このページのまとめ
- M&Aの実施は投資家の心理に影響を与え、株価が変動する
- M&Aで株価が上がるのは、シナジー効果に期待が寄せられるケース
- 売却側においては、M&Aの取引価格に付加価値がついた場合も株価が上がる
- M&Aで株価が下がるのは、実施がネガティブな判断だと投資家に思われた場合
- 買収側においては、M&Aの取引価格が高額すぎると株価に悪影響を及ぼすことがある
「M&Aを行うと株価は上がる?下がる?」と疑問をお持ちの方もいるのではないでしょうか。
M&Aの実施は株式市場に大きな影響を及ぼし、株価は変動します。
本コラムでは、M&Aが株価に与える影響について解説します。
M&Aによって株価が上がるケースおよび下がるケースを紹介。また、M&Aの実施を要因に株価が上昇・下落した事例も紹介します。
目次
M&Aは株価に影響を与える
市場に流通している株式の価値は、日本および世界の経済や為替レート、政治の動向などの影響を受けます。
また、市場が抱く期待や不安などの心理状態も、株価を変動させる要素の一つです。
M&A実施の発表は、株式市場に参加する投資家たちの心理状態に影響を及ぼします。
そのM&Aが当事会社の経営を向上させるものであると判断されれば、株価は上昇します。
一方、M&Aが当事会社にとってネガティブな戦略だと判断された場合や、実施後の結果が期待を裏切るようなものだった場合、株価は下落してしまうでしょう。
M&Aは、株価に大いに影響を与える出来事だといえます。
M&Aによって株価が上がるケース
M&Aによって株価が上がるケースを、買収側と売却側に分けて解説します。
M&Aの買収側企業の株価が上がるケース
M&Aの買収側企業の株価が上がるのは、買収する会社とのM&Aによって創出されるシナジー効果に期待が寄せられたケースです。
M&Aを行うことで事業拡大や技術向上、コスト削減などが実現し、業績アップにつながると市場が判断した場合、株価が上昇するでしょう。
M&Aの売却側企業の株価が上がるケース
M&Aの売却側企業の株価が上がるのは、買収側企業の傘下に入ることによって業績が上がると期待されたケースです。
M&Aを機に有力企業や大手企業にグループインする場合には特に、傘下に入ることによる業績改善や経営の安定化が見込まれて、株価が上がる傾向にあります。
また、M&Aの際に「買収プレミアム」と呼ばれる付加価値が付くことにより、株価が上昇するケースもあります。
買収プレミアムは、買収側の企業が売却側企業に対して、将来的な期待を価値に含めて評価した結果つけられる上乗せ分の金額です。
M&Aによって株価が下がるケース
M&Aによって株価が下がるケースを、買収側と売却側に分けて解説します。
M&Aの買収側企業の株価が下がるケース
M&Aの買収側企業の株価が下がるのは、M&Aの実施によって得られる相乗効果が見込めないと市場に判断されたケースです。
投資家や既存株主に対してM&A後の明るいビジョンを示せなかった場合、株価が下落するおそれがあります。
また、買収にかける金額が高額であるケースも要注意です。
投資額が高ければ高いほど、その分期待値が上がります。投資額に見合わないM&Aだと思われると、株価は下がってしまうでしょう。
M&Aの売却側企業の株価が下がるケース
M&Aの売却側企業の株価は上がるケースがほとんどですが、総合的な判断により下がる場合もあります。
たとえば、グループ企業が傘下の子会社を次々と売却したケースです。
多数の子会社を売却したことを受けて、投資家や既存株主が「経営状態が悪いのでは?」と危惧し、株価が下がる可能性があります。
M&Aによって株価が上昇した事例
M&Aによって株価が上がった事例について、買収側企業の例と売却側企業の例、一つずつ紹介します。
【買収側】RIZAPグループの株価上昇の事例
2017年、RIZAPグループ株式会社(以下「RIZAPグループ」)は、多数の企業とM&Aを行って連結子会社化する戦略を進めました。
健康や自己実現をベースに、さまざまな分野の企業とM&Aを実施しています。
