このページのまとめ
- セミリタイアとは、一定の貯蓄をして定年前に退職し、自分の時間を楽しむ生き方のこと
- セミリタイアをするにあたっては、年齢に応じた必要資金のシミュレーションが大切
- 準備段階で目的を決め、収支をしっかりと確認して計画を立てることが求められる
近年では、定年まで働いて余生を過ごすのが一般的であるという価値観に変化が生じ、定年を前にして退職・引退をする生き方が選択肢として広がりつつあります。今回紹介する「セミリタイア」についても、新たなライフスタイルとして世間に普及しています。
本コラムでは、セミリタイアの概要やメリット・デメリット、シミュレーションなどについて解説します。
目次
セミリタイアとは
セミリタイアとは、一定の貯蓄をしたあと定年を迎える前に退職し、必要に応じて仕事をしつつ自分の生活を楽しむ生き方を指します。働き方の多様化が進むなかで、自分らしい生き方として注目されるようになりました。
自由な生活を優先し、必要に応じてフリーランスやアルバイトとして働くことが、基本的なスタイルです。近年では、資産の多さに関わらず必要最低限の生活資金で過ごす、ミニマリストのような生き方も含めることが多くあります。また、セミリタイアと似た概念として以下が挙げられます。
- FIRE
- アーリーリタイア
- 早期リタイア
FIRE
一定の資金をリタイア前に用意し、その資金を運用して収入を得て、生計を立てる生き方です。「Financial Independence, Retire Early」の略であり、日本語では経済的自立と早期リタイアを指します。
資産運用による経済的自立を主に指す言葉であり、退職後に少しでも労働収入を得るか全く得ないかでさらに2つに分けることもあります。
アーリーリタイア
定年退職を待たず、退職・引退することを指します。セミリタイアを含む考え方であり、職後全く労働をしない生き方(完全リタイア)と、必要に応じて働く生き方(セミリタイア)に分けられます。
早期リタイア
早期優遇退職制度を活用し、定年前に退職金を受け取って退職することです。「希望退職」とも呼ばれ、企業によって異なる制度が設けられています。制度が適用されるケースには、もとの企業方針である場合と業績の悪化による場合の2種類があります。
セミリタイアのメリット・デメリット
ここでは、セミリタイアのメリットとデメリットを解説します。
セミリタイアのメリット
セミリタイアのメリットは、以下のとおりです。
- 若い年代から自由な時間を持てる
- 仕事に関するストレスを抑えられる
- 社会と接点はなくならない
最も大きなポイントとして挙げられることが、「若いころから自由な時間を持てるようになること」です。
従来の定年退職を待っていては、退職のタイミングは60歳以降になってしまいます。自由な時間ができても、すでに体力的・時間的・精神的にやれることが少なくなっているかもしれません。
身体的に若いまま自由な時間を持てることは、非常に魅力的なポイントです。
また、仕事に対するストレスから解放されることも、大きなメリットとして考えられます。人生の大半を仕事に捧げるような働き方では、心の余裕を持てない方も多くいることでしょう。
組織で生きていくには人間関係の悩みも尽きないものです。仕事によるストレスを大きく減らせることは、セミリタイアの大きな魅力だといえます。
さらに、完全にリタイアするわけではなくフリーランスやアルバイトとして適宜仕事をすることから、社会との接点を保てることもポイントです。
セミリタイアのデメリット
セミリタイアのデメリットは、以下のとおりです。
- 社会的信用が下がる
- 経済的な不安がある
- 再就職が難しい
セミリタイアを検討するうえでまず理解しておかなくてはならないこととして、社会的信用が下がることが挙げられます。
特に会社員であった場合、社会的信用の低下を痛感する方も少なくありません。ローンやクレジットカードの審査は、通りにくくなることを覚悟しましょう。
また、資金計画をしっかりと立てないと、経済的な不安が残ります。会社員時代には利用できていた福利厚生や各種の補償がなくなり、事前に想定したよりも生活費がかかることは決して珍しいことではありません。ケースによっては生活水準を大きく落とし、かえって不自由さを感じながら過ごさなくてはいけないことも考えられます。
さらに、セミリタイアをすると再就職が難しいことも忘れてはいけません。履歴書に空白ができてしまい、企業側からすぐに辞めるリスクがあると思われやすいためです。自分でお金を稼ぐための知識やスキルがなければ、退職・引退後の生活設計ができなくなるおそれがあります。
セミリタイアするための資金はいくら必要?
