クロスボーダーM&Aとは?リスクや成功させるポイント、事例を解説

2024年3月29日

クロスボーダーM&Aとは?リスクや成功させるポイント、事例を解説

このページのまとめ

  • クロスボーダーM&Aは、売り手あるいは買い手が海外企業であるM&Aのこと
  • クロスボーダーM&Aでは、三角合併やLBOが用いられるケースが多い
  • クロスボーダーM&Aには、カントリーリスクや為替リスクなど多くの注意点がある
  • クロスボーダーM&Aでは、相手国についてのリサーチとデューデリジェンスが必要
  • クロスボーダーM&Aに成功するためには、PMIに注力することも欠かせない

クロスボーダーM&Aとは、日本企業と海外企業が行うM&Aです。海外企業を買収することで、海外市場への参入やコストダウンなどを実現できます。しかし、政治や法律、文化などが異なる相手とのM&Aは難しく、クロスボーダーM&Aならではのリスクも多いです。

本記事では、クロスボーダーM&Aを実施するメリットやリスク、成功させるためのポイントなどを解説します。事例も紹介しているため、ぜひ参考にしてください。

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クロスボーダーM&Aとは

クロスボーダーM&Aとは、売り手あるいは買い手が海外の企業であるM&Aのことです。
国境を越えて行われるM&Aであることから、クロスボーダーM&Aと呼ばれます。

日本企業が海外進出を狙う場合や、海外企業が日本の技術力を求めて中小企業やベンチャー企業を買収する際などに実施されます。

クロスボーダーM&Aのプロセスは、国内のM&Aと大きな違いはありません。しかし、クロスボーダーM&Aならではの難しさがあるため、時間をかけて慎重に行うことが大切です。

まずは、クロスボーダーM&Aの3つの種類と、件数について見ていきましょう。

クロスボーダーM&Aの3つの種類

クロスボーダーM&Aには、以下の3つの種類があります。

  • In-Out型
  • Out-In型
  • JV(ジョイントベンチャー)型

In-Out型は、日本企業が海外企業を買収するM&Aです。たとえば、ASEAN諸国への進出を目指す日本企業がインドネシアの企業を買収した場合は、In-Out型に該当します。

Out-In型は、海外企業が日本企業を買収するM&Aです。海外企業が日本のベンチャー企業を買収した場合は、Out-In型に当たります。

JV(ジョイントベンチャー)型は、日本企業と海外企業が共同出資してジョイントベンチャーを設立することです。ジョイントベンチャーとは、複数の企業が共同出資して新しい会社を立ち上げ、事業を行うことです。互いに異なる強みを持つ日本企業と海外企業が、シナジー効果の創出を目指してジョイントベンチャーを設立するケースが見られます。

なお、日本企業同士で行われるM&Aは、In-In型と呼ばれます。

クロスボーダーM&Aの件数

レコフの調査によると、2022年に行われたM&Aのうち、In-Out型は625件、Out-In型は334件でした。

また、2023年1月から9月までのデータでは、In-Out型は482件、Out-In型は206件です。
前年に比べると、In-Out型は4.6%増加、Out-In型は20.2%減少しています。

このように、In-Out型は増加傾向にあります。一方、Out-In型は日本市場の縮小により、減少傾向にあるのが現状です。

参照元:レコフ「クロスボーダーM&Aマーケット情報」

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クロスボーダーM&Aの特徴

クロスボーダーM&Aは、案件の規模が大きいという特徴があります。海外展開を見据えた大手企業が行うケースが多いためです。

また、国内のM&Aに比べると、成約後のPMI(統合プロセス)が難しいのもポイントです。クロスボーダーM&Aでは、相手国の風土や文化、言語の違いなどを加味してM&Aを実行しなければなりません。国内のM&Aにはないリスクも多く、事前にリスクを想定して対策しなければ、M&Aが失敗してしまう可能性があります。

なお、M&Aのプロセス自体は国内のM&Aとあまり変わりません。

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クロスボーダーM&Aで用いられる手法

クロスボーダーM&Aでは、国内のM&Aと同様に株式譲渡や事業譲渡といったスキームがよく用いられます。

そのほか、三角合併やLBOも用いられます。三角合併とLBOは、クロスボーダーM&Aで特に多く用いられる手法です。

以下では、2つの手法について解説します。

三角合併

三角合併とは、海外企業が日本に子会社を設立して行う合併です。子会社が親会社である海外企業の株式を取得した後、その株式を日本企業の株主に交付して合併を行います。その結果、海外企業は日本企業を子会社にできる、という仕組みです。

