M&Aの手法(スキーム)とは?各方法の特徴などをわかりやすく解説
2024年1月18日
このページのまとめ
- M&Aには買収と合併があり、さらに複数の手法に分けられる
- 株式譲渡・株式交換・株式移転・新株引受・事業譲渡・合併・会社分割が主な手法
- TOBやMBOなどの特殊な方法や、資本業務提携という選択肢もある
- M&Aの目的や内容などに応じて、適切な手法を選ぶ必要がある
- M&Aを実施する際は、専門家のサポートを受けることが大切
一口にM&Aと言っても、株式譲渡や事業譲渡、合併や会社分割など多くのスキームがあります。M&Aの実施を検討している方は、まずはどのスキームを利用するか決めることが必要です。それぞれにメリット・デメリットがあるため、M&Aの目的や内容などに応じて適切な手法を選びましょう。
本記事では、M&Aの各手法についてメリットやデメリットを紹介します。どの手法を選ぶべきか迷っている方は参考にしてください。
目次
そもそもM&A とは
M&Aとは「Mergers(合併)and Acquisitions(買収)」の略で、会社の売買のことです。
M&Aの主な目的として、買収側・売却側双方の強みを活かし、シナジー効果を期待することが挙げられます。日本語で「相乗効果」と表現されることもあるシナジー効果は、2つ以上の部署や会社が協力することで単独以上の効果を生み出すことです。
M&Aの手法を用いることで、買収側にも売却側にもメリットが期待できます。ただし、デメリットもいくつかあるため注意が必要です。
ここから、買収側にとってのメリット・デメリットと、売却側にとってのメリット・デメリットを確認していきましょう。
買収側がM&Aの手法を用いるメリット
買収側がM&Aの手法を用いるメリットは、主に以下のとおりです。
- 事業規模を拡大できる
- 新規参入・弱点強化ができる
- エリアを広げられる
M&Aの手法を用いると、買収側は対象企業の人材・設備・ノウハウ・顧客などが手に入ります。そのため、膨大な時間やコストをかけずに、短期間で自社の事業規模を拡大できる点がメリットです。
また、自社の業種と異なる会社や自社の弱みを強みとしている会社を買収することで、新規参入や弱点強化もできます。ただし、業種やM&Aの手法によって、新規参入には新たに許認可取得が必要なこともあるため注意が必要です。
買収側がM&Aの手法を用いることで、エリアを広げられる点もメリットとして挙げられます。異なるエリアの同業老舗企業を買収できれば、顧客基盤強化や販路確保につながるでしょう。
買収側がM&Aの手法を用いるデメリット
買収側がM&Aの手法を用いるデメリットは、主に以下のとおりです。
- 統合がスムーズに進まない可能性がある
- 簿外債務や偶発債務を引き継ぐ可能性がある
- 期待したシナジー効果が生まれるとは限らない
人材確保を期待してM&Aの手法を用いても、対象企業の従業員が納得していなければ統合がスムーズに進まない可能性があります。その結果、従業員のモチベーション低下や人材流出などになりかねません。
M&A前に見落としていて、予期せず簿外債務や偶発債務を引き継いでしまうこともあります。簿外債務とは回収見込みの薄い売掛金のように貸借対照表からは判断できない債務で、偶発債務は取引先との訴訟のようにM&A後に発生する債務のことです。
また、期待したシナジー効果を得られるとは限りません。M&A後に経費が増えたにもかかわらず、売上が伸び悩むこともあるでしょう。
売却側がM&Aの手法を用いるメリット
売却側がM&Aの手法を用いるメリットは、主に以下のとおりです。
- 事業承継問題の解決につながる
- 従業員の雇用を守れる
- 会社を売却して現金を得られる
近年、日本の中小企業では事業承継問題が深刻化しています。2022年の帝国データバンクの調査によると、全国・全業種約27万社の後継者不在率は57.2%でした(※)。改善傾向にありますが、過半数の企業が事業承継問題を抱えているといえるでしょう。
M&Aの手法を用いることで売却側は親族や役員・従業員以外から後継者を探せるため、事業承継問題の解決につながります。その結果、廃業を免れるため、従業員の雇用も維持できるでしょう。
