このページのまとめ
- 債務超過とは、負債が資産を上回っている状態
- 債務超過が続くと、資金調達が困難となり倒産リスクが高まる
- 債務超過の原因は赤字経営や過少な資本金など
- 債務超過の対策には、売上の増加や増資・債務免除・M&Aなどがある
- 債務超過の企業がM&Aを図る際には、他社にない強みの訴求が重要
債務超過とは、企業や個人の借金の額が資産を上回っている状態を指します。本記事では、債務超過の意味や英語表現、赤字や資金ショートとの違い、デメリットや注意点、主な原因、貸借対照表からの確認方法、対策、そして債務超過の状況にある会社のM&Aについて解説します。
目次
債務超過とは?わかりやすく解説
はじめに、債務超過の意味や英語、赤字および資金ショートとの違いを解説します。
債務超過の意味・英語
株式公開用語辞典によると、「債務超過」とは「貸借対照表において、『資産』の合計金額よりも『負債』の金額が大きい場合」を意味します。つまり、土地や現預金等の全資産を使っても、借入金などの負債を全額返済できない状態です。英語では、”insolvency”と呼ばれます。
債務超過と赤字や資金ショートとの違い
債務超過と赤字、資金ショートはいずれも財務上の問題を指しますが、それぞれに異なる意味があります。
精選版 日本国語大辞典によると、「赤字」とは「支出が収入より多いこと」を意味します。つまり、一定期間(年間や月間など)において、利益が出ていない状態です。債務超過が「業績が蓄積された結果」を表す一方で、赤字は「一時的に業績が悪化している状態」である点に違いが見られます。
したがって、「赤字かどうか」と「債務超過かどうか」はかならずしも一致しません。とはいえ、基本的には赤字経営では資産が減りやすくなるため、放置すると債務超過に陥るおそれがあります。
一方で、資金「ショート」とはデジタル大辞泉によると「(資金が)不足すること」です。具体的には、手元の資金が不足しており、借入金の返済や納税、人件費や家賃等の支払いを行えない状態が当てはまります。
債務超過や赤字は、それ自体ですぐに深刻な事態になるとは限りません。一方で資金ショートは、事業の継続に必要な資金がない状態であるため、深刻度は高いと言えるでしょう。
債務超過のデメリット
企業が債務超過の状態に陥ると、以下4つのデメリットがあります。
資金調達を行いにくくなる
基本的に銀行などの金融機関は、貸し手として資金回収ができなくなるリスクを最小限に抑えようとする傾向があります。
債務超過は全資産を投じても負債を返済しきれない状態であるため、融資するリスクが高いとみなされてしまい、新たな借り入れをすることが難しくなります。その結果、必要な資金を調達することが難しくなり、事業の継続や成長が阻害されるおそれがあります。
取引先からの信用を失うおそれがある
取引先は自社のリスクを最小限に抑えるために、信頼性の低い企業との取引を避ける傾向があります。債務超過に陥ると、支払い遅延や債務不履行のリスクが高まるため、取引先はそのような企業との取引を控えることがあります。
そのため、既存取引先から取引を打ち切られたり、新しい取引先を見つけることが困難となったりして、事業の継続性や競争力に影響が及ぶおそれがあります。
上場企業の場合は上場廃止となってしまう
日本取引所グループ「上場維持基準の概要」では、上場維持基準として「債務超過ではないこと(純資産の額が正であること)」を要件としています。
また、同基準では、上場廃止基準として、上場維持基準に適合していない状態が1年以上続くことを挙げています。したがって、債務超過の状態が原則1年以内に改善されなければ、上場廃止となってしまいます。
上場廃止となると、株式市場からの資金調達ができなくなるため、成長性の低下や業績悪化に陥るおそれがあります。また、取引先からの信用力やブランド力の低下にもつながります。
※参照元:
日本取引所グループ「上場維持基準の概要」
日本取引所グループ「上場廃止基準の概要」
倒産リスクが高まる
前述のとおり、債務超過の状況に陥ると上場廃止や取引先からの信用低下、資金繰りの悪化を招きます。こうしたデメリットが顕在化すると、さらなる資金繰りの悪化や顧客離れなどによって倒産リスクが大幅に高まるでしょう。
倒産リスクが高まると、事業を存続させるために資産の処分が必要となったり、従業員がより安定している企業に転職したりするおそれがあります。こうした動きが加速すると、経営状況を改善することはより困難となってしまいます。
債務超過の主な原因
債務超過の主な原因として、以下の3つが挙げられます。
赤字経営の常態化