同年2月には株式会社ジーンズメイト、3月には株式会社ぱど、6月には堀田丸正株式会社、8月には株式会社五輪パッキングを連結子会社化しました。
RIZAPグループは、企業価値を発揮しきれていない企業を買収し、カリスマ経営者の手腕によって短期間での業績改善をかなえました。
RIZAPグループの積極的なM&Aによる成長戦略を受けて市場の期待値は上がり、株価も上昇しています。
2017年1月初めに198円(調整後終値)だったRIZAPグループの株価はだんだんと上がっていき、2017年11月30日の時点では1,474.5円(調整後終値)まで上昇しました。
参照元:
RIZAPグループ株式会社『沿革』
RIZAPグループ株式会社『2018年3月期決算短信〔IFRS〕(連結)』
【売却側】NECの株価上昇の事例
2016年7月1日、日本電気株式会社(以下「NEC」)は、Lenovo Group Limited(以下「レノボ」)との合弁会社であるLenovo NEC Holdings B.V.(以下「LNH社」)の株式の一部を譲渡することを発表しました。
LNH社は、2011年7月にNECとレノボの両社出資によって設立されたパソコン事業の合弁会社です。
本M&Aにおいて譲渡されたのは、LNH社の普通株式44,100株です。
同時に、LNH社が発行する劣後株式42,700株をNECが引き受けています。
株式譲渡の実行後にNECが保有する議決権は33.4%を維持し、LNH社は引き続きNECの持分法適用関連会社となります。
そして、本M&AによってNECは譲渡益の約200億円を特別利益として計上しました。
NECは未来の安全・安心なまちづくりに向けて、インフラの整備に注力することを掲げていました。
今回の株式譲渡は、社会インフラ事業へ投資するための資金調達が目的の一つです。
NECは世界トップレベルの技術・システムを有しており、NECが社会インフラ事業に集中する決断に対して、世間は期待を寄せる結果となりました。
株価は公表の前日の2016年6月30日時点では2,370円(調整後終値)でしたが、7月1日の発表後から上昇していき、株式譲渡日の翌日の2016年7月29日の株価は2,840円(調整後終値)まで上がりました。
参照元:
日本電気株式会社『アニュアル・レポート 2016』
日本電気株式会社『持分法適用関連会社株式の一部譲渡に伴う譲渡益の計上に関するお知らせ』
日本電気株式会社『四半期報告書(第179期第1四半期)』
M&Aによって株価が下落した事例
M&Aによって株価が下がった事例について、買収側企業の例と売却側企業の例、一つずつ紹介します。
【買収側】武田薬品工業の株価下落の事例
2018年5月8日、武田薬品工業株式会社(以下「武田薬品工業」)は、アイルランドに本社を置くShire plc(以下「シャイアー社」)をM&Aによって完全子会社化することを発表しました。
本M&Aの効力発生日は2019年1月8日です。
武田薬品工業によるシャイアー社の買収は、総額およそ460億ポンド(日本円で約6兆6000億円)を対価とすると発表されました。
シャイアー社の株式には、64.4%の買収プレミアムが上乗せされたことになります。
買収にかかる金額のうち、約3兆円のキャッシュは銀行からの融資や社債などで調達し、残りは約7億7,000万株の新株発行によって賄いました。
武田薬品工業の発行済株式総数は、本M&Aを機に2倍に増加します。
今回のM&Aにかかった約460億ポンドは、国内最大となる買収額です。
市場はこの買収額に対して「高すぎる」「負債の増加が不安」と判断しました。
また、大量の新株発行によって株式の希薄化が起こることも懸念材料となったようです。
発表当時の2018年5月8日に4,638円(調整後終値)だった武田薬品工業の株価はおおよそ下落の一途をたどり、年末には3,705円(調整後終値)まで下がりました。
参照元:
武田薬品工業株式会社『武田薬品によるシャイアー社買収の申出について』
武田薬品工業株式会社『Shire社買収完了のお知らせ』
武田薬品工業株式会社『タケダによるシャイアー社の買収』