また、自社の株式を持っている経営者の場合、M&Aで会社を売却すると現金を得られます。経営者としてのプレッシャーから解放される上、売却資金で充実した余生を過ごせるでしょう。
※参照元:帝国データバンク「全国企業「後継者不在率」動向調査(2022)」
売却側がM&Aの手法を用いるデメリット
売却側がM&Aの手法を用いるデメリットは、主に以下のとおりです。
- 希望どおりに売却できるとは限らない
- 従業員の雇用に影響が出る可能性がある
売却側がM&Aを検討しても、すぐに相手が見つかるとは限りません。買収を希望する会社が現れたとしても、考えていたよりも低い金額で提示されることがあるでしょう。
また、従業員の雇用を守るために会社を売却したにもかかわらず、M&A後に雇用条件が悪化する可能性もあります。売却側の経営者は、M&A後の雇用条件も含めて買収側と交渉を重ねなければなりません。
M&Aの手法(方法)
一般的にM&Aの手法(方法)は、「買収」か「合併(分割)」です。ただし、広い意味で「提携」を含むこともあります。
買収と合併(分割)は、さらに以下のように細かく分類が可能です。
- 株式譲渡
- 株式交換・株式移転
- 新株引受
- 事業譲渡
- 合併
- 会社分割
それぞれメリットとデメリットがあるため、自社の状況に応じた手法を選ばなければなりません。ここから、6つの手法をそれぞれ細かく解説します。
手法1.株式譲渡
株式譲渡とは、売却側(譲渡対象企業)の株主が保有する株式を買収側(譲受企業)に売却し、現金を受け取る手法です。株式の譲渡だけで経営権の譲渡が完了するため、対象企業の組織構造や資産に変化は生じません。
株式譲渡の具体的な方法は以下の3つです。
- 市場買付
- 相対取引
- 株式公開買付(TOB)
市場買付は買収側が上場会社の株式を公開市場で集める方法で、相対取引は非上場会社の株主と直接交渉して株式を購入する方法を指します。
株式公開買付(TOB)とは、証券取引所を経由せずに、買収側(公開買付者)が「買付期間」「買付価格」「買付予定株数」などを公表して、不特定多数の対象企業株主から直接株式を買い付けることです。
ここから、株式譲渡のメリットとデメリットを詳しく解説します。
株式譲渡のメリット
株式の譲渡株式譲渡の主なメリットは、以下のとおりです。
- 会社の経営権を掌握できる(買収側)
- 事業を存続できる(売却側)
- 対価を受け取れる(売却側)
- 比較的スムーズに手続きできる(買収側・売却側)
買収側は株式譲渡の手法を用いることで、会社の経営権を掌握しやすいです。会社法第2条第3項により、過半数の株式を取得すれば、支配権を有する会社と認識されます。
株式譲渡を用いた場合、組織構造や資産に変化は生じないため、売却側は事業を存続できる点もメリットです。また、株式を売却した株主は対価を受け取れます。
さらに、債権者保護の手続きが原則不要のため、比較的スムーズに手続きできる点が双方のメリットです。債権者保護の手続きとは、組織再編時にあらかじめ官報への公告や個別の催告をし、債権者が異議を述べられる期間を設けることを指します。
参照元:e-Gov「会社法第二条第三項」
株式譲渡のデメリット
株式譲渡の主なデメリットは、以下のとおりです。
- 対価として支払う金銭が必要(買収側)
- 簿外債務や不要な資産を引き継ぐ可能性がある(買収側)
- 不採算事業があると売却額が下がることがある(売却側)
- 全株式の取得が困難な場合がある(買収側・売却側)
株式譲渡の手法を用いる場合、買収側は対価として支払う金銭を用意しなければなりません。対象企業の純資産額が高い場合は多額の金銭を要するため、金融機関からの借入で資金調達しなければならないことがあります。
また、株式譲渡は対象企業丸ごと買収するため、買収側は簿外債務や不要な資産を引き継ぐ可能性があります。貸借対照表だけでは判断できないため、買収側は事前にデューデリジェンス(対象企業の価値やリスクを調査すること)を徹底しなければなりません。
買収側は株式譲渡で負債を含めたすべての資産を引き継ぎます。そのため、対象企業に不採算事業がある場合、売却額が下がりうる点が売却側にとってのデメリットです。