ここでは、セミリタイアに必要な資金の目安を、総務省における家計調査による世帯ごとの消費支出を基として年代別に紹介します。必要資金が異なる独身・家族世帯のケースを分けて、年金受給前、年金受給後で必要資金は変化することも踏まえて計算します。
【シミュレーションの前提条件】
- 90歳まで生存する場合を想定
- 25・35・45歳でリタイアする
- 生活費は、単身世帯で15万5046円/月、家族世帯で27万9024円/月
- 厚生年金の平均額は145,665円/月、国民年金の平均額は56,479円/月
参照:
総務省統計局「家計調査(令和3年度)」
厚生労働省年金局「令和3年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」
20代でセミリタイアする場合
【独身のケース】
セミリタイア後に稼ぐ月収 | 必要な貯蓄額 |
月収0円 | 1億383万5880円 |
月収3万円 | 8043万5880円 |
月収5万円 | 6483万5880円 |
月収10万円 | 2583万5880円 |
【家族世帯のケース】
セミリタイア後に稼ぐ月収 | 必要な貯蓄額 |
月収0円 | 1億8313万8720円 |
月収3万円 | 1億5973万8720円 |
月収5万円 | 1億4413万8720円 |
月収10万円 | 1億513万8720円 |
月収15万円 | 6613万8720円 |
上記の表は、90歳までに必要な生活費総額から受給できる年金総額を差し引き、セミリタイア後の月収別に必要な貯蓄額を記したものです。
25歳でリタイアする場合、65歳の定年までに40年の期間があります。
25歳から90歳で亡くなるまでには65年あり、その間に必要な生活費は以下のとおりです。
- 単身:15,5046円×12か月×65年=120,935,880円
- 家族世帯:27,9024円×12か月×65年=217,638,720円
年金の月額は、ほとんど国民年金であることを想定して単身5万7,000円、家族世帯11万5,000円と考えます。
65~90歳の25年間で受け取れる年金総額は、以下のとおりです。
- 単身:57,000円×12か月×25年=17,100,000円
- 家族世帯:115,000円×12か月×25年=34,500,000円
リタイア後全く働かないことを想定すると、単身で約1億円、家族世帯で2億円近くの貯蓄が必要になります。
30代でセミリタイアする場合
【独身のケース】
セミリタイア後に稼ぐ月収 | 必要な貯蓄額 |
月収0円 | 78,330,360円 |
月収3万円 | 58,530,360円 |
月収5万円 | 45,330,360円 |
月収10万円 | 12,330,360円 |
【家族世帯のケース】
セミリタイア後に稼ぐ月収 | 必要な貯蓄額 |
月収0円 | 1億4365万5840円 |
月収3万円 | 1億2385万5840円 |
月収5万円 | 1億1065万5840円 |
月収10万円 | 7765万5840円 |
月収15万円 | 4465万5840円 |
35歳でリタイアする場合、65歳の定年までに30年の期間があります。
35歳から90歳で亡くなるまでには55年あり、その間に必要な生活費は以下のとおりです。
- 単身:15,5046円×12か月×55年=102,330,360円
- 家族世帯:27,9024円×12か月×55年=184,155,840円
年金の月額は、単身8万円、家族世帯13万5,000円と考えます。
65~90歳の25年間で受け取れる年金総額は、以下のとおりです。
- 単身:80,000円×12か月×25年=24,000,000円
- 家族世帯:135,000円×12か月×25年=40,500,000円
リタイア後全く働かないことを想定すると、単身で約8,000万円、家族世帯1億4,000円以上の貯蓄が必要になります。
40代でセミリタイアする場合
【独身のケース】
セミリタイア後に稼ぐ月収 | 必要な貯蓄額 |
月収0円 | 53,724,840円 |
月収3万円 | 37,524,840円 |
月収5万円 | 26,724,840円 |
【家族世帯のケース】
セミリタイア後に稼ぐ月収 | 必要な貯蓄額 |
月収0円 | 1億417万2960円 |
月収3万円 | 8797万2960円 |
月収5万円 | 7717万2960円 |
月収10万円 | 5017万2960円 |
月収15万円 | 2317万2960円 |
45歳でリタイアする場合、65歳の定年までに20年の期間があります。
45歳から90歳で亡くなるまでには45年あり、その間に必要な生活費は以下のとおりです。
- 単身:15,5046円×12か月×45年=83,724,840円
- 家族世帯:27,9024円×12か月×45年=150,672,960円
年金の月額は、単身10万円、家族世帯15万5,000円と考えます。
65~90歳の25年間で受け取れる年金総額は、以下のとおりです。
- 単身:100,000円×12か月×25年=30,000,000円
