このページのまとめ
- 株価算定(バリュエーション)とは、企業の株式の価値を評価すること
- 株価算定の主な目的は、中小企業などの非上場企業の株式の価値を算定すること
- 株価算定はM&Aや事業承継、相続・贈与、増資などの場面で活用することが多い
- 株価算定方法は数多くあり、状況に合わせて適切な手法を選択する必要がある
- 株価算定の依頼にかかる費用相場は20万円~200万円ほど
「株価算定はどのように行ったらよい?」とお悩みの方もいるのではないでしょうか。
株価算定方法には数多くの種類があります。その方法の中から状況に応じた適切な株価算定方法を選択することが大切です。
本コラムでは、株価算定の計算方法やそれぞれの適した使用場面について解説します。
また、株価算定を行うときの手順や評価に必要な書類も紹介。そのほか、株価算定を専門家に依頼するときにかかる料金の相場も紹介しています。
目次
株価算定とは
「株価算定」とは、企業の株式価値を算定することです。
株価算定は「バリュエーション」と呼ばれることもあります。
株価算定を行うことによって、客観的な視点をもって価値を評価します。
株価算定は、中小企業をはじめとする非上場企業の株式の価値を把握することを主な目的として活用されます。
株価と企業価値・事業価値の違い
ここでは、株価(株式価値)の解説に加えて、混同しやすい用語である「企業価値」や「事業価値」との違いについても紹介します。
株価(株式価値)とは
「株価」とは、企業が発行している株式の1株あたりの価値を指します。
「株式価値」は、株式の時価総額のことです。
非上場企業の場合、市場での取引価格が存在しないため、価値を求める際は株価算定を行うことが必要です。
非上場企業の株価を算出するときは、「コストアプローチ」「マーケットアプローチ」「インカムアプローチ」と呼ばれる評価手法(※詳細は後述)を用います。
なお、株価の市場価格が判明している上場企業の場合、複雑な株価算定は必要ありません。
株価は、証券取引所で公開されている値段になります。
株式の時価総額である株式価値を求める場合は、公開されている株価に企業の発行済株式総数をかけることによって計算可能です。
上場企業の株式価値=市場の株価×発行済株式総数 |
企業価値とは
「企業価値」とは、企業が持つ経済的価値のすべてのことです。
企業価値には自己資本や有利子負債、無形資産、非事業用資産など、企業が保有するすべての価値が算入されています。
事業価値とは
「事業価値」とは、企業が営む事業によって創出される価値のことです。
事業価値には、余剰資金や遊休資産などの非事業用資産にあたるものの価値は含まれません。
株価算定が必要となる場面
株価算定は、非上場企業の株式価値を算出するときに行います。
非上場企業の株式価値を出す必要性が発生するシーンの例は、主に以下のとおりです。
- M&A
- 事業承継
- 相続
- 贈与
- 公募増資
- 第三者割当増資
- 株主割当増資
- 反対株主による株式買取請求への対応
- ストックオプションの発行
上記にあるようなことを実施する際に、株価算定を行います。
株価算定のスキームは数多く存在します。
どの株価算定方法を選ぶべきかは、目的・場面によって変わります。
株価算定方法の種類
株価算定方法(バリュエーション)を大別すると、「コストアプローチ」「マーケットアプローチ」「インカムアプローチ」の3つに分けられます。
コストアプローチの主な計算方法は「簿価純資産法」「修正簿価純資産法」「時価純資産法」です。
マーケットアプローチの主な計算方法は「市場株価法」「類似会社比較法」です。
インカムアプローチの主な計算方法には「DCF法」「収益還元法」「配当還元法」「ゴードン・モデル法」があります。
各株価算定の概要や分類は、下記の表のとおりです。
コストアプローチ | マーケットアプローチ | インカムアプローチ | |
概要 | 純資産額をもとにして株価算定をする | 市場における価値と比較することによって株価算定をする | 将来的に生み出される収益・キャッシュフローをもとに株価算定をする |
具体的な計算方法 | ・簿価純資産法 ・修正簿価純資産法 ・時価純資産法 | ・市場株価法 ・類似会社比較法 | ・DCF法 ・収益還元法 ・配当還元法 ・配当還元方式(国税庁) ・ゴードン・モデル法 |
以下、各アプローチ方法の詳細と具体的な計算方法、メリット・デメリットを解説します。
コストアプローチ
コストアプローチとは、貸借対照表の純資産額を参考値にする株価算定方法です。
コストアプローチに分類される計算方法には、簿価純資産法・修正簿価純資産法・時価純資産法があります。
計算方法の名称 | 計算式 | 概要 |
簿価純資産法 | 株価=簿価純資産額÷発行済株式総数 | 簿価純資産法とは、貸借対照表の資産から負債を差し引くことで企業価値を算定する計算方法。 資産から負債を差し引いた額を発行済株式総数で割ることにより、1株あたりの価値が算定できる。 |