【売却側】東芝の株価下落の事例
株式会社東芝(以下「東芝」)は、グループ会社であるウェスチングハウス社(以下「WEC」)のCB&Iストーン&ウェブスター社(以下「S&W」)の買収に伴うのれんに関して、数十億米ドル規模(数千億円規模)にのぼる可能性があると、2016年12月27日に発表しました。
この損失は、日本円で数千億円もの金額になります。
その後2017年1月27日、東芝は注力事業であるメモリ事業を会社分割によって分社化することを発表しました。会社分割の効力発生日は、同年3月31日です。
分割するメモリ事業は、東芝の社内カンパニーであるストレージ&デバイスソリューション社が営むものです。
会社分割により、東芝デバイス&ストレージ株式会社が発足されました。
本M&Aの実施の背景には数千億円にのぼるのれんの減損損失があり、成長戦略のために行われたものではありません。
莫大な損失を補填することを目的として、比較的業績が好調であるメモリ事業を売却するに至っています。
そのため世間の評価は下がり、株価も下落しています。
2016年12月27日には2,774円(調整後終値)だった株価は下がっていき、会社分割が効力発生日を迎える2017年3月には株価が1,800円台(調整後終値)まで落ち込む日もありました。
参照元:
株式会社東芝『CB&Iの米国子会社買収に伴うのれん及び損失計上の可能性について』
株式会社東芝『当社メモリ事業の会社分割による分社化の方針の決定について』
株式会社東芝『株主通信 2017年 秋号』
M&Aにおける価値算定方法
M&Aを実施するときには、企業の取引価額を決定することを目的に株価算定・企業価値算定を行うことが一般的です。
企業が持つ価値を算出することを「企業価値評価(バリュエーション)」と呼びます。
企業価値を算定する方法は複数あり、その中から適切な手法を選択することによって評価額(株価)が上がることもあるでしょう。
企業価値評価(バリュエーション)の主な評価手法は「コストアプローチ」「マーケットアプローチ」「インカムアプローチ」の3つです。
各アプローチ方法の概要・目的・計算方法の種類は、以下のとおりです。
コストアプローチ | マーケットアプローチ | インカムアプローチ | |
概要 | 純資産額をベースにして企業価値を算定する | 株式市場やM&A市場における価値と比較することで企業価値を算定する | 将来的に生み出されるであろう収益・キャッシュフローを参考にして企業価値を算定する |
目的 | ・中小企業のM&A ・赤字の企業・事業のM&A ・赤字の事業のM&A | ・大企業のM&A ・IPOを視野に入れ、M&Aを検討している未上場企業の評価 | ・大企業のM&A ・高い成長性がある企業のM&A ・売却後も事業を継続する予定の企業のM&A |
計算方法の種類 | ・簿価純資産法 ・修正簿価純資産法 ・時価純資産法 | ・市場株価法 ・類似会社比較法 ・類似取引比較法 | ・DCF法 ・収益還元法 ・配当還元法 |
以下で、各種アプローチ法の違いや計算方法の詳細などについて解説します。
コストアプローチ
コストアプローチとは、貸借対照表の純資産額から対象企業の企業価値を算定する評価方法です。
コストアプローチは、中小企業のM&Aや赤字を出している事業・企業のM&Aにおける算定方法として利用されます。
コストアプローチの代表的な算定方法である「簿価純資産法」「修正簿価純資産法」「時価純資産法」の詳細は、下記のとおりです。
計算方法の名称 | 概要・特徴 |
簿価純資産法 | 貸借対照表の資産から負債を差し引くことにより、企業価値を算定する。 |
修正簿価純資産法 | 貸借対照表の資産・負債のなかでも含み損益が大きい項目を時価で換算する。その後、資産から負債を差し引いて算出する。 (時価換算する項目例:有価証券、土地、建物、貸付金) |
時価純資産法 | 企業が保有する資産および負債のすべてを時価で換算し、資産の時価評価額から負債の時価評価額を差し引いて企業価値を算定する。 |
