個人事業のM&Aとは?メリットや注意点、手続きの流れを解説

2024年4月4日

個人事業のM&Aとは?メリットや注意点、手続きの流れを解説

このページのまとめ

  • 個人事業は事業承継問題が深刻化し多くの個人事業がM&Aの売却先を求めている
  • 独立起業する会社員の増加にともない個人事業のM&Aが増えている
  • 個人事業のM&Aの際は不動産の所有権について注意する
  • 個人事業のM&Aの際、個人事業主株式譲渡はできず営業譲渡になる

M&Aは、大企業や上場している企業が行うものとして、業界再編などを伴う大規模なものであるとのイメージを持たれる方も多いと思います。

しかし、近年では大企業だけでなく、中小企業や個人事業でもM&Aが活発に行われるようになりました。

また、中小企業や個人事業者は少子高齢化の影響を大きく受け、後継者不足が顕著となり、事業承継が難しくなるという課題が深刻になっています。

このような事業承継の課題を解決するため、M&Aを活用する企業や個人も増える傾向にあります。

そこでこの記事では、個人事業がM&Aを行う際に成功するための方法、概要、具体的な手順、メリットやデメリット、注意すべき点について詳しく解説します。

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個人事業のM&Aとは

個人事業のM&Aとは、その名前通り、個人事業を営む事業主が売り手となるケースを指します。事業規模が小さいことから「スモールM&A」とも呼ばれることがあります。
まずは、個人事業のM&Aの概要について確認しておきましょう。

個人事業のM&A概要

現在、後継者不足のため、中小企業や個人事業主においては、事業承継問題が深刻な課題になっています。

また、インターネットの普及に伴い、働き方が多様化し、個人事業主やフリーランスの数が急増しています。
さらにここ数年は、女性の起業意欲が年々高まっている傾向です。

このような背景から、中小企業や個人事業主はM&Aによる会社の売却先を求めており、個人で事業をスタートしたい人とのマッチングの可能性が増しています。その結果、スモールM&Aの取引が今後増えていくと予想されています。

そもそも個人事業のM&Aは可能なのか

個人事業でも、オリジナルの技術やビジネスモデルを持ち、安定した顧客や優良な取引先がある場合、これは買収企業にとって魅力的なM&Aの相手となり得えます。

また、個人事業主が買収側として、数十万から数百万円程度の小規模買収も可能なケースがあります。

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個人事業のM&Aの現状と今後

個人事業のM&Aは、近年注目されており、M&A案件の数も次第に増えているようです。

その背景には、個人事業のM&Aの需要が高まり、M&Aマッチングを提供するWebサイトの数も急増しており、スモールM&Aが容易になってきています。

この流れは、今後も変わらずに続いていくものと予測されています。

事業承継問題の影響で個人事業のM&Aが増加している

後継者不足による事業承継の悩みを持つ事業主が、ビジネスを他の事業主に売却することで問題を解決し、事業の継続に成功する事例が増えています。

今後は、個人間や個人対企業のM&Aの数がさらに増加していくでしょう。

M&Aが、事業承継問題の解決や、個人事業や中小企業の存続に寄与しています。

今後も個人事業のM&Aは増加する可能性が高い

個人事業のM&Aは、今後、さらに増加していくでしょう。事業承継問題への解決策にM&Aとなっていることに加えて、以下の理由で増加が期待されています。

  • 独立起業を希望する会社員や事業拡大を考えている法人が、個人事業を買収する傾向がある
  • 個人事業をM&Aの対象とすることを、起業当初から考える方が増えている

特定の事業分野で十分に経験を積んだ会社員が起業する際、ゼロからの起業よりも、市場に存在する同じ分野の個人事業を買収する選択が、以下のようなメリットから推奨されます。