さらに、株式が分散している場合に全株式の取得が困難なことがある点は、買収側・売却側双方のデメリットといえるでしょう。買収側は、まず株主を探し出すことからはじめなければなりません。
手法2.株式交換・株式移転
株式交換や株式移転は、対象企業の株主から株式を譲渡された買収企業が、対価として自社の株式を割り当てる手法です。株式交換と株式移転の違いを説明してから、それぞれのメリットとデメリットを解説します。
株式交換と株式移転の違い
対象企業の完全親会社を既存会社にするか、それとも新設会社にするかが、株式交換と株式移転の主な違いです。
株式交換は、完全子会社となる対象企業と、完全親会社になる既存会社の株式を交換する手法を指します。それに対して、株式移転は完全親会社になる会社を新たに設立し、その株式と完全子会社となる対象企業の株式を交換する手法です。
持ち株会社(ホールディングス)を設立する際には、株式移転の手法が用いられます。持ち株会社とは、他の株式会社を傘下に入れてコントロールするための会社です。
株式交換・株式移転のメリット
株式交換・株式移転のメリットは以下のとおりです。
- 少数株主を強制的に排除できる(買収側)
- 買収資金を用意する必要がない(買収側)
- 売却側株主が買収側の議決権を手に入れられる(売却側)
- 買収対象の企業がそのまま存続できる(買収側・売却側)
M&Aで株式譲渡の手法を用いる場合、完全子会社にするためには株主全員の同意を得るか、スクイーズアウトの手続きを取らなければなりません。スクイーズアウトとは、少数株主を締め出して強制的に株式を取得することです。
それに対して株式交換や株式移転の手法を用いる場合、特別議決で承認を得れば(会社法第309条第2項第12号)、少数株主を強制的に排除して完全子会社にできます。一般的に特別決議とは、株主の過半数が株主総会に出席し、そのうち3分の2以上が賛成することです(会社法第309条第2項第1号)。
また、対価として新株を発行すればよいため、買収側は資金を用意する必要がありません。一方、売却側の株主にとっても、買収側の株主になれる点がメリットです。
さらに、株式交換・株式移転を用いれば、買収対象企業はそのまま存続できます。その結果、慌てずに統合を進められる点が、買収側・売却側双方のメリットです。
参照元:e-Gov「会社法第三百九条第二項第十二号」
参照元:e-Gov「会社法第三百九条第二項第一号」
株式交換・株式移転のデメリット
株式交換・株式移転のデメリットは以下のとおりです。
- 株主構成に変化が生じる(買収側)
- 株価が下落するリスクがある(買収側・売却側)
- 買収側が非上場会社の場合、株式を現金化しにくい(売却側)
- 株式譲渡と比べて手続きに時間がかかる(買収側・売却側)
とくに株式交換の場合、買収側が自社の株式を新たに発行することで株式数が増えて株主構成に変化が生じてしまいます。それに伴い、各株主の持分比率(議決権割合)が低下したり、株価が下落したりする可能性がある点もデメリットです。
また、買収側が非上場であれば、株式を売却して現金化がしにくいでしょう。一方、株式譲渡であれば対象企業の株主は株式を現金化できます。
さらに、手続きに時間がかかる点もデメリットです。株式交換・株式移転計画の立案や株主総会での承認などの手順を踏まなければならないため、着手から完了までに1〜数か月程度の期間を要します。
手法3.新株引受
新株引受(新株発行増資)とは、新たに発行する株式を引き受けることです。M&Aでは、新株引受の第三者割当増資を用いることがあります。
第三者割当増資とは、特定の第三者に有償で新株を発行することです。新株発行時に不特定かつ多数の投資家に勧誘する「公募増資」や、既存の株主に対して持ち株数に応じて新株の割り当てを受ける権利を与える「株主割当」とは異なります。
ここから、新株引受の第三者割当増資を用いてM&Aを実施するメリットとデメリットを確認していきましょう。
新株引受(第三者割当増資)のメリット
新株引受の第三者割当増資を用いる主なメリットは、以下のとおりです。
- 売却側との関係性を強めて経営を強化できる(買収側)
- 完全子会社化と比べてリスクを回避しやすい(買収側)
