このページのまとめ
- 飲食店の店舗を閉店するときには契約終了までの賃料や解体費用などの撤退コストがかかる
- 飲食店を閉店するのであれば、店舗譲渡をして売却益を得ることがおすすめ
- 店舗を譲渡する方法には「造作譲渡」「事業譲渡」「株式譲渡」の3つがある
- 飲食店の店舗を造作譲渡する場合は、管理会社や貸主から了承を得ることが必須
- 飲食店の店舗譲渡が選択肢にあがったら、早めに行動に移そう
「飲食店の店舗を譲渡したいけどどうしたらよい?」とお悩みの方も多いのではないでしょうか?
飲食店を閉店するためには撤退コストがかかるため、できるかぎり有利な条件で店舗を譲渡したいところです。
本コラムでは、店舗を譲渡するときに必要な手続きや契約書について解説します。ポイントを押さえ、店舗譲渡を成功に導きましょう。
そのほか、かかる費用や支払う税金、店舗譲渡の相場、譲渡事例なども紹介します。
目次
飲食店を閉店するなら店舗譲渡がおすすめ
「店舗譲渡」とは、店舗を売却して経営権を第三者に移すことを指します。
飲食店を閉店するときには撤退コストがかかるため、できるかぎり有利な条件で店舗譲渡を行うことがおすすめです。
店舗譲渡と店舗売買は同義で使われる
「店舗譲渡」と似た言葉に「店舗売買」があります。
この2つの単語は、ほぼ同じ意味を指します。
飲食店の店舗を閉店するためにかかる費用
飲食店の店舗を閉店するためには費用がかかります。
飲食店の店舗を閉店する際にかかる費用は、主に以下のとおりです。
- 賃貸契約終了までの賃料
- 閉店までの設備および道具のリース料金やレンタル費用
- リースやレンタル品の解約費
- 退去までの水道代や光熱費
- 閉店までの従業員の給与
- 原状回復のための解体費用
- 廃棄物の処理費用
- 不要な備品の処分費
また、法人の廃業を行う場合は、別途以下のコストがかかることがあります。
- 解散の登記費用
- 清算人の登記費用
- 清算結了の登記費用
- 官報による公告費用
- 登記や法手続きの依頼料
特に原状回復のための解体工事には多額の費用が必要となります。
解体費用の相場は1坪あたり2〜10万円ほどです。
飲食店の店舗を閉店するよくある5つの理由
ここでは、飲食店の店舗を閉店する理由としてよくあるものを5つ紹介します。
- 店舗を運営する資金が尽きたため
- 経営者が体調を崩したため
- 後継者が見つからなかったため
- より良い立地条件の場所へ移転するため
- ほかの事業に注力するため
飲食店の店舗を閉店する理由はさまざまです。
やむを得ない事情で店舗をたたむこともあれば、経営戦略の1つとして前向きな撤退を検討することもあります。
1.店舗を運営する資金が尽きたため
飲食店の店舗を経営していくには資金が必要です。
資金繰りがうまくいかなかったり、赤字が長く続いたりすると、閉店に追い込まれることもあるでしょう。
2.経営者が体調を崩したため
閉店するよくある理由の1つは、飲食店の店舗運営を直接取り仕切る経営者が体調を崩すことです。
一時的なものであれば店舗の営業自体は従業員のみでできるかもしれませんが、長期の病気・ケガの場合は店舗経営に影響を及ぼし、閉店を余儀なくされることになります。
3.後継者が見つからなかったため
経営者の高齢化が進み、ついには後継者が見つからなかったために、閉店する店舗も存在します。
特に飲食店は体力も求められる業務内容なので、たとえ黒字だとしても閉店することがあります。
4.より良い立地条件の場所へ移転するため
今よりもさらに良い立地条件の場所へ店舗を移転するために一旦閉店をする場合もあります。
飲食店の業績が好調で黒字経営が続き、移転することによって費用を上回る利益が見込まれるのであれば、移転先でさらなる成長が期待できます。
5.ほかの事業に注力するため
ほかの事業に注力するために店舗を閉店することもあるでしょう。
経営している店舗のほかにも事業展開を行っている、あるいは新規で事業を開始する場合、その選択肢が生まれます。
大きな利益を出すことができると予測される事業に力を注ぐことは、ポジティブな戦略的撤退といえます。
飲食店の店舗を譲渡する3つの方法
飲食店の店舗を譲渡する主な方法は、「造作譲渡」「事業譲渡」「事業譲渡」の3つです。
1.造作譲渡
「造作譲渡」とは、退去を予定している人と新しく入居する人の間で居抜き物件を引き継ぐときに実施する譲渡のことです。
「居抜き物件」とは、飲食店を経営していたときの内装や設備を残したままの物件を指します。
造作譲渡では、店舗の内装や設備などを譲渡し、経営権は譲渡しません。
造作譲渡は「店舗売却」「居抜き売買」「居抜き売却」とも呼ばれます。
2.事業譲渡
「事業譲渡」とは、会社の事業の一部あるいはすべてを第三者に売却する、M&Aの手法です。
「営業権譲渡」も同じM&Aの手法を指します。
なお、事業譲渡において債権や債務は自動的に移転しません。
3.株式譲渡
「株式譲渡」とは、保有する株式の一部またはすべてを第三者に売却するM&Aの手法です。
売却する株式が過半数を超える場合、「会社譲渡」と呼ばれることがあります。
株式譲渡では、債権や債務は自動的に譲受先へ引き継がれます。
飲食店の店舗を譲渡するメリット
ここでは、飲食店の店舗を譲渡するメリットを方法ごとに解説します。
1.店舗を造作譲渡するメリット
飲食店の店舗を造作譲渡するメリットは、主に以下の3つです。
- 譲渡益が得られる
- 原状回復工事の費用がかからない
- 譲渡までの期間を短縮できる
コストや時間を削減できるうえ、利益を得ることができます。
譲渡益が得られる
造作譲渡を行うことにより、譲渡益を獲得することができます。
また、残した造作に譲受先が魅力を感じてくれているならば、造作に対して付加価値がつくことも。
上乗せされた売却金を得ることができるでしょう。
原状回復工事の費用がかからない
造作譲渡では店舗を居抜き物件として譲り渡すため、原状回復工事が不要です。
原状回復工事では厨房やトイレ、冷暖房など、あらゆる設備を取り除いて何もない状態にするため、かなりの費用がかかります。
解体にかかる費用の相場は1坪あたり約2〜10万円といわれており、建物の構造によってはさらに高くなる可能性もあります。
原状回復工事をしなくても済む場合、撤退コストを大きく削減できるでしょう。
譲渡までの期間を短縮できる
造作譲渡の場合は原状回復工事を行わないため、工事のために時間を割く必要がありません。