コストアプローチのメリットは、客観的な評価ができることと、計算方法が簡単であることです。
コストアプローチのデメリットは、将来的な利益や含み益を企業価値に反映するのが難しい点です。
マーケットアプローチ
マーケットアプローチとは、証券取引所の株価や過去のM&Aの取引事例と照らし合わせることによって対象企業の企業価値を算定する評価方法です。
大企業のM&Aでの評価や、IPOを目指している未上場企業の評価に利用されます。
マーケットアプローチの代表的な算定方法である「市場株価法」「類似会社比較法(マルチプル法)」「類似取引比較法」の詳細は、下記のとおりです。
計算方法の名称 | 概要・特徴 |
市場株価法 | 株式市場における上場企業の株価をもとに、株式価値および企業価値を算定する。 一時的な株価の高騰・暴落による影響を排除するため、直近1~3ヶ月の終値の平均を参考にするケースが多い。 |
類似会社比較法(マルチプル法) | 業種・業態・事業内容・規模などの観点から類似する上場企業をいくつか抽出し、その平均の企業価値を出して、企業価値を算定する。 |
類似取引比較法 | 類似する複数の企業を選び出し、その企業が過去に実施したM&Aでの取引価格をもとに利益倍率を算出し、それをもとに計算して企業価値を算定する。 倍率には主に「EV/EBITDA倍率」が使用される。 |
マーケットアプローチのメリットは、客観性が高い結果が得られる点です。
マーケットアプローチのデメリットは、類似する上場企業や取引事例が見つからないケースにおいては活用できないことです。
インカムアプローチ
インカムアプローチとは、対象企業が生み出すであろう将来的な収益・キャッシュフローにもとづいて企業価値を算定する評価方法です。
大企業のM&Aや伸び率が高い企業のM&A、売却後も経営が継続する企業のM&Aなどで活用されます。
インカムアプローチの代表的な算定方法である「DCF法(ディスカウントキャッシュフロー法)」「収益還元法」「配当還元法」の詳細は、下記のとおりです。
計算方法の名称 | 概要・特徴 |
DCF法(ディスカウントキャッシュフロー法) | フリーキャッシュフロー(FCF)をもとに企業価値を評価する。 将来的に創出されると予測されるキャッシュフローを、適切な割引率を用いて現在価値に割り引くことにより算定する。 |
収益還元法 | 毎年一定の予想平均利益を生み出すと仮定し、資本還元率で割り引いて価値を評価する。 予想平均利益は、対象企業の事業計画書の内容から算定する。 |
配当還元法 | 1株あたりの株式の配当金額を資本還元率で割り引くことによって、株価を評価する。 |
インカムアプローチの主なメリットは、将来的な収益力やシナジー効果を企業価値に含めて評価できること・市場の影響を受けづらいことの2点です。
インカムアプローチのデメリットは、予測するための根拠に説得力がない場合、客観的な評価にならない点です。インカムアプローチを活用するときは、根拠にもとづいた売上予測や綿密な事業計画を資料として用意しましょう。
まとめ
M&Aの実施は株式市場の投資家たちの関心事であり、株式市場に少なからず影響を与えます。
そのM&Aを行うことによってポジティブな効果が期待できると市場が判断した場合、株価は上昇します。
一方で、そのM&Aがネガティブな決断だったと捉えられると、株価は下落するでしょう。
買収側の企業において、株価が上がるケースは、M&Aによって大きなシナジー効果が生み出されると期待された場合です。
売却側の企業においては、シナジー効果が期待されたケースのほか、買収プレミアムが付いて高額な取引額で売却するケースでも株価が上昇します。
買収側の企業において、株価が下がるケースは「シナジー効果が得られない」と投資家たちに判断された場合や、買収金額が高すぎる場合です。
売却側の企業がM&Aを行う場合は株価が上がるケースがほとんどですが、売却理由が経営状態の悪化によるものだった場合には株価が下落することがあります。
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