修正簿価純資産法 | 株価=修正簿価純資産額÷発行済株式総数 | 修正簿価純資産法とは、貸借対照表の資産・負債のなかでも含み損益が大きい項目を時価で換算したうえで、資産から負債を差し引いて計算する方法。 その金額を発行済株式総数で割ることで、株価が算定できる。 時価換算する項目の例は、有価証券や土地、建物、貸付金など。 |
時価純資産法 | 株価=時価純資産額÷発行済株式総数 | 時価純資産法とは、企業が保有するすべての資産および負債を時価で換算し、資産の時価評価額から負債の時価評価額を控除することによって企業価値を求める計算方法。 企業価値から有利子負債を差し引くと、株式価値を算定できる。 |
コストアプローチのメリットは、客観的な株価算定ができることです。
貸借対照表の数字を参考にするため、主観に左右されない算定結果が得られます。
また、計算方法が比較的簡易である点もメリットです。
コストアプローチのデメリットは、対象企業が将来的に生み出しうる利益や、市場が企業に対して抱く期待や評価を、株価に反映できないところです。
マーケットアプローチ
マーケットアプローチとは、市場における上場企業の株価と照らし合わせることにより、株価算定する評価方法です。
マーケットアプローチに分類される計算方法は、市場株価法・類似会社比較法(マルチプル法)です。
計算方法の名称 | 計算式 | 概要 |
市場株価法 | 株価=(一定期間における終値×出来高株数)÷一定期間における出来高株数 | 市場株価法とは、証券取引所の上場企業の株価を基準に、株価を算定する計算方法。 一時的な株価の高騰・暴落等の影響に左右されないよう、直近1ヶ月~3ヶ月間の終値の平均を参考にして算定するケースが多い。 |
類似会社比較法 | 株価=類似上場企業の株価×(a/A+b/B+c/C)/3×斟酌率 | 類似会社比較法とは、類似する上場企業を複数社ピックアップし、その平均の株式価値をもとに、対象企業の株式価値を算定する計算方法。 類似会社比較法は、「マルチプル法」「類似業種比準方式」とも呼ばれる。 類似した上場企業を選定する基準は、業種や業態、規模、事業内容など。 |
マーケットアプローチのメリットは、市場での株価を参考にするため、客観性が高い結果を得られることです。
一方で、類似する上場企業が見つからないと活用できない点は、マーケットアプローチのデメリットといえます。
また、ビジネスモデルや成長ステージが対象企業と異なるケースでは、対象企業の価値を反映しきれないため注意しましょう。
インカムアプローチ
インカムアプローチとは、対象企業が将来的に生み出すと予測される収益・キャッシュフローをもとに株価算定をする評価方法です。
インカムアプローチに分類される計算方法には、DCF法・収益還元法・配当還元法・配当還元方式(国税庁)・ゴードン・モデル法があります。
計算方法の名称 | 計算式 | 概要 |
DCF法 | 株価=(将来のFCF÷割引率)÷発行済株式総数 | DCF法とは、フリーキャッシュフロー(FCF)を参考にして株価算定する計算方法。 フリーキャッシュフローは、過去3~5年間の実績から求めるパターンのほか、事業計画から求めるパターンがある。DCF法は、「ディスカウントキャッシュフロー法」「割引キャッシュフロー法」「割引現金収支法」などとも呼ばれる。 将来にわたって獲得できると予測されるフリーキャッシュフローを、適切な割引率を用いて現在価値に換算することによって算定する。 |
収益還元法 | 株価=(過去数年分の平均利益額÷資本還元率)÷発行済株式総数 | 収益還元法とは、毎年同額の予想利益を生み出すと仮定し、資本還元率で割り引くことで株価を算定する計算方法。 予想利益は、対象企業の事業計画書をもとに算定する。 予想利益を一定に設定する点で、DCF法より柔軟性は劣るが、簡易な方法だといえる。 |
配当還元方式(国税庁) | 株価={(年間配当金額÷10%)×(資本金額÷50円)}÷発行済株式総数 | 配当還元方式とは、国税庁が定める特例的な評価方式。非上場企業において、同族株主以外の株主が取得した株式について適用される計算方法。 当該株式を保有することで得られる1年間の配当金額を、10%の利率で還元し、元本の株価を評価する。 |
配当還元法 | 株価=(年間の配当金額÷資本還元率)÷発行済株式総数 | 配当還元法とは、株式1株あたりの配当金額を資本還元率で割り引くことによって、株価を算定する計算方法。 配当実績は、過去1~2年間の数値を参考にする。配当実績がないケースでは、類似業種の配当性向を指標にして配当金を推定する。 |
ゴードン・モデル法 | 株価=年間配当金額/(資本還元率ー投資利益率×内部留保率)÷発行済株式総数 | ゴードン・モデル法とは、過去の配当実績のほか、企業に蓄積された内部留保も考慮して株価を算定する計算方法。 内部留保の再投資によって生み出された利益が配当金を増加させるとして評価を行う。 |
インカムアプローチのメリットは、将来的な収益力やシナジー効果などを価値に含められる点です。
また、市場変動の影響に左右されにくい点もメリットだといえます。
インカムアプローチのデメリットは、予測の根拠が薄いと客観性が認められないおそれがあることです。