原状回復工事をしてくれる業者を探したり、日程調整をしたりする手間も省けます。
なお、店舗の原状回復工事は契約期間中に実施することが一般的です。
そのため、原状回復工事をしないことは、空家賃が発生する期間の短縮にもつながります。
2.店舗を事業譲渡するメリット
飲食店の店舗を事業譲渡するメリットには、以下の3つが挙げられます。
- 事業価値を考慮した譲渡益が得られる
- 従業員の雇用を守ることができる
- 会社の商号を変えずに経営を継続できる
造作譲渡とは違ったメリットがあるので、希望に合わせて譲渡方法を選びましょう。
事業価値を考慮した譲渡益が得られる
店舗を売却する手段として事業譲渡を選ぶメリットは、事業価値を含んだ譲渡益が得られることです。
事業譲渡においては、将来的な収益力が価値算定に含まれるため、想定される営業利益の3〜5年分を加算して売却する事業価値を算定します。
その結果、大きな金額の譲渡益を得ることが可能です。
従業員の雇用を守ることができる
店舗を閉店するにあたって事業譲渡を選ぶメリットは、従業員の雇用を守れることです。
事業譲渡を行った場合、従業員は譲受先に引き継がれます。
買収側の会社は経営資源を豊富に持っているパターンが多く、事業譲渡後に従業員の待遇が向上する可能性も高いでしょう。
会社の商号を変えずに経営を継続できる
事業譲渡により一部の店舗を売却するのであれば、会社の商号を使い続けられます。
会社の商号には積み上げてきた歴史やブランド力があります。経営における強みを失わずに済むことは大きなメリットだといえるでしょう。
また、会社の商号が変わらないことは、取引先や顧客の安心感にもつながります。
3.店舗を株式譲渡するメリット
店舗を手放す手段として株式譲渡を選んだときのメリットは、以下の4つです。
株式譲渡における特徴的なメリットは、個人保証・担保から解放されることでしょう。
- 高額な譲渡益が得られる
- 従業員の雇用を守ることができる
- 後継者問題を解決できる
- 個人保証や担保などから解放される
そのほかのメリットについても、一つひとつ解説します。
高額な譲渡益が得られる
株式譲渡ではすべての株式を売却するケースがほとんどです。
全株式を売却した場合、一部の事業を売却する事業譲渡に比べて譲渡益が高くなります。
従業員の雇用を守ることができる
店舗をただ廃業にした場合は従業員が職を失ってしまうのに対し、株式譲渡においては従業員は譲受先に引き継がれます。
今まで店舗の繁栄に尽力してくれていた従業員を守れることは、株式譲渡を選ぶメリットだといえるでしょう。
後継者問題を解決できる
後継者がいない場合、株式譲渡を実施することによって歴史・ノウハウが途絶えてしまう事態を避けられます。
また、株式譲渡を行うと経営権は移りますが、会社名や店舗名はそのまま残ることが多いです。
ブランドを守れることは、株式譲渡のメリットの1つだといえます。
個人保証や担保などから解放される
株式譲渡では資産のほか、債務および債権なども一緒に譲受先へ引き継がれるので、個人保証や担保から解放されます。
経営者にとって大きなメリットになるでしょう。
飲食店の店舗を譲渡するときの相場価格は?
飲食店の店舗を譲渡しようと考えている人にとって、譲渡額がどれくらいになるかということは重要な問題でしょう。
ここでは、店舗を譲渡するときの相場価格について、方法別に解説します。
造作譲渡の場合の相場価格
店舗を造作譲渡したときの相場価格は100〜300万円ほどだといわれています。
相場価格に影響を及ぼす要素は、立地や床面積、建物の構造、設備、清潔さなどです。
特に立地条件は価格に与える影響が大きく、好立地に位置する店舗は高値がつく傾向があります。
事業譲渡や株式譲渡の場合の相場価格
事業譲渡や株式譲渡などのM&Aによって店舗を売却した場合の相場価格は、一律に目安額で示すことはできません。
譲渡の相場価格は、「マーケットアプローチ」「コストアプローチ」「インカムアプローチ」のいずれかの方法で算出します。
マーケットアプローチでは、株式市場の値と照らし合わせることによって店舗の譲渡額を算定します。
コストアプローチは、資産や負債の時価などを用いて譲渡額を算定する方法です。
インカムアプローチにおいては、譲渡する会社および事業の収益力をもとに譲渡額を算定します。
相場価格を算定するためには上記の算定方法を用いたり、景気や業界のトレンドの動向などをつかんだりする必要があります。
そのため、M&Aに知見がある人や専門性を持つ仲介業者に価値算定を依頼することがおすすめです。
飲食店の店舗譲渡にかかる税金の種類
ここでは、飲食店の店舗を譲渡するときにかかる税金について紹介します。
1.造作譲渡にかかる税金
法人が造作譲渡を行う場合にかかる税金は以下のとおりです。
- 法人税
- 事業税
- 地方法人税
- 法人住民税
- 消費税
- 印紙税
個人事業主が造作譲渡を行う場合にかかる税金は以下のとおりです。
- 所得税
- 住民税
- 消費税
- 印紙税
所得税の対象となる所得の種類は「譲渡所得」や「事業所得」などです。
造作は通常は「譲渡所得」に該当しますが、減価償却資産にあたるものなどを譲渡した場合は「事業所得」に分類されます。
2.事業譲渡にかかる税金
法人が事業譲渡を実施するにあたって納める税金は以下のとおりです。
- 法人税
- 事業税
- 地方法人税
- 法人住民税
- 消費税
- 印紙税
個人事業主が事業譲渡を実施するにあたって納める税金は以下のとおりです。
- 所得税
- 住民税
- 消費税
- 印紙税
なお、事業譲渡をM&Aではなく相続や贈与の方法で行った場合、「相続税」や「贈与税」がかかります。
3.株式譲渡にかかる税金
法人が株式譲渡を行った際に売り手側が納める税金は以下のとおりです。
- 法人税
- 事業税
- 地方法人税
- 法人住民税
個人事業主が株式譲渡を行った際に売り手側が納める税金は以下のとおりです。
- 所得税
- 住民税
株式をはじめとする有価証券は消費税の対象とならないため、株式譲渡では消費税がかかりません。
また、印紙税についても株式譲渡においては基本的に不要です。
店舗を造作譲渡するときの流れ・手続き
店舗を居抜き物件として造作譲渡するときの一連の流れ・手続きは以下のとおりです。
今回は、専門業者を利用するパターンを例として挙げています。
- 契約書を確認する
- 専門業者に相談する