- 相手を選べる(売却側)
第三者割当増資を用いると、売却側企業と資本関係を結ぶことになるため、買収側は売却側との関係性を強めて経営体制を強化できます。また、対象企業を完全子会社にする場合と比べると一般的に投資額を抑えられるため、リスクを回避しやすい点もメリットです。
売却側は、第三者割当増資の手法を用いる場合に相手を選べます。そのため、自社の経営に関与してほしくない相手とのM&Aにならない点がメリットです。
新株引受(第三者割当増資)のデメリット
新株引受の第三者割当増資を用いる主なデメリットは、以下のとおりです。
- 100%の支配権は獲得できない(買収側)
- 株式譲渡の場合より資金が必要になることがある(買収側)
- 既存株主が譲渡対価を受け取れない(売却側)
- 既存株主の持株比率が低下する(売却側)
第三者割当増資は、新たに株式を発行する手法のため、対象企業の株主はそのまま残ります。そのため、買収側は100%の支配権を獲得して完全子会社にできない点がデメリットです。
また、第三者割当増資を用いると同じ比率でも株式譲渡の場合と比べて多額の資金を要することがあります。新株発行に伴い全体の株数が増えるため、一定割合を確保するのにより多くの株式を必要とすることが理由です。
さらに、第三者割当増資は新たな株式を第三者に譲渡する手法のため、既存株主は売却して現金化できません。その上、株主が増えることで持株比率が低下してしまうことも、売却側の既存株主にとってのデメリットです。
手法4.事業譲渡
事業譲渡とは、対象企業の事業や資産を選別したうえで譲渡する手法です。株式譲渡は売却側が買収側に株式を譲渡するのに対し、事業譲渡は事業(資産)を譲渡する点が異なります。
ここから、事業譲渡のメリットやデメリットを確認していきましょう。
事業譲渡のメリット
事業譲渡の主なメリットは、以下のとおりです。
- 必要な事業や資産だけを選べる(買収側・売却側)
- 債務を引き継ぐ必要がない(買収側)
- 会社を存続できる(売却側)
事業譲渡で、買収側は自社にとって利益が見込めるものや将来性のあるものを対象に、必要な事業や資産だけを選べます。売却側にとっても、会社運営に必要なものを残すようにできる点がメリットです。
また、会社全体が対象の株式譲渡と異なり、双方で決めた資産のみが対象のため、買収側は債務を引き継ぐ必要がありません。一方、売却側は不採算事業だけを切り離し、会社を存続できる可能性がある点がメリットです。
事業譲渡のデメリット
事業譲渡の主なデメリットは、以下のとおりです。
- 手続きに手間がかかる(買収側)
- 競業避止義務がある(売却側)
- 事業譲渡の売却で得た利益に法人税がかかる(売却側)
事業譲渡では、買収側は対象部門の従業員や取引先と契約を結び直したり、関連する許認可を取得したりしなければなりません。そのため、手続きに手間がかかる点がデメリットです。
一方、売却側には競業避止義務が課されます(会社法第21条第1項)。当事者間で合意して規定を排除しない限り、売却側は事業譲渡後20年間、同一市町村の区域内や、隣接する市町村の区域内で対象事業をおこなうことができません。
また、事業譲渡で得た譲渡益に対して、法人税が課される点が売却側のメリットです。対象事業が大きければ、多額の法人税が課されかねません。
手法5.合併
合併は、複数の会社をひとつの会社に統合する手法です。合併の種類を説明してから、メリットとデメリットを解説します。
合併の種類
合併は、会社を残すかどうかによって「吸収合併」と「新設合併」の2種類に分けられます。それぞれの概要を確認していきましょう。
吸収合併
吸収合併とは、合併対象企業のうち1社を存続させる手法です(会社法第2条第27項)。そのほかの会社は、すべての権利・義務を存続させる会社に承継し、消滅(解散)します。一般的に、M&Aで合併を用いる際、新設合併よりも吸収合併の方が手続きしやすいです。
なお、存続する(法人格が残る)会社を「存続会社」、消滅する会社を「消滅会社」と呼びます。
新設合併
新設合併とは、すべての会社を消滅させて、新たに設立した会社(新設会社)にすべての権利義務を承継させる手法です(会社法第2条第28項)。株式・資産・従業員・ノウハウなどのすべてが、新設会社に引き継がれます。