  • 時間、コスト、起業までの労力が節約できる
  • 起業の際に起こりうるさまざまなリスクも軽減できる

この強力なメリットの存在から、個人事業のM&Aの増加傾向は減速せず、むしろ加速していくと考えられます。

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個人事業におけるM&Aのメリット

それでは、個人事業のM&Aにはどのようなメリットがあるのかを確認していきましょう。ここではメリットとして次の4点を紹介します。

後継者問題が解決できる

個人事業のM&Aは、個人事業や中小企業の後継者問題の解決に寄与するというメリットがあります。

親族を後継者として考える事業主は多いです。

  • 親族が望んでいない
  • 従業員の中に後継者にふさわしい人材が見当たらない

このような場合には、M&Aを通じて、事業承継してくれる相手を見つけられる可能性が高まります。さらに、M&Aによって事業を売却できれば、経営を続けていくという、日常のストレスからも解放されるというメリットもあります。

事業譲渡によって利益が得られる

売り手側のメリットとして、個人事業のM&Aによる事業譲渡を通じて、その対価として売却益(いわゆる創業者利益)を得られます。

事業を譲渡する相手が見つからなければ廃業もやむを得ない状況ですが、後継者の出現により、廃業する必要はなくなり、決して少額ではない廃業コストをかけずに済みます。

個人事業の場合は企業のような事業清算は必要ありません。この譲渡益は退職金代わりとして現金で手元に残るため、それを元手に新しい事業を始められます。また、その資金を生活に使うことで余裕も生まれます。

個人保証や担保の解消ができる

金融機関からの借入金があって個人保証がついている場合、M&Aで事業を売却すると通常、売却先が個人の保障や担保も引き継ぎます。
これらが解消できるのは、非常に大きなメリットです。

買収によってシナジー効果が期待できる

M&Aの買収側にもメリットがあります。

まずは、低コストで事業を承継できるという点です。事業を立ち上げても、利益が出ない可能性もあり、また利益を安定的に出せるようになるまでには、長い時間と労力が必要です。

もちろん、途中で事業の継続が困難になることも考えられます。もし、M&Aですでに実績があり、利益がでている事業を承継できれば、低コストで非常に安定した優良な事業を継続できます。

また、自分の事業へのシナジー効果も期待できるでしょう。安定した収益力だけではなく、買収した事業の独自のノウハウや技術を手に入れられます。

さらに、名声や優良顧客、優れた取引先なども得られ、これが新規事業の立ち上げや現有事業の加速に寄与します。

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個人事業のM&Aを行う方法

個人事業のM&Aを進める方法と、具体的な方法について確認していきましょう。

個人事業のM&Aを成功させるには、さまざまな方法の中から、自分の事業に合った方法を選ばなければなりません。

また、自分の事業の優れた点を高く評価してもらい、少しでも良い条件でM&Aの手続きがスムーズに進められるかは重要なポイントです。

事業承継・引継ぎ支援センターに相談する

国も後継者不足による事業承継問題を深刻なものととらえており、さまざまな支援を行っています。

その中でも、全国47都道府県に中小企業基盤整備機構のもとで、「事業引継ぎ支援センター」を開設し、無料相談を受け付け中です。

この窓口では、事業承継やM&Aについての基本的な知識、スムーズに取り組む方法や、M&Aの仲介会社を紹介してくれます。

直接M&Aの仲介サービスを提供してくれるわけではありませんが、親身になって相談を受けてもらえます。

国の公的な機関なので、信頼でき安心なので、まずは気軽に相談してみることをおすすめします。

M&Aマッチングサイトを利用する

個人事業のM&Aの相手を広範囲で探すなら、M&Aマッチングサイトの利用がオススメです。

現在では、個人事業や中小会社のM&Aの需要が増えているため、インターネット上でM&Aの相手を探すM&Aマッチングサイトが急増しています。

では、マッチングサイトのメリットとデメリットについて確認しましょう。
マッチングサイトのメリットは以下の通りです。

  • マッチングサイトに登録が簡単
  • 手数料が比較的安い
  • 多くの候補相手に自社の優れた点をアピールできる
  • 自分で相手先を選べる
  • M&A完了まであまり時間がかからない

また、一方でデメリットとしては以下の点があげられます。

  • マッチングサイトでできるのは相手探しのみ
  • 交渉は自分でやらねばならないM&Aが成立するまでに時間がかかる
  • 交渉相手の事業内容の調査、買収後の経営計画立案や経営サポートがあまりない

