会社分割で消費税の納税義務はある?課税資産や税務上の処理などを解説

2023年12月12日

会社分割で消費税の納税義務はある?課税資産や税務上の処理などを解説

このページのまとめ

  • 会社分割の手続き自体に消費税は発生しない
  • 会社分割の状況によっては不動産取得税や所得税などが発生する場合がある
  • 「新設分割」を行う場合、承継会社が繰越欠損金を引き継ぐことはできない

会社分割を検討するにあたり、消費税をはじめとする課税関係について心配に思う方は多いでしょう。結論からいうと、会社分割そのものに消費税が発生することはありません。ただし会社分割の状況や、分割会社と承継会社の関係によっては、所得税などの納税義務が生じる可能性があります。

このコラムでは、会社分割に伴い発生しうる税金や繰越欠損金の処理についてまとめました。

WEBから無料相談
M&Aのプロに相談する

会社分割とは

会社分割とは、名前通り事業の一部またはすべてを切り離して新会社として独立させたり、他社に承継させたりするM&A手法の1つです。会社分割には、「切り出した事業の承継先」と「対価(株式)の支払い先」に応じた、計4つの分類があります。

ここではそれぞれの種類の違いについて解説します。

吸収分割と新設分割の違い

会社分割は、「切り出した事業の承継先」に応じて吸収分割と新設分割の2つに分けられます。

吸収分割とは、切り出した事業が既存の他の会社に吸収される形の会社分割です。事業譲渡と似た部分も多いものの、吸収分割は「対価を現金で支払う必要がない」「権利や契約をそのまま引き継げる」といったアドバンテージがあります。

これに対し新設分割とは、新設した会社に事業を引き継がせる形の会社分割を指します。この手法は一般に、グループ内の再編のために実施されます。

分社型分割と分割型分割の違い

また、会社分割は、「対価(株式)の支払い先」に応じ、分社型分割と分割型分割の2つに分けられます。

分社型分割とは事業を譲り受ける会社が、「事業を譲り渡した会社」に対価(株式)を支払う会社分割の手法です。

これに対し「分割型分割」は、事業を譲り受ける会社が、事業を譲り渡した会社の「株主」に対価(株式)を支払う手法を指します。

このように会社分割を細分化すると、以下の4つに分けることができます。

  • 分社型吸収分割
  • 分社型新設分割
  • 分割型吸収分割
  • 分割型新設分割

どの手法を選ぶべきかは、分割会社と承継会社との関係性や、会社分割に期待する効果などによって異なります。また会社分割の手法によって、課税義務に変動が生じる場合があります。

関連記事:会社分割とは?事業譲渡との違いや実施方法、ポイントを解説

WEBから無料相談
M&Aのプロに相談する

会社分割と事業譲渡の違い

会社分割(吸収分割)は、事業譲渡と比較すると、以下のような違いがあります。

  • 消費税が発生しない
  • 適格要件を満たすことで、所得税や法人税の発生を避けられる
  • 対価を現金でなく、株式で支払える
  • 権利や契約関連(雇用契約を含む)をそのまま引き継げる
  • 原則として債権者保護手続きが必要

また会社分割はあくまで分割された事業を包括的に引き継ぐ手段であるのに対し、事業譲渡は切り出された事業を売買する取引です。この仕様上、発生する税金や契約の内容も異なるものとなります。

WEBから無料相談
M&Aのプロに相談する

会社分割にかかる消費税

会社分割は不課税取引であり、この手続き自体に消費税は発生しません。ただし会社分割とは別に、承継会社などの売上高などによっては消費税を納めなければならない場合があります。