新設合併では、すでに取得していた許認可の再取得や、引き継ぎ手続きが必要です。また、登録免許税が吸収合併では資本金増加額分にかかるのに対し、新設合併では資本金全額にかかります。
そのため、M&Aで合併の手法を用いる際は、新設合併ではなく吸収合併を選択することが一般的です。
参照元:e-Gov「会社法第二条第二十八項」
参照元:国税庁「登録免許税」
合併のメリット
合併の主なメリットは、以下のとおりです。
- スムーズにシナジー効果を発揮できる(存続側・消滅側)
- 資金調達せずにM&Aができる(存続側)
合併すると、複数の会社が1つになるため、スムーズにシナジー効果を発揮できます。また、対等合併をアピールすることで、取引先や従業員に悪い印象を抱かせないようにできる点もメリットです。
さらに、合併対価を株式とすれば、資金調達せずに買収できます。合併対価とは、消滅会社の株式に支払う対価のことです。
合併のデメリット
合併のデメリットは、以下のとおりです。
- システムの統合作業に時間を要する(存続側・消滅側)
- 合併対価を株式にすると、存続会社の株主構成が変化する(存続側)
ひとつの会社にするため、システムなどの統合作業を進めなければなりません。統合作業には時間がかかる上、従業員に負担をかける点がデメリットです。
合併対価を株式にすると、存続会社の株式数が増えて既存株主の持株比率が低下します。合併で株主が不利益を被ることがないように、適切に企業価値を判定したうえで、合併比率を算出しなければなりません。
手法6.会社分割
会社分割とは、ひとつの会社(分割会社)の事業の一部あるいは全部を分割し、他の会社に引き継ぐ手法です。会社分割の種類を説明してから、メリットやデメリットを解説します。
会社分割の種類
会社分割は、事業を承継させる相手によって、「吸収分割」と「新設分割」に分類できます。また、承継する権利義務の対価として交付する財産を分割会社に支払うか(分社型分割)、それとも分割会社の株主に支払うか(分割型分割)によっても分類が可能です。
ここでは、「吸収分割」と「新設分割」の概要について、詳しく解説します。
吸収分割
吸収分割とは、会社が事業の権利義務の全部または一部を分割し、他の会社に承継させる手法です(会社法第2条第29項)。企業グループ内での再編や、グループ体制の整備などに用いられます。
迅速な意思決定ができるように、親会社が既存の子会社にすべての事業を引き継ぎ、グループ全体の経営・管理に専念するケースが、吸収分割の一例です。
新設分割
新設分割とは、会社が事業の権利義務の全部または一部を分割し、新設する会社に承継させる手法です(会社法第2条第30項)。吸収合併と同様に、企業グループ内の再編で用いられます。
新設分割するタイミングのひとつが、一部の事業をカーブアウトする際です。事業のカーブアウトとは、一部の事業を切り出して独立させることを指します。
また、複数の会社がそれぞれ一部の事業を切り出して新たに合弁会社を設立するケースも、新設分割を使うタイミングです。基本的に、吸収分割では合弁会社の設立ができません。
会社分割のメリット
会社分割の主なメリットは、以下のとおりです。
- 買収資金の準備が必要ない(買収側)
- シナジー効果を見込みやすい(買収側)
- 切り離す事業を特定の部分に限定できる(売却側)
会社分割では新株を対価とできるため、買収資金を準備する必要がありません。また、自社が関心のある事業のみを承継できるため、早い段階でのシナジー効果発揮を期待できる点がメリットです。
一方、売却側は承継させる事業を不採算事業に限定すれば、経営改善を図り会社を存続できます。
会社分割のデメリット
会社分割のデメリットは、以下のとおりです。
- 簿外債務を引き継ぐ可能性がある(買収側)
- 買収側の株主構成が変わる可能性がある(買収側)
- 統合作業で混乱が生じることがある(買収側)
買収側は対象事業を包括的に承継できる分、関連する簿外債務も引き継ぐ可能性があります。事前にデューデリジェンスを徹底し、問題ないか確認しておかなければなりません。