日本の会社法では、海外企業と日本企業の直接の合併は認められていないと解釈されます。三角合併であれば、国を超えた合併が可能です。

三角合併は、合併の対価を株式にできるため、買収資金を用意しなくていいというメリットがあります。一方、日本企業側の株主総会で承認されなければ、三角合併は実行できません。

LBO

LBO(Leveraged Buy Out)は、買い手が売り手の資産を担保に金融機関から借入を行い、買収資金を調達して実行するM&Aです。少ない自己資金で規模の大きい企業を買収できることから、「てこの原理」を意味する「レバレッジド」という単語が使われます。

LBOの流れは以下のとおりです。

  1. 買い手がSPC(特別目的会社)を設立する
  2. SPCが売り手の株式や保有資産、将来的な収益などを担保に金融機関から融資を受け、買収資金を調達する
  3. SPCが売り手を買収する
  4. SPCと買収した企業を合併する
  5. ローンを返済する

LBOのメリットは、少ない自己資金で大規模なM&Aを行いやすいことです。案件の規模が大きい傾向にあるクロスボーダーM&Aでは、LBOを選択するケースが多く見られます。

一方、融資を返済する必要があり、M&A後に財務状況が悪化してしまうリスクがある点には注意しましょう。業績が悪化した場合は、返済が難しくなってしまう可能性があります。ハイリスクハイリターンな方法といえるでしょう。

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クロスボーダーM&Aを実施するメリット

日本企業が海外企業を買収するメリットは以下のとおりです。

  • グローバル市場を開拓できる
  • 日本にない技術やノウハウを吸収できる
  • コストダウンが期待できる
  • ブランディングにつながる

ここでは、それぞれのメリットについて見ていきましょう。

グローバル市場を開拓できる

海外企業とM&Aを行うことで、自社の商品やサービスを海外市場に持ち込み、グローバル市場を開拓できます。

海外市場に進出するためには、ノウハウの獲得や販路の構築、現地企業とのネットワークの確立、許可の取得など、やるべきことが多々あります。ゼロから進出するのはハードルが高いです。

すでに現地での販路やブランド力などを獲得している海外企業を買収することで、スムーズに海外市場に進出できるでしょう。

特に、相手先の国や地域で自社商品のマーケットが確立されていない場合は、競合が少ないため、成功すれば大きな利益を得られる可能性が期待できます。

日本にない技術やノウハウを吸収できる

クロスボーダーM&Aによって、日本にはない技術やノウハウを吸収できるのも魅力です。

海外企業から技術やノウハウを積極的に吸収することで、新商品や新サービスの開発につながる可能性があります。既存の商品やサービスに新たな技術を盛り込み、ブラッシュアップさせることも可能です。

海外企業も、同様に日本の技術やノウハウを取り込めます。シナジー効果によって、買い手と売り手双方の事業を成長させられる可能性があるのもメリットです。

コストダウンが期待できる

クロスボーダーM&Aによって海外で生産や製造を行えるようになれば、コストダウンも期待できます。

日本より人件費や家賃相場が低い国に製造拠点を設けることで、製造コストを抑えられます。原材料を入手しやすい国の企業を買収して、効率的な経営を実現するのも1つの方法です。

また、日本よりも法人税が低い、あるいは税制上の優遇措置を受けられるような国に展開するために、M&Aを行うケースも見られます。

ブランディングにつながる

海外企業を買収することで、グローバル展開している企業としてブランディングにつながるのもメリットです。

クロスボーダーM&Aは規模が大きいため、M&Aを行ったという事実がニュースに取り上げられる場合も多いです。海外進出に積極的な企業として、国内外での知名度を高められます。

また、グローバルに働きたいという若い世代に興味を持ってもらえれば、採用活動でプラスに働く可能性も期待できるでしょう。

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クロスボーダーM&Aを失敗させるリスク

クロスボーダーM&Aには多くのメリットがある一方、注意しなければならないリスクも多数存在します。想定されるリスクを洗い出し、対策しておくことが大切です。

特に注意したいリスクは以下のとおりです。

  • カントリーリスク
  • 訴訟リスク
  • 人的リスク
  • 環境リスク
  • 為替リスク

ここでは、それぞれのリスクについて解説します。

カントリーリスク

クロスボーダーM&Aでは、相手国の政治や経済といった社会情勢による影響を強く受ける点に注意が必要です。

たとえば、政治上何らかの問題が起こった場合はM&Aが破談になったり、資金を回収できなくなったりするリスクがあります。

また、相手国の法律の関係で、想定していたM&Aを実行できなくなる可能性も否定できません。

訴訟リスク

日本では訴訟にならないような小さな問題が、海外では訴訟に発展するリスクがある点にも注意しましょう。

たとえば、アメリカは「訴訟大国」と称されるほど、多くの訴訟が発生する国として知られています。些細な問題だからと放置した結果、相手企業や相手企業の従業員から損害賠償を請求され、大きな損失を被ってしまう可能性があります。