- 貸主の承諾を得る
- 現地調査と査定を行う
- 購入希望者を募集する
- 購入希望者に内覧してもらう
- 売却条件の交渉をする
- 造作譲渡契約を締結する
- 賃貸借契約の解約手続きをする(売り手)
- 賃貸借契約を締結する(買い手)
- 店舗の引き渡しを行う
それぞれのプロセスに分けて解説します。
1.契約書を確認する
まず最初に、店舗を造作譲渡できるのかどうかを確認しましょう。
契約書に記載されている解約予告の期間や原状回復義務に関する項目をチェックしてください。
原状回復義務が課されている場合は「居抜き物件として譲渡できない」ということになりますが、貸主との交渉で可能になることもあります。
物件の契約書のほか、リース品やレンタル品の契約書の確認も必須です。
契約期間がまだ残っている場合、契約内容によっては残債や違約金を支払う必要があります。
2.専門業者に相談する
契約書を確認したら、専門業者に相談してください。
造作譲渡の概要や今後の流れなどを説明してくれるはずです。希望をヒアリングしてくれるほか、現時点での不安や悩みにも答えてくれるでしょう。
また、譲渡したい店舗の立地や構造、業態などから仮査定をしてくれる専門業者もいます。
多くの場合、相談・仮査定は無料で利用することができます。
複数の専門業者に問い合わせて、その中から対応が良かったと思える業者を選ぶこともおすすめです。
3.貸主の承諾を得る
原状回復義務によって居抜き物件としての店舗譲渡が禁止されている場合、貸主の承諾を得る必要があります。
承諾を得ないまま取引を進めると後々トラブルになる危険性が高いので、必ず事前に貸主に確認しましょう。
契約書において禁止されている場合でも、交渉すれば貸主が造作譲渡を認めてくれることも大いにあります。交渉に自信がないのであれば、専門業者にアドバイスを仰ぐことも1つの手です。
4.現地調査と査定を行う
専門業者が店舗がある現地に赴き、調査を行います。
立地条件や店舗の状態などを確認したうえで、造作譲渡を実施した場合の想定価格を算定してくれます。
また、現地調査の際に行うもう1つの作業は、造作物のリスト作成です。
物件とともに譲り渡す造作物をリストアップします。
引き継ぎをしないリース品・レンタル品がある場合はリストにその旨を書いておいてください。
5.購入希望者を募集する
現地調査が終わって売却希望価格が決まったら、居抜き店舗の購入希望者を募ります。
サイトに掲載することでオープンに募集したり、内覧会を実施したりと、さまざまな方法で購入希望者を探します。
専門業者が持っている独自のネットワークを活かしてマッチした相手を見つけてくれることもあるでしょう。
6.購入希望者に内覧してもらう
購入希望者が見つかったら、あらためて店舗の内覧をしてもらってください。
譲渡する内容をしっかり確認してもらうことは、トラブル防止につながります。
7.売却条件の交渉をする
内覧が済んだら、売却条件の交渉を行いましょう。
専門業者に依頼している場合は、専門業者が交渉の仲介をしてくれます。譲渡額は専門業者の査定額よりも高くなることもあれば、低くなることもあります。慎重に交渉を進めてください。
なお、多くの購入希望者が集まり競争率が高まれば高まるほど、交渉を優位に進められる傾向があります。
8.造作譲渡契約を締結する
購入希望者の中から譲渡先が決定したら、造作譲渡契約を結びましょう。
造作譲渡契約を締結する際には、造作譲渡契約書を交わします。
造作譲渡契約書に記載する一般的な項目は以下のとおりです。
ほかにも必要な項目があれば、契約書に適宜追加してください。
- 物件所有者および貸主の承諾獲得
- 譲渡する造作物リスト
- 造作譲渡料
- 支払い期日
- 引き渡し期日
- 支払い方法
- 支払い遅延の場合の処置
- 造作物に関する契約不適合責任
- 原状回復義務の所在
- 契約解除の条件
造作譲渡契約書を作成するには専門的な知識が求められるので、専門性の高い業者にサポートしてもらうことも視野に入れましょう。
9.賃貸借契約の解約手続きをする(売り手)
造作譲渡契約を締結したら、売り手が貸主との間に結んでいる賃貸借契約の解約をしてください。
解約予告期間をうまく調整することができていれば、家賃を無駄に払わずに済むこともあります。
10.賃貸借契約を締結する(買い手)
店舗譲渡の買い手側は、店舗の貸主と新たに賃貸借契約を締結します。
契約書の内容をしっかり確認したうえで締結しましょう。
11.店舗の引き渡しを行う
賃貸借契約が締結できたら、いよいよ造作譲渡の完了です。店舗の引き渡しを行いましょう。
なお、仲介業者を利用している場合、直接対価を受け取るのではなく、仲介業者が一時的に預かることが多いようです。
引き渡しが無事に済んだことを確認したあとで、仲介業者から代金が振り込まれます。
店舗を事業譲渡するときの流れ・手続き
店舗を売却する手段として事業譲渡を選んだときの流れ・手続きを紹介します。
- 譲渡する事業の価値算定をする
- 事業譲渡の相手を探す
- 交渉をする
- 基本合意をする
- デューデリジェンスを実施する
- 取締役会で決議する
- 事業譲渡契約を締結する
- 報告書の作成および提出を行う
- 株主総会で決議する
- 各種手続きを完了させる
事業譲渡は手続きが比較的煩雑です。
一連の流れをしっかり把握し、事業譲渡に臨みましょう。
1.譲渡する事業の価値算定をする
売却する事業を決めたら、価値算定をしましょう。
事業の譲渡額は「マーケットアプローチ」「コストアプローチ」「インカムアプローチ」などの方法で出すことが一般的です。
譲渡する事業が属する業界の動向も参考にしながら、価値算定をします。
M&Aや業界などに関する知見も必要となるため、高い専門性を持った仲介業者を活用することがおすすめです。
M&A全般をサポートしてくれる仲介業者であれば、相談・価値算定から成約まで、円滑に進める手助けをしてくれるでしょう。
2.事業譲渡の相手を探す
事業を譲渡する相手を探しましょう。
自らが築いてきた人脈を活かしたり、取引のある金融機関を頼ったりして、良いM&Aになりそうな相手を探します。
マッチングサイトやM&A仲介業者を利用することもおすすめです。
3.交渉をする
事業譲渡を行う相手が決まったら、交渉に入ります。
経営者同士で話し合いをして、譲渡する事業の詳細や価額などの条件をすり合わせていきましょう。