吸収分割の場合

吸収分割の場合、以下の要件を満たすと消費税が発生しません。

  • 分割会社の課税売上高または承継会社の課税売上高が1,000万円以下

一方で課税売上高の合計が1,000万円超となった場合には、承継会社が消費税を支払う必要があります。

新設分割の場合

新設分割の場合も、消費税が免除される基準は同様です。

  • 分割会社の課税売上高+承継会社の課税売上高が1,000万円以下

ただし、合併や相続により課税売上高が1,000万円を超えた場合、納税義務は免除されませんのでご注意ください。

WEBから無料相談
M&Aのプロに相談する

消費税以外の会社分割に関わる税金

ここからは会社分割に伴い発生する可能性がある、その他の税金について解説します。

不動産取得税

会社分割に伴い、不動産を取得した場合に発生するのが「不動産取得税」です。

ですが以下のすべての条件を満たす場合、不動産を取得した場合であっても不動産取得税が発生しません。

  • 承継会社の株式以外の資産が交付されないこと
  • 承継される事業に関する、主な資産や負債が承継会社に引き継がれていること
  • 承継会社が承継された事業を引き続き営む見通しがあること
  • 承継される事業に関する、従業員の8割以上を引き継いでいること

いずれか1つでも満たしていない要件がある場合、都道府県に対し4.0%(2024年3月31日まで軽減措置あり)の不動産取得税を支払う必要があります。

東京都主税局の「会社分割に係る不動産取得税の非課税措置について」によると不動産取得税の非課税を都道府県に申告するには、以下のような書類を都道府県税務署に提出することが求められます。

■不動産取得税の非課税措置に必要な書類の例(東京都)

  • 不動産取得税非課税申告書
  • 分割についての承認または同意を証する書類(株主総会議事録など)
  • 分割の内容がわかる書類(分割契約書)
  • 履歴事項全部証明書
  • 定款
  • 分割法人から承継する権利義務に関する事項を確認できる書類(貸借対照表など)
  • 分割事業に係る従業員のうち、分割承継法人に従事する人数がわかる書類
  • 参照元:東京都主税局「会社分割に係る不動産取得税の非課税措置について」

    登録免許税

    会社分割を行う際には、以下の登録免許税が発生します。

    • 分割会社は3万円
    • 承継会社は増加した資本金の0.7%、ただし下限額3万円(合名会社・合資会社に社員の加入がある場合は4万円)

    そのほか不動産の名義変更を行う場合には、不動産に関する登録免許税(不動産価額の0.4%)も支払う必要があります。

    登録免許税が3万円の場合、収入印紙を登記申請書に貼り付ける形で税金を納付することも可能です。

    WEBから無料相談
    M&Aのプロに相談する

    適格分割と非適格分割での課税関係の違い

    会社分割は所定の条件を満たすかどうかによって、「適格分割」と「非適格分割」の2つに分けられます。以下の「支配率ごとの適格分割の条件」をすべて満たしているのであれば、その会社分割は「適格分割」と見なされます。

    「法人税法」に基づく承継会社、分割会社の支配率別の適格要件のまとめ

    承継会社に対する分割会社の支配率

    適格分割の条件

    完全子会社

    • 対価として承継会社の株式以外の資産が交付されていない

    50%~100未満の株式の保有

    • 対価として承継会社の株式以外の資産が交付されていない
    • 分割会社の主要な資産や負債を引き継ぐ
    • 8割以上の従業員を引き継ぐ
    • 分割された事業が継続して行われる見込みがある

    50%未満の株式の保有

    • 対価として承継会社の株式以外の資産が交付されていない
    • 分割会社の主要な資産や負債を引き継ぐ
    • 8割以上の従業員を引き継ぐ
    • 分割された事業が継続して行われる見込みがある
    • 分割する事業と承継会社の事業に関連性がある
    • 株式を継続して保有する見込みがある
    • 両者の規模が同等である、または両社役員が経営に参画する