少しでもトラブルに発展しうる問題がある場合は見逃さず、自社を守れるような契約内容にしたり、デューデリジェンスを徹底したりすることが大切です。

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人的リスク

M&A実施後の統合がうまくいかず、相手企業の労働組合から反対されてしまうリスクもあります。人材が大量に流出してしまえば、期待していた成果を得るのは難しくなってしまいます。

また、文化や考え方は国によって大きく異なる点にも注意が必要です。従業員が期待どおりに働いてくれなかったり、人員整理がうまくいかなかったりと、相手企業の従業員との接し方や処遇に苦労する可能性があります。

環境リスク

M&A実施後に、相手国の環境に関する規制や基準に違反してしまうリスクにも注意が必要です。自然環境に関する考え方やルールは、国によってさまざまです。日本より環境意識が高く、厳しいルールを課している国も存在します。

日本と同じように製造や廃棄物の処理を行った結果、相手国の規制に違反してしまう可能性も否定できません。訴訟問題に発展し、多額の賠償金の支払いを命じられる恐れもあります。環境に関する法律や規制は必ずチェックし、相手国のルールを遵守しましょう。

為替リスク

為替レートの変動により、日本円に換算すると減収になってしまうリスクもあります。

現地での業績が好調であっても、為替変動により思ったとおりの収益にならない、あるいは減収になってしまう場合があります。結果として、投資回収がうまくいかず、M&Aに失敗してしまうかもしれません。

また、買収企業を連結子会社にする場合は、相手国の為替変動が連結財務諸表に影響を与える点にも注意が必要です。為替の変動により円に換算した額が変動した場合は、その分連結財務諸表の包括利益も変動します。

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クロスボーダーM&Aを成功させるポイント

クロスボーダーM&Aに成功するためには、以下のポイントを重視しましょう。

  • 現地の情報収集する
  • 現地の事情を踏まえてバリュエーションを行う
  • デューデリジェンスを徹底する
  • ブレークアップフィー条項を規定する
  • 対価の支払い時期をチェックする
  • PMIに注力する
  • クロスボーダーM&Aの実績が豊富な専門家に相談する

それぞれのポイントについて見ていきましょう。

現地の情報を収集する

クロスボーダーM&Aを行うにあたって、相手国や地域に関する幅広い情報を収集することが大切です。具体的には、以下のような項目については必ずリサーチしておきましょう。

  • 政治・社会情勢
  • 経済政策・経済成長率
  • 法律
  • 国民性
  • 独自の文化・宗教
  • 物価・給与水準

相手国に関するリサーチを怠ると、カントリーリスクや人的リスクなどが原因で、M&Aが失敗に終わってしまう可能性があります。

たとえば、M&Aによってイスラム教圏内に進出する際は、ハラール認証を受ける必要があります。ハラール認証とは、対象となる商品・サービスがイスラム法に則って生産・提供されたものであることを証明するものです。認証機関が審査し、認証後も定期的な監査を受ける必要があります。ハラール認証について知らずにM&Aを進めてしまうと、想定どおりに商品やサービスを販売できなくなる可能性が高いため注意しましょう。

また、相手企業について詳しく理解することは、信頼を獲得するうえで欠かせません。

現地の情報を幅広くリサーチし、十分に理解を深めた状態でM&Aを実行しましょう。

現地の事情を踏まえてバリュエーションを行う

現地の事情を踏まえて、売り手のバリュエーション(企業価値算定)を行うことも大切です。

クロスボーダーM&Aでは相場が分かりにくいため、相場を超える金額で買収してしまう可能性も否定できません。特に、新興国の企業を買収する際は注意が必要です。

今後の経済発展をどの程度評価すればよいのかが難しいためです。また、株式市場の長期にわたるデータがないため、ローカル市場のデータをもとに株主資本コストを算定できないという難点もあります。そのため、資本市場がグローバルで統合されていると仮定して株主資本コストを算出し、修正を加えてバリュエーションに使用するのが一般的です。