交渉を行って事業譲渡の取引内容が決まったら、意向表明書を作成すると安心です。
意向表明書は法的拘束力がない書類ですが、書面に残すことでトラブル防止につながります。
4.基本合意をする
次に、基本合意をしましょう。
基本合意書を作成し、締結します。
基本合意書に記載されている項目は、事業譲渡のスケジュールや売却金額、売却対象の事業の詳細、従業員の承継条件などです。
意向表明書と同様に、基本合意書にも法的拘束力はありませんが、合意した内容を書面上でお互いに確認することによって、認識が食い違うことを防止できます。
5.デューデリジェンスを実施する
基本合意書を締結したら、デューデリジェンスを行います。
デューデリジェンスとは、譲受側が譲渡側の企業に対して実施する調査です。
事業譲渡においては、企業全体ではなく買収する事業に焦点を当ててデューデリジェンスを行うことが一般的です。
買収予定の事業の価値およびリスクなどに関する調査をします。
譲渡側はデューデリジェンスへの対応をしてください。
情報が求められたら必要書類を作成して提出しましょう。質疑があれば真摯に回答します。
6.取締役会で決議する
デューデリジェンスが完了して事業譲渡を実施する意向が固まったら、取締役会で決議しましょう。
役員とともに、事業譲渡の契約内容や書類について最終確認をしてください。
万が一不備があった場合は、早めに連絡して修正をします。
7.事業譲渡契約を締結する
取締役会での決議を終えたら、事業譲渡契約を締結します。
事業譲渡契約書を作成し、締結してください。
事業譲渡契約書の記載事項に厳密な決まりはなく、内容は売り手と買い手の合意のもと決定されます。
一般的な事業譲渡契約書の記載事項には以下のものが挙げられます。
- 譲渡対象の事業
- 譲渡実行日(クロージング日)
- 譲渡する財産
- 譲渡の対価および支払い方法
- 財産移転手続き
- 競業避止義務
- 従業員の雇用引き継ぎにかかる事項
- 譲渡手続にかかる事項
- 譲渡企業の善管注意義務
- 事情変更による契約解除
- 表明保証
インターネット上にアップされている雛形をそのまま使用することは避けたほうが無難です。
自社の事業譲渡にそぐわない内容があるにもかかわらず使用してしまった場合、意図せず契約違反をしてしまう恐れがあるためです。
事業譲渡契約書には法的拘束力があるため、慎重に作成しましょう。
契約書の作成を行う際は、事業譲渡に詳しいM&A仲介会社や法のスペシャリストである弁護士など、専門家にアドバイスをしてもらうことがおすすめです。
8.報告書の作成および提出を行う
事業譲渡契約の締結後は、報告書を作成して提出します。
臨時報告書の提出や公正取引委員会への届出もあわせて行いましょう。
9.株主総会で決議する
株主総会において、事業譲渡に関する決議を採ります。
株主への告知を事業譲渡の効力発生日の20日までに行ってください。そして、効力が発生する前日までに、株主総会の特別決議で承認を得ましょう。
10.各種手続きを完了させる
事業譲渡の実施にかかる各種手続きを完了させてください。
資産や権利、契約などの移転手続きのほか、監督官庁への許認可申請が必要です。
手続きは譲受側が主体となって行うものが多いです。
譲渡側は、手続きがスムーズに進められるよう、必要に応じて協力しましょう。
店舗を株式譲渡するときの流れ・手続き
店舗を売却する方法に株式譲渡を選んだ場合、必要な流れ・手続きは以下のとおりです。
- 価値算定を行う
- 株式の譲渡先を探す
- 株式譲渡の承認請求を行う
- 取締役会・株主総会を開催する
- 株式譲渡契約を締結する
- 株主名簿の書き換え請求をする
- 株主名簿記載事項証明書の交付請求・交付を行う
- 株式譲渡について公表する
- 引き継ぎをする
上記の流れは非上場会社によく見られる、株式に譲渡制限がついているケースです。
求められる手続きは取引の内容によって変動することがあるので、適宜対応してください。
1.価値算定を行う
まずは会社の価値算定をします。
マーケットアプローチやコストアプローチ、インカムアプローチなどの方法を用いて算出しましょう。価値算定を正しく行うことで、譲受先が見つかりやすくなったり、適正価格よりも安く買収されることを防止できたりします。
価値算定をはじめとする株式譲渡のプロセスには、高い専門性が求められます。
M&Aに詳しい人が社内にいない場合は、支援機関を利用することを検討しましょう。支援機関を利用すれば、M&Aのあらゆるプロセスをサポートしてくれます。
2.株式の譲渡先を探す
株式譲渡を行う相手先を探します。
譲渡を持ちかけたい相手候補が取引先や協力会社にいる場合は、経営者と連絡をとってみましょう。
知り合い以外から探す場合は、事業承継・引継ぎ支援センターや金融機関、M&Aの仲介会社などの支援機関を活用することも1つの方法です。
3.株式譲渡の承認請求を行う
譲渡制限が設けられている株式を譲渡するためには、株式譲渡の承認請求を行う必要があります。
株式譲渡承認請求書の作成・提出をしてください。
4.取締役会・株主総会を開催する
次に、承認決議に向けて取締役会もしくは株主総会を開催します。
取締役会を開催するのは、取締役会設置会社である場合です。
取締役会を設置しない会社である場合は、臨時株主総会を開きます。
5.株式譲渡契約を締結する
株式譲渡の承認を得られたら、株式譲渡契約を締結しましょう。株式譲渡契約書を作成して、契約を交わします。
株式譲渡契約書に記載する主な項目は以下のとおりです。
- 基本合意
- 譲渡する株式の銘柄、株数
- 株式譲渡の対価、支払い期限
- 譲渡実行日(クロージング日)
- 譲渡側の会社情報
- 株主の氏名と住所
- 株主から除名する際の手続きに関する内容
- 株主名簿の書き換えに関する内容
- 表明保証
- 賠償責任に関する事項
- 契約解除に関する事項
記載すべき項目は取引の内容によって変わることがあるので、株式譲渡の内容に沿って作成してください。
トラブルに発展しないよう、M&Aの知見がある人や法律に精通した人に契約書を確認してもらうと安心です。
6.株主名簿の書き換え請求をする
株式譲渡契約の締結後は、株主名簿の名義書き換え請求をしてください。
「株式名義書換請求書」を提出して、会社に対して株主名簿の書き換えを依頼します。
7.株主名簿記載事項証明書の交付請求・交付を行う
株主名簿記載事項証明書の交付請求・交付を行いましょう。