赤字経営とは、企業の収益が費用を上回らず、経常利益や純利益がマイナスとなる状態を指します。赤字経営の主な原因として、売上不振や費用の増加、競争力の低下などが挙げられます。また、市場の変化や競合他社の影響など外部要因によるものもあります。
赤字経営が続くと、貸借対照表における純資産が減少します。これにより、いずれは負債が資産を上回る状態に陥り、債務超過が生じます。ただし、創業直後に赤字が続くことで債務超過となっている場合は、その後の事業成長によって解消できる見込みがあれば深刻度は比較的低いと言えます。
投資による負債増加
事業の成長・拡大を目指すために投資を行う際には、新たな資金を調達する必要があります。しかし、投資に対する効果が低い場合、負債を返済できるだけの利益を確保できず、債務超過の状態に陥りやすくなります。
投資が上手くいかない理由としては、経営判断の誤りや競合他社の競争力強化などが挙げられます。
過小な資本金
資本金は企業の資本基盤を示すものであり、適切な規模の資本金が必要です。資本金の額が過少だと、企業が抱える負債の返済の元となる財源が相対的に少なくなる上に、赤字をカバーできなくなるため、債務超過のリスクが高まります。
会社法上、資本金は1円からでも株式会社を設立することは認められています。そのため、初期投資額を抑える目的で、数万円〜数10万円といった少額で会社設立を図るケースも少なくありません。しかし、事業の成長には設備投資や人材の雇用・育成などが不可欠であり、そのために資金が必要となります。また、創業直後は売上が少なく、赤字となる傾向があります。
事業への投資や赤字の補填を考慮せずに資本金を設定すると、債務超過に陥りやすくなるため注意が必要です。
※参照元:J-Net21「新会社法って何ですか?資本金1円でも会社が設立できると聞きました。」
債務超過を貸借対照表から確認する際のポイント
債務超過を貸借対照表(バランスシート/BS)から確認するポイントをくわしく解説します。
決算書から債務超過を見極める
債務超過の有無や程度は、財務諸表の1つである貸借対照表で判断できます。「資産の部<負債の部」となっている場合は債務超過と判断します。
貸借対照表には、左側(借方)に資産、右側(貸方)には負債と純資産が示されています。また、「資産=負債+純資産」という計算式が成り立ちます。したがって、債務超過とは「純資産がマイナスである状態」とも言えます。
実態に即した数字で確認する
実態に即した数字をもとに、債務超過を分析することも重要です。
貸借対照表における資産・負債の価値(簿価)と、実質的な資産・負債の価値(≒時価)は一致するとは限らないためです。
たとえば資産価値が低下している場合には簿価>時価となるため、貸借対照表のみでは債務超過の度合いを正確に分析できません。
したがって、資産や負債について実態を表す金額に修正した上で債務超過の有無や程度を分析することが重要です。具体的には、以下の方法で修正します。
【資産の部】
- 土地や有価証券を時価換算する
- 建物を減価償却した金額に修正する
- 回収不能な売掛金や貸付金を除外する
- 不良在庫を除外する
【負債の部】
- 未計上の保証債務(債務保証や損害賠償など)を計上する
- 未計上の労働債務(退職金など)を計上する
債務超過を防ぐには
債務超過を防ぐためには、定期的に純資産を計算することが重要です。定期的に純資産を計算することで、債務超過に陥る兆候を早期に察知し、事態が悪化することを未然に防げます。また、融資によって多額の資金調達を行なったタイミングなど、急激に資産や負債の金額が変化したタイミングに純資産を計算すると、債務超過の悪化を防ぎやすくなるでしょう。
債務超過の兆候が見られた場合には、増資や負債の削減(返済)などによって自己資本比率の改善を図ったり、無駄なコストの削減やマーケティング強化による売上拡大などによって赤字を防いだりすると良いでしょう。
債務超過を解消するための対策
債務超過を解消する対策を6つ紹介します。
利益を増やす
企業の利益を増やすことは、債務超過を解消するための基本です。利益を増やすには、「売上を増やすこと」と「費用を減らすこと」が求められます。具体的な取り組みとしては、商品・サービスの拡充やマーケティング施策の強化などによる売上アップ、生産性向上や業務プロセス改善などによる費用の削減が挙げられます。
増資する
増資を行うことも、債務超過を解消するための対策の1つです。具体的な方法として、経営者による追加の出資やエンジェル投資家・ベンチャーキャピタルからの出資、第三者割当増資の実施などがあります。
増資によって資産が増加するため、即効性の高い方法です。ただし、一時的な効果に終わらないためにも、増資した分で売上アップや費用削減の施策を行い、本質的な意味で債務超過を改善することが重要です。