    参照元:e-Gov法令検索「法人税法 第二条 」

    ここからは、会社分割におけるケース別の課税関係の違いについて見ていきましょう。

    適格分割の場合

    上記の支配率ごとの適格分割の条件(適格要件)を満たしている場合には、適格分割により資産や負債を「適格分割の直前の簿価」で引き継ぐことが認められます。

    また適格分割が行われる場合、適格分割に伴い所得税や法人税が発生することはありません。加えて対価を支払われた先(株主または分割会社)に課税関係は発生しません。

    適格分割の条件は、承継会社に対する分割会社の支配率によって変動します。分割会社の支配率が高くなるほど達成すべき条件は少なく、適格分割を行いやすくなるといってよいでしょう。

    しかし、いずれの場合であっても、「対価として承継会社の株式以外の資産(金銭など)が交付されていない」ことは最低限の条件となります。

    非適格分割の場合

    支配率ごとの適格分割の条件をすべて満たすことができない場合には、「分割時の時価」をもとに資産や負債を引き継ぐ形となります。

    また非適格分割を行う場合には、

    • 分割した資産負債の含み益に対し、実効税率約30%の法人税
    • 分割の対価(新会社の株式など)の時価に対し、最大49.44%の配当所得税

    が発生します。

    さらに対価(株式)が分割会社の株主に支払われる「分割型分割」を行う場合には、「みなし配当」とされる部分にも納税義務が生じます。

    このように非適格分割を行う場合には、適格分割に比べ多額の税金が課せられる可能性があります。

    WEBから無料相談
    M&Aのプロに相談する

    会社分割の繰越欠損金の処理

    会社分割は、承継会社に対する分割会社の支配率に則った所定の条件に基づき、以下の2つに分けられます。

    • 法人税や所得税が発生しない「適格分割」
    • 法人税や所得税が発生する「非適格分割」

    ここからは、適格分割あるいは非適格分割を行った際の繰越欠損金の処理について解説します。

    適格分割の繰越欠損金の処理

    繰越欠損金とは、将来に繰り越すことのできる欠損金のことを指します。
    ここでは分割会社・承継会社それぞれの、繰越欠損金の処理方法について解説します。

    適格分割時の承継会社の処理

    適格分割の場合、承継会社が繰越欠損金を利用できるかどうかは、会社分割の手法によって異なります。「吸収分割」であれば原則として繰越欠損金を利用できる一方、「新設分割」の場合は繰越欠損金を引き継ぐことができません。

    ただし吸収分割を実施する場合であっても、分割会社との間の支配関係の継続期間などによっては、繰越欠損金の利用が制限される可能性があります。

    適格分割時の分割会社の処理

    分割会社は特に条件なく、発生した繰越欠損金を利用することができます。これは新設分割・吸収分割、あるいは分社型分割・分割型分割といった会社分割の手法にかかわらず適用されます。

    非適格分割の繰越欠損金の処理

    ここからは、非適格分割が行われる場合の繰越欠損金の処理について解説します。

    非適格分割時の承継会社の処理

    非適格分割の場合、分割会社から繰越欠損金を引き継ぐことはできません。

    これは吸収分割の場合も、新設分割の場合も同様です。

    非適格分割時の分割会社の処理

    非適格分割の場合であっても、分割会社は既存の繰越欠損金を、会社分割の手法にかかわりなく利用できます。

    WEBから無料相談
    M&Aのプロに相談する

    まとめ

    会社分割に伴い発生しうる税金は、会社分割の状況によって変動します。特に多額の所得税や法人税の発生を避けたい場合、「適格条件」を満たすことは非常に重要と言えるでしょう。「対価として承継会社の株式以外の資産が交付されていない」をはじめとする適格要件を満たすためには、今一度、将来的な承継会社に対する支配率や、資産や従業員の引継ぎの予定を観直しておきたいところです。

    M&AならレバレジーズM&Aアドバイザリーにご相談を

    レバレジーズM&Aアドバイザリーでは、M&Aや事業譲渡に関する専門知識を持ったコンサルタントがM&Aの成立までを完全にサポート致します。会社分割の適格条件や課税関係について疑問がある場合にも、お気軽にご相談くださいませ。