マッチングサイトを利用する場合、お伝えしたメリットとデメリットを十分に確認することが重要です。

M&A仲介業者に相談する

M&Aを成功させるためには、個人事業のM&Aに十分な経験と実績がある、信頼のおけるM&A仲介会社を選ぶことが重要になります。

簡単に自分に合った仲介会社を選ぶのは難しいことです。
取引している金融機関や、すでにお伝えした国の機関である「事業引継ぎ支援センター」に相談するのもいいでしょう。ネットでの検索も1つの方法です。
一つの方法に絞らず複数の方法で探すことで、より確実かつ迅速に仲介会社を見つけられます。

仲介会社が決まったら、まずは秘密保持契約とアドバイザリー契約を締結しましょう。
締結後は、事業内容と事業主に関する情報を書類に整理して、仲介会社に渡します。

M&A仲介会社のメリットは、より確実に買収相手先を探してもらえることです。
また、デメリットとしては、手数料が高額になる可能性があるため、個人事業ではコスト高になってしまう恐れがあることです。

手数料を含めた料金体系を、依頼する前に確認しておく必要があります。

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個人事業をM&Aする際に注意すべきポイント

個人事業M&Aのデメリットについて確認するとともに、注意しておかねばならない点について解説します。

取引先や顧客が離れてしまう可能性がある

取引や顧客とのつながりは、個人事業主との信頼関係のもとに成り立っている場合が多いため、経営者が変わると信頼関係が切れ、重要顧客や取引先が離れる可能性があります。

従業員との関係も信頼関係から成り立っている場合、経営者や方針の変更により従業員が不安を抱え、核となる人材が退職することも考えられます。

買収する側は、事業を譲渡する個人事業主から実態や背景などをヒアリングすることが大切です。

また、従業員がいる場合、事業譲渡についてあらかじめ従業員に説明しておくと良いでしょう。

不動産の所有権についてどうするか検討する必要がある

事業承継において店舗や工場など、不動産の所有権の譲渡は重要な検討点です。M&Aで事業を引き継ぐ際、不動産も多くの場合一緒に引き継ぐため、買取側は購入資金の用意をします。

資金が限られている場合は、賃貸契約や使用貸借契約を選択することが一般的です。親族間の譲渡で高額な賃貸は避けたい場合、低価格に設定すると贈与税の問題が出てきます。不動産の所有権の取り扱いについては、注意深く検討する必要があります。

営業譲渡は活用できるか株式譲渡は利用できない

法人がM&Aを行う際、一般的には株式譲渡、すなわち株式を売却します。しかし、 法人化していない個人事業主の場合は株式を発行していないため、株式譲渡は行えません。このようなケースでのM&Aは営業譲渡を用います。これは会社法における事業譲渡と類似しています。

営業譲渡の条件は、相手が親族なのか第三者かにより、譲渡金額や税負担が異なるため、適切な知識がなければ損失してしまうでしょう。
そのため、M&A仲介会社や経験豊富なアドバイザーに早めに相談し、営業譲渡を進めることが必要です。

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個人事業がM&Aを行う場合の流れ

最後に、個人事業がM&Aを行う際の基本的な流れについて説明します。法人のM&Aと大まかには同じ流れですが、個人事業特有のポイントも存在します、注意深く確認しましょう。

7つの流れに沿って順に説明します。

1.信頼できる仲介業者に相談する

個人事業の売却する際には、個人事業M&Aを専門とするM&A仲介会社の選定が必要です。
M&Aにおいて、実績と経験がある仲介会社を見つけて相談することが大切です。
適切な仲介会社を見つけたら、機密保持契約とアドバイザリー契約の締結を進めます。

M&Aの実務を仲介会社に委ねることで、自身の事業に専念し、同時にM&Aの進行も可能となります。
契約後、事業内容を理解できる書類を準備し、仲介会社に提供してください。その情報を基に、仲介会社は事業の将来性や収益力を考慮し、譲渡金額を客観的に評価します。