このように、国内のM&Aよりもバリュエーションが複雑になりやすいため、適切に企業価値を評価できない場合があります。M&Aによって得られる成果よりも高い金額で買収してしまい、投資回収に失敗してしまう可能性もあるでしょう。

売り手の企業価値を正確に算定するためには、現地の情報を細かく収集し、現地の事情を踏まえてバリュエーションを行うことが大切です。

クロスボーダーM&Aのバリュエーションは難しいため、公認会計士や税理士、M&A仲介会社など、信頼できる専門家に依頼することをおすすめします。

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デューデリジェンスを徹底する

クロスボーダーM&Aでは、特にデューデリジェンスを徹底しましょう。

クロスボーダーM&Aでは、国内のM&Aでは起こらないような、文化や法律、国民性などの違いに起因するトラブルが起こる可能性があります。

たとえば、売り手がタイの外国人事業法の適用を受けることがわかった場合、買い手が100%の経営権を取得することが難しくなってしまいます。その場合、タイ国籍の株主との間で株主間協定を締結したり、タイ国籍を有する株主となる法人を設立したりなど、買い手が経営権を持つための対策を考慮しなければなりません。

デューデリジェンスを入念に行うことで、トラブルになりうる問題を洗い出し、対策を検討できます。デューデリジェンスで売り手について徹底的にリサーチし、さまざまなリスクに備えましょう。

ブレークアップフィー条項を規定する

クロスボーダーM&Aでは、契約書にブレークアップフィー条項を規定することが重要です。

ブレークアップフィー条項とは、M&Aが取りやめになった際、売り手が買い手に支払う違約金について記載する条項です。ブレークアップフィー条項を規定しておくことで、万が一売り手の事情でM&Aが白紙になった際も、違約金を受け取れます。

クロスボーダーM&Aでは、順調に交渉が進んでいたとしても、相手国の政治問題や経済情勢が原因で突然頓挫してしまう可能性があります。自社の損失を抑えるためにも、必ずブレークアップフィー条項を規定しておきましょう。

違約金の金額は、売り手と相談して自由に設定できます。買収金額の1〜5%程度に設定されるケースが一般的です。

対価の支払い時期をチェックする

対価の支払い時期も忘れずにチェックしましょう。

前述のとおり、クロスボーダーM&Aは為替変動の影響を大きく受けます。買収対価を支払う時期によっては、当初の予定よりも金額が膨れ上がってしまう可能性があるため注意が必要です。

大規模な案件ほど、金額が大きい分大きな損失を受けるリスクがあります。

対価を支払う時期については、事前に把握しておきましょう。

PMIに注力する

クロスボーダーM&Aでは、特にPMIに注力することが大切です。

PMIとは、M&A成約後に実施する統合手続きです。具体的には、以下のような項目について統合を進めます。

  • M&A実施後の経営理念や戦略
  • ガバナンス
  • 組織体制
  • 人事評価制度
  • 販売体制・管理体制
  • 情報システム

クロスボーダーM&Aでは、文化や言語、国民性の違いによって統合に失敗してしまうケースが多く見られます。相手の経営陣や従業員と積極的にコミュニケーションをとり、お互いを理解しようと歩み寄る姿勢が欠かせません。

シナジー効果を実現してM&Aを成功させるためには、PMIに3〜5年ほど費やしましょう。

M&A仲介会社に依頼する場合は、PMIのコンサルティングも依頼できるケースが多く、安心してPMIを進められます。

クロスボーダーM&Aの実績が豊富な専門家に相談する

クロスボーダーM&Aは難易度が高いため、専門家のサポートを受けながらM&Aを進めることが大切です。

自社のみで進めると、自社に合った相手先を見つけられなかったり、交渉に苦労したりする可能性があります。また、相手国の法律に違反し、賠償金の請求や不買運動の発生といった重大なトラブルにつながるリスクも否めません。

相手国の文化や法律などに精通しており、クロスボーダーM&Aの支援実績が豊富な専門家に相談しましょう。

専門家に依頼する際は、国際弁護士やクロスボーダーM&Aの支援実績が豊富なM&A仲介会社などに相談するのがおすすめです。弁護士に依頼する場合は、弁護士を検索できるサイトを使い、「国際取引」「海外取引」といった条件で検索するとよいでしょう。また、クロスボーダーM&Aを一貫して支援してもらいたい場合は、M&A仲介会社に依頼するのがおすすめです。M&A戦略の策定から成約・PMIまで、手厚いサポートを受けられます。