株主名簿記載事項証明書とは、「新たな株主に株を譲渡したこと」を証明する書類です。
8.株式譲渡について公表する
手続きが完了したら、株式譲渡の成立です。
従業員や取引のある金融機関などに対して株式譲渡を実施することを公表しましょう。
9.引き継ぎをする
株式譲渡後、引き継ぎを行います。
株式譲渡により経営権が譲受側に移行したあとも発展し続けられるよう、思いやノウハウをしっかり引き継ぎましょう。
関連記事:店舗M&Aのやり方は?メリットや具体事例についても解説
店舗譲渡後に廃業するために必要な3つの手続き
飲食店の店舗を閉店をする場合、店舗譲渡のほかに廃業の手続きも必要になります。
廃業するために必要な手続きは以下の3つです。
- 個人事業の開業・廃業等届出書
- 事業廃止届出書
- 所得税の青色申告の取りやめ届出書
順に詳しく説明します。
1.個人事業の開業・廃業等届出書
個人事業の開業・廃業等届出書とは、個人事業主が事業をやめる際に提出する書類です。
届出の区分の「廃業」に丸を記して管轄の税務署と都道府県税事務所に提出することで、国と都道府県に廃業を通知します。
個人事業の開業・廃業等届出書は、廃業の事実があった日から1ヶ月以内に提出してください。
国税庁の「[手続名]個人事業の開業届出・廃業届出等手続」のページより、個人事業の開業・廃業等届出書の申請書様式や記載要領を確認することができます。
2.事業廃止届出書
事業廃止届出書とは、課税事業者が事業を廃止したときに提出する書類です。
消費税に関する手続きで、税務署に提出します。事業の廃止後、できるかぎり速やかに提出してください。
国税庁の「[手続名]事業廃止届出手続」のページから、事業廃止届出書の申請書様式・記載要領をダウンロードすることが可能です。
3.所得税の青色申告の取りやめ届出書
所得税の青色申告の取りやめ届出書とは、青色申告の承認を受けていた人が申告をとりやめる際に提出する書類です。
必要事項を記入し、税務署に提出しましょう。
提出期限は、青色申告を取りやめようとする年の翌年の3月15日までです。
国税庁の「[手続名]所得税の青色申告の取りやめ手続」のページにおいて、所得税の青色申告の取りやめ届出書の申請書様式および記載要領をダウンロードできます。
飲食店の店舗の「譲渡契約書」とは
譲渡契約書とは、保有している資産を売却して権利を移行する旨を記載した契約書のことです。
飲食店の店舗を譲渡する際にも譲渡契約書を交わします。
法人の場合は「事業譲渡契約書」
店舗を譲り渡す先が法人である場合、譲渡契約書は「事業譲渡契約書」と呼ばれます。
事業の一部あるいは全部を譲渡するときに使用する契約書です。
個人事業主の場合は「営業譲渡契約書」
店舗の譲渡先が個人である場合、「営業譲渡契約書」と呼ばれることがあります。
ただし「営業譲渡契約書」と「事業譲渡契約書」の意味はほぼ同じです。
どちらの呼び方をしても差し支えありません。
2006年に商法が大改正されて、旧商法は商法と会社法に分割されました。
「営業譲渡」という呼び方は、旧商法の名残で使用されている言葉です。
譲渡契約書を作成する2つの理由
譲渡契約書を作成する理由は、主に「トラブルを避けるため」「会社法21条の認知・了承を得るため」の2つです。
1.トラブルを避けるため
譲渡契約書を作成するのは、トラブルを回避するためです。口頭ではなく書面として記録を残しましょう。
口頭のみでは約束したことの証明ができず、トラブルが長引く恐れがあります。
譲渡契約書のなかで取り決めや守るべき条項、損失があった際の責任の所在などを明確にしてください。
2.会社法21条の認知・了承を得るため
譲渡契約書を作成する理由の1つは、会社法21条の認知・了承を得るためです。
会社法21条において「競業避止義務」が定められています。
競業避止義務とは、事業譲渡の売り手側が同一市区町村および隣接市区町村内で20年間のうちは同じ事業を行うことをできないようにする規則です。
競業避止義務を売り手側に課すことにより、事業譲渡の買い手側の利益を守ります。
なお競業避止義務は原則であり、当事者間の意思表示および同意があれば、地域の範囲・適用期間を変更することが可能です。
店舗の譲渡契約書に必要な記載事項
ここでは、店舗の譲渡契約書に必要な記載事項を「営業譲渡契約書」と「事業譲渡契約書」に分けて紹介します。
譲渡契約書の記載事項は一例です。
もし雛形を利用する場合は、案件ごとの契約内容に合わせて記載事項を適宜変更してください。
営業譲渡契約書の記載事項の例
飲食店の店舗を譲り渡すときに交わす「営業譲渡契約書」の記載事項には、主に以下の内容が挙げられます。
- クロージング日(譲渡の実行日)
- 譲渡対象となる営業譲渡の内容
- 譲渡する財産
- 営業譲渡の対価および支払い方法
- 財産移転手続き
- 譲渡人の善管注意義務・譲受人の協力義務等
- 競業避止義務
- 表明保障
- 前提条件
- 事情の変更による契約解除
- 損害賠償
- 公租公課および費用の負担
- 守秘義務
- 個人情報および顧客情報
- 反社会的勢力の排除
- 協議
- 連帯保証
- 管轄
必要な事項を正しく記載し、滞りなく契約が交わせるように努めましょう。
事業譲渡契約書の記載事項の例
飲食店の店舗を譲り渡す際に締結する「事業譲渡契約書」の記載事項は、基本的に以下のとおりです。
- クロージング日(譲渡の実行日)
- 譲渡対象となる事業の内容
- 譲渡する財産
- 譲渡の対価および支払い方法
- 財産移転手続き
- 競業避止義務
- 従業員の引き継ぎにかかる事項
- 譲渡手続にかかる事項(株主総会決議の期日等)
- 譲渡企業の善管注意義務
- 事情の変更による契約解除
- 表明保証
譲渡契約書の記載事項は比較的自由度が高く、店舗譲渡の内容に沿って作成を進める必要があります。
誤った内容や抜け漏れがあるとトラブルにつながってしまうため、慎重に作成しましょう。
トラブル防止のために、契約書の作成に詳しい専門家に助言を仰ぐこともおすすめです。
店舗の譲渡を進める際の5つのポイント
店舗の譲渡を進める際には、押さえておきたいポイントがあります。
以下の5つが、店舗譲渡をスムーズに進めるコツです。
- 店舗を譲渡・売却する理由を明確にしておく
- 譲渡・売却の手法を精査して選ぶ
- 店舗の魅力や強みを明確にしておく
- 店舗の資料やデータをあらかじめ用意する
- 事業譲渡やM&Aに関する専門家に相談する