また、買収対価として株式を発行することで、対象企業の株主が買収側の株主になるため、株主構成が変更する可能性があります。その結果、買収側の株価が下落することもあるでしょう。
さらに、外部の事業を自社に取り込むために統合作業を進めなければなりません。統合作業に伴い従業員に負担がかかるうえに、うまくいかなければ経営体制が不安定になる恐れがあります。
特殊な株式取得の方法
そのほか、株式取得方法には以下のような選択肢もあります。
株式取得方法 | 内容 |
TOB | 買収したい会社の株式を一定の価格で一斉に買い取り、経営権を取得する |
MBO | 自社の経営陣が株式を買い取り、経営権を取得する |
ここでは、それぞれの手法について解説します。
TOB
TOB(Takeover Bid)とは株式公開買付のことで、買収したい会社の株式を一定の価格で一斉に買い取り、経営権を取得する方法です。
具体的には、買い手が事前に買付期間や価格、株式数を公告します。株主は、株を売却するかTOBに応じないかを選択できます。その後買付けを実施し、議決権付き株式を50%以上取得することで、経営権を獲得する、という流れです。
TOBは、敵対的買収の手段としても使用されます。
しかし、中小企業では経営者が株主となっているケースが多いため、TOBが中小企業のM&Aで利用されることはほとんどありません。
MBO
MBO(Management Buyout)とは、経営陣が自社の株式を買い取り、経営権を取得する方法です。子会社の独立や経営権の強化、公開会社の非公開化などの際に利用されます。
MBOでは買収後も同じ経営陣が経営を行うため、経営方針や戦略などが引き継がれやすいのがメリットです。スムーズな引き継ぎが可能なため、中小企業の事業承継の手段としても活用されています。
ただし、既存株主から反対されるリスクがある点に注意が必要です。また、買収にあたって資金調達が必要になるケースが多く、債務が膨らんで経営状態が悪化する恐れもあります。
なお、経営陣ではなく自社の従業員が買収することを、EBO(Employee Buyout)といいます。
資本業務提携をM&Aに含める場合もある
今回紹介した6つの手法は、狭義のM&Aに含まれるものです。一方、広義のM&Aには資本業務提携(提携)の手法が含まれます。資本業務提携が狭義のM&Aに含まれないのは、売却側の事業や経営権までは取得しないためです。
ここから、資本業務提携の種類や、メリットとデメリットを解説します。
資本業務提携の種類
資本業務提携の主な種類は、以下のとおりです。
- 資本提携
- 業務提携
- ジョイントベンチャー
資本提携とは、複数の会社が技術やノウハウの提供や出資で、企業間の連携を深めることです。相互の株式持ち合いや、第三者割当増資により、連携します。
業務提携とは、資本の移動を伴わずに生産提携・販売提携・技術提携などの契約を通じて連携することです。資本関係がない分、資本提携よりも業務提携の方が関係性が薄い傾向にあります。
ジョイントベンチャーとは、複数の企業が出資して新たな会社(合弁会社)を設立することです。ただし、ジョイントベンチャーは資本提携に含めることがあります。
資本業務提携のメリット・デメリット
以下は、資本業務提携の3つの方法について、それぞれのメリットとデメリットをまとめた表です。
提携方法 |
メリット |
デメリット |
資本提携 |
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業務提携 |
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ジョイントベンチャー |
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より強固な関係性を構築したい場合は、資本関係を伴う資本提携を選ぶとよいでしょう。
なお、いずれの方法も提携先がトラブルを起こした場合、自社のイメージまでダウンする可能性がある点に注意が必要です。提携先を慎重に検討することが欠かせません。
M&Aの手法を選択する際のポイント
M&Aには複数の手法があるため、M&Aの目的や自社の状況などに応じて、適切な手法を選択する必要があります。
