から付き合いのある金融機関がある場合は相談してみましょう。
金融機関には事業承継やM&Aの窓口を設けている機関も多く、経験豊富な専門家のサポートを受けられます。M&Aを行う場合に融資を必要とする場合は、金融機関のアドバイスは有用といえるでしょう。
デメリットとしては、中小企業のM&Aや事業承継は受け付けてもらえない可能性があります。基本的に、金融機関はM&A仲介会社と比べて大企業の案件を取り扱う傾向があるためです。金融機関は、あくまでも融資を業務としているため、事業承継の相談者と利益相反になるおそれがある点は理解しておきましょう。
士業専門家(税理士や公認会計士など)
税理士や公認会計士などの仕業専門家もM&Aに関する相談先の一つとして考えられます。税理士・公認会計士は、M&Aにおける税務、財務デューデリジェンスをそれぞれ担当するためです。
税理士や公認会計士などの士業に相談するメリットとしては、話がスムーズに進むケースが多いことが挙げられます。多くの企業では、顧問税理士あるいは会計士を抱えているため、信頼関係が構築できており、相談しやすい点は魅力です。
デメリットとしては、税理士や公認会計士は税務・財務デューデリジェンスや資金面では専門的なアドバイスを期待できる一方で、M&A自体を扱っていなかったりM&Aの経験が不十分であったりするケースが多い点が挙げられます。
なかでも、相手先企業探しは専門でないため、サポート範囲が限定される可能性があることには注意しましょう。
そのほかの士業としては、法律の専門家である弁護士や行政書士などがありますが、誰に依頼するにしても、M&Aの経験があるのかどうかは必ず確認しておきたいところです。
事業承継・引継ぎ支援センター
事業承継・引継ぎ支援センターとは、後継者問題を抱える中小規模事業者を対象に事業承継やM&Aに関する情報提供やアドバイス、マッチングなどを行う公的相談窓口のことです。中小企業庁が各都道府県に設置しており、事業承継に関するさまざまな相談に対応しています。
メリットとしては、相談窓口が全国47都道府県に設置されているため、どこの地域の方でも利用しやすい点です。また、国が運営している機関のため、無料で利用できるほか、利害関係がないため公平な助言が得られることもメリットといえます。
デメリットは、国が運営しているがゆえにどうしてもスピード感のある支援が難しい点です。また、支援実績も十分とはいえないため、ほかの相談先と比べると劣る部分があることもデメリットといえます。
まとめ
M&Aにおけるクロージングとは、最終契約書に基づき経営権の移転や対価の支払いなどの手続きを実施し、M&Aを完了させることです。クロージングに不備があると、M&A自体が法的に有効であることを証明できません。プレクロージングとポストクロージングをしっかり行って、手続きに不備がないようにしましょう。
クロージングには複雑な手続きや専門知識が欠かせません。クロージング手続きを適切かつスムーズに進めるうえでも、M&Aの専門家に依頼することをおすすめします。
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