詳しい内容をみていきましょう。
1.店舗を譲渡・売却する理由を明確にしておく
まず、店舗を譲渡・売却する理由を明確にしておきましょう。
具体的な目的の例としては「売却した利益でまた飲食店を経営したい」「後継者不在を解消してお店を継続させたい」「早く清算を済ませたい」などが挙げられます。
これらの目的によって、これから立てるべき戦略も変わります。理由を明確にすることにより、譲渡方法やタイミング、価格などの細かい方針も固めていけるでしょう。
2.譲渡・売却の手法を精査して選ぶ
譲渡・売却の手法は、よく精査して選ぶことが大切です。各手法にはメリット・デメリットがあり、自社に合う適切な手法を選ぶ必要があります。
どの方法が適切かを判断するため、店舗売却に関係する情報を整理し、契約に関する資料を集めておくとよいでしょう。その際は、間違った判断をしないためにも、仲介会社など専門家に相談することをおすすめします。
3.店舗の魅力や強みを明確にしておく
譲渡や売却では、数多くの飲食店の中から自社の店舗をアピールできるよう、どのような魅力や強みがあるかを明確にしておくことが重要です。
店の立地や状態、コンセプトなどの面において、他店にはない独自性を洗い出しましょう。特にアピールポイントになるのは、駅から近い、人通りが多いといった立地条件です。適度な店舗面積、充実した設備、センスのある内装などもアピールになります。
4.店舗の資料やデータをあらかじめ用意する
買い手とのやり取りでスムーズに話を進めるために、店舗の内容をまとめた資料やデータをあらかじめ用意しておくことをおすすめします。話し合いだけでは伝わりにくい内容も、資料やデータがあれば説明しやすく、あとから確認もしやすいでしょう。
売却の希望額もしっかり決めておくことが大切です。希望譲渡額とその金額を希望する根拠となるデータを用意しておきましょう。相手側の主導になって不本意な金額になってしまうことのないようにしてください。
5.事業譲渡やM&Aに関する専門家に相談する
譲渡や売却の際は、事業譲渡やM&Aに実績のある専門家に相談することが大切です。手数料がかかるからといって自力で進めると、うまく交渉が進まなかったり不利な条件で譲渡せざるを得なくなったりするなど、かえって不利益になる可能性があります。
M&A仲介会社や、銀行などの金融機関、事業引継ぎ支援センターなど、信頼できる専門家に相談して進めていきましょう。
飲食店の店舗を譲渡するときの6つの注意点
ここでは、飲食店の店舗を譲渡するときの注意点を6つ紹介します。
- 正確な情報を伝える
- 不動産の管理会社や貸主から了承を得る
- 造作譲渡の対象をリストアップする
- 自己破産申請をする場合はタイミングを調整する
- 無償での譲渡の場合も契約書を交わす
- 閉店を検討したら早めに相談する
これらのことに気を付けて、店舗譲渡を円滑に進めましょう。
1.正確な情報を伝える
飲食店の店舗を譲渡する際は、必ず正確な情報を伝えてください。
店舗譲渡が不利になるからといって、虚偽の情報を伝えたり隠蔽したりすると、重大なトラブルの元になります。
2.不動産の管理会社や貸主から了承を得る
飲食店の店舗を造作譲渡しようと考えている場合は、不動産の管理会社や貸主に連絡をとって了承を得ましょう。
店舗の賃貸借契約書には、原状回復に関する条項が定められていることがほとんどです。
無断で造作譲渡をしてしまうと契約違反となり、トラブルに発展する恐れがあります。
最悪の場合、違約金が発生することもあるかもしれません。許可をとらずに造作譲渡することはやめましょう。
原状回復が義務付けられている場合でも交渉によっては許可が出ることもあるので、必ず連絡してください。
3.造作譲渡の対象をリストアップする
売却側と購入側で譲渡される物の認識が食い違っていた場合、揉める原因になります。
飲食店の店舗を譲渡するときは、造作譲渡の対象物をリストアップしましょう。
4.自己破産申請をする場合はタイミングを調整する
自己破産申請を予定している場合は、事業譲渡のタイミングに気を付けることが必要です。
自己破産の直前に事業譲渡を行っていた場合、「財産の隠匿ではないのか?」と疑われて、破産管財人により否認権を行使されるリスクが高まります。
事業譲渡が否認されると、事業譲渡の契約は取り消されてしまうことに。譲渡された資産はすべて返還されてしまうので、債権者にとって大きな痛手です。
事業譲渡の直後の自己破産申請は、破産管財人からの目が厳しくなることを覚えておきましょう。
5.無償での譲渡の場合も契約書を交わす
無償で事業譲渡を行う場合も、事業譲渡契約書を交わしましょう。
契約書を作成しておくことで、のちのトラブルを防止することができます。
6.閉店を検討したら早めに相談する
「閉店したい」「店舗を譲渡したい」と思ったら、早めに相談して動き始めましょう。
店舗を譲渡するためには、時間もコストもかかります。
しかし早めにスタートすることによって、効率良く進められたり、費用が節約できたりすることがあります。
また、期限が迫って押し詰まった状況になってくると、選択肢が減ってしまい、譲渡条件を妥協せざるを得ない事態になってしまうかもしれません。
専門業者に相談し、店舗譲渡にできるかぎり早く取り掛かることが成功の鍵です。
飲食店業界の譲渡事例
ここでは、飲食業界で実際に行われた譲渡事例を紹介します。
ココスジャパンの事例
「すき家」「なか卯」などを運営する株式会社ゼンショーホールディングスが、2019年11月に「ココス」を運営する株式会社ココスジャパンを子会社化した事例です。ゼンショーホールディングスは、子会社の株式会社日本レストランホールディングスを通じて、ココスジャパンとの間で株式交換をしました。
目的は、グループ内のレストラン業態を子会社の傘下に再編することで事業を効率化するためです。一方のココスジャパンも完全子会社となることにより、店舗数の少ない西日本を中心としたエリアへの出店や必要な人材の確保・育成、人事交流による組織の活性化、工場・物流のグループ内共通化による物流費用の削減などのメリットを享受できると判断し契約締結に至りました。
参照元:株式会社ゼンショーホールディングス「株式会社ゼンショーホールディングスの完全子会社である株式会社日本レストランホールディングスによる株式会社ココスジャパンの完全子会社化に関する株式交換契約締結のお知らせ」
フレッシュネスの事例