M&Aの手法を選択する際のポイントは以下のとおりです。
- M&Aを行う目的や譲渡・譲受の対象を明確にする
- その手法に必要な資金を確保できるか確認する
- 会計処理や税務処理に与える影響を考慮する
ここでは、それぞれのポイントについて解説します。
M&Aを行う目的や譲渡・譲受の対象を明確にする
まずは、M&Aを行う目的や譲渡・譲受の対象を明確にしましょう。
目的によって適切な手法は異なります。たとえば、後継者問題を抱えている場合は、別の会社に株式を譲渡するのが効果的です。複数の会社をまとめてグループ体制を強化したい場合は、合併を選ぶとよいでしょう。
また、譲渡・譲受の対象を明らかにすることも欠かせません。何を譲渡・譲受したいかによっても、スキームが変わってくるためです。M&Aには、資産や負債、権利義務などを含む会社全体を譲渡・譲受するパターンと、事業や資産などの一部を譲渡・譲受するパターンがあります。会社全体を譲渡したい場合は株式譲渡、事業のみを譲渡したい場合は事業譲渡を使用するのが一般的です。
その手法に必要な資金を確保できるか確認する
買い手の場合は、その手法を選ぶ場合に必要な資金を確保できるかも検討しましょう。たとえば、株式譲渡の場合は会社全体を引き継ぐため、高額な資金を用意しなければならない可能性が高いです。資金が不足している場合は、一部の事業のみを譲り受ける事業譲渡や、金銭ではなく株式を対価とできる合併を選ぶという選択肢もあります。
M&Aのスキームによって譲受する資産や対価は異なるため、買収資金を問題なく確保できるかを確認しましょう。
会計処理や税務処理に与える影響を考慮する
M&Aの手法が会計処理や税務処理に与える影響についても考慮する必要があります。
たとえば、株式譲渡の場合は対価を受け取る譲渡側にのみ税金が課せられます。一方、事業譲渡の場合は、譲渡益を得た譲渡側と消費税課税対象資産を譲受した譲受側双方が課税対象です。また、一定の条件を満たしたうえで会社分割を行う場合は、適格分割とみなされ、原則法人税や所得税が課税されません。
このように、スキームごとに会計処理や税務処理に与える影響は異なります。税理士や公認会計士などのサポートも受けながら、適切なスキームを選びましょう。
M&Aの手法を用いる際の流れ
M&Aの手法を用いて、成約に至るまでの流れを以下にまとめました。
- 何を目的にM&Aの手法を用いるのか明確にする
- M&Aのアドバイザーを選定し、業務委託契約を締結する
- アドバイザーの協力のもと候補先を選定し、匿名で相手に意思を確認する
- 相手側にM&Aの意思があれば、秘密保持契約を締結する
- 売却を予定している会社が、買収予定側に情報(IM)を提示する
- 双方のトップ同士の面談を実施し、「誠実な経営者か」などを見極める
- トップ面談がうまくいけば、「基本合意書」を締結する
- リスクを確認するために、税理士や公認会計士などの専門家が、デューデリジェンスを実施する
- 細かい条件交渉をおこなう
- 最終契約を締結する(株式譲渡であれば株式譲渡契約)
また、最終契約を締結した後で、PMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)を実施しなければなりません。PMIとは、M&A実施後の効果を最大化するための統合プロセスのことです。
このように、M&Aの手法は複雑なため、実施にあたって当事者だけでなく専門家の協力を仰ぐとよいでしょう。
M&Aの手法に関する相談先
M&Aを実施するにあたってどのようなスキームを選ぶべきか検討する際は、専門家に相談するのがおすすめです。
M&Aに関する相談先としては、以下が挙げられます。
相談先 | 特徴 |
M&A仲介会社 | M&Aの専門家として、M&Aのプロセスを一貫してサポートしてくれる |
金融機関 | 自社の事業内容や財務情報を理解している相手に相談できる 資金調達についても相談できる |
事業承継・引継ぎ支援センター | 公的な相談窓口で信頼性が高く、無料で利用できる |
公認会計士や税理士などの士業 | 専門分野に関する高度な知識や知見を活かして、M&Aをサポートしてくれる |