2.取引先の選定と交渉を行う

譲受企業の候補は仲介会社から紹介を受けます。
紹介された企業の中で、業種や事業内容、財務状態などを基に、自分に合致する興味深い数社を選んでください。

情報の漏えい防止のため、社名を特定しない「ノンネームシート」という資料を使用して、候補企業への打診を開始します。その後、M&Aの交渉を進めていきます。

3.取引先候補との間で経営者面談を行う

興味をもった企業に対して、仲介会社の調整のもと、譲渡側と譲受側の経営者間での面談が行われます。
複数の候補がある場合、各社との面談を通じて、譲渡先を絞り込むプロセスが進行します。

面談を通じて、双方の価値観や事業の方向性、将来のビジョンなどを共有し、信頼関係を深めてください。
同時に、最適なM&Aの相手かを判断します。双方が譲渡条件に納得した場合、次のフェーズへ移行します。

4.基本合意書の作成と締結

複数回の面談と交渉を経て、譲受企業の候補を1社に絞り込み、基本合意書を作成し締結します。

合意書は、現時点での双方の合意内容を明記し、その内容の確認を目的としています。

M&A成立までのスケジュールや、成立後の従業員の処遇についても同時に確認します。

基本合意書は法的な拘束力を持たないため、次の「デューデリジェンス(買収調査)」の結果によって、契約内容が変わることも考慮する必要があります。

M&Aの仲介を依頼している場合、基本合意書の締結時に成功報酬を支払うケースがあるので、注意しましょう。

5.デューデリジェンスの実施

基本合意書の締結後、買い手側は「デューデリジェンス(Due Diligence、略してDD)」という買収調査を進行します。
買収を希望する側が選んだ財務、税務、法務の専門家は、売却希望の個人事業主を訪問し提供情報の正確性を検証します。

その調査の内容は次の通りです。

  • 財務の詳細(資産、負債など)
  • 法的状態(契約、定款など)
  • 事業の実態(生産や販売活動)
  • 労務の状況(組織構造、従業員の環境や状態)

調査結果は最終的な譲渡価額や後の体系に影響します。譲渡側の企業は自社の事業構造や財務状況、内部統制の状況などを詳細に確認し、再確認することが十分な準備の一環として必要です。

デューデリジェンスでは、譲渡企業の現状の収益性、M&A実施後の予想収益性やリスクなどが細かく調査されます。そのため、正確かつ詳細に精査した情報を提供する必要があります。

内容に差異が見られた場合、基本合意書の合意条件が交渉されます。最悪の場合、M&Aは中止される可能性も考えられます。

6.最終契約書の締結

デューデリジェンスで問題がないと判断された場合、最終的に合意された内容をもとに、M&Aの契約書が作成され、締結されます。
契約書は、売り手側と買い手側双方の署名と押印により確定し、これにより契約書に記載の条項は法的効力を持つこととなります。
最終契約書締結後の契約内容の変更は難しいため、専門家のアドバイスをもとに、締結前に内容を十分確認することが重要です。

7.クロージング

通常、最終契約書の締結と同時に、事業の引き渡しと譲渡対価の決済が行われ、M&Aが完了します。ただし、個人事業のM&Aの際には、引き継ぎの準備を考慮して、契約書の締結から実際の事業引き渡しまでの間に期間を設けることがよく見られます。

この場合、最終契約書に具体的なクロージング日を設定し記載します。
クロージングの際、買い手側は買収代金を支払い、売り手側は対象事業の引き渡しを実施してください。

クロージング後、買い手企業は売り手から事業を法的に受け継ぎ、以後の経営を引き継ぐこととなります。クロージングにより、M&A手続きが完了し、M&Aの成約が確定します。

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まとめ

本記事では、個人事業のM&Aの現状、M&Aを用いた事業承継の手法、そのメリットと注意点を解説しました。

近年、後継者不足という問題が深刻化している中、個人事業のM&Aへの注目が高まっており、後継者不足を解消する有効な手段としても期待されています。

個人事業のM&Aは低リスクであり、売り手と買い手双方に多くのメリットを提供します。今後も、この手法によるM&Aの件数が増加するでしょう。
個人事業のM&Aの際、M&A仲介会社の役割が重要です。最初の相談から譲受企業の紹介、譲渡契約の締結に至るまで、一貫してサポートを受けられます。
この機会に、M&A仲介会社に相談して、M&Aによる自社の課題の解消を検討してみてはいかがでしょうか。