2016年12月、株式会社コロワイドの連結子会社である株式会社レインズインターナショナルが、ユニマットグループの子会社で「フレッシュネスバーガー」事業を展開する株式会社フレッシュネスの全株式を取得し、完全子会社化した事例です。
「牛角」や「温野菜」などを手掛けるレインズインターナショナルは、新中期経営計画「レボリューション 2016」に掲げた、市場ニーズをとらえた事業領域の拡大や MD 機能の増強といった戦略にフレッシュネスバーガー事業が貢献できると判断し、同事業の取得を決断しました。
具体的には、ポテンシャル比で展開エリア・店舗数が限定的だと感じていたフレッシュネスバーガーに対して、レインズインターナショナルのプラットフォームを活用し事業拡大と出店を加速させ、事業成長を目指しています。
参照元:株式会社コロワイド「当社連結子会社による FRESHNESS BURGER 事業の譲受(子会社化)に関するお知らせ」
吉野家ホールディングスの事例
2022年3月、株式会社吉野家ホールディングスが、連結子会社である株式会社グリーンズプラネットの全株式をフライドグリーントマト株式会社に譲渡した事例です。
グリーンズプラネットは、商業施設を中心に ファストフード・フードコートで複数の飲食ブランドを展開している企業で、一方のフライドグリーントマトは、飲食業トータルプランニング事業、音楽関連事業を行っています。
吉野家ホールディングスは、当時の新型コロナウィルス感染拡大問題の影響も踏まえ、グリーンズプラネットの持続的な成長と企業価値向上のためには、新業態開発に対する造詣が深く、さまざまな新規事業を立ち上げた実績のあるフライドグリーントマトに委ねることがベストだと判断し、株式譲渡に至りました。
参照元:株式会社吉野家ホールディングス「連結子会社の異動(株式譲渡)に関するお知らせ」
スニタトレーディングの事例
2019年10月、東京都内を中心に本場インド料理店サムラートを運営する有限会社スニタトレーディングの製造部門が、カレー店チェーン「ゴーゴーカレー」を展開する株式会社ゴーゴーカレーグループへ事業譲渡された事例です。
事業譲渡の背景として、急増するイスラム教徒(ムスリム)の訪日客に対して、戒律のハラール認証のメニューの提供エリアを拡大したいという両社の戦略的事業が合致したことが挙げられます。
参照元:株式会社ゴーゴーカレーグループ「老舗インド料理「㻿AM㻾A㼀(サムラート)」製造部門をM&A。イスラム教徒(ムスリム)の訪日客増加に 「ハラールカレー」の提供可能に!」
J.フロントリテイリングの事例
2021年1月、J.フロントリテイリング株式会社の連結子会社である株式会社J.フロントフーズの全株式を株式会社ダンシンダイナーに譲渡した事例です。
J.フロント リテイリングは、「大丸」「松坂屋」などの百貨店業等の事業を行う子会社およびグループ会社の経営計画・管理などを行っています。J.フロントフーズは、外食企業として大丸・松坂屋店舗のほか、ショッピングセンターなどに飲食店を出店・運営を行っている会社です。
しかし、J.フロントフーズを取り巻く外食事業の環境は厳しく、業績が低迷する一方のため、同社が今後成長していくには、外食事業について幅広いノウハウを有する会社の傘下で再起を図ることがベストと考え、ダンシンダイナーへの株式譲渡契約が締結されました。
ダンシンダイナーは、焼肉・鶏ダイニング・鉄板焼をはじめとする幅広い飲食店経営を行っている会社です。同社の傘下で商品力・調達力の強化、顧客サービスのさらなる向上を図り、安定した事業基盤の構築を図ることが期待されています。
参照元:J.フロントリテイリング株式会社「連結子会社の異動を伴う株式譲渡に関するお知らせ」
サトレストランシステムズの事例
2017年4月、サトレストランシステムズ株式会社が、業績不振に陥っていた「すし半」事業を会社分割し、株式会社梅の花に「すし半」事業を譲渡した事例です。
「和食さと」や「天丼・天ぷら本舗 さん天」など和食をメインとした飲食店を全国に展開しているサトレストランシステムズですが、長年にわたり事業の根幹として貢献してきた和食鍋処 「すし半」の事業が業績不振に陥り、グループ内での成長も困難であると判断し、梅の花に譲渡しました。
梅の花としては、事業の強化や拡大を意図し、グループとしては仕入れのスケールメリット、物流のシナジー効果を見込んで株式譲渡に至りました。
参照元:サトレストランシステムズ株式会社「会社分割による新会社への当社のすし半事業の承継、当該新会社の株式譲渡に関する基本合意締結のお知らせ」
ペッパーフードサービスの事例
2020年7月、株式会社ペッパーフードサービスの連結子会社で、ペッパーランチ事業を運営する株式会社JPの全株式をPLHD株式会社に譲渡した事例です。ペッパーフードサービスは、売却で得た資金で、主力事業である「いきなり!ステーキ」などの外食事業の立て直しを図るとしています。なお、PLHD株式会社とは、J-STAR が運営するファンドが出資する持株会社です。
参照元:株式会社ペッパーフードサービス「子会社の異動(株式譲渡)に関するお知らせ」
ポッカクリエイトの事例
全国に「珈琲館」・「カフェ・ベローチェ」などのカフェ事業を展開するC-United株式会社が、「カフェ・ド・クリエ」を中心にカフェチェーンを展開する株式会社ポッカクリエイトを子会社化した事例です。ポッカクリエイトは、サッポログループ食品株式会社の子会社であるため、サッポログループ食品から株式譲渡された形になります。
サッポログループとしては、「あなたのマイカフェになる。」ことを目指してきた「カフェ・ド・クリエ」のブランドを輝かせるためには、C-Unitedが適していると契約締結に至りました。一方のC-Unitedとしては、これを機にグループにおけるブランドの創出、シナジーの最大化、相互の店舗開発リソースを活かした店舗配置の最適化・出店などを目指しています。
参照元:サッポログループ食品株式会社、ポッカサッポロフード&ビバレッジ株式会社「【会社情報に関するお知らせ】株式会社ポッカクリエイトに関する株式譲渡契約締結について」
ロッテリアの事例
2023年2月、「すき家」「なか卯」などを運営する株式会社ゼンショーホールディングスの完全子会社である株式会社ゼンショーファストホールディングスが、全国にファーストフード店「ロッテリア」を展開する株式会社ロッテリアを子会社化した事例です。