ここでは、相談先ごとのメリットやデメリットについて解説します。
M&A仲介会社
M&A仲介会社は、売り手と買い手の間に立ち、中立的な立場からM&AをサポートするM&Aの専門家です。弁護士や公認会計士などの士業や金融機関と連携し、M&A戦略の策定から相手探し、企業価値評価や必要書類の作成など、成約まで一貫してサポートするケースが多いです。はじめてM&Aを行う場合でも、安心して進められるでしょう。
一方、成功報酬に加えて着手金や中間金などが発生する場合もあるため、料金体系や費用については確認が必要です。仲介会社によっては、高額な費用が発生する可能性もあります。
金融機関
取引関係がある金融機関に相談するという方法もあります。
すでに自社の事業内容や財務状況などを知っている相手に相談できるため、どのスキームを選ぶべきか、適切なアドバイスを得られるでしょう。また、買い手の場合は買収資金の調達方法について相談できるのもメリットです。
一方、金融機関によっては大型の案件を多く扱っており、中小企業のM&Aには対応していない可能性がある点には注意しましょう。
地方銀行や信用金庫であれば、中小企業のM&Aに対応しているケースが多いです。しかし、地域密着型で地域のネットワークを使って相手を探すため、相手先のエリアが限定されてしまうというデメリットがあります。
事業承継・引継ぎ支援センター
事業承継・引継ぎ支援センターは、国が設置する公的な相談窓口です。全国47都道府県に設置されており、中小企業や小規模事業者の事業承継を支援します。
事業承継・引継ぎ支援センターは、無料で利用できるのがメリットです。また、公的な窓口であるため、安心して依頼できるでしょう。
一方、M&Aの全てのプロセスをサポートしてくれるわけではないのがデメリットです。相手との交渉や成約に向けた手続きなどは自身で行わなければならないため、包括的なサポートを受けたい方には適していません。
公認会計士や税理士などの士業
公認会計士や税理士などの士業は、それぞれの専門性を活かしてM&Aをサポートしてくれます。
公認会計士は会計・監査、税理士は税務、弁護士は法務の専門家です。それぞれ、以下のような業務を担当します。
士業 |
担当業務 |
公認会計士 |
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税理士 |
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弁護士 |
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たとえば、税務に関する影響を考慮してスキームを選びたい場合は、税理士に相談するのが効果的です。相手との交渉を依頼したい場合は、弁護士に相談するとよいでしょう。それぞれ専門領域があるため、サポートを受けたい業務内容に応じて相談することが大切です。
ただし、公認会計士や税理士などの士業はM&Aの専門家ではありません。M&Aの支援実績が少ない場合があります。また、M&Aのプロセスを一貫してサポートしてくれるわけではない点にも注意が必要です。
まとめ
M&Aには、株式譲渡・株式交換・株式移転・新株引受・事業譲渡・合併・会社分割といった複数の手法があります。M&Aを行う際は、スキームごとのメリットとデメリットを理解したうえで、適切なものを選ぶことが大切です。M&Aの手法を選択する際は、M&Aを行う目的や譲渡・譲受の対象、資金調達の見込み、会計処理や税務処理に与える影響などを考慮しましょう。
専門家の意見をもとにどの手法を選ぶべきか決めたい方は、M&A仲介会社や士業専門家などに相談することがおすすめです。
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レバレジーズM&Aアドバイザリー株式会社には、M&Aを熟知したコンサルタントが多数在籍しています。案件探しから成約まで一貫してサポートするため、はじめてM&Aを行う方でも安心して進められるでしょう。料金は成約時に発生する完全成功報酬型であり、成約まで無料で利用できます。(譲受側のみ中間金あり)M&Aを検討している方は、お気軽にお問い合わせください。