債務免除を図る
債務免除とは、貸付先との交渉を通じて債務の一部または全部を免除してもらうことです。債権者にとってはメリットがないため、債務免除を認めてもらうには債権者との友好な関係性や高い交渉力が求められます。ただし、成功した場合には債務超過の状況を大幅に改善できる可能性があるため、検討の余地はあるでしょう。
デット・エクイティ・スワップ(DES)を実施する
デット・エクイティ・スワップ(DES)とは、融資を行う金融機関に対して、株式を与える代わりに債務を免除してもらう手法です。成功した場合には負債を削減できるため、債務超過の改善につながります。
ただし、金融機関に「DESに応じた方がメリットは大きい」と判断してもらう必要があるため、高い交渉力や良い条件の提示が求められるでしょう。
法的な手続きを実施する
自力で債務超過を改善できない場合の手段として、法的な手続き(民事再生法や会社更生法の適用)が考えられます。独立行政法人 労働政策研究・研修機構 事業再生過程における経営・人事管理と労使コミュニケーション「第Ⅱ部事業再生に関する参考資料」を参考に解説します。
民事再生法に基づく手続きでは、原則として経営陣が引き続き経営にあたりながら事業再生を図ります。一方で会社更生法に基づく手続きでは、裁判所が選任した管財人が事業再生にあたるため、経営陣は退任することになります。
※参考:独立行政法人 労働政策研究・研修機構 事業再生過程における経営・人事管理と労使コミュニケーション「第Ⅱ部事業再生に関する参考資料」
M&A
債務超過からの脱却を目指す企業にとって、M&Aは1つの選択肢となります。M&Aによって会社ごと売却できれば、債務超過のプレッシャーから丸ごと解放されます。
あるいは、事業譲渡によって一部のノンコア事業を売却する場合は、資金調達や資産の増加を実現し、債務超過を改善できる可能性があります。また、空いたリソースを主力事業に集中させることで事業の成長を実現し、中長期的な視点でも債務超過からの脱却を目指すことが可能です。
債務超過の状況にある会社のM&Aにおけるメリット・デメリット
財務が健全な会社と比べると成立難易度は高いものの、買い手にとってメリットが大きければ、債務超過の会社でもM&A(売却)を行える可能性はあります。この章では、買収側から見た債務超過の会社・事業を買収するメリットとデメリットを解説し、それを踏まえて売却を成功させるコツをお伝えします。
債務超過の企業・事業を買収するメリット
債務超過の企業または事業を買収するメリットは4つあります。
- 自社事業とのシナジー効果(相互送客による売上増加など)を見込める
- 優秀な人材や独自の集客ノウハウなどの経営資源を確保し、売上拡大や競争力向上を図れる
- 事業所の統廃合や一括仕入実現などによるコスト削減を見込める
- 将来性の高い新規事業に進出し、収益源の確保やリスク分散を図れる
債務超過の企業・事業を買収するデメリット・注意点
一方で、債務超過の企業・事業の買収には以下3つのデメリットがあります。
- 多額の負債を引き継いでしまい、業績悪化や信用力低下が生じるおそれがある
- 簿外・偶発債務を引き継ぐことで、買収後に想定外の損失が発生するおそれがある
- M&A後の経営統合に失敗し、想定していたメリットを得られない可能性がある
債務超過にある会社がM&Aを成功させるコツ
上記のメリット・デメリットを踏まえると、債務超過にある会社がM&Aを成功させるには、以下4つのコツを押さえることが重要です。
- 事業譲渡により、買い手側が引き継ぎたい事業や資産のみを売却する
- M&Aの専門家に協力してもらい、最適な買い手候補選定をサポートしてもらう
- 他社にはない強み(人材やノウハウ、固定客など)やシナジー効果を訴求する
- 可能な限り財務状況を改善した上でM&Aに臨む(役員借入金の削減など)
特に、買い手側が負債を引き継がずに必要な資産や事業のみ引き継げる「事業譲渡」の活用は、M&Aの成立可能性を高める上で有用な戦略となるでしょう。
まとめ
本稿では、債務超過の意味や原因、対策、M&Aのコツなどをお伝えしました。
債務超過は赤字経営や投資による負債増加などが原因となります。債務超過の状態に陥ると、資金繰りが困難となったり、会社の信用力が低下したりして、最終的には倒産リスクが高まります。債務超過を改善するには、売上を増やしたり、M&Aによって不採算事業を売却したりする施策が効果的です。
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