- 家族世帯:155,000円×12か月×25年=46,500,000円
リタイア後全く働かないことを想定すると、単身で約5,400万円、家族世帯で1億円以上の貯蓄が必要になります。
50代でセミリタイアする場合
【独身のケース】
セミリタイア後に稼ぐ月収 | 必要な貯蓄額 |
月収0円 | 2911万9320円 |
月収3万円 | 1651万9320円 |
月収5万円 | 811万9320円 |
【家族世帯のケース】
セミリタイア後に稼ぐ月収 | 必要な貯蓄額 |
月収0円 | 6469万80円 |
月収3万円 | 5209万80円 |
月収5万円 | 4369万80円 |
月収10万円 | 2269万80円 |
月収15万円 | 169万80円 |
55歳でリタイアする場合、65歳の定年までに10年の期間があります。
55歳から90歳で亡くなるまでには35年あり、その間に必要な生活費は以下のとおりです。
- 単身:15,5046円×12か月×35年=65,119,320円
- 家族世帯:27,9024円×12か月×35年=117,190,080円
年金の月額は、単身12万円、家族世帯17万5,000円と考えます。
65~90歳の25年間で受け取れる年金総額は、以下のとおりです。
- 単身:120,000円×12か月×25年=36,000,000円
- 家族世帯:175,000円×12か月×25年=52,500,000円
リタイア後全く働かないことを想定すると、単身で約3,000万円、家族世帯で約6,500万円の貯蓄が必要になります。
セミリタイアに向けて準備すること
セミリタイアに向けては、以下の準備が必要です。
- 目的を決める
- 資金計画を立てる
- 資産を増やす
- 収入源を確保する
- できるだけ支出を抑える
以下で、上記それぞれについて解説します。
目的を決めること
セミリタイアに向けてまず大切にすべきことは、目的を決めることです。目的を決めないまま実行に移してしまうと、やりがいのない日々を過ごすことになる恐れがあるためです。時間だけがあり、やることがないような状況は、ある意味でリタイア前よりもつらく、退屈でしょう。
何も目的・目標がないと無気力になってしまい、生きている楽しみを見出だせなくなってしまいます。「なぜセミリタイアをするのか」「セミリタイアをして何をしたいのか」をまず考えることが大切です。
リタイアをゴールであると考えてしまうと、目的を決めることが難しくなってしまいます。セミリタイアはスタートであり、今後より自分らしく生きていくための目的を考えましょう。
例えば、自分のペースで働きたいのであれば、フリーランスとして活躍することが考えられます。また、趣味に時間を費やしたい場合は、趣味を生かせるアルバイトや職業を探してみることも方法の1つです。
正解は1つではありません。せっかくこれまでの生活から離れて大きな一歩を踏み出すのですから、「セミリタイアして良かった」と思えるような目的を見つけ出しましょう。
資金計画を立てる
資金計画を立てることも、セミリタイアにおいては非常に大切な要素です。自分や家族が問題なく暮らせるだけの資金計画を立てられなければ、安心して生活できないためです。
先ほど紹介したシミュレーションのように、どれだけの費用が必要でいくら稼げるのかをしっかりと計算・把握しましょう。実際にセミリタイアをしてしまったあとでは、もとの生活に戻ることは困難です。
- 退職・引退後の資金は貯蓄に頼るのか
- 資産運用を行うのか
- リタイア後も仕事をするのか
- 仕事をするとすればどんな仕事か
- 毎日どれだけの生活費が必要か
上記のようなシミュレーションを綿密に行うことで、後悔のないセミリタイアを行えます。もし、どのような資金計画を立てるべきか分からない場合は、ファイナンシャルプランナーをはじめとする専門家に相談することもおすすめです。自分のために、そして家族のために、後悔しないように資金計画を立てましょう。
資産を増やす
できる限り資産を増やすことは、充実したセミリタイアのために欠かせないポイントです。もし現在の仕事で得られる収入だけでは十分な資産形成ができない場合、どうやって収入を増やすべきか考えることも求められます。
現在勤めている会社での昇進・昇給以外にも、転職や副業など資産を増やす方法は多数あります。特に近年では、収入を得るための選択肢が多数存在します。
退職前から副業を始めておけば、セミリタイア後の収入源として続けることも可能です。副業のスキルを磨き、人脈を築き上げることで、次の人生の可能性が広がることも考えられます。
収入源を確保しておく
セミリタイアの準備としては、収入源の確保も重要です。
現在の仕事の他に、別の収入源を確保しておくことが大切です。
- 資産運用
- ネットビジネス
- アルバイト
- その他
上記のような収入源を最低一つ、できるだけ多く確保することが大切です。収入源が多い方が、生活は安定しやすくなります。
例えばA・B・Cの3つの収入源を確保しておけば、Aの収入が減ったとしても他のB・Cの収入で生活を維持できる可能性があるためです。もしAのビジネスしかしていなければ、それがダメになった場合に収入源が一気になくなることにもなりかねません。