インカムアプローチを活用する際は、根拠となる売上予想や事業計画を準備しましょう。
参照元:国税庁『No.4638 取引相場のない株式の評価』
株価算定方法ごとの適切な使用シーン
株価算定方法の適切な使用場面は、主に下記の表のとおりです。
【コストアプローチ】
株価算定の計算方法 | 向いている使用場面 |
簿価純資産法 | ・非上場企業の株式を相続する際の株価算定 ・非上場企業の株式を贈与する際の株価算定 |
修正簿価純資産法 | ・成熟期~衰退期の非上場の中小企業の株価算定 ・赤字を計上している企業の株価算定 |
時価純資産法 | ・成熟期~衰退期の非上場の中小企業の株価算定 ・赤字を計上している企業の株価算定 |
【マーケットアプローチ】
株価算定の計算方法 | 向いている使用場面 |
市場株価法 | ・上場企業同士が合併を行うときの合併比率の算定 ・上場企業同士が株式交換を行うときの株式交換比率の算定 |
類似会社比較法 | ・大企業・上場企業の株価算定 ・IPOを目指している未上場企業の株価算定 ・類似上場企業が存在する、非上場の中小企業の株価算定 ・類似上場企業が存在する、非上場の中小企業の株式を相続する際の株価算定 ・類似上場企業が存在する、非上場の中小企業の株式を贈与する際の株価算定 |
【インカムアプローチ】
株価算定の計算方法 | 向いている使用場面 |
DCF法 | ・大企業・上場企業の株価算定 ・成長が著しいベンチャー企業やスタートアップ企業の株価算定 |
収益還元法 | ・大企業・上場企業の株価算定 ・一定の利益を継続して出している、安定段階の企業の株価算定 |
配当還元法 | ・非上場企業における、同族企業の少数株主が株式を相続する際の株価算定 ・非上場企業における、同族企業の少数株主が株式を贈与する際の株価算定 |
配当還元方式(国税庁) | ・非上場企業における、同族株主以外の株主が取得した株式の株価算定 |
ゴードン・モデル法 | ・内部留保がある非上場企業の株価算定 |
選択するべき株価算定方法は、会社の規模や企業の成長ステージ、財務状態、算定の目的、株式の内容などによって異なります。
また、算定結果の精度を高めるために、複数の株価算定方法を採用して総合的に判断することもあります。
状況に応じて、柔軟に株価算定方法を選びましょう。
株価算定を実施するときの手順
株価算定を行うときの手順・流れは、以下のとおりです。
株価算定にかかる期間は、必要書類の提出後から2週間~1ヶ月が目安ですが、案件の規模や内容によって変動します。数ヶ月かかることもあるため、余裕を持たせたスケジュールで進めましょう。
- 専門家に株価算定を依頼する
- 株価算定の目的を確認する
- 株価算定方法を決定する
- 株価算定に必要な書類を提出する
- 専門家が株価算定を行う
株価算定には会社やM&A、相続・贈与などに関するさまざまな専門知識が求められるため、M&A仲介会社や会計事務所などの専門家に依頼することが一般的です。
専門家への依頼後、株価算定の目的や計算方法をすり合わせたのち、株価算定をするために必要な資料を提出します。
必要書類が揃ったら専門家が株価算定を行い、株価算定書を作成してくれます。
株価算定に必要な書類
株価算定をする際に必要な書類の例は、以下のとおりです。
- 会社案内
- 貸借対照表
- 損益計算書
- キャッシュフロー計算書
- 設備投資計画
- 事業計画書
- 事業報告書
- 株主名簿
- 同族関係の関係図
- 新株予約権原簿
- 有価証券の明細
- 商業登記簿謄本
- 不動産鑑定評価書
- 類似業種の上場企業のリスト
必要書類は状況によって異なります。
専門家から提出が求められた資料を、できるかぎり迅速に用意しましょう。
株価算定にかかる費用相場
株価算定を専門家に依頼した際にかかる費用の相場は、20万円〜200万円ほどです。
株価算定にかかる費用の金額は、採用する算定方法や株価算定の目的、対象企業の規模などによって大きく変動します。
たとえば、株価算定方法を複数組み合わせて評価を行うケースや、会社規模が大きいために調査範囲が広範に及ぶケースでは、株価算定の費用は高くなる傾向があります。
株価算定を専門家に依頼する際は、事前に問い合わせて料金について見積もりをとりましょう。
まとめ
株価算定(バリュエーション)とは、企業の株式の価値を評価することです。
主に、市場での取引価格が存在しない非上場企業の株価を評価することを目的に、株価算定を行います。
株価算定が必要となる場面は、M&Aや事業承継、相続、贈与、増資などを検討するときです。
株価算定の評価手法は、大きく分けると「コストアプローチ」「マーケットアプローチ」「インカムアプローチ」の3つがあります。さらに、具体的な計算方法は多種多様に存在します。
会社の状態や算定の目的などによって、採用するべき株価算定の計算方法は変わるため、状況に合わせて適切な手法を選択しましょう。
株価算定には専門的で幅広い知識が求められるため、専門家に依頼することがおすすめです。
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