ロッテリアの持続的な成長およびステークホルダーに提供する価値の最大化を実現するためには、外食事業で豊富なオペレーションノウハウ・商品開発ノウハウ・マーケティングノウハウを有しているゼンショーホールディングスがベストパートナーであると判断し、株式譲渡契約の締結に至りました。食材調達や物流網を共有することでコスト削減につながるほか、多種多様なブランドを展開するノウハウを取り入れることで店舗運営に関しても拡大が期待できます。
参照元:株式会社ロッテホールディングス「株式会社ロッテリアに関する株式譲渡契約締結のお知らせ 」
La Madragueの事例
2022年11月にサンマルクカフェを展開する株式会社サンマルクホールディングスが、関西圏で「喫茶マドラグ」を展開している株式会社La Madragueを子会社化した事例です。
外食事業を展開しているサンマルクホールディングスの経営課題のひとつとして、これまで培ってきたチェーン展開ノウハウを活用した、新たな業態の開発・育成によるグループ力の強化と企業価値の向上がありました。
そこで、目を付けたのが、食べログ百名店に選ばれるなど、京都を代表する喫茶店ブランドとなった「喫茶マドラグ」を展開しているLa Madragueです。「ベーカリーレストランサンマルク」「サンマルクカフェ」ブランドで培ったノウハウを「喫茶マドラグ」と融合させ、事業拡大を目指すべく子会社化に踏み切りました。
参照元:株式会社サンマルクホールディングス「株式の取得(子会社化)に関するお知らせ」
しんしん丸の事例
2022年7月に料理飲食店・飲食店の経営を行っている株式会社かんなん丸が、同じく料理飲食店を経営する完全子会社である株式会社しんしん丸を吸収合併した事例です。かんなん丸は、大衆割烹「庄や」、カラオケスタジオ「うたうんだ村」などを展開しています。
一方のしんしん丸は、 かんなん丸の「居酒屋」運営事業以外の事業の多角化と拡充を目的として、2012年に設立されました。コーヒーショップ業態のFC事業による展開などを視野に運営していましたが、事業全体の強化と効率化を図ることを目的に吸収合併されました。
参照元:株式会社かんなん丸「完全子会社の吸収合併(簡易合併・略式合併)に関するお知らせ」
テンフォーの事例
2023年1月に株式会社焼肉坂井ホールディングスが、連結子会社(特定子会社)である株式会社テンフォーの株式の一部を株式会社コイサンズへ譲渡した事例です。
焼肉坂井ホールディングスは、主力である焼肉事業をはじめとするイートイン事業を展開しています。コイサンズはベーカリー・外食店舗を展開するフードカンパニーで、一方のテンフォーはピザ製造および宅配、店頭販売を行っている会社です。
今回の譲渡において、焼肉坂井ホールディングスは新型コロナウイルス感染症が収束へ向かっていくことが見込まれる中で、焼肉事業をはじめとするイートイン事業への注力がグループの事業ポートフォリオ最適化と経営資源集中に合致すると判断し、譲渡に踏み切りました。
参照元:株式会社焼肉坂井ホールディングス「連結子会社の異動(株式譲渡)に関するお知らせ」
店舗の譲渡に関する5つの相談先
店舗の譲渡・売却では専門家に相談したいと思っても、どこに相談すればよいのか迷うかもしれません。
ここでは、5つの相談先を紹介します。
- M&A仲介会社
- 事業承継・引継ぎ支援センター
- 地域の商工会・商工会議所
- 金融機関
- 公認会計士や税理士などの士業専門家
相談先の特徴を把握し、自店舗に見合った相談先を見つけましょう。
1.M&A仲介会社
M&A仲介会社は、M&A支援を専門とする民間会社です。売り手と買い手の間に立ち、双方の利益を考えて仲介業務を行います。相手の紹介から契約の締結まで、一貫したサポートを行うのが特徴です。
M&A仲介会社はM&Aに関する豊富な実績があり、社内にノウハウが蓄積されています。最新の情報を持ち、店舗の譲渡・売却に関する手法にも精通しているのが強みです。店舗の特徴を理解し、適切な譲渡先を探してくれるでしょう。
2.事業承継・引継ぎ支援センター
事業承継・引継ぎ支援センターとは、全国の都道府県に設置され、後継者不在の中小企業・小規模事業者と承継を希望する事業者とのマッチングを支援する公的機関です。後継者不在に悩む店舗からの相談に対応し、店舗の譲渡・売却先を見つけるためのマッチングを行います。
第三者承継では買い手企業の紹介から成約までサポートし、親族内承継を希望する場合は、外部専門家を活用した事業承継計画の作成を支援します。
3.地域の商工会・商工会議所
地域にある商工会・商工会議所にも店舗の譲渡・売却の相談ができます。どちらも非営利の公的団体であり、会員の経営者向けにさまざまなサポートを行っています。
商工会であれば町村部に、商工会議所であれば全国の都道府県に設置されており、店舗の譲渡に関する相談が可能です。地域の商工会・商工会議所は特に地域ネットワークに強みを持っているので、地域の優良な相手先を紹介してもらえる可能性があります。
4.金融機関
取引先の銀行などの金融機関にも、店舗の譲渡・売却に関する相談ができます。実際に資金を提供するなど取引をしている銀行であれば、譲渡の相談にも親身に対応してくれるでしょう。
地域の会社とのつながりが多い銀行は、買い手先を見つける際も役立ちます。
ただし、金融機関は自社の利益も追求するため、こちらの意向通りに動いてくれるとは限りません。紹介する買い手先に有利な条件を提示する可能性もあるということは、把握しておきましょう。
5.公認会計士や税理士などの士業専門家
公認会計士や税理士などの専門家も、相談先になります。特に税務関係の依頼をしているなど長く付き合いのある公認会計士・税理士であれば、最初の相談先としても適切でしょう。
公認会計士や税理士は多くの中小企業を支援していることから、店舗の譲渡に関する相談を受けている可能性も高いといえます。経験に基づいたアドバイスをもらえることもあるでしょう。
まとめ
飲食店の店舗を閉店しようとすると手間やコストがかかります。店舗を譲渡をして売却益を得ることも選択肢に入れてみてください。
店舗を譲渡するには「造作譲渡」「事業譲渡」「株式譲渡」の3種類があります。それぞれの特徴やメリット・デメリットを把握して、自社に合う方法を選びましょう。
店舗譲渡をすることに決めたら、早めに行動することが大切です。譲渡をスムーズに進めるためには、専門家への相談をおすすめします。