リタイア後に収入源が途絶えると、非常に心細く不安になるものです。実際に生活が苦しくなってしまえば、リタイアしたことを後悔するようなことになることもあるでしょう。理想をいえば、貯蓄と仕事、そして資産運用を組み合わせてリスクを分散することをお勧めします。
できるだけ支出を抑える
準備段階で、できるだけ支出を抑えるようにすることも大切です。退職・引退後の生活のベースとなる貯蓄を増やすためには、いかに使うお金を減らすかがポイントになります。毎月の支出について把握できていない場合は、早期に費用を計算してみることがおすすめです。
支出について整理する際には、固定費と変動費の2つに分けることが基本です。固定費とは毎月固定で発生する費用であり、例えば以下のようなものが挙げられます。
- 家賃
- 社会保険料(年金・健康保険・介護保険)
- 保険料
- 通信費
固定費が減れば、毎月の支出が減って収支の大きな改善が期待できます。例えば、不要な保険を契約していないか、必要以上に家賃の高い家に住んでいないか検討してみましょう。月に1万円削減できれば、年間で12万円、10年間で120万円もの違いになります。
変動費とは、毎月発生有無や金額が変化する費用のことを指します。食費や光熱費など、毎日の心がけで減らせるものが多いため、生活を見直してみることが大切です。
外食の頻度を減らして自炊してみる、余計な明かりは消すようにするなど、ちょっとしたことで支出を抑えることにつながります。
無理をする必要まではありませんが、自分ができる範囲で支出を減らす工夫を検討してみましょう。
今の無駄遣いを減らすことでリタイア後の生活が充実すると考えれば、多少の節約には耐えられるかもしれません。
セミリタイア後の生活とは?
セミリタイア後の生活については、なるべく具体的にイメージしておくことが大切です。退職・引退してしまうと多くの場合、もとの生活には戻れず、イメージと違ったと後悔することになりかねないためです。
具体的には、以下のようなことをイメージしておくとよいでしょう。
- どこに住んでいるか
- どんな仕事をしているか
- どんな収入源を確保しているか など
例えば、住むところに関して考えるだけでも、さまざまな選択肢が考えられます。
地方移住に憧れる方もいらっしゃいますが、実際に移住をしてみると、慣れない土地で社会とのつながりが少なくなって後悔する方も少なくありません。
また、仕事や収入源についても、できるだけ具体的なイメージを持つことが重要です。セミリタイア後に収入が減って生活が難しくなっても、もとの生活には原則として戻れません。
さらに、自宅にいることが増えて夫婦の関係が悪化することや、親の介護が必要になることなども考えられます。自分に都合の良い想像だけでなく、現実的かつ論理的に今後について考えることが重要です。
セミリタイアにおける注意点
セミリタイアをする場合には、以下のポイントに要注意です。
- 借り入れは退職前に行う
- 家族に理解を得る
- 人とのつながりは大切にする
借り入れを行う予定があるならば、退職前に行うことが大切です。退職をしてしまうと、社会的信用度が大きく下がってしまい、借り入れが難しくなる場合があります。
会社員だとあまり実感がわかないものですが、どこかに勤めている人と個人で生計を立てている人とでは、社会的信用度が圧倒的に違います。ローンを組むタイミングだけでなくクレジットカードを作るタイミングも、同様の理由から退職前が好ましいでしょう。
また、セミリタイアをするにあたっては家族の理解を得ることも大切です。生活が大きく変わることで、家族に迷惑がかかることは、できる限り避けなくてはなりません。自分がセミリタイアをしたいと思っていても、家族が望まないことは十分にあり得ます。家族関係に亀裂が入ることにもなりかねないため、事前によく話し合ってお互いに納得したうえで実行しましょう。
さらに、リタイアをするからこそ、人とのつながりは大切にすべきだといえます。組織を離れて生活をしていると、想像以上に頼れる人が減ってしまいます。何か困ったことがあったときに、頼れる人がいる場合といない場合とでは、心身共に負担が大きく異なります。
順調なときには気にならないものですが、体調を崩したり収入が悪化したりした際には頼れる人がいると非常に心強いものです。親戚付き合いや前の職場の人との関係など、退職前以上に大切にしておく意識が重要でしょう。
セミリタイアをしたい一心で焦って話を進めてしまうのではなく、失敗しやすいポイントを押さえて慎重に実行することが大切です。
まとめ
セミリタイアとは、ある程度の貯蓄をして定年を迎える前に退職し、自分の生活を楽しむライフスタイルのことです。必要に応じて仕事をすることで、自分の時間を大切にしつつ社会とのつながりを一定保つことができます。
セミリタイアに必要な資金はタイミングによって異なるため、事前にシミュレーションしておくことが大切です。
また、実行する前に目的を決めたり、収支の目途を立てたりすることも重要な要素でしょう。綿密な計画を立てて、自分や家族との人生を充実したものにしてください。