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クロスボーダーM&Aの成功事例3選

最後に、クロスボーダーM&Aに成功した日本企業の事例を3つ紹介します。

  • セブン&アイ・ホールディングスの事例
  • 武田薬品工業の事例
  • クックパッドの事例

それぞれ、概要や買収の目的などを解説しているため、クロスボーダーM&Aを検討している方はぜひ参考にしてください。

1.セブン&アイ・ホールディングスの事例

株式会社セブン&アイホールディングス(以下、セブン&アイ)は、連結子会社であるアメリカ法人の7-Eleven,Inc(以下、7-Eleven)を通じて、2017年にアメリカのスノコLP社からコンビニエンスストア事業とガソリン小売事業の一部を買収しました。

また、2021年にはアメリカのガソリンスタンド併設型コンビニエンスストアであるスピードウェイを買収しています。

アメリカでは、コンビニエンスストアとガソリンスタンドが併設されているのが一般的です。セブン&アイは、店舗網の拡充や利便性向上、収益性改善などを目的に、スノコLP社とスピードウェイを買収しました。

特に、スピードウェイは2020年12月時点で全米3位の店舗数を誇るチェーンです。今回の買収により、1位の7-Elevenは2位と6,000店舗近く差をつける結果となりました。

アメリカに成長の余地を見出し、M&Aによって商品力の強化や店舗網の拡充を推進している事例です。

参照元:
株式会社セブン&アイ・ホールディングス「当社子会社による米国 Sunoco LP 社からの一部事業取得に関するお知らせ」
株式会社セブン&アイ・ホールディングス「7-Eleven, Inc.によるSpeedway取得」

2.武田薬品工業の事例

武田薬品工業株式会社(以下、タケダ)は、2018年にアイルランドのシャイアー社を買収しました。

シャイアー社は、アイルランドを本拠地とし、ボストンに研究開発拠点を、スイスにグローバル本社を置くグローバルなバイオテック企業です。特に、ニューロサイエンスや希少疾患領域において複数のリーディングブランドを有しています。

買い手のタケダは、消化器系疾患やニューロサイエンス、オンコロジーなどの領域で多くの製品を手がける研究開発型の企業です。

今回のM&Aにより、タケダはこれまで進出できていなかった希少疾患領域に参入できるようになりました。また、消化器系疾患やニューロサイエンス領域についても、シナジー効果によりさらに強化していく方針です。

企業価値向上を追求する研究開発型グローバルバイオ医薬品企業のリーディングカンパニーとして、研究開発体制を強化するとしています。

参照元:
武田薬品工業株式会社「武田薬品によるシャイアー社買収の申出について」
武田薬品工業株式会社「タケダに夜シャイアー社の買収:患者さんへ更なる価値を提供するためのタケダの変革を加速」

3.クックパッドの事例

クックパッド株式会社(以下、クックパッド)は、2013年にスペインのITYIS SIGLO XXI, S.L.(スペイン アリカンテ)から、レシピサービス「Mis Recetas」の事業買収を発表しました。

Mis Recetasは、クックパッドと同様のユーザー投稿型レシピサービスです。Webからの月間利用者数は600万人を突破しており、アプリはスペイン語圏17ヶ国のApp Store「フード/ドリンクカテゴリ」ランキングで1位を獲得しています。

スペイン語は今後4億人が利用する言語と見込まれており、Mis Recetasは成長可能性を秘めています。クックパッドはスペイン語圏で高い人気を誇るMis Recetasを買収し、レシピサービスの世界展開を目指す方針です。

参照元:クックパッド株式会社「クックパッド、世界のレシピサービスと提携して世界展開を本格化〜世界中の人々にとって世界各国の料理を楽しみにするレシピサービスを提供します〜」

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まとめ

クロスボーダーM&Aとは、売り手と買い手のどちらかが海外企業であるM&Aのことです。日本企業が海外市場を開拓する際や、海外企業が日本企業の技術やノウハウを獲得する際などに活用されています。クロスボーダーM&Aの中でも、特に日本企業が海外企業を買収するIn-Out型が増えているのが現状です。

クロスボーダーM&Aは、成功すれば海外市場の開拓や新技術の獲得、コストダウンなど多くのメリットがあります。一方、国内のM&Aにはないさまざまなリスクがあるため注意が必要です。相手の国や地域についてリサーチし、徹底的なデューデリジェンスとPMIを実施しましょう。

クロスボーダーM&Aは難易度が高いため、M&Aの専門家に依頼するのがおすすめです。

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